コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


小憩茶話会

 【差出人】
 桂
 【件名】
 お久しぶりです。
 【本文】
 桂です、ご無沙汰しています。
 お元気ですか?
 ○月×日の十二時頃、良かったら皆さんと一緒にお昼でもどうかと思ってメールしました。
 ご都合が良ければ、皆さんのお返事お待ちしています。

 * * *

「あ――、此処です!将太郎さん」
 人も疎らな路地の、所謂穴場と言われるカフェに訪れ。入店と共に奏でられた華麗な鈴の音に混じ入り掛けられた声に、門屋・将太郎(かどや・しょうたろう)がお目当ての顔触れを見付けると、迷う事無く硝子張りの窓より陽光の注がれた隅のテーブルへと歩み寄る。
「悪い、遅くなったな」
 其処にはそう深い付き合いは無くも、互いの職業柄に出会いを果たしたアトラス編集部のアルバイトである桂と――。格式高い家柄に退魔等と言う今日日一風変わった依頼を請け負う夏炉とが、其々人懐こい笑みを浮かべて門屋を迎えて居た。
 門屋が席に付きテーブルを見遣れば、其処には既に軽めのプレートとドリンクが二人分、二人の目の前に並べられて居て。メニューをざっと眺めウェイターに日替わりのセットを注文すると、改めて門屋は目の前の子供達に視線を戻した。
「随分と久し振りじゃない、どう?仕事の調子は」
 出端年下であるにも関わらず、相も変わらず対等に話を仕掛ける夏炉に今更そう不快を感じる事も無く、門屋は大袈裟に肩を竦めて見せる。
「相変わらず、しがない相談所の所長やってるよ。人気の程は……。閑古鳥が何とやらって奴だな」
「そうなんですか……。大変そうですね」
「真面目に仕事しようと、これでも心入れ替えてるんだけどなぁ?」
 桂から漏れる感嘆の吐息に門屋が僅かに戯けて応えれば、起こる笑いに緩やかに場の空気が和んで行く。
「とは言え2、3人は定期的に来談に来るからな。――ま、お前等も悩み事があるんだったら、俺んとこに来いよ」
 一つ、話し終え。門屋の下へ、注文した日替わりのセットが届けられる。
 門屋はウェイターを見送ると、改めて懐から名刺を取り出し二人へと手渡した。
「ボク何て、気が付くと何時も遅刻寸前で。……この前も、彼方此方に穴を残してしまって……ちょっとした騒動になりましたし」
「バッカねぇ……時間に余裕無い人間って、持てないわよ?」
 自身の時計を掌に包み乍ら苦笑を漏らす桂に、夏炉が容赦無く一刀し呆れた声を漏らす。
 桂はアトラス編集部の一アルバイトであり乍ら、時間と空間を超える能力を持つ時計を所持し、桂自身其の力を良く用いて居る。……とは言え、其の活用は専ら、桂が遅刻しそうになった時の最後の手段として――程度であるのだが。
 桂が時を超え移動を果たした際に、一定時間其処に通路と成る穴が残って仕舞うと言う話は、門屋も以前聞き及んだ事がある。
「将太郎さんは、お仕事をされる中でも困るな――とか。思う事って、有るんですか?」
 自然と始まってしまった苦労話に、柄では無いと内心眉を寄せ乍らも、一人だけ何も話さないと言う訳にも行かず……。更に、促される様な。門屋が年長故であろうか、期待の込められた二人の熱い視線に、小さく息を吐くと門屋は緩慢に口を開いた。
「暗い感情が、ダイレクトに伝わる事……。これに限るな」
「ダイレクト……?何よ、如何言う事?」
「相手のネガティブな感情が強ければ強い程、其れが俺まで直に伝わり易いんだ。――結構大変なんだぜ?」
 門屋の持つ能力は、相手が何も言わなくても、何を言いたいのか、何を考えて居るのか分かる事が出来る。――だからこそ、其の裏の面でのコントロールが出来ず苦労が多いのだと話せば、夏炉があからさまに顔を顰め大きく身震いした。
「そんな物、診ている方も何だか気が休まらないわよ」
「まぁだからこそ、うちに来る来談者のカウンセリングをスムーズに進めるのにはうってつけだろ。因みに、悪用は一切してないぜ?」
 ホントだぞ!と、念を押して門屋が重ねれば、笑みの籠もった訝し気な視線を二人から向けられ、再び一同に笑みが漏れる。
「皆、中々に苦労してるって訳ね」
「そう言うおまえは、何か無いのか?」
 一人余裕を露わにし、紅茶を含む夏炉に門屋が問えば。夏炉は心外とばかりに眉を上げ、胸を張って答えた。
「この私が、そんな苦労に悩まされる事何てあって良い筈無いでしょ?」
「あ、でも。この前、修行中に山火事起こしそうになったとかって――」
「……………………」
 思わぬ桂の返しに其処へ暫しの沈黙が訪れ、夏炉の視線が何処へやら遠くに離れる。
 夏炉は、世に存在すると言う妖物の類に抗する為の、火術を会得して居る。――其の中でも、代々伝わる刀の柄を用い発現すると言う燈刀に因り、つい先日に山火事騒ぎを起こしたと言うのだ。
「そういや……この前、ニュースと新聞にそんなモンが――」
「気の所為よ」
 門屋の言葉を半ば遮る様に、異様に作られた笑顔に乗せ発せられた一言は心を読まずとも、極めて嘘臭い色が拭えぬ物ではあったが。其れにより結論を察した門屋は、これ以上身に危険の及ぶ事を危惧し、物言わずしてドリンクを口に運んだ。

 * * *

「あ……ボク、これからバイトがあるんです。――もう行きますね?」
 軈て一通りの談笑を終え、不意に腕の時計を見遣ると桂が慌しく立ち上がる。
 其れを見て、夏炉も頃合いと時を同じくして席を立った。
「また今度会う時は、気前良く奢って頂戴よ?」
「ああ、気が向いたらな?」
「それと……――」
 先に会計を済ませ、来た時同様扉がベルの音を響かせる中、去り行く桂をさて置き――。一言、前置かれた言葉に、門屋が何事かと首を傾げる。
「さっきの事、別に私には何の関係も無いケド。……漏らしたら――後が酷いわよ」
 そうして門屋を残して退店する際に残した、夏炉の満面の笑みは。
 誰をも従わせる事が出来る程の、有無を言わさぬ迫力であったと言う……――。


【完】

■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■

【1522 / 門屋・将太郎 (かどや・しょうたろう) / 男性 / 28歳 / 臨床心理士】
【NPC / 桂 (けい) / 不明 / 18歳 / アトラス編集部アルバイト】
【NPC / 夏炉 (かろ) / 女性 / 17歳 / 鬼火繰り(下し者)】

■ライター通信■

門屋・将太郎 様

初めまして、ライターのちろと申します。
この度は『小憩茶話会』に御参加頂き有り難うございました。^^

歳の離れたNPCとの茶話会と相成りましたが、お兄さんの様な、唯一の人生最多経験者様として、アットホームなほのぼのを心掛けノベルを手掛けさせて頂きました。

機会がありましたら、また別所にてお相手頂ければこの上無く幸いです。