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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ユリウスの寝室に猫

「あ? ユリウスがいない? まて、いつもここに来ている訳じゃない……」
 もういい加減にしてくれ、と言わんばかりの態度で答える草間武彦。
 電話の相手は星月麗花である。
「え? なに? 何かまたおかしな事やっているかだと? 馬鹿言え。アレの尻ぬぐいは……」
 麗花の電話に、何か声がする。
 にゃーにゃー
 ふぎゃー!

 何となくであるが……イヤな予感と面白い予感の両方、感じる草間。



 星月麗花の言うことには、こうらしい。
 朝起きると、相変わらず寝坊して起きてこないユリウスを起こしに行くのであるが、その時に部屋には何か怪しい音がするのだ。
「ま、まさか泥棒?」
 と、麗花は思った。
 近年強盗などが多い。教会にも忍び込む事もあるだろう。
 丁度よいところにモップが立て掛けてあったので、其れをもって恐る恐るユリウスの部屋にはいって……
「泥棒! ……って? あれ?」
 何もなかった。
 窓は開いており、夏の熱気がまだ残る風が部屋に入っている。
 荒らされた形跡は、ユリウスの部屋は非常に汚いために、分からない。
 ユリウスのベッドに何か異常なもの(というかいつも異常なことなのだが)、妙な黒い表紙の本と、同じぐらいの黒い猫がいた。
 その猫はどこかで見たような感覚を覚える麗花。

 何となくだが、考えたくないのだが……
 猫の態度がなんとなくユリウスににているのだ。

「猊下? ですか?」
 と、しごく冷静に聞いてみた。
 頷く猫。
「……」
 沈黙が訪れる。
「げいかああ!」
 絶叫とユリウス猫の悲鳴が朝から響き渡るのであった。
 相変わらずの事であるが。


「でー猫に変身したのか、猫と入れ替わったのか調べて欲しいわけか……」
 と、黒い本を渡され、更に黒い猫も渡される草間。
 助けてくれと言わんばかりにゃーにゃー鳴く猫。
「あーもう、喋られないからってうるさい!」
 
 ドアから隠れるように見ている小麦色がいる。
「通訳してくれるのか?」
「いやっぷ……。なんか、楽しそう」
「何のためにいるんだよ」
 溜息がでる草間であった。



〈事情聴取〉
「また要らぬコトをしでかしましたね……」
 紅月双葉は、変わり果てた聖高位職の猫に向かって溜息をついた。
 彼は神父である。色々裏事情を知っているわけだが、ユリウスとは顔見知りである。おそらく星月麗花と同じように、この猫に色々なコトを出来る数少ない人物では無かろうか? 事あれば、完璧な絞め技をこの愚かな猫にしかけるのだという話がある。
「なんか、偉い人がもんだいおこしたってきいたけどよ? これか?」
 何処かで聞きつけたように、黒澄龍が猫の首根っこを掴んだ。
「にゃー!」
 ジタバタする猫。
 しかし、無駄と分かったみたいなのでなすがままのようだ。
「こんな芸当出来るのって、すごいなあんた」
「ふ〜」
「芸当も此処まで迷惑掛けると問題よ?」
 猫を龍から取り上げ、逃げないように猫の籠に押し込めたのはシュライン・エマだ。草間が、麗花から事情を聞いて(というかヒステリーを悪化させて)居る間、彼女が実質このチームのリーダーであろうか?

 猫になったユリウスの行動は余計に難儀だ。最初はパニックを起こしていたようだが、状況を把握してからと言うもの、猫生活を楽しもうとしている。質問に対して、猫語で話すか、シカトするのだ。赤い猫も人語を理解するとしても、通訳が出来ない。
 ただ、雰囲気で、
「私は猫のように生きてみたいと思っていたんですよ」
 と、人を馬鹿にした態度を取るのだ。
 流石にこの猫の動きは太っており、かなり緩慢だった。お腹がたふたふしているほどの黒猫で、逃げようにも逃げる事が出来なかったのだ。
「ほんと、いつも甘いものを食べていた事がその姿になって顕著になったのね」
 苦笑しているシュライン。
「はあ、もう少し考えて行動をして欲しいものです」
 ため息吐いている紅月の上から何か羽ばたきが聞こえた。

 よく見ると、鳥の羽を持ったような人が3人(と1匹)舞い降りた。
「天罰ですわ!」
 リーザ・サフィーネだ。天使のように。しかし彼女は元から天使のようす。だれも、其れに驚く事はないが、ユリウスだけ何か怯えているように見える。
「いつも皆様に迷惑を掛けるから! 主がお怒りになったのですよ!」
「にゃ にゃ〜 うにゃ〜ん」
 怒る天使に対して、耳を押さえて鳴いている猫。
「リーザさん、話を聞いてきたんですね。さて、どうしましょうか?」
 紅月がリーザに訊いた。
「これは暫く原因が分かるまで、猫として聖職の勤めをして頂きましょう」
 溜息をつきながらリーザは答える。
「其れは良いけど、まず解決策を考えなきゃ行けないわよ? 入れ替わったのか、変身したのかどうか」
 シュラインが纏めようとしている。
 それには、リーザも紅月も同意した。龍は地道に何かするという意志を伝えているが、少し離れたところで顔を出し、眺めている例の小麦色を気にしていた。
「ふみ? ……ちゃお」
「何もする気なしか? ナマモノ」
「たぶん……」
「……」

「現場を見る前に、ユリウスさん」
 シュラインは、猫に50音とアルファベット、数字 はい、いいえが書かれたボードを見せた。
「何があったか、教えてくれないかしら?」
 と、聞く。
 籠の中にいる猫は、口笛を吹くかのようにシカトしている。
「猊下……」
「猊下……猫はチョコなどを食べる事が出来ないと聞きますよ?」
 リーザに紅月が猫に言った。
「本当にこいつ、ゲイカって言う、偉い人なのか?」
 龍が疑問に感じ始める。
 猫は、何か考えているようで、籠を開けて欲しいとひっきりなしに動いた。
「中に入っていると動きづらいわね……」
「逃げないで下さいね」
「にゃ!」
「逃げようと思ったのですか……」
「……」
 図星らしい。
 こんなのが、聖職者というのは世の中間違っているだろう。
 猫がボードにのって、たしたしと文字を肉球で押していく。
「い、き、な、り、だ、か、ら、お、ぼ、え、て、い、な、い……?」
「……」
「……」
「げいか……思い出して下さい……」
 リーザが麗花に匹敵するほどの怒りを爆発しそうになるが、それを抑えた。
「こんな調子だと、暫くそのままよね……。まずは現場をみましょう……」
 溜息をつくシュライン。
「この人の部屋は人外魔境ですよ……?」
 紅月が言う。
「興信所よりマシと思うわ。向こうにいる謎生物とか色々遊び倒しているんだもの。散らかり具合は違うでしょうけどね」
 と、苦笑して小麦色をみた。

「ぽ」
「照れるなよ」
 龍が、壁に隠れている小麦色に呆れかえった。


 リーザに猫を預け、シュラインと紅月、龍はユリウスの寝室に向かう。一方、草間は麗花を宥めるのにかわうそ?を使い始める。どういう訳か、麗花とこの小麦色の仲はよいのだ。
 リーザが猫に紐をつけて、見張っている。猫は観念しているというか動く事自体が面倒らしいので、欠伸をしていた。
 そんなときに鳩が、降り立った。
 リーザには分かる。これは変化の類だ。しかし、害はないらしい。
「ふ〜、こんなあついときニ、仕事って疲れル……」
 喋った。
 否、ここは魔都東京、喋る動物が居ても問題はない。
 普通の生活では見かけられないが、こんな不思議事件に関わる者は其れぐらいで驚いてはやっていけないのだ。リーザは気にはしていないが、シスター麗花とマッタリしているイタチなのかミンクなのか分からない存在、混沌か秩序か中立なのか分からないモノがいる事も含めて……。ただ、この鳩が自分並みに大きいカメラを持っているのが不思議と言えば不思議だし、器用に羽根で汗を拭っている。
「やあ♪ 元気?」
 器用に羽根を挙げて挨拶する鳩。
「ええ、こんにちは♪ お仕事って何の?」
「伝書鳩ヨ」
「そうですか」
「その紐に付いているのは……ネコ?」
「はい」
 にっこり答えるリーザ。
「ネコか……今時のネコって…… ねこぉ!」
 鳩は驚き怯えた。
「にゃ?(どうしたんですか?)」
 猫が鳩を不思議に思ってやってくる。
「よ、寄るナ! ワ、ワタシは、オイシくなんかナイ!」
 飛んで逃げる事さえも忘れ、何か命乞いを始める鳩。
「にゃ。にゃ〜! (違いますよ〜。私は人間ですよ!)」
 猫の方も何か弁明している様子でジェスジャーをしている。
「に、ニンゲン! だったら、元の姿に戻れ! そう、 念じるノダ!」
 紐が届かない範囲まで逃げて、ガクガク震えて叫ぶ鳩。
「にゃ〜ん(そうしたいんですけど分からないんです)」
「そ、ソウカ……。それは、こ、こまったナ」
 と、溜息をつく鳩。
「鳩さん、言葉分かるのですか?」
 リーザが聞く。
「む、か、其れは出来ル。其れがドウシタ?」
「この猫の通訳をお願いできませんでしょうか?」
 と、彼女は鳩に頼むと、
「そんな事ならおやすいゴヨウダ……食われナイナラナ」
 最後の言葉がかなり怯えている。
 しかし、猫は其れに応じてくれるかが問題である。
 つまり、猫の一寸した本音をこっそり聞き取る事が重要なのだと、鳩は思った。
「鳩さんの名前はなんですか?」
「白ダ。宜しくお願いシマス」
 天使と謎鳥類の邂逅であった。
「にゃ〜(たべないですよ〜)」
 かわうそ?が、麗花となにやら話していたのだが、白に気付いた。
「じー」 
「そ、そこのコムギイロ! な、何をミテイル!」
 小麦色の視線に気付き、怯えはじめる白。
「麗花、鳩って食える?」
「確か、中国やエジプト、ヨーロッパでは……。しかし、その鳩はそう言った類ではないようですよ?」
 と、麗花が言った。
「た、食べ物ジャナイ! ワタシは食用の鳩じゃナイ!」
「……食材……か……」
「だ……から……、食べないでクダサイ、オネガイシマス」
「かわうそ?さん、違うみたいですから」
「むう」


〈現場検証とその結果〉
 荒れ果てたと言うより、いつも散らかっているユリウスの寝室。其処にはシュラインと紅月がいた。
「片づけが必要なのは確かよね」
「しかし、本人は全て把握しているようです」
 と、話ながら部屋を調べてみる。
 本当に散らかって足の踏み場がない。本が至る所に散乱、服もかなり乱雑。机に至っては本が山と積まれており、どうやって机を使って文字を書くのか分からない状態で、机本来の役目を果たしていない。
 窓を見てみるシュライン。
「足跡がないわね……猫の足跡やユリウスさん自身の足跡も」
「猫だと物音に敏感になるはずですしね……。猊下の事ですから、気が付く……はずですが。それに」
「それに?」
「あの人、寒がりだし暑がり……面倒くさがりだから、滅多に窓を開け放たないんですよ」
 これは、あの本が怪しいと思われる。
 しかし、入れ替わりの可能性はあるだろうと言うシュライン。
「まず二手で考えましょう。私はあの黒表紙の本を調べてみます」
「わかったわ。あたしは入れ替わった可能性を考えて、辺りを調べてみるわね」
 と、2つの可能性を考えるため二手に分かれる事にした。

 まず、シュラインは龍と一緒に辺りを探す。
「人の姿をしているのだったら、見付かると思うけどな」
「猫が人間に入れ替わったなら、動きづらいとは思うけど……。確認、確認」
 と、可能性はあるので聞き込みを開始する2人。
 しかし、パジャマ姿のユリウスらしい存在を見かけたという話はとんと聞かなかった。教会から出かけるときに、白を見つけては一緒に行動することにし、通りすがりの犬やら動物たちなどに聞き込みもしたが、
「何て言ってる?」
「そんなニンゲン見かけてナイトイッテイル……」
 と、収穫はない。
「しかし、龍とヤラ……」
「なんだ?」
「そのコムギイロを近づけないでくれ……」
「かみつかねぇよ。コイツは」
 龍の頭にのっかているかわうそ?を撫でてみる龍。
 噛みつかず、猫のようにゴロゴロ喉を鳴らしていた。
「ごくり」
「ちがう! チガウ! 料理して食おうとシテイルノダ! 頼むからオネガイシマス」
 器用に羽根で人が手を合わせてお願いするようにして懇願している白。
 其れが面白いのか、龍は
「そうか、鳩って食えたのか?」
「一応、食材……」
 と、かわうそ?となにやら恐ろしい会話をしている。
「ヤ、ヤメロ! マジメに仕事してクレ! 通訳しないぞ!」
「それならコイツに代わって貰うだけ」
 と、龍は小麦色を指さした。
「シクシク」
 狩られキャラの宿命なのだろうか? 哀れ白。
「まったく、何遊んでいるの? もう少しまわるわよ?」
 音に敏感なシュラインは、龍達が遊んでいる事に気付いてで怒った。
「何も手がかりがねぇよ」
「困ったわね」
 溜息をつく2人。
「ねぇ、その鳩も分かった事はあるかしら?」
 と、龍とナマモノの魔の手から助けるように抱えて、白に訊く。
「無いナ」
 白は首を振った。
「紅月さんが本を調べているから一度興信所に戻りましょう。その前にスーパーに寄りましょうか」
 と、シュラインが言った。


 興信所では、紅月双葉が黒い怪しい本をパラパラめくっては、顔を顰めた。
「全くこんな異教の術を……」
「にゃん(楽しいでしょ?)」
「楽しくないですよ」
 と、何となく話が通じているようだ。
 草間は麗花に殴られた箇所を自分で消毒している。
「腐れ縁という奴か?」
「まあ、そうですね」
「にゃ〜」
 ユリウス猫は籠の中でとてもくつろいでいる。
 見ている方はとても腹立たしい。リーザが彼を抱っこしようとすると、逃げる。逃げまどうので、紅月が結界に閉じこめた後、籠の中に入れている。それをリーザが大事そうに持っている。

 先に、白が戻ってきた。
「やあ、通訳するゾ」
 彼は窓を器用に開けて、中に入る。誰も驚きはしない。
「シュラインさん達はどうされました?」
「あと、10分ぐらいで戻ってくるカモ。ああ、買い物してからだから時間がかかるカ」
「そうですか」
 と、白が言った。
 シュラインが戻り、その後と言えば、一日で解決しそうにない事が分かった。シュラインが簡単な食事を作って、後々お菓子の下ごしらえと、一度は解散する方向になる。
「大体の事は分かりました」
 その前に、双葉が解読するには……こうだ。
「これは、呪いの本ですね。或る特定の人物・存在が読むと黒猫になるようです」
 と。
「あら……」
 と、リーザは溜息をつく。
「ご存じだったのですか?」
 そして彼女は籠の猫に訊く。
「にゃ? にゃ〜ん……」
 猫の反応は何か怪しい。
「その猫は『エジプトの宗教学書と思ったら……こうなった』トカ……イッテイル」
 白が通訳する。
 一同溜息。
「解呪方法、猫になる特定人物・存在はどういったものかは、私の家にて調べます」
 と、紅月がそう言った。
「双葉ちゃん……」
「……な、なんですか?かわうそ?さん」
「手伝う……」
「い、いえ、お気持ちだけで。危険がありますので」
「そう……残念」
 残念そうなかわうそ?
 問題はユリウス猫の行き先だが、興信所に置いても解決にならなさそうだし、今の麗花の前に置いてもあそこの教会がややこしくなる。どうしようかで、悩むところだったが、
「私が預からせて頂きます。紅月神父、其れに皆様宜しいでしょうか?」
 と、リーザが言った。
 ユリウス猫が総毛立ったのは印象的であった。その夜の事が、彼にとって退屈で恐ろしいものと察したのだろう。それは、シュラインや草間、龍も白も苦笑するしか無い。
「明日どんな風になっているか……目に見えて分かるな」
 草間が言うと、
「そうね……今日より協力的になると良いのだけど……」
 と、シュライン。
「ホントに偉い人なのか?」
 やはり龍は信じられないようだ。
「私は鳩なので分からないや」
 と、白。

 麗花のいる教会ではなく、紅月の居る教会にて、ユリウスは滅多にしない一日を送った。つまり、猫で出来る範囲で、紅月とリーザ、監視の元、教会の勤めを行わされたのだった(あるとすれば祈りか説教を聞く程度だろうが……)。



〈数日後〉
 教会の礼拝堂に一同が集まった。紅月が本の呪いを解読し、
 其処にはリーザからずうっと説法を聞かされたのか、ゲッソリになっている猫がいた。足取りもおぼつかない。
「これに懲りて欲しいものだな」
 草間がぼそりと言う。
 否定する者は居なかった。
 シュラインや龍は色々差し入れらしいものを持っており、大きな鞄に其れを入れている。中身は今の状態ではあまり分からないが、何となく察しが付く。甘い香りがするのだ。
「呪いの本でも、カモフラージュする類みたいです。そして高位の聖職者や天使、人間ではエクソシストや聖騎士、枢機卿以上の者に猫にする効果を持つ術のようです……」
 と、双葉が言った。
 何故、聖職者である彼がその呪いを受けないのか疑問が出るだろう? 彼に過去の出来事により効力が薄れているのだ。これもまた皮肉である。その悲しい過去は、時として彼の命等を救っているようだ。
「ああ、お、恐ろしい本を手に入れるとは! 猊下……」
 リーザは落胆している。
 しかし、何故その手の術に詳しいユリウスがこうなったのか? が疑問に上がる。
「高位存在になるほど、隠蔽能力が高くなる術を施しているみたいです。全く、注意して欲しいものです……」
 籠の中の猫は、ゲッソリとしているが、反省の色はない模様だ。
「ユリウスさん」
 シュラインがユリウス猫を呼ぶ。
「にゃ……?」
「今回は、事故だし、戻りたいの?」
「な〜ご にゃ…けふけふ … にゃ〜!」
「『流石に数日間……拷問の ゲフゲフ はい、戻りたいですねぇ』とイッテイル」
「そうね……紅月さん、戻せるかしら?」
「ええ、何とか其れは可能ですね……」

 と、双葉は聖水をはじめとする術道具に祭壇に本を置き……燃やし始めた。
「にゃ〜!」
 猫が暴れ始めた。
「『大事な本を!』って、オマエ! 猫のままでイイノカ!」
 白が、鳩のままで裏拳ツッコミする。

 本が燃え尽きたあとに、猫のユリウスの身体が徐々に人間に戻った。ナイトキャップとパジャマ姿であった。
「あ〜! 大事な本が! なんてことを!」
 しかし第一声がこれである……。
 反省の色がない……。
 全くない。
 ここで、麗花が居ない事……。それが騒動拡大にならずに済んだ事が、不幸中の幸いであるだろう。紅月と、リーザは青筋を立て、ナイトキャップにパジャマ姿の似非枢機卿をはがいじめする。
「ユリウス……」
「猊下……」
「な、なんですか? あ、まってください……久々に甘いものを食べたいです……ああああああああ」
 と、2人に礼拝堂から奥の方に連れて行かれるユリウス。説教の大きな声なども考えて、懺悔質の方らしい。
「おろかだな……」
 草間がまたも溜息をついた。
「差し入れで、お茶会は後のようね……」
 と、苦笑するシュライン。
「おろかぶ……」
「本当に偉い人なんか? あいつ……」
 かわうそ?と龍が呟いた。
「ところで、報酬とかはどうするんだ?」
 龍は、そう草間に訊くと、
「其れは決まってんだろ? ユリウスから払って貰う」
「そうなるけど……滞納が多いわよ 彼?」
「そうだった……」
「オイオイ……」


「本日もへいわ……。さて、麗花、呼ぶ……」
 いつの間にか教会からでた小麦色が呟いて、麗花を呼びに言ったようだ……。


End


■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1535 黒澄・龍 14 男 中学生/シマのリーダー】
【3747 紅月・双葉 28 男 神父(元・エクソシスト)】
【3843 白・且羽時 17 男 伝書鳩】
【5344 リーザ・サフィーネ 24 女 菓子職人・フリーター】


■ライター通信
どうも参加ありがとうございます。
滝照直樹です
ユリウスはこれからも皆さんに迷惑を掛ける事でしょう……彼が更生するのは何時になる事やら……。

紅月双葉様、白且羽時様、リーザ・サフィーネ様初参加ありがとうございました。

ではまたの機会にお会いしましょう。

20050913