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<五行霊獣競覇大占儀運動会・運動会ノベル>


狩り物競争


【0.オープニング】

 整然と並べられた檻の中では異形のモノが咆哮している。鋭い牙を鳴り合せる肉の腐ったハウンド・ドッグ、節くれ立った指を格子に掛け力任せに檻を揺らす骨だけのリビング・デッド、今にも檻を突き破らんばかりに暴れ回るトロルに、眼光鋭きディアボロス……。
 唐突に物々しくなった競技場の雰囲気に、誰彼となくざわめきが起こった。一体何を始めようと言うのか。まるで古代のコロセウムさながらの状況に、ある者は困惑し、またある者は高揚する。そうして人々の緊張がピークに達した頃、白衣を纏った男がおもむろに競技場の中央に立った。
「これから行われる競技は“狩り物競争”です。勿論見ての通り、悪魔狩りの“狩り”ですが」
 スピーカーを通しての説明に、観客達はどよめいた。参加者以外の人間までもが危険にさらされるのではないかという危惧が、彼らの顔を顰めさせる。だが男はそれを見越していたかのようにニヤリと笑うと、再び言葉を口にした。
「競技参加者には障壁の張られたトラック内でそれぞれ好きな魔物と戦って戴きます。障壁はトラックの周囲と高さ4メートルほどですので、観客の皆様には危害が加わる恐れはありません。順位はどのレベルの魔物を倒し、何着でゴールしたかという2つの点を考慮して決められます」
 各魔物の特徴として、ハウンド・ドッグは素早くかつ牙での一撃は致命傷を与えかねないこと。リビング・デッドは最も弱く動きも遅いが火系や水系などの攻撃が効き辛いこと。トロルは知能は低いが圧倒的な破壊力を誇り、また肉体も強靭であるために倒しにくいこと。そしてこの内で最強を誇るディアボロスは火を自在に操ることなどが語られた。
「ちなみに魔物には数に限りがあるため、留めを刺した人にのみポイントが与えられます。尚参加者の方々は混戦が予想されますので、くれぐれも背後にご注意を」
 スピーカーの音がぶつりと途絶え、数秒の間トラックが光に包まれたかと思うと、次の瞬間には鉄の檻が甲高い音を立ててその口を開けていた。解き放たれた魔物達は気が立っているのか同胞同士でせめぎあう。
 やがて空砲が轟き、狩り物競争がスタートされた。


【2.開始前】

 上下緑色のジャージを身に纏い、腕には黄龍の篭手を着け、青龍組の証である青のはちまきを靡かせて、雪ノ下・正風は気迫も露に準備運動を始めていた。彼もまた他の幾人かの参加者と同じように、この競技を『借り物競争』だと思って参加した内の一人ではあったが、他とは違い彼は全く戸惑っていなかった。
「借り物じゃなく狩り物競争とはな、腕が鳴るぜ……!」
 手首の柔軟をしながら気の調子を確かめる。競技場トラックはウレタンで舗装されているものの、五行神を呼ぶイベントであるためか、なかなかいい気が流れている。
「随分張り切ってんなー」
 けらけらと笑いながら親しげに掛けられた声に、正風は振り返って片眉を上げた。
「知り合いか?」
「いや。初めましてだけど、あまりに気合入ってるから」
 周りに人いなくなってるし、と青年――天慶・律はぐるりと周囲を見回してみせた。
 正風もつられたようにぐるりと辺りを見渡して、確かに、と一つ頷く。それからある光景が目に入って、律にもそちらを見るように顎をしゃくって促した。
「あの辺りにも人がいないぜ」
「ああ、まぁ、あれには近寄り難いかもなぁ……」
 二人の視線の先には地に突き刺さった十数本の剥き出しの刀と、その間に静かに佇んでいる若い男の姿があった。陽光に鋭く煌く朱の走った刃はそれだけで異様な雰囲気を放っているというのに、黙してはいるが薄く笑みを浮かべている男が更にその空気を増長させている。
 しかしそんなものには慣れ切っている二人は、近寄り難いとは言いながらも、これから恐らくライバルの一人となるであろう男に興味深げに近付いていった。
「これ全部使うの?」
 珍しそうに開かれた緑色の目に、男――上霧・心は訝しげに眉を寄せつつも律儀に答えた。
「ああ。一度に、というわけではないが」
「予備か?」
「いや。……まぁ、俺みたいな人間がこういう混戦を抜けるためには、少々工夫が必要だということだ」
 問い掛けににやりと笑って答えた心に、正風は俄然収まっていたはずの闘志を燃やし出した。急にやる気を漲らせ始めた正風に、心は口角を引き結ぶ。
「かなり熱くなっているようだが」
「あー…何かさっきからこんな感じだったけど」
「当たり前だ! 俺には野望があるからな」
 力強く拳を握り掲げた正風を丁度合図にしたかのように、競技開始の空砲が轟いた。正風は「ゴールで待ってるぜ!」と右手を上げると、猛ダッシュで走り去る。
「さて、俺も行くとするか。――ゴールで」
「おー。お互い頑張ろうな」
 軽く拳をぶつけ合って、律と心もそれぞれ駆け出した。


【4.刀の心得】

 文字通りの黒い悪魔を前に、泰山府君は怜悧な目を細めていた。構えるは青龍偃月刀『赤兎馬』。掌に滲み始めた汗で滑りそうになるところを強く握り直す、水を操ろうと強く念じたその時に、ディアボロスの爪の先に灯った火が襲い来る。
 咄嗟に後方に飛んでそれを避けると、左肩が誰かとぶつかった。驚いて首を巡らせると、向こうも目を丸くしている。
「……あんたも刃物か」
 泰山府君が握っている物に気付いて、心が零すように言った。あんたも、という言葉に泰山府君は心の持っている刀に目を向ける。よく手入れされていると一目でわかる銀色の刃には、血だと思われる朱色の線が走っていた。
「先刻の『あなうんす』――」
「ああ。お互いに苦労しそうだな」
「見ていたのか」
 その言い草に泰山府君は僅かに顔を顰めた。障壁のせいもあってか善戦、とは言い難い状況だったからだ。
 ディアボロスの体躯はおよそ2メートル。4メートル頭上には障壁が張られているために高く飛び上がることはないが、低空を自在に移動する魔物はなかなか手ごわい。前後左右からの攻撃ならまだしも、上方から来られては、長器械と言えども斬り下げることも斬り上げることも難しく、太刀打ちし辛かった。かといって赤兎馬が刺突に向かないことは、火を見るよりも明らかだ。
 さりとて操水能力を使えばたちまちに障壁に吸い込まれてしまう。これは魔物からの攻撃に対しても言えることで、おかげで火傷を負うことはなかったが、戦いが長引けば質量のある偃月刀は扱いづらくなることはわかっていた。
「窯の火なら構わんが、それ以外の火は御免被りたいからな」
 火を使うディアボロスはなるべく避けるようにしているという言葉通りに、心が相手にしているのは、ディアボロスよりも余程巨体のトロルだった。巨体故に鈍足ではあるが、振り下ろされる腕は重さのせいもあってか驚くほどに速い。が、見切っていたらしい心は体を横に滑らせて避けた。その後に心が持っているものと同じように朱色の線を走らせた刀が、持ち手もないのに振り下ろされる。
「俺の場合は動作に時差が出るらしい」
 言いながら心は地に突き刺さった拳を斬り上げ、返す手で斬り下げた。太く硬そうな腕は切り落とされはしなかったが、夥しい出血とトロルの低く軋んだ悲鳴から、かなりのダメージを与えたようだということを知る。
 心はそのままトロルの懐に飛びこんで、手近の地面に突き立てていた打刀を抜き取ると、彼を捕まえようと伸びてきた左腕を避けて近付いたトロルの首筋を鋭く突いた。くぐもった音がトロルの喉から漏れて、巨体が地に沈む。
「3本曲がったか」
 小さく呟きつつ十三本の刀すべてを回収すると、心は「先に失礼する」と目も合わせずに走り去った。
「……我も気を引き締めねばな。いつまでもこのような場で、遊んでいるわけにもいくまい」
 額に浮かんだ汗をぐいと乱暴に拭って、泰山府君は不敵な笑みを浮かべた。


【7.結果発表】

『只今の競技の結果を発表します。一位、黄龍組・泰山府君。二位、白虎組・冷泉院柚多香。三位、黄龍組・上霧心。四位、青龍組・雪ノ下正風。五位、黄龍組・草摩色。六位、白虎組・瞳サラーヤプリプティス。七位、青龍組・天慶律。……以下途中棄権者多数でした』
 競技場内に放送された結果発表に、心はそれはそうだろう、と胸の内で呟いた。魔物狩りと聞いて腕に覚えのあるものでも、いくらなんでもあれだけ群れをなした中で戦うのは初めてだったに違いない。四方八方から攻撃が仕掛けられてくる上に、同じ人間といえども味方とは言えないのだ。違う組ならほとんどの場合問答無用で邪魔をされる。
「負けてしまったな」
 誇らしげに立っている泰山府君に心はそう声を掛けた。振り返った顔は力を出し切ったことと、その結果に満足した者の表情だった。
「貴様か。……どうやらこの種目は観衆の娯楽目的といった要素が高いらしいな」
 着順では四位だったが結果的には二位となった柚多香の方を見れば、彼は瞳と和やかに話をしている最中だった。
「どうやらご無事のようですね。抱えられてゴールなされた時には驚きましたけど」
「助けて、いただいて……ああ、そうだ……お礼……!」
 慌てた様子で瞳は柚多香に頭を下げて、今度は何やら話し込んでいる様子の律と色の方へ駆けて行った。
「っつーか何で俺、着順でも七位かなー」
「横抱きにしてたからだろ」
 当たり前、と冷たく言い放った色の隣で律はがっくりと項垂れた。と、そこへ瞳が申し訳なさそうな表情で頭を下げて間に入った。
「ごめん、なさい……ご迷惑、を……掛けて……しまって……」
 腰を折り曲げると言った表現が相応しいほどに深く頭を下げた瞳に対して、色はいいって、とひらひら手を振った。
「どうせ順位は変わらなかっただろうし、俺は気にしてねぇ」
 挑発とも取れる言葉に、律は一瞬むっとしたようだが、瞳が心底困ったという顔をしているのを見て、どうやらその怒りも散らせてしまったらしかった。
 俄に活気を取り戻しつつある障壁の解けたトラック内を見渡すと、正風の姿に気付いて心はそちらへ足を向けた。遠めにも悔しがっている様子がわかるほどに肩を落としている。
「残念だったな」
「くそっ。まさか選んだ魔物のポイント差がこんなに出るとはおもわなかったぜ……」
 握った拳を額に当てた正風に、いつの間に来ていたのか律が苦笑しつつその肩をぽんと叩いた。
「まぁ、目的は達成できたみたいだからいいじゃん」
 青い流星、こっちまで聞こえた、と律の苦笑は徐々に笑いの方が色濃くなり始める。心も浮かんだ笑みを隠さずに、反対側の肩を叩いて言った。
「まだ運動会は終わったわけでもないし、な」



 >>END




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組 / 順位】

【4925/上霧・心(かみぎり・しん)/男/24才/刀匠/黄龍組/3位】
【3415/泰山府君(たいざんふくん)/女/999才/退魔宝刀守護神/黄龍組/1位】
【0391/雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ)/男/22才/オカルト作家/青龍組/4位】
【1380/天慶・律(てんぎょう・りつ)/男/18才/天慶家当主護衛役/青龍組/7位】
【4557/瞳・サラーヤ・プリプティス(ひとみ・さらーや・プリプティス)/女/22才/ウェイトレス/白虎組/6位】
【2675/草摩・色(そうま・しき)/男/15才/中学生/黄龍組/5位】
【0196/冷泉院・柚多香(れいぜいいん・ゆたか)/男/320才/萬屋 道玄坂分室 室長/白虎組/2位】
(※受付順に記載)


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■          獲得点数           ■
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青組:0点 / 赤組:0点 / 黄組:40点 / 白組:20点 / 黒組:0点


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、ライターの燈です。この度は『狩り物競争』へのご参加どうもありがとうございました!

 久々に長い物を書きました。参加PC様全員分を時系列(小題番号です)順に並べてワードで調べてみたんですが、一万字近く。日頃が短い物ばかり書いているので、やはり7名様だと字数も増えるんだなーと思ったり。
 …単に自分が久々過ぎて、加減が分かってないだけなのかもしれませんが。
 さて、順位はプレイング内容を参考に、ポイント換算と多少運の要素も織り交ぜて決めさせていただきました。
 その結果青組の方には申し訳ないことになったのですが(汗)、そこは他の競技でも頑張っていただきたく!
 参加すればチームの優勝確率も上がるわけですし!

 それでは、微妙に言い訳臭い挨拶になってしまいましたが、引き続き五行運動会をお楽しみ下さい。
 また機会がございましたらよろしくお願いします。