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<東京怪談・PCゲームノベル>


具現化協奏ファントムギアトルーパー――testee3

 ――季節は夏から秋へと移り変わった。
 夏の暑さを乗り越えれば、僅か数ヶ月の心地良い月日が訪れる。
 気温は汗ばむ程の暑さでもなく、陽光が照らす空は穏やかそのものだ。
 そんな一時こそ、人は色んな事を考え、この快適な季節を満喫しようとする。
 食欲の秋、読書の秋、芸術の秋‥‥。
 そして、学園では様々な行事が執り行われる季節。
 体育祭、文化祭、林間学校‥‥。
 紅葉が彩る山林への坂道を、数台のバスが登って行く――――。

■testee3:林間学校の中で
 ――わたくしが学園に来て以来、気がかりな事があります。
 妖機怪の存在と目的は何か、背後の正体は何モノなのでしょうか?
 これまでの状況から推測されるのは、妖機怪が人を襲うという事‥‥。
 初めは窓ガラスを割るという悪戯的な騒動でした。でも、次は男性に狙いを定め、明らかに体内へと人間を取り込んでいました。今回も恐らく‥‥。
 これが妖怪の行動なら、少しは納得もしましょう。しかし、妖機怪は明らかに作られた存在です。
 妖怪と人間が結託して作られた組織なのでしょうか? 行動原理は妖怪そのものですから。
 だとすれば、人間に何の利点があるのでしょう? 今は何かの序曲に過ぎない?
「あまぎせんせい〜」
 不意にあどけない声を掛けられ、天薙撫子は窓から視線を生徒へと向けた。清楚可憐な雰囲気を醸し出す若い引率者は、黒髪を揺らし、眼鏡の奥に浮かぶ黒い瞳を和らげて微笑む。
「どうしましたか?」
「あのこがあたまいたいって」
「え? 大変ですね」
 生徒が指差す先に、ぐったりとした少年が席で蹲っていた。慌てて撫子は揺れる車内で立ち上がり、生徒の元へと駆け寄る。ふと、別のバスに乗っているであろう従妹の微笑んだ顔が浮かんだ。
(‥‥亜真知さま、大丈夫ですよね)
 子供達を乗せたバスは、賑やかに山へと登った――――。

●乙女の秘密☆ サトリ出現!!
 ――周囲が慌しく動き始めた。
 幾つもの地響きと激しい振動が山を襲い、亜真知は長い黒髪を翻して金色を瞳を研ぎ澄ます。
「向こうで戦闘が始まったようですわね。『餓鬼』と『覚り』現れたのはどちらでしょうか?」
「亜真知さまッ!」
 聞き慣れた少女の声が背中に飛び込み、金色の瞳を流す。視界に映ったのは、駆けつけた撫子だ。
「どうやら妖機怪が現れたようですね。援護に行きますか?」
≪その必要は無りませんよ≫
 答えたのは亜真知では無かった。二人の少女が身構える中、姿を現わしたのは一人の少年である。口元を緩めて、様子を窺っているようだ。撫子は眼鏡の奥に黒い瞳を研ぎ澄ます。
「覚りですね! 亜真知さまッ!」
「承知いたしましたわ!」
 ――サトリ。
 山中に住み、人間の考えている事を言い当て、惑わす妖怪である。うろたえる人間の様を見て、喜ぶ悪戯好きの妖怪であるが、最後には発狂させた後、食らうとも謂われている――――。
 しかし、二人には見えていた。少年の背後に浮かびあがる巨大で機械的な猿のシルエットを。
 少女達は同時に懐から懐中時計を取り出し、スイッチを押し込んだ。
 ――霊波動確認 パイロット照合:榊船亜真知、天薙撫子
 霊駆巨兵ファントムギアトルーパーリフトアップ―――― 
 大地が割れ、中から体育座りをした鋼鉄のシルエットがニ体セリあがる。妖機怪サトリは巨兵が立ち上がるのを待つように静観していた。口元に笑みを浮かべたまま、猿の巨体へと吸い込まれてゆく。
≪僕と戦うつもりですね? 美味しそうだったのに≫
『テレパシー? 撫子姉さま、やはり妖機怪は‥‥』
≪サトリですよ。まぁいいです。気が狂ってから鎧を引き剥がして食らえば済みますから≫
「やはり、人間を食らうのが目的ですか。亜真知さまッ!」
 コックピットに少年の声が響き渡り、立ち上がった亜真知機へと妖機怪サトリが肉迫する。刹那、淡く優しい光を帯びた三対の翼を輝かせ、御神刀『神斬』を薙ぎ振るう東洋の天女を連想される機体がフォローを入れた。2対1、普通なら勝てない相手ではない。しかし、撫子機の太刀は次々と躱されてゆく。
『撫子姉さま、攻撃が読まれていますわ!』
「分かっています。これは牽制ですから、連携で畳み込みましょう」
 流石に連携で攻められては武が悪い。亜真知の駆る神秘的な天女の風貌に模られた巫女姿の巨兵が和弓――天星弓――を出現させる中、巨大な猿のシルエットは一気に跳躍して飛び退いた。接近戦は心を読んで躱せばいい。だが、その間に放たれる矢は厄介だ。妖機怪の眼光が、亜真知機へ向けられる。
≪なるほど、キミは失恋したばかりですね? それでも男の事が忘れられないのですか‥‥!?≫
 動揺を見せたのは亜真知では無かった。妖機怪の眼が捉えたのは、心の秘密を当てられたにも拘らず、出現させた天星弓を向ける巫女姿の天女に模られた巨兵だ。
≪何故驚かないのです!? なら、男の彼女をキミは妬んでいますね?≫
 妖機怪が動揺を色濃く浮かばせる今がチャンスだった。
 サトリは明らかに困惑しており、意識は亜真知機へ向けられたままだ。
「妖斬鋼糸ですッ!!」
 東洋の天女を模る巨兵は地表スレスレを滑空しながら、三対の翼を広げて腕を薙ぎ振るった。放たれた幾つもの神鉄製の鋼糸が猿のシルエットに絡み付き、動きを制する。
「亜真知さま!」
「残念ですけど、乙女の心の中は、秘密ですのよ☆」
 巫女姿の天女が天星弓を撓らせ、神矢の閃光を放った。文字通り串刺し状態の妖機怪は、断末魔と共に赤い粒子と化して失散するに至ったのである。

●夕飯カレーに付け合せ
 妖機怪騒動の後、麗刻学園の生徒達は再び体験学習に勤しんだ。
 とりわけ最優先カリキュラムは夕飯の仕度である。
「はいはい、包丁持って騒いだらいけませんよ。あ、この抑え方ではいけません。こうやって指を切らないように丸めてゆっくり切りなさいね」
 慣れない手付きの子供達と共に、撫子はカレーの仕度を進めていた。彼女にとって料理は得意分野だ。生徒達をリードしながら自慢の料理の腕前を披露してゆく。ふと、少女が優麗に包丁の音を奏でさせる教師に声を掛けて来た。
「先生、なにを作っているんですかぁ?」
 まな板とボールに数種類の野菜を捉え、不思議そうな顔色を浮かべているようだ。撫子は鮮やかに野菜達を切りながら微笑む。
「カレーだけじゃ栄養が偏るでしょう? だから、先生が即席の和風サラダを作ります♪」
 え〜っ! と嫌そうな声が彼方此方で洩れる。子供も進んで野菜を好みはしない。まして、用意された野菜はカレーに入れる為の残り物だ。
「あら? 先生のサラダはタレも美味しいんですよ。騙されたと思って食べてごらんさない☆」
 その後、夕食時に披露された野菜サラダは好評だった。しかし、一部の教員は顔を顰めて見せる。
「天薙先生、勝手な事をされては困りますな。他の班もあるのですから」
「え? も、申し訳ございません」
 子供達の噂が流れる速度は光ネット並に速い。確かに野菜サラダは好評だったが、有り付けない者だって出て来るというものだ。生徒達には先生で通っているが、補助教諭の身。撫子は何度もペコペコと謝罪した。コホンと咳払いをして教員が再び口を開く。
「‥‥まぁ、無駄使いを無くし、工夫を教えるのは悪い事ではありません。私にも後でタレの作り方を教えて頂けますかな?」
「‥‥は、はい☆」
 撫子は微笑みに満面の笑顔で答えた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/担当】
【0328/天薙撫子/女性/18歳/国語・古典補助教諭】
【1593/榊船亜真知/女性/999歳/高等部学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は引き続きの御参加ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 今回は参加メンバーが変わらない為、シーンのクローズアップスタイルでお送りしました。
 さて、いかがでしたでしょうか? サラダにも野菜にも限りがありますので、こんな感じです。一寸した演出ですので、軽く読み流して下さい。
 プロローグが総集編の冒頭みたい感じですが(笑)あくまで推測として演出させて頂きました。真偽は定かではありません。色々と推測してみて下さいね。
 今回の戦闘も連携を重視させて頂きました。対応としては当りです。二つの心を読める訳がありませんからね。ヒダル神の方は記されていなかったので、スルーさせて頂きました事を御了承下さい。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆