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<東京怪談・PCゲームノベル>


具現化協奏ファントムギアトルーパー――testee3

 ――季節は夏から秋へと移り変わった。
 夏の暑さを乗り越えれば、僅か数ヶ月の心地良い月日が訪れる。
 気温は汗ばむ程の暑さでもなく、陽光が照らす空は穏やかそのものだ。
 そんな一時こそ、人は色んな事を考え、この快適な季節を満喫しようとする。
 食欲の秋、読書の秋、芸術の秋‥‥。
 そして、学園では様々な行事が執り行われる季節。
 体育祭、文化祭、林間学校‥‥。
 紅葉が彩る山林への坂道を、数台のバスが登って行く――――。

■testee3:林間学校の中で
 ――夕飯の仕度前に起きたヒダル神の襲来後。
 生徒達に大した被害も無く、多少時間が取られたものの、夕飯の仕度は再び行われた。
「それじゃ、千里さんは具の方を頼むわね☆」
 軽くウインクを投げると、銀野らせんは同じ班の月見里千里に調理を任せた。大きな丸眼鏡に映る茶色に染まったショートヘアの少女は、釈然としない表情を浮かべる。
「構わないけど、らせんちゃんは?」
 訊ねられた少女は何故か得意げな表情だ。
「良くぞ訊いてくれました♪ あたしはカレーの方を調合するのよ。この日に備えて料理人から特訓を受けて来たから、最高の味にしちゃうわよ☆」
「え? カレーって煮えた具に塊を放り込むんじゃなかったの!?」
「ふふん♪ そんな当たり前なカレーなんて、あたしには許せないわ。カレーはね、スパイスの調合あってこそ絶妙のハーモニーに奏でてくれるのよ!」
 千里には良く分からなかったが、長いボリュームのある茶髪の三つ編みを揺らし、拳を掲げるらせんはチリペッパーの如く真っ赤に燃えているようだ。
「う、うん。分かったような、気がする、かな」
「そ☆ じゃあ具の方をヨロシクね♪」
 うん、任せて! とショートヘアの少女が答えると、らせんはスパイスを詰めた小ビンをトントントントンと幾つも並べてゆく。ざっと数十種類はあるだろうか。その隣で千里は具の調理に取り掛かった。‥‥否、取り掛かろうとしているようだ。
(えっと、確か通いの家政婦さんが何度か作ってくれたよね。先ずは鍋ね)
 パタパタと動き始める千里。鍋を準備すると、細い顎に指を当て、空を見上げた。すると、何かを思い出したらしく、肉を投下。暫し沈黙、次に野菜類をそのまま投下し、火に掛けた。ニコニコと微笑む少女が待つこと数分、何やら焦げ臭い匂いが発ち込める。流石のらせんも、何事かと愛らしい顔を向けた。鍋は容赦無い火の洗礼を受け、具たちが悲鳴をあげているようだ。
「ちょっと、焦げてない?」
「あれ? おかしいなぁ。野菜が溶けてスープが出る筈なんだけど‥‥」
 ――はい?
 慌てて覗き込むと、そこにはしっかりと焦げた肉や野菜達が呻き声をあげているような光景が浮かぶ。しかも野菜は切った痕跡する無いではないか。丸眼鏡を照り返らせ、らせんは無言のまま火を消した。刹那、苦笑を浮かべる千里へズイと顔を近づける。
「千里さん? 何を作るつもりだったのかなぁ?」
「やだなぁ、カレーの具だけど忘れちゃった?」
「ううん、しっかり覚えているわ。それで、この有様はどうしてなの? 野菜どうして切らないの? いいえ! その前に水も入れずになに焼いているのかな?」
「えっ? 野菜って切るの? そのままトロトロになって‥‥ない、よ、ね☆」
 茶髪を掻いて兎に角微笑む少女に、ビシッと、らせんの指が向けられた。
「退場ッ! キミ背が高いんだからテント設営に回って! それと、カレーの具を用意できる支援クルーを向かわせて頂戴ッ!」
 謝りながら駆け出す千里の背中を見つめ、らせんは溜息を吐く。
「ったく、トロトロね。きっと具はお肉しか残らないほど煮込んだ洋風カレーを食べてたのね。作れないなら言えば良いのに‥‥。そう言えば、なんだか様子が変だったわね」

●千里★ 情緒不安定 
「はぁ、あたし何やってんだろ‥‥考えればお湯は必要じゃない」
 とぼとぼとテント設営地へ向かい、千里は歩いていた。行き交う生徒達の笑い声がヤケに心に染みて、時折楽しそうに微笑み合う男女を見掛けると切なさが込み上げる。ひたすら想いを打ち消して陽気に振る舞った彼女だが、どうやら歪みが生じているようだった。
≪彼の事が忘れられないんだね?≫
 刹那、少年の声が背後から飛び込んだ。一瞬、身体が硬直し、見開いた瞳の脇を汗が流れる。
≪両親には内緒で婚約したのに、彼の記憶からキミのことだけ抜け落ちてしまったなんて、哀しいよね♪≫
「‥‥や、やだ、何も言わないでッ!」
 少女は耳を塞ぎ蹲る。だが、少年の声は直接脳に飛び込むように止みはしない。
≪それなのに、お見合いの話が進んでいるって? 彼は未だ生きているのに?≫
「やめてッ!!」
 千里は涙を舞い散らせて山林へと駆け込んだ。生い茂る枝が肌を傷付けようとも、彼女は耳を塞いだまま、必死に声から逃れようと直走る。しかし、少年の声は楽しむような響きを湛えて少女の心を読み伝えた。
(サトリだ! 囮になるつもりだったけど‥‥こんな風に現れるなんてッ!)
 ――サトリ。
 山中に住み、人間の考えている事を言い当て、惑わす妖怪である。うろたえる人間の様を見て、喜ぶ悪戯好きの妖怪であるが、最後には発狂させた後、食らうとも謂われている――――。
「きゃッ!」
 地を這う根に躓き、千里は勢い良く倒れ込んだ。涙で濡れた視界を改めて見つめると、どうやら山の奥へ来てしまったらしい。少女は奥歯を噛み締め、懐中時計を取り出した。
≪呼ぶ? 何を呼ぶんだい? PGT? なにそれ♪≫
「うるさいッ!」
 ――霊波動確認 パイロット照合:月見里千里
 霊駆巨兵ファントムギアトルーパーリフトアップ―――― 
 山が揺れ、付近の山林を割って体育座りをした鋼鉄の巨体がセリ上がった。少女は起き上がると一気に駆け出し、巨兵のコックピットへ潜り込む。視界にサトリを捉えようと視線を流すが、少年の姿は確認できない。刹那、急激な衝撃がコックピットを強襲した。
「なに? 妖機怪!?」
≪キミには見えないよ。大切な男に忘れられた存在なんかに見えるものか!≫
「言うなッ! きゃうッ!」
 立て続けに衝撃が伝わり、少女は短い悲鳴をあげた。尚もサトリの声は飛び込み、千里の精神を蝕んでゆく。鼓動の音が高鳴り、見開いた瞳には恐怖しか見えない。
 ――忘れられてしまう恐怖‥‥。永遠に、永遠に‥‥。
≪彼にとってキミはいない存在なんだよ? 忘れられないなら、死んでしまえばいいよ≫
 霊駆巨兵とはいえ、能力を具現できる事に特化した鋼鉄の代物だ。立て続けに攻撃を浴びれば、装甲に限界が訪れる。心が奪われたように呆然とする中、コックピットが悲鳴をあげ、警告音と共に彼方此方のパネルが赤く点滅を始めた。
≪そうだよ、キミは死んだ方が彼だって幸せなんだ。キミは存在しない方が良いんだよ≫
 ‥‥存在しない。あたしは、いない方が――――。

●失意の敗北
 ――‥‥里さん、千里さんッ!
 必死に身体を揺らして叫ぶ少女の声が聞こえ出した。
 ――誰だろう? あたしは死んだ筈なのに‥‥。あれ? 零れる暖かい水滴は‥‥なに?
「目を覚ましてよ! 千里さんってばッ!!」
 薄っすらと瞳を開くと、視界に映ったのは、らせんの姿だった。可愛らしい顔をクシャクシャに、円らな瞳から涙が頬に滴り落ちる。意識を取り戻した千里に、少女は安堵の微笑みを浮かべた。
「‥‥らせんちゃん? あ、戦闘コスチュームだ」
 刹那、堰を切ったように泣き出し、らせんは少女に抱き付く。
「心配したんだよ! ほんとに心配したんだからッ!」
「‥‥ごめん。やっぱり、あたしには重過ぎたよ」
 嗚咽をあげて小刻みに震える少女の肩に手を当て、千里は薄く微笑んで見せた。一頻り泣き終えると、らせんは半身を起こし、眼鏡を外して涙を拭う。
「一人で抱え込まないでよ。駄目ならあたしがサポートするんだから」
「うん‥‥ありがとう、らせんちゃん‥‥」
 ショートヘアの少女は半身を起こそうとすると、身体の彼方此方から激痛が疾り出し、小さく呻き声をあげた。らせんは、「無理しないで」と再び千里を寝かせる。
「らせんちゃん‥‥あたしのPGTは?」
「‥‥大丈夫だよ、破損は酷いけど数日あれば修理できるって」
「そっか‥‥あたし、パイロットから下ろされちゃうかな?」
 ――キミは存在しない方が良いんだよ
「やだな‥‥何もかも中途半端だよ‥‥」
 千里は視線を逸らして微笑みを浮かべて見せる。何故か自然と涙が込み上げて来た――――。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/担当】
【0165/月見里千里/女性/16歳/高等部学生】
【2066/銀野らせん/女性/16歳/高等部学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は引き続きの御参加ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 今回は参加メンバーが変わらない為、シーンのクローズアップスタイルでお送りしました。
 さて、いかがでしたでしょうか? 結論から言えば正しい遊び方の一つです。切磋はあくまで記された内容に問題なければ演出するだけですから、意図的に自分を窮地に陥れ、物語に厚みを出させる行動は大歓迎です。ちょっと、ドジっ娘という枠を突き抜けてしまったカレー騒動がありましたが、指を切った位では一人になる展開は困難でしたので(いや、在り来たりだし)。
 さて、次回どうなりますか。因みにブログは確認しておりません。情けない事に風邪をひいてしまい、綴るのが精一杯な有様です(汗)。何とか探しますが、行動や設定に書かれていなければ演出しませんので、『参照希望』は無しですよ。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆