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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


闇公爵

●お届け物は闇の悪戯
 草間武彦は一枚のチップスを眺めていた。時折、ひらひらとその裏を眺めたりひっくり返したりしているのだった。
 薄桃色のそれを眺め、深い溜息を吐く。テーブルの上には武彦宛に送られてきた小さな小包の箱がある。その中にこのチップスが入っていたのだった。
「兄さん、何ですかそれ?」
 零は不思議そうにすることもなく、兄の行動を見つめていた。
「元人体の一部」
「え?」
 さらりと言った兄の言葉に零は思わず目を瞬く。
「梅味のポテトチップに見えますが」
「俺もそう思いたい」
 深い溜息をつき、武彦はぽつりと言った。
 そして、中に入っていた手紙を開くと、じっとそれを眺める。
「ミイラねぇ……悪趣味な」
 箱の中には可愛らしい小さなブーケとバラバラになった人形。そして、数枚のチップが入っているのだ。夢であったら良いのにと武彦は思う。
「お人形……何で入ってるのでしょう?」
「人間だってよ。戻したかったら、ちょっと調べてみれば人間に戻るって書いてあるな」
「……」
「本当かどうかわからないけどな」
「宛名は誰なんですか?」
「マリィヴェール・ベルゼビュート=ハーヴェント。聞いたことある。何かの雑誌で見たような……随分と前だからうろ覚えだけどな」
「私は知らないですね」
「何かでちょっと読んだだけだったからな。さて、やってみるか」
 武彦はやおら立ち上がると、机の上にある電話に手を伸ばした。

●捜査
「人形にブーケ、それに……チップスねぇ」
 いったい誰かと思って電話に出れば、掛かってきたのは草間興信所。別にこれから用事があるわけじゃなし、俺は一も二も無くOKすることにした。
『学校帰りに悪いんだが、ちょっと寄ってくれないか?』
「べつにかまわないぜ。丁度、近くの商店街に来てるところだし」
『悪いな』
 そう言って向こうは電話を切った。
 しばらく歩けば見えてくる古いビルには小さな看板が見える。
――草間興信所
 俺の仕事場にして、俺の遊び場――なんて言うと何しに来てると言われそうだ。でも、結構居心地良くて気に入ってる。お茶は出てくるし、お菓子もたくさんあるし。おかしなものがたくさん出てくるし。調査書なんかも面白くて、暇な時には読んでいる。
 まぁ、そんなわけで俺の放課後ライフは薔薇色じゃなくても、そこそこ楽しめるものになってるわけだ。 
 俺は学生鞄をぶら下げて、反対側にビニール袋を持った手でドアを開けた。
 草間興信所からの電話を受け早速お邪魔……じゃなくって、事件解決のために出向いた俺は、さほど深刻に考えていたわけでもなく、実物を見てさらに困惑した。
「こ、これが元人間? 冗談だろ?」
 そう答えるしかなかった。
 だってそうだろう? どう見てもただのモノだ。
 俺の能力をもってしても何も感じない。
 薄桃色のチップはサラミみたいだし、元人間っていうもんだって、人形にしか見えない。
 ただ……
 ただ、その人形にしか見えないというのが問題なんだ。なまじ、人間に酷似しているから始末に終えない。人間をそのまま小さくしてしまったようなそんなものが余計に異様だ。鋭利に切られたそれらは箱の中にころんと転がっている。
 買ったら高そうな、可愛らしい花束が入っているのも奇妙だった。と言うより、悪趣味だ。
「ちーっと気になったんだけど、その宛名のベルゼビュートってさ」
 何となく聞き覚えがあった。そう……ベルゼビュート=ベルゼブブ。蝿の王とも言われる――悪魔だ。
 俺だって詳しくは知らない。
 本棚にあったそう言った事柄に関する辞書(こんなのあるから怪奇探偵とか誤解されるんだよ!)を取り出し、その項目を開ける。

【ベルゼブル、あるいはベルゼブブ】
 そうと称させるこの悪魔の本来の名前は、バアル・ゼブル(Baal-zebul)。
 ヘブライ語で「高い館の王」を意味し、この名称がソロモンを連想させることから変更される。
 バアル・ゼブブ(Baal-zebub)
 つまりヘブライ語で「蠅の王」を意味する言葉に置き換えられたとされ、もっとも危険な悪魔信奉者はベルゼブブと呼ばず、フライマスターと呼ぶことがある。

「もしかして、その人形……悪魔とかって言うんじゃねーだろーな?」
 俺はその項目を見せて言う。
 だけど、それだけではわからない事ばかりだ。
 誰かの悪戯に見えなくも無いし、ブーケがキーなのか、チップスがキーなのか……全然わからない。
 もし本当だとしたら、どうしたら戻るんだろう?
「あーもー! わっかんねー!」
 ミイラって言葉も気になるし……とりあえず……
「その人形組み立ててみねー?」
 俺はそう言うしかなかった。
「…………」
 武彦はじーっと俺を見る。
 そして人形に視線を戻し、「アロンアルファで?」と言った。
「…………」
 今度黙ったのは俺だ。
 俺はそれらの切り口を見た。
――うっわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 滅多にお目にかかることも無い、モノホンの切り口に俺の思考は停止状態。
「ごめっ、言った俺が悪かった!」
「いや……ふつー考えるよな」
「うんうんうんうん」
 こくこくと何度も俺は頷く。
「でもさぁ、何か他に資料とか無いのか?」
「うーん、俺の記憶ではなんかの雑誌で見たことあるような気がするんだよな」
「だったら、調べりゃいいじゃん!」
 俺は突っ込みを入れると資料の棚をひっくり返して片っ端から読み漁った。こんなに集中したのは初めてだ。あっという間に時間が過ぎて、終電まであと一時間っていうところまできていた。
「うっわ〜、すげぇ時間!」
「すまないな、こんな時間まで」
「俺が読み漁ってただけだし」
「じゃぁ、もう帰って明日にでも……ん?」
 武彦が言った瞬間、電話が鳴った。
 懐かしくも煩い黒電話の音に、小さな緊張の余波が広がる。
 ゆっくりと武彦が受話器を取ると、情けなくも緊張感のない声が俺のとこまで聞こえてきた。絶対、向こうで絶叫してるよ。
『草間さぁ〜〜〜〜〜ん!』
「うるさいな!」
『だってぇ、だってぇ!』
「男だろ、泣くなよ」
『だって、へんしゅうちょーが……こんなヒドイ調査に行けってー!』
「三下、俺の耳元で叫ぶな!」
 武彦が言った一言で、相手がだれなのか俺にはわかった。月刊アトラス編集部のさんしたこと、三下だ。
 どうやら困って電話をかけてきたらしいけど、どうもこっちの資料を借りたいということも言っていたようで、武彦がそんなこと言っている。帰りにあやかし荘に行くみたいだ。
「ところで三下。マリィヴェール・ベルゼビュート=ハーヴェントって知ってるか。は? 知ってる? おい、泣き出すなっ! 何があったんだよ!」
 長々と何か言ってるのが聞こえ、俺は知っていそうな三下の会話が終わるのを待つ。
「なにィ!」
「え?」
 突然の武彦の声に、俺は目を見開いた。
「お前のところの記事だったのか!」
「え?」
 その言葉に俺は顔を上げた。
――なんだとぉ〜〜〜〜〜〜! 先に言えーッ!
「ちくしょう、そう言う……そう言う資料があったんだ」
 俺はあんまりな真実に力が抜けた。
「じゃぁ、三下。これからそっちに行くからな。え? 来るな? 馬鹿言うな! あ、あ、あーーーーーーっ! 電話切るな!」
 武彦は受話器を叩きつけるように切ると、椅子に引っ掛けてたジャケットを引っ掴んだ。
「北斗、それ持ってついて来い」
「え? な、何で……」
「三下が逃げた」
「えーっ!?」
 俺が驚いている間に武彦は事務所を出て行こうとする。俺は慌てて箱と鞄を持ち、武彦の後を追った。
 それから、真夜中のハイウェイで編集者をタクシーで追いかけっこってゆー、素晴らしくもスリリングな事件に俺は巻き込まれ……開放されたのは明け方の5時だった。
「つ、疲れた」
 疲弊した体を横たえ、俺はその雑誌を開く。
 丁度、三年前ぐらいに発行された本だった。俺はそれをチラッと眺め、その中にあった小説を読む。その中にマリィヴェール・ベルゼビュート=ハーヴェントの名前があった。
「小説の中の悪魔かぁ……その悪魔がここに贈り物?」
「悪魔らしい贈り物ではあるな」
 武彦がソファーにひっくり返ったままの格好で言う。
「そいつは実在するらしい」
「えっ、マジ? 小説じゃなかったんだ」
 さっき、こっぴどく怒られた三下が何か武彦に話をしていたけれど、この記事っていうか小説について尋問していたんだろう。
「そいつを呼び出すにはどうしたらいいんだろうなぁ」
「さぁ、拝み屋でもよぶか……それとも、悪魔信奉者にでも頼まないと無理だろうな」
「それって、すっごくイヤなんだけど」
「俺だっていやだ」
 そう言って武彦は溜息をつく。
 夜更けの倦怠感に疲労が加わって、俺はなんとも言えない気分になった。多分、武彦もそうなんじゃないかって思ったけど、心の中までわかんないし。なんと無しに流れていく時の中で、ゆっくりと登る太陽を見ていた。
 きっと今日もいい天気なんだろうと思う。
 燃える赤に染まる世界は火宅の世。禍々しいほどに紅いと俺は思う。この赤に染まったらどうなってしまうのだろうと思った瞬間、チンッと音が鳴った。
 チリリンッ。二度目。今度はちょっと長い。
 ジリリーーンッ……。三度目。音の鳴った方向を見た。電話だ。
 俺は重い体に鞭打って立ち上がると電話を取った。
「もしもし……」
『贈り物は届いていて?』
「は?」
 鈴の音を鳴らすような愛らしい声が、不穏な感情を掻き立てるキーワードを言った。多分、想像するに、年は俺よりも下だ。
「誰?」
『探し物は見つかったのかしら。見ていて滑稽だったわ』
「お前……」
「うわぁあああああああッ!」
「何ッ?」
 武彦の声に振り返ると、机の上にバラバラになったマネキンが乗っていた。違う、人間だ。
 俺は呆気に取られてそれを見つめる。
『あーはははッ♪ 驚いた?』
「なっ……何もこんなところで戻さなくても!」
『私に貴方達の都合なんて関係ございませんのよ。ちょっと復活に手間取ったけど、それは私からの予告と思って欲しいわ。ちょっとした仕返しってやつかしら』
「お、俺は関係ないだろ!」
『あらぁ、私の宝物を送ったのよ。一番のお気に入りだったんだから』
「……」
『まぁ、残暑お見舞いとでも思って欲しいわ。また会いましょう。では♪』
 それだけ言うと少女は楽しげに笑って電話を切る。思わず俺は叫んでいた。
「まて、待てって!」
 電話の向こうではツーと言う音が聞こえる。
 俺は呆然としながら、受話器と壮絶な状態になっている机の上を見比べた。何も言えないまま紅く染まる部屋の中で、時だけが静かに流れていた。

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

5698/ 梧・北斗 / 17 / 男 / 退魔師兼高校生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、朧月です。
 シチュ系依頼【闇公爵】にご参加ありがとうございます。
 この形式は初めてトライしてみました。
 口調等、間違っていたら申し訳ございません。
 バトルなどはありませんが、東京怪談らしさを体験できたら良いなと思って、東京怪談が始まった頃ぐらいの雰囲気を出そうと頑張ってみました。
 前に【花葬無限回廊】と言う話を書きまして、それを読んだらわかるというシナリオになっていたのです。
 ですから、ちょっと高峰を調べればわかるということで、難易度は【多分、難。人によっては、易】と言う風になっているのでございます。
 昔の話を出されても誰もわかりませんから、シチュ系依頼とさせていただいたのです。
 今回は本当にありがとうございました。
 上手く伝わったら良いなと思いつつ、この辺で失礼させていただきます。
 感想、苦情、質問等ございましたら、メールフォームからお願いいたします。

 朧月幻尉 拝