|
■仮面武闘会■
それは、世間がハロウィン一色に染まる頃のことだった。
いや、日本ではクリスマスやバレンタインよりもハロウィンというものは、外国からきたものではあってもさほど騒がれはしないものだが、それでもハマっている人間達にとっては一大イベントで、この日この夜も、草間興信所の近くでハロウィンの仮装大会が広場で行われているらしく、人々の楽しそうな声が、のんびりと煙草をくゆらせている草間武彦の耳にも届いてきていた。
そんな、安穏した空気を満喫していた時である。
慌しく扉が開き、一匹のかぼちゃが黒いマントを羽織って舞い込んできた。
「た、た、助けてくださぁい!!」
かぼちゃはくぐもった声で、情けない第一声を発した。
否、それはかぼちゃのかぶりものをかぶった少年だった。
「いきなり飛び込んできて何を助けろって?」
こちらは呑気に構えている。大抵の場合、たいした事件ではないからだ。
そんな武彦がギョッとしたのは、その隣からいつの間に入ってきていたのか、にょっきり顔を出した生涯の宿敵である生野・英治郎の姿を見た時である。
彼はさもここの主であるかのように、少年に尋ねた。
「なんでも言ってごらんなさい、このサングラスのおじさんが全て解決してくださいますよ♪」
「英治郎、お前な───」
そんな武彦の言葉も遮って、「ほ、本当ですかっ!?」と少年が目を輝かせてきた。
「実は、ハロウィンパーティーをしていたら、本物の魔女が三人も出てきちゃったんです!」
「は?」
思わず聞き返す、武彦。
「とんがり帽子でいかにも童話に出てくる魔女って感じの、でも悪さをするっていっても人を動物に変えたりものを全部お菓子にしたり、空を飛んで唄ったり───でも、もっと楽しませろってみんなに踊りを踊らせ続けたり、みんな眠れなくてパーティーをやめられなくて困ってるんです!」
「魔女ですかあ。最後に会ったのはいつでしたっけ」
呑気にそんなことを言う英治郎をじろりと見やる、武彦である。
この騒ぎはもしや……というその視線に気づき、英治郎は肩を竦める。
「何を考えているんです、武彦。私が主催したハロウィンパーティーはこの前無事に、つつがなく終わったじゃないですか」
「ああ、そうだったな」
という武彦だったが、少年の次の言葉に英治郎の襟首を掴むことになった。
「でもその魔女三人とも、この前のハロウィンパーティーが一番楽しそうだったから眠りから起こされて、暴れ足りないって言ってました……」
「やっぱりお前のせいじゃないか英治郎っ!」
「あはは、参りましたねえ。そんなにこの前のパーティー楽しそうでしたか?」
じゃあこうしましょう、と英治郎は「責任とれ、お前がとれ」とうるさくがなりたてる武彦を放っておき、提案した。
「今夜人を集めてください。明日の夜までに仮装だけではなく、仮面も用意してきてください、と。狗皇(いのう)神社の近くに墓場に面した広場がありますし、その墓場もまだ使われていない私の家族の者の管轄地ですし、そこで武闘会を開きましょう♪」
もちろんお菓子と飲み物つきで、と言う。
「ぶとうかい? 俺達に踊れってのか」
「いやですねえ、武士の武、闘技場の闘、会議の会、で『ぶとうかい』、ですよv」
「……なんだそれは」
「ぶっちゃけて言いますと、まだ墓石だけの外国風の墓場を舞台に、暗闇の中でペアを組む人はペアを組み、一人の人は一人で、闘い合うんですv 武器の使用は怪我をしない武器程度でしたら可能ということで♪ 花火を一番多く上げた人が勝ちです。花火は誰か一人を『闘えないように』しないと上がらないようになっていますからね♪ あ、それと武闘会中での能力使用は禁止ということで」
もちろん魔女さん達にも参加して頂きますから、そうお伝えしておいてくださいね、と英治郎はこんなときばかりてきぱきと少年に指示を出し、帰してしまった。
「お前……俺と俺の関係者にまたお前の尻拭いをさせる気か……」
「だってこの前武彦達もそれなりに楽しんでたじゃないですかv」
「うっ……そ、それはそうだが」
「武彦は仮装、何が似合うでしょうねえ♪」
そうだ、優勝者にも参加者さんにもそれぞれに何か特典を考えておきましょうね、とうきうきする英治郎に背を向け、ため息をつきつつ、仲間達に連絡を取る気が重い武彦だった。
■墓場で華麗に武闘会■
武彦の人徳か、それとも武彦に降りかかった受難を楽しみにきたのか、解決にきたのか。
その夜のうちに、7人の仲間達が集まった。
どれも、英治郎の通達で最初から仮装に仮面をかぶっていたが、誰が誰だというのは体格や声などで大体分かった。
「まあ、暗闇になれば分かりませんからねえ」
ほくほくと英治郎は、一般客も呼んだらしく、仮装と仮面に身を隠した7人以外の人間達から、パーティー料をしっかりと頂いている。
墓場は、たちまちがやがやとにぎやかになった。
「武彦さん、武彦さん」
そ、と無愛想な表情のままの恋人に歩み寄ったのは、妖精の女王に仮装し、仮面は口元の開いた白地に雫形の模様つき、よく見れば武彦とおそろいのシュライン・エマである。
口元が開いているのは彼にとって都合がよかったらしく、不機嫌なのをいいことに煙草を吸いまくっていた。
「どうした?」
シュラインは最初、夜の女王と妖精の女王、そしてクロコのどれがいいか、まず、武彦に伺いを立てたのだ。結果、武彦の好みである(らしい)妖精の女王になったわけなのだが、そんな彼女はそっと耳打ちした。
「一応怪我をさせず戦闘不能(?)にする方法として考えたものはあるのだけど、手伝ってもらえると助かるの」
「ふうん? お前と組めるなら、俺は構わんが」
よかった、とシュラインは微笑んだようだった。なにぶん、仮面の上からでは表情がよく掴めない。
武彦にしてみれば、恋人とペアを組むのが一番安全だと思われた。何故なら、英治郎とかかわったことで苦労しなかったことなど、一度もない。
そんな武彦の、妖精の王と思われる仮装姿を、パシャリと写真におさめた者がいる。
「……羽角、またアルバムで小遣い稼ぎでもするつもりか」
「あ、やっぱ俺ってバレる?」
ちらりと悪戯っぽく笑ってみせたのは、革ジャンに飛行帽、ゴーグルに白いマフラーを巻き、ライト兄弟時代の飛行機乗りスタイル。それにマスクは目元を隠しただけの、羽角・悠宇(はすみ・ゆう)である。
「バレバレだ。そもそもこんなしょっぱなから殆ど俺だけを狙って写真を撮るヤツなんか、お前以外いない」
どぎっぱりと言われ、ひどいなあと悠宇は泣きまねをしてみせた。
「無駄よ、悠宇」
くすくすと微笑ましそうにその肩をぽんぽん、と叩いてみせたのは、到底動き回るのに向いていなさそうな袴にブーツスタイル、それに長い髪はリボンもつけている。マスクはやはり、シュラインや武彦がおそろいなのと同じように、悠宇とおそろいにしたような、目元を覆うだけの、初瀬・日和(はつせ・ひより)だった。
「悠宇がそんなことで泣くなんて、あり得ないもの」
「俺もそう思うけど、そこはやっぱノリってやつでさ」
ははっと悠宇も、今日は一段と陽気だ。
何か言おうとした日和に、人ごみに押されて、どん、と誰かが倒れこんできた。
「きゃ」
「あっ、」
とと、と自分で足を踏み堪え、体勢を立て直して「ごめんなさい」と振り返ったのは、由良・皐月(ゆら・さつき)である。彼女はオペラ座の怪人みたいな仮面つけて似非吸血鬼になっていて、たった今、「微妙な際物三十路男再び、ね。パーティーで会ったのが最初だけどまあ後を引く騒ぎだこと」と、英治郎の前を通りすぎざま、そんな可愛らしい皮肉を言ってきたところだった。
彼女は日和の姿を改めて見ると、
「それ、何の仮装? 普通に見えなくもないんだけど」
と、ともすればきつく聞こえる、彼女独特の言い方で尋ねた。
悪気はないと分かっているので、日和はふわりと微笑む。
「大正時代の女学生です」
「───ああ! 見える見える!」
そういえばそうだわ、と皐月は目を見開いた。
元から、さばさばした性格、肝っ玉母ちゃん要素のある彼女である。「ごめんね、気にしないで」と豪快に笑ってばんばん、と日和が咳き込むほど背中を叩いた。
「うわあ、うわあうわあ、皆さん素敵ですねえ! お祭りですねーっ、楽しむのならどーんっと楽しんじゃいましょう!」
日和たちが自己紹介をし合っているとき、そんな声が聞こえてきた。皐月とシュラインには、聞き覚えがある。
その声の少女は、これからの自分の人生で絶対なれないだろうと思ったシスターの格好で、仮面は白くて大きな羽根飾りのある顔半分を覆い隠すやつをしていた。どうせだから、と、南瓜をくりぬいて作る、ジャック・オ・ランタンも小脇に抱えて持ってきていた。
「あ! 私、藤郷・弓月(とうごう・ゆつき)っていいます! 初対面の方、宜しくお願いしまーす!」
と、仮面を台無しにするように、全員が腰砕けをしそうなほど大声で自己紹介をした。
「え、と。じゃあ、せっかくだから僕も自己紹介しちゃおうかな」
くすくすと笑ったあと、そんな言葉を、気配もなくいつの間にか彼女の背後にいた少年の声が、続く。彼はなつかしのキョンシー、帽子とお札で殆ど顔は見えないから仮面はいらなそうなのだが、一応規定だと英治郎に言われたのだろうか、そう言われることも見越して用意していた、黒の、目が隠れて口元は隠れていないタイプの物を着けていた。手には、英治郎から借りたものだろうか、棍を持っている。
「僕は菊坂・静(きっさか・しずか)。皆さんお手柔らかに」
にっこりと、覗いた口元が微笑む。
ぽかん、と武彦の頭に靴が落ちてきたのは、その時である。
ちょうど武彦の頭上には、木々の葉っぱが広がっていた。
「だっ……誰だ!」
「わ、私です〜」
その声には、幾人かが聞き覚えがあった。
ん?と全員の視線が声のする頭上に集まる。
「わわ、見ないでください! 今日はスカートなんです!」
だが、その声は明らかに───低音で滑らかではあるが、オッサンのものだ。
「シオンか。いいからとっとと降りてこい! つか、なんでスカートだ?」
機嫌の悪い武彦に、しょげながら、それでも一生懸命、足がかりを探しているようだったが、何を思ったか。
「てやっ!」
彼は、飛んだ。
跳躍して、ほほほ、とさながら魔女のように笑いながら、持っていたほうきをくるくると回し───魔女の格好で華麗に───着地に失敗し、転んだ。
「あいたたた……身も心も魔女だったのに」
「お、シオンさん登場ですか。名前はあるのに姿が見えないので、欠席かと思いましたよ」
英治郎が、作った名簿に「出席」のほうに丸をつける。
そう、魔女の格好をし、パーティー等で使う、大きな鼻とヒゲと眼鏡がついた仮面(?)をし。手には魔女らしいふくらみのあるほうきを持って派手に登場をかましたのは、シオン・レ・ハイだった。
一同は会ったことのない、武彦つながりの者同士で自己紹介をしあった後、まじまじとお互いの仮装を改めて見つめたりして、本家魔女三人の登場を待った。
「皆さん、それ、手作りですか?」
「私は作ったわ。これくらいの仮装服なら、普通の服よりも簡単だから」
「俺は、あったものかな。古着屋で見つけたものとか、友達に借りたものとか」
「私も、手作りね。武彦さんの分も作ったから、おそろいはいいのだけど、正直少し、肩こりが、ね」
「肩こり? 大丈夫かな、よかったら時間もまだありそうだし、揉みましょうか?」
「私は手持ちのはぎれで作りました、ほうきは自宅にあったものに、少し変化をつけて」
「シオンさんて男の人なのに、そんなこともできるんですね!」
日和に皐月、悠宇にシュライン、静にシオン、そして弓月は、そんなふうに他愛なく話をしていたが。
水をさすように、或いは───自分達も混ぜろ、とでも言わんばかりの突風が吹き、思わずスカートでいる者は裾を押さえた。
土埃が目に入らないようにと反射的に目を閉じた一同は、目を開いたとき、そこに、結構老齢の、しかしまとう空気は若い気満々の、とんがり帽子に黒服の、魔女三人の姿を認めたのだった。
◇
「…………、っ」
派手にぐっと喉へ声を押し殺したのは、皐月である。
気づいた静が、「どうかしたの……皐月さん?」と尋ねてきたが、
「なんでもない」
と、少々調子が狂った、という風に深くため息をついただけだ。
実のところ彼女には、魔女達の話を聞いて悪ガキとしか思えず。また、年齢も知らなかったこともあるが、会ったら「人様には迷惑をかけるな小娘が!」と叱責するつもりでいたのだが。
(さすがに、この老齢じゃあ敬意を払わなきゃだわよねえ)
それでも、どうやって淡々とでもいいから考えを改めさせようかと考えていると。
魔女達が、喋り始めた。
「ねえ、ラクシー。ほら、あの子なんて『美味しそう』じゃあない?」
「やだ、メイシー。あなたったら、いつからお子様趣向になったの? あたしだったら、あのかわった鼻とヒゲのついた仮面をしたのを選ぶわ」
「これだから、年を取るとダメなのよ。そんなんじゃ、グラン・マにいつまでも申し訳がたたなくってよ、二人とも」
「「あら、じゃああなたは誰を選ぶっていうの? ジェシー」」
「もちろん! 可愛い女の子よ!」
きゃあきゃあと、どうやら武彦達一行を値踏みしているらしい。
「お……美味しそうって、なにかしら」
ちらりと、シュラインは仮面越しに英治郎を見やる。
そんな話は聞いてない、といったふうに。
合図を受けたように、英治郎は、シュラインの視線を「きれいに無視して」全員に、言った。
「さて、これから魔女さん達と鬼ごっこをしていただきます。その中で、武闘会をしてくださいね。ああ、パートナーはこちらで昨日のうちに、集まった面々の情報を見て、妹の電波で決めさせて頂きましたから♪」
「妹って……あの、ユッケ・英実(─・ひでみ)さんですか?」
シオンの問いに、大きくうなずく英治郎。
「生野さんて、妹さんがいたんですか!?」
弓月の驚きの声に、妹の存在を知らなかった人間達に、知っている者たちが「なんでも電波な、素敵美女って覚えておけばいい」と簡潔に説明する。まあ、実際今回のパーティーに彼女が関係していることはないので、説明は省こう。
ともかくも、英治郎の企み(?)で、一方的にパートナーを決められてしまったらしい。
「電波ってなによ、電波って」
身震いをする、皐月。電波人間が決めたパートナー。いや、ある意味それは最適なパートナーを選ぶものなのかもしれない、が。
「皆さんの武闘会中、魔女さん達が遊びをねだったり食べようとしたりしてくるかもしれませんから、気をつけてくださいねえ」
「聞いてないです、わ、私は美味しくないですよー、オッサンですし! 筋張っちゃってもう」
「筋張ったら、出汁に使えるのよね」
わなわなと恐怖におののくシオンを尻目に、ぽつりと皐月が空恐ろしいことを言う。ひいい、とシオンが震え上がった。
「えっと、じゃあパートナーを発表しまーす。発表された方々は、速やかに森の中へ移動してくださいね」
英治郎はそう言い置き、まず一般人の中から選ばれたパートナー達の名を呼んでは森の中へと見送ってゆく。
武彦達は、最後だった。
「Aパーティー、初瀬日和さんに羽角悠宇さん。Bパーティー、シュライン・エマさんに草間武彦さん。Cパーティー、藤郷弓月さんに、シオン・レ・ハイさん。そしてDパーティーは、菊坂静さんに由良皐月さんです」
「待て。お前は参加しないのか?」
元凶のクセに、という色が武彦の声にこめられている。
涼しげに、英治郎は微笑んだ。
「私は、審判ですから♪ さあさ、魔女さん達が追いかけてきますよー、皆さん森の中へ逃げてくださいねv」
「ちょっ、生野さん!」
「きゃ、悠宇! 魔女さんのひとりが追いかけてくる!」
「武彦さん、行くわよ。作戦の手の内がバレちゃったら元も子もないし」
「弓月さん、行きましょう! さあほおきに乗ってください!」
「はい、シオンさん! しっかりつかまっていますから!」
「ええ、と……じゃ、僕達も行きましょうか。皐月さん」
「あンの、悪ガキ達がっ。黙ってやられないからね!」
悠宇と日和が、魔女の一人に追いかけられるように森の中へ。
シュラインと武彦は、素早く森の中へ。
シオンと弓月は、ほうきに乗って───えっほ、えっほと電車ごっこのようにそのまま走って森の中へ(案外気の合う二人なのかもしれない)。
静と皐月は、今にも魔女達を叱り飛ばしたそうな皐月を宥めつつ、静が森の中へと先導していった。
「うんうん、我が妹ながら、いい配分のパーティーのようですね♪」
「ジェシーが抜け駆けしようとしてるわ、ラクシー!」
「そんなの駄目よ。あたし達も行くわよ、メイシー!」
魔女達は笑い声を立てながら、辺りの木々にクッキーやかぼちゃのお菓子の「実」を戯れに成らせながら───森の中へ、武彦とその仲間達を追ってゆく。
◇
Aパーティー。初瀬日和に、羽角悠宇。
この二人、実は日和の提案で、はからずもシュラインが武彦を誘ったようにペアを組む約束をしていた。
「とにかく、早くしかけないと、花火打ち上げ逃しちゃうものね」
「ん。それにしても、どんな風に花火が打ちあがるんだろうな」
日和が用意してきたのは、テグス、それに羽箒。墓石が使われていない、と分かっていなければ、こんな罰当たりなことは考え付かなかっただろう。墓石と墓石の間に、地面すれすれにテグスを手早く張る。
「これが終わるまでに、魔女さん達とお友達になって、お茶でもご一緒したいな」
「それじゃ優勝狙うしかないよな」
日和の天然さに、悠宇は愛しそうに目を細めて微笑む。
テグスのはり具合を確かめていた日和は、うん、いい感じ、と頷いた。
「じゃ、この位置まで誰かおびき寄せてくるから、危なくないように隠れて待ってろな」
「うん。待ってるからね、悠宇も気をつけてね」
墓石のひとつの陰に隠れつつ、日和。
この位置まで誰かをおびき寄せ、テグスに引っかかって転んだところをくすぐれば、怪我もなく降参してくれるのではというのが、日和の考えた作戦であった。
Bパーティー。シュライン・エマに、草間武彦。
「コヨリと、胡椒と、羽根用意してみました」
彼女の表情としては珍しい、ちょっと悪戯っぽく微笑んだ口元を見て、武彦も不機嫌さが少し減った。
「くすぐるのか、確かに怪我をさせずに戦闘不能に出来そうだな」
「でしょう? 暴力的なことはイヤだし、魔女達も悲鳴より笑い声のほうが楽しく感じないかなって。実際、すごく楽しがりな魔女さん達に見えたし」
それじゃあ、通りがかる人間を引っ張り込むことにしよう、と、その役は力の強い武彦が受けた。
シュラインは、茂みに隠れた武彦が引っ張り込んだ人間に、コヨリやら胡椒やら羽根やらでくすぐったりして笑わせるため、スタンバイした。
Cパーティー。藤郷弓月に、シオン・レ・ハイ。
シオンが持っているのは、五円玉と糸。大事なほうきは小脇に抱えている。
「テレビで見たことがあるだけですが……怪我をさせてしまうよりはマシでしょう」
それは、催眠術。
かかるかどうかは0%に近いだろうが、そんなことは微塵も思わない。
パートナーだからと唯一打ち明けられた弓月のほうも微塵も疑わない。
「すごいですね! 私も一応考えてはきたんですが、いやーしかし、墓場で武闘会ってちょっと無いですよね、生野さんの発想の凄さには尊敬します……!」
「本当ですねえ」
ほのぼの。
そんな空気が二人の間に流れているのを、当の二人はちっとも分かっていない。
「弓月さんの考えこられたこととは、なんでしょう?」
シオンが改めて聞いたことで、ようやく弓月は、言いかけていたことを思い出す。
「えっと、私が闘うっていっても罰当たりな事はしたくないし、闘い方も知らないから誰かのお手伝いも出来ないし……と思っていたので、ロープを用意して足元を引っ掛けるように配置、転ぶ人が居たら手にしているランタンを投げつける、とかくらいかと。痛い目には合いたくないので、勝てそうに無い人が来たら両手上げて降参します!」
「では、早速ロープを墓石の間、そして木々の間に設置しましょうか」
「はい!」
鼻唄を唄いながら、二人はまるで仲のよい親子のように、弓月が抱えてきたジャック・オ・ランタンとは逆の腕の中にあった包みの中身をぶちまけ、設置をはじめた。
Dパーティー。菊坂静に、由良皐月。
「大鎌が一番使い易いんだけど怪我はして欲しくないから……でも、普通程度の体力しかない僕が一番弱いんじゃないかな?」
言いつつ、棍を軽く捌いている静。
「説得力ないわよ」
そんな皐月の言葉に、分かっているのか分かっていないのか、静はちょっと笑っただけだ。
「そういう皐月さんは、どんな方法を考えてきたの?」
皐月が手に持っているのは、吸血鬼の仮装、そこから取ったスカーフだけ。
「この端っこで誰か来たら落ちるまで締めるか、鳩尾に一発入れて仕留めるか、始末人みたいにきゅっと……布なら死なないでしょ」
「それ、結構荒っぽいかもね」
「そう? 草間さんの仲間達なら大丈夫だと思うのは私だけ?」
「うーん、どうかな」
曖昧な返事を返しつつも、静は皐月の豪快さに楽しそうな色を瞳に秘めていた。
「じゃ、ここでじっくり待とうか、獲物を」
「早く魔女達に話つけたいもんだわ」
獲物、と言った静には興味を示さず、皐月は手持ち無沙汰にスカーフを手の中で弄んだ。
◇
「あら、メイシー。今、グラン・マの声が聞こえた気がするわ」
ふと足を立ち止めたラクシーに、先を行っていたジェシーも振り返る。
「お早いお起きだこと! また閉じ込められたらたまんないわ、もっともっと騒ぎ立てて、あたし達の気配をけさないと!」
「そうよそうよ、ラクシー、ジェシー。楽しく騒げば騒ぐほど、グラン・マは安心して眠れるのだもの!」
「もしもグラン・マが目を覚ましかけてるなら、大変なことよ! それはそれは大変なことよ!」
ラクシーが、おお、と身震いをする。
「だってグラン・マの見る夢はとんでもないものだもの! 目覚めかけたグラン・マに影響されて、この世の生き物たちがどんな『夢』を見るかわからないわ!」
そんなラクシーの肩をぽんと叩き、ジェシーはおどけながら自分のスカートを両手でつまみ、ステップを踏んで踊り始める。
あたし達三人 楽しいことが大好き! そんじょそこらの魔女とはわけが違うのよ
愛するグラン・マのために もっともっと! 楽しさを求めるの そう! ハロウィンに生まれた偉大なる魔女(グラン・マ)のために!
「ジェシー、ジェシー! あたしにも聞こえたわ!」
メイシーの声に、ジェシーは唄い踊るのをやめる。
魔女たち三人が耳を澄ましたのとほぼ同時に、
不思議なうたごえが、パーティー会場にいる全員にも───聞こえ始めた。
■偉大なる魔女(グラン・マ)の見る夢■
「ほおら、あなたは眠くなる眠くなる……」
「あんなあシオンさん! いくらどんなに効く催眠術でも、その前にランタン投げつけられたら痛みで眠れるモンも眠れないっつの!」
「うう、そんなに強くぶつけるつもりはなかったんです、ごめんなさい!」
誰かを誘き寄せにいったはずが、シオンと弓月のテリトリーに踏み込んでしまい、はってあったロープに咄嗟に気づいて飛び越えた拍子に、えいやっと弓月の投げたランタンが、飛び越えた勢いもあいまって結構強めにガツンと額に当たってしまった悠宇である。
そんな悠宇に、至極真面目にシオンは五円玉に糸を通してぶらさげ、ぷらぷらと左右にゆっくりと揺らしては催眠術をかけようとしているのだった。
ところが、
「……ぐぅ」
茂みの陰から、ばたりと倒れる音と、寝息が聞こえてきた。
見ると、不用意に近づき、かわりに引っかかってしまった一般人の男性が、すやすやと気持ちよさげに眠っていた。
「やった! 私の催眠術が効きました!」
「よかったですね、シオンさん!」
「あのな、でもそれ『俺にかけてた』んじゃないのかよ?」
呆れたような悠宇は、だが、倒れた男性の心臓の辺りがぴかぴかと光り、パァン、と音を立てて空に打ち上げられるのを見た。
ぎょっとするが、男性の仮装した服にも身体にも、精神にも異常があるようには見られなかった。
空には、緑色の花火が上がっている。
「……もしかして、パーティーごとに、色が分けられているのかしら。何かの能力で、勝利した誰かの色が上がるようになってる、とか」
同じく、別の場所から緑色の花火を見ていたシュラインが、胡椒をふりかけるのもついとめて、つぶやく。
「ックション! ハックション! うああ、俺もう降参!」
言って、武彦に羽交い絞めされ、シュラインに胡椒をふりかけられたりコヨリで足の裏をくすぐられていた一般人の男性が、ぱっと武彦が放した途端に仮面を取り、降参の意を示す。
するとその仮面の裏がちかちかと光り、今度は青色の花火が空に打ち上げられた。
「私達の色は、青なのね」
嬉しそうな、シュラインの声に。
「よーし、この調子で」
俄然張り切る武彦だった。
「もう、悠宇ってば、どこまで行ってるのかな」
日和がそんなことをぶつぶつ言っていると、ひた、と気配をひそめた足音が聞こえた。
はっとして、ますます身をちぢこませた日和には気づかず、体格からして二十歳前後くらいの女性が、手に扇子を持ってそろそろと足を進ませている。彼女も恐らく、誘き寄せ役だろう。
(もう少し)
そう思った途端、思い通りに彼女はテグスに引っかかり、悲鳴を上げた。
そこへ、羽箒をサッと取り出して飛び出した日和、普段からは想像もつかない身のこなしで彼女のはいていた靴を脱がし、容赦なくくすぐった。
「!」
女性が驚きと共に笑い出す声が、仮面の下から聞こえてくる。
起き上がろうにも、くすぐられているのは足の裏だし、何より不意をつかれたことで身体に力が入らないようだった。
やがて「降参!」と涙まで流して笑っている彼女は、仮面をはぎとった。
その、零れ落ちた涙が赤色に光り、空へ駆け上ってゆく。
パァン、と赤色の花火が上がった。
「悠宇も、見てくれてるかな」
シオンと弓月のテリトリーで、それが自分達パーティーの色だとは知らずとも、見上げている悠宇に気づくはずもなく。
日和は、息を切らして微笑んだ。
「端っこって、結構みんな逃げてきたり休息にきたりするんだね」
一番弱いのではと口走っていた静が、棍を扱う手を暫し休め、またひとつ、恐らくは自分たちの色であろう黄色の花火が空に上がっていくのを微笑んで見つめる。
「そうねえ。これで何人目かしら」
ふう、と額の汗を拭う皐月。
そんな二人のテリトリーの地面には、4〜5人ほどは確実に、ペアでやられてしまった男性たち、そして恋人たちが「戦闘放棄」の証拠に仮面を外していた。
「うーん、数えてなかったな。でも10人はくだらないんじゃないかな?」
「夢中で闘ってたから、数えてなかった。私はこういうの、慣れてないんだけどなあ」
「きっと、生野さんが正確な数を数えててくれてると思うよ。審判だって言ってたしね」
「そうかもね」
実はこのときには、それぞれがそれぞれの方法で、かなりの花火の数をあげていたので、どの色のパーティーが圧倒的に多いとかいうのは、分かっていなかった。
そんな、時である。
る らら ハッピーハロウィン!
枯れ木も踊る お菓子が果実 みんなでもぎとり祭りの用意
もうすぐ寿命? 関係ないわ!
ハロウィンに生まれたわたしの宿命
それは死ぬまで楽しむ性格を持ったこと まあ なんて素晴らしいのでしょう!
る らら ハッピーハロウィン!
次の目覚めが死ぬときよ だから楽しまなくちゃ損損 さあ みんなで夢みましょ!
───なんの、誰の。
唄、だろう?
全員が全員、そうして。
いつの間にか、
ミルク色の空間に、ひとりで。
いた。
◇
ふう、…………
女王は先ほどから、何度目かというくらいたくさんのため息を吐き出していた。
無理もない。
いつもなら訪れる時間のはずなのに、足音すら聞こえない。気配すらしない。
彼女の、恋人が。婚約者が。
「仕方ないわ───きっとまた、仕事か何かで忙しいんだわ」
自分に言い聞かせるように、女王は今日の逢瀬を諦めた。
彼が忙しいのは───確かだ。何故なら、彼女が妖精の女王であるのと同時に、彼は妖精の王なのだから。
女王は女の妖精を統べ、王は男の妖精を統べる。
だが、実際はそんなに激務というほどでもなく。
入ってくる困りごとといえば、たまに王が彼女に助けを求める、そんな些細なことだけだった。
そんな「困りごと」すら、彼女にとっては嬉しいことなのだが。
(あのひとはそのこと、どう思ってるんだろう)
特別、罪悪感など感じてはいないだろう。
何故なら彼女は、彼の口から挨拶のような「悪いな」や「すまない」しか聞いたことがない。
本当に謝られるべきことに対しては、彼もきちんと謝罪する。それとはまた、違うのだ。
───女王様たちって、既に夫婦みたいなところ、ありませんか?
以前、まだ若い少女の妖精に、不思議そうにそう尋ねられたことがある。
その時、はたからみればそうかもしれない、と、思わず笑ってしまい、その妖精を困らせたことがあったのを女王は思い出し、ふふ、とついまた笑ってしまった。
「こんなことが───もう、ずっと続いていくのかしら」
城の中、彼女の自室。
大きな開き窓からは、うららかな春の陽射しが舞い込んでいる。
近寄り、女王は、自分が統べている「いつもの世界」を微笑ましそうに見て───その笑顔を、凍りつかせた。
「……どういう、ことなの」
色とりどりのはずの、妖精の世界が。
青々とした、空の色が。
すべてが、ミルク色に染まっていた。
───そういえば、
「今は、……『いつ』?」
いつから、自分はここにいた?
時間は?
最後にとった食事は?
「思い───出せない」
呆然とするような女王の耳に、救いのように、
───ぁん…………
彼女を、呼ぶ声がして。
ようやく、彼女は自分の「本当の」名を思い出した。
───しゅらいんさあん───
そうだ。
私の、名前は。
「シュライン、エマ」
そして、シュラインの夢は、
はじけた。
■ハッピーハロウィン■
全員がまだまどろんでいるような顔をしているのを、ひとりひとりの名前を呼んで現実に引き戻した───英治郎と、そして魔女達三人が、見つめていた。
途端に、一同の頭がぱっと冴える。
「今の、夢……?」
「日和も、見たのか」
「この仮装の『役』の夢を、見ていたようだわ」
「夢とはいえ、哀しかったです……」
「私は、ちょっとコワかったかな。でももう大丈夫ですけど」
「僕は……僕も、見たよ」
「私も。あれ、誰が見せたか聞く権利あると思うけど」
日和、悠宇、シュライン、シオン、弓月、静、皐月。
口々に言い、魔女達を見やると。
魔女達は互いに顔を見合わせ、肩を竦めあった。
「どうやら祭りは終わりのようだわ、これからって時なのに」
「そうそ、この楽しみにかえってつられちゃったようね、『グラン・マ』が」
「最期の目覚めの証拠。見て御覧なさい! 地面が、お菓子やお花で埋まっているわ、なんて見事なこと!」
その言葉に、全員がようやっと、自分たちが寝転んでいたのが、様々なお菓子や色とりどりの見たこともない美しい花々の上だったのだと気づいた。
「どういうことなんだ、英治郎」
ひとり、にこにこと微笑んでいる彼に、恨みがましそうな視線を送る、武彦。その目は明らかに、「何故教えてくれなかった」と訴えている。
「種明かしをしますとね」
英治郎は、話した。
英治郎の最初のハロウィンパーティーの時に、彼はひとりの、瀕死の魔女に出逢った。
彼女は最期の頼みとして、「自分が眠らないと封印がとけない眠りについている家族同然の魔女三人」の話をし、英治郎はそれにこたえ、魔女が眠れるような薬を作り、飲ませた。
効き目が現れ、魔女達三人は「思惑通り」に目覚め、楽しんだ。
瀕死の魔女というのが「グラン・マ」と呼ばれる、ハロウィンの日に生まれた、魔女の中の魔女と尊敬される者で、彼女は生涯死ぬ瞬間まで楽しみを求める性だったため、そのために。
魔女達は「また閉じ込められないため」と銘打って、そして───「目覚めさせないため」に、「死なせないため」に、遊び続けたのだ。
楽しい騒がしさこそが何よりの特効薬であり。
それこそが、グラン・マの眠りを長くさせるためでもあったから。
「でも、グラン・マは目覚めてしまった。だから、武彦、貴方達は彼女の目覚めに影響されて、今まで夢をみていたはずです。それぞれの夢を、ね」
それがどんなものかは分からないですけれど、と英治郎は付け足す。
見ると、真っ暗だった空は、夢のようにミルク色に染まっている。
「グラン・マが逝くわ!」
ジェシーが空の一点を指差す。
そこには、ミルク色に黄金の尾を引く光が飛行機雲のように横切り、今にも消えようとしているところだった。
「さあ、」
英治郎が悪戯をする子供のような表情を、作った。
「皆さん。踊りましょう。グラン・マの門出ですよ」
同時に、パチン、と魔女達三人の指が、仲良く鳴った。
◇
それから、一般人も交えて。
お菓子と花に埋め尽くされた広場は、ダンスの場に変わった。
魔女達の魔法で、踊れない者も自然に身体が動き、陽気なダンス、または美しい滑らかなダンスを踊る。
魔女達の唄はとても楽しく、自然と笑いがこぼれ出た。
誰かが、偉大なる魔女が、死ぬ。
その餞が、楽しい笑いだなんて、誰も想像もつかないことだった。
だから、空に続く黄金の飛行機雲が消えたときも、
武彦達は、それほどの喪失感は感じなかったのだ。
ああ、ちゃんと楽しんでいけたんだな。
そんな不思議な、晴れやかな気持ちで見つめることが出来たのだ。
◇
「さて、では」
帰りましょうかね、と言うかと思いきや、英治郎はしっかりとつけていたらしく、ノートを取り出した。
「結果発表を致しまーす。えー、第20位からいきましょうかねえ」
ええ、とどよめきが沸き起こる中、英治郎はこともなげに読み上げていく。
「第4位、緑のCパーティー。第3位、赤色のAパーティー。第2位、青色のBパーティー。そして、優勝したパーティーは! 黄色のDパーティーです!」
わあっと、静と皐月に拍手が贈られる。
数を聞くと、4パーティーとも実に1〜2個の差だったらしい。
「優勝景品は」
その彼の言葉に、悪寒を感じた───彼をよく知る者たちは。
だが、静と皐月はきょとんとしている。そんな二人に、英治郎は、言った。
「私の新発明の、『なんでも杓子』です! これはですねえ、なんでもお米に変えてしまうという、米不足の時には実に画期的な───」
と、自分の発明した賞品の解説に英治郎が夢中になっている間、静と皐月に耳打ちする、武彦達。
「悪いことは言わん、受け取らないほうがいい」
「絶対に何か副作用があるわよ」
「でも、米不足の時には確かに便利かも……」
「こら日和、そんな恐ろしいことを言うな! ったく困るよ草間さん、生野さんはちゃんと躾けておいてもらわないとさー」
「えっ、えっ!? 生野さんのあの発明品て、なんだか楽しそうなんですけど!」
「弓月さんもそう思われますか!? というより私があの賞品、是非欲しいです!」
ふふふ、と不気味な笑みに、一同はハッと振り返る。
目を異様に輝かせた英治郎が、解説を終えて立っていた。
「あ。僕、ありがたくいただこうかな、その杓子」
「私も。何かあったとき、確かに役に立ちそう」
静と皐月は言ったが、英治郎はその言葉を待っていたのではなかった。
じゃーん、と更に三つの発明品を出してみせたのである。
「ま、まさかそれは」
悠宇が、うっと後ずさりする。
武彦は、この計画を立てたときの英治郎の言葉を、今更ながらに反芻していた。
『そうだ、優勝者にも参加者さんにもそれぞれに何か特典を考えておきましょうね』
そんなふうにうきうきしていたではないか、この変態薬剤師は!
「お察しのとおり。この三つの発明品も、最近私が発明したもので、第2位から第4位までのあなた達にももれなく差し上げます!」
「い、いらねえっ!」
逃げ出そうとするところを、襟首を掴まれてしまう悠宇。
「ゆ、悠宇! あ、魔女さん達、助けてください! 美味しいお茶が飲めるお店、お教えします!」
一緒に飲みましょう、と必死の日和である。
「そうねえ」
魔女達三人は、じいっと彼らを見て、シオンに目をつける。
「そのお髭の仮面の、あたし達と似た格好をした人が何か面白いことをしたら、考えてもいいわ」
素直に発明品をもらって弓月と嬉しがっていたシオン、急に名指しされ、ええっと声を上げる。
「えーっと、これ、詳しくはどう使えばいいのかな?」
英治郎に真面目に───だが目元は楽しげに笑っている───杓子の使い方を聞いている、静。
「お米ならどんな銘柄でもって? かなり家計の節約になるわね」
現実的なことを想像し、にやりと微笑む皐月。
「シオンさん、何か……あ、あの催眠術なんてどうでしょう!?」
弓月の言葉も、シオンは緊張のあまり聞こえていないらしい。
「魔法使いシオン、魔法を使います!」
と言い、丸めた新聞紙に水を入れて───水漏れをさせる。
スプーン曲げに挑戦して───曲がらない。
だが、魔女達は。
「「「こんなに見事な失敗は、魔法に違いないわ!」」」
声をそろえて、笑い転げた。
さて、今回の写真は中途半端で撮り損ねたと思いきや。
やはりというか、半ば想像していたことだったが───その後、全員のもとに、いつ撮られていたのか、恐らくは魔女達の力も借りたのだろう、それぞれの決定的瞬間等の写真がたくさん届けられたのだった。
《完》
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
3356/シオン・レ・ハイ (しおん・れ・はい)/男性/42歳/びんぼーにん+高校生?+α
5649/藤郷・弓月 (とうごう・ゆつき)/女性/17歳/高校生
5566/菊坂・静 (きっさか・しずか)/男性/15歳/高校生/「気狂い屋」
5696/由良・皐月 (ゆら・さつき)/女性/24歳/家事手伝
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)
さて今回ですが、生野氏による草間武彦受難シリーズ、第16弾です。
今回は皆様、しっかり仮装と仮面を書いてきてくださったので、実はこういう展開だった、という個別の部分(仮装の役になって「自分」を忘れるところだけ、個別となっております)、全員無事に書くことができて嬉しい限りです。
今回は受難シリーズにしては前回と似たように、少し切なさも入っていたかもしれませんが、どちらかといえばほのぼのかな?とも思います。なにやらとても長くなってはしまいましたが;
また、集合ノベル的、或いは流れ的に皆様それぞれ少しずつ、プレイングが活かしきれていなかったりするところもあったかと思います。その辺は、大事な部分(?)は、直接的な言葉では書かれていなくとも、入れ込めてあるつもりですので、汲み取って頂ければ幸いです。
また、個別の部分ですが、感情や展開(?)等、設定や仮装の服の役に沿ったものではありますが、「ここは夢でもこうはしない」という言動等ありましたら、遠慮なく仰ってくださいね。今後の参考に致します<(_ _)>
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv ライト兄弟できてくださったので、黒い羽根を持つ悠宇さんとも少し絡めてみたかったな、ということもあります。Cパーティーのテリトリーまでいってしまった悠宇さんですが、その後すぐに日和さんのもとへ引き返したと思います(笑)。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv この後、日和さんは無事に魔女達三人とお茶をすることができたのでしょうか。きっとできたのだろうなあ、とそんなほのぼのした雰囲気がまぶたの裏に今にも浮かんできそうです(笑)。
■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv 草間氏の好みはどうやら、妖精の女王だったようで……一瞬「夜の女王」に惹かれたのですが、妖精の女王のほうがおそろいで書きやすかったので、ということもありました。くすぐるという発想は偶然にも日和さんと同じでしたので、同じパーティーにしようかな、とも思ったのですが、いや、ここはそれぞれにくすぐりの腕(?)を見せていただこう、と別々になりました(笑)。魔女さん達に言う台詞を書けなくて、それが一番心残りです;
■シオン・レ・ハイ様:いつもご参加、有り難うございますv 魔女での扮装、ということで一瞬「グラン・マ」の意思も入れさせていただこうかな、とも思ったのですが、やはりシオンさんはシオンさんのままで、と、今回はシオンさんらしい魔女さんとして行動していただきました(笑)。夢の部分では、少し可哀想かな、とも思いましたが───その後、ますます現実でのうさぎさんを可愛がっているのでは、と想像している次第です。
■藤郷・弓月様:たびたびのご参加、有り難うございますv すっかりコメディ、ではないノベルは東圭の作品ではこれが初めてではないでしょうか。シスターの役をして頂いている場面での反響が一番心配ですが;書いてみると、意外にもシオンさんと相性が合うのではと思ってしまいましたが(笑)、如何でしたでしょうか。
■菊坂・静様:初のご参加、有り難うございますv 今回、初めて書かせていただいたのですが、コメディも似合うし「夢」の部分も一番ハマッていたのではないか、と思うのが静さんでした。どちらもこなせるPC様はあまりいないと思いますので、できればこれからも手がけさせていただきたいな、と思うほどでした(笑)。封印されていた、ということに目をつけてくださらなければ、グラン・マは出せなかったかもしれません。
■由良・皐月様:二度目のご参加、有り難うございますv 一番言いたいことをいえなかったのではないかな、と心配な点が多々あるのですが;そういえばOPで魔女の年齢を書いておけばよかったなと反省しております。多少キツい言い方をしても性格はサバサバしている、というのがわたしの中での皐月さんのイメージですが、今回もそのノリで書いていました。静さんとは、案外いいパートナーだったかと思うのはわたしだけでしょうか(笑)。
「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」(もっと望むならば今回は笑いも)を草間武彦氏に提供して頂きまして、皆様にも彼にもとても感謝しております(笑)。
次回受難シリーズは「草間興信所内学芸会」みたいなものを考えているのですが、今回の「夢」はその前振りみたいなものだったのにもかかわらず、「そのもの」みたいな感じになってしまったので、どうしようかな、とまだ考え中です。やるとしたら、また、ちょっと変わった「書いていただく方法」になるかもしれません(あ、でもあれって普通なのかな?)。
なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>
それでは☆
2005/10/12 Makito Touko
|
|
|