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<東京怪談・PCゲームノベル>


[ 雪月花1.5 迷子はどっち? ]


 がしゃーんと…それは盛大な音が藤郷家の台所から響き渡った。
 続いて声が一つ二つ。呆れた声と謝る声。
 それにしてもこんな量のお弁当、どうするの?と問う母に、彼女はみんなで食べるの!と意気込み、もう後は自分の担当に専念することにした。
 彼女――藤郷弓月が今立つは台所である。恐らく彼女の中で無縁の場所の中の片手には入りそうな場所だ。立つ時といえば食器を片付けに行くときや、和洋問わずそこそこは作れる菓子作りの時くらいだろう。
 ただ今日ばかりは特別、と言うべきか。手伝ってもらって――と言うよりも殆ど作ってもらっていると言うのが正しいのだが……弁当箱にはおかずをいっぱい詰め、準備は大分整ってきた。
 後は自分一人でも大丈夫だろうと、申し訳ないが台所には一人にさせてもらい、残りの作業を終える。
「――これでよし、っと」
 フウッと一息吐くと、手の甲で額を拭った。秋とは言え台所に立っていれば汗の一つは流れる。
「とは言え、問題は待ち合わせじゃないってことなんだよね」
 先日あの二人と別れるとき、いつ会いに行くなんて決めた訳でも、ましてやまた会うなんて約束もなかった。ただ、あの日以来続く洸とのメール。その中で弓月は今日という日がきっといつか来る――と言うことを伝えていたし、それに関して洸も拒みはしなかった。だから、それで良いと思っていた。
「今何処にいるのかな?」
 言いながら机の上に置いておいた携帯電話を手に取り、メール作成画面を開く。
「えーっと、『今からお弁当持って行きたいんだけど、何処にいるのかな?地名とか、何か分かりそうなの教えてねー』っと、送信!」
 送信完了画面を確認すると弁当箱の蓋を閉め、デザートも丁寧にしまうと返信を待つ間に出かける準備を始めた。
 今日は朝から生憎の雨のためピクニックにならないのが残念だが、皆で食べればきっと楽しいだろうと思う。
 なるべく荷物は一纏めにし、動きやすい服装は相変わらずに、まだかまだかと洸からの返信を待つこと数十分。普段ならば翌日や数日後の返信故、今日ばかりは意外に早かったと受け取っておけば良いだろう。
「えーっと何々?」
 開封しながら既に玄関で家を出る準備も万全だった弓月は、傘を差しメール本文を読む。
「『返事遅れて悪いね。ちょっと柾葵がいなくなったみたいでさ。俺は別にいいんだけど…キミは良くなさそうだなとふと考えちゃって、ね。』――……ってえぇっ!?」
 思わず荷物を落としかけ、それを守ろうとすれば傘が傾き。慌てて家の中に戻ると弓月はメールの続きを見た。
「そうそう、柾葵さん探さなくちゃダメだよ……えっと『生憎、今いる場所はまったく分からない。飴も凄いし。さっきまで居た街は分かる。そこから来たに進んでいる。さっきチャイムの音が聞こえた。車はあまり通らない。道も舗装されてない。田舎、なのだと思うよ』、かぁ」
 情報は少ない。さっきまで――と言うのがどのくらい前か定かではないが、聞いたことはある地名が書かれていた。ただ、そこから北に向かった田舎……そんな場所を弓月は知らない。
「でも、合流しないと!」
 荷物を握り締める手に力が入る。踏み出す足には迷いなどなかった。ただ今は、そこへ向かうのみ。
 雨は煩いほどに傘を叩き落ちてゆく。けれど、今ばかりはその音も気にならないほど……意識は他へと向けられていた。



    □□□



「『そこを動かないでね』――か」
 一方手短な返信を受け取った洸は、一旦道を外れ木々の下へと避難していた。
 携帯電話から伸びていたイヤホンマイクを外し、それら全てを鞄にしまう。傘はいつの間にか無くしていた。雨が酷くてサングラスは外し、適当にカラーコンタクトを入れた。
「……来れるわけ、ないじゃないか」
 呟いた言葉は雨音にかき消され、自分の耳にさえ届かない。ただ、喉に感じた震えだけが確かに音を発したと教えていた。
 何もかもが予定外だ…洸はそう考える。柾葵とはぐれた事、それ自体は大した問題ではない。よくあることだし、そのうち出てくるのがいつものパターンだ。しかしこのタイミングで弓月から連絡が入ったということ、それが複雑なところだと思った。
 来れる訳がない。特定の場所が指定されていない場所だ。辺りの景色は根本的に見えないが、気配からして本当に何もない場所だということは洸にも分かっている。
 反芻する。
「来れるわけが――」
 何度も何度も。まるで自分に言い聞かせるかのように。
 しかし、見えていなくても聞こえてしまう。感じてしまう。それはどうしようもないことだと……一つ溜息を吐き、背を預けていた木から一歩前へと出る。
 雨脚は依然変わらず強いまま。いつになったら止むのか、予測不能な今は午後を回り少ししたところだろうか。
「でもキミはやっぱり、有言実行……なのだろうね?」
「へへっ、着いちゃった。って、洸くん、もしかして傘無いの?」
 洸の目の前には傘を振る弓月の姿。片手は荷物で塞がっている為傘を振っているのだろう。一歩一歩洸へと近づいた弓月は、やがて治まる雨脚に空を見上げた。とは言え後ろではまだザーッと響く雨の音。余程木々が雨を遮っているのか。時折落ちてくる雨粒は大粒で、今この場所ならば傘は必要ないかもしれない。
「どこかで落としてきたよ。それより、よく辿り着いたね?」
 感心すべきはその点だろう。すると弓月は嬉しそうに「実はね」と、洸の隣に立ち今までの経緯を話し始めた。
 まず立ち寄ったのは洸に言われた街。此処で数人の目撃情報を参考に後を追うこと数時間。まさにこの天気もあり人通りの無いこの辺りで学校を見つけ、舗装されていない道を歩き続け。途中ただ一人すれ違った老人から、ずぶ濡れの少年があっちを歩いていたと聞かなければ、森の方へと向かっている足跡を見つけることが出来なければ会えることもなく終わっていただろうと。
「……初めて会った時もそれが基といえばそうだけど、本当に大した行動力だね」
「いやー、それ程でもないよ。さて、やっと合流できたんだから柾葵さん探すの手伝うね。行こ? 私の傘大きいから入っていいし」
 洸にすれば褒めたわけでもないのだが、ご機嫌の弓月を見て言葉を呑む。それに弓月からようやく振られた本題だ。そろそろ移動の時間だろうと、洸は木の下から出る。弓月には背を向けたまま、ただ歩みは少しスローペースに思えた。
「俺はいいよ。これ以上濡れても何も変わらないし。弁当、作ってきてくれたんでしょ? そっちを守って欲しい」
 結局弓月はその後も風邪を引くなど心配したが、洸は拒み続けるので諦め、弁当を守ることにする。もっとも、彼女の中ではただただ洸シャイ疑惑が拡大するだけだったのだが――…‥



「取り敢えずこうして歩き出したはいいんだけど、柾葵さんとは携帯で連絡取れないのかな? 闇雲にー、よりも目印になるような場所とかお店とかで待ち合わせた方が良いと思うんだけど」
 先を歩く洸に向かい、雨音に負けぬよう声をあげ弓月は言う。しかしそれは煩いほどに届いていたようで、すぐに冷静な声が返ってきた。
「俺あいつの番号もメールアドレスも知らないよ。それが出来るならこんな事にはなってないと思うし、この辺りじゃ待ち合わせる場所なんてないんじゃないかな?」
「あはは、確かに……学校とか、後は自然物ばかりだもんね」
 しかし今のところ雨であまり良くない視界に映るのはこの畦道と、前を歩く洸の姿だけ。
 それ以上は返らぬ返事に弓月も一瞬押し黙るが、次の話題をと言葉を切り出した。
「二人の旅ってやっぱりこういう事がよくあるの?」
「今回が初めてじゃないのは確かだよ。多分もう少しすればあいつから勝手に出てくるし」
「勝手に……」
 返事はすぐに返ってくる。前を見て先を歩いていると言うのに声もしっかり届く。ただ、会話は予想以上に続かない。
 雨音以外、二人の歩く足音しか響かず。ううっと、それこそ洸には聞こえぬよう小さく唸った声さえも大きく響いてしまった気がして弓月は足を止めた。
「――根性と行動力は割とある……んじゃなかったの?」
「えっ……」
 俯きがちになった顔を上げると、洸も少し先で立ち止まり弓月を振り返っている。そして小さく「いつだかの、メールの話」と付け加え、彼は来た道を戻ってきた。
 滴り落ちる雨水がうざったいのか、前髪を掻きあげると苦笑いを浮かべる。その瞳が蒼く見えた。
「俺はね、話をするのはあまり好きじゃない、と言うか……得意じゃない。もとより、こうして人を前にしていることに慣れてないんだよ。気の利いた話も出来ないし、今だっていつキミは帰るんだろうと思ってる」
 冷たい雨の中。聞こえる言葉は決して温かいとは言えず。ただ、弓月の目の前の顔だけは冷たいわけじゃない。多分、どうしていいか分からない、そんな表情だった。
「ろくな会話も出来ないし、メールだって来たから返してるって、分かってるよね?」
 苦悩している、とでも言うのだろうか。やがて洸は弓月に背を向け、天を仰ぐ。割と低い位置に存在する薄い雨雲は、風に流されあっという間に無くなっていた。雨はもうすぐ止むだろう。そんなことをぼんやりと考えたまま、洸は然程間を置かず続きを言う。
「――キミはそれに気づいているのか。それとも気づいては、いないのかな……」
 フゥッと、項垂れて見えた洸に、弓月は戸惑った。自分の性格は把握しているつもりだ。そして洸にも何度か触れられた事だってある。今回もそんなちょっとしたものかと思っていた。しかし、あまりにも長い前置き。向けられてしまった背中。此処まで口を挟めなかった状況。かろうじて出た「ごめんね……」の声は掠れ、洸に届いたかは定かでない。それでも、弓月は声を振り絞り続きを言う。後で思えばきっと馬鹿みたいに必死だった。
「やっぱ何か色々迷惑だった? だったら遠慮せずに迷惑だーって、言っ――」
「は? そんなこと言ってないよ」
 しかし、洸はそんな弓月の神妙な……真剣な声を振り返りざま平気で遮りケロリと言った。
「…………え?」
 一体何を言われたのか今一分からず、弓月は洸に呆け顔を晒したままでいる。そして遅すぎる答え、彼が本来ここまで遠まわしにしてまで言いたかった事はすぐに返ってきた。
「ただそう言う訳だからさ、キミにまだ根性が残っているなら、悪いけどしばらくこの状態で着いてきてもらうからね。もうすぐ柾葵の居場所が分かりそうでさ。あぁ、喋るなら勝手に喋ってていいよ。取り敢えず返事はするつもりだから」
 そう言うと再び洸は前を向く。
「生憎持ってきてもらった食事を粗末にして、後々柾葵の飢えをどうにかできる状況じゃないんでね。もう、行くよ? 少し急がないと折角見つけかけてるのに又見失うかもしれないし」
 ただ最後。弓月に進むことを告げた彼の声は、今までの声色があまりにも冷たかったせいか――とても暖かく響いた気がした。


 そして歩みを再開して数十分。洸の足取りは今一よく分からないが、確実に何処かを目指しているようには思える。見つけかけているだとか、又見失うかもしれないだとか。本当のところ、居場所が分かっているのではないのかと思うが、今の弓月は彼についていくだけだ。
「――あのさ? やっぱり先を急ぐなら、柾葵さん見つけてそろそろこの辺を出ちゃうのかな?」
「そうだけど、何?」
 歩く早さは変わらず、更に相変わらず間髪も入れず言葉は返ってくる。確かに返答は、彼なりにしているのだろう。
「ほら! そのぉ……」
 そんな彼に今思っていることを言ってどうなるのだろう。返答は返ってこない気がしていた。それでも、自分の中に思い留めるよりは良いと思い吐き出す言葉。


「会えなくなるのは……残念だから」


 一瞬止まったかと思われた前の足音。ただ、それは本当に一瞬だったか気のせいだったか。歩みは変わらず、同じものだった。
「……そう」
 ただ一言だけ返ってきた言葉。無視されるよりはマシかなと、弓月は「うん」と返す。
 何もない田舎道は、歩けど歩けど景色が変わらず。洸と再会したときよりは開けてきたが、未だ視界も悪いまま。そして舗装されていないため、時々水溜りに足を突っ込みかける。歩みの速い洸はどうして泥を撥ねないのか、弓月は不思議でしょうがない。
 暫く無言の時間が続いたと思った。何十分、何時間か……もう気づけば夕暮れも近い頃。
 洸は不意に足を止め、小さく声を上げた。
 つられ見上げた空。傘は真上を向かなくなったが、もう雨粒は落ちてこない。
「わぁ……晴れて、きたねー」
 声は互い、喜びを含んでいたかもしれない。
 弓月は一旦歩く速度を落とし傘を閉じた。見上げたそこには地平線に落ちていこうとする夕陽を見つけ。しかし、歩みはやがて他の何かを捕らえ完全に止まる。
「アレ……多分柾葵さん、だよね?」
 まだかなり遥か遠くに見えるのだが、黒いコートを纏った大きな人らしき影が見えていた。どうやら突き当たり、二本道のどちらに行こうか迷っているように見える。
「……ようやく出てきたね、あの馬鹿は」
 先を行く洸も足を止めた。表情は分からない。それでも、言葉ほど怒っているわけではなく、弓月には少し笑みを浮かべているように思えた。



    □□□



 弓月が作ってきた――と言うよりも、ほぼ作ってもらった弁当は恐らく二人の予想以上のボリュームがあった。
 勿論そこには洸のリクエスト通りの出汁巻き卵が入っていたり、ある程度の野菜もあるのだが、食べやすい調理がしてあったり。弓月手製のデザートが別に数多くあり、更にはそれらとは別で保存が効くものも大量に持ち込まれていた。
「こんなに持ってよくアレだけ歩けたと言うか……付いて来れたね」
 根性や行動力があるとは聞いていたが、まさか此処までとは思っていなかったらしく、そう言われた弓月は「へへへ。でしょ?」と、紙皿にそれぞれの分を取り分けながら微笑んだ。
『美味しそうだ、頂きます』
 そう書かれたメモを柾葵から渡され、弓月は「はい、おかわりもいっぱいしてくださいね」と紙皿と箸を手渡す。その上には大量のおかずが乗せられている。
「あ、それでこっちが洸くんの分ね」
「ん、悪いね……」
 もう夕陽は半分以上沈み、辺りは少し肌寒くなってきた。水溜りは覆い茂るような木々、その緑の間から差し込む夕陽を反射しキラキラと輝いている。
 結局柾葵が迷っていた二本道、その片側を通りわざわざ山を登り神社にやってきた三人は、先程までの雨にもかかわらず濡れていない場所を見つけると、そこに腰を下ろし食事の準備を始めた。と言っても、先頭を切ったのは全て弓月だが。
 案の定弁当の半分ほどが柾葵の胃の中へと移動し、洸もそれなりに食べていた。デザートとなると、さらに柾葵の手は動き、洸は然程甘そうに見えないものに手をつけていく。デザートに関しては十数分でほぼ全てがなくなった。
『美味かった、ありがと』
「うん、美味しかったね。それにしてもキミ、そろそろ帰らないと危ないんじゃないの?」
 フォークを置き口の周りを拭き終えた洸は、弓月を見て言う。柾葵も隣で頷いていた。しかし、弓月は一瞬考える素振りを見せると、スプーンを握り締めたまま洸に言う。
「……ん、私も二人について行こう!って思うから帰らなくてもーって思うのだけど」
「――――――」
「………………」
 弓月の言葉で三人の間には長い沈黙が訪れるが、それを勝手に破ったのも弓月だった。
「あ、理由? それはね、一緒にごはん食べたから!」
「いや、そうじゃないんだよ……仮にそうだとして、どうしてそうなる?」
 右手を額に当て、なにやら考える仕草の洸に弓月は更に言う。
「えー、一緒にごはんって割と特別な事だと思うし、ね?」
「考えが分からないわけじゃない。ただ、キミにはまず共に居るべき家族や居るべき場所があるんじゃないかって……思うんだよ」
 いつの間にか陽は沈み、薄明だけが残る中。互いの表情は曖昧になってくる。
「俺達はもう無くすものなんてなくて、ただ彷徨っているだけでさ。この先何があるかも分からない。女の子だからって括る訳じゃないけれど、安全と言う保証もない。俺に関しては誰かを守れるほど五体満足でもないし……柾葵だって似たようなものだし」
 洸の言葉に一瞬弓月の表情が曇った。一体それはどういう意味だろうと。ただし、こればかりはズバズバ聞いてはいけない事の気がして。洸の隣にただ黙って座る柾葵を見た。
「……柾葵さんも同じ考えですか?」
『俺は、洸が許可するならいいと思うけどな』
 簡潔に書かれたメモに弓月は「そう、ですか」と苦笑いを浮かべてしまう。
「頭ごなしに拒むわけじゃないけど、もう少し今居る自分の環境を考えてみたらどうかな? それでももしついて来るのだと言うなら――」
「大丈夫だよ。私は洸くん達についていっても何とかなるんじゃないかって、そう思うよ」
 洸の言葉を遮った弓月に、彼は今にも「あのね…」と言いたそうな顔で。しかしそれを呑み込み弓月から顔を逸らすと、その横顔は苦悩の表情を見せていた。
 その様子に弓月も思わず黙り込むと、不意に柾葵が折り畳んだメモを手渡してくる。
『おまえって…気楽だなよな。でもその性格で洸にいっぱい相手してもらってて羨ましいな』
「――――ぇ?」
 どうも苦笑いを浮かべている柾葵に弓月は首を傾げた。確かに洸とは性格が逆だとか言う考えはあったが、いっぱい相手にしてもらっている……のだろうか。彼女自身にそれ程の自覚はないが、傍目から見れば今のやり取りは突っ返されているようにも思える。
 思考を巡らせていれば、やがて洸は立ち上がる。視線は二人に向けられることはなく、ただ遠くを向いていた。
「柾葵、行くよ」
 その短い言葉に柾葵が立ち上がる。彼の視線は弓月へと向けられるが、声がかけられる事も手を伸ばされることも、メモを手渡されることもなかった。これで終わり――なのだろうか。そう、弓月にしてはネガティブな方向へと考えたとき、歩き出す二人の足音と共に最後の言葉が聞こえた。
「別にそんな弁当箱の一つや二つ、どうでもいいから来るならおいで。来ないなら置いてくよ……藤郷さん」
「――――っ!?」
 やはり背は向けられたまま。それは相変わらずだった。そして、そんなそっけないのにどこか声が優しいだとか……やっぱり又振り返る柾葵の姿があったり。少し前の別れの時と似た光景はあるけれど、弓月はぎゅっと両手を握り締めると、弁当箱を置いていくのは少し名残惜しいが、目の前の二人に代わりはないのだと言い聞かせ。立ち上がると地を蹴った。

「……うんっ」



 時折撥ねる水溜り。空にはいつしか星が輝きだしていた。三人の行く道をぼんやり照らすまんまるの月。
 ――最後の言葉。それはただ偶然出会った関係上で洸が言った最後の言葉。
 そして向けられた最初は、ただ前を見続ける洸の背中と柾葵の笑顔、ひらひらと誘導するように振られる右手。
 神社の敷地を抜け、階段を下りきると二人との距離は少しだけ縮まっていた気がした。

「二人ともこれからも、よろしくね――」


 声は――届いただろう。
 柾葵は三度振り返り頷いた。
 洸はあの時のよう……ただ小さく手を振った。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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→PC
 [5649/藤郷・弓月/女性/17歳/高校生]

→NPC
 [  洸・男性・16歳・放浪者 ]
 [ 柾葵・男性・21歳・大学生 ]

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、亀ライターの李月です。いつもありがとうございます!
 今回はちょこちょことメールのやり取りを出させていただきました。藤郷さんの性格上、ストーリーは比較的明るく会話重視に進んでいるのですが、今回は途中と後半はシリアス目に……大丈夫だったかなとドキドキしています。
 洸との柾葵探索はいかがだったでしょう? 結果的に洸が探し出した感じですが、無事合流できお弁当も食べられ。ただ揉めに揉めた一幕でしたね。この先どうなっていってしまうのか、全ては藤郷さんの行動にかかってます。さて、今回の洸は機嫌が良いのか悪いのか――一先ずお好きなように解釈しておいてください。
 相変わらず途中離脱可能、今回のような追加シナリオも可能なプレイング次第世界です。同行は決定していますので、もし次回に興味をもたれましたら引き続きこの世界で、よろしくお願いします。
 又、今回何か問題がありましたらご連絡ください。

 それでは又…‥
 李月蒼