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<東京怪談・PCゲームノベル>


とりかえばや物語!?

■前へ進むために■

 古書店「めるへん堂」。そこが普通の古書店ではないことは知っていた。
 でもだからといって不思議体験をするために訪れたわけではない。
 レポート用の本を買いにきただけで。

「ああ、もうっ!何がどうなってるのーーーー!?」
 頭を抱え、里美は喚いた。そんな彼女の肩を控えめに叩く女性が一人。
 茶色の短めの髪に黒い瞳。毎日鏡越しに見慣れている顔。
 そう、自分だ。
「あ・・・あの・・・里美さん?少し落ちつきませんか」
「これが落ちついてられる?もおーどうすればいいのよ〜っ」
 めるへん堂に入ってすぐ、里美は店長である栞に手招きされた。彼女の傍らには青い髪が綺麗な中学生くらいの少女が立っていて・・・
『これをお二人で一緒に開いてみてくださいませんか?』
 栞に随分と古ぼけた本を差し出された。怪しい臭いが漂っていたが、彼女の「断ったらタダじゃおかない」的な無言の迫力に押され、従うことにした。
 そうしたらこれだ。
 そう、つまり彼女と少女――海原みなもというらしい――の体が入れ替わってしまったのである。
『まあ、一日もすれば元に戻るでしょう。それまでお互いの振りをして乗りきってください』
 と、言われても。
「はあ・・・。もう嫌・・・・・・」
 いっそのことこの場で気を失ってしまおうか。
「えーっと・・・・・・。とりあえず頑張ってみましょう・・・?こんな所でじっとしてても仕方ないですし。あたし・・・というかこの場合里美さんがですけど、お買い物に行かないと・・・」
 里美はみなもをじっと見つめる。だんだんと自分の顔で他人が話すということにも慣れてきた。
「・・・そっか・・・。そうよね・・・」
「里美さん?」
「違う誰かの生活を体験してみるのも、一つの経験なのかもしれないよね」
 何事もポジティブに。そうすればきっと悪い方へは進まないのだ。
 里美は気合を入れる為、両頬を手の平で叩いた。
「よしっ!とりあえずあなたの予定を聞かせてもらえる?みなもさん」
 急に復活した里美に瞳を瞬かせていたみなもだが、すぐに笑顔になり頷いた。
「はいっ」


 その日はもう日も暮れかけていたので、みなもの言いつけ通り買い物をして、帰宅することにした。
 それにしても。
 このみなもという少女、かなりしっかりしている。色々と作業しながら思わず感動を覚えてしまった。
 夕飯を作り、風呂を沸かして、洗濯物を畳んで、夕食をとって、風呂に入る。
 これだけでも大変なのに、加えて学生には必ず付いて回る宿題と予習だ。
 翌朝起きたらすぐに洗濯。その間に家の中を掃除し、朝食の準備。そして登校。と。
 彼女は毎日こんな生活を繰り返しているのだろうか。
 ――はあ、私にはとてもじゃないけど真似できないなあ・・・
 ふと自分が中学生の頃のことを思い返してみた。両親が殺されてからそれなりの月日がたっていて、だからといって冷静に振り返れる程遠い日の出来事にはなっていなくて。
 とにかく必死で、前を見よう、前だけを見ていようと自分に言い聞かせてばかりだったような気がする。
 ただ、前へ前へ。
 後ろを向いたら躓いてしまいそうだから。
 ――まあ、それは今も大して変わらないか
「みーなーも」
「・・・」
「みなもってば!」
「え?あ、何?」
 はっとして顔を上げる。
 しまった。まだ呼ばれ慣れないものだから反応が遅れてしまった。
 目の前の中学生。みなもの友人のようだが、名前は何といったか・・・・・・。先程の授業で指されていたのに忘れてしまった。
 ――とりあえず少女Aでいいか
 何やら事件の被害者や犯人のような呼び方だが、そこはまあご愛嬌ってことで。
「新聞読んでるなんて珍しいね。いつもは安売り広告のチェックしてるのに」
「あー・・・うん。たまには・・・ね」
 そんなことまでしているのかあの少女は。
「何か気になる事件でもあるの?」
「うーん・・・そうだね・・・・・・」
 里美は新聞をめくり記事の内容を素早くチェックする。気になる見出しが見つかり、手を止めた。
「これとか?」
 見出しには『夫婦殺害事件。犯人は近所の30代の男』。
「暗・・・っ!もっと明るいニュースは目に入らないわけ!?」
「ええっと・・・」
 そんなことを言われても。
 過去の経験上、どうしてもこの手のニュースが気になってしまうのだ。
「だって、ほら。犯人見つかって良かったなあって思うじゃないの」
「・・・みなも」
 少女Aがやけに真剣な顔で里美の肩を掴んできた。
「何?」
「疲れてるのね?疲れてるんでしょ?」
「は?いや・・・私は別に・・・」
「放課後暇?」
「え?暇・・・かな。多分」
「うん。じゃあ、遊びに行こう。ね、そうしよ」
「え・・・ちょ・・・」
「決まりね!」
 少女Aは半ば強引に決定し、里美の肩をぽんっと叩いた。
 何が何だかわからないまま、里美は新聞を畳んだ。

 放課後。
 みなもに言われた通り演劇部と水泳部に顔を出してから、少女Aと遊園地に向かった。平日の夕方は当然のように空いているので短期間でそれなりに遊べるそうだ。
 それにしても。
 里美は右手で頬に触れる。
 そんなに疲れたような顔をしていたのだろうか?そんなにいつものみなもと違って見えたのだろうか?
 あの温和そうな少女より、どちらかというと自分の方が元気度は勝っていると思うのだが。
「みなもー!あれ乗ろ!」
 ――ま、いっか
 せっかく誘ってくれたのだ。とりあえず目一杯楽しまなくては。

 遊園地に居たのは二時間程だったがなかなか楽しむことができた。
「はあ・・・遊んだ遊んだ〜」
 こんなに思いきり遊びまわったのは何年ぶりだろう。
「どう?楽しくて疲れも吹っ飛んだでしょ」
 少女Aが笑いながら問いかけてくる。
「ねえ・・・私、そんなに疲れてるように見えた・・・?」
「うーん・・・疲れてるっていうか・・・何か無理してるような感じがして・・・」
 無理?
「何て言うかねえ・・・肩に力が入り過ぎてるっていうか・・・。うん、そんな感じ」
「肩に・・・・・・」
 里美は自分の肩に触れてみる。
 力が
 入り過ぎている・・・?
「頑張ることはいいことだけどさ、頑張り過ぎもよくないと思うんだよね、私。たまには肩の力を抜いて、思いっきり笑う。それって大事なことだと思うわけよ」
「・・・」
 殺された両親。
 彼らの意志を受け継ぐ為
 彼らを殺した犯人を突き止める為
 後ろは振り返らずに
 決して立ち止まらずに
 ただ、前へ前へ前へ
 ――私、疲れてた・・・・・・?
 そういえば最近は自ら沢山の仕事を入れて、ほとんど休む暇もなく記事を書いていたような気がする。
 疲れなんて感じていなかった。
 いや、感じないフリをしていたのだ。
 弱音を吐いたら、立ち止まることになりそうで。
 ――たまには肩の力を抜いて、か・・・・・・
 別に力を入れているつもりはなかったのだが。そう見えたというのだから、きっとそうだったのだろう。
 これでは立ち止まる前に倒れてしまいそうではないか。
「・・・そうだね。たまには・・・いっか」
 何もかも忘れて笑い飛ばすのも。
「そうそう。それからまた頑張ればいいんだから」
 里美は星が浮かび始めた空を見上げた。
 ――ねえ、それくらいなら許してくれる?


 里美とみなもの体が元に戻ったのは結局、その日の午後8時のことだった。
 次の日の朝、めるへん堂に立ち寄ると店の前にはすでにみなもが立っていた。
「おはようございます、里美さん」
「おはよう。昨日は災難だったね」
「ええ。でも・・・楽しかったですよ」
「確かに」
 顔を見合わせてお互いに微笑む。
 みなもの友人は里美の背中を押してくれた。彼女には感謝しなくては。
 里美はポケットから二枚の紙を取り出すと一枚をみなもに渡した。
「これさ。明日辺り一緒に行かない?」
「映画・・・ですか?」
「そ。これ、見に行きたかったんだ〜」
「でも・・・」
 みなもが不安げに里美を見つめてくる。
「お仕事・・・結構溜まってましたよね・・・?」
「いーのいーの!いったん敏腕新聞記者は止め!ちょっと肩の力を抜いてみよっかなー、と思って」
「肩の力・・・ですか?」
「そ」
 里美は両手を空に突き上げて、思いきり伸びをした。
「これからまた、頑張る為にね」


 これからも私は立ち止まらない
 ただ前へ前へ進むだけ
 でも、たまには肩の力を抜いて
 視線は前に向けたまま、思いきり笑ってみるのもいいかもしれない


「やっぱ基本はポジティブ思考よ!」
「はあ・・・」


 誰の為でもなく、自分の為に


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【2836/崎咲・里美 (さきざき・さとみ)/女性/19/敏腕新聞記者】
【1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/女性/13/中学生】


NPC

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターのひろちという者です。
二度目の発注、ありがとうございました!
今回もまた、納品の方が遅くなってしまい申し訳ございません・・・!

里美さんを書かせて頂くのは2回目なので、少し内面も書いてみたいな・・・と思ったらこんな話になりました。いつも一生懸命な彼女にもたまには色んなことを忘れて遊んでもらえたらな・・・と。
楽しんで頂ければ幸いです。
よろしければみなもさんの方のシナリオも併せてお楽しみ頂ければ、と思います。

今回は本当にありがとうございました!
次のシナリオも精一杯書かせていただきます!