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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


魔を解き放つは其の頭脳

□Opening
 アンティークショップ・レンの片隅で、魔力を失った本が八冊。
『いや、ワシは【兌】よりも後ろじゃった、それから、【離】よりも前じゃ』
 【乾】が口を開く。
『そうじゃ、それから、ワシら【乾】【兌】【離】は連続してないぞい』
 【兌】は、そう付け足した。
『俺は前半だったな、でも、最初じゃなかったさ』
 【震】もそれに従う。
『あの、僕は後半でした……けれど、最後じゃ有りません』
 【巽】は遠慮気味に主張した。
『はい、あたしは三番目だった』
 とは、【坎】。続いて【艮】が
『我の前に何か有った……それは【巽】では無いな』
 と。
『俺の前には【艮】があったさ、……俺の次にも何か有ったが、それは【乾】じゃないさ』
 最後に【坤】が主張した。これで八冊、全ての言い分。蓮はゆっくり煙を吐き出した。
「つまり、元通り並びなおせば、魔力が戻るんだね?」
 蓮のその問いかけに、本達は力弱く頷き返した。
 この本達の、正しい並び方……それは一体――?


■01
 薄暗い店内。難しい顔をした……いや、ほんの少し不機嫌そうな顔をした蓮を見つけ、シュライン・エマは本棚へ歩み寄った。
 蓮の視線の先、ざわめく本達を確かめるように覗き込む。
 なるほど、確かにかなり弱っている様だ。
「……で、どうすりゃ良いと思う?」
 蓮の問いかけに、シュラインはメモ帳とペンを取り出した。


□02
「確実な【坎】を中心に、前半後半に分けて考えてみましょう」
 最初に櫻・紫桜(さくら・しおう)が発言した。本の証言のみをヒントに考えると言う事か。その言葉に、頷いたのは天慶・真姫(てんぎょう・まひめ)。
「そうですね、まず【坎】さんが三番目」
 静かに微笑み、同意を示す。

> 【坎】『はい、あたしは三番目だった』

 このように、はっきりと順番を主張しているのが【坎】なので、それを基準に考えるのだ。二人は、そこで軽く挨拶を交わし、自分たちの考えを確認しはじめた。次に確実なのは、

> 【坤】『俺の前には【艮】があったさ、……俺の次にも何か有ったが、それは【乾】じゃないさ』

 との【坤】の言葉か。
「【坤】さんのお言葉から、【艮】さんと連続していることが分かります」
 真姫が穏やかに確認する。静かに頷くと、長い黒髪がはらりと動いた。
「二冊がセットで、一番前ではないという証言から三番以降」
 紫桜も丁寧にそれに続く。これは、

> 【艮】『我の前に何か有った……それは【巽】では無いな』

 と言う【艮】の言葉からだ。前に何かあると言う事は最初ではないと言う事。また、【艮】が二番に来ると、【坤】が三番という事になるが、三番は【坎】と決まっているので、これは違う。
 つまり、【艮】【坤】は並んで三よりも後と言う事になる。
「えっと、この二冊、五・六番目で良いかな?」
 そう言いながら、紫桜が照れた様に笑いを浮かべた。それはつまり、カン、なのだけれども。一瞬覗かせたその表情は、まるで普通の高校生の少年のよう。いや、落ち着いた言動から忘れられる事も多いのだが、彼はれっきとした高校生なのだから。
「ええ、お二方は五・六番目に入って頂きましょう」
 紫桜の表情は伝わったのだろうか? 真姫は優しく微笑み、彼に同意する。
「そういたしますと、必然的に【巽】さんが七番目となりますわね」
 つまり、後半五・六が決定すると、

> 【巽】『あの、僕は後半でした……けれど、最後じゃ有りません』

 と言う【巽】は後半残った七番目。真姫の言葉に今度は紫桜が頷く番だった。
「四番目が【乾】さん、八番目が【離】さん。そうして【震】さんが二番目ですので、余った一番が【兌】さん……」
 すらすらと、淀み無く真姫は語る。三番が決定しているので、連続していない【乾】や【離】も決まってくる。そうして、出た結論は……
「【兌】【震】【坎】【乾】【艮】【坤】【巽】【離】となります。いかがでしょうか?」
 皆様のお言葉には全て従ったつもりなのですけれど……と、真姫は少し首を傾げ、本達を除き込んだ。まだそれは分からない。本達は、それでもざわざわとお互いを見合わせていた。
「うん、俺も、【兌】【震】【坎】【乾】【艮】【坤】【巽】【離】だと思います。合ってるといいのだけれど……」
 紫桜も同じ結論のようだ。
「……何だか、ややこしい話だね」
 しかし、二人の会話を静かに聞いていた蓮は、難しい顔をして固まっていた。一つ一つを聞いていると納得できるのだが、如何せん、情報量が多くてかなわない。
 その様子に、シュライン・エマがそっと耳打ちした。
「蓮さん……こう言うのは、紙を使ってシミュレートすれば良いと思うの」
 そう言って、メモ帳の白紙ページをパラリとめくった。


□03
「まずは【兌】【乾】【離】をそれぞれ空間を置いて並べ……」
 その言葉通り、シュラインはメモ帳にすらすらと書き出す。

# 【兌】  【乾】  【離】

 これは、

> 【乾】『いや、ワシは【兌】よりも後ろじゃった、それから、【離】よりも前じゃ』
> 【兌】『そうじゃ、それから、ワシら【乾】【兌】【離】は連続してないぞい』

 と言う二冊の主張からだ。
「次に【坎】と、前半と言う【震】を左に避けて……」

 つまり、

>【震】『俺は前半だったな、でも、最初じゃなかったさ』
>【坎】『はい、あたしは三番目だった』

 と言う両者の主張から、前半に分類するのだ。
「そうね、【兌】【震】【坎】【乾】との仮定の順で並べてみましょう」

# 【兌】【震】【坎】【乾】

 と、シュラインのメモ帳には、このように記述された。
「矛盾すれば、変更すれば良いって奴かい?」
 蓮は書き出された文字を確認しながら、静かに問う。背理法と言う証明の手法だろう。つまり、矛盾が無ければそれで正解と言う事か。
「【艮】【坤】並びはセットで末尾以外と考えれば良いから、仮に【乾】と【離】の間に置く」
 シュラインは、頷きながら更にペンを走らせる。

# 【兌】【震】【坎】【乾】【艮】【坤】【離】

「後半主張の【巽】は【艮】前にはないし最後ではないから【坤】と【離】の間に挟んでみる、と」

> 【巽】『あの、僕は後半でした……けれど、最後じゃ有りません』
> 【艮】『我の前に何か有った……それは【巽】では無いな』

 一つずつ、証言と照らし合わせながら、書きこんで行く。

# 【兌】【震】【坎】【乾】【艮】【坤】【巽】【離】

「そうなると順序は……【兌】【震】【坎】【乾】【艮】【坤】【巽】【離】になるのではと思うのだけれど」
 蓮にも見える様にメモ帳を傾け、シュラインは並んだ文字を確認した。どうやら、結論が出た様だ。
「どうかしら?」
 と、シュラインは再び本達に視線を向けた。
 その隣で、スムーズな説明は流石だな、と、蓮は何度か瞬きをした。


□04
 皆の様子を静かに眺めていたのはササキビ・クミノ。確かに、言い分のままに並べて行けばすぐだと思うのだけど……。何か他に、もっと違う解答があるかと考え込んでいた。
「というか散歩もいいけど並ぶ順番なり札にして持っておけば?」
 と、クミノの上から本達へ冷ややかな視線を向けるのは由良・皐月(ゆら・さつき)。面白店内だからって自分達がへろへろになっちゃ意味無いじゃないと、本達へ追い討ちを掛ける。厳しい指摘に黙り込む本達。しかし、皐月はそんな本達を後目に、クミノへ笑顔を向けた。
「で、クミノさんはどう思う?」
 あまりに自然に話題を振られたものだから、クミノは驚いて見上げてしまった。一呼吸置き、ゆっくりと結論を口にする。
「【兌】【震】【坎】【乾】【艮】【坤】【巽】【離】の順」
「その心は?」
 何となく、なのだけれども。
 皆の輪から少しだけ離れた所にいるクミノを放って置けなかったのだ。皐月はクミノに次の言葉を促した。
「言い分通りにそのあり得る順の数字をふっていく」
 皐月の事をどう感じたのだろうか。クミノは静かに語り出した。あり得る順の数字を振っていく――。その一言に、皐月が何やら書き出した。

#     一 二 三 四 五 六 七 八
# 【乾】 □ □ □ □ □ □ □ □
# 【兌】 □ □ □ □ □ □ □ □
# 【離】 □ □ □ □ □ □ □ □
# 【震】 □ □ □ □ □ □ □ □
# 【巽】 □ □ □ □ □ □ □ □
# 【坎】 □ □ □ □ □ □ □ □
# 【艮】 □ □ □ □ □ □ □ □
# 【坤】 □ □ □ □ □ □ □ □

 出来たのは、横に番号、縦に本名のマス目だった。
「【兌】は1234、【乾】3456、【離】5678のどれか」
 クミノの数字にあわせ、皐月はそのマス目にチェックを入れて行く。可能性が無いマスは、バツで塞ぐ。

#     一 二 三 四 五 六 七 八
# 【乾】 × × □ □ □ □ × ×
# 【兌】 □ □ □ □ × × × ×
# 【離】 × × × × □ □ □ □

「【震】は先頭で無い前半234、同じ様に【巽】は567」

#     一 二 三 四 五 六 七 八
# 【震】 × □ □ □ × × × ×
# 【巽】 × × × × □ □ □ ×

「【坎】は3なので【兌】124、【震】24、【乾】456」

#     一 二 三 四 五 六 七 八
# 【乾】 × × × □ □ □ × ×
# 【兌】 □ □ × □ × × × ×
# 【離】 × × × × □ □ □ □
# 【震】 × □ × □ × × × ×
# 【巽】 × × × × □ □ □ ×
# 【坎】 × × ○ × × × × ×

「前を持つ【艮】は245678」

#     一 二 三 四 五 六 七 八
# 【艮】 × □ □ □ □ □ □ □

「【艮】【坤】は1単位となり前後を持つ【坤】は567【艮】456」

#     一 二 三 四 五 六 七 八
# 【艮】 × × × □ □ □ × ×
# 【坤】 × × × × □ □ □ ×

 各本の言い分を確認する様に、二人は出来あがった表を見た。縦の番号を確認し、一つしか該当の無いものからマルを付けて行く。
「まず、【兌】が一番、となると、【兌】の行二・四番にバツが入って……」
 皐月が、更にバツを書き足し、呟いた。
「【離】八確定、【坎】三確定……」
 それに続き、クミノも確認する。確定した本の行空欄に、更にバツを書き足し……。

#     一 二 三 四 五 六 七 八
# 【兌】 ○ × × × × × × × (確定)
# 【離】 × × × × × × × ○ (確定)
# 【坎】 × × ○ × × × × × (確定)

「【艮】【坤】の後に【乾】は来ない為4【乾】5【艮】6【坤】、7は8でない【巽】」
 と、一つ一つ、クミノが確定して行く。頷きながら、皐月は表を完成させた。出来あがった表は、以下の通り。

#     一 二 三 四 五 六 七 八
# 【乾】 × × × ○ × × × × (確定)
# 【兌】 ○ × × × × × × × (確定)
# 【離】 × × × × × × × ○ (確定)
# 【震】 × ○ × × × × × × (確定)
# 【巽】 × × × × × × ○ × (確定)
# 【坎】 × × ○ × × × × × (確定)
# 【艮】 × × × × ○ × × × (確定)
# 【坤】 × × × × × ○ × × (確定)

 クミノと皐月、二人の結論は共に【兌】【震】【坎】【乾】【艮】【坤】【巽】【離】となった。


□05
「で、結局、皆意見は同じだね?」
 納得したのかそうでないのか。蓮はそれでもにやりと笑い、一同を見回した。
「そうね、本達、かなり弱ってきている様だし、可能性高いようなら試しましょ」
 とは、シュライン。パタンとメモ帳を閉じ、後は蓮が動くのを待つのみ。
「万が一魔力を失ってしまわれても、私が買い取らせて頂きますので、どうかご安心下さい」
 と、真姫は微笑んだ。その言葉に、驚いて一歩引いたのは皐月。と言うのも、彼女はひやかしのつもりで、ちょっと店に寄っただけなのだから。
 そのやり取りに頷きながら、【兌】を蓮が手にした時、クミノがポツリと呟く。
「実際の置き順はその逆かもしれない」
 その言葉に、紫桜は首を傾げた。そう言えば……、本は左から置くのだろうか? 蓮の手元、本をもう一度見る。
「ああ、右綴じですね」
 と、真姫にも伝わる様に、声に出して確認した。
「じゃあ、もう良いかい?」
 蓮はそう確認し、今度こそ本達を並び替えた。


□Ending
「ところで、この本達の魔力って何です?」
 その言葉が方角を示すものとは知っていても、それ以上の事は詳しく知らない。紫桜が疑問を口にした。
「風水の八卦……ね?」
 シュラインも、興味深げに少し身を乗り出す。
 しかし、蓮は二人の疑問に笑みを浮かべただけ。淡々と、本を並べて行く。【兌】【震】【坎】【乾】【艮】【坤】【巽】……左から順に、棚に納まる本達。
 最後の一冊【離】が、そして、今とんと置かれた。
「……何? もしかして、光るだけ?」
 まず、見たまま呟いたのは皐月だった。暗い店内に、並んだ本の光が少し。力が戻った事は、それで分かったのだけれど……。そんなたいそうなものでもないような……?
「ほら、本は手にとって見るもんさ」
 本に魔力が戻った事を確認し、蓮はそれぞれに本を手渡した。一度魔力が戻れば、すぐにでも機能が戻るらしい。
「まぁ……、これは……」
 【乾】を手にした真姫の脳裏に、浮かんで来たのは眩しい青空。何故? と、問うまでもない。可視か不可視ではなく、その青空はそこにあった。本が直接語りかける。つまり、真姫は本を読んでいるわけなのだけれども……。この本達を読むと言う事は、直接感じ取ると言う事か。
「……ふぅん」
 と、【坎】を手にしたクミノは、ため息を一つ。見えたのは、静かに優雅に流れる、清らかな水。
「ああ、これは凄いな」
 【震】から流れ込んできたのは、いつか見たあるいは見たことも無いような激しい雷。紫桜は物怖じする事無く、その光景を楽しんだ。
「へえ、良いんじゃない?」
 【艮】を手に、皐月はにっこり微笑んだ。現れたのは、雄大な山脈の風景。朝露に濡れる木々の匂いまで伝わって来そうだ。
「ええ、素敵ね」
 【巽】を手にしたシュラインの頬を、優しい風がなでた。手を触れる事は出来ないが、それは、本が語りかける不思議なビジョンだった。

『おおーい、そろそろ並ばせてくれんかのー?』
 そして、一定時間で魔力が減って行く様だ。【兌】の呼びかけに、一同は慌てて本達を棚に戻したのだった。

――何て手間のかかる本達なんだよ
 と、
 その様子に蓮は一人ぶつぶつ呟きを漏らす。
<end>
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086/シュライン・エマ/女性/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 1166/ササキビ・クミノ/女性/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。 】
【 5453/櫻・紫桜/男性/高校生 】
【 5696/由良・皐月/女性/家事手伝 】
【 1379/天慶・真姫/女性/天慶家当主 】

(※:登場人物一覧は発注順で表示させていただきました。)

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■         ライター通信          ■
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 と言うわけで、皆様、ご正解おめでとうございます。ライターのかぎです。この度は、依頼へのご参加ありがとうございました。
 パズルの難易度はいかがでしたか? 皆様、とてもあっさり正解されていらっしゃったので、簡単過ぎたか、とひっそり反省中です。
 ■部分は個別描写、□部分は共通描写になっております。個別描写が少なくてすみません。パズルが主体の依頼でしたので、パズルの解答部分に重点を置いての描写になりました。
 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


シュライン・エマ様
 はじめまして。初めてのご参加ありがとうございました。シュライン様には、蓮への説明役という重要な役をお願いしました。丁寧に簡潔に、分かりやすい説明をありがとうございます。
 さらりと説明役をこなせると言うのも、シュライン様の魅力かなと感じながら書かせていただきました。
 では、また機会がありましたら、よろしくお願いします。