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<五行霊獣競覇大占儀運動会・運動会ノベル>


ちょっと奇妙なくす玉割り

 天高く馬肥ゆる秋。爽やかな風が吹き、抜けるような青空が広がる下、五行霊獣競覇大占儀運動会は夏よ戻れといわんばかりの熱い盛り上がりを見せていた。
『続いての競技はくす玉割りですー。出場する方はグラウンドに出て下さいー』
 陸上競技場に響カスミのアナウンスが響き渡った。ざわざわと観客席にざわめきが広がる。
「くす玉割りか、これなら体力ない俺も参加できそうだぜ。いっちょ参加しますか」
 神聖都学園スクールカウンセラーの門屋将太郎(かどやしょうたろう)が立ち上がった。朱雀組を示す赤の鉢巻を巻き、白のTシャツに黒のジャージパンツという、いかにも無難な格好がしっくりと馴染んでいる。
「お、門屋先生も出るんすか?」
 それに声をかけたのは、神聖都学園の3年生、早津田恒(はやつだこう)だった。そちらを振り向いて、将太郎はあんぐりと口を開ける。
「お前、何だその格好は」
「何だって、ほら、朱雀組ってことで」
 1人だけ何故か異様に長い赤鉢巻をたなびかせ、上下赤のジャージに身を包んだ恒は、得意そうに胸を張ると、くるりと背中をむけて見せた。そこには天に舞う朱雀がでかでかと刺繍されている。
「何だか、深夜にバイクを暴走させそうな格好だな、おい」
 将太郎は思わずぼそりと呟いた。が、どうやら本人には聞こえていないようだ。
「気合い入ってますね。……というより文字通りの意味で燃えてますね、早津田さん」
 と、そこへもう1人、赤鉢巻を巻いた高校生くらいの少年が現れた。
「よう、あんたも出るのか?」
 恒は機嫌良くそれに応える。
「ええ、もちろん。……そちらも? 俺、櫻紫桜(さくらしおう)と言います。よろしくお願いします」
 将太郎に気付いた紫桜が、老成した物腰で自己紹介をした。
「お、おう、俺は門屋将太郎。よろしくな」
 どことなくペースを狂わせながらも、将太郎も名乗りを返す。
「よーし、勝つぞー!」
 恒の気合い一閃、3人は競技場へと降り立った。

「よーし、やるぞー!」
 青龍組では神聖都学園2年生、平代真子(たいらよまこ)が威勢良く片手を突き上げた。学園指定の体操服に身を包み、やる気満々である。その貫禄十分な体躯で気勢を上げる様は、なかなかの迫力だった。
「やるぞー!」
 その隣で、猫耳を生やした青い髪の小柄な少女が同じように片手を上げる。こちらは、体操服にちょうちんブルマといういでたちで、ぷっくりと膨れたブルマから華奢な脚が伸びているのがなかなかさまになっていた。
「あなたも出るの?」
 代真子が声をかけると少女はこくりと頷いた。
「ボク、三日月社(みかづきやしろ)。よろしくね」
「あたしは平代真子。がんばろうね!」
 2人はにこりと笑みを交わし、元気よく競技場へと向かう。

「うにゃん」
 玄武組では黒髪の少女、千影(ちかげ)が嬉しそうな声をあげた。
「ボール割ればいいの? チカ、ボール大好き〜」
 その甘い声と緑の瞳とが猫を連想させる神秘的な印象の少女は、それこそ猫のように身軽な動きで競技場へと降り立つ。
「優勝はおいらたちがもらったきゃ」
 1人気合いを入れ、雷小僧、雷来(らいき)が千影の後を追う。と、朱雀組に恒と紫桜の顔を見つけ、足を止めた。
「お前たちには負けないきゃ」 
 びしりとそちらを指差すも、にこやかに談笑を交わす恒たちには気づかれず、チームメイトのはずの千影は「ボール、ボール」と雷来のことはどこ吹く風。けれど、本人は決まったと思ったらしく、その幼い顔には自信が満ち満ちていた。
 黄龍組からは優しげな顔をした青年と、押し出されるように出てきたてらやぎが、白虎組からは女性3人が降りてくるその間にも、アナウンスは続く。
『ルールは簡単です。自分のチームの色のくす玉を割って下さい。一番早く割ったチームが勝ちです』
 その声に反応するかのように、いつの間にやら上空に、どこか不気味な金属光沢をたたえた5つのボールが浮かんでいた。
『あ、でも、ちゃんと割れるように割って下さい。無理やり斬っちゃったり、壊しちゃったりすると失格になります』
「えっと、切っちゃだめってことは……、つめもだめだよね?」
 その声に、自分の爪を見つめたのは、玄武の千影。つめもだめ、つめもだめ、と爪を立てないように自らに言い聞かせる。端から見れば滑稽かもしれないが、何せ千影の爪は本来、鋼鉄をも引き裂いてしまうのだ。
『あと……、このくす玉、どうやら生きてる……じゃなくて、ちょっと変わっているらしくって、やり方によっては避けたり反撃したりする……って説明書に書いてあります。ええ、未知の生物だとか、怪奇現象なんかじゃありません、決してそんなはずありません。ちょっと仕掛けがあるだけなんです』
 なにやら妙な方向へとアナウンスが脱線していくが、それにかまわず、5つの玉はうなりをあげて地上へと落下した。鈍い音とともに軽い地響きが起こり、会場がどよめいた。 
 が、5つのくす玉は何事もなかったかのようにそこに転がっていた。その直径、2メートルほど。
「な、何だこりゃ!? くす玉割りはわかるが……、こんなどでかいシロモノが」
 呆然と呟く朱雀の将太郎。
「おっきなボールだね、えへへ〜、面白そう」
 対照的にきらきらと目を輝かせたのが玄武の千影。
「ギタギタのめったんめったんにしてやるー」
 玉に向かって青龍の代真子が吼えた。
「それでは始めてください」
 カスミの声とともに号砲が鳴り響いた。
 
 真っ先に玉に向かって突進したのは代真子だった。青い玉に向かって気合い十分、渾身のパンチを繰り出す。が、それは玉の奇妙な弾力によって見事に跳ね返された。代真子は盛大に宙を舞い、頭から地面に突き刺さる。
「よ、代真子ちゃん!」
 社が慌ててその軌跡を目で追った。が。
「ボク、代真子ちゃんの分もがんばるよ」
 神妙な顔をして頷き、代真子をそのままに青い玉へと向き直る。
「生きている……ということはお腹が空くよね」
 どこからともなく団子を取り出すと、それで玉の気を引くべく、ちらちらと振って見せる社だった。

「きゃっほう〜」
 心底楽しそうな声を上げ、千影は翼が生えているかのような身軽な動きで黒玉に飛び乗った。妙に弾む玉の上で飛び跳ね、さらに歓声を上げる。もはや割ろうとしているのか、単純に遊んでいるだけのか、端から見ているだけでは、否、おそらく本人にもわからない。
 おもむろに勢い良く転がり始めた玉の上で、玉乗りよろしく千影はさらに飛び跳ねる。
「あ、待つきゃ!」
 それを後ろから慌てて雷来が追いかけた。玉はますます勢いを増して転がっていく。その先にあったのは、青玉と団子を振りかざす社。
「えっ」
 驚いた顔をして振り返る社。
「わ〜ぃ、どっかーん!」
「きゃぁっ!」
 無邪気な千影の声とともに、黒玉は社を跳ね飛ばした。弾みで団子は社の手を飛び出し、空高く舞い上がった。

「割る……。スイカ割りの要領でいいのかな……」
 ぽつりとそう呟いたのは、黄龍のシヴァことイスターシヴァ・アルディス。アナウンスの内容に、一抹の不安を覚えなくもなかったが、とりあえず、といつの間にか手にしていた棒で、黄玉をすこんと殴ってみた。が、割れないと見るや、今度は先端でごすっとどつき、そのままぐりぐりと押し付ける。
 端正な外見にも、聖職者という立場にも、天使という本性にも似合わぬその行為に、黄龍組の応援席が静まり返ったが、本人は一向に気にした様子はない。
 と、玉がたまりかねたように転がり始め、シヴァから逃げようとし始めた。
「ああっ! ……よくわからないけど、とりあえず逃がすかっ」
 すかさず周囲に結界を張るシヴァ。入り損ねたてらやぎが、外で途方に暮れていたが、シヴァは気づきもしなかった。

「おい、くす玉を割るためのボールがないぞ?」
 大声で叫んだのは朱雀組の将太郎。それに答えるかのように、朱雀組の観客席からピンポン球からビーチボールまで、さまざまなボールが投げ入れられた。
「意思だか仕掛けだかがあるんだか知らないけど、やっぱり手荒なまねをしても割れないと思うんだよな」
 格好はヤンキーながら、恒は意外と慎重な態度を見せた。
「くす玉だけに、くすくす……微笑……くすぐりに弱いっていうオチじゃないかなぁ」
 言いながら、これまた真っ赤な軍手をはめる恒。金属のように見える玉の表面で爪がキィキィ言ってはたまらない。
「そうですよね。空から降っても割れなかったくらいだから普通の割り方じゃ無理そうですね」
 紫桜も相槌を打ち、割れ目やひもがないかを調べにかかろうとした。
 が。
「四の五の言ってねぇで面倒なこと済ましちまおう」
 投げ入れられた中でも最も重いボウリングのボールを手にした将太郎が、赤玉に向かってそれを投げつけた。
 赤玉はそれを跳ね返したかと思うと、仕返しとばかりに猛然と将太郎に向かって突っ込む。
「ちょ、ちょっと、先生、俺たちの話も聞いてくれよ!」
 恒たちが慌てて身構えた。

 一方、分別ある女性が3人集まったせいか、傍目には一見目立った動きのない白虎組。
「くす玉割りって普通は用意された玉をぶつけるよね?」
 ちょうど朱雀組の将太郎と同じ疑問を口にしたのは、神崎(かんざき)こずえだった。見た目は明るくて元気な、ごくごく普通の高校生くらいの少女だ。
「ないってことは、パンチとかキックで割れってこと?」
 そうつぶやいて苦笑を浮かべる。もっとも、見た目によらず運動能力の抜群なこずえにとっては、それも非現実的なことでもないのだが。
「うーん……、玉自体が割れようと思うように導いてあげるってことなのかな、と思ったんだけど」
 その傍らでカスミのアナウンスを反芻するように呟いていたシュライン・エマが軽く首を傾げた。コケティッシュなこの女性には、これだけの動作が絵になる何かがある。
「生き物なのに、運動会のタメだけに割られるなんて……くす玉さんからしたら、すっごい迷惑な気もするけど、でも、クリアしなければ永遠に競技が続きそうだし……」
 軽くあごに手を当て、しきりに首をひねっているのが崎咲里美(さきざきさとみ)。その面差しにはまだあどけなさが残っているが、瞳には強い意志を感じさせる力が宿っている。
 美女3人に囲まれて照れているのか、白玉はおとなしくそこに佇んでいた。
「とりあえず、ちょっと調べてみましょうか」
 言ってシュラインは、どうぞよろしく、と白玉にぺこりと頭を下げた。ちょっとだけ点検させてね、と、あたかも母親が幼い子どもにするように優しく語りかけ、そっと手を触れる。
「ねえ、くす玉さん? くす玉さんからすれば迷惑なのはわかるよ。下手したら命の危機かもだし」
 それまで悩み顔だった里美も、ぱっと顔を輝かせ、くす玉に声をかけ始めた。
「けど、ちょっとの間だけ、この競技の判定が出るまでで良いから、割れてもらえませんか? その後は私が責任を持って回復させます!」
 と、懸命に説得を展開する。
 そこへ、どこからともなく団子が降ってきて、白玉の上に落ちた……と思いきや、玉が一瞬ぱくりと開いてそれを飲み込み、再び固く口を閉ざしてしまった。
「……今、お団子食べたわね」
 シュラインが呆然と呟く。
「……食べましたね……」
 と、里美も目を瞬かせながら頷いた。
「里美さん、危ない!」
 不意に、こずえが声をあげたかと思うと、里美の体を抱えるようにして横へ跳んだ。その直後、それまで里美のいたところを、すごい勢いで暴走する黒玉が走り抜けていった。
「わぁい、わぁい」
 その上では嬉しそうに飛び跳ねる千影。
「待つきゃ! よ〜し!」
 その後ろの方から幼い声があがったと思うと、小さな雷撃が空を走る。が、黒玉を狙ったらしきそれは、迷惑なことに、手前の白玉を直撃した。と、白玉がぷるぷると震えだし、ぽん、と音をたてて2つの玉へと分裂してしまった。しかもなぜか大きさはそのままで。
「子ども……産んだのかしら」
 そこに立ち尽くしたままのシュラインが再び呆然と呟いた。
 新しく出てきた方の玉は、古いのとは対照的に、激しく転がってあっちに行き、こっちに戻りとでたらめな動きを繰り返す。
「これ、どうすれば……?」
 里美が目を瞬いたその時。
『あー、審判の草間だ。白虎組は2つとも玉を割ってくれ。以上』
 何とも無愛想なアナウンスが入る。
「2つとも、って!」
 こずえが声をあげた横で。
「ということは、1つ割るのも2つ割るのも大して変わらないということなのかしら」
 あくまで冷静なシュライン。
「とりあえず、あっちの玉の動きを止めなきゃね」
 ごくりとつばを飲み、こずえは迷走する玉を見据えた。あまりに動きがでたらめなので、先読みと動体視力の飛び抜けたこずえも慎重にならざるをえない。が。
「そこ!」
 こずえは玉の動きを見切り、すかさず札を地面に投げた。と、それは爆発し、地面に大きな穴を開ける。そして、狙い通りに白玉はそこに転がり込み、迷走を止めた。が、玉自体は細かく震え続けている。
「あの玉、少し膨らんでいるように見えます」
 目を細めて玉を見つめていた里美がそう言うのとほぼ同時に、限界を超えたらしい白玉は盛大に弾けとんだ。そして、中からわらわらと出てくるのは、大小様々の……。
「みかん!?」
 こずえがすっとんきょうな声をあげる。
 確かに、それはみかんだった。なぜか異様に縦長で、手足が生えていて、中には人間くらいの大きさのものも混じっていることを除けば。
 それらは、あるものは所狭しと競技場の中を駆け回り、あるものはそのあたりに寝そべってみたり、またいくつか集まってフォークダンスを踊ったりと、思い思いに動き始めた。
「いよかんさんだよー」
 そのうちの1つが律儀にもこずえの言葉に応えた。
「は、はあ、いよかんさん……」
 里美がそれを繰り返す。
「と、とりあえず1つは割れたと見てもいいのかしら」
 シュラインが気を取り直したように呟いた。

 その辺りを走り回るいよかんさんに気を回す余裕もないのが朱雀組。将太郎の攻撃に怒ったのか、赤玉が俄然勢いを増して転がり始めたのだ。何せ、直径2メートルの大玉。直撃をくらえばつぶされかねない。
 それでも。
「逃げるなんてカッコ悪くてできるかっ!」
 と、意地と努力と根性で、あたりに転がるボールを赤玉に向かって投げ続ける将太郎。その中にたまにいよかんさんが混じっていたりするのだが、それにかまけている暇などない。
 それは、将太郎がつぶされないように必死でフォローに回る恒と紫桜にとっても同じことだった。
 が、ついに将太郎の周りに玉が切れた。玉は容赦なく突っ込んでくる。対抗手段はない。万事休すかと思われたその時。
「きゃはははは」
 甲高い笑い声とともに、黒玉と千影が突っ込んできた。
「えーいっ」
 ぴょん、と玉から飛び降りた千影は、赤玉にいわゆる猫パンチをかます。さすがに赤玉も意表をつかれたのか、それをまともにくらい、進路を変えてころころと転がっていった。
「あははははっ」
 千影は笑い声を残し、再び爆走する黒玉に飛び乗った。
「ま、待つきゃ〜」
 後を追う雷来の声は切れ切れになっている。
「何だったんだ、あれは……」
 呆然と立ち尽くす、朱雀組の男3人。
「こんなことしてる場合じゃ!」
 はっと我に返った恒が、あさっての方向に転がる赤玉を指差した。

 周囲に張った結界のおかげで、あふれるいよかんさんにも、暴走する黒玉にもまったく邪魔されることなく、黄龍のシヴァは1人マイペースで玉と対峙していた。
 さして広くない結界の中だというのに、巨体をものともせずに、黄玉は器用にシヴァから逃げ回る。
「ええい、待てぇ!」
 棒をふりかざし、それを追いかけるシヴァ。
「えいっ」
 ここぞとばかりに振り下ろす。が、玉はぎゅるん、と音をたて、急激に横へとスリップしてそれをかわした。
 それを、まるでデパ地下の実演販売よろしく、結界の外に張り付いて中を覗き込むいよかんさんたちの間からやんやの喝采が上がる。
 ちなみにてらやぎはといえば、黒玉の暴走をくらい、さらに雷来の局地的豪雨にまで見舞われて、ぐっしょりぼろぼろになってそこに座り込んでいた。中の人の頭の中には、着ぐるみの弁償に消えてゆく来月の給料のことが浮かんでいたかもしれない。いや、もう既に真っ白になっていただろうか。
「まったく往生際の悪い……」
 シヴァは大きく肩で息をつくと、玉を睨んだ。玉は細かく右へ左へとトリッキーに揺れ動き、いつでも逃げられる体勢を整えているようだった。
 棒を握り直し、玉へと向かうシヴァ。いよかんさんたちが手を叩いて盛り上がる。

「くぅ〜」
 ずぼ、と音をさせて代真子は地面から頭を引き抜いた。
 あの後も、何度か青玉に殴り掛かってははじき飛ばされ、地面に頭を突っ込むのを繰り返している。
 青玉の前では、社がやはりどこからともなく取り出した団子を、今度は大量にいくつもの皿に山積みにしている。玉よりもむしろ、代真子の気を引けそうな光景であるが、今の代真子の目に入るのは、にっくき青玉だけだった。
「そうか、もっと硬いもので叩き割ればいいんだ!」
 はたりと思いつき、代真子はやにわに周囲を見回した。それが代真子の拳より硬いかと問われて是と答える人間が果たしてどれだけいるかは疑問だが、ちょうどそこを通りかかった身長50センチくらいのいよかんさんをはっしとつかむ。
「あー、それはあなたにあげたんじゃないよ!」
 青玉の前で社が非難めいた声をあげた。
「知らないきゃ。ここに落ちてたきゃ。落ちてたものは誰のものでもないきゃ」
 そううそぶきながら、次から次へと団子をほおばるのは、黒玉を追いかけ疲れた雷来。
 そんな2人の間を、いよかんさんを握りしめた代真子は脇目もふらず駆け抜けた。そして、渾身の力を込めて青玉に向かって振り下ろす。
「やめてー、やめてー」
 いよかんさんは針金のような手足をばたばたさせて暴れたが、それも代真子には届かない。
 代真子のその迫力におびえてか、それともいよかんさんを哀れんでか、青玉は脱兎のごとく逃げ出した。
「待てー!」 
 代真子はそれを猛然と追った。

 1つ余分に生まれた玉が割れて、仕切り直しとばかりに白玉に向かう白虎組。3人は丹念に玉に触れ、時にはくすぐったり、優しく語りかけながらその表面を調べた。
「開けゴマ、……なんてね」
 シュラインがそう言った瞬間。
 ぽん、と軽い音をたてて、くす玉が真っ二つに割れた。中から真っ白の毛玉のような生き物が大量に出てきて、きゃっきゃとはしゃいだ。近くにいたいよかんさんたちも集まってぱちぱちと拍手を送る。
「祝ってくれているの?」
 シュラインが軽く小首をかしげ、里美が口元を綻ばす。
「あたしたちの勝ちね!」
 こずえが誇らしげな笑みを浮かべた。
『白虎組、玉が割れましたー』
 カスミの声が響き渡り、観客席からも拍手が起こる。

 その頃朱雀組は。
 あさっての方向に転がっていった赤玉に追いつくや、恒が隙をみてその懐に飛び込んだ。そして、すかさずそこら中をくすぐり倒す。
 玉にもくすぐったいという感覚があるのか、転がるのを止めて、細かく震え始めた。割れ目がわずかに開いては閉じる。どうやら効果がありそうだ。
 それを見て将太郎と紫桜も恒に加勢した。紫桜はくすぐりながらも、玉の表面の観察を怠らない。そこへ、白虎組が玉を割ったというアナウンスが響いた。
「何、もう割ったのか?」
 将太郎が驚きの眼差しで白虎組の方を見やる。女性3人はすっかりくつろいで、いよかんさんたちと一緒に団子をつまみ――それはもちろん、社が青玉に振りまいていたのを失敬してきたものであるが――、茶などをやっつけている。
「そんなに派手な動きをしていたようには思えませんね」
 紫桜が目を細め、玉へと向き直る。
「『開けゴマ』とかで割れたら……」
 笑いますよ、という言葉を待たず、赤玉はあっけなく2つに割れた。中からは赤い毛玉のような生き物がやはり大量にあふれ出し、そこら中を走り回る。
「あはは……」
「俺の意地と努力と根性は何だったんだ!?」
 乾いた笑いを漏らす恒と紫桜の横で、将太郎は天を仰いで叫んだ。
『朱雀組、玉が割れましたー』
 抜けるような青空に響くカスミの声がやたらと爽やかだった。

 いろんなものが溢れ出し、もはや収拾がつかなくなりつつある競技場で、残る3組もそろそろ佳境を迎えつつあった。
 自ら作り出した結界の中、1人外の騒ぎも知らぬ顔で、シヴァは相変わらず黄玉を追いかけていた。
「待てぇ」
 殴り掛かったその棒をまたもかわしたかと思うと、ぎゅるん、と方向を変え、黄玉は突然シヴァへと向かってきた。
「うわっ」
 今まで逃げてばっかりだったので反撃がくると思っていなかったシヴァは、意表をつかれながらもなんとかそれをかわす。
「ええい、往生際の悪い!」
 シヴァは手にした棒に幾重にも結界をまとわせた。これで破壊力を高めようというのだが、端から見る限り、それはいわゆるピコピコハンマーというやつにそっくりだった。
「ちゃっちゃと割れてよね!」
 再びシヴァへと向かってきたそれを、今度は正面から殴る。「ぷぎゅる」と何とも微妙な音がしたが、ようやく玉はぱくんと割れた。
「やっと割れた……。どれくらいかかったのかな?」
 ここでようやく他のチームのことを思い出し、シヴァはあたりを見回そうとした。が、見る間にその視界は真っ黄色に染まる。玉から溢れ出した毛玉が、結界内を埋め尽くしたのだ。
「うわっ、何これ!」
 けもけもに埋もれながら、シヴァは慌てて結界を解いたのだった。
『黄龍組、玉が割れましたー』

「ひぃー、ひぃー」
 ぶんぶんと何度も宙を振り回され、代真子の手の中のいよかんさんはかすれた涙声をあげた。
「待てこらぁー」
 が、代真子はそれに気づく風もない。相変わらず猛烈なスピードで競技場内を逃げ回る青玉を猛然と追っている。
「きゃはははー」
 そして、やはり所狭しと競技場内を駆け巡る黒玉と、それに乗った千影。
 この状況で、こうなることはやはり時間の問題だっただろう。
 青玉と黒玉は、速度を落とすことなく、真っ正面から激突した。
「きゃっ!?」
「うわぁっ」
 千影は玉から振り落とされ、代真子は跳ね返ってきた玉にはね飛ばされた。
 そして、青玉、続いて黒玉が、力尽きたかのようにぱっくりと割れて動きを止めた。やはり中から毛玉がわらわらと出てくるが、目が回ったのか、他の色のものに比べて元気がなく、ふらふらとそのあたりをよろめいている。
「うにゃーん、チカ、けもけもしたのも大好きー」
 柔軟に着地を決めていた千影は歓声をあげ。
「おなかすいた……」
 むくりと起き上がった代真子は、再びへなへなと座り込んだ。
「はい、代真子ちゃん」
 社が用のなくなった団子を差し出すや、代真子はそれをすごい勢いで食べ始めた。客席に戻れば重箱の弁当があるのだが、それも数分後にはきれいさっぱり食べ尽くされる運命にあった。
『青龍組、玄武組も割れたようですね。結果、一位白虎組、二位朱雀組、三位黄龍組となりました。……でも、これの後片付けどうするのかしら?』
 いまだ、雑然騒然としたままの競技場に、カスミの声が響き渡った。
『……え? このまま次の競技? えーっと、次の競技は、予定を変更して、今出てきたけもけもを捕まえる、だそうですー。皆さんのご協力をお願いしますー』
 そう続いた声はどこか投げやりだった。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1522/門屋将太郎/男/28/臨床心理士/朱雀/2位】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/白虎/1位】
【2836/崎咲里美/女/19/敏腕新聞記者/白虎/1位】
【5453/櫻紫櫻/男/15/高校生/朱雀/2位】
【3206/神崎こずえ/女/16/退魔師/白虎/1位】
【5154/イスターシヴァ・アルディス/男/20/教会のお手伝いさん/黄龍/3位】
【4241/平代真子/女/17/高校生/青龍/4位】
【3689/千景/女/14/ZOA/玄武/5位】
【5432/早津田恒/男/18/高校生/朱雀/2位】

【NPC/三日月社/青龍】
【NPC/いよかんさん】
【NPC/雷来/玄武】
【NPC/てらやぎ/黄龍】

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■          獲得点数           ■
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青組:0 / 赤組:20 / 黄組:10 / 白組:30 / 黒組:0

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。もしくは初めまして。ライターの沙月亜衣と申します。
この度は、くす玉割りへのご参加、まことにありがとうございました。
5組すべてからご参加いただき、本当に幸せです。その分、長くなってしまいましたが、コラボノベルということもあり、視点分けせずに全てのPC様に同じものを納品しております。
順位の判定法については後日ブログに掲載するつもりです。
後日、夏野いつみ絵師が異界ピンにおいて受注を開始する予定ですので、運動会の思い出に、ぜひぜひそちらもご参加下さいませ。
とまれ、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
この度はまことにありがとうございました。

……それにしても、よもやあのマジックワードを書いてこられた方がお2人もおられるとは……