コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


幽霊はかき口説く


     ◆   ◆

No.133
名前:みわ
タイトル:幽霊に口説かれた…
姉の体験談なんだけど、この間2丁目で口説かれたんだそうです。
かなり格好良くてしぐさも紳士的で理想の男性だったそうです。
でも、夜中に人気のないところでだから、丁重にお断りしたんだそうです。
そしたら、悲しそうに微笑んですっと消えてしまったんだそうです。
他に目撃情報はありませんか?
今までずっと彼氏ができなかった姉の妄想じゃないかって
本人も疑っちゃってるんで、情報切実に求めてます(><)

No.134
名前:はるっち
タイトル:元ホスト?
私もその幽霊に会いました!
お姉さんの妄想じゃないと思います!
友達も一緒にいたので気のせいじゃないはずです!
白いスーツを着てて、ホストみたいな格好だって言ってました。
(友達のほうが霊感があるんではっきり見えたみたいです。)
やっぱり、この世に未練があってとどまってるんでしょうかね…(^^;

No.135
名前:ren
タイトル:2丁目って…
あの界隈って、確かにそういう店が多いよね。
競争も激しいっていうし、陰湿ないじめもあるんじゃないかな。
どうしたら成仏してくれるのか、皆目見当もつかないけど。

No.136
名前:光
タイトル:心当たり
2丁目にある「and you」って言うお店で、ホストが一人自殺してるらしいよ。
最近の話らしいし、もしかしたら、ここに出てくる幽霊ってこの人のことかな?



掲示板に書き込みがあった数日後、瀬名雫のホームページには早速調査依頼の文字が踊っていた。


     ◆   ◆


「幽霊ホストが口説くんだ……」
「そっ、面白そうでしょ?」
 学校の帰り、ネットカフェに寄った梧・北斗は、友人であり「ゴーストネットOFF」の管理人でもある瀬名・雫とお茶を飲みながらおしゃべりしていた。話のネタは、当然と言うかなんというか、怪奇現象である。
「気にならない?」
「なるけど、俺にどうしろって?」
「同じ男同士、幽霊と気が合うかもしれないじゃない。行って、確かめてみてよ」
「瀬名が行けばいいじゃない」
「私はテストで忙しいの。ね?」
 頼まれれば断る理由もなかった。それに、正直なところ興味もある。幽霊にも、ホストクラブにも。


     ◆   ◆


「というわけで、今日一日よろしくお願いします」
 相沢・蓮は、下ろしたてのブランド物のスーツで『and you』へとやってきていた。その日一日だけ助っ人として入ることになったのだ。ホストの経験はないが、彼のもともとの顔と雰囲気が、オーナーのおめがねに叶ったようで、採用となったのである。履歴書には若干誇張もあったりするが、おそらくばれないだろうとたかをくくっている。
「蓮、紹介しよう。彼が、うちのbPホストのアレンだ」
「どうぞ、よろしく」
 アレンと呼ばれた男は、どう見ても生粋の日本人か、少なくともアジア人だが、身のこなしはさすがと言うか気障なのに自然とさまになっていた。
「ほかの店とうちの店はやり方が多少違ったりするからね。今日は僕や彼の指示で動いてくれ」
「はい」
 蓮は、女性を知らぬ間に落としているというキラースマイルで返事をした。

 蓮の予想通り、女性客はたくさん来るし、美人系もセクシー系も清楚なお嬢様も、果ては女子高生までより取り見取りだ。ただし、なかなか彼女たちに話しかける機会がない。あちらへグラスを、あちらへシャンパンを、とやっている間にどんどん時間が過ぎていく。ホストクラブは、表の優雅さに反して裏方はえらくハードなのだった。
「幽霊が一人二人混ざってても気にならないかもな……」
 薄暗い、ムーディな照明に包まれた店内を見回しふと呟いた。
「蓮、悪いがあちらのテーブルにヘルプに回ってくれ」
「はい」
 先ほどからオーナーの指示を聞いているため「ヘルプ」が何を意味するかは予想がついていた。盛り上がりに欠けていたり、一人のホストでは手に負えない、つまらなそうにしている客が一人でもいるところへ派遣され、場を盛り上げたりお客様をキープしたりする。付け焼刃の自分にどこまで出来るかわからないが、行ってみるしかあるまい。


「どうしよう……場所はここであってるよね」
 梧・北斗は、ホストクラブ『and you』の前で立ちすくんでいた。ここまで来たはいいものの、どうしても次の一歩が踏み出せない。ドアを開けることが出来ないでいたのだ。
「男は入っちゃだめかな、やっぱり……」
 水商売をしているらしき二人組の女性が中に入ろうとするのでさっと脇に避ける。ドアが開き、ホストたちがいっせいに彼女らを迎え入れる。と、ホストの一人が北斗を見つけた。おや、と首をかしげ、ドアから顔を出した。
「君、うちに何か用があるの?」
「あ、えぇと……」
 うまい言い訳はないだろうか。中に入れてもらえそうないい言い訳……。
 そして口をついて出たのは、
「しゃ、社会勉強に、中に入れてもらえないでしょうか」
 北斗のその台詞はオーナーにえらく気に入られたらしく、あっさり中へ入れてもらえることになった。抑え目の照明、生花が豪奢に使われた大きなオブジェ、どこまでも高価そうな室内のインテリアにびくびくしながら中へと入る。戸惑いながらも、ホストが脇についた。オーナーがそこでとんでもないことを言い出した。
「これはこの世界に流れてる伝説の一つに過ぎないんだけどね、最高のホストは、女性のみならず男性をも虜にしたんだそうだ」
 北斗とその隣のホストにウィンク一つを投げ、彼は去っていった。隣で戸惑っていたはずのホストのまとっていた空気が変わるのを、北斗は確かにその肌で感じた。
「ようこそ『and you』へ。わたくしはジェイと申します」
 ジェイと言う名のホストは、すぐさま北斗の足元にひざまずくと、彼が声を上げるまもなくその手をとり、甲にそっと口付けをかました。
 身体が硬直した。


「ようこそ、『and you』へ。わたくし、ベリルと申します」
 由良・皐月の前に現れたのは、少しインテリ系の外見のホストだった。もしも、皐月の好みを外見から判断してこのホストを当てたのなら、それはとんだ誤りということになる。
 皐月はグラスに注がれたワインに口をつけると、ベリルに鋭く告げた。
「最初に言っとくわね。私はここへホスト遊びをしにきたわけじゃないのよ」
「と、いいますと?」
 真意を測りかねる、と言う風にベリルが少し首をかしげた。そうすると、完璧に見えた彼の雰囲気がいくらかやわらかくなり、前よりも好感が持てる。
「さっさと本題に入るわね。ここのホストクラブで、自殺者が出たというのは本当?」
「っ……そんな話題は、この夜にはふさわしくありませんよ」
「あら、それは私が決めることよ。今日はそういう話がしたくて来たの」
 話題をそらそうとするホストの作戦は、皐月にはまったく通用しなかった。
 ベリルは鼻の頭を少しかくと、覚悟を決めたのかソファに深く腰掛けた。回りに聞こえないようにとの配慮か、皐月のほうへと体を傾け、耳に口を寄せる。
「――彼は、自殺ではないんです。不幸な事故でした」
「事故なの?」


「蓮さんって、黙ってるとかっこいいですよね〜」
「黙ってると、ってどういう意味ですか、もう」
「しゃべると、急に親近感がわいちゃう。なんか普通の男の子みたい」
 年下の女性にまで親近感をもたれて光栄の至りだ。ホストクラブという空気に飲まれて緊張していた彼女らが、蓮の巧みな話術?によってすっかり打ち解けてくれた。
「――そういえば、知ってます? この近くでホストの人が死んじゃったっていう……」
 一人がふった話題に、あわてて彼女の連れが「こんなところで不謹慎だよ」と止めに入るが、まさに待っていた情報だ。
「不謹慎だなんて、とんでもない。俺も、彼のことは気になってたんで」
 嘘は言ってないぞ、と自分に言い訳しながら話を合わせる。
「車に轢かれて亡くなったんだそうなんですけど、赤信号なのに飛び出しちゃったらしくって。目撃した人も自殺なのかうっかり飛び出しちゃったのか分からないって言ってるんです」
「なるほど……」


 北斗の両脇にはホストが座っている。右には、先ほどのジェイ。そして左側には、ジェイより一つ後輩だというケイが、ちょうど今、グレープジュースをグラスへついでいるところだった。
「北斗クン、君ってきっとモテるよね」
「そ、そんなことないですよ……」
 女性を夢中にさせるのが本業の彼らの前で、たとえ本当でも肯定などできないだろう。
「そうなの? もしかして、結構おくてだったりする?」
 言いながら、さりげなくジェイが北斗にそっと近寄ってきた。
「オーナーは『最高のホストは男をも魅了する』なんていってたけど、北斗はプロである僕らをも魅了してる気がするんだけど」
 ジェイは北斗の顎に指をかけ、少し上向かせた。
「その顔をよく見せて。いったい君の魅力はどこにあるのか、教えてよ……」
「な、ななな……」
 この店には暖房でもかかっているのではないだろうかという暑さであった。


「交通事故、か……。彼、優秀なホストだったの?」
「それはもう。――今はアレンがbPですけど、彼がいたときにはアレンは永遠のbQでしたから。たぶん、アレンは今のbPの地位には納得してないのだと思いますよ」
 ベリルは慣れた手つきでワインを継ぎ足す。心なしか、自分の分にと注ぐ分も多めである。
「その彼とアレンって、仲は悪いの?」
「とんでもない。一番の親友でライバル同士でした。もっと堂々とした形でbPの座を奪いたかったと思いますよ。――ちょっとしゃべりすぎてるみたいですね」
「そんなことないわ。私の聞きたいことを先回りしてくれてすごく助かる。それで、その彼、何か未練を残してたりしたの?」
「未練といえば……本当に、ここだけの話ですよ?」
 ベリルはさらに念を押して皐月を見つめた。皐月が「誰にも言わないわ」とうなずくと、
「お客様に、ホストという自分の仕事を超えて思いを募らせていたという噂です」


 蓮のホストっぷりは絶好調である。
「お客との度を越えた色恋は禁止されてるのに、好きになっちゃったんだねえ」
「すっごい噂ですよ。――だから、彼女に会うために気が急いてて、それで信号が赤なのに渡っちゃったっていうのが真相らしいから」
 彼女らは、この店は初めてなのだがホストクラブやこの世界にはかなり慣れているようである。
「それで、死んでも死に切れなくて、夜な夜な化けて出てるんでしょ?」
「なるほど……ん、でも、その幽霊はどんな人でも口説くわけじゃないだろ?」
「だから、彼女と似てる人を狙うわけ。ね。きれいな茶色の髪の女性を」


「そのっ、ひとつお尋ねしてもいいでしょうか……っ」
 北斗の必死の声に、ようやく二人が彼から距離をおいてくれた。
「その……このあたりにホストの幽霊が出るって聞いたんですけど……」
 すると、二人は途端に黙ってしまった。
「言いにくい……言えないようなことなんでしょうか?」
 心配してさらに言葉を重ねると、ようやく口を開いたのはジェイだった。
「うちのホストが自殺したって話? ――それなら、お遊び半分に首を突っ込んでいい話じゃないな」
「ジェイさん、そんなに頭ごなしに怒らなくても……。でも、確かにそうだね。君は元からそのことが聞きたくてここに来たんだ」
 決して怒っている風ではないがごまかしを許さないといったケイの声音に、北斗は決まり悪くなりながらうなずいた。
「……もしも、北斗が真剣に彼のことを心配してくれているなら、ひとつ頼まれてくれないか?」
 ジェイは、とん、と北斗のひざに手を乗せた。
「とある家に、花束を届けにいってもらいたいんだ。僕らじゃ出来ない。君なら、きっと大丈夫だと思うんだ」


「彼の未練は、その彼女と一緒になれなかったこと?」
「いいえ、厳密にはそうとは言い切れません。彼は、彼女とは絶対に一緒になれないことは分かっているようでしたから」
 皐月とベリルの間には、すでにホストクラブではなく警察の操作会議のような空気が流れている。
「それなら、なぜ……」
「それも含めて、……こんなことを、お客様に頼むのは筋違いとは分かっているんですけれど、もしよろしければ、確かめてもらえないでしょうか?」
 ベリルはすでにホストとしての仮面をはずしかけていた。大切な同僚を思う一人の男の顔だ。仕事をほっぽって、本来なら許されないはずだが、その分真剣さが伝わってきた。
「そうね。――わかったわ。やれるだけやってみる」
 皐月が笑顔で返事をしたとき、二人のテーブルに一人の男が近づいてきた。


 オーナーから久しぶりに指示が出て、蓮はテーブルを移動することとなった。なにやらホストクラブらしからぬ雰囲気の漂うテーブルだ。
「はじめまして、蓮と申します……」
 お辞儀をしながら、そっと相手を盗み見る。確かこのホストはベリルといった。高学歴のくせにこんなところで働いている物好きな男だ。蓮が見ている限り常に何か難しいことを考えているような顔をしていたのが、今は妙に晴れ晴れとしている。
「ちょうどよかった、蓮。今からこのお客様を送ってあげて」
「……え?」
 二人のやり取りなどよそにワインを飲んでいた女性は、よろしくね、と蓮に微笑んだ。先ほどの二人組とは違う大人の色気に、蓮は二つ返事でうなずいていた。


     ◆   ◆


 花屋なんてまず足を運ぶことのない場所だった。しかも、こんなに高級な花屋には。
「北斗、緊張しないで。お金を払うのは僕だから」
「わ、分かってるんですけど……」
 相手は花だ。瀬戸物やガラスと違い、少しくらい触れただけで壊れたりしない。けれど、この空間にいるだけでなんだか疲れるのだった。
 北斗とジェイは、店を早々と抜けると都内の花屋へ寄り道していた。ここで買った花束を、ある家へ届けるのが彼の仕事だ。
「あの、そろそろ教えていただけませんか。その人って、どんな人なんですか? 何か、家庭の事情があったりする人なんでしょうか」
「鋭いなぁ。――その通り。まぁ、門構えを見れば分かるよ」
 どんな家なのか、いろいろと想像をめぐらせていたが、花束の代金を払う際、ジェイの財布に札束といってもいいほどの紙幣が入っているのに気づき思考はそれていくのだった。
「さぁ、助手席に乗って。今からある人の家まで直行するからね」
 花屋の前の道は車の通りが激しい。片側3車線で、夜はなお横切るのは危険だった。
 けれど北斗は見てしまった。ガードレール脇にひっそりと、一輪の花の生けられたガラス瓶が供えてあったのを。


「――え、あなた、今日だけのホストなの?」
「あぁ。幽霊の事件が気になって、それで潜入調査してみたってわけよ」
「何か分かったの?」
「自殺じゃなくて事故だったとか、元bPホストだったとか、身分を超えた恋に身を焦がしてたとかか」
 皐月は、蓮の答えに軽く目を見開いた。ただ楽しんでいるだけのように見えて、やることはしっかりやっているようだ。
「――ここだったな、その幽霊が出るっていうのは」
 表通りから少し離れた場所だ。遠くにネオンが見える。
「俺はちょっと離れてたほうがいいかな……ん」
 蓮が少し後ずさったときだった。表通りとは反対側、暗闇の中からかすかに何かの気配がした。目を凝らすと、そこに白い影が見えてくる。
「……あなたが、そうなのね」
 彼は、掲示板での報告の通り白いスーツを着ていた。顔には穏やかな笑みを浮かべ、嬉しさをにじませながら皐月へ近づいていく。
――お時間は、ありますか?
 彼が言った。すでにこの世にはいないというのに、聞きほれてしまいそうないい声だ。
「時間は、ないことはないわ。でもせっかちなの。用件は端的にお願いね」
 皐月の毒舌は幽霊にすら容赦がないようである。苦笑する蓮だが、幽霊はクスッと肩を揺らして、
――あぁ、時間がないのは僕のほうみたいです。


「ここが、目的の家?」
「そう。驚いた?」
 正直なところ、驚くなんていう言葉では足りない。この家が近づくにつれて、左手には同じ色の塀が延々と続いていたのだ。ようやく紋が見えたと思ったら、それが一個人の家であるという。さらに目的の家でもあると言われれば、もはや驚きどころがありすぎてリアクション出来ない。
「さて、と。僕はここから先は手出しできない。後は、本当に無責任で悪いんだけど、この家の娘さんにその花束を渡してほしいんだ」
 ジェイはすまなそうに言うと、車に乗り少し遠くで止めた。
 ここまで来て尻込みするわけにもいかない。意を決して、北斗はドアチャイムを鳴らした。当然ながらモニター用のカメラがついている。表札には、苗字とともに華道の家元であることを示す文字が書かれていた。
「どちらさまでしょうか」
「えぇと、梧と申します……お嬢さんに、花束をお渡ししたくて」
 高級な雰囲気のせいか、普段まったく使わない敬語のたぐいがすらすら口をついて出た。
「――少々お待ちください。だんな様……えぇ、お坊ちゃんです。えぇ、遊び人ではございませんよ。お目通り差し上げてかまいませんね?」
 インターフォン越しに、家政婦らしき女性の声が丸聞こえだ。やがて、門の向こう側からなにやら音がした。誰かが、庭石を踏みこちらへと歩いてくる。
 ドアが開いた。
「はじめまして、この花束を渡すようにと……」
 北斗は台詞の途中で彼女を見上げ、声を失った。
「はじめまして。――ありがとう、本当にありがとう。彼からの、最後の花束ね」
 主婦然とした、エプロンをつけた女性だった。
「ヘリオトロープ……『永久の愛』。なんて彼らしい」
 彼女はそう呟くと、その場に静かに泣き崩れた。


――彼女はほんの遊びで、ここへ着ていた。でも僕は本気になってしまったんです。会いに来てくれなくなっても、毎月一つ花束を贈って。
 彼の影はどんどん薄くなっていた。声も聞き取りにくくなっていく。皐月と蓮は、少しでも彼に近づき、声を聞き漏らさないようにと耳をそばだてた。
――次で最後にしようとしていたんです。ヘリオトロープの花束を贈ろうと、道の向こう側にある花屋を眺めていたら、最後の一輪が今まさに誰かに買われようとしていた。僕はあせって、道路に飛び出してしまった……
 ふと彼の影が揺れた。
「未練って言うのはそれか……」
――えぇ。でも今、誰かが僕の最後の花束を彼女に届けてくれた……。僕は、僕の愛はこれで永遠になるから……
 彼はふと寂しげな笑みを浮かべ、そして月の上る空を見上げた。二人がつられて空を見上げたその一瞬の間に、彼の影は掻き消えていた。


「私は本気だったの。でも彼は信じてくれなかったわ。私の家に遠慮していた。月に1回もらう花束はとても嬉しかった。同時に寂しかったわ。けれどやがて、お母様がその花にこめられた意味に気づき始めてしまった。そして、前々から決まっていた許婚との話を急に急ぎ始めた。最後の花束をもらうまでは、私、彼のことをあきらめられなかったの。でも――彼の本心が分かったわ。私、まだ彼を思っててもいいのね。ねぇ……」
 彼女は、そっと空を見上げた。雲が切れ、月が彼女の横顔を煌々と照らした。



Fin.


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5696 / 由良・皐月 / 女 / 24歳 / 家事手伝】
【2295 / 相沢・蓮 / 男 / 29歳 / しがないサラリーマン】
【5698 / 梧・北斗 / 男 / 17歳 / 退魔師兼高校生】
(発注順)

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

はじめまして、月村ツバサと申します。
今回は、結構しっとりとした感じになりましたが、いかがでしたでしょうか。

>梧・北斗さま
BLも可とのことでしたので特別コースです(笑)。
それでいて結構重要な役回りも任せてしまいました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。


月村ツバサ
2005/10/16