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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


桐鳳救出大作戦!


 場は、それなりに緊張に満ちていた。
 草間興信所に桐鳳を誘拐したと脅迫電話がかかってきたのはつい数日前。
 そして昨日、とうとう取引場所と方法を指示する電話がかかってきたのだ。
 だが彼らの目的は金ではなく、零という存在―――心霊兵器としての零だった。
 そんな輩に零を渡すわけにはいかない。
「桐鳳ならある程度はなんとかするだろう。もとはといえば神様のくせに誘拐なんぞされたあいつが悪い」
 遠慮も知らずに草間興信所を自分の家のように振る舞う日頃の行いが悪いのか。
 最終的に武彦が出したのは、そんな結論であった。
 ――そして。
 武彦を含め桐鳳救出の依頼を受けた一行は、取引として指定された時間より少し前に、取引場所にやってきていた。
 よほど自信があるのか、それともバカ正直なだけか。
 幸いというべきか、彼らは取引交換品である桐鳳をこの場に連れてきてくれていた。
「さて、行くか……」
 取引など、最初からするつもりはない。
 多少のことなら桐鳳は自分で切り抜けてくれるだろうと言う結論の元、武彦は、しょっぱなっから強行手段を取ったのだった。



「ちょっと待って、武彦さん」
 一歩、歩き出そうとした武彦を遮って、シュライン・エマが制止の合図を向けた。
 シュラインは立ち止まった武彦と、出るタイミングを狙っている今回の依頼の協力者――亜真知と、白神琥珀、梧北斗――がまだ動き出そうとしないことを確認してから、改めてビルの中へと意識を集中させた。
 そうやってしばらく瞳を閉じていたシュラインが、心配そうに口を開く。
「向こうは五人よ。……まだ桐鳳くんの様子はわからないけど……大丈夫かしら」
「あれも一応神様だし、大丈夫だろ」
 答える武彦の声音は軽い。心配しているのは零のことばかりで、桐鳳のことはまったく心配してないらしい。
 確かに武彦の言う通りでもあるのだが、だとすればどうして、桐鳳が素直に掴まっているのか……その点がいささか気になる。
「……見た限りは、無事のようですよ」
 緊張した雰囲気にそぐわないゆったりとした口調で、琥珀が告げた。
「見えるのか?」
 北斗の問いに、琥珀はこくりと頷いた。
「僕は千里眼を持っていますから。このビルにいるのは五人きり……全員、人質の傍にいるようです」
「じゃあ、闇雲に突っ込んだらそいつが危ないか」
「取引に応じるふりをして近づいて、向こうの隙をついて桐鳳を掻っ攫うのが一番手っ取り早そうだな」
 人質を案じた北斗の台詞に続いた武彦の作戦案は、確かに手っ取り早いが、安全という意味では微妙なところだ。
 陽動で数を減らすという手もなくはないが、もし、彼らの仲間が近くにいて、彼らが助けを呼んだら……逆に向こうの手数を増やすことになってしまう。
「その作戦で行くのでしたら、人質が本物であるかの確認が必要ですね。……人質が無事なのは見えるんですけど、僕は本物を直には知りませんから、偽者だとしても見分けがつきませんし」
「それだったら、私がわかるわ。呼吸音や心音は人それぞれ違うから」
 琥珀の言葉にシュラインが答え、それからしばし話し合った結果。
 できるだけギリギリまで――もう少し音が聞こえる場所で、シュラインがあそこにいる桐鳳が本物かどうか確認し、確証がとれ次第、武彦の告げた作戦を実行することとなった。
「零を兵器として使おうだなんてぜってー許せねー……ボコボコにしてやる!」
 気合の入った北斗の台詞は、ここに集う者たちに共通の思いであった。





 琥珀の千里眼で敵の位置を確認しながらビルの中へと入り込み近づいた結果、シュラインは自身の記憶と照らし合わせてあの桐鳳は本物であろうと判断した。
 作戦は至極単純で、武彦が取引の話をしている間に亜真知が念話で桐鳳に状況確認。シュラインと琥珀は周囲への警戒。北斗は隠れてもらっておいて、タイミングを見計らって不意打ちをしてもらう。
「桐鳳を離してもらおう」
 告げて、武彦が誘拐犯たちの前へと姿を見せた。
 共に前へ出たのはシュラインで、琥珀と北斗と亜真知はまだ物影に潜んでいる。何かあった時、相手に警戒されずに動ける人間は多いほうが良い。
 念のためにビルの周囲に人払いの結界を張ってから、亜真知は桐鳳へと念話を送った。
『桐鳳様、ご無事ですか?』
 何故かしばしのタイムラグを置いて、予想外にのんきな桐鳳の声が返ってくる。
『あー……もうそんなに時間経っちゃったんだ。ごめんね、心配かけた?』
『いえ、ご無事なら良いのですけど……。どうして大人しく掴まっていたのですか?』
 捜索の時点からずっと気になっていたことを問うと、返ってきたのは予想通りの答えであった。
『今回、零さんのことがばれた原因に、僕の探し物が関わってるから。……僕ひとりじゃ難しそうなんだけど、亜真知さん、こっちに来れない? 道案内はするから』
『こっちに?』
 ちらと縛られている桐鳳――亜真知は、彼に話し掛けていたつもりだったのだ――に目をやる。亜真知の疑問は桐鳳に心当たりがあったらしい。すぐさま答えが返ってきた。
『ああ、あれ? 僕が作った偽物。致命傷負っても消えるだけだから、心配しなくていいよ』
『……わかりました』
 桐鳳に告げ、今度は他の面子へと念話を送る。
『そこにいる桐鳳様は、そっくりですけれど偽者です。強行手段に出てしまって大丈夫ですわ』
 ここには五人。人質を気遣わなくて良いのなら、抜けても大丈夫であろう。同じ場所に隠れていた琥珀に声をかけ、亜真知は桐鳳の案内を頼りに取引現場から離れる。


 ビル内の小さな部屋の一角に、桐鳳はにこにこと幼い風情の笑顔で立っていた。
「多分ここらにあると思うんだけど、ごちゃごちゃしてて見つけらんなくってさ」
 言いながら、桐鳳はひょいと床に手をかけた。コンクリートの床の一角が持ちあがり、地下への階段が現われる。
「結界が張ってあるようですね。だから千里眼でもここは気がつかなかったというわけですか……」
 とはいえ、気付いてしまえばその先を見るのは、琥珀にとってはそう難しいことではなかった。
 桐鳳から聞いた特徴を元に琥珀の千里眼で探し物を見つけだし、残されていた資料は、電子機器に保存されていた分も含めて、亜真知がすべて消去した。
 どうも彼ら、戦闘に向く手練れというのはいないようで、現われる誘拐犯一味もあっさりと倒し、武彦たちの元に戻るまでにそう時間はかからなかった。


「お疲れさま〜」
 その時。のんきに響いた声に、武彦たちが一斉に振り返る。
「おまえは……何をやってるんだ……?」
 助けに来た相手が、こんな呑気に笑っていては、そう言いたくなるのも無理はなかろう。
 武彦の問いに、桐鳳はけらりと明るく苦笑した。
「ああ、心配かけちゃった? ごめんねー。ちなみにそこの僕は手持ちの道具で作ったドッペルゲンガー」
「で、本人は今まで何やってたんだ?」
「こいつら、霊力探知機を持ってたんだ。昔、僕の神社にあったやつ。零さんって、霊力を動力源にしてるじゃない。それで零さんが普通じゃないって気付いて、調べはじめたらしいんだ、こいつら」
「結果、零ちゃんが心霊兵器だと知ったってわけね」
 シュラインの言葉に桐鳳は大きく頷いて、ひょいと片手に持っていた物に目をやった。
「ま、それも取り戻したし」
「結界で隠していましたが、彼らはこの地下にねぐらを持っていたようです」
「零様に関する痕跡はすべて消しておきましたわ」
 琥珀と亜真知の言葉に、シュラインは安堵の息を吐いた。
 一度の呼吸を置いて、微笑む。
「それじゃ、帰りましょうか」
 告げたシュラインに、残る一行も頷いて答えた。


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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1593|榊船亜真知   |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
4056|白神琥珀    |男|285|放浪人
5698|梧北斗     |男|17|退魔師兼高校生