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<東京怪談・PCゲームノベル>


神の剣 異聞 Invisible Blade 3

 あれから友情を深め、退魔行も2人で行う事が多くなる織田義明と衣蒼未刀。
 義明は未刀に剣と神秘を教えていた。
 彼は知識を徐々に物にしていく。
 あなたも未刀の変わる姿が楽しく思えた。
 最も、あなたの場合、複雑な心境なのは確かであろう。

 ある日、2人は大きな仕事に出掛ける。まずは下見だ。
 どうも、おかしなマンションがあるらしい。死人の山を見つけたと通報が入ったのにも、駆けつければ、そんなことは全くなかった。
 警察では全くわからないようになったため、長谷家に“仕事”が来る。其れを通じて、義明達が仕事を受け持つ形になった。
 故に、建築家でもないが、下調べで一度訪れる。義明。
「異様な気分になる」
 未刀が呟く。
「固有異界か? 超越するための儀式なのだろうな」
「超越……こんな能力をもって何を得たいのだろう?」
「何、霊長の魂の高みを目指すなど、魔術師を筆頭に神秘使いにとって基本的なことだ」
「そうか……」
 お互い、まずは間取りを調べた後、本業準備の為に一度戻る。
 “気配”がする。
「魔術師か……三滝を思い出す」
 義明はごちた。
「三滝?」
「ああ、前にかなり戦った死者の魔法使いさ」
 
――あの神の子に封門の剣士か……。
――嬉しいぞ……織田義明、衣蒼未刀……そして……
 
 “気配”は喜んでいた。


〈穂乃香〉
「心配です」
 常花の館で織田義明と、衣蒼未刀をずっと待つ少女、橘穂乃香。
 彼らの仕事というものはかなり危ないものである。彼女が一緒に付いていくわけも行かない。なので、こうして自分の家で待っている。
「穂乃香が行っても、お二人に迷惑がかかってしまいます……。我が儘を言っては行けないのです……」
 と、溜息をつく。
 ここは、本当に楽園だ。世界は何故混沌としているのだろうと、何故危険な事があるのだろうと、幼い心で思う穂乃香。常花の館は植物によって護られている結界の一種、安全といえるだろう。しかし、その館から出れば混沌とした世界。決して出ては行けない。彼女は世界というモノを知らなさすぎるのだ。
 彼女は心配のあまり、その完全に安全な館から出てしまった。

 ――其れがきっかけ。

 “意志”は彼女を呑み込む。
 彼女は、植物たちのざわめきを聞いていた。
 ――どことなく不安で
 ――元気がない
 ざわざわと植物が言っている。
「元気がないのは……穂乃香の気持ちの為ですか?」
 と、呟く穂乃香。
 しかし、身体は全く自分の意志を無視している感じだ。

――どこに向かうのでしょう? わたくしは……

 気が付けば、穂乃香の身体は全てが死んでいるようなそして生きているような巨大な塔に向かっている。此処がなんなのかは穂乃香にはまだ分からなかった。植物が、彼女を護る事も出来ない。何かを落とした。金属音を聞くが何を落としたのか分からない。非常に危険な空間に入っていく穂乃香。
「う……あ……」
 穂乃香はその異界に心を苦しめられる。
 生と死を両方持つ、矛盾した世界が彼女を苦しめているのだ。まさに其処は異世界である。
「たしか……ここは……未刀さんが……」
 と、何かを思い出したのだが、エレベータが開いたとき、彼女の意識は途切れた。



〈2人の剣士〉
 織田義明と衣蒼未刀が現場での下調べを終えた後、他に情報がないか義明の家にて調べモノをしていた。そこで、2人は何か違和感を覚える。
「この感覚は……なんだ?」
 と、言った。
 何か大切なモノを失うような感覚。
「……! 穂乃香が危ない」
 と、衣蒼が立ち上がるが、義明がそれを止めた。
「落ちつけ! 彼女がどこに行ったのか、誰に囚われているのか分からない!」
「しかし!」
「あのな、未刀。急いで行きたい事は分かる。しかし、闇雲に捜しても時間を浪費するだけだ。落ち着いて行動するんだ」
「……くっ」
 未刀は座った。
 そして、数分後。
「まず、常花の館に戻ろう」
 義明は、資料を纏めて立ち上がった。
「……ああ」

 急いで常花の館にやって来たが、其処には彼女の気配がなかった。
「やはり何か!」
 焦る未刀に反して冷静な義明。
「落ちつけと言っている」
「なぜ、あんたは落ち着いてい……!」
 未刀は義明の胸座を掴もうとしたが、止まった。
 義明の握り拳から血が出ているのだ。
 ――彼は我慢している。努めて冷静にしているのだ。
「……すまない」
「まず、彼女がどこに出かけたか調べよう。杞憂で終わればいいのだけど」
 義明は、彼女の写真を未刀に渡し、館の奥の方に入る。
「あんたは……?」
「もう少しあのマンションを調べる。その後、追いつくから」
「……分かった」
 と、2人は別れた。
 義明はあまり口にしないが、穂乃香を心配しているのだと未刀は確信していた。最悪の展開を見越しての調査なのだろう、と。


〈胎動〉
 ――此処に向かうはず。其れまで殺しはしない。
 と、謎の声がする。
 穂乃香は未だぼんやりとしていた。何かに漂っているような感覚。しかし、其れは気持ちよいものではない。母の胎内で眠っているときのようなものではない。そう、寒く、何かの悲鳴が耳から離れないのだ。
「こ、こわい……。寒い」
 ――た、たすけて……
 牢獄。何かが懇願する。其れは雑音と思えないほど鮮明であるが、彼女には何なのかが分からない。意識が未だ完全に戻っていないからだ。
 ――植物の加護を“たす”得ているか……。しかし、ここ“け”は加護を向こうに“て”する。
 謎の声に混ざって何かが助けを呼んでいる。
 ――ご、ごめんなさい……穂乃香……力になれなくて……。未刀さんと義明さんのご迷惑になって……
 彼女は泣いた。
 植物の加護があれ、彼女は非力なのだ。
 護ってくれる青薔薇も居ない。
 この、何か胎動する世界に彼女は漂うだけ。

 全ての始まりの力を得て、神にならんとする魔術師の贄となるまで彼女は生かされるのだろうか? それとも彼女は単に……なのだろうか?

 ――今は眠るが良い。時間はまだある。
 と、主らしい者は花の姫君に言った。


〈行く先は〉
 未刀は穂乃香の足取りを追うため、聞き込みし続けていた。義明は何かと睨めっこしているらしい。そんなときに義明の携帯に未刀から電話がかかった。
「もしもし、未刀か」
「厄介な事になった」
「どういう事だ?」
「穂乃香は俺たちの向かうマンションに向かったらしい。彼女は俺たちの事が心配だったんだ」
 その言葉に、義明は沈黙する。
「どうした?」
「……そうか……まだ、急いで行かなくても良いかも知れない。一度戻れ、未刀」
「何を悠長な! 早く救い出さなければ……」
 焦っている未刀の声。
「落ちつけ! いま、急いで向かってもどうもならないだろう。確証を得る方が先なんだ」
「……俺は穂乃香を護ると約束している!」
「それなら尚更だ。力あるモノは力に惹かれ合う。厄介ごとにも何事にも。その時は、常に死と隣り合わせになると言う事をお前も分かっているはずだ」
 そう、今の状況では義明は慎重になりたかった。
 逆に、自分に怒りを覚えていた。義明は、未刀と同じような経験をしており、人に危害を与えるなら消えた方が良い、自分1人で何とかしようと考え、悩んでいた事があったのだ。今ではかけがえのない友人恋人のおかげで前向きに生きている。いつか、“影斬”として目覚める修行をしている。仕事も大事であるが、今は穂乃香の救出が第一だった。その前に、今焦って熱くなっている未刀を宥めないと行けない。「常に冷静に」と、師・エルハンドが言っている。ただ義明は若い、今でも飛び出したい気分である。義明にとって、穂乃香は何となくだが妹のような存在なのだ。
「……焦って向かうな……俺が追いつく」
「……急いでくれよ」
「ああ」
 義明は電話を切ってから、溜息をつく。
「怒られるかな……“ ”に」
 大きな鞄を持って義明は出かけていった。

 2人は合流すると、未刀は驚く。義明の持っている大きなトランクに。
「トランクを持ってどうするつもりだ?」
「今回は穂乃香の救出と事件の解明だ。これはとても役に立ちそうなものだ」
「そうか……」
 コーヒーを飲んだ後、カフェを出、あの怪しいと言われるマンションに向かう。
 が、2人は立ち止まった。
 ――花の姫君は預かっている。
 頭に響く声。
「な!」
「念話だな。テレパシーとも言うが」
 ――お前達の力と魂を引き替えに彼女を自由にしよう。
「断る!」
 未刀は心の中で叫ぶ。
「俺の魂は俺のモノだ。其れに神格はムリに手に入れるものではない」
 義明も強い意志を持って拒否している。
 ――交渉決裂か。実力行使で行こう……
 と、意志は消える。
「急がないと……」


〈暗黒の塔〉
 マンションにたどり着く2人だが、未刀は何か光るモノを見つける。
「これは、穂乃香の……ものだ」
 未刀は、途中に穂乃香が大事にしているペンダントだ。
 それには、植物の蔦が絡まっている。
「植物(彼ら)が知らせてくれたんだな……まっていろ」
 と、未刀は義明を見る。
 義明は頷いた。
 その異界の中に入っていく。
「ところでそのトランクの中身って何だ?」
「秘密だ。切り札だな」
 と、重たそうにトランク持ってくる義明。
 ――来たか……
 声がする。とたんに、上の階から何かがやってくる。
「人形?」
「そのようだな」
 2人は構え、人形を追い払った。
 未刀はペンダントにからみついている蔦は、かなり震えている様な気がした。何かを捜しているようだ。未刀は其れが誰かと理解した。
「穂乃香を捜しているんだ!」
 そのふるえはエレベータに近くなるほど強くなる。
「地下!」
 彼は、走り出した。
「エレベータからではムリだ。鍵がかかっているが階段を使え!」
「ああ!」
 と、義明の声を聞いて、彼は地下に通じるであろう螺旋階段に走っていった。
 ――神の子よ、悪あがきはよせ。
「お前こそ神に到達するのはよすんだな。“私”が誰だか分かっているはず」
 エレベータから現れた黒い影に義明〜影斬〜が睨んでいた。

〈胎動のなか〉
 鍵を破り、地下に降りる未刀。
「穂乃香! こ、これは!」
 中はまるでボイラー室。
 その中に、壜が並べられている。その上にパイプが天井に向かって伸びていた。
 その壜の中身は見たくない。義明から手に入れた情報からすれば“あれ”である。
 ――見てはならないものだ。
「穂乃香……」
 祭壇らしき場所に、彼女が眠っていた。
「良かった無事だ」
 しかし穂乃香は泣いている。
 寝言で、御免なさい。助けられなくて、ごめんなさい、ごめいわくを……と。
「穂乃香大丈夫だ……悪夢は終わるから」
 未刀は、彼女をしっかり抱きしめた後、Invisible Bladeを抜刀し、周りの壜を破壊した。


〈トランク〉
 人形がぼとぼとと倒れていく。術が切れてしまったようだ。
 ――私の術が!
 影斬が、慌てふためく黒い男に溜息をついて……言った。
「もう少し、力を持っていれば違っていたな。まあ、どこでその知識を得たかは知らないし、私が知りたいわけではない。たんに、抑止としての責務……お前は消えろ」
 と。
 そして、彼はトランクを蹴った。とたんにトランクは動き……乱暴に開いた。
 中身はなにか、なにやら棘の付いたムチがおさまっている。
「全くこれをこの中にしまうのに時間を食った……。おい、主を誘拐したヤツが其れだ」
 と、棘の付いた緑のムチは、黒い男に襲いかかる。
 ――ば、ばかな! こ、こんなにあっけなく……
「失敗は、こういう“切り札”を彼女は持っていると知らなかった事だ」
 蔓により、闇に包まれた男は絶命した。


〈その後〉
 マンションに中身は、見るまでもない無惨なものだ。
 人形の死骸と本当の死骸が入り交じっていた地獄。しかし、少し違うのは……。
 薔薇の蔓がマンション内を破壊しているところだろう。
「穂乃香は無事だ」
 地下から未刀が現れた。
 薔薇の蔓が彼女の安否を確認すると、安堵して、破壊行動は落ち着いたようである。
「お前も結構大変なモノのだから入れ」
 影斬が言うと、蔓は渋々トランクの中に入った。そのあとの、中は空っぽというより暗闇だ。
「??」
 未刀は首を傾げる。
 知らない方がいいだろうと彼は思った。
「さて、帰るか」
 義明は何でもないように言った。

 後の処理は、長谷家がするらしいので、未刀と義明は穂乃香を抱えて帰っていく。

 彼女は夢の中。
 常花の館のなかでも一番広いところで空を眺める。
 植物と共に、天に召す人々を見送った。
 ありがとうと声が聞こえる。



「穂乃香は別に…… ?」
 彼女はベッドで眠っていた。
「大丈夫?」
 未刀が彼女の額を撫でる。
「ほ、穂乃香……皆さんに迷惑を……」
「? どういうこと?」
 首を傾げる。
「迷惑と言えば迷惑かな」
「義明!」
「一緒に出かけて、いきなり倒れるんだ。其れは迷惑だろう」
 と、義明は水と薬をもってやって来た。
「あ、ゆ……夢?」
 一体あれは何だったのだろう?
 曖昧にしかない記憶。
 しかし、未刀も義明もとても優しい顔をしている。
「ごめんなさい」
「今度元気なったら、また出かけようね」
 と、義明が言う。
「はい♪」
 穂乃香は元気に返事をした。

 ベッドの傍らに、ペンダントが光っている。


4話に続く


■登場人物
【0405 橘・穂乃香 10 女 「常花の館」の主】

【NPC 織田・義昭/影斬 18 男 天空剣士/装填抑止】
【NPC 衣蒼・未刀 17 男 妖怪退治屋(家業離反)】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『神の剣 異聞 Invisible Blade 3 退魔』に参加して下さりありがとうございます。
 とらわれのお姫様という展開で書きましたが、如何でしたでしょうか?
 4話はフリープレイングです。2人に対しての気持ちを書いて下さると、更に関係結果に影響します。


 では、4話で……。