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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


萌え系はいかが?

1.
「ツインテール・メガネ・妹…萌え系といわれる数ある属性。
 しかし、今もっともブームなのが『ツンデレ』なのデ〜ス!」

「ちょっと待たんか! それとこれとがどういった関係にあるかと聞いているんだ!」
 いつものごとく閑古鳥の鳴く草間興信所で、草間武彦は話の進まないこの状況に苛立ちを隠しきれなかった。
 だが、目の前の相手・マドモアゼル都井(とーい)はそんなことお構い無しに話を進める。
「『ツンデレ』…ツンツンとした態度が好感度を高めることによってその態度を軟化させデレデレ状態になる、すンばらしい萌え属性…」
「だから! その話とこの目の前にある俺の形をした人形とどういう関係があるのかを説明しろといっているんだ!」

 そう。確かに今草間の目の前には草間武彦をそのまま模した等身大の人形が静かに立っている。
 それは人形といわれる物の中でも最高級な出来のよさで、草間本人が見ても鏡を見ているようにそっくりである。

「オォ! こちらご紹介が遅れマ〜したが、萌え系ツンデレ人形のプロトタイプ・クサ〜マ君デ〜ス!」

「!!??!」
 草間の表情が一気に凍りついた。
 しかし、そんなことはお構い無しにマドモアゼルは話を一気に進めだす。

「こちらの萌え系ツンデレ人形を試運転させていただこうと思って持ってまいったのデ〜ス! オォウ! そんな感謝の言葉は要りまセ〜ン。アタクシと草間サンの熱い友情の前にそのようなお礼は無意味デ〜ス!」

「待て! 誰がいつおまえと友情を交わした!? って、それよりも試運転って何だ!?」
「明日、クサ〜マ君をお迎えにあがりますので、皆様でお試しいただいて感想をくだサ〜イ。もし、評判がよいようなら量産しなくてはなりまセ〜ン♪」
「ま、待て! 待てって!!! おい!! ………」

 そして取り残されたのは、萌え系ツンデレ人形プロトタイプ・クサ〜マ君と呆然と立ちすくむ草間の姿であった…。


2.
「草間さんと飲むのは、実に有意義な時間だ」

 最近の妻への言い訳はこれにつきる。
 梅海鷹(めいはいいん)は、袋の中に入った極上の酒とつまみを手に草間興信所への道を歩いていた。
 子供たちも世話になっている草間武彦のところに行くということで、妻は多少のことには目をつぶる気になったようだ。
 実に物分りのいい妻をもって、海鷹は幸せだった。

 草間興信所の前で、ばったりと見知らぬ青年に会った。
「草間さんとこの関係者?」
 おそらく高校生くらいなのだろう。
 少し不躾ではあったが、彼なりの配慮であることが感じられた。
「君もか? 私は梅海鷹という。よろしくな」
 にこりと笑うと、青年は不意を突かれたような顔をしたがすぐに元の顔に戻った。
「郡司沙月(ぐんじ・さつき)。よろしく」
 どうやらぶっきらぼうなだけのようだ。
 海鷹はお先にどうぞと手のひらを差し出した。
 沙月はそれに素直に従い、階段を上り始めた。

 と、なにやら興信所から話し声が聞こえる。
 どうやら先客がいるようだ。
 ガチャリとドアを開けると見慣れた顔のシュライン・エマと所長である草間がなにやら佇んでいる。
 が、それ以上に奇妙な事態になっていることに海鷹は気がついた。

「ん? 草間さんが2人?」

「…どうなってんの? これ」
 沙月がぱちぱちと目を瞬かせて、いぶかしげにエマに問いかけた。
 が、当のエマは不機嫌そうに少し考えると呟くように言った。
「奥に立っているのは人形よ。…それ以上聞かないで頂戴」
 とたん、奥で人形・クサ〜マ君と戯れていた唐島灰師(からしまはいじ)の声が聞こえた。

「スイッチ、オン!」

 ウィーン…カチカチカチ
 パソコンのような起動音とともに、ビクッとクサ〜マ君が身じろいだ。
「あぁ!? 唐島さん、スイッチ入れたんですか!?」
 エマは半ば怒りのこもった声でそう言ったが、灰師がにっこりと笑った。

 なにやら、一騒動ありそうな予感だ…。


3.
 エマと草間、海鷹と沙月が見守る中、クサ〜マ君は灰師の傍らで静かにその双眸を開いた。

[…どこだ、ココ?]

 声は少し違っていたが、変声機を使った草間の声もきっとこんな感じだろうと思われた。
「ここは草間興信所よ。…武彦さんの記憶を移されているわけではないのね?」
 エマが、少しホッとしたような声を出した。
 どうやら、あのクサ〜マ君というのは何らかの事情により作られた複製のようだ。
 エマがクサ〜マ君を草間の隣のソファに座らせた。
 話の全容がよく掴めないので、海鷹は草間を捕まえて事情を聞くことにした。

「で、あれは?」
「…俺の人形だと。なんでも『萌え系ツンデレ人形』とかいうらしい。試作品なんだとさ」
「試作品ということは…モニターテストをしろということか?」
「まぁ…そんな感じだ」
 歯切れの悪い言い方だったが、大体の事情は飲み込めた。
 どうりでエマの機嫌が悪そうなわけだ。
「しっかし、よくできてるな〜。草間さんそっくりじゃん。どうやって作ってあるんだ??」
 クサ〜マ君のまわりをぐるぐると回りながら、沙月は興味深そうに上から下まで眺める。
「…同じ顔が観察対象になっているのを見るってのは嫌な気分だな…」
 ポツリとこぼした草間の言葉に、海鷹は「仕方ないだろう」と笑った。 

 と、突然「とりあえず、試しとこうか!」と、声がして座っているクサ〜マ君めがけてこぶしが飛んでいく。

[うわ!! な、なにするんだ…!]
 こぶしを受け流し、クサ〜マ君が繰り出した張本人の灰師をにらみつける。
 どうやら故意犯のようだ。
「なるほど。身体能力的には同等…ってことか」
「唐島さん! 何をしているんですか!」
 台所から零とともにお茶を持って戻ってきたエマが、そう叫んでテーブルにお茶を置くと灰師とクサ〜マ君の間に割って入った。
「一応姿形は武彦さんなんですよ!? もう少し丁寧に応対していただきたいわ」
 そう言いながら、エマはテーブルに戻ると手際よく人数分のお茶を並べていく。
 不機嫌ではあってもその心遣いはさすがである。
「はいはい」
 灰師はそう言って、草間とクサ〜マ君を見比べている。
 海鷹はちらりと隣の草間を見た。
 草間はどうやらエマがクサ〜マ君をかばったことに対して少々不服らしい。
 不服らしいが、自分を大切にしてくれている気持ちから来た行動に対して言葉にすることは出来ないようだ。
 そして、さらにその隣では初めてクサ〜マ君を目にしたのであろう、零がマジマジとクサ〜マ君を眺めている。
 
  複雑な人間模様だな。

 そう思いながらも、海鷹は零にメイド服や猫耳がないかどうかを訊いてみることにしたのだった…。


4.
「やめろよ! 鬱陶しい!」

 背後からひっそりと被せた猫耳カチューシャは、見事にクサ〜マ君の頭に納まった。
 さらにクサ〜マ君は今、沙月から耳を引っ張られたり背後から抱きつかれたり。
 さらにさらに灰師からも髪を引っ張られている最中であった。
 クサ〜マ君も不服そうな顔だが、その台詞を吐いたのは他ならぬ草間自身であった。
 自分の姿をしたものがそのような仕打ち(?)を受けることに不愉快さを覚えているようだ。
 草間は猫耳を剥ぎ取ると、ポイっとゴミ箱に投げ入れた。

「メイド服もあるんだが…やはり着せるのはやめておきたい気がしてきたな」
 海鷹がそう言ってため息を1つついた。
「なんで? 草間さんもこんなに楽しそうだってのに??」
 沙月が海鷹の言葉にそう返すと、海鷹は静かにあごでとある方向を指した。
 そこには、静かに睨みをきかせるエマの姿があった。
「ちょ、ちょっとやりすぎたか…」
 沙月がその気迫に押されて引いた。
 まぁ、想い人と同じ顔した人形がここまで遊ばれていては不愉快にも思うだろう。

 と、突然、 カツーーーン  といい音が響いた。
 それは零に抱かれていたお盆が落ちた音だった。

 振り返った海鷹は、瞬間何が起きたのかよくわからなかった。

 零の頬にキスをする灰師の姿。

「………」
 突然の出来事に、零の表情が笑顔のままで固まいる。
 草間は青ざめて灰師を見つめている。
 しかし、草間よりもさらに青ざめたのはエマだ。
 沙月も状況がよくわからないらしい。
 クサ〜マ君は怪訝な顔で灰師を見つめている。

「かかかか…唐島ぁああぁ〜!!!」

 突然、我に返った草間がすごい勢いで灰師の胸倉をつかんだ。
「零になんてことをするんだ!? 仮にも嫁入り前の娘なんだぞ!?」
 気分は花婿のパパといったところなのか、草間は怒り心頭といった形相だ。
「あはは! その反応いいねぇ! そういうのとってもいいよ、草間さん」
 草間の腕をスルリとかいくぐり、灰師は満足気に笑った。
 そんな灰師を草間は執拗に追い掛け回す。
 余裕のない草間に対し、終始笑顔の灰師。
 
 灰師の行動は、どうやらクサ〜マ君を試したいのではなく、草間を怒らせたいがための行動だろう…と推察した。
 が、推察はすれど理解はできない。
 好きな子ほど苛めたくなる…という心理なのだろうか?

  これも一つの萌え、というヤツなのか?

 なんとなく、2人の姿を眺めてそう思っていた。

 持って来た酒とつまみは、次回までお預けになりそうだった…。

 
5.
 ―― 翌朝。

「ご希望通りにマドモアゼル参上でございマ〜ス!」
 バン!! と何の空気も読まずに草間興信所の扉を開け放ったマドモアゼル。
「…お前なんか呼んでない」
 と草間が嫌味ったらしく言ったのをサラリと無視して、居合わせた一堂へと会釈した。
「それでは、萌え系ツンデレ人形のご感想をお願いしマ〜ス!」

「う〜ん…女の子ならともかく、男をいじってもなぁ。いまいち面白みに欠けるんだよ」

 フムフムと、マドモアゼルはなにやらペンを走らせる。
「では、製品化のあかつきには…?」
「買わない。買うくらいなら自分の飲食代に使うね」
 即答した海鷹に、マドモアゼルはいささか残念そうに頷いた。

 そうして、萌え系ツンデレ人形の試運転は無事に終了した。
 いつもの日々が戻ってくると、次第にそのツンデレ人形のことはすっかり失念していった…。


6.
 そんなある日、動物病院に小さな箱が届いた。
 あて先はもちろん海鷹。
 差出人は…『マドモアゼル・都井』と書いてあった。
「…よくここがわかったな」
 ここの住所は教えていなかったと思ったが、ひとまず開封してみることにした。
 と、包装紙の下から一枚の手紙がひらりと落ちた。

『拝啓・前略 梅海鷹 様
 残念ながら、萌え系ツンデレ人形・クサ〜マ君は世に出すことができませんデ〜シた。
 ですが、更なる試作を重ね[萌え系ツンデレ人形・オーダーメイド]として新たに商品化することに成功したのデ〜ス!
 今回のご協力感謝感激雨あられデ〜スので、お礼を送付いたしますデ〜ス!
 See You!!××× 』

 一通り読み終えると、海鷹はおもむろに箱を開けた。
 中からは、小さな箱に入った申し込み用紙が出てきた。

 注意事項には[似せたい方の写真同封の上で、申し込み用紙をご返送ください]と書いてあった。

  なるほど。
  これなら草間さん以外の人間の顔にもできるわけだな。
  なかなか商品としては面白いな。

 脳裏にド派手なマドモアゼルの顔が思い出されて、海鷹は1人で笑った。
 今のところ、この申し込み用紙を返送する気はなかった…。

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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

3935 / 梅・海鷹 / 男 / 44 / 獣医

4697 / 唐島・灰師 / 男 / 29 / 暇人

2364 / 郡司・沙月 / 男 / 17 / 高校生(2年)/見習イヅナ使い?


■□     ライター通信      □■

 梅海鷹 様

 お久しぶりです。お届けが大変遅くなりまして申し訳ありません。
 この度は『萌え系はいかが?』へのご参加ありがとうございました。
 えー…クサ〜マ君が活躍しておりません。
 萌え系とか言っておきながら、まったく萌えがないあたりが不可思議な話となってしまいました。(^^;
 海鷹様の『男同士の友情で萌えが成立するか』を書いてみたかったです…。
 それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
 とーいでした。