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<東京怪談・PCゲームノベル>


夏のオワリの怪談話

8月31日22時、草間興信所前。
今回の調査に集まったのは…。
「くそー流伽めー、面倒事押し付けやがって。」
明らかに迷惑そうに、烏丸への恨みを募らせる嵐。
「ところで、キモダマシとは一体なんなのだ?」
日本のイベントに興味津津、ドイツ育ちの火之歌。
「きもだめし、だぞっ。まぁ火之歌は何があっても俺が守るからなー。」
そしてクールにキメた表情とは裏腹に、面白いほど膝が笑っている蓮の3人。
3人が同じ調査に居合わせるのは初めてではなく、とても仲が良い。ゆえに息もピッタリ…のはずなのだが、毎度なにかとドタバタ騒ぎになるのは何故なのだろうか。


火之歌にいい所を見せようと張り切っているらしい蓮を見て溜め息をつきつつ、嵐は愚痴った。
「つか、何故俺まで付き合う羽目になってるんだ。2人で行けば良いのに、いつの間にか面子に組み込まれて…。」
嵐は強い霊感の持ち主なのでこういう場所は心底遠慮したいのだが、『カッコつけたい、けどぶっちゃけ怖い、ってか助けて嵐くん!!』という蓮の半強制な呼びだしに、文句を言いつつなんだかんだ付き合っている当たり、嵐の人の良さが伺える。

がっくりと肩を落とす嵐の顔を覗き込み、屈託のない笑顔を向けるのは火之歌だ。
「火之歌は嵐くんと一緒なの、楽しいし好きなのだぞ★」
さすがの嵐も、このなんでも許してしまいたくなる魔法付き笑顔には、何度振り回されたとてどうにも勝てないようだ。
「こうなったらさくっと調査して、さくっと終わらせるぞっ。」
「了解なのだ★…ってあれ、蓮ちゃんなんか今日ウチマタなのだ?」
「ききききのせいきのせいっ!」
「おい蓮!俺の服掴むなって、伸びるだろっ!」
「冷たいこと言うなよ嵐ぃ〜。」

火之歌による、腰が引けて変な歩き方になっている約1名と、迷路になった時の事を考慮した『全員でお手々繋ぎ大作戦』を嵐は即答で却下したが、蓮の猛烈な願いにより結局決行せざるをえなくなってしまった。
そうしてほぼコント状態な調査が幕を開けた。




「ききもだめしとやらがオハカでやるものだなんて、火之歌聞いてなかったのだぞ!?」
きょろきょろ辺りを見回す度、ツインテールの鞭攻撃にさらされる嵐と蓮だが、蓮の方はそれすらにも幸せを感じていた。
ひんやりとした墓地特有の空気、真っ暗な中ぼんやりと浮かび上がる墓石、何もかもが恐怖を駆り立てていた。

「よし嵐、腰抜かすんじゃねぇぞ☆」
コンパス片手に蓮はサムズアップ、しかしどう見てもへっぴり腰。
「おぉっ、蓮ちゃん珍しく頼りになりそうなのだ★」
悪気なく結構失礼なことを言う火之歌だったが、蓮は全く気にしていないばかりか繋いだ手から伝わる体温が嬉しくて仕方がない様子だ。
そんな蓮が先ほどからパンくずをまいている事に、嵐は気付いた。
「なんだそれ?まさかとは思うけど、ヘンゼルとグレーテルのつもりじゃねぇよな?」
「お、嵐くんいい所に気付いた!ほらよ、迷路になったときの為にっ!」
「…妙なチカラで道自体が変化しちまったら、意味ねぇじゃん。」

どんより、空気が重い。

「あーほら、ソレしまえよ蓮。」
その瞬間、強い横風吹いたかと思うと、ぐにゃりと景色が歪んで見え始めた。
「やべぇ…蓮、火之歌の手離すなっ!!」
「え?」

偶然か、丁度全員の手が放れていたのだ。
次に眼を開けた瞬間には、その場から火之歌の姿だけが消えていた。

「マジかよ…。」
「ひいいのかぁああああっっ?!」
蓮の叫び声が、墓地に響き渡った――。




その頃、一人別の場所へ飛ばされてしまった火之歌は呆然としていた。
灯りもなく、さっきまで繋いでいたはずの手からはもう何も伝わっては来ない。
「蓮ちゃん、嵐くん…。」
こぼれてくる涙を止めることも出来ず、その場にうずくまってしまった。
彼女は独りになる事を、とても恐れていたのに――。
いつも明るいその顔に今、笑顔はない。

「どうかしはった?オナカでも痛いン?」
「そういうわけでは――。」
顔を覗き込んでいたのは一人の少女。黒いおかっぱの髪に、透けるように白い肌。そして白い着物に紅い帯。
いつかTVで見た幽霊の姿に、あまりにも酷似している。
「ほんなら、ウチと一緒に遊ばへん?」
そっと触れた手の冷たさは、まるで氷の如く。火之歌の頭の中に、幽霊の二文字がグルグルと回った。

「に、にぎゃあああああ!!!」



「今の、火之歌か?」
「こっちだ嵐!」
「…なんで解んだ。」
「ニオイ!!」
一体どこの動物だよと思いつつも、火之歌に関して蓮のカンは動物以上に優れているのを以前から知っている嵐は素直についていくことにした。
しかしどう見ても、さっきまで震えていた人間と同一人物とは思えない。



蓮のカンは当たっていた。確実に火之歌との距離は縮まっていく。
「いた、火之歌っ!!」
その姿が視界に入ったその瞬間、また世界がぐにゃりと曲がる。
またか、全員がそう思ったが今度は全員が古い廃寺の前に飛ばされていた。墓地のずっと奥に昔、寺があったというのは聞いたことがある。

呆気にとられていた3人だったが、すすり泣く声ではっと気が付いた。声の主は先ほど火之歌が出逢った少女である。
「な、泣いてはダメなのだ!火之歌ちょっとびっくりしただけなのだぞ?!」
「俺達妖しいモンじゃないからよ、泣かなくて良いぞ?」
全く気付いていない蓮の後ろで嵐は悟る、少女はこの世の者ではないと。
かといって幽霊でも無さそうだが――?
「なんで…なんでみんな遊んでくれはらへんのぉ?」
少女が顔を上げ、わっと泣き出したその時だ。
頭がごろん、地面に落ちた。いや正確には、首が伸びたのだ。



「「ぎぃやぁぁぁぁ!!」」
2人分の絶叫がこだまする。
ひしとしがみついてきた火之歌を護ろうと前には立ったものの、しっかり嵐を盾にしている蓮の姿に溜息をつきつつ、一人冷静な嵐は耳を押さえた。
「あー煩い煩いー。」
しかしこれで謎は解けた。どうやらこの少女、ろくろ首という妖怪のようだ。


落ち着いて話を聞いてみると、ろくろ首の少女は自らをチヅ、正式には千鶴と名乗った。
確かに一瞬チーズと聞こえたのだが、敢えてそれをツッコんで仕舞った蓮が両サイドから脇腹への強烈パンチを喰らって苦しんでいる間に、千鶴の言い分を聞いてみる。

「色んな人が来て、みんな騒いで楽しそうにしてはるから、チヅも一緒に遊ぼ思て声かけたン。せやけどみぃんな逃げてしまうンよ…。」
「だから迷路にして、帰っちまわないようにしたのか?」
「そうなン、堪忍な。」
「火之歌もごめんなのだ…ついびっくりして叫んで。」

しょんぼりしてしまった2名を見て、蓮は即座にカバンから花火セットを取り出した。
「まーまーそんな暗い顔してねぇで、折角だしパーッと行こうパーッと☆」
「何でかい鞄持ってきてんのかと思ったら、そんなものが…。」
こういう状況を苦手とする嵐は、今回初めて蓮が頼りになるなと思った。
元々は火之歌と遊ぼうと思って持ってきていたのだろうが、結果良ければ全て良し。女の子というものは総じて花火が好きなものだ。その証拠に火之歌も千鶴も、華が咲いたように笑顔になっていた。

火を点けてやると、その光を受けて笑顔がキラキラ輝いた。楽しそうにはしゃぐ二人を見て、蓮と嵐は顔を見合わせ笑った。
「千鶴ちゃん、俺達もうトモダチだからな?」
「とも、だち?」
「そうなのだ、もうトモダチなのだ!ね、嵐くん★」
「ああ、そうだな。」
そこで嵐は、ポケットに昼間ゲームセンターでゲットしたストラップが4つ入っているのを思いだした。
可愛らしく女の子向きだったが、何故かその時は欲しくて仕方なかったのだ。今思えばこの時の為だったのかも知れない。
「ん、やるよ。」

嵐はぶっきらぼうに一つずつ、それを配った。
携帯を知らない千鶴は、ストラップがどういう役目をする物かも知らない。不思議そうに眺めている彼女の手を引き、嵐はそれに付いているチャームを全員で合わせた。
出来上がったのは、四葉のクローバー。
「トモダチの証、だなっ☆」
「嵐くん気が利くのだ、アリガトなのだ!」
心底嬉しそうに笑う千鶴の瞳からこぼれる涙は、とても綺麗だった。

記念に写真を撮ろう、とポラロイドカメラを取り出したのは火之歌。
セルフタイマーをセットし、4人並んだ所で蓮が嵐にこっそり耳打ちをした。
「ところで妖怪ってよ、写真に写んのかな。」
「……俺に聞くな。」


出来上がった写真に映し出された全員の笑顔にほっと胸をなで下した時には、0時を回っていた。
「また、遊びに来てくれはる?」
「もちろん、また遊ぼうなー。」
「約束なのだぞ★」
何も言わなかったが、嵐も頷いた。
「ええ友達出来てほんま嬉しわぁ。」
写真とストラップを大事そうに抱く千鶴に手を振り、3人は墓地を後にした。
もう今後、奇妙な噂が立つ事はないだろう――。



帰り道、蓮は火之歌にいい所を見せられなかった、というか終始情けなさ満載でお届けしてしまった事に一人肩を落としていた。
「蓮ちゃん、今日はよく頑張ったのだぞ!」
火之歌は蓮の頬をぷにぷにとつつくと、にぱっと優しく微笑んだ。
「ひ、ひのかぁ〜〜っっ!!」
思わず火之歌を抱きしめる蓮をやれやれと見ない振りしつつ嵐は家路を急ぐのだった。


夏も、もうオワリ。
最後の思い出は相変わらず騒々しかったけれど、それぞれのココロに深く刻まれた。

友達、約束、固い絆、想い合うキモチ。

それはひと葉でも欠けてはならぬ、大事でかけがえのない宝物――。



fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2295/相澤・蓮/男/29歳/しがないサラリーマン
2380/向坂・嵐/男/19歳/バイク便ライダー
2992/棗・火之歌/女/16歳/元)軍人、現)軍装品店オーナー