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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「脚・あし」



「最近、あの霊園で袴姿の女の子が出るんだって〜」
「え? それ違うって」
「うっそ〜。だって聞いたよ?」
「あたしが聞いたのは、ひと気のない夜道に薙刀を振り回して追いかけてくるってやつだもん」
「なにそれ! おかしいって! ぜったい嘘じゃん?」
「アハハ」
 夜遅くのコンビニ前。
 笑っていた女子高校生たちは唐突に寒さに怯えた。
「ちょ、なんかサムくない?」
「う……ん。なんか、ねえ?」
 こつんこつんと足音が響いて、彼女たちはびくっと震える。
 確かにこの場所はあまり人が通らない。怪談話に登場するような場所だ。
「な、なになに〜っ!?」
「ヤバくない?」
 こつ。
 びく! と彼女たちは闇夜を見つめた。
 薄暗い街灯の光に照らされて、その人物は言う。
「こんなところに夜遅くに居ると、鬼に喰われちゃうよ?」
「お、鬼?」
「なに言ってんの……?」
 戸惑う女子高生達に、少女は小さく笑う。三日月の形に歪んだ唇が異常なほど不気味だ。



 立入禁止の黄色いテープが張られているのは、潰れたコンビニの前だ。
 そこにはまだ、飛び散った血の痕跡が生々しく残っている。
 朝早いというのに集まる人々は互いになにか言い合っていた。最近野犬が多いからそのしわざだとか、通り魔だとか。
 野次馬たちの中に、明らかに異色を放つ少女が居た。
 赤茶の髪に、黄色いリボンを後頭部に着けた袴姿の少女である。
 目立ちすぎるのだが、それがかえって野次馬には気づかれにくくなっていた。
 彼女は血の跡に目を細め、なにも言わずその場をあとにする。
 去りながら彼女は呟いた。
「犬……か」



「女子高生が三人も、惨殺……? ひどい話だな……」
 新聞をばさっと鳴らし、物部真言は記事を読んでいく。
 食い荒らされたようだという目撃者の意見もあり……、という文章を読んで真言は目を細める。
 どうにも物騒だ。
 朝刊をスクーターに乗せ、真言はエンジンをかける。頼まれた代理の仕事とはいえ、きちんとやるのが主義だ。
「回る順番は覚えたし、行くか」
 まだ夜明け前だ。暗い。

 しばらく配達をしていた真言は疑問符を浮かべる。
「ん? なんかいま鈴の音が……」
 後ろを振り向いたが誰もいない。おかしいなと前を向いて慌ててブレーキをかけた。
 地面を擦る音が響く。
 飛び出してきたであろう少女が、真言のほうをゆっくり見る。
 まだ若い。高校生くらいだろう。
(最近の女子高生はなんか……可愛いんだな)
 などと場違いなことを一瞬思ってハッと我に返る。
 というか、少女の格好が妙だ。
(袴? 時代錯誤な格好だな……コスプレか?)
「危ないだろ……飛び出すなんて」
 スピードを出していなかったから良かったものの、下手をすればぶつかっていた。
 嘆息混じりに言うが、少女は真言を見てはいない。彼女はじっと、真言の後方を見つめている。
「おい、聞いてるのか?」
 真言の声に彼女は視線を向けてくる。ナイフのようだった雰囲気が一瞬で消えてしまった。彼女はにっこり微笑んだのだ。笑うともっと可愛い。
「ああ、ごめんなさい。よそ見をしてて、気づかなくて」
 ぺこりと頭をさげた少女は首を傾げる。
「おにいさん、こんなところでなにしてるの?」
「なにって……見ればわかるだろ。新聞配達だ」
「新聞配達……。郵便配達とは違うの?」
「は?」
 疑問符を頭の上に浮かべる真言。なにをどうしたら新聞配達と郵便配達を間違えるんだろうか。
「……違うんだ。そっか」
 真言の表情から自分がおかしなことを言ったと判断したようだ。にこにことしている少女は真言に近寄る。
「お仕事、頑張ってね」
「え? あ、ああ」
「危ないから早く帰ったほうがいいわよ」
「…………え?」
「この近くで女子高生が殺されたでしょう? 犯人は捕まってないもの。一人でいたら危険よ」
 笑顔で言うセリフだろうか?
 真言は呆れたように肩をすくめる。
「それはあんたもだろ。俺より女子高生くらいのあんたのほうが狙われるんじゃないのか?」
「心配してくれるの? 嬉しいな」
 素直に微笑む少女に、内心少し動揺してしまう。
「それは……心配するだろ、普通は」
「それもそうね。でも大丈夫。あたし、こう見えても強いのよ?」
 腕まくりをする少女に「ははは」と乾いた笑いを洩らしてみせた。
 どこが強いんだろう。ひょろっとした腕はどう見ても女の子の腕だ。多少運動でもしているのか筋肉はあるようだったが、この暗さではよくわからない。
「危ないから早く帰れよ?」
「おにいさんもね」
 少女は真言に軽く手を振りながら通り過ぎる。そのまま行ってしまった彼女の後ろ姿を見送った真言は、スクーターを発進させた。

 スクーターを止めて真言は疑問符を浮かべる。
 真言は配達を終えた。あとは帰るだけだ。
「? こんなところにコンビニなんてあったっけ?」
 ちかちかと店内の電気が点滅していた。なんだか肌寒いので暖かい缶コーヒーでも買おうかと考える。
 ヘルメットを取り、コンビニへと歩いていく真言は空を見上げた。まだ十分暗い。
「早く終わったしな……。帰って寝るか」
「おにいさん」
 ぎくっとして真言は足を止める。
 振り向くと、先ほどの少女が立っていた。
「早く帰れって言ったのに、どうしてこんなところにいるの?」
 呆れたような口調だ。真言は安堵して言う。
「もう帰る。そういうお嬢ちゃんも、まだ帰ってなかったんだな」
「仕事があるから、帰るに帰れなくて」
 にこっと微笑む少女はコンビニを指差す。
「そんなところに何か用なの?」
「コーヒー買うんだ。少し寒いし」
「自動販売機なんてないけど?」
「なに言ってんだ。中に入って買うんだ」
 真言の言葉に少女がくすくすと笑う。
「中? 誰もいないのに?」
 彼女の言葉に真言は疑問符を浮かべた。すぐそこにはチカチカと点灯する光を放つコンビニがあるのに。
「誰もいないって……店なんだから中に店員が…………」
 店員が……?
 真言はもう一度コンビニを見遣る。ちかちかと、怪しい光。
 店内に人影はない。
 真言は少女に視線を移動させる。
 彼女は微笑した。
「自動販売機はもう少し先にあるから」
 ちょいちょいと指差す少女に、真言は不審な色を浮かべた。彼女は何者なのだろうか?
 こんな朝早くからウロついている袴姿の少女なんて、怪しすぎるではないか。
「あ、あんた……?」
「おにいさん、深入りは禁物よ」
 にっこり。
 笑った彼女は己の足もとの影を浮き上がらせた。トリックかと真言は目を擦るが、錯覚ではない。
 影は形を作って彼女の手におさまる。薙刀の形をしていたが、すべて黒い色だ。
「あたしは忠告はしたもの。危ないって警告もしたし、早く帰れとも言った。それでも巻き込まれるのなら、あたしは責任はとれないわ」
「は……?」
「獣臭くないの?」
 真言の背後でコンビニの明かりが消えた。周囲が闇に包まれる。
 息遣いが聞こえた。闇に紛れてこちらをうかがう獣の気配だ。 
 じゃり、と音がする。足音だ。
「こんなところに夜遅くに居ると、鬼に喰われちゃうよ?」
 近づいて来た少女はなにか病でも患っているのか顔色が悪い。それなのに笑みを浮かべているので不気味だ。
 腹痛でも堪えているように前屈みで近づいて来る少女は、袴姿の娘ではなく真言を見つめている。
「お、おい……大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「食あたりなのよね?」
 笑顔で言う袴の少女に真言はどういう反応をしていいかわからない。
 制服姿の少女は初めて真言以外の人物に気づいたらしく、目を見開いて驚愕する。
「なっ……! ど、どこから現れたの!」
「さっきから居たけど」
「うそ……! だって…………」
「まあ見え難いかもしれないけどね」
 笑顔の袴姿の少女は薙刀をぶん! と振った。
「で、もう用意はいい? 探し回って疲れたもの、あたし」
「お、おい……なんなんだ? 話が見えないぞ?」
 真言は対峙する少女たちに困惑するしかない。
「あんた一体何なんだ? 何が起きるって言うんだ……?」
「あたしは遠逆日無子。職業は退魔士。この女は憑物。昨日の女子高生たちを殺した犯人って言ったほうがいい?」
「遠逆、日無子? 退魔士?」
 憑物というのはよくわからないが、どうやら体調の悪い娘は日無子に言わせると殺人の犯人らしい。
 唇から涎を垂らし、娘は一気に加速して日無子への距離を詰める。危ない! と真言が叫ぼうとしたが……。
 日無子が目を細めて不愉快そうに顔を歪めた。
「臭いじゃないの。近寄らないで」
 持っていた武器を横なぎに払う。牙を覗かせて日無子に襲い掛かった娘の首が吹き飛んだ。だが勢いが止まらず、日無子の腕に少女の爪が届いて傷が走った。
 娘の首は落ち、胴は日無子に傷を負わせた状態で倒れる。じんわりと地面に赤黒い染みが広がった。
 日無子の腕に走った線は赤く染まり、血を流し始める。真言は一瞬の出来事に唖然としていたが、日無子の傷に我に返った。
「傷が……!」
 駆け寄った真言がぶつぶつと呟いて日無子に治癒の術をほどこす。
 広がっていた傷がみるみる塞がっていった。
 日無子は真言を不思議そうに見つめる。
「これでよし、と」
「ありがとう」
「よくはわからないが、危ないじゃないか」
 真言の目の前で日無子は驚いたように目を点にしていた。そして吹き出して笑う。
「あははっ! そんなこと言われたの初めて!」
「笑い事か?」
「だってこんな傷、放っておいても治るもの」
「……遠逆、おまえは何者なんだ?」
「何者って、退魔士だけど。妖怪とか、妖魔とか、そういう類いを退治する人のことね」
「そうじゃなくて……」
 日無子は何もない空間から巻物を取り出して開く。そしてすぐに閉じた。
 笑顔の日無子は言う。
「あたしはしばらく東京に居るから、また会うかもねおにいさん」
「あのな、おにいさんて言うのやめてくれ。俺には物部真言っていう名前があるんだが」
「じゃあ今度会ったらそう呼ぶね。もう行かなきゃ」
「え、どこに?」
「お仕事。あたし、こう見えて多忙なの」
 そう言って駆け出した日無子は大きく真言に手を振った。
「じゃあね、物部さん。夜道には気をつけてね」
「あ、おい――!」
 ちりん、という鈴の音がして日無子の姿が忽然と消えてしまう。残された真言は伸ばそうとしていた手を降ろして髪を掻きあげた。
 これが物部真言と、遠逆日無子の初めての出会いだったのである――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4441/物部・真言(ものべ・まこと)/男/24/フリーアルバイター】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、物部様。ライターのともやいずみです。
 夜の雰囲気が出るような出会いになってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!