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真っ赤な夕日の影踏んで
そこは無駄にでかいばかりの築数百年というとんでもないアパートだった。霊山(くらいの霊気)に囲まれてるという、かなりヤバげな場所でもあった。別館には魑魅魍魎が住んでいるという。
変な狐までいるし。全くおどろおどろしいというか、何というか…。
ところが、俺、門屋将太郎(かどやしょうたろう)はその狐、柚葉(ゆずは)の友人だというユズリハ(ゆずりは)という狐に恋をしてしまった!
事のいきさつはこういう事だ。
「恵美ちゃん、ちょっといいかな。相談したい事があるんだけど」
ここはあやかし荘。管理人の因幡恵美(いなばめぐみ)に、俺は大声をはる。恵美は路上をさっささっさと箒ではいてる最中だった。
「あ、将太郎さん。お久しぶりです」
ぺこり、と頭を下げにっこり微笑む。なかなか可愛い娘だ。
「何ですか? 相談って」
「あ、そうそう、俺の知り合いなんだけど…」
そう言いながら隣りを示す。そこにはおどおどした一人の男性が立っていた。
「なんでも、こいつがここに住みたいらしくてさ。紹介するよ、乾覚(いぬいさとし)っていうんだ」
「い、乾です……初めまして」
「因幡です。因幡恵美っていいます。ここの管理人をやってます。どうぞ宜しくね」
「よ、宜しくお願いします。あの、因幡さん――」
「恵美でいいよ。ここに住みたいんだって?」
乾はおどおどしてばかりだ。俺から言わせてみれば情けないというか挙動不審でいかにも怪しいというか。
もっとしっかりしろという意で、俺は乾の背中を叩いた。
「は、はい! ここに住みたいんです」
「でも―――」
そこで恵美は周りを見回し、そしてちょっと子悪魔っぽく笑った。
「ここって男性への待遇悪いですよ? ましてやトイレ共同。調理場共同。上下水道設備無し。お風呂も共同で、天然温泉の広大な露天風呂ですが、男湯は女湯に比べてもの凄く狭くて、間欠泉がついているのでおちおち入浴してられないんですよね」
「それを承知でここに来てるんです! 俺、魑魅魍魎とか大好きって言ったら変ですけど、とにかく興味があって、だからここに住みたいって思ったんです」
「あら、よく知ってるわね。旧館に住んでるんですよ。色々とね………。いいの? ポルターガイストなんてしょっちゅうよ?」
「はい、構いません。俺霊感全然なので。それと俺狐娘にも興味があって……その、会いたいっていうか…」
「霊感ないから大丈夫だって保障はないだろ覚」
そこでこそりと乾が耳打ちしてくる。
「萌えませんか? 狐娘ですよ。耳に尻尾ですよ。もうたまりませんよ。それに、若い管理人さん。なかなか可愛いですよね」
「……………お前、そっちが目当てだろ」
低い声を俺は押し出す。まったく。しょうがないヤツだ。
「でも男嫌いの座敷童もいるって話しだぞ」
「そうですよね〜、こんな煩悩だらけの俺なんて一発で嫌われちゃいそうです(くすん)」
「でも、住みたいんだろ、ここ」
「はい! 不純も少しあるけど、純粋にここに住みたいんです俺」
そこで男のひそひそ話しに「?」してる恵美は口を挟む。
「じゃあ、私案内しますね。将太郎さんはそこら辺でもぶらぶらしていて下さい。それとも一緒に来ますか? 中迷路みたいに複雑でかなり時間かかると思いますが…」
「遠慮しとく。妖怪のいるような建物入って、後で何かないって保障はねぇだろ」
「あら〜、酷いなぁ将太郎さん。私こう見えてもここの管理人ですよ」
くすくすくす。
ころころと鈴みたいに笑って、乾を促した。
と、向こうに見えるは! お目当ての狐娘! 名前は調べてある。そう。柚葉!!
「柚葉さーん!! これからお世話になります〜〜!!!」
乾は嬉々として咄嗟に恵美の手を掴み玄関へと向かって行ってしまった。
「あ、ちょっと、待って」
刹那の事で恵美もわけが分からず、ただ箒を俺に託して駆けてゆく。
向こうの方で柚葉の「ぎゃー」という声が聞こえたのはややしてだった。
二人を見送った後だった。
さ〜て、何してようかな。俺は考える。
ふと向こうを見ると、土管の上に座ってる少女(少年?)の姿が見えた。
まだ昼下がり。こんな時間に狐娘が外にいるなんて珍しい。
「珍しいな。狐娘、いや、小僧がいるなんて」
ぼそりと呟いたつもりだった。
だが少女(少年?)はこちらをギッと睨みつけて叫んだ。
「俺は女じゃ!!」
バレてしまったんだ言った事。これは申し訳ないと思い俺は頭を下げた。
「すまんすまん。ちょっとからかってみただけだよ」
それにしてもなんて地獄耳なのだろう。あんな呟きさえも聞き取れるなんて。
「おぬし、何の用だ? 恵美なら玄関の方へ行ってしまったぞ」
「あー、それは知ってる」
何せ連れていった本人は俺の知り合いなのだから。
何か楽しいかも知れないと思い、俺はそろそろとその狐娘に近づいていく。
狐の耳に尻尾。髪型はショートボブ、後ろ髪は刈り上げになってるのかな。服は着物をアレンジしたものだ。背中から肩に沿って機械みたいなのを背負い、短くした着物の裾からは健康的な色をした足がにゅ、と伸びている。姿は中学生くらいで、何処となく整った感じの顔は、中性的で男か女か判断し兼ねるものだった。
少しどきりとした。
ただの狐娘にこんな感情を抱くなんて……。どうかしてるぞ俺。
「どうした? 何か悩みでもあるのか? そうだ、名前は何ていうんだ?」
俺は悪意のない笑みでにこりと微笑むと、狐娘はふい、と顔を逸らし、真っ赤になる。
「な、名前は訊いた自分から名乗るのが筋ではないかっ」
それもそうだ。
俺はこほ、と咳払いをし、おもむろに口を開く。
「俺の名は門屋将太郎」
「俺は譲葉(ゆずりは)。ここに拾われたんだ。名前は友達の柚葉と恵美がつけてくれた。ユズリハと呼んでくれればいい」
「そうか。いい名だな。宜しく、ユズリハ」
「こっちも宜しくな。将太郎」
お、なかなか友好的ではないか。
ユズリハは可愛らしい笑みを浮かべていた。それはとてもこちらの心を開かせるような笑顔だった。
どきりとする。
もしかして俺って……この狐娘、ユズリハに恋なんてものをしてるのではないのか!?
いやいやいや、そんな事はない。ない筈だ。俺には大切な人がいる。
これから見定めればいい。早急に決める事ではないのだ。だから―――――。
「それで、どうした? 何か悩み事でもあるような顔をして」
「お前には関係ない」
ぷいっと不貞腐れるようにユズリハはそっぽを向いてしまった。少し顔を赤くして。どうしたというのだろう。
「気になるんだ。本当に何もないならそれでいいが、何かあるんだったら、話して楽になるといい」
ユズリハはそろりそろりと俺を見る。俺は優しく微笑んで、ユズリハの頑なな心を解放してゆく。
「じ、実はな―――……」
顔を真っ赤にして俯き、ユズリハが口を開く。その時――――――、
笑い声が聞こえた。玄関から、誰か出てくる。はっとしてユズリハは土管の影に隠れてしまった。トマトのように顔を耳まで真っ赤にして。
「?」
俺はその笑い声の主を見やる。小鳥のように可愛らしい笑みを零しているのは、二人の少女。ここの住人だろうか、楽しそうにおしゃべりをしながら出てくる。
「おい、どうしたんだ?」
「み、右の子………」
少し声が震えている。怯えているのだろうか。
「ん? 右の子に、苛められてたりするのか?」
「そ、そんなんじゃなくて―――松葉理香(まつばりか)ちゃんっていうんだ。ここの住人。左の子はここの住人じゃない」
「どうした? 出て来いよ。理香ちゃんが何だって?」
「す、っすすすす、」
「す?」
そうこうしてるうちに、彼女たちは遥か先へと歩を進めて行った。そして消えたその頃、ユズリハが疲れきったような顔をして土管の影から出てくる。
荒く深呼吸をして、ユズリハは大きく口を開く。
「す、好きなんだ。俺、理香ちゃんに恋してる」
っな―――――――……。
突然の言葉に俺は凍る。え、だって、お前ら同じ―――――。
「女同士ってのは分かってるんだ。分かってる。でも止められないんだ。感情が、渦のようで」
「そっか…でも分かるよ、俺だって――――」
そこで俺は口を噤む。こんなトコで、まさか助手に気があるし、なんて言えない。
「あはは、自由だもんな、恋愛って」
咄嗟にはぐらかす。気づいているのかいないのか、ユズリハは土管にうな垂れてぷしゅ〜と音をたてながら潰れてゆく。
「お、おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……でも変だよな、同性に気があるなんて」
俺はクスリと微笑む。それに気づいてとろんとした顔を上げユズリハは俺を見た。おい、眼までとろんとして、ちょいヤバいんじゃないの。
俺の鼓動が高鳴る。
「変じゃないよ。たまたま好きになった相手が同性だったって事じゃん。それだけの事だよ」
ユズリハは少し俯いて、ぶつぶつ何か呟いたあと、土管の上に立ち上がり、一大決心を打ち明けた。
「俺、告白しようと思うんだ!」
「お、強気に出たな」
少し胸の奥がちくりと痛んだ。何だ。何なんだこれは―――…。
「今夜の祭りに誘ってみる予定なんだ。そこで少しでも仲良くなれたら、その…告白を…」
そしてまたぷしゅ〜と音を立てて崩れ落ちるユズリハ。俺は咄嗟に彼女を受け止めた。
「おいおい、そんな調子で大丈夫なのか。でも告白するのは賛成だ。言わなきゃ、伝わらないもんな」
俺の心がちくりとする。そうだよな……言わなきゃ、伝わらないんだよな……。って何傷心してんだ俺!
「で、ここで知り合ったのも何かの縁。将太郎にお願いがあるんだ」
「何だ? 何でも言ってみろ。俺でよければ何でもきいてやる」
「そんな大した事じゃないんだ。ただ――――付いてきて欲しいな、なんて……」
「一人じゃ不安なんだな」
「うん。それは素直に認める」
おいおい、最初はただの生意気なガキだと思ってたけど、案外素直じゃん。なんかきゅんときちゃうじゃねーか。
俺の中で何かが焦っている。
「ただ、こそっと付いてきて欲しいんだ。二人きりがいいんだけど、二人きりだと不安で不安で」
ストーカー紛いの事をやれ、という言葉に申し訳なさを感じているのか、ユズリハの口は重く、次の言葉が出てこない。
俺はその気持ち、よ〜く分かってやってるつもりだから、だから言ってやる。
「いいよ。俺でよければ、付いてってやるから」
そこでユズリハの顔が崩れた。にこりとはにかむように微笑む。可愛いな、と素直にそう思った。
「ありがと」
「あ、ああ…」
俺は何とも言えない、自分の気持ちに素直なユズリハと対照的な俺を、何だか後ろめたくも思っているのだった。
こんなんじゃ、ありがと、なんて貰えないよ…。
俺は。俺は―――――――――――ユズリハが好きだ――――。
好きなんだ―――――……。
夕方だった。心臓のように真っ赤な太陽が脈打ち、真っ赤な影を作り出す。真っ赤な夕日の影踏んで、俺らは祭りに出向いたのだった。
「ちょっと早かったかもね、時間。ね、ユズリハちゃん」
理香がにこりと笑って少し背の低いユズリハに微笑む。理香は高校生だ。だからだろう、理香はユズリハより背が高い。
「そうだね、理香ちゃん。でもいいの? 他のお友達に誘われたんじゃないの?」
「いいのいいの。何せあやかし荘のお友達の誘いだもん。断らないよ〜☆」
お友達か……。後ろを付いていく俺にも聞こえた。そんな事を言われてしまったら、何だかその気持ちに応えられない自分を後ろめたく思うものだ。お友達なんかじゃない。そう自分は思っているのだから、尚更辛い。
「なかなかいい雰囲気じゃん」
リンゴ飴を食べながら、俺はユズリハと理香ちゃんの後を追う。二人共浴衣がよく似合っていた。
時折ユズリハがこっそりこちらに眼をやり、ウインクしてみせる。大丈夫だっていう合図だ。
もうこうなったら応援せずにはいられない。
頑張れ! ユズリハ。
クレープを食べて、イカ焼きを食べて、焼きそばを食べて。って、ユズリハ、食べてばっかかよ! 俺は誰にとも知れずツッコみを入れる。
カキ氷を食べて、そろそろいい頃だろう。雰囲気もかなりいい。会話も弾んでいた。
射的をやってる理香ちゃんにちょっと待ってて、と言い、ユズリハはこちらに駆けてきた。
「いい雰囲気じゃんユズリハ」
俺は歓迎の眼差しでユズリハを迎えてやる。
「そ、そろそろかな」
どきどき。
「か、かなり緊張してるんだけど」
「そりゃ緊張するって。告白だもんな。一世一代の大仕事だよ」
「次、どうすればいいかな」
「そうだな…やっぱ人気のない所に連れ出す、かな」
「そうだよね。こんなに人の多い所じゃ、告白なんて出来ないもんね」
何か焦ってる様子のユズリハ。緊張してるその裏腹に、もう言いたくてうずうずしてるのだろう。
でも焦っては駄目だ。しっかり、一言一言気持ちを込めて口に出さなくてはいけないのだから。
ユズリハは唾を飲み込み、そろそろだね、と理香ちゃんのトコに戻って行く。
理香ちゃんはキャラメルをゲットしたようだ。戻って行ったユズリハと喜び合っていた。
俺の心が一つ弾けた。人の少ない方へユズリハは理香ちゃんを連れ出す。
どうしてだ。どうして俺がこんなに緊張してるんだ。
止まらないこの鼓動。理香ちゃんは何も知らずユズリハの後を追う。
「どうしたの? ユズリハちゃん」
「い、言いたい事があるの」
「私に?」
「うん」
そこでぴた、と足を止め振り返る。
ユズリハの神妙な面持ちに、理香も息を呑む。
そして待つ。ユズリハの言葉を。
「あ、あの、あのね――――」
その時――――――――――――。
「よぉ姉ちゃんたち。こんな人気のないトコでどうしたっての〜?」
ユズリハが振り返る。その瞬間、がし、と腕を掴まれた。
三人組の男たちが、ユズリハと理香の周りをぐるっと取り囲んでいた。
「こんなトコでひそひそやってないで、俺たちに付き合わない? お祭りなんかよりずっと楽しい事教えてやるよ。くけけ」
ユズリハの腕を掴んだ男が、ぐい、と腕を締め上げる。
「痛――――いやっ止めて!!」
「ユズリハちゃん! ちょっと止めてよ! アンタたちなんかお呼びじゃないんだから!!」
「あっれ〜いいのかなそんな口きいて、くく。こんな腕、俺がひょいと捻れば簡単に――――――――」
刹那、その男はどさりと地面に崩れ落ちた。首の後ろを叩かれたのだ。
「!」
ユズリハははっとしてそちらを見やる。
そこに俺は立っていた。ばっちり眼が合う。
「こんなちんぴら相手にすんな。俺が助けてやるからさ」
「ちくしょー!!!!」
もう一人の男が俺目掛けて拳を上げる。
俺はそれを見事にひょいと避け、すかさずアッパーを食らわす。
「っち……」
もう一人の男がそれを見て、そそくさと逃げていく。それに続いてアッパーを食らった男が地面に倒れこんだ男を抱え、やはりそそくさと逃げていった。敵わないと判断したのだろう。
「あ、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる理香に、俺は飄々と手を振ってこの場を後にする。
じっとこちらを見つめている涙眼のユズリハにエールを送りつつ。
それは風みたいだった。
風のように事は終わった。
ユズリハはすぅー、と息を吸い込む。
そして口にする。
「好きなの……」
「え? 今の人? うん、カッコよかったよね」
「違うの。俺が……理香ちゃんの事、好きなの」
「え――――――――」
風が一瞬ざわめいた。後に残ったのは沈黙。音という音が全て風で洗い流されたみたいだった。
「理香ちゃんの事、好きなの」
ぽろぽろと涙が零れる。ユズリハは必死に声を押し出している。
理香はやんわり微笑み、俯くユズリハの頭に手を置いた。
「ありがと、ユズリハちゃん。でも、貴方の気持ちには応えられないの。ごめんね」
それはとても優しい優しい子守唄のようだった。優し過ぎて脆くて、すぐ壊れてしまいそうな音だった。
ユズリハはぽろぽろ流れ落ちる涙を拭い、そしてにっこり微笑んだ。
胸が痛い。見ている俺の方が胸が痛いぞユズリハ。
「うん。ごめんね。変な事言っちゃって。ちょっと、一人にして貰えるかな。理香ちゃん、一人で帰れる? 危なくない?」
「それはこっちのセリフだよ。ユズリハちゃんこそ、一人で危なくない?」
「お、俺は大丈夫。連れがいるんだ」
「え、そうなの!? そう…分かった。じゃあね、ユズリハちゃん。また明日」
そう言って優しく手を振りながら、理香は去って行った。
「どうだ? 調子は……って、良くはないか」
「何言ってんだよ! 俺ふられたばっかだよ??」
神社の鳥居の所に座っているユズリハに、俺は声をかける。
そうだよな……結局、ふられちまったんだもんな……。
ずびずび言ってるユズリハに、俺はハンカチを差し出す。受け取ったユズリハの眼はもう涙で真っ赤で、そしてずびーと鼻をかんだ。
「あ、ごめん。鼻かんじゃった」
「テメー……と言いたいトコだけど、今回ばかりは許してやるぜユズリハ」
「あ、あんがと。何か、優しいんだな将太郎」
苦笑を浮かべていた俺は虚をつかれた想いでユズリハを見ていた。くすりと微笑む。
そうだよな。意を決して言った告白の、その勇気あるユズリハの言葉に後押しされ、俺の気持ちがざわめき出す。
俺も、ここで言わなきゃいけないよな。こんな状態のユズリハに追い討ちをかけるみたいだけど、言わなきゃいけない。
その時俺は、切にそう想っていた。
言わなきゃいけない。
次のセリフは、自分でも驚く程にするりと出てきた。
「ユズリハ、俺は好きだよ」
「え……?」
真っ直ぐその潤んだ瞳を見つめ、優しく微笑みながら俺は言う。
「ユズリハの事、俺は好きだから」
途端、ユズリハの顔が真っ赤になった。とても可愛らしい。
「な、な、な、何だよ!! き、汚いぞこんな状態の時言うなんて!!」
「あはは、ごめんごめん」
照れ隠しか、右手でぺちぺち俺を叩いていたユズリハの手が止まり、そして俺の胸に頭を擡げてきた。俺は嬉しいと思う。少しでも、ユズリハの助けになれるなら、俺は何をされたって構わない。
彼女の温もりが伝わってくる。俺は更にどきりとする。鼓動が聞こえそうで、ちょっと身体を捩った。
「す、少しだけ。少しだけだからな」
「はーいはい。分かってるって」
ユズリハはそんな俺の態度に、少し躊躇しながら口を開く。
「あ、どきどき言ってる。ふふ」
ついさっきの言葉とは裏腹に幸せそうに笑うユズリハ。自分でもどうかしてると思う。ふられたばかりなのにね……。
「おい、からかうなよ」
ぶっきらぼうに、俺は吐き捨てた。照れているからだろう、そんな風にしか言葉を出せないでいるのだ。
いつもの俺らしくない。そんな事を思う。でもこれでいいのだ。この時間この瞬間どの俺がいても、隣りのユズリハには似合わない。だからこんな照れて滅茶苦茶な俺がいい。
それはまるで恋人同士が寄り添うように、その空間だけ時間が止まってるみたいだった。
空は既に陰り、群青のビロードが静かに横たわっている。
何処までも広く。広く。俺の心は筋雲に乗り風に流れてゆく。
ひとときの安らぎ。こういうのもまた、いいと思う。
「ありがとうな」
「?」
俺はぽつりと口にする。ユズリハはきょとんとした顔をしているのだろう。多分、いや、きっと。
こんな安らぎもまた、いいと思う。
◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1522 / 門屋・将太郎 / 男性 / 28歳 / 臨床心理士】
◆ライター通信
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お久しぶりです〜、新人(もう新人なんて言ってられないかな;)
ライターのヨルです。
さて、いかがでしょう。今回は狐娘に恋をするという設定です
ので、このように仕上がりました。存分にプレイングも活用し
たつもりです☆ミ ユズリハも気に入って頂ければ嬉しいです。
今にして思えば、甘々な小説ですね〜。将太郎さんには似合わ
ないかも知れませんけど、何だか二人共(ユズリハと将太郎さん)
一直線でちょっと笑っちゃいますけどね。そう書いたのはずばり
私です……設定として将太郎さん、大丈夫なのだろうか……。
ちょっとずれてても許してやって下さいませ〜。
あ、それと、今回は珍しく一人称にしてみました。私の小説は
三人称でも一人称でもあまり変わらない気もしますが…(苦笑)
拙い文章ですけど、何か伝わったなら幸いです。
ご意見ご感想などありましたら、気軽にメールして下さいませ。
またの機会がありましたら、お会い出来る事を心待ちにしており
ます。では!
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