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ポイントゲット・シンキング
□Opening
陸上競技場の片隅に現れた巨大なセット。三部屋並びが四列……つまり、三×四=十二部屋のアトラクション。各部屋には、左上から順に、【子】【丑】【寅】……【亥】と名札が掲げられている。
「この……通路の計算式は、何?」
碇・麗香は、準備中のそのアトラクション内で、疑問を口にした。こつこつと、彼女の足音が響く。
「参加者は、通った通路のポイント合計を競うのさ」
アトラクションの外、ドアの向こうから碧摩・蓮が答えた。麗香は、その答えにもう一度辺りを見回し、そして、手元の見取り図へ視線を落す。
┏─┳━┳─┳━┳─┓
┃子┃-1┃丑┃-1┃寅┃
┣─╋━╋─╋━╋─┫
┃*0┃■┃-2┃■┃+0┃
┣─╋━╋─╋━╋─┫
┃卯┃-3┃辰┃-1┃巳┃
┣─╋━╋─╋━╋─┫
┃+1┃■┃*2┃■┃+1┃
┣─╋━╋─╋━╋─┫
┃午┃+2┃未┃-1┃申┃
┣─╋━╋─╋━╋─┫
┃+1┃■┃-1┃■┃+2┃
┣─╋━╋─╋━╋─┫
┃酉┃+0┃戌┃+2┃亥┃
┗─┻━┻─┻━┻─┛
「それだけじゃ、つまらないのでは無いかしら?」
ルートを考えながら、麗香が提案する。
「……例えば?」
その言葉に、蓮は煙を大きく吐き出した。それは、良く晴れた空に高く上って行く。確かに、これだけではつまらない。競い合う事が目的なのだから……。
「そうね、このアトラクションに、到着する順番までもが競技なのよ」
こうして、ポイントゲット競争開催が決定した。アトラクション前に貼り出された看板は、以下の通り。
●貴方は、外側の部屋から始まり外側の部屋へ抜けなければならない(【辰】【未】は始まりでも終わりでもない)。
●貴方は、同じ部屋を二度と通る事が出来ない。
●貴方は、同じ通路を二度と通る事が出来ない。
●貴方は、隣接する部屋を縦横にしか移動出来ない。
●条件を満たせば、何部屋通っても構わない。
●ポイントをより多く取った者が勝者である。
以下、麗香による補足。
●アトラクション到着の順番(※:発注順)に、初期持ち点が三点・二点・一点・零点(以下同じ)と配分される。
貴方は、何ポイント取る事が出来るのか? 挑戦を待つ。
■05
由良・皐月は、看板を睨んでいた。
晴天の下に現れたのは、巨大なアトラクション。競技に参加するためには、何と制約の多い事か。
「いらっしゃい、あんたで最後だよ」
そこへ、碧摩・蓮がやって来た。手には、参加者の得点表。さらさらと、皐月の名を記述する。
「う……ん、よし、じゃあ行くか」
もう一度見取り図を確認し、さつきが向かったのは【戌】の部屋。部屋に入ると、隣から誰かの気配を感じた。蓮の言葉通り、他の参加者は確実にアトラクション内をさ迷っている様だ。
★由良・皐月(5696) :【戌】からスタート: +0=0pt
□06
【申】から【亥】へ陸・誠司は進んできた。
「やっほう、陸さんも【亥】?」
誠司に手を振ったのは由良・皐月。笑顔で歩み寄る。
「こんにちは、調子はどうですか?」
どうやら、お互い白組の模様。誠司の問いかけに、皐月は腕を組んだ。
「話のネタになるかと思って参加したら、いきなりこんなややこしい……」
唸り、眉をひそめる。
「その、メモは?」
皐月の様子に苦笑しながら、誠司は皐月の手元を指差した。
「うん、仕事先の子供が愉しむかもって、メモ」
メモをひらひらと目の前で振って見せる皐月。唸っていた顔から一変、ニコニコ嬉しそうだ。
「やっぱ、こう言うのは子供がわーってやるのが良いよねぇ」
と、その表情は優しい。
誠司は頷き、隣の部屋を様子見た。
「ええ、まぁ、アトラクション内も騒がしくなってきた様ですが」
丁度、彼らの隣からも話し声が聞こえてきていた。
★陸・誠司(5096) :申から【亥】へ :1+2=3pt
★由良・皐月(5696) :戌から【亥】へ :0+2=2pt
□07
シュライン・エマは【申】から【亥】の部屋へ移る。得点は『+2』。その『+2』の廊下を、【亥】側から歩いてきたのは由良・皐月だった。
「シュラインさん、今から【亥】の部屋?」
皐月は、にこやかにシュラインに歩み寄る。二人は、共に白組だった。
「ええ、お互い違うルートを通っている様ね」
シュラインも笑顔で応える。
「他の人も、皆違うルートっぽい」
皐月はシュラインの肩越しに【申】の部屋を覗き込み、頷いた。どうやら、【申】部屋周辺が騒がしい様だ。何より、騒がしい事に慣れているような様子。
軽く手を振り、二人は分かれた。皐月は【亥】から【申】へ、シュラインは【申】から【亥】へ。
★シュライン・エマ(0086) :申から【亥】へ :12+2=14pt
★由良・皐月(5696) :亥から【申】へ :2+2=4pt
■08
「ていうか……めんどくさいわねコノヤロウ!」
ポイントが減る場所をなるべく避けたら良いはずなのだけれども、それがなかなかややこしい。ぶつぶつ呟きながら、皐月は進んでいた。廊下には『+1』の記述がある。
【巳】の部屋へ辿り着くと、何やら隣から話し声が聞こえてきた。声の感じから、男性同士の模様。実は、ずっと気になっていたのだが、どうも皐月の行くところ行くところから同じような気配がしていた。
一体それはどんな人なのだろうか?
気になるところだが、それは、進むしかない。
★由良・皐月(5696) :申から【巳】へ :4+1=5pt
□09
【辰】から【巳】へ進んできたのは上霧・心。【巳】から【辰】へ進んできたのは由良・皐月だ。お互い、『-1』と記された廊下ですれ違う。
「え? 何ソレ、小太刀?」
心が手にしていた小太刀を目ざとく見つけ、皐月は手を腰に見たまんまの感想を述べた。小太刀の長さならば、室内の切り合いでとても有利に違いない。しかし、その小太刀とこのアトラクション、一体何の関係が?
「倒して、その方向へ進んで行く」
と。小太刀を倒す様子を再現し、心は簡潔にそれを伝えた。アトラクション内で小太刀を握っていると、やはり不信なのだろう。
「へぇ〜、そう言うの、子供が聞いたら喜ぶかも」
皐月は、その様子に笑顔を返した。楽しそうだが、大人がやるのは厳しい……と言うのは、内緒の話。
★上霧・心(4925) :辰から【巳】へ :6-1=5pt
★由良・皐月(5696) :巳から【辰】へ :5-1=4pt
□10-2
廊下を越え、陸・誠司は【未】の部屋へ足を踏み入れた。
「あれ? 陸さん?」
何と言うか、偶然、なのだけれども。驚いた様に声をあげたのは由良・皐月。
【亥】の部屋で別れた二人が、【未】の部屋で再開したのだ。
「この辺、混み合っているようですね」
と、誠司は笑みを漏らす。と言うのも、誠司は、先ほど廊下で別の参加者と出会ったばかりだ。その上、隣からはまた別の参加者の気配。極めつけに、皐月との再開だ。
「あー、そうかも、と言うか私の前ずっと同じ人が居るし……」
やはり、お互い分かるものなのだろう。誠司は、それが面白くて口元に手をやる。つい先ほどまで、自分も同じ人の気配を感じていたのだから。
その様子を、皐月が見咎めた。
「兄さん、何かご存知で?」
目を細め、にじり寄る。
その追及をひらりとかわし、誠司は手を振った。
「では、お互いゴールで会いましょう」
それは、きっと、本人同士気が付くのが楽しい。
「ん、そっちも頑張って」
皐月も初めからそのつもりだったのか、さして深く追求せず、笑顔で手を振った。
★陸・誠司(5096) :午から【未】へ :6+2=8pt
★由良・皐月(5696) :辰から【未】へ :4*2=8pt
■11
手元のメモも、随分進んだ。皐月が【未】の次に目指すのは【午】の部屋。ポイントは『+2』だ。やはり、目の前に同じ人の気配。選んだ順路が同じなのだろう。
★由良・皐月(5696) :未から【午】へ :8+2=10pt
□12
最後に【丑】の部屋を抜け、陸・誠司は外へ出た。
「お疲れ様」
蓮が、誠司を呼ぶ。
「ん〜? 陸さんも、ゴールなんだ?」
その隣で、聞きなれた声がした。由良・皐月が遠くから麗香と並び歩いて来る。どうやら、二人同時のゴールの様だ。何と言うか、縁、かな? と。誠司が微笑んだ。
「えっと、俺達が最後かな?」
周りに、その他の参加者も集まってきた。皆を見ながら、誠司が呟く。
「あー、でも私、隣の部屋に一人居たわよ」
とは、皐月。
蓮と得点表を覗き込み、ポイントの確認をしている様だ。
「まぁ、もう少し待ちな」
誠司と皐月の得点に丸をつけながら、蓮はにやりと笑った。
二人の競技が終了し、得点が確定した。
★陸・誠司(5096) :辰から【丑】へ :16-2=14pt:終了
★由良・皐月(5696) :午から【酉】へ :10+1=11pt:終了
□Ending
「皆、お疲れ様」
得点表の前に群がる参加者に、蓮は声をかけた。最初にゴールしたシュライン・エマから遅れる事五分。全ての参加者が競技を終了したのだ。
「じゃあ、得点を確認しましょうか」
麗香は、皆の中心にあった得点表を取り上げ、看板に貼りつけた。
完成した得点表は以下の通り。
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━━━━━
┃★┃01┃02┃03┃04┃05┃06┃07┃08┃09┃10┃11┃12┃13┃Pt┃PC名
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━━━━━
┃一┃酉┃午┃未┃辰┃巳┃申┃亥┃戌┃■┃■┃■┃■┃■┃16┃シュライン
┃二┃■┃寅┃丑┃子┃卯┃午┃未┃辰┃巳┃申┃亥┃戌┃酉┃10┃心
┃三┃■┃■┃酉┃戌┃亥┃申┃巳┃辰┃未┃午┃卯┃■┃■┃13┃律
┃四┃■┃■┃■┃巳┃申┃亥┃戌┃酉┃午┃未┃辰┃丑┃■┃14┃誠司
┃五┃■┃■┃■┃■┃戌┃亥┃申┃巳┃辰┃未┃午┃酉┃■┃11┃皐月
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━━━━━
※表はアトラクション着順に表記。
一:シュライン・エマ:0086(白)
二:上霧・心(かみぎり・しん):4925(黄)
三:天慶・律(てんぎょう・りつ):1380(青)
四:陸・誠司(くが・せいじ):5096(白)
五:由良・皐月(ゆら・さつき):5696(白)
「おめでとう、あんたが一番だね」
ざっと表を確認し、蓮はシュラインに向かい合った。失格者は無し。皆、思い思いの順路を巡った様だ。
「あら、ありがとう」
表と蓮を見比べ、シュラインは微笑む。それから、何かに気がついた様だ。
「私達、まったく逆ルートのようね」
「あら、本当、んー、最初のボーナス得点の差が響いたか」
シュラインに声をかけられ、由良・皐月は顔を上げた。確かに、まったく逆のルートなら、『*2』までに取れるポイントの多い皐月のほうが本来得点が高いはず。唸りながら何度か呟き、皐月はメモに何かを書き加えた。
「ずっと俺の後ろに居たのはおまえだったのかぁ」
その後ろで、律が呟いた。
最初と最後が違うだけで、律と皐月のルートは同じだった。ただ、アトラクション到着順で、追う者と追われる者が入れ替わっている。
「やっぱり、知ってたんだ、陸さ〜ん」
皐月につつかれ、陸・誠司は微笑んだ。【午】→【未】の通路で律と出会い、【未】で皐月と顔を合わせた誠司は、両名が同じルートを通る者を意識している事を知っていたのだ。
「ちなみに、あなたが二位ね、三位はあなた」
その会話に麗香が加わる。何と、四番でスタートした誠司が二位に食い込んだのだ。三位は三番で出発した律。
「全部の部屋を通った猛者も居るんだ」
他の参加者のルートを確認しながら、シュラインは上霧・心を見た。心は、肩をすくめ小太刀を握り直す。
「それは、こいつに聞いてくれ」
と言うのも、彼は次に回る部屋を、小太刀を倒して決めていたらしい。
「だから、ソレ、小太刀じゃなくても良いだろう?」
すかさず、律がつっこむ。
「ひとまず、無事終了かね?」
蓮は優雅に煙を吐き出す。
「そうね、お疲れ様」
その隣で、麗香が微笑んだ。
<end>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業/組/順位】
【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/白/1】
【4925/上霧・心/男性/24/刀匠/黄/5】
【1380/天慶・律/男性/18/天慶家当主護衛役/青/3】
【5096/陸・誠司/男性/18/学生兼道士/白/2】
【5696/由良・皐月/女性/24/家事手伝/白/4】
(※:登場人物一覧は発注順で表示させていただきました。)
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■ 獲得点数 ■
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青組:10点/白組:50点
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■ ライター通信 ■
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皆様、ポイントゲット競争、お疲れ様でした。ライターのかぎです。この度は、競技へのご参加ありがとうございました。
まずはじめに、申し訳ありませんでした。と、言いますのも、オープニングでの記述が足らず『*2』の数式で混乱された方が何名かいらっしゃいました。これは、『かける』の意味だったのですが、非常に分かり辛く説明不足でした。しかしながら、きちんとお気付きの方もいらっしゃったので、気付いた方はラッキー、気付かれなかった方はアンラッキーと言う事で、一つお願いします。
■部分は個別描写、□部分は誰か他のPC様と同じ描写です。完全に全員同じ描写はエンディングのみですので、他の皆様がどう言う冒険をされたのか確かめてみるのも楽しいかもしれません。また、□■後ろの数字は時間軸を表します。時間は『01』〜『13』まで存在し、一増えるごとに一部屋移動しています。着順でアトラクション参加の時間がずれるので、始まる時間が皆様違います。詳しくはエンディング内の表でご確認下さい。
皆様、見事に選んだルートがばらばらでした。外で眺めていた蓮さんと麗香さんは、さぞや面白かったと思います。また、皆様にも、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
■由良・皐月様
こんにちは、ご参加ありがとうございました。アトラクション内で、皐月様の行く所は、いつも誰かの気配がし誰かとの出会いが有った様です。全編通して、一人きりの静かな描写が無いのは皐月様お一人です。ある意味凄いと思いました。
それでは、また機会がありましたらよろしくお願いします。
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