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<東京怪談・PCゲームノベル>


想いの数だけある物語

 ――少年は町の中を駆けずり回っていた。
 あまりに慌てて走っている為、何度か魚売りにぶつかりそうになり、焦ったものだ。
「おかしいなぁ、蓮のアニキどこで油売ってるのかなぁ?」
 肩幅で揃えられた黒髪を揺らし、紀平隆美は若い娘に見紛う風貌に困惑の色を浮かべる。華奢な体格の所為か、蕾のような口から荒い息が吐き出され、今にも倒れそうな表情だ。
「長屋には居なかったし、酒場にもいない。お天道様が昇っている内から博打している訳ないし‥‥‥‥っ!?」
 ふと視界に飛び込んだ建物に足を止める。赤い漆で彩られた妖艶な建物――女郎屋敷だ。
「まさか‥‥」
 隆美は覚悟を決めた――――。

 ――天性の成せる技か。
 何とか女郎に成り済まして忍び込んだとは言え、その先を考えていなかった。肩を肌蹴させた着物に身を包む少年は、何とか障子の隙間から中を覗き込んで探し人を見つけようと努める。刹那、背後から細い腕が力一杯に引かれた。瞳に映ったのは強面の男だ。
「何してやがる! 油売ってねぇで、とっとの客人の相手、して来やがれッ!」
「あ、ちょっとお待ちになって下さいませ! ぼ、あたしは‥‥ッ」
 グイグイと引っ張られ、奥の部屋へと連れて行かれる隆美。これはマズイ! しかし、ここで騒ぎを起こす訳にはいかない。どうしたものかと考えを巡らせると、障子戸が開けられ、中へと放り込まれた。思わず色香を漂わす声をあげ、畳に倒れ込んだ。
「旦那、追加の女をお持ちしやしたぜ。たっぷり楽しんでくだせいな」
 ――どうしよう‥‥。
「なに縮こまってるんだ? 俺は簡単に手篭めにしたりしないぜ? ほら、顔を見せろよ」
 顎を持たれ、隆美は潤んだ瞳で相手へと顔を向けた。刹那、二人の動きがピタリと止まる。
「‥‥蓮の、アニキ!?」
「お、おまえッ」
 衝撃的な再会を果たした瞬間であった――――。

■斬激仕事屋稼業! 闇斬りの蓮――宿敵遭遇編
「‥‥ったくよぅ、俺を心の病で殺す気かぁ?」
 赤い杯に注がれた酒を煽り、相澤蓮は片眉を跳ね上げた。手酌を続けながら少年は上目遣いでスッカリと酔いが回っている若い男を見つめる。
「だって、どこ探してもアニキいないんだもん。好きでこんな恰好して女郎屋敷に入らないよ」
「ほぅ」
「な、何だよぉ。アニキすっかり酔ってるでしょ?」
 急に顔を近付けて来た蓮に、隆美は困惑の色を浮かべて腰を退く。妖艶な顔立ちの若者は更に傍に寄り、妖しい瞳で少年の女郎姿を眺める。隆美の鼓動はドキドキものだ。
「こうやって見ると、なかなか色っぽいじゃないか。隆美よぉ」
「な、なに言ってんだよ? アニキ、呑み過ぎだって‥‥ちょっ」
 ぱたんと畳が鳴り、少年は肩を掴まれたまま押し倒された。肩から肌蹴た着物が更に乱れ、少年である事なぞ忘れてしまいそうだ。それは、隆美とて同じ事だった。
 あぁ、この瞳で見つめられたら逆らえないッ。
「勿体無いよなぁ、これで男なんだからな。‥‥それで、おまえ、何しに来たんだっけ?」
「え? 何って‥‥猖巣の旦那が呼んでいたから探しに‥‥」
 悪ふざけしている場合じゃない! 蓮は酔いを吹っ飛ばし、慌てて外へ飛び出した――――。

 ――ドカドカパタパタと二人の足音が近付き、瓦曾猖巣は瞳を開いて一言一喝する。
「遅いッ! ‥‥おまえ達、俺に変わった見世物でも披露してくれるのか?」
 一瞬、間を置いて壮年の男が呆れたように溜息を吐いた。それもその筈、隆美は女郎姿のままだ。何も言い返せない少年に代わり、蓮が畳に頭を擦り付ける如く、茶の髪を垂れた。
「申し訳ございません! 全て俺の堕落が原因です。隆美に落ち度はありません」
「アニキぃ‥‥」
「‥‥まあ良い。俺もおまえ達に頼っている身だ。大目に見よう」
 頭をあげろと言われ、青年は妖艶な風貌に浮かぶ瞳を研ぎ澄ます。
「畏れ入ります」
「早速だが、化物絡みと思しき事件が起きた。人死には至っていないが、どうも解せない。駆り出された役人は行方知れずと来ている。何故に人間を傷付けたのみで殺さぬのか‥‥。そして、役人は何処へ行ったのか? その辺を今宵調べて欲しい。化物なら退治しろ」
「分かりました。隆美と共に今宵仕事させて頂きます」

●蓮、宿敵と遭遇す
 夜の帳が降りると、二人は現場へと辿り着いた。
 蓮は漆黒の衣装を纏っており、腰に鞘に収まった刀が挿してある。隆美は着飾った着物姿で、ほんのりと紅をさした相変わらずの恰好だ。妖艶な青年と可愛らしい少年が様子を窺う中、事態は急変する。
「あれ? 蓮のアニキ? ここって‥‥」
「あぁ、さっきの場所じゃない。なるほど、見てみろ隆美」
 青年が顎を杓って下を見るように促がした。地面に映るは夥しい白骨死体だ。蓮は瞳を研ぎ澄ますと、指を鍔に掛けた。周囲は白い霧に覆われ、視界が曇ってゆく。
「行方知れずになる訳だ。どうやら餌に選ばれちまったようだぜ」
「餌?」
 来るぞ! 青年の声と共に白い闇から犬の化物らしきモノが飛び込んだ。少年は素早く障壁を作り出し、鋭い爪の洗礼を弾く。僅かに躊躇を見せた化物に回り込み、蓮の太刀が薙ぎ振るわれた。斬光に容易く肉は切れ、赤黒い鮮血が噴き上がると、化物は地に崩れたのである。あまりにも弱い敵に、隆美が呆れた。
「弱過ぎ‥‥この前より全然弱いよ」
「それでも普通は太刀打ち出来ないってもんだ。‥‥けどよ、隆美」
 蓮の瞳は安堵を浮かべていない。
「まだ戻っていないって事は、未だ終わっちゃいないって事だぜ」
 刹那、赤い天空から幾つもの刃が降り注いだ。二人が鋭利な得物の洗礼を躱すと、隆美の側面へ向けて黒い塊が突っ込んで来た。慌てて青年が叫ぶ。
「隆美! 左だ!」
「え? うわッ!」
 何とか腰を捻って両手を翳す事により、障壁を作り上げた少年だが、黒い塊は尚も突き破ろうとしているようだ。隆美の瞳に牛のような化物が映る。
『よく、躱したじゃないかい?』
「女の声! 何処だ!?」
 確かに響き渡ったのは女の高い声だ。蓮は目元に掛かる前髪を揺らし、辺りを見渡す。刹那、再び刃が空を切り、青年の顔へと吸い込まれてゆく。次の瞬間、乾いた音が響き渡った。刀身を翳して刃を弾いたのである。
「顔は酷いな。これでも何かと便利なんでね。姿を見せろよ、それとも自信が無いのかい?」
 不敵な笑みを浮かべて見せると、霧の中からゆっくりと人影が浮かび上がった。白い闇から現れたのは、深紅の着物を纏った女だ。長い緑色の髪を端で結んで纏めており、肩を曝け出して着崩した衣が艶かしく姐的な感じを漂わす。20代後半位だろうか。猫のような瞳が青年を射抜く。
「随分な事を言ってくれるじゃないさ。あたいは木田唐じゅん、よろしく色男さん♪」
「おまえか? 化物を使って騒ぎを起こしてやがるのは」
「化物? 低俗な響きさねぇ。妖怪とか魔物って呼んでおくれよ。今度はこっちが聞くよ、おまえさん達だね? あたい達の邪魔をしているのはさ。何者だいッ!」
 どうやら餌に見初められたのは確かだが、この事件事体が罠だったらしい。状況を理解して尚、蓮は更に妖しく表情を歪めて見せる。
「勝てたら教えてやるぜ?」
「あ、アニキぃ‥‥もう、限界だよぉ!」
 尚も突撃を掛ける妖怪に、隆美の前方で赤い障壁が悲鳴をあげて火花を迸らせていた。彼には攻撃の手立てがない。じゅんが瞳を流してほくそえむ。
「安心しな! ボウヤもにいさんも纏めて地獄に送ってやるからさ!」
 再び両手を翳すと共に刃が放たれた。青年は瞬時に地を蹴り、飛び込み様、刀身に斬光を描かせる。じゅんが狙ったのは隆美だったのだ。少年の障壁が前方にしか効果が無い事を察したのだろう。
「おいおい! 汚いじゃないか? 俺とヤリ合う気はないのかよ。‥‥なら」
 隆美を庇ったという事は、背後には牛の妖怪もいる。着物を翻して優雅に踵を返すと、切先を向けて蓮が標的を換えた。慌てたのはじゅんだ。直ちに数多の刃の放ち、青年の細い背中へ真っ直ぐに吸い込まれる。刹那、彼は地を蹴り横へ跳んだ。
「しまった!」
 少年の障壁が砕かれると同時、女の放った刃は妖怪へ幾つも突き刺さり、苦悶の咆哮を響かせた。並の刃物ではない洗礼は容易に肉を突き通し、躰中から鮮血が噴き上がる。
「危ない刃物使うじゃないかよ!」
 隙を与えたら負けだ。隆美が倒れて妖怪の鮮血に染まるものの危険は無い。蓮は横に跳んだ後、地面を転がり立ち膝状態を保つと、再び切先を向けて跳び込んだ。銀の瞳に迫るは奥歯を噛み締める女の顔だ。
「味な真似をしてくれるじゃ、ないさッ!!」
 再び夥しい刃が召喚され、青年を獲物と定めて突っ込んで来る。渾身の妖術と呼ぶべきか、その数はあまりに多く、跳んで躱すのは叶わぬ行為だ。蓮の瞳が紫に染まると、瞳を研ぎ澄まして残像を描かせながら刀身を薙ぎ振るい捲った。正に疾風怒濤、獲物に吸い込まれる刃は次々と弾かれ、腕を休める事なく、じゅんへと駆けてゆく。
「おまえの弱点は見抜いたぜ! この術は刃を真っ直ぐしか飛ばせねぇ!」
「だから何さッ! 行きなッ!」
 再び召喚される数多の刃。横殴りの雨風の如く降り注ぐ刃に、青年の衣が切り裂かれ、赤い鮮血が風に舞い散ってゆく。妖艶な風貌から舞う紅い華は鮮烈に蓮を際立たせた。絵画の如き幻想の中、遂に肉迫した切先が斬光を描く! 更に鮮血が空間を赤く彩る。果たしてその華は誰のものか――――。
 崩れた影は二つ。何とか膝を着いて倒れるのを堪え、互いに視線を交差させる。周囲に流れるのは男と女の荒い息だ。鮮血が流れる両者の口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「‥‥やって、くれるじゃ、ないさ」
「そっくり‥‥返して、やる、ぜ」
 だが、じゅんは胸を逸らして半身を起こそうと躰を奮い立たせた。一方、蓮は切先を地に突き刺し、身体を支えている状態。ここで動ける女に武がある。刹那、切り裂かれた皮膚が再び鮮血を噴き上げた。瞳を見開いたまま、仰け反るように女体がゆっくりと倒れる。その時だ――――。
 いつ現れたのか、じゅんの身体を支えた男の姿が霧の中から浮かび上がった。流れるような銀髪の端整な風貌だ。女の身体を抱き上げると、銀色の瞳が蓮を見下ろし、口元が不敵に歪む。
「ここで止めを刺すことも出来るが‥‥まだまだ楽しませてくれないとな」
「‥‥誰だ、おまえ、が、黒幕かよ」
 次第に霧へと包まれる背中に青年が訊ねた。
 ――いずれ知れる事よ‥‥。
 霧が掻き消えると共に、二人は町の一郭に戻された。既に隆美と蓮も意識を失い、深夜の路上に倒れている。否、青年だけは妖艶な瞳を微かに開き、眠りの誘いと必死に戦っていた。そんな中、聞き慣れた野太い男の声が飛び込む。
「おい! 隆美! 蓮! しっかりしろ! 蓮ッ!!」
「‥‥聞えて、る、ぜ、瓦曾さ、ん、よ」
 ――あいつが黒幕か‥‥。
 既に姿を消した方角を見つめたまま、青年は男の残影に銀の瞳を研ぎ澄ました――――。


「‥‥はい、蓮さん☆」
 カタリーナは瞳を開くと、胸元に当てた一枚のカードを蓮に差し出した。
「蓮さんの履歴を更新いたしました。『武士道が盛んな日本。今宵も仲間と共に化物退治に向かうが、好敵手と対峙して重傷を負う事に‥‥。どうやら黒幕は人間のようだ』って感じです☆」
 相変わらずな履歴だな‥‥。
「まぁ、取り敢えず貰っておくぜ‥‥」
 流石に二度目となると、何となく慣れたような気がする。蓮は更新されたカードを受け取った。
「それでは、蓮さん、ごきげんよう☆」
 カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、みなもは瞳を閉じた――――。

<闇の仕事人を続ける> <目を覚ます>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【2295/相澤・蓮/男性/29歳/しがないサラリーマン】

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■         ライター通信          ■
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 この度は継続発注ありがとうございました☆
 ファンレターありがとうございます♪ 切磋巧実です。
 お返事が遅れていて申し訳ございません。前回の感想を頂けてホッとしていました。
 しかも風邪をひいたとはいえ、ノベルも遅れてしまい大変申し訳ございませんっ。
 そんな訳で(どんなだ)一寸前半暴走気味に(^^; 妖しいオーラか否か‥‥。
 おぉ、ここで女を出しましたか! って、もう女しか残っていませんね。
 柳は顔晒しまでで名前は名乗らない方向で☆ やはり黒幕が簡単に名乗っては美学が無いです。
 今回カードが更新され、専用になりました。ご確認下さい。
 お気に召したら、続編を描いてみて下さいね。勿論、別の世界のカードを選んで、別の物語も自由です。また、カタリーナに聞かせてあげて下さいね。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆