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<東京怪談・PCゲームノベル>


想いの数だけある物語

 ――それは真っ赤な池だ。
 ドロドロとした粘液質の池は、時折、茹ったようにブクブクと音を鳴らして気泡を噴き上げていた。次第に中で何かが蠢く。シルエットが赤い粘液に浮かんでは消えた――――。

「ウラ様、お客人が見えられたよ」
 少女のような声を響かせ、一人の少年が片膝を着いて報告する。年齢は14才位だろうか、伏せた風貌は見目麗しい。
「そお? 通してあげて★」
 鈴を鳴らしたような少女の声が、頭を垂れるキイラの耳に流れた。美少年が僅かに視線をあげ、主に瞳を向ける。繊細な装飾の成された椅子に腰を下ろしているのは、白と黒を基調とし、フリルやレースが施されたゴシックロリータ系の衣装に身を包む少女だ。艶やかな黒髪は腰まで長く流れ、前髪は眉辺りで切り揃えている。黒いストレートヘアに巻かれた赤いリボンが鮮明に映り、少女の妖美な風貌を彩っていた。ウラ・フレンツヒェンは、見惚れている美少年に若干吊り上がった円らな瞳を流す。
「聞えなかったの? 通してあげて」
「‥‥は、はい。只今お連れしますね」
 ウラは頬杖をついて細い足を組み、来客を待つ。妖美な少女の前に姿を見せたのは、一人の小太りな男だ。一目見ただけで、高貴な輩と窺えた。円らな瞳を細める。
「おまえは何が望みなの? お金かしら? それとも地位?」
「ウ、ウラ様! 聞けば東の領主に永遠の命を与えたと!?」
「‥‥そうよ、あげたわ♪ おまえも欲しいの?」
 悪戯っぽく微笑む美少女に、男は安堵の色を浮かべると、紋章の模られた指輪に添えた手に力を込めた。
「わ、私にも永遠の命を! 私は西の領主でございます!」
「ふーん、領主様かぁ★ いいわよ♪」
 男は身体を震わせて歓喜する。きっと頭の中では様々な欲望が描かれている事だろう。ウラは恍惚とした領主に告げる。
「明日までに書状を用意してね★」
「‥‥書状、でございますか?」
「そうよ‥‥おまえの配下共は、あたしの頼みを何でも聞くの♪ 永遠の命をあげるんだから、下僕達なんかどうでも良いでしょ?」
 永遠の命。神でなければ与える事の出来ない力。配下なぞ好きにさせても自分に痛手はない。
「承知いたしました! では後日に」
「はい★」
 サラリと黒髪を揺らし、美少女は可愛らしく微笑んだ。男が締まりの無い顔で豪勢な部屋を出で行く中、ウラは細い肩を小刻みに震わす。流れて来るのは、喉を引き攣らせたような笑い声だ。
「クヒッ、ヒヒヒッ、楽しみにしててね、領主さま♪」
「ウラ様、国王が見えられたよ」
 見渡すばかりの岩石に囲まれた城に、ウラの引き攣った笑い声が響く――――。

 或る地方の小さな国の話だ。
 ここでは夜になると異形の化物が徘徊し、民を夜な夜な餌食にしていた。時を同じくして、恐怖に慄く民を護る所か圧政が始まり、貧困に喘ぐ民が瞬く間に増えてゆく。そんな中、ある噂が流れた。
 ――国を影で操る魔女がいる。
 どうやら洞窟の中に住処があり、贅沢三昧な暮らしを続けているらしい。
 なるほど。今もこうして国外から取り寄せた調度品を輸送する幾つもの馬車が、路上を闊歩してゆく。
 俺はガゾック。圧政を取り除く為に立ち上がった旅人だ。


「わあ★ このお肉、まるで舌の上で蕩けるようだわ♪」
「国王専用のシェフの料理ですから、当然美味ですよね。食材は各地から取り寄せた逸品ばかりですから。国王すら食べていませんよ」
 ウラは大きなテーブルに並べられた豪勢な料理に舌鼓を打ち、陽気な声を響かせていた。傍で佇むキイラは、満足そうな主に微笑む。彼にとって傍で笑顔を見つめるのが最高のご馳走だ。
「うん、ご馳走様★ 下げて良いわよ」
「えっ? でも、どれも半分も食べてないじゃ‥‥」
「いらないわ。捨てて頂戴♪ そうね、明日は珍しい料理が食べたいってシェフに伝えてね★」
「あははは、民にはもっと働いてもらわないと困りますね」
「ウラ様!!」
 緊迫した声と共に姿を見せたのは、猫のような瞳が特徴的な若い女だ。口元を上品に拭きながら、美少女が瞳を流す。
「なぁに? ジュナン、そんなに慌てて。頼んでおいた物は届いたの?」
「‥‥それどころじゃないさ! 何者かが侵入し、現在実験生物達と戦ってるよ! それが、かなりの手馴れらしくてさ‥‥」
 明らかに女の表情は怯えていた。ウラは詰まらなそうにジュナンを眺め、瞳を研ぎ澄ます。
「だったら、おまえも戦って来たら? あたしが作った生物は頭わるいんだから、ちゃんと指揮しなきゃ駄目じゃない、ね★」
「‥‥分かったよ。この前に誕生した奴も使わせてもらうからね」
「あれね♪ いいわよ★」
 ウラは何かを思い出したようにパッと表情を輝かせた。

 ――洞窟内。
「せぃやあぁッ!!」
 大剣を振り回し、勇者ガゾックは大立ち回りを繰り広げてゆく。異形の化物は生肉のような肌を照りつかせ、鋭利な爪を浴びせようと飛び掛かるが、屈強な身体から薙ぎ振るわれる斬波に、次々と赤黒い液体をぶちまけ、肉片と化す。
「くそッ、切りがない」
 それでも一振りで数10mは真空刃が飛んでゆくのだ。異形の化物等は次第に数を減らし、若き勇者は屍の道を駆け抜ける。
 刹那、岩肌に身を潜めていた化物が飛び掛かった。青年は体捌きと共に大剣を構え、爪の洗礼を凌ぎ、瞳を見開く。
「この爪に嵌められた指輪は? 領主の家紋!」
 僅かに動揺するものの、ガゾックはブヨブヨした腹を蹴り上げ、そのまま太刀を振り下ろす。体液と肉片が飛び散る中、眉間に皺を寄せて奥歯を噛み締めた。
 ――まさか、この化物達は‥‥。

●純粋な悪意の中で
「ウラ様! 城内に侵入されたよ! もう食い止める事は‥‥」
 豪華な調度品に包まれた一室に、ジュナンが飛び込んで来た。顔色は既に蒼白で、事態が芳しくない事を浮かばせるが、美少女はデザートを食べながら優雅に寛ぐばかりだ。
「そんな事でティタイムを邪魔しないで? キイラ、もう捨てて頂戴、とても美味しかったわ♪」
 ウラがニッコリと笑顔を向けると、嬉しそうに美少年は応える。ジュナンの瞳が苛立ちを露に浮かべた。
「ウラ様! 早くここから離れないと‥‥」
「あら? おまえは城を手放せって言うのかしら?」
「‥‥ウラ様、他の土地にもゲスな輩はいるさ。何もこの城に拘る必要は‥‥」
「あたしはね? たった一人の正義ぶった奴に城を陥落させられるのが我慢ならないの。分かる? 弱音を吐くなら頑張って♪」
「その必要はない‥‥」
 響き渡ったのは野太い男の声だ。血肉に塗れた屈強そうな眼光が鋭く美少女を射抜く。
「ウラってのが国を腐られた魔女か。こんな小娘とはな」
「まあ★ 折角取り寄せた絨毯が汚れちゃったわ!」
 ガゾックが歩く度に、赤黒い血肉が落ち、絨毯を汚した。ウラは両手を口元に当て、残念そうな表情を浮かべる中、勇者の怒りが増す。
「その絨毯が民の労力で手に入れたと知っているのか? この無駄に豪華な家具が幾らするか知っているのかッ!?」
「なに怒っているの? 大声出さなくても聞えるわよ★ さあ? だって用意してくれるものだから気にもしなかったわ♪」
「ウラ様が知る必要ないだろ!?」
 キイラがウラの傍に寄り、声を響かせた。
「本気で言ってるのか貴様等。もう一つ聞こう、あの化物は元々なんだ!?」
「魔術実験で作ったアレのこと? 人間に決まってるじゃない♪ 永遠の命が欲しいって言うから願いを叶えてあげたの★」
「‥‥貴様等の血は、何色だぁッ!」
 一気に大剣を薙ぎ振るい、絨毯が千切れ跳ぶ中、ジュナンの腕が切り落とされ、ウラの前に立ち塞がるキイラの腹部から鮮血が飛び散った。美少年は微笑みを浮かべながら、ゆっくりと崩れる。
「貴様の事だ。お前を庇った少年の気持ちも分からんだろう」
「キイラの気持ち? 何を言っているの? 言われなければ他人の気持ちなんて分かる訳ないじゃない♪」
 ――この小娘!?
 悪気すら感じていない? 否、ただ純粋過ぎるだけか?
 頼まれたから望みを叶えただと? 
 頼んだら用意してくれたから考えなかっただと?
「だが、悪意のない行いとしても、許せはしない。ウラ、貴様を倒す!」
 再び斬光が迸った。もはやウラを庇う者はいない。美少女は瞳を閉じて微笑むと、クッと喉を見せる。楽しんだのだから逃げるよりは死を選ぶというのか。
 刹那、真空刃の前に舞い降り、立ち塞がるは長い銀髪の男。翳した掌から眩い閃光が放たれ、ガゾックの洗礼を掻き消す。尚も延びる光の刃に、勇者の肩から鮮血が吹き上がった。
「ウラ様を死なせる訳にはいかないのでね」
「リュークス、遅かったじゃない♪」
「申し訳ない。ウラ様、やはりここは‥‥」
「そう‥‥仕方ないわね」
 響き渡る地響き。リュークスと呼ばれた男の足元が砕け、姿を覗かせるのは巨大な爬虫類の頭だ。
「ドラゴンだとッ!? 逃がすか! くッ」
 更に地面が激しく揺れ、ガゾックが体勢を崩す。床に亀裂が疾り渡る中、リュークスとウラの身体を背中に乗せたドラゴンが姿を晒した。それでも、勇者は大剣を構え、妖美に微笑む少女へと真空刃を放つ。同時にウラの掌がドラゴンの背中に翳された。
「なにッ!?」
 その瞬間、ドラゴンの身体は鋼へと変容したのだ。真空刃は鉄の身体に効果を果たせず、風と化して美少女と美青年の髪を舞い踊らせた。尚も鋼の竜は上昇する中、太い鍵爪の足が美少年と女を掴んでゆく。響き渡るはウラの美声だ。
「あたしを本当に悪だと思ってるの? お馬鹿さん♪」
「何だとッ!?」
 クヒッと笑うと、眼下を見下す美少女は、己の胸元を指差す。
「本当の悪はおまえ達の中にあるのよ。おまえにあたしが倒せるものですか!」
 崩れゆく天井を突き破り、ドラゴンは舞い上がってゆく。瓦礫が降り注ぐ中、勇者は奥歯を噛み締め、怒りの眼光を向ける意外に術がない。
 小さくなってゆく竜影からウラの笑い声が響き渡った――――。


「‥‥これがアナタの描いた物語なのですね」
 カタリーナは一枚のカードを胸元に当て、瞳を閉じたまま、苦笑交じりの微笑みを浮かべていた。やがて、ゆっくりと瞳を開き、ウラにカードを差し出す。
「このカードは、ウラさんが物語の続きを描く時に使って下さい。カードに記録として履歴が残ります」
「あたしの履歴?」
「はい☆ 今回の場合は、『異形の化物を使役し、国を腐らせたウラ。彼女を倒すべく城に現れた勇者により命を狙われるが、部下の助けで城を脱出』って感じです」
 いいのか? こんなてきとーな履歴で‥‥。
「フフン♪ これでまた好き放題できるのね★」
 流石のカタリーナも苦笑を浮かべる中、ウラはカードを受け取った。微妙な履歴の刻まれたカードを眺め、美少女は何を想うのか。
「それでは、ウラさん、ごきげんよう☆」
 カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、ウラは瞳を閉じた――――。

<新たな世界で再び> <目を覚ます>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3427/ウラ・フレンツヒェン/女性/14歳/魔術師見習にして助手】

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■         ライター通信          ■
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 この度は発注ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 さて、いかがでしたか? 予想以上にNPC加えられますね。何とか文字数の中で演出させて頂きました。それにしても、詳細は描いていませんが、民には地獄のような世界ですね(笑)。流石にカタリーナも苦笑気味でした。でも、悪意のない所がウラさんのポイントってとこかな。巧く表現されていれば何よりです。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆