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<東京怪談・PCゲームノベル>


具現化協奏ファントムギアトルーパー――testee3

 ――季節は夏から秋へと移り変わった。
 夏の暑さを乗り越えれば、僅か数ヶ月の心地良い月日が訪れる。
 気温は汗ばむ程の暑さでもなく、陽光が照らす空は穏やかそのものだ。
 そんな一時こそ、人は色んな事を考え、この快適な季節を満喫しようとする。
 食欲の秋、読書の秋、芸術の秋‥‥。
 そして、学園では様々な行事が執り行われる季節。
 体育祭、文化祭、林間学校‥‥。
 紅葉が彩る山林への坂道を、数台のバスが登って行く――――。

■testee3:林間学校の中で
「〜♪」
「楽しそうですわね☆ 亜真知様」
 可憐な風貌に微笑みを浮かべる少女の横顔に、鎮芽は隣の席で鼻歌を奏でる榊船亜真知に声を掛けた。円らの金色の瞳を向け、長い黒髪の少女がニッコリと笑みを見せる。
「えぇ☆ わたくし、またも初体験の行事ですのよ♪ 撫子姉さまは、あんまりハシャいではいけませんよ、って仰りましたけど、やはり楽しみですわ〜☆」
「‥‥そう、良かったですわね。うんと楽しんで下さいな☆」
 鎮芽は小首を傾げてサラリと銀髪を揺らす。そんな少女の西洋人形のような風貌を、亜真知は心配そうに覗き込んだ。神秘的な雰囲気に少女らしい色香を漂わす少女の顔が近付き、思わずうろたえてしまう。
「ど、どうしましたの? 亜真知、様?」
「ねぇ鎮芽さまぁ? この前、お茶を御一緒された時も思いましたの。何か最近元気ありませんわ」
 何か悩みがありますの? と、亜真知が訊ねた。金色の瞳に映る少女は、驚いたように瞳を見開き、口元に手を当てる。
「まぁ、心配さなっておりましたの?」
「当然ですわ! お友達ですもの☆ 何でも仰って下さいませね?」
「‥‥お、友、達‥‥。ありがとうございますわ☆ でも心配なさらないで下さいな。ちょっと‥‥疲れておりましただけですの」
 鎮芽は一瞬瞳を逸らした後、微笑んで見せた。
「‥‥そうですの、良かったですわ☆ でも、体験学習を鎮芽さまと御一緒できないなんて残念ですわ。楽しみにしてましたのよ?」
 コロコロと表情を変える亜真知に、少女が穏やかな笑みを浮かべる。
「ごめんなさいね。私は生徒ではありませんもの‥‥。でも、時間が空いたら様子を見に行きますわ」
「きっといらして下さいね☆ わたくし、キャンプファイヤーを特に楽しみにしておりますの♪」
 少女達を乗せたバスは、楽しそうな笑い声を溢れさせて山へと登った――――。

●乙女の秘密☆ サトリ出現!!
 ――周囲が慌しく動き始めた。
 幾つもの地響きと激しい振動が山を襲い、亜真知は長い黒髪を翻して金色を瞳を研ぎ澄ます。
「向こうで戦闘が始まったようですわね。『餓鬼』と『覚り』現れたのはどちらでしょうか?」
「亜真知さまッ!」
 聞き慣れた少女の声が背中に飛び込み、金色の瞳を流す。視界に映ったのは、駆けつけた撫子だ。
「どうやら妖機怪が現れたようですね。援護に行きますか?」
≪その必要は無りませんよ≫
 答えたのは亜真知では無かった。二人の少女が身構える中、姿を現わしたのは一人の少年である。口元を緩めて、様子を窺っているようだ。撫子は眼鏡の奥に黒い瞳を研ぎ澄ます。
「覚りですね! 亜真知さまッ!」
「承知いたしましたわ!」
 ――サトリ。
 山中に住み、人間の考えている事を言い当て、惑わす妖怪である。うろたえる人間の様を見て、喜ぶ悪戯好きの妖怪であるが、最後には発狂させた後、食らうとも謂われている――――。
 しかし、二人には見えていた。少年の背後に浮かびあがる巨大で機械的な猿のシルエットを。
 少女達は同時に懐から懐中時計を取り出し、スイッチを押し込んだ。
 ――霊波動確認 パイロット照合:榊船亜真知、天薙撫子
 霊駆巨兵ファントムギアトルーパーリフトアップ―――― 
 大地が割れ、中から体育座りをした鋼鉄のシルエットがニ体セリあがる。妖機怪サトリは巨兵が立ち上がるのを待つように静観していた。口元に笑みを浮かべたまま、猿の巨体へと吸い込まれてゆく。
≪僕と戦うつもりですね? 美味しそうだったのに≫
「テレパシー? 撫子姉さま、やはり妖機怪は‥‥」
≪サトリですよ。まぁいいです。気が狂ってから鎧を引き剥がして食らえば済みますから≫
「結界を創世いたしますわ!」
 コックピットに少年の声が響き渡る中、立ち上がった亜真知機へと妖機怪サトリが肉迫する。刹那、淡く優しい光を帯びた三対の翼を輝かせ、御神刀『神斬』を薙ぎ振るう東洋の天女を連想される機体がフォローを入れた。2対1、普通なら勝てない相手ではない。しかし、撫子機の太刀は次々と躱されてゆく。
「撫子姉さま、攻撃が読まれていますわ!」
『分かっています。これは牽制ですから、連携で畳み込みましょう』
 流石に連携で攻められては武が悪い。亜真知の駆る神秘的な天女の風貌に模られた巫女姿の巨兵が和弓――天星弓――を出現させる中、巨大な猿のシルエットは一気に跳躍して飛び退いた。接近戦は心を読んで躱せばいい。だが、その間に放たれる矢は厄介だ。妖機怪の眼光が、亜真知機へ向けられる。
 ――狙いましたわね!
 瞬時に金色の瞳を眼下へと流し、視界に起き上がる少女達を捉えた。後から知る事になるが、高等部の一部エリアは、ヒダル神の範囲攻撃に晒されていたのだ。
(ごめんなさいね、心の鏡を使わせて頂きますわ)
 亜真知は対象を絞り込み、金色の瞳を研ぎ澄ました。脳裏に一枚の丸い鏡が描かれ、その中に絞り込んだ少女が映し出される。
≪なるほど、キミは失恋したばかりですね? それでも男の事が忘れられないのですか‥‥!?≫
 動揺を見せたのは亜真知では無かった。妖機怪の眼が捉えたのは、心の秘密を当てられたにも拘らず、出現させた天星弓を向ける巫女姿の天女に模られた巨兵だ。
≪何故驚かないのです!? なら、男の彼女をキミは妬んでいますね?≫
 妖機怪が動揺を色濃く浮かばせた刹那、放たれた幾つもの神鉄製の鋼糸が猿のシルエットに絡み付き、動きを制する。予想しない状況を前に、サトリは意識を亜真知へと注ぎ過ぎたのだ。
『亜真知さま!』
「残念ですけど、乙女の心の中は、秘密ですのよ☆」
 巫女姿の天女が天星弓を撓らせ、神矢の閃光を放った。文字通り串刺し状態の妖機怪は、断末魔と共に赤い粒子と化して失散するに至ったのである。

●楽しみにしていたキャンプファイヤー
 ――夜に帳が降りた後。
 中央に木々を燃やした炎が舞い踊る中、生徒達が輪を描いていた。皆、手には削り出した細い木の柱を持っており、その先端には油を染み込ませた雑巾が針金で巻いてある。
「ねぇ、何が始まりますの?」
 亜真知は興奮を抑え切れず、わくわくとした調子で隣の少女に声を掛けた。しかし、返って来た言葉は素っ頓狂な声だ。
「え? あなた知らないの?」
「はい☆ この手袋も初めて着けましたわ♪ 不思議な感触がしますわよね」
 彼女が言う手袋とは軍手の事である。亜真知に訊ねられた少女はクスリと笑い、敢えてイベントを秘密にした。「ほら、始まるわよ」と視線を流し、先を促がす。
「まあ☆」
 それは一人の松明から隣の松明へと火を燃え移らせ、徐々に炎の輪が描かれてゆく光景だった。
 次第に燃え盛る炎が闇に浮かび上がり、とても神秘的に亜真知の瞳に映る。あと、三人、二人、もうすぐ自分の持つ松明にも炎が分け与えられるのだ。遂に隣の生徒が持つ松明に炎が移った。
「はい、松明を静かに交差させてね」
「は、はいですわ!」
 炎に照り返す可憐な風貌は真剣そのものだ。恐る恐る松明を近付け、「燃えなかったらどうしましょう?」等と不安な声を洩らす。刹那、油を染み込ませた松明は一気に炎を躍動させた。
「あぁ☆ 燃えましたわ♪」
「ほらほら、次の人に回して回して」
「あ、そうでしたわ。あの、どうぞ、お受け取り下さいませ☆」
 全員の松明に火が灯されると、歌を奏でながらゆっくりと歩き出す。炎の輪が残像を描きながら揺れるようで、とても神秘的だった。歌声が響く中、一人、また一人と松明を中央の炎へと置いてゆく。次第に消えゆく炎の輪と歌声が何となく切なく感じる瞬間だ。
「‥‥もう少しで終わってしまいますのね」
 順番が訪れ、亜真知が中央に歩を進めると、正に天まで昇る勢いで、燃え盛る炎を見上げた。
「火の神様☆ またお祭り致しましょうね♪」
 あと僅かで林間学校の刻は終わる――――。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/担当】
【0328/天薙撫子/女性/18歳/国語・古典補助教諭】
【1593/榊船亜真知/女性/999歳/高等部学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は引き続きの御参加ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 今回は参加メンバーが変わらない為、シーンのクローズアップスタイルでお送りしました。
 さて、いかがでしたでしょうか? ‥‥心の鏡、反則です(笑)。でも神様ですし、設定にも記載されておりますのでOKです。しかし、妖機怪にも秘密なんですね。秘密の一つや二つあった方がヒロイン的ですよね☆ キャンプファイヤーは情景を瞳を閉じて幻想的に思い描いて下さい(^^;
 今回の戦闘も連携を重視させて頂きました。対応としては当りです。二つの心を読める訳がありませんからね。ヒダル神の方は記されていなかったので、スルーさせて頂きました事を御了承下さい。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆