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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


湧き出でる影

 夕刻の路地に人通りはなかった。
 不自然に生き物の気配がない線路沿いで、天堂・ルイは金銀一対の鈴を強く振りながら叫んだ。
「きりがないよリイ、一度引かないとっ」
 振った鈴はガラスを割るような音を響かせる。
 その音は今にもルイに迫ろうとした黒い影を粉砕、消滅させた。
 だがそのすぐ後ろ、一見なにもないアスファルトの地面から、盛り上がるように影の塊が伸び上がる。
 そうやって現れた影の集団が、二人を取り囲み押し包もうとしていた。
「リイ?」
 背中合わせに立っている双子の妹、リイから返事がないのを疑問に感じたそのとき、背後でなにかが落ちる音がした。
「ちょ、リイっ」
 焦りで振り向いた視線の先で、リイがアスファルトにくの字に倒れていた。
 同時に、ルイは全身を伝う冷や汗と激しい虚脱感に襲われ、立っていられずに膝を落とす。
 そのまま倒れこみそうになるのを歯を食いしばって耐え、ルイは再び鈴を振り鳴らした。
 空気を砕く音を受け、二人に触れようとした影が消滅する。
「ルイ……ごめ……」
 地面に近い位置から、かすれたリイの声がした。
「大丈夫、だよ」
 ルイは答え、笑ってみせる。
 この虚脱感はルイのものではない。
 闇や邪気を散らして払うルイと違って、リイは自らの体にそれらを取り込み浄化し祓う。
 大量の影を取り込んだリイは、限界に達し動けなくなったのだ。
 そしてその体調の異変が、共鳴としてルイにも現れる。
(ちょっと多すぎる、かな)
 座り込み片手で体を支えながら、ルイは空いている手で鈴を振った。
 その音で影は消えるが、すぐに地面から新たな影が溢れるように伸びてくる。
(どうしよう、このまま、じゃ)
 視界が狭く薄暗くなっていく。
「だれ、か」
 声がかすれる。
 ルイは体を支えていた手を引きずるように伸ばし、倒れたリイの手を握る。
 そして、残り全力の意志と力で叫んだ。
『誰か、助けてっ!』

■■■

 シュライン・エマはそのとき、アルバイト先の興信所から自宅へ戻るところだった。
 夕食の献立を考えながら歩いていると、ふとかすかな声が聞こえた。
 シュラインでなければ聞き逃しただろうその声は、切羽詰まった助けを呼ぶもの。
 そしてその声に聞き覚えがあると感じ、シュラインは聞こえてきた方向を探った。
 めぼしをつけた方向は、交差点から曲がり、線路沿いへと抜ける路地の方だった。
(変ね、あまり足を運びたくないように感じるのだけど)
 そちらに向かいたくないと思う自分の感覚を奇妙に思い、逆にその方向へ進んでみることにする。
 交差点を曲がり、フェンスの向こうに線路が見える路地に入る。
 同時に目に入ったのは、シュラインの身長ほどもある黒い塊だった。
 一つ一つは人間の大人ほどのようだが、それが十以上も一箇所に集まり蠢いている。
 怪奇事件に幾度も遭遇した勘が、それが悪しき物だと告げた。
(こんなことなら、お神酒でも持ってきてれば良かったんだけど)
 思いながら周囲を見る。
 影の塊以外に、なにも動くものは見えない。
 シュラインが聞きつけた声の主も、全く見当たらなかった。
(まさか、あの中に?)
 不安にかられて影の固まりに近付くのと、ガラスを砕いたような音がするのは同時だった。
 影の塊の一部が砕け散り、その中が見える。
 影に囲まれた中央に少女がいた。
 両手と膝をつき苦しそうにしている少女の隣に、もう一人倒れている少女も見える。
 少女が以前会ったことのある天堂・ルイだとすぐに思い出し、シュラインは駆け寄った。
 しかし差し伸べたようとした手の先に、黒い影が伸びてきた。
 咄嗟に強く振り払うと、その風圧に押されるように影は散った。
 一瞬だけ影に触れた手が熱を奪われたように冷えたのを、逆の手でかばう。
(これは、邪気とかそういった類かしら?)
 シュラインは一瞬で二つのことを理解した。
 この影は、直接触れれば体温、もしくは体力を奪われること。
 そして、衝撃で簡単に散ること。
 それならば、とシュラインは強く深く息を吸った。
 ど、と空気を打ち砕く波形の音波を咽から発し、再び集まりつつあった影の集団を打ち砕く。
 そして急いでルイの側に駆け寄った。
「大丈夫?」
 支えた少女の肩は、服越しでも冷えているのがわかる。
 ルイは青い顔を上げ、
「あ、えーと、エマさん、でしたっけ……」
 言って立ち上がろうとする。
 しかしすぐに膝が折れ、逆に地面に倒れ込みそうになった。
「無理しないで」
 シュラインはその体を支えながら、鋭く辺りを見回す。
 一度消えた影は、しかしやや離れたアスファルトの上から盛り上がるように現れ、緩慢な動きでこちらに寄ってくる。
 見る間に、シュラインが砕いたのと同じほどの影たちがアスファルトに広がる。
「とりあえず、ここから離れましょう」
 言いながらシュラインはもう一人の少女へ目をやる。
 意識がないのか先ほどから微動だにしない。
 ルイもこの様子では、一人では歩けないだろう。
(どうしようかしら……)
 影を散らすことはできるが、元を断たなければきりがない。
 それにこの二人を動かすことが先だが、自分一人では難しい。
 シュラインはなにかいい方法がないかと思考を巡らせながら、向かってくる影を一掃しようと息を吸った。

■■■

 レイベル・ラブはその日、知り合いの中華料理屋に寄った帰りだった。
 手には白い手提げビニール袋が一つ。
(今日はいい収穫だった)
 ビニール袋の中は余り物の香味野菜と香辛料に野菜くず、それに鳥の骨と皮が幾ばくか。
 常に懐が寂しい、というよりは極寒の身、どうにか伝手を使って本日の食材を手に入れたのだった。
 むろんそれだけで足りはしないため、この先また知り合いの八百屋や魚屋などを回るつもりだ。
 それでも思ったよりもいいものを得られたレイベルは、やや楽しげな足取りで歩いていた。
 その足が止まる。
(ふむ?)
 肌に感じるわずかな違和感。
 ここから少し離れた場所に、何らかの異変が形成されていると己の勘は告げていた。
 そう思って周囲を見ると、その場所を中心にして辺りの気が乱れている。
 そしてその底に黒い闇のわだかまりを感じ、レイベルは眉根を寄せた。
 と、思考に突然悲痛な叫びが響いた。
(たすけて≠セと?)
 直接の声ではなく、思念として聞こえてきた叫びは、レイベルが異変を感じたその場所から聞こえた。
 考える間もなくレイベルは走った。
 入り組んだ路地のため回り道を余儀なくされたが、程なくその場所に辿り着いた。
 駆けつけた現場で見たのは、三人の人物とそれを囲もうとする黒い影の集団だった。
 三人のうちの二人は少女で、もう一人は覚えがありシュラインという名も知っていた。
 シュラインは少女の一人を支えているが、もう一人は地に伏し動く気配がない。
 そしてその三人に向かっている影の集団を、レイベルは一瞬で悪しきもの、意志なき邪気や闇と呼ばれるものの集まりだと見抜いた。
(ならば)
 レイベルは駆けていた足を滑らせながら制動をかけ、踏み止まる。
 目を閉じて肩を開くように両腕を挙げ、腹の奥から気を込めて力の限り両手を打ち合わせた。
 厚い板材を叩き割ったような強い音が響く。
 その音に吹き消されるように、影たちは散って消えた。
 三人の後ろにいた影一体だけが一瞬残ったが、それもかしわ手の余韻に揺らいで消えた。
「大丈夫か」
 言いながらレイベルが駆け寄るその間にも、離れた一点から影が現れてくる。
「ありがとう、この子たちを移動させないと」
 シュラインが言い、レイベルも頷いてひとまず倒れている方の少女を軽く抱え上げる。
 しかし移動しようとすると、新たに地面より現れた影がこちらに向かって這い進んでくる。
(元を断たねばきりがないか)
 レイベルは眉をひそめたが、かしわ手を打とうにも少女を抱えたために手がふさがっている。
 後ろを見れば、シュラインはもう一人の少女に肩を貸して立ち上がろうとしているところだ。
 さてどうしたものか、とレイベルは冷静に息をついた。

■■■

 櫻・紫桜がその叫びを聞いたのは、下校途中だった。
 耳に直接聞こえる声ではなかったが、助けを求める意志を誰かが発していると、そう感じ取った。
(方向は――少し遠いですか)
 聞こえてきた方を見れば、やや遠くに妙な力場が見えた。
 善悪はここからではわからないが、その場の中を隔離する性質のものだとわかる。
 恐らくそこが発生地点だと見当をつけ、紫桜は走った。
 しかし実際に走ってみると、その地点に向かうのは難航した。
 辺りの路地が入り組んでいるというのもあり、また力場のせいか、抜けると思った道がその場に通じていなかったりもする。
 やや手間取った紫桜が駆けつけたときは、二人の女性がぐったりとした二人の少女を抱えているところだった。
 そしてその彼女たちの後ろ、アスファルトの一点から染み出すように黒い影の塊が現れ、彼女らを取り囲もうとするかのように迫っていく。
(これは、大変なことになってますね)
 一目でその影たちが悪しきものだと感じ取り、紫桜は女性たちと影の間に割り込んだ。
「僕が食い止めます。その方たちを安全な所に」
 目線で後ろを見て言うと、女性たちは頷き路地の入り口の方へと少女たちを運んでいく。
 その容態は気になるが、紫桜が手を出せることではない。
 今は影に集中しようと、向き直った紫桜は目を細めて影たちを見据える。
(気でどうにかできそうですね)
 その質感を見て取った紫桜は、手を伸ばすようにこちらへ迫った影に掌撃で気を叩き付けた。
 予想通りに黒い影は散って消えるが、やはり地面から湧き出るように新たに出現する。
 紫桜は、なにかの仕掛けのように現れ続ける影とその出現地点を強く見た。
 その地点は影たちを創り作り出しているというよりは、何処からか集めた影を、そこを出口として排出しているように見える。
 呪術などには詳しくない紫桜は、その仕組みまではわからない。
(ならば、取り敢えず出現を抑えるしかありませんね)
 紫桜は一度静かに呼吸し、影の集団へと向かった。
 数歩駆け、最後の一歩に気を込めて強く踏み込む。
 足と供に地面に叩き付けた気が、その周りの影の下部を吹き飛ばす。
 同時に正面へ掌底を突き込み、気で影たちの上部を散らす。
 そのままの勢いで空いた場所に踏み込む。
 踏み込んだ足を軸にして体を回し、逆の足を跳ね上げて踵からの回し蹴りで奥の影たちを薙ぎ払う。
 そして更に空いた先に踏み込めば、影たちの発生地点に到達する。
 地面から盛り上がり現れ出でようとする影の前で、紫桜は立ち止まり両掌を合わせた。
 意識を己の中に向け、冷たく鋭い存在を感じ取る。
 現れろと思う意志をそれに放てば、合わせた掌から薄く光が漏れる。
 紫桜は片方の手を、その光を掴み出すように離した。
 開いた掌から現れるのは抜き身の太刀。
 紫桜はそれを、すかさず影の発生地点に突き立てた。
 闇によってアスファルトの性質が変化しているのか、刃先は粘土にめり込むような感覚で突き立った。
 そして刀は水を吸い上げるかのように、出現し続ける影たちを吸収し始める。
(これである程度は大丈夫でしょう)
 紫桜自身を鞘とするこの刀は、周囲の気を糧に切れ味を増す。
 それは悪しきものでも同じことで、新たに出現する影は次々と刀に吸われ消えていく。
 しかしこれはあくまで一時しのぎで、根本を解決する術は今のところ紫桜にはなかった。
 少女たちを助けている女性たちに話を聞こうと、紫桜は後ろを向いた。

■■■

 レイベルはシュラインと供に路地の角まで退き、そこに二人の少女を寝かせた。
 先ほどの少年が食い止めているおかげで、ここまでは影たちも寄ってはこない。
 シュラインが来たときには意識のあったという少女、ルイも助けが来た安堵からか意識を失ってしまっていた。
 レイベルは少女たちの額に触れ脈を取り、状況を確認する。
 ルイの方は衰弱しているだけだとわかるが、
「問題はこちらか……」
 双子だろうもう片方の少女の方が酷く衰弱し、その身の内には濃い闇の気配が詰まっている。
 この少女は自らに取り込んで浄化するタイプの能力者だとレイベルは判断する。
 しかし影たちが際限なく現れたために、限界を越えたのだろう。
「救急車、呼んだ方がいいかしら」
 心配げにシュラインが言うのに、レイベルは少し考え、
「普通の病院では面倒もあるだろう。多少の回復ならできる。少し待ってくれ」
 言いながら手にしていたビニールの袋から、中華料理店でもらった香味野菜と香辛料を取り出す。
「一人ではいくら何でも食べ過ぎ≠セろう」
 レイベルは呟いて手持ちの器具でその材料を刻み潰し、数種類の薬品と呪術的効果のある薬液を混ぜる。
 小さな乳鉢に出来上がったのは、黒と紫を混ぜた色の濃い液体だった。
 黙って見ていたシュラインが、微妙に不安げな面持ちで聞いてくる。
「……これ、なにかしら」
「中和剤だ。体内に入った悪しきものを打ち消す作用がある」
 レイベルは平然と答えて、闇を抱えた少女の上体を起こした。

■■■

 黒榊・魅月姫はある店に向かっていたところだった。
 その途中で助けを求める思念を感じた。
 少女のものと思しきその思念に、魅月姫は覚えがあった。
(確か、北庭苑の……)
 中国茶と雑貨を扱う北庭苑は、魅月姫がこれから向かおうとしていた店だった。
 思念はそこでアルバイトをしている天堂・ルイのものだと知り、魅月姫はその思念が飛んできた方角へ意識を集中した。
 北庭苑からは離れた遠方の方向だと感知し、そしてその先に奇妙なものを感じる。
 ある一角に、その場所を隔離する目的の結界が張られているのだ。
 そしてその隔離された場所に向かい、渦を巻くように影のような闇の気配が流れ込んでいく。
 見知った者の助けを求める思念と結界と闇。
 それだけわかれば十分だった。
 魅月姫は影のゲートを呼び出し、目的地へ向かってそれをくぐった。
 しかしすぐに魅月姫は影の中で足を止める。
 目的地へと渦巻いて流れ込んでいく闇の動きに阻害され、ゲートが出口を形成できないでいた。
 魅月姫の妨害を狙ったわけではないだろうが、結果として道をふさがれた形となった。
「――通しなさい」
 影の中、魅月姫は前方を強く見据え呟いた。
 視線が力となり、一瞬で乱れ流れる闇を切り開いて出口となる空間が現れる。
 それをくぐって出た先は、結界に阻まれたのか目的地よりやや手前だった。
 目的地の方向もぼやけ景色が明確ではない。
 それでも魅月姫は表情一つ変えずに路地を歩いた。
 人避けの結界をあっさりと通過し、視界が明確に像を結ぶ。
 線路ぞいのフェンスが片側に走る路地の真ん中に、日本刀が突き立てられていた。
 その向こうに学生服姿の少年が立ち、更に奥にはシュラインと女性が一人、ぐったりとした少女二人を介抱している様子が見える。
 後ろを見ていた少年が魅月姫の気配に振り向き、不審気な表情を見せた。
「貴方は?」
「私は敵ではありません」
 魅月姫は少年にそれだけ言うと、刀が突き立てられている地点を見つめた。
 地面から次々と黒い影が湧き出てくるが、すぐに刀に吸い込まれ消えていく。
 恐らくその場所が、周囲から流れ込んできている闇の噴出地点なのだろう。
 そう判断をつけ、魅月姫は再び少年に視線を向けた。
「これが貴方の物でしたら、抜いていただけませんか」
 言うと少年はやや迷うような間を開けて、
「抜けばこの影のようなものが現れ続けますが、策があるのですか?」
「ええ」
 魅月姫が短く答えると、なにかを感じ取ったのか少年は一つ頷く。
 そして刀の柄に手をかけ、引き抜いた。
 途端に地面から影の塊が盛り上がり、人の背丈ほどに伸びる。
 魅月姫は素早く踏み込み、手甲でその影を払い飛ばした。
 その速度で生じた強い風圧が一瞬全ての影を粉砕し、出現地点であるアスファルトが晒される。
 一見なにも異変がないかのように見える中心に、光る点を魅月姫は見た。
 新たな影が出現しかかるのと同時、魅月姫は己の持つ闇を手に纏わせ、抜き手の形でその中心に叩き込む。
 魅月姫の手は腹に響く破砕音と供にアスファルトを砕き、手首まで埋まった。
 衝撃に中心を砕かれた闇の流れが、ほどけるように崩れていく。
 それでもなお地上に現れようとする影に向かって、魅月姫は地中に突き込んだ手先から自らの闇を開放した。
 その闇は、乱れ崩れる影とは比べ物にならないほど、重く暗くそして強大である。
 地中に流れ込んでいた影を一呑みにし、微塵に砕いて捕り込み消滅させた。
 それを確認すると魅月姫は己の闇を収め、アスファルトから手を引き抜く。
 傷一つないその手の中には、竹のように割られた長い釘がある。
 魅月姫が見た光る点は、アスファルトに打ち込まれたその釘の頭だった。
 割った瞬間に効力は消え失せたようだが、その釘が闇を集める役割をしていたことは間違いなかった。
(下らないことをしますね)
 何者が企んだのかはわからないが、愚かな行為だと魅月姫は断じた。

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 北庭苑店主、典・黒晶の入れた茶は明るめの茶色で、甘い果物に似た香りが漂ってくる。
 口にすると、蜜のような風味が広がった。
「ちょうど、良いものが入りましたので。鳳凰單叢(フェンフアンタンクォン)の蜜蘭香(ミィランシャン)という烏龍茶になります」
 黒晶が言い、円卓に着いたシュライン、レイベル、紫桜、魅月姫の四人はそれぞれに茶を楽しむ。
 あの後、レイベルの中和剤のお陰で天堂リイは意識を取り戻した。
 リイが黒晶に連絡を取り、双子は掛かりつけだという病院へ運ばれた。
 二人は過度の疲労のような症状で、点滴を受け休めば回復するとのことだった。
 そして元々北庭苑へと向かっていた魅月姫を含め、四人は礼をしたいと言う黒晶に引き止められて卓を囲むことになった。
 一通りの紹介を終えたのち、シュラインが立っている黒晶に問いかける。
「やっぱり、なにも出てこないのかしら」
 黒晶は、ええ、と頷いた。
「黒榊様からお預かりした釘を調べたのですが、今のところ何の痕跡も見つからないのです。どうやら、暴かれると全てが消滅するような呪的なものが組み込まれていたようでして」
 それを聞いて、自らもその釘を検証したレイベルも頷く。
「まあ、そうだろう。どう見てもただの釘だったな。それと、打ち込まれたポイントも問題だったようだが」
 レイベルたちが周囲を調べた結果、その地点は鉄道工事と開発が要因で、地脈が堰き止められた場所だった。
 善悪の別なく、目に見えないものが溜まりやすい場所ではあったのだ。
 紫桜が短く息をついて口を開く。
「それにしても悪質ですね。一般の人なら結界のせいで近付きませんが、あんな弱い結界では逆に能力のある人には目立ちますからね」
 実際、ルイたちもその結界を気にして踏み入ったと言っていた。
 もっとも普段通る道ではなかったようで、彼女たちを特定して狙ったものではないようだと、黒晶はそう告げた。
 静かに茶を飲んでいた魅月姫が、ふと黒晶を見る。
「万が一ということもあります。心当たりがなくとも、注意された方が良いかと」
 淡々と言うのに、黒晶は笑みを返して頭を下げる。
「はい、今後はあまり妙な場所には近付かないようにと、言い聞かせておきました。皆様方がいらっしゃらなかったらどうなっていたか――本当に、有り難うございます」
 黒晶が何度目かの礼を述べる。
「今、鹹点心(シェンディェンシン)を少し用意させています。甘くないものですから、茶と合うと思います。宜しかったら、召し上がって下さい」
 言われてみると、確かに奥の方から揚げ物の香りがしてくる。
 途端に、誰かの腹が盛大に鳴った。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0606/レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)/女性/395歳/ストリートドクター】
【5453/櫻・紫桜(さくら・しおう)/男性/15歳/高校生】
【4682/黒榊・魅月姫(くろさかき・みづき)/女性/999歳/吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】

NPC
【天堂・ルイ(てんどう・るい)/女/15歳/高校生&邪気払い】
【天堂・リイ(てんどう・りい)/女/15歳/高校生&邪気祓い】
【典・黒晶(でぃぇん・へいしぁん)/女/26歳/「北庭苑」店主&仲介屋】

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■         ライター通信          ■
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お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
そしていつもありがとうございます、ライターの南屋しゅう です。

今回の内容は、皆様同じ構成となっております。
楽しんでいただけましたでしょうか。
諸事情により次回活動時期が未定となっておりますが、
またお目に留めていただけましたら幸いです。