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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


□ 鏡の中の異邦人 □



+opening+

「おや、人恋しくなったのかい?」
 アンティークショップ・レンの主、碧摩蓮は、カタカタと意思表示をする装飾の見事な西洋鏡を背後の棚から手に取った。

 壁掛け鏡としては小さな物だが、彫りの見事さを考えれば十分売り物になる鏡だ。
 ただ、蓮の扱う品である以上、何も起こらないわけがない。
 時々、鏡が退屈だと我が儘をいうのだ。
 鏡に姿を映し、さながら白雪姫の魔法の鏡のように喋るのだ。
 外に興味のない静かな時に客の手に渡るのだが、不意に目覚めて我が儘をいい、蓮のもとに戻ってくる羽目になるのだが、どうやら今回は違うらしい。
 蓮は曇り一つ無い鏡を覗き込み、溜息をついた。
 すっかり困り果てた鏡は姿を隠してしまっている。
 そのかわり、中に映っているのは少年の姿。
 鏡を覗き込み蓮がいう。
「中に子どもがいるね、鏡の道に入り込んだんだろう。ちょうどいい、助けてやってくれないかい?」



+1a+

 アイン・ダーウンはすっかり秋の深まった風景に目を向け立ち止まる。
 並んでいる木の何本かは銀杏の樹であるらしく、独特の香りを放っている。
 歩道には銀杏の実が落ちおり、今も樹からぽつぽつと落ちてきていた。
 手にはアルバイト先の先輩に頼まれて買い物に出、買い物の終わった袋。
 アインは買い逃しが無いか確認すべく、袋の中を覗き込んだ。
 きちんと揃っているのを確認して、笑みを浮かべる。
 健康的な小麦色の肌が、どこかエキゾチックな印象を与えるアインは東南アジア出身だ。
 黒髪黒眼で、人なつっこい笑顔は接客業には向いた職業だと思うが、その外見とは裏腹に戦闘に特化されているのは人を外見で判断してはいけないという見本だろう。
 今日の買い物は、アルバイトが終わってからの先輩の私的な頼まれごとだったので、荷物は明日アルバイト先に持っていき、先輩に渡せば良いだけだ。
 何も腐る品物ではなかったし、買い物が終わった後の時間はアイン自身はフリーで予定も何も決めていなかった。
 色づく風景を眺めながら、自宅へと帰宅するのも良いが頼まれた買い物が自身の買い物意欲に火をつけたのか、ウィンドウショッピングをして帰ろうとメインストリートへと移動しようとした時、いつもの風景とはどこか微妙に違うことに気付いた。
 ?
「何でしょう」
 建物も人の姿も変わらずそこにあるのに、自分は切り取られ、目の前の世界とは隔絶されてガラス一枚隔てているような感覚。
 思わず手を伸ばし、触れて確かめたくなるような。
 実際、車の行き交う騒音も人のざわめきもどこか遠い出来事であるように、別世界のごとく静まりかえっている。
 何度か遭遇したことのある出来事にアインは慌てることなく、冷静に辺りを見渡す。
 すると、静止した世界でただ一つだけ暖色の灯りが漏れ、ベルが取り付けられたガラス扉を発見した。
 扉にはOPENの文字。
 未知の出来事に招かれていることをアインは理解すると扉をくぐり、ベルの音を響かせた。
 アンティークショップ・レンの店内へと。



+1bc+

 守崎北斗(もりさき・ほくと)と守崎啓斗(もりさき・けいと)は某優勝セールのお陰で期間限定税込みワンコイン価格になっているハンバーガーの山、正にそうとしか言いようがないハンバーガーの山をあっさりと腹の中に収めてきた所だった。
 主に北斗としてはその山でさえ腹八分目にも満たない量であったらしく、満たされない満腹感に不満があるのか啓斗を見る。
「そんな目をしても何も出ないからな」
「ちぇっ、いいじゃん兄貴ー、セールだったんだからさぁ」
「あのな……、セールでも塵も積もれば山となるんだ。まぁ、今回は一気に山だったがな」
 一気に中身が軽くなった財布を服の上から押さえ、はぁと溜息をつく。
 ついでに胃がきりきりとする。
 予算が微妙にオーバーだったからだ。
 今回はセールで本来の半分以下で済んだものの、通常だとどれくらいの金額になったのか考えるのも怖い。
 我ながら食欲魔神な弟だと思いつつ、晩ご飯は何をするか財布の中身と相談していると、北斗が啓斗の服を引っ張る。
「何だ」
「あそこの空間歪んでねぇ?」
 北斗が指さした先、一筋の光が漏れ出ているように見えた。
 驚くでもなくその光を見、位置的に以前訪れたレンの店と位置が近いことを思い出す。
「レンの店への道が開いているようだな、俺達に見えたということは仕事があるのだろう。食後の運動は必要だ。いくぞ北斗」
「それは満腹になった場合じゃん。俺まだ腹八分目にもなってねぇよ!」
「晩ご飯前には腹を空かしておきたいだろう?」
 北斗の言い分を見事にスルーし、笑顔般若で見つめる。
「兄貴……っ!」
 北斗の声が微かに震える。
「行くな? 北斗」
 北斗には選択権は全くなかった。
 がくりと北斗は項垂れ、もしかすると別の所で食事が出来るかもー!?と、微かな望みを抱いていただけあって、お預けを食らい、更にはお仕事らしき気配を感じた啓斗に問答無用に連れて行かれることは正に目幅涙が流れる思いだ。
 啓斗に腕を掴まれ、引きずられながら北斗は決心した。
『蓮にご飯奢らせてやるっ!』
 もし、その場に草間武彦がいれば止めたろう。
 蓮にそんな勇気のある台詞はやめた方が良いと。
『食べ物さえも何か仕込まれていても文句言えないぞ』
 生憎と、この場にいるのは啓斗だけだ。
 北斗の心の叫びを聞いたとしても、啓斗は食費が浮くな、と真顔でもてなしてもらえと言うだろう。
 レンの店へと辿り着くと、二人は店内へと足を踏み入れた。



+2abc+

 アインが店内に入ると、カウンターに肘をつき蓮が煙管をコンと鳴らし、陶器で出来た灰皿に煙管の灰を落とした。
 煙管の独特の香りが満たす店内で蓮は気怠げな表情でアインを見やった。
「待っていたよ、一つ、手伝ってくれないかい?」
 アインは好奇心から待ちかまえる出来事に笑みを浮かべた。
「何か面白い物でも?」
「どうだろうね? 鏡の中に入ることになるだろうから、滅多にない経験といえばそうだろうけれど……。おや、手伝ってくれそうな子達が二人、来たようだよ」

 アインは引きずられて入ってきたそっくりの双子、けれども眼の色や背の高さが違ったりするのを、蓮の元にやって来るまでの間に観察すると、上下関係がハッキリしているなぁと感心した。
「揃ったようだね。あんた達、この鏡に入り込んだ人間を助けてやってくれないかい?」
 自己紹介も終えた後、カウンターの上に鏡面を上にして置かれた、装飾の見事な西洋鏡を手にして三人へと向け話し出す。
 鏡に自分達が映ると思っていた鏡面に映ったのは、自分達ではなく12歳くらいの金髪の生意気そうな眼をした少年だった。
「助けるのはこの子?」
『違うっ、僕じゃない。助けて欲しいのはもう少し小さい子』
 思わず北斗が指さしたのに、むっとして即座に言い返す。
 繊細そうな顔をしているのに、どうやら中身は違うらしい。
「生意気だなぁ」
『大きなお世話だ!』
 ぼそっと呟いた北斗の言葉にもキッチリと反応しているあたり、子どもだなと啓斗は横目にみつつ、蓮へと眼を向けた。
「で。アレは本当に困っているのか?」
 困っている風に見えない鏡に思わず蓮に確かめる。
「そうは見えないだろうけどね、子どもが鏡の中に迷い込んだんだよ」
「何が出来るかは分かりませんが、お手伝いしますね」
「よろしく頼むよ」
「北斗」
 啓斗の呼びかけに北斗が振り向く。
「兄貴、こいつすっげぇむかつく!」
「そうか。その子と一緒に鏡の中へ行ってこい」
「ふーん……って、こいつとっ!?」
 北斗と鏡の二人は互いで指を差す。
「そうだ。俺は外で何かあったときのために待機しておく。北斗はアインと一緒に頼んだぞ」



+3abc+

「中に入り込んだのなら、外にでるのも簡単なんじゃないのか? 目印とか印になるような物を持っていなければ駄目だと思うんだが、まぁ、子どもだという話だし、仕方ないか」
「俺も色々な所見てきましたけれど、鏡の中は流石に初めてです。とにかく一緒に探しましょう」
「そういや、俺達どうやって鏡の中に入るんだ? 合わせ鏡にして入ったりするのか? 分かんねぇけど」
 素朴な北斗の疑問に、アインが何か思いつき蓮にいう。
「鏡の中で、俺達が迷わないように何か、紐とか印とか目立ちそうなのって借りれませんか? 後で返せるかどうか分かりませんけれど」
「目印になる物ねぇ……、ちょっとお待ち」
 そういうと、カウンターの奥にある倉庫へと姿を消した。戻ってきた時にはぽったりとした木の器で出来た入れ物を一つ持っていた。
「囲碁の碁石でも持っておいき。黒の碁石だと目立つだろうさ。難点は全て撒き終わると一つ所に集まる性質があるから、その辺は気をつけるんだよ」
 やはりレンの店にある品物は曰わくのある物らしい。
「ありがとうございます。お借りしますね」
 アインは両手で半分ずつ碁石を持つと、ポケットの中に入れる。少し、もぞもぞとするが、やがて気にならなくなった。
『中に入るには鏡面に触れてくれれば、中に引き込むから問題ないよ。外に出る時にも僕がちゃんと外に送り届けるし』
 アフターケアもしてるから僕はその辺が不思議で、と呟く。
「鏡の中だから、俺も鏡を持っていた方がいいか。兄貴、鏡持ってる?」
「持ってる」
 ポケットの中からエチケットブラシにもなっている青色の携帯鏡を手渡す。
「サンキュ」
 北斗は鏡を受け取ると、中に迷い込んだ子どもについて話す。
「なぁ、鏡の中の子どもって生きてるのか気になるんだけど、だって鏡の奴に……っていいにくいな、キョウってことにするけど、キョウがずっと一緒に遊んでたんだろ? 普通、肉体とそんなに離れてたら、危ないんじゃないのか?」
『勝手に名前をつけるなよ、まぁ、いいけど。外と中の時間って時間の経過が違うんだ。なんていうかなぁ、中で少ししか経過してなくても外ではもう少し過ぎてるっていうか。中では少しだけど、その時間の経過もちょっと違う。すっごく疲れるくらいに遊んでも、中ではあまり時間が経ってないんだよね。だから鏡の中で一週間くらい過ぎた感覚でも、鏡の中の世界は実際の所一日にも満たない時間経過で、外の時間は2.3日ってところ』
「へぇ、それだと本当に迷い込んだ可能性が高いですね」
 荷物を蓮に預け、準備万端のアインは感心したようにいう。
「パジャマ姿ってことは不意に迷い込んだというのが本当だろう。普通帰りたくなるものだが、よっぽど居心地良かったのか。それとも現実に帰りたくない理由、パジャマ姿だから病院で療養中ということもあり得るな。そうなれば、遊び続けていられる鏡の中の世界に居続けたいと思うだろうし」
「その辺は中で見つけて聞いてみるか」
「ですね」
「任せたよ」



+4ab+

 中は鏡面で自分の姿が無数に見えるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
 おとぎ話に出てきそうな、なだらかな山に遠くには森。
 鏡が製造された年代を考えると、その時代の風景を取り込んで作ったのがベースになり、時代を経て行くごとに少しずつ変わっていったのだろう。
 その証拠に、外にあるものに似た道具を時々見かけた。
 建物は見えなかったが、川や遊び道具になりそうな物は多く見受けられる。
 そんな世界の中、キョウはえへんと威張るように立っている。
 外で見たときには顔だけしか映っては居なかったが、よく見ると服装はスーツで時代的には前時代的な感じだ。ゴシックと分類されるデザインで古さは感じられない。
 鏡の歴史から考えれば見合う服装だが、口調は今の時代の子どもと変わらないのは何故だと北斗は突っ込んでみたいと内心思ったが、すぐに反撃が来るのを考え黙っていた。
 突っ込み過ぎると話が前に進まないからだ。
「助けを求めて外へと接触をしていたということは、それまで一緒にいたんですよね? どこで別れたかは覚えていますか?」
「森で遊んでたんだ。森だと食べ物にも困らないし、寝る時には木の上で眠ればいいし」
「どこにいるのか、把握することは出来ないですか?」
 もしかすると、キョウは鏡の世界の中を把握しているのではないかとアインは考えたのだ。
「分かるよ? ただ、今みたいに入ってきた手段でやってきたわけじゃないから、いつ居なくなるか、分からないのが難点なんだけど。実体で遊びに来てないから、君達ほど把握しやすい訳じゃないよ。ただ、あの子の場合、どうも僕のこと遊び相手だと思ってるみたいで、見つけるとすぐに近寄ってくる……」
 そういって、キョウは遊び疲れた時のことを思い出したのか溜息をつく。
 生意気そうなキョウが溜息をつく子どもは、どういう人物なんだと聞きたくなりはするが、今は探すことが先決だ。
 今、この間にも外との時間経過が違うのだから。
「僕の把握している範囲は本体の鏡の大きさに比例してるんだ。中に入ればここ見たいに広く感じるけど、隣接した他の鏡の世界の方が大きいと思うよ。あの子は移動出来るタイプかは分からないんだけど。今はまだ森に居るみたいだね、僕のこと探してるのかも」
「じゃ、キョウを餌にすれば寄ってくるってことか」
 北斗がぽつりといった時には、既にキョウの腕は掴まれていた。
「僕も行くわけ!?」
「だって、キョウがいれば無駄な動きしなくていいってことだろ?」
「よろしくお願いします」
 アインはポケットから碁石を掴みだし、ぽとんと落とした。



+4c+

 啓斗は蓮とともに鏡の中を覗き込んでいた。正規の道を通っていった場合には、中にいる人間が映像のように流れて見えるらしい。
「へぇ、こういう風に見えるとはね。中に入っている人間を初めて見たよ」
「おい……」
 そんな世界に気楽に入って助けろといった蓮に思わず突っ込んでしまう。
「まぁ、大丈夫そうだからいいんじゃないかい?」
 別段、気にすることもなく、蓮は煙管を口にする。
「キョウは少年が実体じゃないから把握しにくいって、いってるということはいつ違う鏡の世界へと行くかわらないんだよな。少年はキョウのことが気に入って、居着いているみたいだが。だが、問題は実体ではない少年を入ってきたと方法と一緒でつれて出てくることが出来るか、だ」
「まぁ、あの二人に任せておこうじゃないか」
「そうだな。方法が無いわけではない」
 そういって、北斗は引き続き鏡へと眼を向けた。



+5ab+

「あぁ、森に行きたくない」
 キョウを先頭に森へと足を進めて、アインと北斗は入り口へと辿りつく。
「もうついたんだから、今更だと思うぜ?」
 遠目には明るい緑の森だったが、間近に見ると緑深い森で、中は一層暗く感じる。
 空は時間経過にかかわらず、薄曇りであるために今の時間が朝なのか夜なのか、判断がつきにくい。
「キョウさんが居るのにいらっしゃらないですね……、どうしたんでしょうか」
「ホントだね、気配が森の奥にあるんだけれど、どうしたんだろう」
「一人でかくれんぼってことは無いだろ、何かあったんじゃねぇ? 位置教えてくれれば行くけど」
「そうですね、俺もひとっ走りして見てきますよ」
 アインも北斗の言葉に同意し、キョウを見る。
「森は螺旋状に真ん中へとたどり着くようになっているけど、あの子が居るのは途中大きな樹がある側にある小道の奥だね」
 キョウが言い終わると同時に、アインの姿がかき消えた。
 文字通り、かき消えたのだ。
 一瞬、何が起こったのか分からなかったキョウだが、自らが招き入れた人間についてはキッチリと把握できているらしく、安堵する。
「……って、早っ!」
 驚異的な動体視力で見ることが出来た北斗は、急いでアインを追いかける。
 一人取り残されたキョウは、どう見ても人間離れした早さで向かった二人を見送ると、自分も追いかけるように歩き出した。



+6abc+

「どうしよう……変なのがついてくるよ、お兄ちゃん何処に居るの……出てきてよっ」
 ホルスタイン柄の着ぐるみパジャマを着た10歳くらいの少年が、泣きながら裸足で森の中を歩いていた。
 裸足で居られるのは鏡の中の世界だからだろう。普通なら傷だらけになっている筈だ。
 突然姿を消したキョウを探していたら、いつの間にか少年の後ろをつけるように居たのだ。
 最初は一つだったのがどんどんと集まり増えて一つになり、今では大型犬ほどの大きさになっていた。
 大きくなっただけで、何もされていなかったが、ついてこられるのは気味が悪かった。
「お兄ちゃん……」
 寂しくて寂しくて。
 どこに居るのだろうと、森の中を歩いていたが、返って来るのは頼りない自分の声だけで。
 自分では対処できるのは限られているのは分かっている。
 けれども。
 怖いモノ見たさ、というのはどの人にもあるだろう。
 少年の状況は正にその状態だった。
 どれくらいの時間が過ぎたのか、少年は見ないようにしていた後ろにいる大きなものへと、怖々振り向いた。
 そして。
 ありったけの大声で、少年は叫んだ。
「お、お化け       !!」
 少年の叫び声と同時にやってきたアインは、素早く少年を抱え込み、その大きな頭だけのお化けと距離を取った。
 どことなくハロウィーンのパンプキンで作るジャック・オ・ランタンの顔と似ているが、本人は大真面目だ。
「わっ!」
 少年はアインを見上げて惚けたままだ。
 まさか、お兄ちゃん以外の人がいると思わなかったのだろう。
「大丈夫ですか?」
「うっ、うん」
 アインは安心させるように、少年に笑顔を見せる。
 追って北斗が現れ、少年を確保出来たことに安心するが、目の前にいるどちらかというと西洋的な世界の中で、日本的な顔立ちのお化けはどうにも頂けなかった。
「何だ、こいつ」
 少年の叫び声から、更に大きくなったお化けは膨張を続ける。
「何で、大きくなるの!」
 更に叫ぶ少年にアインが宥め、ぽんぽんと背中をたたく。
 襲うでもなく、少年の側で滞空しているお化けが少し小さくなる。
 ?
 アインと北斗が眼を合わせる。
 同じことに気付いたのだ。
「お化けと少年繋がってませんか?」
「お化けと少年繋がってねぇ?」

 そのことに気付いてから二人は少年に、怖がったり不安がると大きくなるようだから、出来るだけお化けを気にしないようにいうと、何もしないといっても信じられないのか、余計に気にしてしまう。
 そのたびに多くなったり小さくなったりを繰り返し宥めるにも疲れ果てて来た頃、キョウが現れた。
 実にのんびりした様子で。

「どうしたの?」
 集まった視線に耐えられなかったのか、思わずつぶやく。
「何って」
「もしかして、この化け物が出てきたのってキョウさんのせいじゃないですか?」
 この世界で遊ぶのが好きでなかなか帰らなかった少年だ。
 不安に苛まれることは何も無かったはずだからだ。
「そういえば、そうだよな」
 北斗もそのことに気付いたのか、キョウをじーっと見つめる。
「だから何で僕のせいなのさ!」
「一人で放り出したからでしょう」
「普通は怯えるよな、確かに」
「この化け物出たのは僕のせいっていうわけ!?」
「そうだなぁ」
 二人に責め立てられキョウは押し黙る。
「お兄ちゃん?」
 少年がキョウをじっと見つめる。
「ごめん」
「お兄ちゃんに会えて良かった」
 アインは少年を降ろすと、背中を優しく押した。
 キョウに抱きつき、その存在を確かめる。
 何もいわなくとも少年は分かっていたのかも知れない。
 キョウと一緒に居られるのは今だけだということに。
「二人のお兄ちゃんと一緒に外へ帰るといいよ。ちゃんと送ってくれるようにお願いしてあるから。このままだと、死んじゃうからね」
「お兄ちゃんは?」
 少年の言葉に答えることなく、アインと北斗にいう。
「この子、外に出してあげて。この化け物はここに置いておけば自然に消えると思う。繋がっているのなら、切り離してしまえば大丈夫だろうし……僕のせいっていったしね」
「根に持ってるのかよ」
 思わず苦笑する北斗。
「ここで生まれたものだから、ここで朽ちるのがいいと思うしね」
「でもどうやって、外に連れ出します?」
 実体ではなく、正規の道を通らずにやってきた少年だ。
「あぁ、そのことなら大丈夫。兄貴が外に居るから」
「何か方法が?」
 あるのならそれは何だろうと、北斗に問う。
「あぁ、俺と兄貴で門を開くんだ。そこからひとまずレンの店に出て、それからこの子の住んでる所探したらいいんじゃね?」
「少年だけということですね」
「そうそう」
「キョウさんに俺達は外へ出して貰って、この子は北斗さんと啓斗さんに任せるということですね。じゃ、先にこの子を出して貰えますか」
「オーケー」
 北斗は啓斗に合図を送る。
 人が一人通れるくらいの門が音もなく現れ、北斗と向かい合うように啓斗が立っていた。
「兄貴、この子よろしく頼むぜ」
「分かった」
 レンの店から啓斗が少年を見つめる。
 キョウが少年と手を繋ぎ、北斗と啓斗が向かい合う、ちょうど真ん中辺りで立ち止まる。
「追いかけられるのは初めてだったけど、楽しかったよ」
「お兄ちゃん……」
 キョウの手を強く握る。
「僕の名前、和弥(かずや)っていうんだ。もし、また来られたら、和弥って呼んでね」
 和弥は、キョウの手を離し、啓斗に走り寄り振り向く。
「ばいばい、お兄ちゃん」
 北斗と啓斗の間にあった門が消え、森の風景へと戻る。
「今度あった時は、名前呼んであげるといいですよ」
 アインが穏やかな笑みを浮かべ、キョウに声をかける。
「大きなお世話っ」
 生意気ないいかただが、慰めてくれていることに感謝しているのは感じ取れたので、二人は何もいわなかった。



+ending+

「道を開けるよ」
「あぁ」
「おねがいします」
 直ぐに開いた道へと二人は歩み出すと、キョウが二人に何かいった。
 聞こえはしなかったが、感謝の言葉をいっているのは分かった。

 その光景を見ていた啓斗と蓮は、苦笑する。
「素直じゃないな、全く」
「まぁ、可愛いじゃないか」
「お兄ちゃんらしいなぁ」

『感謝してる。和弥を外に出してくれて』

 和弥は外に出てから、暫く話をしていたが、段々と自身のことを思い出したのか、思い出すにつれて精神体の輪郭が曖昧になり、やがてレンの店から消えた。
 後日、レンの店に和弥は現れ、店に入り浸るようになり、蓮を困らせているらしかった。



Ende


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【受注順】
【2525/アイン・ダーウン/18歳/フリーター】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】

【公式NPC】
【NPC/碧摩・蓮】

【NPC】
【NPC/鏡=キョウ/男性?/外見12歳/西洋鏡】
【NPC/榊・和弥/男性/10歳/鏡の世界に迷い込んだ】

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■         ライター通信          ■
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初めましてのPC様、再び再会できたPC様、こんばんは。
竜城英理と申します。

今回初めてレン依頼を出させて頂きました。
少しホラーっぽい感じのOPでしたが、ハロウィンが近かったので、こういうお話でした。
鏡のキョウが、生意気な子どもだったので、いつもとテイストが違うかと思います。
文章は皆様共通になっています。
では、今回のノベルが何処かの場面ひとつでもお気に召す所があれば幸いです。
依頼や、シチュで又お会いできることを願っております。


>守崎啓斗さま
再びのご参加ありがとう御座いました。
今回鏡の外で蓮と一緒にいて頂くことになりましたので、若干描写が少なくなってしまい、申し訳ないです。
キョウのお礼の言葉は啓斗さまと蓮にしか聞こえて居ません。
お気に召したら、幸いです。