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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■ジャックの注文■



 カボチャのジャック。
 イタズラ大好き男の子。
 お化けになってもイタズラが好き。

 だから今年はお菓子よりもイタズラ。
 イタズラが駄目ならせめて遊んで欲しいんだってさ!


** *** *


「でも本物のジャック・オー・ランタンが見れるなんてラッキーかもな」
 散々笑い転げた梧北斗が苦しそうな息の下で、涙を滲ませる眦を拭いながらそう言う前で二人の男が居心地悪そうに互いの顔を見た。
 彼らの背後からふわりと漂って来るカボチャ頭の幽霊が笑いすぎて痛む腹を撫でる北斗へと不思議そうに寄って来た所でちょいと突付けば面白い程のけぞって両手で頭を抱えてみせる。そのおどけた様子にまた笑って北斗は今度はそのカボチャをぽんとごく軽く叩く。
「よーするにこいつと遊べばいいんだろ?俺の得意分野じゃん♪」
 その姿勢のまま朗らかに言えば「お願いするです」と向かいのソファでちんまり座る子供――茶々さんとか言うらしい実は人間じゃないとか、その辺りはまあしっかり聞かなかった――が頭を下げる。
「おう、任せとけ」
 少年らしい活力に溢れた声で北斗は答えてまた笑った。

 ――それはある日の草間興信所。
 例によって北斗が寛いでいる姿に「手伝う気は無いのか」と渋い顔で手元の書類を示す草間。あるワケ無ぇだろ、と答える北斗に笑ってお茶を用意している零。
 そんな所に訪ねて来たのが興信所の近くにあるマンションの住人達だったのだけれども。
 大人の男、赤毛の子供、金髪の少年、と三人現れたその後に続いて奇妙な生物……生物?カボチャ頭の見慣れたお化けスタイル西洋風。
 それがふよふよと室内を漂う中で草間武彦とアルバート・ゲインなる男の非常に力の抜ける言い争いは開始されたのである。不毛極まりない言い争いの内容は置いておくとして、結局アルバート達が何を頼みに来たのかと言えばカボチャ頭の所謂ジャック・オー・ランタンと遊んでやって欲しいとそれだけ。たったそれだけの事にどれだけ関係無い怒鳴り合いをするのかは知らないが、最終的には北斗の遠慮の無い笑い声に冷静さを取り戻す結果になった。
 そうして、実は茶々さんがお招きしたとか言うそのカボチャ幽霊ジャック・オー・ランタンが落ち着き無く漂いうろつき回る中での依頼事と相成った次第。

「面白そうだしな。俺が付き合うからよろしくな!」
 動かないように力を抑えて撫でる程度にカボチャを叩く。
 くるりと回転して白い布になっている体の部分をひらひら揺らす仕草がどことなく嬉しそうに感じられたので近所の小学生なんかを構っている時のような表情でまたカボチャを叩いた。
 手を乗せたままアルバートを振り返る。
「で?どういう風にするんだ?」
「うん。先にジャックが街に出るから、それを追いかけて捕まえる……かくれんぼと鬼ごっこ、だったっけ?そんなもんだね」
「けど街ったって広くねぇ?」
「いや、それはコイツが何箇所か案内して場所決めてる、んだろ?」
「一応」
「だからまあ、その近くをうろついて移動、って繰り返すらしい」
「そうそう」
 草間も一緒になって説明するのにふむと一つ頷くようにして思案する。
 ならば普通に追い回すのでも大丈夫そうだ。

「いいぜ。なら始めるとすっか」

 断るつもりも無かったけれど改めての北斗の言葉を聞いてくるくると、喜びの表現なのだろうか、軽やかにカボチャが回った。


** *** *


 薄暗い夜の校舎を北斗は走っている。
 ひらひらと白い布が浮き上がっては溶け、確かに遊んでいるようだと頭のどこかで声がした。構って欲しいヤツがこういう風に、完全には離れない距離でちらちら動くものだ。
「結構速いなアイツ」
 部活で鍛えている北斗は体力もある。
 しかしそれでも延々と走る途中で呼吸を整え直したりもするのだ。ふ、と息を緩めた拍子に声まで洩れた。
 楽しそうにひらひら踊るカボチャのお化け、ジャック・オー・ランタン。
 興信所から出てアトラスへ。そういえばビルの途中で男の人が一人、何事か考えるようにしながら歩いていたけれどジャックを見て驚かなかっただろうか。三下のように泡を吹きかねない驚きようではなくてついそのまま通り過ぎてしまったけれど、三下は極端な反応をするのだからして彼が驚いていなかった保証は無い。
 走りながら考えるのだけれど、ややあった北斗は「ま、いいか」とそれで片付けた。だって今更興信所のあるビルに戻って男性にフォローを入れる訳にもいかないのだから。
「それにしても速ぇ」
 小さく口笛を吹きかけて止める。許可を取って校内に入っている訳ではない以上無駄に人に気付かれる真似は避けるべきだった。
 北斗が今走っているのは神聖都学園内高等部校舎特別棟……だと思われる。
 なにぶん広いこの学園。気を抜けば現在位置なぞ容易く見失う訳で。
「けど見つかって良かったよな、っておい!」
 階段を手摺越しにふわりと上から見下ろせばドレスのように布を広げて下りるジャック・オー・ランタン。あちらは浮いているから音はしないがこちらはする。同じように飛び降りる訳にもいかずに一段飛ばしで駆け下りる。人の気配は無いがいい加減誰かに気付かれそうな気がひしひしと。
(……ってかなんか視線感じる気がすんだよな)
 悪意の無い、むしろ見守るようなものだから放ってはおくけれど。
 それが参加しようとして結局見守る事に決めた加藤忍であるとは北斗は知らない話。
 アトラスにはジャックはまだ回っていなかった。三下が「お化けですか〜!?」とそれだけで泣きそうになっただけで、次に回ったのがゴーストネットOFF。瀬名雫が目を輝かせていたけれどその時点ではまだジャックは来ていなくて――そう、その時点、ではだ。北斗があやかし荘でジャック情報を入手していた時に携帯に連絡が来たのである。
『今来たよ!本当にカボチャだね〜☆』
 時間的にあやかし荘から何処か、そしてゴーストネットOFFへ回ったらしかった。ミスったなぁと苦笑いした北斗だったが雫のお陰で学園方向へ飛んで行ったと情報を得られた以上はそう悔やむものでもない。
 かくして学園にてジャック・オー・ランタンと梧北斗はめでたく対面し、今に至るのだが。
 勢い良く階段を飛び降りてばかりで足裏が妙に痛い。
 するすると眼前を踊る白い布。その上に乗るカボチャ。時折振り返っては笑うそのカボチャ頭。いやいや表情が変化する筈も無いのだけれど「ふっ」だとか「捕まえられるもんなら捕まえてみな!」だとか「やーいやーい」だとか、そういう印象を凄まじく受けるのである。
 北斗はそれを可愛い子供のおふざけと見逃す程老成してはいない。
 ただでさえ負けず嫌いの性質であれば、もう子供好きも何も無いのだ。捕まえてやろうじゃねぇか、と当初の兄貴分的な余裕有る態度はどこかへうっちゃって真剣にカボチャのお化けを追い始めている彼。
 しかし一階の窓から飛び出したカボチャの行動を見て少し勢いが削がれる。
 だって。だって。
「……えーっと……」
 多分、一度木の上を通ってみようとしたのだろうと思うのだけれども。
 カボチャ頭を突っ込んで布だけがひらひらはらはら、捩れる程に激しく揺れているのはどうしたものか。
 廊下からなんとなく白々とした空気を纏ったまま見ていた北斗であるが、仕方ないなと窓を乗り越えた。迂回しろだとか言ってはいけない。そもそも走り回って土埃まで落とし回った現状で窓越えの一つや二つ突っ込む所では無いのである。
 よ、と小さく声を上げて地面に下りれば間近に揺れるジャックの服、だろうか。白い白い布。腕組みをしてそれを見、上を見、ジャックのもがく姿を見て溜息をワザとらしく吐いてみてもジャックはもう突っ込んだ頭をどうにかするのに必死で気付くどころではないらしい。
 近所の悪ガキを見る思いで――かつては自分がそうであった事は記憶の彼方だ――それを見る。仕方が無いから助けてやろう。
「どこ行ったんだかなー」
 これみよがしな大声で言いながら歩き、ついでとばかりに白い布の裾を強めに引く。すぽんと軽い音がする時にはその北斗の手は布から離れていて、ジャックが猛スピードで飛び去る後ろを代わりに声が追いかけた。
「そんなトコにいたのか!待て!」
 ちょっとわざとらしいか、と小さく零した北斗の姿は木陰から見ていた忍だけが知っている。


** *** *


「――っぶね」
 はっしと掴んだ手摺の向こうは何も無い。
 アトラスのある白王社を社員の驚いた顔を眺めつつ走り抜けてついたのは屋上。
 一度興信所を掻き回しつつ走り抜け。忍の事を聞く前にジャックと北斗は盛大に走り回って程よく事務所を散らかして走り去った。
 そこから次はアンティークショップ・レンに、高峰研究所に、興信所近くのマンションに、走り回って時にからかわれて時に何処かに引っ掛かるジャックをさりげなく助け出して、成長してからこれほど走り回っただろうかと思う程に駆け回る。
 そして白王社。
 見下ろす地上は遠く落ちれば無事では済まない。
 嫌な汗が流石に滲むのを自覚して深い息を吐いた北斗をジャックも心配そうにすぐ近くで浮いていた。その本当に子供らしい「やりすぎちゃった」と言う雰囲気に苦笑しつつ腕を伸ばす。
「落ちてねぇから気にすんな」
 白い布端を掴んでもジャックは逃げない。
 ふよ、と少しだけ浮かぶ位置を下げた。
「もう終わりか?」
 また少し下がる。
 とんでもない結果になりかけた事を反省しているのだろうか。
 けれどこのカボチャお化けにはなんだか似合わない。楽しくて周囲が見えなくなる事はあるのだ。いや転落寸前というのは流石に危険であるけれど。
 しょんぼりした様子がありありと見て取れるカボチャのお化け。
 その様子に笑って北斗が頭を叩く。追いかけっこの前、興信所でしたように。
「なら武彦のトコまで競争しようぜ」
 白王社のドア出てからな、と言えばようやくカボチャは浮く位置を上げた。
 くるりと勇ましく回ってみせる。そうそう。それでこそイタズラ小僧。

 夜闇の中を白い白い布が踊る。
 追いかける北斗と一緒に興信所へ。

 そうして一段落してジャック・オー・ランタンから差し出されたのは小さな小さな手の平サイズのランタン一つ。
「ん?」
 受け取った北斗がそれを見る間にくるくるくるくるジャックが回るのはきっと照れ隠しだろう。それを見ていたのは北斗以外の人間だ。
 北斗自身はと言えば渡されたそれを観察する間に瞳がきらきらと輝いて子供のよう。おー、とかすげぇ、とか言ってひとしきり観察する。ふよ、とジャックが伺うように覗くとようやく彼はカボチャ頭の相手を見た。
 満面の笑みで。

「サンキュ!大事にするからな!」


** *** *


 カボチャのジャック。
 イタズラ大好き男の子。
 お化けになってもイタズラが好き。

 一緒に遊んでくれた人が居る。
 実はこっそり見守っていた人が居る。

 お菓子よりもイタズラ。
 イタズラよりも遊んでくれる人。

 ジャックはとても楽しかったってさ!





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5698/梧北斗/男性/17/退魔師兼高校生 】
【5745/加藤忍/男性/25/泥棒】

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■         ライター通信          ■
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 ジャックとの追いかけっこは大変でしたでしょうか。
 こんにちは、ライター珠洲です。
 ジャックのルートと重なってからはPC様設定のルートを取らせて頂きました。さぞやバタバタと慌しく駆け回っておられたのではないかなぁと思う次第。お二人が直接対面する事は無いままバタバタですね。でもその分ジャックは満足出来たみたいですよ。有難う御座いました。

・梧北斗様
 生き生きと走り回りムキになる梧様の姿が簡単に想像出来て楽しかったです。
 生憎と学園内での追跡だけの描写にはなっておりますし、回る場面も一部のみですけれど全て駆け回って各所でジャックを追ってちょっとだけ引っくり返したりしたかと思われます。皆笑って見送ったとライターは想像してますけど!