コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


Track 18 featuring セレスティ・カーニンガム

 …こんな風に落ち着いて飲むのも久し振りな気がしますね。そんな声が聞こえて来たのはカウンター席。貴族的な印象が何処までも付いて来る銀髪の麗人――セレスティ・カーニンガムと、瞳の色を除けばあまり目立つところの無い、やや背の低めな東洋人――真咲御言が並んで飲んでいる。場所はとある落ち着いたバーのカウンター。取り敢えず御言が勤めているバーとは別の酒場になる。…つまり、二人とも客として今この場で飲んでいる。
 とは言え、客の立場であってもそれでも話題となるとどうも酒の方に偏りがちになってしまうのは――片方が酒場に勤めているからか、それとも片方がカクテルの勉強中であったからか。
「…その後、どうですか?」
 カクテルの方。…作り方を教えて欲しいと店に来た時から数えれば、もう半年以上経っている。
 セレスティの方も皆まで言われるまでも無く御言の問い掛けの意味にすぐ気付き、そうですね、と考える風の顔になっていた。
「多少は上手くなったと自負しているんですけれど」
 少なくとも道具を操る手に、見ていて危なげは無くなって来ているようです。…部下の返答からすると。
 直接そう言われた訳では無いですがそう言いたいのはわかりますから。確かに、自分でも慣れて来たなとは思いますし。
 グラスを傾けつつ、そう告げながらセレスティは苦笑。それは例の話を頼んだ後も何度か店の方で同じ件――カクテルの作り方を教えてくれと言う件――に関し取り敢えずの『先生』こと御言とも直に相対している。が、近頃は少し御無沙汰気味で、セレスティは自分の屋敷にあるホームバーで『自習』している事が多かった。そんな訳で、報告。
 その報告を聞いてから、では、と御言は少し考える風の顔をしてからセレスティに提案する。
「この後、うちに来て作ってみますか?」
「…いえいえ。いつもお世話になりっぱなしなのも悪いですから」
 今宵は折角別の店で飲んでいる訳ですし。
 そんなセレスティの答えに御言は苦笑する。
「…悪いなんて事はないですけどね?」
「今宵は飲みたい気分なんですよ」
「そんな気はしてました」
「そうですか?」
「ええ。…俺を別の店に誘っている時点で何となく」
「そう言えば、以前そんな話をしてしまってましたね」
 御自身で勤めてらっしゃる店では客人として落ち着いて飲めないのではないかと。…御言を誘い出す時、セレスティはそんな風に理由を付けた事がある。その時は多少裏があっての発言だったのだが、だからと言ってまるっきりの方便だった訳でもない。
「いつもお気遣い有難う御座います」
「…ってこちらこそいつも気を遣って頂いていると思いますが?」
「それは店のお客様と言う立場での印象が強いからでは?」
 バーテンダーとしてはお客様をおもてなしするのは当然、仕事内容の内ですから、それで気遣われていると判断されると――逆にこちらが気遣われているような気がして申し訳ないんですが。
 御言のその発言に、セレスティはふと停止。改めて隣の相手のオン・オフの態度の別を考え直してみる。
 結論。
「…今とお仕事中とで、君の態度がそんなに変わっているとは思えないんですが」
 口調が丁寧なままであるだけか――いやそんな問題でもない。
 が。
「そんな事は無い筈ですけど?」
 平然とそんな答えが返って来た。
 …いや、そんな事ある。
「私にはあまり変わらないように受け取れますが…」
 何度考え直しても同じなのだが、再び考えつつ、セレスティは呟いてみる。
 と、御言の方も少し考えた後、ぽつりと呟いた。
「…いえ、前言撤回した方が良いかもしれません」
「やはりそうでしょう?」
「いえそうではなく…ひょっとすると仕事中の時の方が容赦無い言動を取っているかもしれませんから。ある意味戦闘態勢と言うか…先程言った事は逆になりそうですね」
「…」
「カーニンガムさん?」
「…あの、酔ってらっしゃいませんよね?」



 酔ってらっしゃいませんよね。その微かな疑惑もまた軽やかに否定され――と言うか「どうでしょう、酔ってしまってるように見えますか」と特に否定するでも無く軽く受け流してにこりと笑っている辺り、逆に酔ってはいないのだろうなと思って良いのだとは思う。思うが――そうなるとこの発言の意味は。
 ひとまず、あまり突き詰めて考えるのを止め、セレスティは今度は自分が今まで試してみているカクテルのレシピについて色々話し出した。ブランデー系のものウイスキー系のもの、ライム等も直接絞ってのフレッシュを使うか市販のジュースを使うかも、作ろうとする物によって変えた方が良いみたいですね――等々、研究の成果を。
「…以前御指導頂きましたマテーニについてもまだ悩んでます」
 ベースのお酒の銘柄選びも迷いますし、ベルモットをどうするかでも悩みますし比率でも悩んでますし。
 少しの加減でかなり変わりますから…ちょうど良いところは何処かと。…辛いだけでも首を傾げますし甘過ぎても同様ですし。
「まぁ、比率ではこの辺りかなと言うところは絞れましたが。…よく言われる四対一のレシピは伊達では無いと」
「熱心に研究なさってらっしゃるようで」
「ええ。一度始めると突き詰めてしまいたくなるみたいで。ある程度狙い通りのものが作れるようになってくると面白いですしね?」
 …とは言え、まだ――これは、と言ったものは作り出せていませんが。
 セレスティのその言葉に、ある程度でも狙い通りのものが作れるようになってきたと言うのは良い傾向だと思いますよ、と御言は微笑む。
 そして、そう言えば、と続けた。
「既に御存知かもしれませんが――こんなレシピもあります」
 と、御言が指折り上げ始めたのは――材料の名前。
 ドライジン、ウォッカ、ホワイトラム、テキーラにホワイトキュラソー。ガムシロップをティースプーン一杯。レモンジュースにコーラ。
 それらをクラッシュドアイスを入れたグラスに注いでステア、レモンスライスを添えるもの。
 すぐに察し、セレスティもぽんと手を合わせた。
「あ、紅茶を一滴も使わないのにアイスティーの味がすると言うカクテルですね? ロング・アイランド・アイスド・ティー」
「はい。紅茶がお好きでしたら、特に面白いと思われるかもしれないと」
「やってみましたよ。…確かに面白かったです。何処の加減で紅茶の味に近くなるのか少し考え込んでしまいましたよ。部下にも飲ませて考えさせてみたり。あ、面白いと言えば――レインボーとかプース・カフェとか呼ばれるものがありますよね、比重の差を利用してグラスの中に色鮮やかなリキュールを何層も重ねて行く、あれにも一時期嵌りました」
 リキュールを変えて様々な色の対比を試してみたり、色が崩れないように注ぎ足すのに熱中してしまって。…ただ、失敗すると物凄く空しいんですけどね。
「確かに。…ですがまぁ…あれも色々と練習に良いかもしれませんか」
「ま、少々方向性がズレてるとは自覚してるんですけどね」
「そんな事は無いと思いますよ。それは確かにプース・カフェだと混ぜはしませんが、それでも立派なカクテルの一つになりますし。それにプース・カフェで色の対比や注ぎ足し方に気が向くのは当然必要な事ですし、別にズレてはいないと思いますけど? …ああ、味より見栄え重視のカクテルだから、って事ですか?」
「そうです。…作っても、味の方で言うならそれぞれのリキュール単体で頂く事になる訳ですから」
「…それでも、違って感じられはしませんか?」
「味が…ですか?」
「ええ。重ねた色合いで、作った時の気分で。そんなちょっとした印象で、案外変わってきますから。…実はこれは以前、作り手にあまり味が左右されない、とお伝えしたブレンドに関しても言えるんですけども」
「…言われてみればそんな気もします。…ですがそうなると何だか、紅茶とも同じような感じなんですね?」
 何か腑に落ちたように頷きながら、セレスティはぽつり。
 と、御言もまた頷いた。
「そうですよ? 結局、嗜好品ですし。ああ、以前からカーニンガムさんは紅茶党と伺っていましたから…そちらから入った方がよかったかもしれませんね? 回り道をさせてしまいましたか」
「紅茶党、と仰いますか」
「…違いましたか?」
「紅茶党と言うか…まぁ、間違ってはいないのでしょうが、私のような者にとって紅茶は日常的にあって当然の、欠かせないものなので…特にそう考えた事はないんですよ」
「…では、失礼な言い方になってしまいましたか」
「いえ。それは全然構いませんけれど。…ただ、少し新鮮でした」
 それより。
「…私を紅茶党と言うのなら…そちらは珈琲党と言うお話を伺った気がしますが」
 セレスティは悪戯っぽく振ってみる。
 と。
「俺に珈琲の話をさせない方が良いですよ」
 …始めてしまったらそれこそ酔っ払いだと思われそうな気がしますから。
 御言からは爽やかなまでにあっさりとそう返された。

【了】


×××××××××××××××××××××××××××
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
×××××××××××××××××××××××××××

 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■1883/セレスティ・カーニンガム
 男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い

■NPC
 ■真咲・御言/バーテンダー。但し今回作中ではお仕事中ではなく客人ですが。

×××××××××××××××××××××××××××
          ライター通信
×××××××××××××××××××××××××××

 いつもお世話になっております。今回もまた発注有難う御座いました。
 今回は――秋の夜長(?)にお酒を交えて色々と――と言う事でしたが、結局飲んでるだけのような状況で御座います…。カクテルのお話も少々してはいますけども。

 如何だったでしょうか?
 少なくとも対価分は楽しんで頂ければ幸いで御座います。
 では、また機会がありましたらその時は…。

 ※この「Extra Track」内での人間関係や設定、出来事の類は、当方の他依頼系では引き摺らないでやって下さい。どうぞ宜しくお願いします。
 それと、タイトル内にある数字は、こちらで「Extra Track」に発注頂いた順番で振っているだけの通し番号のようなものですので特にお気になさらず。18とあるからと言って続きものではありません。それぞれ単品は単品です。

 深海残月 拝