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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


東京怪談


 何時も笑っている少女が居た。けれどそれはまやかしだった。
 本当は、東京だった。
 殺しあう。

 フリー、フリー、フリー。貴方には自由があって、そして、けして自由は素晴らしくなく。時に優しくても、ある日には厳しく。
 雨に濡れた子犬を拾う自由は、路頭に彷徨わざるを得ない自由は、神を信じない自由は、蹴る自由は、殴る自由は、夢を諦めさせる自由は、諦める自由は、自由を奪われる自由は、その自由を取り返す自由は、その自由を殺す自由は、全ての自由は、
 もしも貴方が孤独だったら、誰にも邪魔されぬゆえに自由は、素晴らしいのだろうか。だけどもし、皆と居るという自由が無い。自由は、
 自由は、必ずしも素晴らしくなく、
 だからこそ貴方は行動した。
 殺された人も居た。
 生きてる人が居る。

 何時も笑っている少女が居た。少女はそこで笑っていた。
 馬鹿みたいに笑う為の異界で、笑っていた。笑っていた。だから、なんとか、まやかしを守ろうとして、けれど結局敵わなくて。今は眠り続けている。眠っている。
 眠って。
 死んだように。

 これは東京の怪談。
 意思ある者、それぞれの怪談。


◇◆◇

 SN3.世界の中の三人
 優しい

◇◆◇


 晴れ渡る草原で、ごはんを食べよう。貴方の作るサンドイッチは、スモークした鴨、蜂蜜漬けのリンゴ、シャキシャキのオニオンスライス、とっても豪華。一口食べるの、きっと、笑みが零れてしまう。
 晴れ渡る草原で、ごはんを食べよう。コーヒーはいかがかしら、風が体を撫でるから、温度差はきっと黒い飲み物を、暖かさにしてくれて。だから、心まで落ち着くわ、苦い、ゆえに美味しいんだコーヒー。
 晴れ渡る草原で、ごはんを食べよう。そして全て平らげた後は、お散歩? 花摘み? ボール遊び? 何もせずにただ空を眺めるって、そんな一時を過ごす事だって、
 出来るんだ、彼女は、
 晴れ渡る草原で――
 だけどただの人間の、水上操は、もう鬼でない水上操は、地獄の地が消えた場所で、瓦礫すらない、東京の、草原で、ごはんを食べずに泣いていた。うずくまって泣いていた。ただの人間、
 一人の少女と、一人の男にみつめられて。


◇◆◇


 白銀という色は何時だって、悪を砕く為にあった。まばゆいばかりの白き輝きは、無限の闇という底無しを払うにはピッタリだから。
 今、彼女の、手、その剣。
 彩峰みどりの一撃が通じず、乾いた種のように力無く吹き飛ばされたのは何時だろうか。彼女がその剣を、あの男から継いだその刹那か、あるいは数日という道のりがあったか、それは、どちらでもいいのか。
 思い出にならない時間に、意味が無いなんて言う訳じゃない。無為に過ぎると思われるその時こそ、この今に何よりも力を与える。実際、考えはしたんだ、決意したんだ、
 止めよう、と。
 ――けれど今彼女の身体は、とても良く吹き飛ばされ
 飛ばされた先の、なんでもない木の枝が槍となり、彼女の方を生々しく抉る。嗚呼、そうやって日常は次々と、この意思に沿うように。そこにある石だって、そこにある空だって、そこにある、
 人とて。
 殺しあいの法則は終わった。
 けれど、殺される人々は、溢れた。
 全ての半分は彼女の所為だ、彩峰みどりの前に居る彼女だ。いや、もう雌雄など無い生き物の望み。裂かれる童が居るのも、喉を潰される大人が居るのも、夢を終える老人が居るのも、
 ……枝を抜き、身を凍らせ、傷を防ぐ荒療治。そうしてる彼女にも絶え間なくその景色。
 涙は流せなかった。
 心が慣れてしまった訳ではない、彼女から優しさが消えうせる事は無い。世界を嘆き、そして、
 目の前の、人に。
 ――人?
 それは人とは呼べなかった。
 それは角を生やした鬼であった。
 それは本能であった。
 それは破壊し喰らう事であった。
 目の前も。
 けれど、
 名前があるんだ。

「操さん」
 面影なんてすっかり無くても。

 話しかけた言葉は、いや、あらゆる言葉は彼女に届かない。だからみどりの顔面を音速のような拳で殴る、何処かの歯が折れて、口から血と供に零れた。少女の可憐は腫れ上がる。だけど、
 彩峰みどりは、優しいから。
 彼女の鬼を殺そうと、身肉がズタボロになろうとも、操へ白銀の剣を構える。きっと、鬼だけを殺せる、
 あの男が残した、優しい剣。
 神隠し事件の時に睨まれた時よりは、随分強く意思を持ち、戦士は鬼を殺そうとする。


◇◆◇


 全ての半分は、八百万の霊である。
 虚無の境界より放たれた、世界中で失われた命の、行き場の無い物の。
 数の力は科学のように、天秤に乗せられる重りのように、暴力として左右する。呪うとか、霊を抜き取るとかじゃない、単純に、実体化した力殴る蹴るような。
 全ての命が霊になれば、世界は新生するのだから。次のステージに生まれ変わるから。
 使役された彼等は、人間の肉という器を剥ぎ取ろうとしている。純粋な目的は機械のようで、ためらいは生まれずに、次々と、次々と。かくれんぼしている人達を見つけたり、幾つかの抵抗により消滅したり、
 殺しあう法則が消えるよりも激しく、命が減っていくのは、操の鬼と、この霊の所為で、地獄絵図が新たなこの世界の呼び名である。全ての人間に罪があるはずないのに。
 いや、生きている事こそが?
 神様に祈るような疑心暗鬼に多くの人が陥り、けれど矢張り足掻く者があって。意思の抵抗は若干の継続を生めど、ほとんどは断絶されて。死ぬの? 死ぬよ?。だってそれが、
 それが鬼と、彼女の願いだから――
 夢だ。
 そして、
 夢は、

 歴史にも乗らぬ夥しき夢は、幾度も現実に潰されてきたから。
 ほら今、次元を切り裂いて男が現れるという現実。

 この、異界に。
 瓦礫が崩れ、黒雲が広がるこの世界に何処からか唐突に現れた男の容姿は、サングラスをかけていて。高い身長、黒髪、エリだてられた白いジャンパー、サングラスをかけていて。
 けれど霊団は機械のように蠢くから、その突然に対しても不思議を抱かずに、一斉に襲い掛かる。水が集まった波のように、量という力は男を殺そうと。したのだけど、
 ああまるで、ゴミ箱に捨てるようなものだ。
 ――時空の歪みに放り込んだ
 時空、の、歪み、に。
 ……それは一体どういう行為なのか。そもそも時空とは、なんだろうか。無様な教師のアンサー、世界は縦横奥行きである。ユークリッド空間。それに時間というベクトルで四次元。けれど時間は全てのものに平等に作用して、それぞれが異なる訳で無くて、電車に乗ってる者が電車と供に進む慣性の法則と同じ。普段の我等は三次元の存在で、
 けれど、例えば、この男が、
 自分だけの時間軸を持っていたと、したら。
 他者とは違う時間で生きる、そんな存在だとしたら、それは、
 寂しいと、言うと思う。
 言うと思う、

「父さん……母さん」
 彼が呟いた者ならば、きっと。

 サングラスをかけている男は、銀城龍真。
 父に似ている。


◇◆◇

 ……、声は、聞こえない。
 水上操に、声は聞こえない。
 もう自分自身、そういう、言葉みたいなものを失ってしまって。
 聞こえない。
 聞こえないんだ。
 人と鬼の子――
 ……なぁ、
 なぁ。

◇◆◇


 有象無象喰らい殺します。人とて、花とて、地獄の鬼と同じように跋扈する八百万の霊団とて、差別はせずに。人じゃない腕から振り下ろされる、とがった爪は痛くて、心臓にも臓器にも眼にも痛くて、痛くて、泣いてしまいそうになります。
 、
 零れる涙を凍りつかせてでも、少女は泣きたくなかった、もう、それは十分だ。めそめそするのはもうやめろ、泣いたって、泣いたって、何かが変るなんて、御伽噺のお姫様だ。私は、
 彩峰みどりは戦っている。
 全身をくまなく、殺されながら。
 水上操である鬼の中には、レイニーの首が眠っている。かつて、平凡なる不幸な男を、哀れな殺戮の道化に変えたケースは、例外なく彼女にも適応された。望めよ、されば与えられん。ウェイトレスに料理を頼むよりも早い速度で、思うた時には既に叶えられて。願い、父に、父に会いたい、鬼である父に、この異界には居ない父に、
 だからこの異界を殺そうと、地獄にしてしまおうと、
 なのだけど、目的は、もう解らなくなって。
 何の為に殺してるのか解らなくて、殺したくて、喰らいたくて、破壊したくて、居場所を自分に相応しくしたくて、ああ、きっと、それは、
 鬼の本能。
 人の理性でない、鬼の心。
 世界の全てが敵である。屠らなければいけない者である。それが、かつての、
 彩峰みどりという、知り合いの女の子でも。
(、)
 思考に言葉が現れない水上操だ。
(、)
 けれど、獣にだって、優しさがある時だって。しかし、
(、)
 言葉もなく、殺す、殺す、という言葉もなく、殺戮をする彼女という生き物。
(、)
 ねぇきっと昔人は、人は、多くの誤解や勘違いだってあったんだけど、
(、)
 人は、それを、鬼と言って、忌み嫌ったのか。
 水上操は人と鬼の子、忌み子。それを嫌うは、人の愚か? それとも本能? 自分が忌み子だなんて事関係なく、優しく繋がってくれた人も居てくれた。目の前の少女ともきっと、ほら、手を繋げる――
 鬼の踏みつけるような蹴りは、防御となるはずの氷壁ごと、みどりをアスファルトにめり込ませて、続けざま鬼は、膝を屈した彼女を蹴り上げる。
 転がるように避けようとしたけど、少し間に合わなくて、馬鹿でかい爪先は左手を、潰し、思考など吹っ飛ぶくらいの激痛が、目を見開かせ口から嗚咽を漏らさせて、そして、白銀の剣が零れる。
 激痛と、その事と。二つの注意。
 その隙を狙う訳でなく、ただ、水上操の休み無い滝のような攻撃が、その空白にようやく適応されるという事で、そう、
 十分の一秒にも満たない彼女の一撃、

 突如、スローモーション、
 一秒くらいには。

 修羅場を潜り抜けてきたみどりには、手負いでもかわせる程の速度、避ける、転がる。銀の剣を拾うよりも先に、相手に構える。
 ……のろい。
 鬼の彼女の身体能力は、音速を超えんとばかりだったはずだ。けれど、今は目に見える。五感を使わずとも、息が続くのであれば、子供でも視覚さえ使えれば。もしや陸上の選手なら、走って逃げ切れるのでは。
 その異常は、鬼だけじゃないと、みどりは気付く。「どうして」ゆうくりと殴りかかってきたタイミングに合わせて、前転し、相手の懐を潜り抜けて銀の剣を無事な手で拾いながら知覚した。
 目の前全てが、のろいのだ。
 黒雲の流れ、そこから放たれる雷撃、……遠い光景である、人の形をした鬼と霊も、のろい。感覚的には十分の一。一体、何故か。
「今がチャンスです」
 その男は。
 みどりの背後から声をかけたその男は、彼は、
「……なんで」
 ――白銀の剣を私に託した
 そう、驚いたのだけど、けれど彼は、頭を振ってそれを否定して。
 その男は、父に似ている。
「彼の弟です」
 だけど嘘を吐いた。言った所で、矛盾してしまうから信じてもらえない。
 違う時間軸で生きる男。


◇◆◇

 七年前、この異界が始まったその時から換算すれば、四年前。ある男と、ある女の間に生まれた。年数的に言えば彼は、八歳。
 けれど実年齢は26歳。何故か?
 ……七年前、否、四年前の一歳の誕生日から、彼は、時空の移動を繰り返しているのである。その生まれてから一歳までの間だけ自分の存在は肯定されて、それからの彼は時の外。パラドックスが生じない原因は、魚のように時と時を渡っている。
 その時の狭間には、賢者が居た。御伽噺のように。時に狭間がある事態で、眉唾だけど。けれど彼から色々教えてもらった彼の手には、懐中時計。
 自分の時間軸を、そのまま表すその得物は、力の結晶は、自分の時間の流れを速めたり遅くしたり、戻したり、
 他人の目から見ればそれが、時を操る様となって。そして今、
 異界の崩壊は、彼本人の力を四割程減退させながらも、ゆっくりと、なっている。
 何の為だ。
 ――龍真は嘘を吐いている
 兄だと嘘を吐いた父、そして彼の大切な人であったはずの母の為に、
 あらゆる時間で会う事も出来なかった、両親の為に。それが、
 この異界の、銀城龍真。

◇◆◇


 時間移動者の汗を滲ませた支援は、みどりの遥かなる手助けとなって、
 両手で剣を――潰れた片手を柄に重ねて、氷で縛って――十分の一となった鬼の速度よりは速く動く、気が付けば、鬼だけでなく周囲が更に一段とスロウになり、これは、彼の術か。鬼に対して1と半分の倍速になったみどりは、突き進みながら、鬼へ、叫ぶ。
 白銀の剣は、操ではなく、操の中の鬼を斬る刃は、一度その鬼の頭へ、だが、
 十分の一以下だった時が、やにわ、戻った。龍真がまさかと思うけれど、単純に、
 鬼が今までの十倍速く、力を出したから。だから、
 さっきと同じくらいの攻撃力は。
 どがり、と。
 彩峰みどりはその一撃をくらって、吹っ飛んだ。
 鬼の強力で弾き飛ばされた少女は、龍真が時を戻す暇も無い少女は、
 ――骨の砕けた全身を、氷付けにした
 何を――

 瓦礫に、ぶつかった瞬間。
 彼女の背から更に放たれた冷気は、対象物をまた凍らせ、
 コースターのレールのように瓦礫を凍らせて。

 滑り台、終着点は操へ。鬼の速度をその侭返すように、方向が修正されて彼女は、気絶しそうな意識を必死で持たせて、今、自分自身を白銀の刃の柄にする。
 とんでもない速度に対して、鬼の反応はようやく反応して、
 掛け声も無く襲い掛かってくる、その武器をどうにか、振り払わなければ、否、
 本能は破壊しろと。己を殺すこの神器だろうと、
 銀の剣に、拳が、
 鬼の巨大な拳面が、肉が刃を折ろうと、
 した時に。


◇◆◇

 、
 優しかった。

◇◆◇


 彼女は、一時停止しました。
 それは龍真の術で無くて、本当に、鬼自身が一瞬止まって。
 停止した腕に切っ先は突き刺さる。少女は自ら纏っていた氷を弾き飛ばし、筋肉の収縮と勢いを合致させ、鬼の身肉を削ぐよう剣を。そしてその刃と供に、あれ程堅き鬼の肌が、死んでいく、殺されていく、それと比例するように周囲から、馬鹿げた地獄が消えていく。鬼自身の消滅が、この世界から彼らの居場所すらも。
 懐中時計、異界の崩壊の時間、左右する必要も無くなって。
 龍真が、見た物。そして、
 彩峰みどりが見た物、
「操、さん」
 一心不乱に斬ったその後には、気付けば、彼女が、膝を崩して座っている。
 呆然として。さっきまで、破壊する衝動に自らを支配していた彼女。
 何が起こった、か、
 ……気配が、した。
 気配、
 操は振り返る。
 龍真とみどりは、既に見ている。
 そこに鬼が居るのを。
 鬼が居るのを。
 一つも動かず、振り向いた操に、見つめ返す鬼。これは、
 この、鬼は、父――
 違う。
 角が生えているから。角が、
 四本。
 新たに生えた、角は、

 優しかったんだ。
 二つの本能は。
「前鬼、後鬼」
 声をかけられて、鬼は、笑った。
 やっと聞いてくれたなぁ姐さんって。鬼の腕には、レイニーの首が抱えられていて。

 そして鬼は、腕の傷口から少女の首と供に消え去る。
 笑っている少女の顔は、誰の、感情ゆえか。
 それは優しさ。


◇◆◇

 ブレスレットに擬態した、操の父の角を打ち出して作られた双刀。意識と言語すらある二つは、前鬼と後鬼と呼ばれて。三年前から、彼女と供に居て。
 彼女という鬼の身肉の中へ溺れ、
 声をかけても、幾度声をかけても、彼女は自身を取り戻さないから、
 だから、
 角の本能は、優しさを選択した。
 自分の存在と引き換えに、鬼の力を、角で制御して、そしてその一瞬の間に、レイニーの首に、お願いした。
 そう、

◇◆◇


 晴れ渡る草原で、ごはんを食べよう。
「……私、は」
 白銀の剣は全てを打ち払う。レイニーの首も、もう彼女を鬼にしないように、消滅してもらった。だから、
 もう貴方はただの人、忌み嫌われる鬼の力も、何かを守る為の力も無い。けれど、
「私、は」
 あの居酒屋のねーちゃんが作るような料理、食べたら、なぁ?
「私、」
 笑えるて。力あっても、無くても、
 人でも、鬼でも、
 なぁ、
「私」
 姐さん――
 空想具現化の彼女の力は、東京を晴れ渡らせ、アスファルトを塗り替えるようにして、
 彼女の目の前、シートに置かれたサンドイッチとコーヒー。
 罅割れた角が二本。

 人は泣いた。ただの人は泣いた。もう意思など無いただの角二つを手に取り、胸にあてて、うああ、と、うああ、と。顔を涙と鼻水でしわくちゃにして、
 ここに、父は居ない。
 そして、供に居た、二つも居ない。
 ずっと声をかけてくれたはずの二つの声、彼女には聞こえてなくて。
「私は、私、は」
 ねぇ、前鬼と後鬼、
「私は」
 私は、

 望むように笑えるのか。
 晴れ渡る草原で。

 泣き声が響く、小さな命を懸命に発する虫のように。
 草原と青い空、そんな世界で、水上操は、ずっと泣いていた。
 コーヒーが、冷めてしまっても。


◇◆◇


 彼女は玉座に座っていた。
 それは本来の意味では玉座では無い。けれど、この会議室で、組織の長が座るべき椅子である。そこに、腰掛けている少女。
 茂枝萌。
 会いに来たのは、彩峰みどりである。
 入り口に佇む。未だ治らぬ片手、否、全身を連れて、みどりの意思はここへとやってきた。IO2本部、客人として出迎えられて。
 一人、操を残して来るのは気がかりだった。けれど、
 萌には、悪い事をしてるから。
 友達だと言いながら、一度も、彼女自身を理解しようとしなかったみどりは。まるで少女を利用するようにしか、付き合ってなかった彼女は。
 向き合おうと思って。
 今、向き合っている。
 ……声が、生まれない。
 ただみつめあって。
 場所には、二人だけ、という訳でない。IO2のエージェント、……茂枝萌の傍らには、彼女を守るようにスノー、そして少女が携えるヘンゲル。
 声は、生まれない。
 七分程もした。
 大鎌が喋った。『ええ加減にせいや、ダボが』
 ……それでも、また声はせずに、
 二分、三分、
 声は無く。ただ、
 みどりが、歩き始める。会議室の入り口から、彼女に向かって。
 萌はそれを契機にしたかのように喋りだした。「IO2の、長だって。私が。……あの男が言った」
 みどりは、語らない。彼女への距離はまだあって、
「母を殺す為、……そうじゃなくても、世界を救う為」
 距離はもう少しある。
「姫だってさ、私が」
 あと少し。
「IO2の」
 もう十分に近い。
「みどり」
 足を止めた。

「助けて」
 涙声がする。

 それゆえに、零下の術は暖かく彼女を救ったんだ。
 大鎌が振り落とされても、周りの千の能力が襲ってきても、手負いの身体から自身の氷を絞り出して、氷壁の傘、
 涙を流す所為で少し、動きが鈍い彼女を抱えて、会議室の床に氷を走らせる。文字通りの足止め、みどりは逃亡を開始する。逃げる、逃げ出す、廊下、追っ手、警報の音、全てが入り交ざる中、走る、走る、外へ、
 外は。
 ……晴れ渡る草原で、みどりと萌は、今、ごはんを食べられないけれど。
 今は、供に走る。


◇◆◇


 ……入り口から追おうと出たIO2の面々が一瞬、停止して。まるで失った時を取り戻したかのような反応をして、実際逃亡する二人を見失ったのは、銀城龍真の手助けだ。
 父の、話をしてくれたお礼。
 狂った怪異、夥しい犠牲を生み、殺戮を繰り返し、
 けれど最後に、あの白銀の剣を残した、父。
 時間移動者ではあるが、この異界の存在の、その父の話。
 ……晴れ渡る草原で、彼は、手に剣を持つ。自らの力を結晶化させた、その剣で、
 屍を築き元凶へと向かう、
 ……、そんな、つもりだった、けど、
 もう、居ない。
 鬼も、八百万の霊も、
 ……元凶、も。
(この異界は、人々の戻りたいとか、死にたいとかいう願いを利用して)
 ならばそれを利用した彼女の元へ、虚無の境界の霧絵の元へ、
 けれど、八百万の霊は、もう居ない。もしかしたら彼女も既に。ならば、この世界は、この、時間軸は、
「救われているのか」
 それを救いだと、言うのなら。
 会うことも出来なかった両親の為に、この現況で、自分は何が出来るのだろう。何か、する事があるのだろうか。
 それは自由なはずなのだけど、龍真はその場でたたずみ、
 ただ、父と母を思う。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 3057/彩峰・みどり/女/17歳/女優兼女子高生
 3461/水上・操/女性/18歳/神社の巫女さん兼退魔師
 4032/銀城・龍真/男/5歳/時間移動者


◇◆ ライター通信 ◆◇
 _| ̄|○
 すいませんすいませんもう本当にすいません募集してから何ヶ月経ってんだよすいませんすいませんごめんなさいもうしないと言い切れないのが悲しいうわドーナツは武器じゃないああベタベタするごめんなさいすいません。
 いや、シャレにならないくらいほんますいませんでした。(平身低頭
 と、とりあえず萌姫だとか八百万の霊消滅だとかは後納品する物で一応解る感じになっています。そちらの納品も頑張ります、すいませんorz
[異界更新]
 操、白銀の剣と前鬼と後鬼の存在を代償に、鬼の力を全て失いただの人となる。地獄化が解け八百万の霊団も何故か消え、異界全域、瓦礫が残る晴れ渡る草原化。みどり、萌を連れてIO2を脱出。両親の為にここへ訪れた、時間移動者龍真は何処へ?