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<東京怪談・PCゲームノベル>


想いの数だけある物語

 ――見渡すばかりの荒野。
 吹き荒ぶ風に砂塵が巻き上がる茶色の大地に、ノイズ交じりの声が響き渡る。男の声は酷く狼狽し、乾いた響きが微かに入り込んだ。
『‥‥駄目、だ! 囲まれ‥‥弾‥‥もう、ひッ!』
 刹那、乾いた荒地が広がる地表に、轟音と共に黒煙が噴き上がった。先程とは別の男が悲鳴のような声をあげる。
『マッ‥‥やられ、た! 逃げ、られ‥‥まだかッ!』
 再び爆炎があがり、鋼鉄の腕が煙を噴いて転がった。鋭角に模られたシルエットに、ヒクヒクと小刻みに動く指が生々しい。
「くそッ! 右腕をやられた! 応援は未だか!?」
 鈍い機動音を洩らし、一歩後退したのは、鉄の装甲で覆われた人型のマシンだ。頭部が無い代わりに胴体部に透明なガラスが張られており、中に人影が浮かぶ。掻き鳴らされる銃声に火花を散らし、コックピットに罅が入る。
「ここまでか。だから俺は‥‥」
 罅割れたコックピットに映るのは、数体の同じような鋼鉄の巨人だ。右腕の4つの銃身が硝煙を漂わせ、ゆっくりとした動きで歩いて来る。包囲された中央には大型トレーラーが佇み、周りには鋼鉄の塊と化したマシンが幾つも黒煙を噴いて転がっていた。
「だから俺は傭兵を雇うなんざ反対したんだ!」
 一斉に向けられる銃口。敵がトリガーを絞れば蜂の巣となるだろう。男が拳銃を模る操縦桿の引鉄に指を掛けると、鋼鉄の指が、握ったハンドガンのトリガーに触れる。
「もっと近付きやがれ、一体でも倒してやる!」
 刹那、銃声が響き渡った。否、銃声というより、もっと甲高く――例えるなら恐竜の咆哮か。僅かな間を置き、取り囲んでいた一体が爆炎と化す。男の見開かれた瞳に映るは、敵機の背後に迫る二本脚の恐竜だ。否、この時代に恐竜など存在しない。
「‥‥恐竜型のガンドール!?」
 恐竜と思わせたシルエットは、装甲に覆われたマシンだ。軽快に駆ける機体は両手に構えたハンドガンを撃ち捲り、次々と敵機を沈黙させてゆく。
『遅れて済まないな、燃料が切れちまってよ。半額で助けてやるから、大人しく待ってな』
「こいつか? 雇った傭兵ってなぁ」
 縦横無尽に駆け回り、敵弾が地表を削る中、確実にT−REX型のマシンが放つ銃弾は命中し、瞬く間に掃討する。立ち上がってエンジン音を唸らせる機体は、男のマシンと恐竜の他に存在しなかった。
「へッ、呆気ない相手だ」
 不敵な笑みを浮かべる口元。刹那、通信機から声が飛び込む。
『晃一郎、仕事の依頼だ。やれるか?』
「あぁ、ちょうど片付いた。何でも引き受けるさ、俺は傭兵なんだからよ」
 黒い長髪から覗く、嵐晃一郎の瞳は、ギラギラと研ぎ澄まされた。

 ――広大な荒野が広がる世界。
 そこではガンドールと呼ばれる人型マシンが主力として、様々な地方の戦場で活躍していた。戦争が長期化する中、次第にガンドールは流出してゆき、今では荒くれ者達の欲望の為にマシンは動かされる。荒れた大地で細々と暮らす民にとって、ガンドールは恐怖の対象だ。そんな或る地方で噂される仕事があった。
 この物語は、依頼金によってガンドールを駆る、傭兵達の記録である――――。

●荒野に吹き荒れる嵐
 爆音を轟かせ、風変わりなシルエットに包まれた大型バイクが荒野を爆走してゆく。運転しているのは黒い衣装に身を包む、がっしりとした長身の青年だ。
「あれか? 依頼の施設ってな」
 晃一郎の向かう先に大きな施設が見えて来る。周囲には建物らしき物は確認できず、極秘に作られた物と推測された。青年の駆る単車は砂塵を巻いて中へと入ってゆく。
「ほぅ‥‥」
 施設の敷地内に佇むのは、深紅に彩られた一機のガンドール。晃一郎には何となく見覚えのあるマシンだ。やがて、その理由は明らかとなる。
「おまえは‥‥」
 瞳に映ったのは、長い緑色の髪を端で結んで纏めている、猫のような瞳の美女だ。口元に微笑みを浮かべ、緑色の瞳で晃一郎を射抜く。
「‥‥あんたも引き受けたのかい? 依頼料が減るじゃないさ」
「それはコッチの台詞だ、ジュナン」
 どうやら同業者といった所だろう。ジュナンと呼ばれた女は腕を組んで溜息を洩らす。
「まぁ、それだけ仕事は少ないって事さね。でも依頼は分かってるかい?」
「あぁ、施設を野盗から守る事。依頼金は敵機の撃墜数だ」
 面倒くさそうに話した青年に、ジュナンは猫のような瞳を細める。
「そう? 分かってるじゃない。駆け出しのアンタがヤラれない事を祈ってるさ」
 彼女とは商売敵だ。お互い一匹狼で、何度か敵対した事もある宿敵。ジュナンの瞳が凄みを増し、青年のニヒルなマスクを睨む。
 刹那、警報が鳴り響き、静寂を打ち破った。
 直ちにマシンへと駆けて行く中、指示が響き渡る。
『野盗団が接近しています。傭兵は直ちに排除をお願いします。野盗団は二手に分かれ、南と北から進行中です。敵機の数は――』
「挟み撃ちって訳か‥‥」
 大型バイクのエンジンを掛ける中、深紅のガンドールが起動音を轟かせ、走り出す。外部スピーカーから発せられるのは、ジュナンの声だ。
『先に行かせてもらうよ! アンタは南へ行きな!』
「おい、待てよ! ‥‥あの女、数の多い方を取りやがって!」
 エグゾーストを轟かせ、晃一郎はタイヤを滑らせ旋回すると、南へと疾走した。風を切る中、親指でハンドルのレバーを押し込み、大型バイクの前輪を浮かせると同時、瞬く間にシートの周りが装甲に囲まれ、メカニカルな恐竜へと変形を果たす。
「あれか? 敵機は三体‥‥さっさと片付けさせてもらう!」
 鋼鉄の手に2丁のハンドガンを構えさせ、機体を滑り込ませながら銃声を響かせ捲り、右から左へと細い鋼鉄の腕を流してゆく。薬莢が転がり、地表に土煙を舞わせる中、敵機が爆炎に包まれた。直ちに応戦体勢を整え、銃声と共にマズルフラッシュが点滅。恐竜は前屈みに駆けながら洗礼を擦り抜ける。
「知らないのか? 銃撃戦は止まったら負けってな!」
 晃一郎の駆る機体は砂煙を舞い上がらせながら方向を変え、巨大な口を開く。尻尾がピンと張り、太い両足の鍵爪を乾いた大地にメリ込ませた。コックピット越しの視界に大きな丸い輪が浮かぶ。
「但し、切り札があれば話は別さ」
 不敵な笑みと共に操縦桿の上部にあるカバーを親指で跳ね上げ、赤いスイッチを押し込んだ。刹那、開いた口から太い閃光が放たれ、敵機が吹き飛んでゆく。強力なエネルギーが持続する中、閃光が左へと流れ、傍でうろたえた動作を見せるマシンにも洗礼を浴びせ、瞬く間に三体のガンドールは沈黙した。
「これで3000Gか。俺とコイツの食料で消えちまうな」
『嵐さん、聞えますか? 北の防衛ラインが苦戦中です! 直ちに急行して下さい!』
 飛び込んだ通信に、晃一郎は唖然とする。
「ジュナンが苦戦しているだと? あの腕利きが?」

●錆び色のマシン
 大型バイクが向かった北側の防衛ラインに、二体の機体が浮かび上がる。既に数体のマシンが部品を撒き散らせて転がっているものの、深紅のガンドールも黒煙を噴き上げていた。
「たった一機に? 余程の相手って事か」
 晃一郎は単車を恐竜型へと変形させると、ハンドガンの銃声を掻き鳴らす。外してジュナンの機体に当てる訳にはいかない。弾丸は背中を向ける敵機の足元で土塊を舞い上がらせた。予定通り、野盗のマシンが振り向く。
「こいつ、錆びているのか?」
『気を付けな、奴の射程範囲は、広いよ‥‥』
 苦しそうな女の声が通信機から警告する。しかし、手に持っているのはハンドガン。あのサイズで広範囲とは考え難い。
『珍しい機体だな、新型か?』
 通信機から飛び出したのは野太い男の声だ。周波数を合わせて来たのは、恐らくあの錆びたマシンか。
「カスタムメイドだ。悪いが仕事なんでね、倒させてもらう」
『へッ! そう、いきり立つな。寿命を縮めるだけだぞ』
「ぬかせッ!」
 恐竜がハンドガンを撃ちながら旋回する中、錆びたマシンも駆け出しつつハンドガンを連射する。目まぐるしく位置が変わり、互いの装甲に火花が迸った。
『なかなか良い腕だな。赤いネェちゃんも悪くないが、どうだ? 俺と組まないか? 俺はガゾック、野盗団のリーダーだ』
「なんだと?」
『驚く必要はない、金で動くのが傭兵だろが。赤いネェちゃんも戴くつもりだったんでな』
 視界を赤いマシンへ流すと、野盗達がコックピットへ向けて登山中だった。
「なるほど、腕が良ければ殺すより味方にするのが合理的か」
『分かってるじゃないか。流石は傭兵だ』
「だがな、依頼を果たしてこそ名が上がるってものだ。俺は嵐晃一郎。この話には乗れないな!」
 カートリッジを嵌め換え、再び響き渡る銃声。錆び色のマシンは一瞬出遅れ、ハンドガンが鋼鉄の手から弾かれた。
『チッ、弾切れだったか』
「俺の受けた依頼は敵機の撃墜数だ。悪いが、追加させてもらう」
『晃一郎! 油断しちゃ‥‥こら、触るんじゃないよッ! 機体に穴なんか明けんじゃないッ!』
 響き渡ったのは女の声だ。どうやら辿り着いた野盗と格闘中らしい。時々、断末魔のような声が遠ざかってゆく。
『遅いッ!』
 錆びた腹部の装甲が展開し、稲妻のような放電を集束させる。晃一郎は瞳を見開き、恐竜の口を開かせた。
「あの武器は同じタイプか!」
 刹那、眩い閃光が同時に放たれ、衝撃に体勢を崩した機体は、互いに洗礼を浴び、爆炎を噴きあげる。相撃ちの状況に、登山中の野盗と格闘中のジュナンが唖然と固まった。互いの機体がゆっくりと倒れる。
「くそッ、修理代が増えたじゃないかッ!」
「それはこっちの台詞だ!」
 二人の男はコックピットから飛び出すと、対峙しながら互いに腰のホルスターを晒した。砂埃が風に吹き飛ばされる中、静寂が包み込む。決闘で勝負を決めるつもりだ。頬に汗が流れ、生唾が喉を鳴らし、開いた腕の先で指がピクリと震えた――――。
 先に銃を手にしたのはガゾックだ。硝煙と共に銃声が鳴り響き、男の影が吹き飛ぶ。
「あぁ、晃一郎! ‥‥!?」
 女の瞳に映る吹き飛ばされた男は、鮮血を舞い飛ばしながら銃声を響かせた。勝利を確信したガゾックの肩が赤く染まる。
「あの野郎! 遅れたから先に跳んだってのか!?」
「生憎、食らっちまったが、急所は外させてもらった」
 互いに銃口を向け合い、二人は固まる。髪の長い青年は半身を起こしたまま、短い髪の男は片膝をついたまま。
「痛み分けって事か」
「それが互いの為だろ?」
 二人の男は不敵な笑みを浮かばせ合う――――。

 ――晃一郎はベッドの上で目を覚ました。
 屈強な肉体に白い包帯が巻かれ、血の滲みが痛々しい。
 その後、野盗達は大人しく撤退して行った。ガゾックの計らいもあったのだろう。ジュナンも無事解放され、今は同じベッドで寝息を洩らしている。青年は呆れたような表情で視線を流すと、シーツを半身に掛けただけの白い背中が映った。
「‥‥なにが礼だ‥‥。怪我人に激しい運動させて‥‥ったく、女心ってのは良く分からないもんだ」
 再びガゾックと戦う日が来るかもしれない。それまではツマラナイ死に方だけはしたくないと、女の背中を見つめながら苦笑する――――。


「‥‥これがアナタの描いた物語なのですね」
 カタリーナは一枚のカードを胸元に当て、瞳を閉じたまま、微笑みを浮かべていた。やがて、ゆっくりと瞳を開き、晃一郎にカードを差し出す。
「このカードは、晃一郎さんが物語の続きを描く時に使って下さい。カードに記録として履歴が残ります」
「俺の履歴?」
「はい☆ 今回の場合は、『荒野で恐竜型マシンを駆る晃一郎。防衛戦の中、同業者が恋人になり、野盗とは決闘の末、痛み分け、以後宿敵となる』って感じです」
 いいのか? こんなてきとーな履歴で‥‥。
「恋人か‥‥いま気になっている女性に似ていたからな」
 晃一郎は頭を掻きながらカードを受け取った。微妙な履歴の刻まれたカードを眺め、青年は穏やかに微笑む。
「それでは、晃一郎さん、ごきげんよう☆」
 カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、晃一郎は瞳を閉じた――――。

<荒野で傭兵を続ける> <目を覚ます>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【5266/嵐・晃一郎/男性/20歳/ボディガード】

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■         ライター通信          ■
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 この度は発注ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 さて、いかがでしたか? 西部劇調で人型ロボットとは!? 青い閃光にならないよう気をつけましたよ(笑)。今回は設定にある恐竜型の機動兵器として、人型メカを演出させて頂きました。切磋的にガンドールって名称がイマイチですが(苦笑)、銃を撃つのに特化した人形って事で、そう名付けました。晃一郎さんにカウボーイハットでも被せようかと思いましたが、イメージが崩れるとアレなので(笑)。なかなか文字数厳しく(冒頭は雰囲気作りのサービス☆)、ウエスタンな世界観が表現し切れていませんが、服装とか脳内補完して頂けると何よりです。因みにガンドールってどんなデザインと思います?
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆