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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


太陽と青い空と。

 周囲の人たちを明るく照らし導く太陽のような子になりなさい。
 そんな期待を込めて「陽奈」と名付けられたけれど、名前負けもいいところだ…と、日向陽奈は思っていた。皆を導くどころかむしろ、自分が助けてもらうことの方が多い。正直言えばあまりこの名前は好きではなかった。
「陽奈?いい名前だね。俺も同じ字入ってるよ、玲陽の陽。そーいうのってなんか嬉しいよな」
 そう言ってくれたのは、まさに太陽のような少年…夏軌玲陽だった。入学式に現れたときの、ピアスに茶髪という問題児スタイルにも驚いたけれど、その後の入学生代表挨拶の舞台に上がったことにはもっと驚いた。あの時の衝撃と、会場のざわめきは1年経った今でも忘れることはできない。


 舞い降りた夏の太陽の周囲にはいつもたくさんの人がいて、皆楽しそうに笑っていて…彼の存在は、あまりにも眩しすぎた。
 以前はただただうらやましくて、憧れて、真似してみたり(もちろん似合わなかったわけだけれど)して、なんとか追いつきたい存在だった。けれど、今は。
 今の陽奈には…その光はただ眩しいだけの、目に痛い光でしかない。


 きっかけは、二年に進級してからの出会い。玲陽と親友だというその人は、彼と比べればずば抜けてカッコイイというわけでも華やかであるというわけでもなかったけれど、それでも彼の纏う空気は人気者のそれで、すごく魅力に溢れていた。
「すごいなぁ。やっぱりカッコイイ人にはカッコイイ友達がいるんだね。こういうのを、えーと…五十歩百歩って言うんだっけ」
「それを言うなら類は友を呼ぶ、だろ?」
 そう言って笑う様もすごく輝いていて…気がついたら、好きになっていた。自分のことなんて、なんとも思っていないだろうことはもちろんわかっていたけれど恋心は気付いてしまえば加速度的に膨らむもので。
 とにかく伝えたくて。玉砕覚悟で告白した。案の定…彼にはこの思いを受け止めてはもらえなかった。ショックじゃない、といえば嘘になるけれど、ある程度覚悟はしていたから、自分でも思っていたよりはしっかりと立っていられた。


『日向の気持ちは嬉しいよ』
『でも、ごめん。今はほっとけない奴がいるから』
 前向きに考えてみようと思う。彼は陽奈の想いを拒みはしなかった。そして、好きな人がいるとも言わなかった。
 彼にとって玲陽はほっておけない大切な人かもしれない。けれどそれは、恋愛感情は違うものなのかもしれない。それなら、今はダメでも…これから先に望みはあるかもしれない。
「うん、そうだよね」
 口に出してみたらなんだか自信が持てた。うじうじ悩むのは、ガラじゃない。物事はポジティブに。



―――そう、前向きに…。彼を想おうとしていたのだ。あの瞬間までは。




「夏軌くんは?まぁたサボりかな」
「…あれ?そういやあいつもいないぜ」
「うそ〜珍しい。彼もサボってんの?参ったな〜二人も足りないとさすがに実験厳しくない?」
「じゃあ僕、探してこようか?」
「日向くん、心当たりでもあるの?」
「うん、ちょっと」
 彼が廊下を歩いているときによく中庭を気にしていたのを覚えている。中庭もけっこうサボるのにいいスポットだよな、とも言っていた。きっとあそこだろう。


 廊下を走りながら、中庭へと視線を向ける。木々に邪魔されてよくわからないけれど、誰かがいるのは見えた。よく見覚えのある背中。
「やっぱり!」
 自然と、足取りが軽くなった。
 近付いていくと、人影は二つあった。あの明るい茶髪は玲陽のものだ。
『夏軌くん…?』
 そのツーショットに心がざわつく。
『どうして、二人が一緒に…』
 陽奈のいる位置からは二人が何を話しているのかは聞こえない。けれど、彼の表情からただならぬものを感じて、それ以上近付けなかった。
「!!」
 何が起きたのか、理解できなかった。理解、したくなかった。
 二人のシルエットが重なる。
「……っ!」
 その時間は、ほんの数十秒…いや、数秒だったのかもしれない。けれどその一瞬は、陽奈にとって十分すぎる時間だった。






「おかえり、日向くん。あれ、二人とも見つからなかった?」
「ん…ごめん」
「…どうしたの?なんか…気分悪そうだよ」
「大丈夫…大丈夫だよ」



 次の日も、太陽は同じように昇る。玲陽も、昨日はあの後教室に戻ってこなかったけれど、今日は何事もなかったように登校してきていた。
 いつものように笑って、教室に入ってきて、いつものように前の席に座って。
「おはよー、日向!」
 どうしてそんなにいつもどおりなの?」
「…日向?」
 昨日のアレはなんだったの?
「お〜い、日向くん?きいてる?」
 二人で何を話してたの?
「どーしたんだよ、日向?なんか…元気ないぞ?」
 夏軌くんも、好きなの?
「おはよ…あれ、どうした皆固まって」
「ああ、おはよ。なんか日向がさ、元気なくて」
「そういえば昨日もちょっと元気なかったのよ、日向くん」
 僕はもう、ダメなの?
「日向〜どした?なんかあるなら言ってみ?きいてやっから」
 僕じゃ、ダメなの?
「お、おい日向!?」

 訊きたい言葉はたくさんあるのに、想いは音として溢れることはなかった。とめどなく流れる心が、頬を濡らしていく。
「ひ、日向?おい、どうしたんだよ〜どうして泣く?」
 目の前で玲陽が困惑している。
「やだ、夏軌くんてば日向くん泣かした〜」
「ええ?お、俺悪モン?日向〜なんか知らんけど俺が悪かったよ、だから泣くなよ〜」
「別に玲陽が泣かしたわけじゃないだろ、変なこと言うなよ」
 女子に文句を言われた玲陽を庇ったのは、…やはりというべきか、彼の一言だった。
「だって夏軌くんと話してたら泣き出しちゃったのよ?」
「でもそれが原因とは限らないじゃないか。…な、日向?」
 そうやって、彼だけは玲陽の味方なのだ。きっと、世界中が敵になっても。





 きっと、誰よりも…


 …………だから。