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オーパーツ借り物競走
「次の競技、『オーパーツ借り物競走』にご参加の方は、本部テントまでお越しくださーい」
響カスミのアナウンスが競技場に流れる。
どやどやと、集まってくる参加者たちを見回して、蓮は薄笑いを浮かべた。
「さて――、このメンツなら、面白くなりそうだねェ。さ、みな、このクジを引きな」
そういって彼女は、穴の開いた箱を差し出すのだった。
「ルールを説明するよ。といっても簡単なことだ。これは借り物競走。今、引いてもらったクジに書かれている品物を借りてきてもらう。ただし、クジには同じ品物が書かれていることもあるから、その場合、同じクジを引いたもの同士の争奪戦ということになるかねェ……。品物はどれも貴重なものだから、取扱いには充分注意することだね。なお、あくまでも競走なので、たとえ品物を借り出せたとしても、ゴールするのが遅れれば得点にはならないよ」
順番にクジを引いた参加者たちは、しかし、途中からはもう蓮の話など耳に入っていなかった。そこに書かれていた品物の珍奇さ、途方もなさに、唖然となっていたからだ――。
かくして、スタートの銃声が響き渡る。
■3番のクジ
【ピリ・レイスの地図】
ピリ・レイス(1465?-1554)は、オスマン帝国海軍の軍人。世界地図、航海案内書の作者として知られている。一般に「ピリ・レイスの地図」という通称で知られているものは、彼が1513年に作成した世界地図を指す。この地図は、以下のような奇妙な点がみとめられることから、オーパーツであるとの主張がなされている。
(1)南極大陸が描写されている。南極大陸は当時未発見だった。
(2)アメリカ大陸の正確な海岸線が描写されている。コロンブスのアメリカ大陸到達から20年程度しか経っていない状態で、詳細な海岸線の情報があることは不自然。
(3)地形の歪み方が「正距離方位図法」を用いた場合に酷似している。「正距離方位図法」によって世界地図を描くには正確な緯度経度の測定が不可欠で、その技術は18世紀以降のものである。
この地図は、大西洋を中心に描いた「左半分」のみが現存している。しかし、インド洋を描いていたと思われる、失われた「右半分」が、異界のホテル『ホテル・ラビリンス』に所蔵されているという――。
*
「ちょっと待って蓮さん。あのホテルは、場所がはっきりとどこにあるとも言えないような所なのよ。在り処がはっきりしている他のアイテムに比べてちょっと不利だわ」
シュライン・エマのなめらかな弁舌が、鋭く蓮に切り込む。
「そのかわり、『必要があれば、いつでもたどりつける』んじゃなかったかねぇ、あのホテルは? どんな方法を使っても構いやしないんだ。頭を使いな」
悠然と、キセルをふかしながら、アンティークショップの女主人は答えた。
「シュラインさん、私たちも早く行きましょう! 先を越されちゃいますよ」
同じ白虎組に属するシオン・レ・ハイが、シュラインの袖を引いた。
「仕方ないわね。……ダメでもともと」
携帯電話を取り出すと、彼女はそれをプッシュしはじめるのだった。
「おお、あのホテルか。憶えてるぞ。前にカンヅメになった」
門叶曜はそう言ってから、腕組みをする。
「だが、行き方が……わからんな」
「そこは手当たりしだいだな」
朱雀組の紅い鉢巻をしめた藍原和馬が言った。同じ組のふたりは頷きあって、競技場から駆け出していく。
「最後に行ったときはどこから繋がった?」
「ああ、あンときは確か……」
「そこの看板! 電柱! あやしいホテルを知らんか!?」
「……って、闇雲に探してもね……」
時永貴由は、黄色い鉢巻を、リボンがわりに髪にからめながら、呟いた。
「ねえ、桂くん」
「はい?」
黄龍組の応援役、桂は、ふいに呼び止められて目をしばたく。
「『ホテル・ラビリンス』まで空間を飛び越えられない?」
「あー、なるほど……。行ったことない場所ですけど……、高峰さんの報告書でだいたいのことはわかりますから、ちょっと、やってみますね」
そして、長い鎖のついた懐中時計を握りしめる。
途端に、ブン、となにかがぶれるような音がして、空間にぽっかりと穴が開く。
「どうぞ」
「え……。これ、繋がってる?」
「わかりません。やってはみましたけど」
「そんな!」
「僕は応援のお仕事があるから、ここに残らないと……」
「んん、一か八か……か。優勝狙う以上は、賭けるしかないな」
「そうですよ。さすが、貴由さん! 男前!」
いささか失礼な声援はさらりとスルーして、意を決した貴由は、その真っ暗な穴へと身を投じるのだった。
「……った」
貴由が、ぺたんと、しりもちをついたところは――、うす暗いホテルのロビーだった。
「やった」
と、喜んだのもつかのま。
「あら」
「シュラインさん!」
フロントにシュラインとシオンの姿を見つけて、目を見張る。
そそくさと、ふたりして、廊下の奥へと足早に駆け去るふたり。
「ちょっと……」
追いかけた貴由の前に、立ちふさがるように、ボーイがあらわれた。
「ご宿泊でしたら、こちらでお名前をご記入をお願いします」
「……」
内心の焦りを呑み込んで、フロントのカウンターに向かう貴由。美貌のボーイが、うっすらと微笑む。
「ようこそ。ホテル・ラビリンスへ――」
「予約しておいて正解でしたね!」
「そうね。そうやって繋がりを持つことで、すぐに来れたものね。さて、問題の地図は……」
シュラインとシオンの、白虎組だ。
「ロミオさん、よく知らないそうですよ。『ビリレースの地図』はないですか、って聞いたんですけど」
「『ピリ・レイス』よ、シオンさん。まずは図書室から探しましょう」
ふたりが、一歩、先んじたようだ。
その頃、朱雀組のふたりは。
「そこの壁! ガードレール! 『ホテル・ラビリンス』はどこだああああ!」
「っていうか、ここ、さっき通ったぞ、オイ」
……道に迷っていた。
■争奪戦
「ええ、先程のお客様にも申しましたが、お貸しするぶんには構いません。ですが、そういったものがどこにあるかは……」
ロミオは肩をすくめた。
「このホテルの、客室以外にございます装飾品や美術品の類はオーナーのコレクションか、お客様の『秘密』に関連するものです。私もすべてを把握しているわけでは」
「いいわ。探すのはやるから」
そう言って、呪符らしきものを取り出す貴由。
それはひとりでに折り畳まれ、折り紙の鶴のような姿になると、貴由のてのひらを飛び立ち、ホテルに散ってゆく。
「じゃあ、探させてもらいます」
足早に、式神たちの後を追う貴由を、ボーイは一礼とともに見送るのだった。
「どうぞ、ごゆっくり」
「地図、地図、地図、ちず、ちず、チズ、チズ、チーズ……」
ぶつぶつ言いながら、シオンが、本棚の本を片っ端からあらためている。
「シュラインさん。チーズなら、やはり台所じゃないでしょうか!」
……真顔で。
「『どっこいしょ』じゃないんだから」
つっこみさえ、探しものをしながら、さらりと致すシュラインの指が、本の列をたどっている。
「『ピリ・レイスの地図』がガゼルの羊皮紙に描かれたものだということは、わかっているの。でも……それらしいものが……見当たらないわね……」
「どれも難しい本ばかりなのです」
「ここにはなさそう。次は……そうね、回廊を探しましょうか」
「絵の飾ってあるところですね! 私もあやしいと思っていたのです。へそくりの隠し場所は絵の裏側に決まってますから!」
足早に移動するふたり。
だが、その回廊には。
貴由が一枚一枚の額をチェックして回っているところだった。
「へそくり、ありました!?」
「その様子じゃまだのようね」
「そっちこそ、図書室にはなかったの?」
「さあ、どうかしら」
お互い悪気があるわけではないが、そこはそれ、競技の上ではライバルなのだ。貴由とシュラインのあいだに、静かな見えざる火花が散った。
「あのー」
と、そこへおずおずと割って入るシオン。
「へそくりはないみたいなんですけど……」
「あのね、シオンさん、私たちが探してるのはチーズでもへそくりでもなくてね……」
「……ええ、だから、地図、見つけちゃったんですけど」
「そうそう、地図を探して――って、ええっ!?」
「ちょっ……、それ……!」
シュラインと貴由の口から驚きの声が迸る。
「額を外してみたんですけど……ほら、この絵、裏が地図なんですよ。地図の裏に絵が描いてあって……」
「――刹那ッ!」
貴由の声が呼ばわる。
虚空より、なにものかのいらえがあった。ごう、と、空気を震わせて、召喚された貴由の式神が、シオンの手の中の地図を奪い去る。
「先にゴールへ!」
貴由が命じるままに、それは回廊を飛んでゆく。だが――
「そうはいかんぞー!」
立ちはだかる長身。遅ればせながら真打ち登場とばかりに胸を張る、門叶曜だ。
「うそ」
貴由が絶句したのは、曜が、彼女の式神を真っ向からの体当たりで受け止め、地図をひったくったからだ。常人の力ではありえない。
「到着までだいぶロスしたが、オレも数々の修羅場をくぐってきた男。限界までひっぱった入稿日の日付変更前に印刷所の深夜窓口に滑り込んだ足を見ろ!」
と、脱兎のごとく駆け出していく。それは修羅場の意味が違うのでは、というつっこみは、はるか後方に残して。
「刹那、追って!」
「おっとっと。ごめんなさいよー。まァ、別に恨みはないんだけどね〜」
ゆらり、と和馬が、道をふさぐようにあらわれた。
「こっちも恨みはないけど、チーム優勝目指してるんで!」
貴由が鎖を放ったのは、相手が和馬なら、多少無茶をしても大丈夫であろうと踏んだからか。果たして、大丈夫どころか。
「はっ」
鎖の尖端についた錘の一撃を受けて、どう、と倒されたのは、和馬と同じ黒スーツを着た、わら人形だった。
「代わり身!?」
忍者めいた術でやりすごした当人はもとより、地図を奪い去った曜も、すでに姿を消していた。
「奪取成功!」
ぱん!と、曜と和馬が手を打ち合わせる。
「あとは速攻ゴールするだけだな。フフ、あとで地図をコピーしておくか。こいつぁ、いいネタになりそうだな」
ほくそ笑む曜。
ホテル・ラビリンスを飛び出したふたりは、入ったときとは違う場所に出てきたが、さいわいにも、そこは見知った大通りだった。競技場からもそう遠くない。
と、そのとき、和馬は、歩道をてくてく歩いているひとりの少女に目をとめる。
たしか、彼女も借り物競走に参加していた……そう、弓槻蒲公英だ。
「おーい、蒲公英ちゃんだろ。クジ何番だった? ああ、『二係』かぁ」
蒲公英が、はっと振り返る。和馬と蒲公英は、同じ朱雀組のようだった。
「何をしてる」
「ああ、悪ィ、あんたのほうが早そうだから、先行っててくれよ」
曜にはそう応えた。男は、ふん、と鼻を鳴らすと、一瞬でエメラルドグリーンの羽もあざやかな、奇妙な鳥に姿を変え、すい、と、宙を滑って飛び去ってゆくのだった。それを見送って和馬は、
「『二係』までだいぶあるぜ。同じ組のよしみだ。こっちの品物は手に入ったから、おニイさんが手伝ってやろうか」
「でも……」
「遠慮すんな。なっ」
そして、蒲公英をひょい、と担ぎ上げると、足取りも軽く、和馬は走りはじめるのだった。
■勝ち組のラストスパートと、負け組のお茶会
貴由は、朱雀組のふたりを追って駆けていった。
「わわ、ごめんなさい、盗られちゃいました!」
慌てるシオンに、シュラインが静かに首を振った。
「先にこっそり入手できれば、隠し持って逃げたり、いろいろ方法はあったのだけど。ただ、追いかけっこしたり、真正面から取り合ったりするんじゃ、私たちに勝ち目はないわ」
それが彼女の冷静な戦力分析の結果であるらしかった。
「はあ……残念です」
「気を落すことないわよ」
20歳近く年下の(実は)シュラインに慰められるシオン。
ひとまず、競技場へ戻るか、と、ロビーへ向かったふたりだったが。
「!?」
耳をつんざくような雷の音とともに、勢いよく入口のドアが開き、3つの人影を吐き出した。
「フフン、こんなものね」
「お見事。これでやっと自由の身に……って、あれ?」
「ここは……?」
「あら、素敵! あたしの執念に応えてくれたみたいね。ここへ繋がるなんて! このむしゃくしゃする気持ちを癒すには、濃いダージリンと、生クリーム満載のケーキしかないと思ってところなのよ! 運命はあたしを見放してはいなかったわ!」
「『ホテル・ラビリンス』か……、ま、いいか。運動会は棄権になってしまうけど、どうです、河南くん、ここでお茶でも」
「…………」
唖然と、シュラインたちは、3人の闖入者を見つめた。
ウラ・フレンツヒェンに、瀬崎耀司、そして、河南創士郎だった。
たしかウラと耀司は2番のクジを引いて、河南のもとに『ヴォイニッチ手稿のレプリカ』を借りにいったのではなかったか。
「みなさん、どうしたんですか」
シオンが訊ねた。耀司が、こちらに気づいて、肩をすくめながら応える。
「その様子だと、そちらの首尾も僕らと同じようだね。せっかくだから一緒にお茶をどう」
「お相伴に預かるわ」
と、シュライン。よく見れば、顔を合わせた面々は、皆、白虎組のようだった。
「いいですね! 私、このあいだ、ここで『わんこプリン』の新記録を出したんですよ!」
シオンも、元気よく応えた。
「バカな……! 追いついただと!?」
輝くような緑の翼の鳥――、門叶曜の化身である鳥が、後方に迫りくる気配に、驚いて声をあげた。
スプリンターもかくやのスピードで着実に、時永貴由が距離をつめていく。もうすこしで、孔雀のような鳳凰のような、鳥の尾羽に彼女の手が届きそうだ。曜は、脚の爪に掴んだ、丸めた地図をぐっと握りしめる。
そのくちばしから、あやしい、まさに怪鳥の叫び声のような音が放たれた。
「……っ!」
途端に、貴由が前のめりの姿勢で、急に失速する。
「なに……を……」
「ほう! それでも前に進むとはやるな。だが、その亀の歩みでは到底追いつくことはできまい。うはははは」
貴由の周辺の重力が、曜の能力で倍加したのだ。常人の体力なら、そのまま地面にはりつけになっても、おかしくないくらいだった。
競技場は目前だ。
勝利を確信した曜が、緑宝石色の翼をはばたかせた次の瞬間。
「……うご!」
突然、空間から出現した1台の車が、曜を思いきり、はねた。
「あ、ああっ」
ふいに、重力の拘束がとけて、前につんのめる貴由。
彼女の上に、曜の手を離れた地図が、はらり、と舞い落ちてきたのだった。
その頃、ホテル・ラビリンスでは。
勝敗は放棄した白虎組の面々が、河南教授をまじえて、優雅にお茶を飲んでいた。
「いったい、誰が『地図』の裏に絵なんて描いたのかしら」
「きっと、新しい画用紙がなかったんですよ!」
「貧乏な画家だったのねェ。貧乏画家が赤貧の中、節約に節約を重ねて絵を描いていた紙が、歴史的なオーパーツの裏だったなんてのも、ちょっと素敵よねェ、イヒヒ、画家はもちろん、あの『地図』の意義は知らなかったのでしょうね」
「だろうね。でもね、ウラくん。昔は紙は貴重品だ。なにかの裏を別のものに使うのは普通のことだったんだ。平安時代の書き物には、随分、そういうものがある。ヨーロッパの有名な絵画も、X線で見れば油絵の下に別の下絵が見つかるものも多いんだ」
シュラインの疑問にシオンが素朴な合いの手を入れ、そしてウラが混ぜっ返して、耀司が頷く。
「あの絵、誰の絵なの?」
お茶を注ぎ足しに来たボーイにシュラインが問うが、
「どの絵でしょうか。画廊の絵はよく架け変えますので」
と、要領を得ない。
「ね、ロマン教授。このホテルの図書室になら、ヴォイニッチ手稿の失われたページもあるかもしれないわよ」
「なるほど、それは、ありそうな話だ。河南くん、ぜひ、探してみるといい。本物は確か、どこかの寺院で見つかったのだったね。時間に取り残されたこのホテルなら、あるいは……」
「それに、レプリカをゴールに持っていくことができなくて、レース自体は失格したあたしたちが、本物の!それも失われた部分を!発見できたら愉快じゃなァい? クヒヒッ」
もとより、この競技は、参加者数より少ない数の品物を奪い合う競走だ。品物がなければゴールしても失格になるので、奪い奪われしながらゴールを目指すのと、潔く諦めて無用な汗を流さないのと、果たしてどちらが賢いか、その判別は価値観の相違というものであろう。
運動会の喧騒もどこへやら。
ミステリアスなホテルの午後は、ゆっくりと過ぎていった。
*
猛烈なスピードで、オープンカーが飛び込んで来たので、グラウンドにいた人々は右往左往する。
「戻ってきたみたいだねェ。意外と早いじゃないか」
のんきに、煙を吐き出す、蓮。
急ブレーキの音とともに、グラウンドの土を削りながら、ゴールテープをその鼻先で切ったのは、マリオン・バーガンディの運転する車だった。
「『ヴォイニッチ手稿のレプリカ』、お持ちしたのです」
豪快な出現の仕方に似合わぬ少年の微笑が、運転席にはあった。
マリオンは、神聖都学園大学の河南教授より借り出した、羊皮紙の束を、蓮に差し出す。暗号めいた不可思議な文字と、謎めいた挿絵からなる、意味不明の奇書『ヴォイニッチ手稿』の複製品であった。
「確かに。……アンタが一番乗りだよ」
満足げな、蓮である。
すこし遅れて、競技場のトラックに姿を見せたのは、時永貴由だった。彼女は、『ピリ・レイスの地図の失われた右半分』をもとめて、異界のホテル『ホテル・ラビリンス』へと赴いたはずだった。
「はい。借りてきました!」
その手の中の、羊皮紙を広げてみれば。
一見して、相当古い時代のものとわかる世界地図であった。描かれているのはインドとインド洋、中央アジアらしき部分。左半分が、ヨーロッパとアフリカ、そして、これがオーパーツとされる所以である、詳細な南北アメリカの海岸線と南極大陸が描かれているというから、これがその片割れなのであろう。
「二番手だね。でも、よく見つけたねェ。……これを買い取れないかどうか、アタシは、あのホテルと交渉してみるつもりなのさ」
くすくす、と、蓮は笑った。
そして最後に。
自転車を押して綾和泉汐耶と、弓槻蒲公英が連れ立ってあらわれた。
ゴールライン直前で、自転車を止めて、汐耶は、
「はい、これ持って、お先にどうぞ」
と、蒲公英に本を手渡した。
「えっ。そんな……」
「私はいいから、蒲公英ちゃん、行って」
「…………はい」
照れたような笑顔で頷いて、汐耶に促された蒲公英が、ゴールを踏み越える。開いた本から、ふわりと光が漏れて……、そこには、巨大な『水晶ドクロ』が出現していた。宮内庁地下300メートル、『調伏二係』より貸出された、世紀のオーパーツである。
「あまりじっと見ないでくださいね。精神が引き込まれて、ちょっと大変なことに」
汐耶が蓮たちに言った。
実際、ここまで来る過程で、ちょっとどころではない騒ぎが起こって、今でも都内は騒がしい。だが、蓮は意に介した風もなく、ただ頷くと、
「これは見事だねェ。結構だよ。お嬢ちゃんが三番手だ」
そう言って、蒲公英の髪をなでるのだった。
それから――
よろり、と、惜しいところで入賞を逃した門叶曜が、ゴールした。最初はむっつりとふてくされていたが、ゴールに並んだオーパーツの数々(水晶ドクロについては悪影響を抑えるため、汐耶が周囲に結界を張ることになった)を鑑賞しているうちに、いくぶん気も晴れたようだ。このオーパーツ類を、彼が本業のマンガにどう活かすかは、また、後の話である。
続いて、セレスティ・カーニンガムが、『二係』の八島をともなって、リムジンで到着。こちらも、マリオンとともに、興味深くオーパーツの鑑賞を行い、終始、笑顔であった。
あとの参加者はついに姿を見せなかったので、棄権ないしリタイアと判定された。
こうして、秋の東京を、時ならぬ喧騒に巻き込んだ、五行霊獣競覇大占儀運動会のひとつ、『オーパーツ借り物競走』は幕を閉じたのである。
(了)
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組 / 順位】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/白虎組/棄権】
【1449/綾和泉・汐耶/女/23/都立図書館司書/玄武組/4位】
【1533/藍原・和馬/男/920/フリーター(何でも屋)/朱雀組/リタイア】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い/朱雀組/6位】
【1992/弓槻・蒲公英/女/7/小学生/朱雀組/3位】
【2694/時永・貴由/女/18/高校生/黄龍組/2位】
【3356/シオン・レ・ハイ/男/42/びんぼーにん+高校生?+α/白虎組/棄権】
【3427/ウラ・フレンツヒェン/女/14/魔術師見習にして助手/白虎組/棄権】
【4164/マリオン・バーガンディ/男/275/元キュレーター・研究者・研究所所長/黄龍組/1位】
【4487/瀬崎・耀司/男/38/考古学者/白虎組/棄権】
【4532/門叶・曜/男/27/半妖・漫画家・108艦隊裏部隊非常勤/朱雀組/5位】
【4836/桐藤・隼/男/31/刑事/白虎組/リタイア】
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■ 獲得点数 ■
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青組:0点/赤組:10点/黄組:50点/白組:0点/黒組:0点
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■ ライター通信 ■
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お待たせしました。五行(略)運動会ノベル『オーパーツ借り物競走』をお届けします。
当初は、それぞれの目標場所に散っていただいて、それぞれを個別に書こうとしていたのですが、予定より、リンク色が強くなり、意外と錯綜したものになりました。
狙ったアイテムによって、そして、一部PCさまは相互乗り入れ的に、ノベルの構成が変わっていますので、他の方のぶんもお読みいただくと、今回の騒動(笑)の全貌がよくわかるかと思います。
>ピリ・レイスの地図狙いのみなさま
ピリ・レイスの地図に描かれた「南極大陸」の謎の真相は、結局のところ、アメリカ大陸を描こうとして、紙の余白に回り込んで描いたものだという説が有力なようです。「南極」部分に描かれている動物の絵が、アメリカ大陸の動物の絵だとかで……。ですが、「右半分」は依然、失われたままであり、もしも発見されたら、また新たな謎が浮かび上がるかもしれませんね。
さて、こちらは人数も多く、探し方等々に工夫の凝らされたプレイングの数々、ありがとうございました。「裏が絵になって、画廊に飾られている」という回答は、今回はあらかじめ決めていました。ズバリの正解はありませんでしたが、かなり近い方が(それぞれ違う切り口ながら)複数おられたので、そのへんも加味しつつ、順位の判定の参考にさせていただきましたよ。
それでは、このへんで、運動会の最終的なゆくえを気にかけつつ、筆を置きたいと思います。
今回は、ご参加ありがとうございました。
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