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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


激安!キノコ狩りツアー

「零、ちょっと来い」
 そう言われて、掃除をしていた手を止めて草間・武彦(くさま・たけひこ)に近付いた零(れい)は、草間から一枚のチケットを受け取った。
「キノコ狩りツアーですか? ……わ! 何ですか、これ! 凄い安いじゃないですか!」
「この前、依頼者からお礼にと貰ったんだ。俺は忙しくてなかなか行けないから、お前にやるよ。友達でも誘って行って来い」
 草間の言葉を聞きながら、零はチケットに書かれたツアーの内容を読む。旅館のすぐ裏にある山でキノコ取り放題! 旅館には露天風呂もあります。取ったキノコは食べるも良し、持ち帰るも良し。一泊二日三食付きでお一人様五千円!
「何でこんなに安いんですか? 写真で見る限り、旅館も新しそうなのに」
「あー、まあ、何と言うか……交通がちょいと不便なのと、周りを森に囲まれてあまり景色が良くないのとで、人気がないらしいんだ。だから、激安ツアーで人を呼ぼうってことらしい」
「そうなんですかー」
「山には松茸なんかも大量に生えてるそうだしな。売ったら小遣い稼ぎにもなるんだろうなぁ」
 言って、煙草に火を点ける草間の前で、零はチケットに目を輝かせると、早速友人を誘うために足取りも軽く興信所を出て行った。そんな零の後姿を見ながら、草間はゆっくりと煙を吐き出す。
「……言えねぇよなぁ……旅館が売れない理由が、幽霊の集まる土地だから、なんて……」
 溜め息交じりの言葉は、誰に聞き取られることもなく、紫煙の中に消えていった。



 突き抜けるような青空。ゆるりと流れる白い雲。上々の天気の下で愛用のマウンテンバイクを止めた五代・真(ごだい・まこと)は、ディバックを抱えなおして目の前の旅館を仰ぎ見た。木造の落ち着いた雰囲気のその建物は、普通なら暖かさを覚えるものなのだろうが、五代は何故か妙な気配を感じ取る。
(何か、今にも幽霊が出そうな感じだな)
 そんなことを思って、五代は首を傾げた。そんな嫌な気配ではなかったのに、何故そう感じたのか、自分でも判らなかったのだ。それは本能のようなものだったのだろうが、そのとき旅館の真実を何も知らない五代は、マウンテンバイクから降りると呑気に「着いたぜー!」と叫んで両腕を振り上げた。
 と、五代の後ろに一台のバスが止まり、わいわいと数人の人間が降りてきた。その中に見知った顔を見つけて、五代が手を振る。
「五代さん! 早いんですね」
「いや、俺も今着いたところなんだけどな」
 五代に気付いて近づいて来たのは、零だった。それに続くようにバスから降りてきた人間たちが、それぞれ集まって来る。
「へー、なかなか良い感じの旅館じゃないか。武彦もたまには役に立つんだな」
 そう言ったのは唐島・灰師(からしま・はいじ)だ。横では由良・皐月(ゆら・さつき)が満足したようにウンウンと頷いている。そんな中で、悟・北斗(あおぎり・ほくと)は怪訝そうに周りを見渡し、うーんと唸った。
「見た目立派だし、周り森ばっかで景色悪ぃって言っても、やっぱ五千円は怪しくねぇか?」
「それはですねぇ〜。ここが幽霊の出る旅館だからなのですよ〜」
 眉を寄せる北斗に、楽しげに答えた白鳥之沢・由貴子(しらとりのさわ・ゆきこ)に、周りの人間の目が集まる。
「なぁに? それ。どうゆうこと?」
「やっぱり……有名な旅館なのね。私もちょっと調べただけでザクザク情報が出てきたから、どうしようかと思ったのだけど」
 首を傾げた皐月に、シュライン・エマが溜息を零しつつ説明を始めた。
「武彦さんの態度が妙に怪しかったから調べてみたのだけど、どうやらここは何らかの理由によって霊の溜まり場になっているらしいの。だから客が来なくて困ってるってわけね。」
「ゆ、幽霊……溜まり場ですか……」
「でも、そんなに強い霊はいないみたいだし、酷い霊障を受けた人もいないみたいだから」
 幽霊と聞いて顔の青褪めた斎藤・智恵子(さいとう・ちえこ)に、シュラインが慌てて言葉を付け足す。すると、その後ろで話を聞いていた零が、不安げに呟いた。
「だから珍しく、土産はいらないなんて言ってたんだ……兄さん……」
「零さん! 大丈夫ですよ! 幽霊が来たって僕が守りますから!」
 俯く零に、ブルーノ・M(ぶるーの・えむ)が拳を固めて胸を叩く。続いて唐島も「そうそう。いざとなったら俺が守ってやるよ」と軽い調子で笑って零の頭をぽんぽんと叩くと、真直瀬・夕闇(まなせ・ゆあん)がその長い髪をさらりと後ろへ流しながら、のんびりと歩き出した。
「まあ、私は美味しいものを食べに来ただけだから、幽霊なんて関係ないわ」
「そうそう。目的は松茸のみ! いっぱい採っていっぱい食べるぞー! えいえいおー!」
 何やら巨大な円筒形のバックを抱えた平・代真子(たいら・よまこ)も腕をぐるぐると回しながら旅館へ向かうと、残った九人は一様に顔を見合わせて、肩を竦めたり溜息をついた後、のんびりと旅館に向かって歩き出した。



「お部屋はこちらになります」
 物腰の落ち着いた仲居に案内されて、部屋に入った零とシュラインは、中を見て感心したように息を吐いた。
「なかなか綺麗じゃない。外観といい、旅館自体は普通そのものなのね」
「本当に幽霊が出るんですか?」
 首を傾げるシュラインと零を後目に、由貴子がキョロキョロウロウロと歩き回り、押入れの中やテレビ台の下、掛け軸の裏などを見ては唸っている。
「お札とかないのかしら……」
「何もなければそれに越したことはないですよ」
 オカルト的なものがないかどうか探し回る由貴子に苦笑しつつ、零とシュラインは荷物を置いて座椅子に座った。と、そこに部屋のドアがノックされ、唐島の声が聞こえた。
「同室の奴が早速キノコ狩りに行ってさ」
「宜しければご一緒に行動させて頂けないかと思いまして」
 ドアを開けると唐島の他にブルーノも立っていて、零が快く部屋に向かい入れる。部屋に上がった唐島は、色んなものを捲っては溜息を吐いている由貴子の行動に気付いて、呆れたように肩を竦めた。
「零さんたちはどこかへ行かないのですか?」
「一息吐いてからキノコ狩りに行こうかと思ってるの。その後で温泉ね」
 言いながら、シュラインが湯呑みをブルーノの前に置き、備え付けの茶を注ぐ。それを受け取ってブルーノが礼を言うと、唐島も注がれる茶ににこやかに答えて手を伸ばした。
「何もありませんでしたわ……つまんない……」
 シュラインが零に茶を渡したとき、がっくりと肩を落とした由貴子が戻って来た。その前のテーブルに茶を入れた湯呑みを差し出し、自分の分の湯呑みも取り出す。
「憧れの幽霊旅館でしたのに」
「まあ、確かに妙な気配は感じるぜ。悪意はないがな」
「でも用心するに越したことはないわね」
「もし悪霊が出てきても、僕が零さんたちを守ります!」
「有難うございます、ブルーノさん」
 にこりと笑う零に、ブルーノが嬉しそうに頬を赤く染める。その様子に唐島がにやにやと笑いながらブルーノを横目に見る。
「で? この旅館にはどんな噂があるんだ?」
 大した気配は感じないが、一応知っておいた方がいいだろうと、唐島がシュラインに尋ねる。すると、シュラインはバッグから手帳を取り出し、付箋のついたページを開いた。
「まず、一番よく言われているのが、地面から生える白い手ね。森の中に入った人がしょっちゅう見てるらしいの。あとは全身血塗れの男の人や女の人が旅館をうろついているとか、身体が半分潰れた子供が立っているとか、人間離れした脚力を持つ老人がどこまでも追いかけてくるとか」
「そーりゃ、すげぇなぁ」
「私も聞いたことがあります。怪談好きには有名なんですよ、ここ」
 シュラインの情報に肩眉を上げて肩を竦める唐島に、由貴子が目を輝かせながら身体をテーブルの上に乗り出す。
「呪われた地とかって言われていて、よく事故も起こっているらしいんです。災害、交通事故、死因は様々ですけど、なぜかこの近くで死んだ人はこの旅館に縛られてしまって、自縛霊になってしまうとか。数年前にバイクの事故で死んだ青年も、この旅館に引きずり込まれてしまって以来、旅館に泊まりに来た人たちを仲間に入れようと、こう、背中に取り付いて、首を絞めに……」
 と、そこまで話して、由貴子の目が大きく見開かれ、恐ろしいものを見たかのように固まった。そして、ふるふると震える指で零の後ろを指差す。
「きゃー!! 出たー!!」
 その叫びに唐島が零を振り返ると、その背中にぼんやりと全身血塗れの青年が覆い被さっているのが見えた。骨張った指が零の首に巻かれる。
「零さん!」
 ブルーノが慌てて零から幽霊を振り払う。その際に、幽霊が由貴子の方に倒れて来て、パニックになった由貴子がシュラインに抱きついた。
「きゃー! きゃー! いやー! 来ないでー! やー!」
「ちょ、ゆ、由貴子ちゃん、落ち着いて……」
 ぎゅうぎゅうと腕にしがみ付いて来る由貴子に、シュラインが思わず眉を寄せる。
「大丈夫ですか!? 零さん!」
「あ、大丈夫です。何ともないです」
 心配するブルーノに、突然の幽霊の出現に驚きつつも、零が冷静に答えた。それをチラリと振り返りつつ、唐島が幽霊に近づき、その襟元をガッと掴んで自分の元に引き寄せた。そしてにこりと人付きのする笑顔を見せた後、睨んだだけで人でも殺せそうなほどに凶悪な顔に急変する。
「テメェ……零ちゃんに何しようとした、コラ。灰にすんぞ」
 後ろにいる零には聞こえないように小さく、しかし目の前の幽霊にはバッチリ聞こえるように、ドスの効いた低い声で脅す唐島に、幽霊の肩がビクリと震えた。
「すっ、すんません! 何か、俺の話してるみたいだったんで、ちょっと調子こいて出てきちゃっただけなんっす! ほ、本気じゃないっす!」
「あ?」
 突然、必死に謝りだした幽霊に、唐島の手が緩む。
「ここに人が来るのって最近なかったんで、嬉しくって、挨拶しようと思って出てきただけで、悪気はないんす! マジ許して下さい!」
「あ、あの、いいえ! 全然気にしてませんから! 大丈夫ですよ! あの、顔を上げて下さい……」
「……何だか、凄く普通な幽霊ね……」
 呆然とする唐島に幽霊が土下座を始めると、慌てて零が声をかけた。その気弱な幽霊に、シュラインだけでなく由貴子も恐怖を忘れて目をパチクリとさせ、唐島は居心地が悪そうに頭をかく。
「ああ、零さん……幽霊さんにも人と同じように接するなんて、何て優しい人なんだ……」
 だが、そんな微妙な雰囲気の中、ブルーノだけは違うところに感心していた。
「俺、そこの人が言った通り、バイクで事故って死んだんすけど、妙にここの旅館が心地よくて、それでずっとここにいるんす。最初は俺の姿見て驚く人とか見て、楽しんだりしてたんすけど、最近全然人が来なくなっちゃって……それで、久しぶりに客が来たもんで、つい……多分、俺らの仲間も、色々張り切ってるんじゃねーかと」
 えへへへ……と罰の悪そうに首をかく幽霊に、五人が顔を見合わせる。
「もしかして、ここの幽霊って皆、貴方みたいな感じだったりするのかしら?」
「へぇ、まあ……よく言われる悪霊とか、人間を恨んでるとか、そういう感じのはいないっす。だから旅館の人ももう慣れっこになっちゃってるみたいで、見かけても普通に接してくれるんで、何か嬉しくて、それで皆ダラダラと居座っちゃってて」
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、じゃねぇけど、何か拍子抜けだな……」
「こういう幽霊さんもいるんですね……」
 シュラインの問いに笑いながら答える幽霊に、唐島とブルーノがしみじみと呟く。
「えっと、えっと、じゃあ幽霊さんはここの町の人なんですか?」
「あ、そうっすよ。生きてた頃は森とかにもよく遊びに行ったりしてたんすよ」
「だったら、キノコの沢山生えてるところとか、知ってたりします?」
 もうすっかり慣れてしまったらしい由貴子が、幽霊に無邪気に話しかけると、幽霊は半分透けた自分の胸をどんっと叩いた。
「バッチリですよ! 何なら案内しますよ! なあ、皆!」
「おうっ!」
 幽霊がそう言った瞬間、部屋の中に大量の幽霊が出現し、室内の温度が急激に下がる。
「っきゃあああああ!」
 ギッシリと幽霊の詰まった部屋の中で、由貴子の悲鳴が木霊した。


 
 その後、大量の幽霊たちをナビゲーターとして森にキノコ狩りに出かけた五人は、大量のキノコを収穫し、旅館に戻るころには既に日も落ちかけていた。他の人も戻って来ていて、皆がそれぞれ収穫してきたキノコを見せ合っている中、シュラインがキノコを料理してもらえるように旅館に頼んで、夕食はキノコパーティへと変わった。
「松茸、焼くわよー!」
「おー!」
 皐月が音頭を取り、網に松茸を置いていく。焼き上がるのをワクワクと待っている智恵子と代真子に、お吸い物を飲んで幸せそうに溜息を吐くシュラインと、満足そうな真直瀬。ガツガツとキノコご飯を頬張る五代と北斗に、サラダに舌鼓を打つブルーノと由貴子、ホイル焼きを突付く唐島と零。皆それぞれバラバラの料理を食べているのだが、感想は一様に同じだった。
「はぁー、幸せー」
「うめぇ! すげぇうめぇ!」
 食べても食べても無くならないキノコの量に、食欲は遠慮がない。聞けば自分たちだけでなく、他のものも幽霊に助けられてキノコを発見したという話で、シュラインは後ろで零にご飯を手渡している青年の幽霊に笑いかけた。
「何だか悪いわね」
「いえいえー。こういうのも楽しいっすよ。あ、兄貴。ご飯おかわりいかがっすか?」
「おお、頼む。……って、何か知らんが、懐かれてねぇか、俺」
「良いじゃないですかー。慕われることは良いことですよー」
「そうですよー。僕も幽霊さんと仲良くできるように精進致します!」
 脅して以来、なぜか自分のことを兄貴と呼んでくる幽霊に唐島が苦笑すると、零とブルーノの天然二人がにこにこと笑う。その和やかな様子に、シュラインはこういうことなら、武彦さんもくれば良かったのにと、今頃一人でインスタントラーメンでも食べているであろう男を思い浮かべながら、静かにお吸い物を啜った。










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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)       
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1335/五代・真/男性/20歳/バックパッカー】
【3948/ブルーノ・M/男性/2歳/聖霊騎士】
【4241/平・代真子/女性/17歳/高校生】
【4567/斎藤・智恵子/女性/16歳/高校生】
【4657/白鳥之沢・由貴子/女性/16歳/高校生】
【4697/唐島・灰師/男性/29歳/暇人】
【4987/真直瀬・夕闇/女性/18歳/闇と光の狭間の門の番人】
【5696/由良・皐月/女性/24歳/家事手伝】
【5698/悟・北斗/男性/17歳/退魔師兼高校生】

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         ライター通信                    
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はじめまして、緑奈緑と申します。今回はツアーに参加して頂いて、まことにありがとう御座いました。ツアーの方は如何でしたでしょうか?楽しんで頂けましたでしょうか?
この作品は「シュライン・エマさま」と「ブルーノ・Mさま」、「白鳥之沢由貴子さま」、「唐島灰師さま」の幽霊とのんびりチームのストーリーですので、宜しければ他のチームの作品も読んで頂けましたら嬉しいです。

久しぶりの受注の上、オフラインでは引越しの真っ最中という、何やら強行的なスケジュールで色々大変でしたが、書き上げられて良かったです。やっぱりコメディは書き易くていいですね。これからもコメディ路線で行こうかと思ってます(笑)。

それでは、もしかしたらまた変なツアーを考えるかもしれない(というよりは、まだネタが残ってたりしたり・笑)ので、宜しければご参加下さい。

それでは、またの機会にv