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【 Give me Dango! 】
「あー…良い月ですねぇ」
自宅の縁側に座った宇奈月・慎一郎はのほほんと呟いた。
時は中秋の宵、慎一郎の目の先には名月。
見事に真ん丸な月が、空にぽっかりと浮かんでいた。
その月に照らされながら、総一郎は思いを馳せる。
しかし、おでん好きの慎一郎の事だ。
真ん丸な月を見て、おでんの具材――バクダンや大根、ガンモ等――を思い浮かべるかと思いきや
「…団子が食べたい」
―――と、珍しく別の食べ物の事を考えていた。
さて、一度団子の事を思うと止まらない。
食べたくて仕方がなくなってくるのだ。
頭の中が団子でいっぱいになる。
三色団子、みたらし団子、団子団子団子。
串に刺さった団子が頭の上を飛び回る。
「決めた!」
慎一郎は何かを決断したように大きく頷く。
もう今日は何が何でも団子を食べようと、家の中を探した。
しかし、いつもはおでんを愛する身、家の中に団子の姿は見えない。
「こうなったら買いに――!」
My財布を持って外に飛び出そうとするも、ちらりと見た時計の針は12時を指している。
こんな時間では、大抵の団子屋は閉まっているだろう。
「じ、自分で作るとか――」
どたばたとキッチンを探る。
しかし、団子もないのに上新粉があるはずがないのである。
「のぉおお〜」
ぐったりとへたり込む慎一郎。
あぁ、団子!
私に団子を!
Give me Dango!
――と、ぶつぶつと一人で呟く姿はちょっと、というか、かなり不気味である。
錬金術で作ってみようという考えが頭を過ぎったが、すぐさま振り払う。
最近、錬金術で酷い目に会いっぱなしで少々懲りていたからだ。
「どうしましょう〜…」
今のところ団子を食べる術はない。
とは言っても、団子を食べずには気がすまない。
そんな板ばさみに悶々とする中、虚ろに視線を這わせる。
「―――ん?」
その視線の先に映ったもの――自分のノートパソコンを見て、唐突に思いついた。
「調達できないなら調達させればいいじゃない!!」
ひゃっほぅと慎一郎は立ち上がった。
今思いついた名案(?)を実行しようとパソコンにスイッチを入れる。
――ヴゥウンっと音を立て、パソコンの画面が光る。
そこに慎一郎はキーへと指を這わし、カタカタと何かを打ち込む。
瞬間、画面には魔方陣が浮かび上がる。
「出でよ!【深きもの】!!」
カッと画面から強烈な光を伴って何かがパソコン画面から飛び出す。
頭が魚で体が人、飛び出したような眼は瞬きをせず、背は鱗に覆われていた。
【深きもの】――クトゥルフ神話に出てくる奉仕種族である。
「よし、【深きもの】よ!私に団子を持ってきてください!今すぐに!」
【深きもの】の不気味な姿にも躊躇うことなく命令というか、おつかいを命ずる慎一郎。
「…………」
ぎょろりと目を動かした【深きもの】は、ぴょんぴょんと跳ねるような動きで団子を求めて旅立っていった。
「さて、こっちも準備しましょうか♪」
その後姿を見送った慎一郎は、月見の準備に取り掛かる。
まずは、庭に生えていたススキを刈り、手頃な花瓶に入れて縁側に置く。
それだけでぐっと月見な感じが増した。
「あとは……」
皿と――と、確認するように呟きつつ食器棚を漁る。
そして食器棚から団子を置く様の皿を取り出し、縁側に置く。
コレで後は団子が来るのを待つのみである。
「早く団子きませんかねー♪」
のほほんと慎一郎は暢気に呟いた。
――その頃。
団子を求めて跳ね回っていた【深きもの】は、慎一郎家の近くにある海へと辿り着いていた。
「………」
海をジーっと見つめる。
「−−−−−!!!」
唐突に――そう、まるで何かを呼ぶように、【深きもの】は海に向かって叫んだ。
その途端―――。
「★@Д△□!?」
「ёЩЕЧБ!!」
「Я&☆Х!!」
ザバーッ!っと海水から飛び上がる3つの影。
「−−!−−!!!」
その影達に【深きもの】は海からでも見える慎一郎の家を指差し、何かを言ったらしかった。
影達はその言葉(?)に頷き、慎一郎の家へと向かっていった――。
「団子、まだですかねぇ…」
少し時間が経ち、焦れた様に慎一郎は時計を見た。
早く団子が食べたい。
折角の名月なのだ、月を楽しみながら団子を食すのも中々風流だろう。
「あぁ、団子、早く団子を!」
ゴロゴロと悶える慎一郎。
と、そのとき、びたんっびたんっと足音というか地面を跳ねる音が聞こえてきた。
「おぉ、お団子を持ってきてくれました……か?」
「@Д☆Я!」
「ЧБ※★!」
「£Э%℃!」
硬直する慎一郎の前で、三者三様というように一斉に喋りだす3つの影。
ちなみに言葉は何を言ってるのかさっぱり分からない。
しかし、そんな事を気にせず慎一郎は信じられない物を見たように呆然としている。
慎一郎の目の前に現れた3つの影――3匹のダゴンであった。
【深きもの】の主、ダゴンが3匹、仲良く並んでいる。
団子ならぬダゴン、ちょっと惜しい。
「………」
ごくりとダゴン3匹を目の前に、慎一郎は息を飲む。
そして、ゆっくりと口を開いた――。
「こ、これぞまさしく―――ダゴン3兄弟!!!」
お後がよろしいようで。
【END】
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