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<東京怪談・PCゲームノベル>


想いの数だけある物語

「ん? 何? 可愛いお嬢ちゃん。物語を創る‥‥へぇ、面白そうじゃん」
 相澤蓮は気さくに満面の笑みを見せると、奇抜な衣装の少女もニッコリと返す。
「はい☆ そう仰って頂けると幸いですわ。カードはお決まりになられましたか?」
「じゃ〜‥‥俺はこのカードを選ぼうかな♪」
 まるで子供のような笑顔を浮かべる青年は、一枚一枚カードを選択していった――――。

■斬激仕事屋稼業! 闇斬りの蓮
「さあ、張った、張った!」
「丁ッ!!」「半ッ!!」「‥‥半!」「ち、丁!」
 次々に畳に賭け札が置かれる中、着流しを羽織った若い男は細腕を組み、瞳を閉じたままだ。一斉に鋭い眼光が注がれると、妖艶で冷たい雰囲気を醸し出す風貌は、眉間を戦慄かせていた。痩せた頬に一筋の汗が伝う。堪らず壷振り師が口を開く。
「相澤の兄さん、下りるんですかい?」
「そう慌てなさんな。もう少しで見えそうなんだからよ」
 相澤蓮は片目を開いて笑みを見せた。端整過ぎる顔立ちから発せられた響きは気さくなもので、笑った表情は別人のように子供っぽい。そんな外見と中身の不釣合いさが、彼の魅力でもある。暫しの沈黙の後、目元に流れる茶色の長髪から、研ぎ澄まされた銀の瞳を見開く。
「よっしゃッ! 丁だッ!!」
 その後、響いた壷振り師の声に、蓮は天井を仰いで深い溜息を吐いた。
「‥‥酒でも呑んで帰るか」
 賭博場である寺を出ると、すっかり人気は無く、夜風が肌寒く感じたものだ。今日は熱いの付けてもらうか、なんて思いながら、馴染みの提灯へといそいそと歩いて行く。満月が浮かぶ町に、火の用心の声が響き渡っていた。
「いらっしゃ‥‥」
 暖簾を潜って姿を見せた来客に、看板娘は笑顔で振り向いたものの、蓮の顔だと分かった刹那、不機嫌そうな表情を浮かべて見せる。男は訝しげに眉を顰めた。
「なんだよ、客が来たってのに愛想が無いじゃないか」
「相澤さん? いつになったらツケの御代を戴けるんですか? もぉ、また博打遊びして来なさったんでしょ! こんなんだから遊び人って長屋で噂されるんですよ!」
 若い娘は腰に両手を当て、癇癪玉のように早口で喋り捲る。蓮は椅子に腰を降ろすと、耳を穿りながら視線を逸らし、面倒そうに口を開く。
「あー分かってるって、そう耳元で子犬みたいに喚くなよ。熱いの淹れてくれ」
「またぁ! 払えるものはあるん‥‥ま、また、そんな顔してぇ」
 看板娘の表情に戸惑いが浮かび上がる。瞳に映るのは、氷のような銀の瞳で見つめる妖しいまでに艶やかな青年だ。にっこりと笑ってみせると、少女は頬を染めて背中を向ける。何とか今宵も冷えた躰を暖められそうだ――――。

●蓮、呼ばれる
「蓮のアニキ!」
 木戸を勢い良く開けて、一人の少年が飛び込んで来た。華奢な体格をしており、肩幅で揃えられた黒髪と整った顔立ちは若い娘にも見える。年は18位だろうか。
「なんだ隆美、朝っぱらから高い声だしやがって」
 畳に身体を横たえ、頬杖を突いている細い背中は、面倒そうに応えた。傍には徳利が置いてあり、どうやら呑んでいるようだ。紀平隆美はズカズカと上がり込み、蓮の目の前で腰を落とす。
「朝っぱらじゃなきゃアニキは直ぐにいなくなるじゃないか。もぉ、朝から酒なんて呑まないでよ」
 細い眉を八の字にして困る少年の姿は、端から見れば幼な妻のようだ。
「煩いな、俺は夜に活動するんだから、お天道様が昇ってる内は何しようが勝手だろうよ」
 聞く耳持たずと、ぐーたらぶりを正当主張する蓮。鋭い瞳は面影もなく、酔いに因って端整な顔立ちは一際妖艶な色を放つ。男同士だというのに、隆美がコクンと生唾を飲む程に魅惑的だった。
「あーもぉ! そうじゃなくて! あ、アニキは男で遊び人でどうしょうもない人で‥‥」
「‥‥なに言ってやがんだ? 隆美。熱でもあるんじゃないのか?」
 一人で頬を紅潮させ、頭を抱えて喚き散らす少年の顔を、蓮は覗き込む。青年は世話好きでもあり、こんな時に限って心配そうな顔色を浮かべていた。艶やかな長い前髪から覗く銀の瞳が妖しい色香を放つようだ。こんな瞳で見つめられれば、女だったら誰もが虜になるだろう。
「も、もぉ、これ以上近付かないでよ!」
「だってよ、おまえ顔が赤いぜ?」
「ほっといて下さい! そ、それよりアニキ、忘れるとこだったけど、猖巣の旦那が呼んでます」
 刹那、青年の瞳が研ぎ澄まされる。
「瓦曾さんが? 出掛けるぞ、隆美!」

 二人が急いで向かった先は小さな道場を兼ねた屋敷だった。
 中に通されると、一室には、短い茶色の髪を逆立て後ろに流した精悍な顔立ちの男が待っていた。瓦曾猖巣は足音に瞳を開き、褐色の顔を向ける。
「遅いぞ相澤、また何処かで油を売っていたのか?」
「申し訳ありません。昨晩、呑み過ぎてしまったようで」
 正座をすると、長めの茶色の髪をポリポリと掻いて、青年は苦笑した。筋骨逞しい壮年の男は、呆れたように深い溜息を吐く。
「相変わらず遊び人風情か。道場で雇ってやると言っているのに‥‥困った奴だな」
「面目無いです。まぁ、生きている内が花ってもんですよ。それで、お呼びになった訳は?」
 おどけていた蓮は本題へと話を進めると、表情を変容させた。
「度々退治してもらっている闇の化物だがな。また動いたらしい。紀平」
「はい。今朝、町人が一人亡くなったんだけど、手足が見当たらなかったんです」
 猖巣に促がされ、美少年は現場で見聞きした事を伝えると、蓮は訝しげに片眉を跳ね上げる。
「野犬の類いじゃないのか? 手足の肉くらい食われても可笑しくないだろ?」
「‥‥両肩と足の付け根までが無くなっていても、ですか?」
 幾ら空腹の野犬でも、大人の両手足を胃袋に納めたとは考え難い。ならば刀で斬られたとも考えられるが、刃物で斬った傷口ではなかったらしい。青年が妖艶な笑みを浮かべてゆく。
「なるほどねぇ、骨も残さず達磨様って訳だ。瓦曾さん、仕事ってやつですね?」
「うむ、これで化物絡みは五件だ。何かが解せない。‥‥今晩から朝方までだ。できるか?」
「瓦曾さん、誰に聞いているんですか?」
 蓮はゆっくりと立ち上がり、不敵な表情を浮かべて応える。
「‥‥そんくらいあれば、十分釣銭がでますよ」
 猖巣が瞳を閉じ、口元を緩ませる中、二人はお辞儀をすると、屋敷を後にした――――。

●蓮、仕事する
 夜の帳が降り、闇に月が浮かぶ中、漆黒の衣装を纏う青年が静寂に包まれた町を歩く。腰に挿してあるのは鞘に収まった刀だ。ふと、前方に着飾った着物姿の影が月明かりに浮かぶ。肩で切り揃えられた黒髪を揺らし、蓮に向けた風貌は、ほんのりと紅をさしており、まるで娘のようだ。銀の瞳を研ぎ澄まし、不敵な笑みを浮かべて進んでゆく若者に加わり、一歩退いた状態で隆美が歩く。
「相変わらずだな、隆美」
「これが僕の覚悟なんだよ。こんな恰好じゃ死ねないでしょ?」
「違いない。現場はもう直ぐか?」
「そうだよ」
 真っ直ぐ前を向いたまま、会話を済ますと、蓮がそのまま進む中、隆美は立ち止まって距離を置いてから歩き出した。誘い出しを試みているのだ。前を進む長身の細い背中が、霧を伴う闇に解け込んでゆく。
「‥‥必ずここに化物は姿を現わす筈だよ」
 ゆっくりと霧の中に少年は包まれた。蓮の姿は見えないし、剣戟も響いて来ない。見渡すばかりに白で染め上げられた空間に隆美は立ち尽くす。刹那、背後で何かが蠢く感覚が疾った。
「‥‥隆美?」
 長めの茶髪を揺らし、青年は振り向く。視界を包むのは真っ白な光景だ。妖艶な風貌に一筋の汗が滴り、銀の瞳を研ぎ澄ます。
「おかしい‥‥。遅れて歩いたとしても追い着かない筈はない。隆美! 何処にいるんだ! たか‥‥!? 隆美ッ!!」
 霧を裂く突風の如く、蓮が疾走する。その表情は真剣な中に不安を色濃く彩っていた。目指すのは一点! 白い空間に一瞬迸った朱の光源だ。また光った! このまま追えば。青年は腰から太刀を引き抜く――――。
「隆美ッ!!」
「れ、蓮ッ!! うわッ!」
 瞳を潤ませながらも、化物の洗礼を必死に防いでいる少年が叫ぶ。尚も鋭利が爪が隆美を襲い、座り込んだまま、両手を交差させる彼の目前で、朱色の障壁が火花を浮かばせていた。気合と共に振るわれた蓮の太刀を、化物は飛び退いて躱す。
「こいつか、今宵の得物はよ!」
 ぺたんと座り込む少年を庇う如く割って入り、切先を異形の化物へと向けた。銀の瞳に映るのは、茶の体色で細い手足が特徴的な化物だ。指には鋭い爪、裂けたような大きな口には赤い尖った歯がゾロリと並んでおり、窪んだ大きな眼球は不気味なほどに紅い。化物は間合いを取って、ジリジリと動き回る。蓮は両手で切先を向けたまま、顔の横に刀身を構えた。鋭い刃の如き瞳が射抜く。
「来いッ!」
 応えるように咆哮をあげて化物が地を蹴り、一気に近付いた。正に突風の如きだ。美少年が座り込んで牽制していたのが理解できる。だが、青年は臆する事なく、構えた太刀を突き放った。しかし、化物は身体を捻り、回転すると共に切先を躱し、鋭利な爪を浴びせかかる。刹那、蓮の前を影が遮り、朱色の火花が迸った。
「相手は素早いんだから、油断しちゃ駄目だよ!」
「へっ、その位、躱してたぜ! 隆美、行くぞ!」
「はいッ! えぇぇーいッ!」
 そのまま少年が化物に肉迫してゆき、防御壁を強化させた。隆美の前への攻撃は僅かな刻なら無効化される。化物が気付けば――――。蓮が地を蹴り、跳躍する。
「追えるぜッ!」
 眼下の化物が隆美の脇へと跳んだ。鋭利な爪が突き出されると同時、蓮が頭上へ落ちながら太刀を薙ぎ振るった。風を切り裂く音と共に、瞳を見開く美少年の白い顔に鮮血が舞い飛ぶ。宙を舞うのは肩で切られた細い茶色の腕だ。肩を押さえる化物の前を遮り、妖艶な銀の瞳を紫色へと変容させる。
「逃がす訳にはいかないな。これでも仕事なんでね」
 残像と共に太刀が振るわれ、化物が鮮血に染まってゆく。切先は風を纏った如く血を巻き上げ、音速の太刀は肉片すらも塵へと変える。濃い霧が消えた時には、既に化物の痕跡すら消滅していた。
「す、すごい‥‥! 蓮っ!」
 ガクリと片膝を着いた背中に隆美が駆け寄る。蓮の瞳は銀に戻っているが、疲労に荒い吐息を洩らす横顔が、一際妖艶な美しさに彩られていた。
「大丈夫、だ。ちょっと、疲れただけ、だからよ‥‥」
 美少年は瞳を潤ませながら肩を貸すと、何とか背の高い青年を立ち上がらせる。
「よかった。‥‥頑張ったね、蓮のアニキ♪」
「悪いな‥‥また、賭けみたいな戦い方させてよ」
「ううん、僕は蓮を、信じているから」
 はにかむ隆美に、青年は微笑んでみせる。まだ朝までには暫しの刻が必要なようだ。静寂に包まれた町を寄り添った二つの影が歩いてゆく。
「‥‥こっからだと、隆美の長屋が、近いな。‥‥泊まってって、構わないか?」
「うん、僕はいつでも歓迎するよ」

「‥‥魔物退治の仕事人かよ。本当に存在していたとはな」
 屋根の上に立つ一人の男が呟く。長い銀髪を風に棚引かせ、細い腕を組む彼の口元は、不敵な笑みを浮かべていた。河谷柳は、遠ざかる二つの背中を銀の瞳で追いながら続ける。
「ったく、あと一つで血肉の儀式が完成したってのに、魔物の血が混じっちゃ、初めから遣り直しだぜ。まあ、世に君臨する為には障害も必要って訳ね。楽しませてくれよ、仕事人さん」
 蓮達は闇に潜む化物を退治する事が出来た。仕事の出来映えとしては上出来だろう。しかし、その影に蠢く邪なる存在までは、未だ知る由も無かった――――。


「‥‥これがアナタの描いた物語なのですね」
 カタリーナは一枚のカードを胸元に当て、瞳を閉じたまま微笑みを浮かべていた。やがて、ゆっくりと瞳を開き、蓮にカードを差し出す。
「このカードは、蓮さんが物語の続きを描く時に使って下さい。カードに記録として履歴が残ります」
「‥‥履歴、ねぇ」
「はい☆ 今回の場合は、『武士道が盛んな日本。普段は遊び人のように振る舞う蓮は闇の仕事人。今宵も仲間と共に化物退治を果たしたが、どうやら邪な気配が背後にいるようだ‥‥』って感じです」
 いいのか? こんなてきとーな履歴で‥‥。
「まぁ、取り敢えず貰っておくぜ‥‥」
 苦笑しながらも、蓮はカードを受け取った。
「それでは、蓮さん、ごきげんよう☆」
 カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、蓮は瞳を閉じた――――。

<闇の仕事人を続ける> <目を覚ます>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【2295/相澤・蓮/男性/29歳/しがないサラリーマン】

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■         ライター通信          ■
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 この度は発注ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 おぉ、漢で固められているッ(笑)。このパターンも珍しいかも。
 まだ存在や姿は知らないとの事なので、柳は顔出しまで。何となく必殺技な演出として、瞳の色が変わるを使わせて頂きました。
 さて、いかがでしたでしょうか? 何気に隆美があやしい性格になっちゃいましたが、気のせいです(苦笑)。それだけ蓮さんが妖しいオーラを漂わしているって証拠です★ お気に召したら、続編を描いてみて下さい。勿論、別の世界のカードを選んで、別の物語も自由です。また、カタリーナに聞かせてあげて下さいね。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆