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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


東京メトロ



ピッ・・・ピッ・・・
ほんのりと光を放つ、異界との扉。
まるで生き物のように時折音を立てるパソコンのモニターにはには不思議な言葉が浮かんでいる。

「はじめまして、こんにちは。僕は今、助けを求めています。
僕は電車に乗っています。僕は電車をやめたいのに、やめられません。
誰かが邪魔しています。お願いです。誰か助けてください。」

普段なら、他の投稿に埋もれてしまうような意味のわからない書き込み。
だが、それは不思議と人をひきつけた―――


梧北斗は、いつものように行きつけの掲示板を眺めていた。
掲示板の名は「ゴーストネットOFF」―――
世に言う怪奇現象の実例が書き込まれるとか言う掲示板だ。
幼い頃から怪奇現象によく見舞われてきた北斗にとって、こうした掲示板は興味深いものだった。
怪奇現象、とは言ってもパソコンの向こう側のことだ。怪奇現象というものは自分となんら関係ない場所で起これば素敵な刺激となる。
そのため、ちょっとした野次馬気分でこの掲示板を覗くのが北斗の楽しみであった。
(面白い書き込みでも無いかな・・・)
と、何気なく見たコメントに、北斗は妙にひきつけられた。
「なんだこれ・・・?」
そこには、不思議な言葉。

『僕は電車をやめたいのに、やめられません』

他の書き込みとは違い、稚拙にすら思えるその文章にはなぜか危機感がこもっている。
北斗はその書き込みをもう一度じっくり読み直し、考えをめぐらせた。
(電車をやめたいのにやめられねーってことは何だ?本当はやめる気がないのか?いや、ちげーな…何かがそいつを引き止めてる…霊、か…それとも―――)
「ええい、考えてても埒があかねぇか」
がたり、と音を立てて北斗は椅子から立ち上がった。近くにあった紙を掴むと、掲示板に書かれている情報を書き写す。情報提供者の場所らしき項目を見つけると、大きな字で殴り書く。
(幸い場所は近そうだし―――)
手にした紙に書かれた「T京都S並区9丁目旧サンライズ地下道」。ここからはそれほど距離は無い。用心のために氷月を手にする。
「あとは、行ってから考えるか」
そう呟いて、北斗はパソコンのスイッチをオフにした。

「ここかぁ・・・?サンライズ地下道とか言うのは」
そう言う北斗の目の前に広がっているのは、黄色と黒のテープで封印された空虚な暗闇だった。工事中だったのか、そこらには目立つ色の機材が無造作に置かれている。
「で・・・どーすりゃいいってんだよ」
手にしたメモに目を落とし、北斗はため息をついた。勢い勇んで出てきたものの、先の事はこれっぽっちも考えていなかった。これもひとえに猪突猛進な彼の性格のせいだろう。
「・・・地下道なのにサンライズってのが納得いかねぇんだよ。地下には太陽は昇んないっての」
「ごもっともです」
ついつい呟いた文句への返事に、北斗は振り向いた。先ほどまでは人の気配がしなかったと言うのに、いつの間に―――
驚く北斗の目の前にたたずんでいた者―――それは、目を回した女子高生と不敵に笑う長身の男だった。

「・・・へえ、あんたたちもあの掲示板を見て?」
「ええ。面白い書き込みでしたので、興味を持ちまして。私もそっちの仕事をしているものですから」
長身の男と肩を並べて、北斗は地下道を歩いていた。男は用意がいいらしく、懐中電灯で足下は照らされている。
男の名前は久地楽クロウ―――どうも探偵らしい。とは行っても、普通の探偵とは違うようだが。目を回していた女子高生は御厨アザミ。彼女は北斗達の数歩後をついてきている。見た感じ役に立たなさそうだが、それでも彼女はけなげについてきている。
北斗はちらりと久地楽に目をやって、先ほどのことを思い出していた。
突然現れた二人組みは、妙に朗らかに北斗に絡んできた。どうも掲示板を見てやってきたらしいが、ここの情報について詳しいらしい。
『ここであったのも何かのご縁です。ご一緒しませんか?』
情報もなく、考えもなかった北斗はそう言われてつい首を縦に振ってしまったが、この二人組み、いかにも怪しい。警戒は必要だと思いながら、北斗は黙々と歩いていた。隣では久地楽が地下道について語っている。
「この地下道は―――元々は近隣のビルを行き来するために作られたものでしたが、地下鉄の駅をここに増設しよう、という話になったらしく、現在は工事中だそうです」
「へえ、詳しいな、あんた」
「ああ、調べましたから」
なるほどそれで電車なんだな、と少し納得しつつもいまだにあの書き込みの全容は見えてこない。妙な話だ、と思いながら、北斗は歩みを進めていた。
相変わらず暗い地下道は工事が中途半端なままで残されている。見える範囲では出来上がっていても、舗装や塗装にムラが見える。これが家なら手抜き工事と言われているだろう。
「しかし、何でこんな中途半端に工事を止めてんだ?もうちょっとで完成しそうなもんなのに・・・」
「さぁ?そこまでは私には分かりませんが・・・答えはすぐそこにありそうですね」
その呟きに反応するかのように、遠くで不思議な音がした。彗星のように長く尾を引くその音は、どこかで聞いたことのある音だ。
「この音・・・」
「電車の・・・警笛?」
立ち止まった北斗達に追いついたアザミが、耳を澄まして呟いた。その音はどんどんこちらに近づいているようだ。
「おいでなさったようですよ。『答え』が・・・!」
もう一度、警笛が大きく鳴り響いた。警笛の音とともに、地下道は光で満たされていく。
「おいおい、電車って・・・これかよ・・・!」
見違えるように明るくなった地下道は、近代的でスマートな造形をしている。そしてそれとは対照的に、目の前に現れたのは、走っているのが不思議なくらいの朽ち果てそうなボロボロの電車―――それはどう見ても、この世の物ではない。あの世とこの世の境にあるものだ。
「なるほど、こいつが工事の邪魔をしてるってことか・・・」
「どうやらそのようです。おや―――歓迎されてるみたいですよ」
電車はきしむドアを開いて、不気味に光る車内へと北斗達をいざなう。
「どうされますか、梧さん」
「いくしかねーだろ。ともかく」
どうりで妙な書き込みだったわけだ、と思いをめぐらせながら、北斗達は電車に乗り込む。
電車は三人を飲み込むと、満足そうに扉を閉じた。

「・・・なるほど、こーいうことか」
車内を見渡しながら、北斗は呟いた。
扉を閉じた車内には、奇妙なモノが張り付いている。アメーバのようにうねうねと蠢くそれは時折「ギィ」と鳴いている。
「な、何これ・・・気持ち悪ッ・・・!」
アザミの言葉に反応するかのように、アメーバ状のものは蠢いた。どうやら大きな塊を成そうとしているらしい。
「こりゃ九十九神だな。しかも相当でけぇやつだ・・・。電車に取り付いて工事の邪魔してるのはこいつらか」
「ほう、よくご存知で」
「まーな。おれもそっちの仕事やってっから」
ぎゅぐぎゅぐと奇妙な音を立て、九十九神は大きな塊を形成している。
九十九神とは様々な残留思念が凝り固まって出来たもので、物に取り付いて悪さをするという低級な魔物である。低級とは言っても、これほどまでに巨大になると面倒な事になるのだ。どうやら一番大きな塊にはすべてをまとめる中心核があるようだった。それを破壊すれば、九十九神は散り散りになって消えるだろう。
北斗の言葉に、久地楽はにやりと笑みをこぼす。
「ならば話は早い。さっさとこんな雑魚は消してしまいましょう。私は周囲の雑魚を―――梧さんは、核をお願いします」
「ああ、望むところだ。一発でしとめてやるよ」
そう言うと、北斗はアザミをかばうようにして手にした氷月に気を込めた。久地楽の気もそれに呼応するように高まっているのを感じる。
「同時に行くぜ!」
「いいだろう、貴様のタイミングに合わせてやる・・・!」
久地楽の言葉遣いに違和感を感じたが、今はそんなことにかまっている暇は無い。
狙いを定めて、集中して―――
「行くぜ!」
掛け声とともに閃光が走る。
光が九十九神の核の中心を射抜いた瞬間、車内の空気は一瞬にして穏やかになった。

「わ、なんか全然違うね」
九十九神の消え去った車内を見回してアザミが驚きの声を上げた。
それもそのはず、車内は光に満ち溢れんばかりに輝いていた。おんぼろなのは代わりが無いが、今までの陰気な空気から清らかと言えるほどの清浄な空気に包まれている。
「電車はあの世とこの世をつなぐと云われている。この電車・・・どうやら神界へ行くようだな」
「だから九十九神が取り付いて一緒に行こうとしてたのか・・・」
久地楽の言葉に、北斗はあの書き込みのことを思い出していた。
電車をやめたいという少年の書き込みは、この電車のものだったのだろう。目的地につけず延々と地の底を回り続ける苦しみから逃れたい―――そんな思い出、この電車は助けを求めたのかもしれない。
三人が辺りを見回してると、突如車内のドアが開いた。
現れたのは薄ぼんやりとした輪郭の少年だ。不思議な雰囲気の少年は、にっこりと笑うと唇を動かした。
「あ・り・が・と・う―――?」
北斗が唇の動きに合わせて言葉をつむぐと、少年は満足したようにすぅっと消えた。
「お、おい!話が―――」
北斗の静止に答えるように、もう一度電車の警笛が響き、ドアが開いた。三人は出口に導かれるように、車内をあとにする。
振り返ると、今そこにあったはずの車内は徐々に希薄な存在になっていき、最後にはとうとう目の前から掻き消えていった。

「あの電車、行けたかな、神界」
地下道の暗闇とは対照的な、抜けるような青空を仰いで北斗が呟く。
なんだか何一つとしてはっきりしない、ふわふわとした気分だ。まるでまだ電車に揺られているようである。
「ん・・・?・・・ねえ、見て見て!」
急に声を上げて北斗の肩を揺さぶるアザミに驚いて、北斗は躓きそうになる。
「ほら、あれ!」
そういってアザミの指差した空には、レールのように空に続く雲と、その上を走るまぶしい光があった。
ホームですれ違う人々のように、一瞬の出会いだったけれど―――
「よかったな」
北斗の言葉に答えるように、遠くで小さく警笛が鳴った。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5698 / 梧 北斗 / 男性 / 17歳 / 退魔師兼高校生 】
【NPC2989 / 久地楽クロウ / 男 / 999 / 魔界探偵】
【NPC2990 / 御厨アザミ / 女 / 17 / 高校生】

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■         ライター通信          ■
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どうも、花鳥風月です。納品が遅れてすみません・・・。
今回は退魔よりもそこへたどり着くまでの物語に重心をおいて描いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
北斗さんの若いがゆえの猪突猛進っぷりが、少しでも描けていれば幸いです。
では、これにて。