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<東京怪談・PCゲームノベル>


座敷童の御褒美

■出会い
草間から唐突な電話を受け集まったのは3人。
寝起きなのだろうか、服装はスーツでピシリときめられているが、どこか眠たげな相澤・蓮。
幼さの残る顔立ちに、静かで不思議な輝きを持つ眼をした梧・北斗。
そして未だ要領が得られず、といった感じで戸惑ってはいるものの、凛とした姿勢が美しい天薙・撫子。
特に接点はなく、初対面。互いに軽く自己紹介を交わすと、草間に渡された地図を頼りに、座敷童が住んでいるという廃寺へと向かう事にした。

そこは墓地の奥にあり、まだ昼だというのに空気はひんやり。朽ちた屋根の上にとまったカラスがギャーギャーと騒ぎ立てている。
よく訳も分からぬままこんな場所へ呼び出された3人に、不安がよぎった。

「……帰っていいスか。」
相澤・蓮がひきつった笑顔でそう言った時だ。
切りそろえられた長い黒髪に紅い着物、まるで日本人形そのものといった少女が中からちょこん姿を現した。
その少女こそが今回の依頼主なのだが、あまりの背景とのミスマッチさに3人は思わず凝視してしまった。

「よぅ来たの、わしが宵闇・終禍じゃ。よろしくの。」

指名した全員が揃ったことに終禍は満足げに微笑んでいた。
キョトンとしている男性陣を置いて、まず終禍に歩み寄ったのは天薙・撫子だ。
「終禍様初めまして、天薙・撫子と申します。これはほんの御挨拶です、お受け取りになって下さい。」
撫子は用意してきたお気に入りの茶葉と和菓子を差し出した。
「おぉ、気を遣わせてしまったかの?まぁ有り難くいただくかの。」
差し出された終禍の両手は、幾分見当はずれな方向であった。
眼が、見えないのだ。

今の今まで要領が得られず、真意を確かめる気でいた撫子だが、終禍本人にこうして会うことで、その純粋さを充分くみ取ることが出来たらしい。
何も言わず終禍の小さなその手に土産を渡すと、にっこりと微笑んだ。

「俺は相澤・蓮、よろしくな終禍ちゃん。」
「梧・北斗って言うんだ、今日は呼んでくれてありがとうな。」
二人とも子供好きらしく、終禍のまるっこい頭に自然に手を伸ばした。
が、寸前の所でふいとかわされ、扇子で手の甲をパシッ叩かれてしまった。
「「いて!」」
「わしは子供ではない!ぬしらより何百年も多く生きてきたのじゃ!それを撫でようなど…600年以上早いわ!」
えへん、とふんぞり返る終禍に充分子供っぽさを感じつつも、二人はスミマセンと謝ることにした。
そんな3人のやりとりはまるで漫才のよう、撫子は小さく笑った。

■御褒美
とりあえず落ち着いた3人は、寺の中へ通された。外も外なら中も中、気を付けないと今にも床を踏み抜いてしまいそうだ。
「ここに一人で住んでんの?かなりその……淋しい場所だと思うんだけど。」
北斗はボロボロという言葉を無理に言い換え、終禍に問うた。
「そうですね……お一人では淋しくありませんか?」
「もっと終禍ちゃんなら、いい家に行けそうだと思うけどよ。」
3人の気遣いに終禍は礼を言い、淋しくはないと笑った。
「こうしてぬしらが遊びに来てくれておるからの。それにここはちと、思い出のある場所なのじゃよ。」
そう付け加えて……。

淋しげに笑う少女を撫でてやりたくなる衝動を北斗は抑えたが、押さえきれなかった蓮は2発目の扇子攻撃を喰らった。

「さて無駄話は仕舞いじゃ、目を閉じぃ。悪いがちぃとぬしらのココロ、視させてたも。」
3人は静かに目を閉じた。
辺りはしんと静まり返っている。
薄気味悪かったはずの廃寺、しかしいつしかあたたかな空気を感じるようになっていた。

■撫子
終禍はまず、撫子の前に立ち額に手をかざした。

「撫子、ぬしは己の持つ力に不満か?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ……。」
ココロに浮かんだのは、幼い頃ある山の中で出会った妖の子との記憶。
傷を負っていた、泣いていた、救いを求めていた。
けれど助けることが出来なかった哀しい記憶――。
「護り、そして癒す力が欲しいと…何度も思いました。今でもあの子の泣き声が聞こえるような気がして……。」
撫子は唇を噛んだ。
「優しい子じゃの、そんなぬしのココロ、きっと分かっておるはずじゃ。目を開けてみぃ。」
そっとが目を開けると、終禍の手の平から温かい光と共に何かが現れた。それをそっと、撫子は両手で受け止める。
「懐中……時計?」
「残念ながら、癒しの能力を与えてはやれんがの。」
時を刻む音はまるで鼓動のように穏やか。
不思議そうに裏返してみて、撫子はあっと声を漏らした。
文字盤の裏、そこに描かれていた一人の子供、それは紛れもなく記憶にあるあの妖の子だったのだ。
「終禍様、これは。」
にこりと微笑むと、決して自分が意図して作ったのではなく撫子のココロや意識の一部から創ったものだと説明し、よくよく時計を見るように告げた。
撫子の目には、妖の子が微かに微笑んでいるように映っていた――。

ありがとう、ごめんなさい。
撫子は懐中時計をぎゅっと胸に抱き涙を一粒こぼした。

■北斗
次に北斗の額に、終禍の手がかざされた。

北斗は退魔師であるという理由で、幼い頃よく苛められていた。
時には自分の能力を疎ましく思ったこともある。しかしそんな時、兄が言ってくれたのだ。
『お前はお前だよ』と。
それ以来、自分に与えられた力を受け入れ、いつも前向きに歩いてきたのだ。
強すぎる力は今でも苦手に思うけれど……。
「俺は俺なりにさ、出来る事しようって思ってるんだ。やっぱ誰かの役に立ちたいじゃん?」
「そうじゃな、ぬしを必要とする者はきっとたくさんいるじゃろ。さ、目を開けぃ。」
北斗が眼を開けると、目の前に炎がゆらめいていた。やがて炎は一枚の札へと姿を変えた。
「これは……結界符?」
白いその符には赤い墨で、退魔呪文と一匹の狼の姿が描かれていた。
「誰かの為に尽くす事は素晴らしい、じゃがぬし自身の身を案じることも忘れてはいかんぞ?」
符はふわりと浮いたかと思うと、北斗の身体に吸い込まれて消えた。
突然の事に北斗は驚いたが、やがて己の内から温かさを感じて安堵した。

■蓮
「いやしかしよ……褒美なんて貰える様な人生歩んでなんていないスけど俺。」
3度目の扇子攻撃を喰らわせつつ、終禍は手をかざす。

「ぬしはそんなに力が欲しいかの?」
蓮は黙って頷いた。
サラリーマンである彼は決して武闘派ではなく細身。武勇伝もない。
だから愛する人や大事な親友がもし危険にさらされたら自分は護れるのだろうか――そんな不安が、いつも胸にあったのだ。
「闘う力ってか……護る力が欲しい。哀しむ顔はもう、見たくないからよ…。」
「想う力こそ、最大最強の力。ゆめゆめ忘れるでないぞ?」
こんこん、と頭を小突かれ眼を開けてみると、目の前には随分大きい光。その大きさにどこか得をしたような気分になったその時だ。
「あああっ?!」
光は突然3つに割れたかと思うと、2つは何処かへ消えてしまい、残った1つの光をやっとの思いで蓮は掴んだ。
「ほほ、危機一髪というやつかの。」
「か、勘弁してください終禍様…。」
今のは終禍の悪戯だったのだろうか?口元に扇子を当てて、からかうように笑っている。
蓮が掴んだ光はいつの間にか、濃紫の下緒がついた日本刀へと姿を変え、北斗の時と同じように自分の身体に吸い込まれて消えた。


■別れ
夕暮れ、別れの時。
ここへ来た時の数倍明るい表情の3人の雰囲気に、終禍も満足そうに微笑んだ。
目が見えない分、終禍は気持ちに敏感であり、純粋な心を持つ者にしか関わろうともしないのだ。
そんな彼女に気に入られ、褒美を受け取った3人は稀少な存在と言えよう。

「きっとそれは、ぬしらを護ってくれるからの。さ、日も暮れてきたようじゃ。気を付けて帰るようにな?」
「ありがとうございました、終禍様もお元気で…。」
撫子は深くお辞儀をすると、それを感じ取った終禍は微笑んで見せた。
「また遊びに来るよ、ほんとにありがとうな。」
北斗は握手を交わす。終禍の人形のように白い手は、思いの外あたたかかった。
「ありがとう、大切に使うからよ!」
蓮の握手を求める手は空を切り、今までとは逆に終禍に頭を撫でられてしまった。

3人はさよならのかわりに『また』と言うと終禍に背を向け歩き出した。



「名を、つけてやるとよい。これからぬしらと共に時を刻むのじゃから…。」




振り返った先にはただ、廃寺。
小さな少女の姿は、もう何処にも見えなかった――。



【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0328/天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)/女/18歳/大学生(巫女):天位覚醒者
2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男/29歳/しがないサラリーマン
5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17歳/退魔師兼高校生

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■         ライター通信          ■
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今回ノベルを書かせていただきました光無月獅威です。
終禍からの御褒美(アイテム)気に入っていただけると嬉しいです。
突然ですが、このノベルが私にとって、最後の活動となりました。
御参加本当にどうも有り難う御座いました、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。