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地獄の大局サッカー
〜 現実はときに想像を超える 〜
ちょっと変わったサッカーをやる。
その一言に誘われてやってきた数百人の参加者たちのほとんどが、自らの決定を後悔していた。
『大局サッカーで使用されるグラウンドの広さは1000ヤード×500ヤード。
これは通常のサッカーグラウンドの四十倍から百倍に相当します』
見渡す限りの、だだっ広いグラウンド。
その遙か彼方に、通常の十倍近い幅のあるゴールのようなものが、微かに見えている。
(これのどこが「ちょっと変わったサッカー」だよ)
全員が心の中でそうツッコんだが、とてもそれを口に出して言える空気ではなかった。
『出場できる選手は各チーム百十人。うちゴールキーパーが十名となります。
最大ベンチ入りメンバーは百五十人、最大交代可能人数は二十五人までです』
グラウンドは「四十倍から百倍」もあるというのに、出場できる選手数は通常のサッカーの十倍に過ぎない。
ということは、当然一人一人がカバーしなければならない範囲は広くなる。
(これは、大変なことになってきた)
どんどん話が大きくなることに焦りを覚えつつあった一同に、次の言葉がとどめを刺した。
『当然時間の方も九十分では短すぎますので、九時間とさせていただきます。
つまり、前後半四時間半ずつ。ハーフタイムは一時間とします。
時間内に試合が決着しない場合、前後半それぞれ最大一時間半ずつ、ゴールデンゴール方式の延長戦を行います』
延長戦までフル出場となると、最大十二時間にもわたってピッチに立ち続けなければならないらしい。
一体、どれだけのスタミナがあれば、そんなマネができるというのだろう。
想像を遙かに超えた事態に、もはや怒る気力もツッコむ気力も失せ、参加者たちはただただ呆然と立ちつくすより他なかった。
そんな一同の様子にも構わず、案内役の男は淡々と自分の仕事を進めていく。
『また、選手にはそれぞれ発信機つきのヘッドセットが支給されます。
出場している全選手にはそれを身につけていただき、両チームの監督には、メインスタンド脇の監督室からヘッドセットを通じてリアルタイムで指示を出していただきます。
監督室のモニターには上空カメラからの映像が映し出される仕組みになっていますので、そちらも合わせてご利用下さい』
どうやら、監督になれば、少なくともこのグラウンドを嫌というほど走り回らされることだけはなくなりそうだ。
とはいえ、監督ばかり二人も三人もいても仕方がないし、なにより監督は試合の結果に対して選手よりはるかに大きな責任を負うことになる。
(はたして、監督をやるべきか、やらざるべきか?)
『その他のルールは通常のサッカーとおおむね変わりありません。
各試合ごとに、九時間以内での勝利チームには勝ち点3、延長戦での勝利チームには勝ち点2、引き分けの場合両チームに勝ち点1を与え、全十試合が終了した時点での勝ち点、及び得失点差によって順位を決定いたします。
また、全試合を通じての得点王、最多アシスト、及びMVPとなった選手には素晴らしい賞品が用意されています』
全十試合ということは、総当たりで各チーム四試合をこなすことになるらしい。
このおそろしい競技に四回も出場させられるのかと思うと気が遠くなってもくるが、これだけの苦難の果てにある「素晴らしい賞品」というのも気になるといえば気になる。
『それでは各チーム作戦会議を開始して下さい。第一試合の開始は一時間後です』
(さて、どうしたものか?)
そんなことを考えながら、参加者達はそれぞれのチームの控え室へと歩き出した。
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〜 最高のスタート(白虎組・第1日目) 〜
『さあ、皆ガンガン攻めてガンガン点とってね!!』
監督に就任した柚葉の檄を受けて、白虎組の面々はフィールドへと向かった。
初日の対戦相手は黄龍組。
桂が監督、そしててらやぎの着ぐるみがなぜかマスコットとして旗を振っている。
『えーと……大事な初戦ですから、皆さん、気を引き締めて頑張って下さいね』
なんだかんだで「監督補佐」ということになった因幡恵美の一言に、全員が大きく頷く。
が。
試合の方は、全く引き締まったものにはならなかった。
桂の指示がまずいのか、それとも選手の能力や士気に問題があるのか。
黄龍組の選手は全員がのたのた走り、ボールが来るとロングパスを蹴っ飛ばしたがるというとんでもない状態だったのである。
「前方、やや左っ! そこで待機して下さい!!」
ディフェンスラインの中央で、崎咲里美(さきざき・さとみ)が指示を出す。
「先見の力」を持つ彼女にとって、ボールの行き先を予知することはそう難しいことではなかった。
彼女の指示を受けて、ディフェンス陣が片っ端からロングパスをカットし、前線に送り返す。
これといった有力選手もおらず、むやみやたらに長いボールを蹴ることしかしない黄龍組の攻撃陣は、この結果にあっという間に士気を削がれていった。
それが影響した、というわけでもないが、中盤においても、白虎組は黄龍組を圧倒していた。
中でも、目立っていたのが陸誠司(くが・せいじ)の活躍である。
常日頃から並大抵ではない訓練を受けている彼は、試合時間中ほぼずっと走り回っていても、ほとんど疲れることがなかったのだ。
後方、中盤が安定すると、自然と攻める方にも勢いが出てくる。
中でも、大学のサッカー部でフォワードをやっているという篠森十兵衛(しのもり・じゅうべえ)は、多少強引なシュートも多かったが、前半だけで六点をあげるなど大活躍した。
かくして、前半終了時点ですでに10-0とワンサイドゲームの様相を呈してきたこの試合。
後半は、それにもまして一方的な展開となった。
前半の猛攻のせいで、最初から士気の低かった黄龍組の選手たちはほぼ完全に士気崩壊状態に陥っていた。
あげく、せっかくマスコットで出てきたてらやぎの着ぐるみが、真っ先にスタミナを使い果たしてぐったりしているのではとてもお話にならない。
結局、白虎組は後半さらに十八点を追加し、28-0の圧勝で初戦を飾ったのだった。
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〜 中間発表・第1日目終了時 〜
試合数 勝 負 勝ち点 得点 失点 得失点差
青龍 1 1 0 3 32 0 +32
朱雀 1 0 1 0 0 32 −32
黄龍 1 0 1 0 0 28 −28
白虎 1 1 0 3 28 0 +28
玄武 0 0 0 0 0 0 ±0
得点王ランキング
雪ノ下 正風 12
篠森 十兵衛 12
道南 大剛 9
アシスト王ランキング
陸 誠司 9
道南 大剛 4
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〜 ライバルは誰だ?(白虎組・第2日目) 〜
大勝利から一夜明けて。
白虎組の面々は、明日以降の戦いに備えるべく、ゆっくりと身体を休めていた。
ところが。
監督室から指示を出すだけだった監督の柚葉は、元気が有り余っている。
「ねえねえ、みんなヒマだよね? これから敵チームの偵察に行こうよ!」
もちろん、本当は自分が行きたいだけなのは言うまでもないが、名目上でも「偵察」となると、選手もついていかないわけにはいかない。
かくして、白虎組の面々は二手に分かれて偵察に赴くことになったのであった。
里美たちが偵察にきたのは、朱雀組対玄武組の試合であった。
昨日一方的な展開で青龍組に敗れている朱雀組と、今日が初めての試合となる玄武組。
どちらが要注意かといえば、当然ながら後者である。
しかし。
序盤に主導権を握ったのは、朱雀組だった。
なかなか見事なポジション取りに、大胆かつ繊細なパス回し。
流れるような攻撃で、彼らはたびたび玄武組のゴールを脅かした。
けれども、玄武組は強固なディフェンス陣と、優れたゴールキーパーの力によって全ての攻撃を防ぎきった。
「あのキーパー、なかなか手強そうですね」
ゴール前まできた相手の実に九割以上を一人で止めた黒のスポーツウェアの男を指して、誠司がぽつりと呟く。
確かに、あのキーパーから点を取るのは至難の業だろう。
だが、里美が注目していたのは、また別の選手だった。
「その少し前にいる、あの髪の長いディフェンスの人も。
ものすごい運動量だけど、全然動きが落ちてないでしょ」
ディフェンス陣を統率するという感じではないが、常に全力で走り回って、まさに八面六臂の大活躍を見せている。
まさに玄武の名にふさわしく、守備の面ではほとんど弱点の見あたらないチームであった。
そして、試合開始から二時間ほどが過ぎた頃。
朱雀組のフォワードのスタミナが切れてきたところで、今度は玄武組が攻勢に転じた。
初めのうちこそどうにかこうにかしのいでいた朱雀組だが、玄武組のようにはいかず、崩れ始めると次々とゴールを許してしまう。
結局、前半終了時点でのスコアは7-0。
後半も開始直後から着々と玄武組が加点していくのを見て、一同は席を立った。
「おかえりー。どうだった?」
戻ってみると、青龍組と黄龍組の試合を見に行った組はとうの昔に戻ってきていた。
「こっちはすごかったよ。青龍組のフォワードに、一人すごい人がいたんだ。
シュートするとね、ボールが金色の龍みたいになるんだよ」
少々興奮気味に話す柚葉の話からするに、青龍組はどうやら攻撃主体のチームであるらしい。
高い攻撃力を誇る青龍組と、鉄壁の守備陣を擁する玄武組。
少なくとも、楽な試合になりそうもないことだけは確かだった。
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〜 中間発表・第2日目終了時 〜
試合数 勝 負 勝ち点 得点 失点 得失点差
青龍 2 2 0 6 72 0 +72
朱雀 2 0 2 0 0 58 −58
黄龍 2 0 2 0 0 68 −68
白虎 1 1 0 3 28 0 +28
玄武 1 1 0 3 26 0 +26
得点王ランキング
雪ノ下 正風 28
道南 大剛 20
篠森 十兵衛 12
蟹江 正登 8
真柴 尚道 7
アシスト王ランキング
道南 大剛 12
真柴 尚道 10
陸 誠司 9
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〜 最強ツートップを食い止めろ!(白虎組・第3日目) 〜
白虎組の三日目の対戦相手は、恐らく全チーム中最強の攻撃力を誇る青龍組であった。
キーとなるのは、やはり現在得点王の雪ノ下正風(ゆきのした・まさかぜ)。
さらに、中盤から積極的に攻撃参加してくる道南大剛(どうなん・だいごう)も油断できない相手だ。
とはいえ、パスを多用してくる大剛に関しては、里美率いるディフェンス陣が目を光らせておけば、決定的な形を作られることだけは避けられるだろう。
そうなれば、残る問題は正風である。
スタミナも無尽蔵に近く、ひとたびボールを持てばドリブルで一気に切り込んでくる。
その上、必殺の「黄龍シュート」とやらを撃たれてしまえば、白虎組のキーパー陣では恐らく止められないだろう。
「俺がつきますよ」
少し考えた後、誠司は自分からそう言った。
誠司が正風に張りつくような形になれば、いかに正風といえども思うような攻撃はできないだろう。
その代わり、誠司の攻撃参加はかなり難しくなるが……そこは、どうにかして十兵衛に繋いで、決めてもらうより他ない。
『これ勝てば、優勝見えてくるからね! 今日もガンガンいこう!!』
ヘッドセットから聞こえる柚葉の声に、一同はそれぞれ小さく頷いた。
青龍組のキックオフで、試合は始まった。
蹴るのは大剛。
そして、受けるのは正風。
ボールを受け取るやいなや、正風はいつものように素早いドリブルで切り込んできた。
止めに行った選手たちが、次々と抜き去られる。
(やはり、俺が行かねば!)
誠司が正風の前に立ちふさがると、彼は一度その場で立ち止まったあと、敢然と勝負を挑んできた。
「通してもらうっ!」
「させませんよ!」
金色の気を纏いながら突き進んでくる正風と、誠司は激しく競り合う。
その力はほとんど五分と五分で――結果、ボールはどちらのものにもならず、明後日の方向へとこぼれていった。
そのボールを、白虎組の選手が拾う。
そこからうまい具合にパスが繋がり、最後は十兵衛が狙いすましたボレーシュートを決めて、あっさりと先制点は白虎組に入った。
そして、再び青龍組のキックオフ。
今度はあえて正風にボールを回さず、逆サイドから大剛を起点とした攻撃をかけてくるつもりらしい。
ほぼ決まったメンバーと、細かいパスを多用しながら攻め上がってくる大剛。
その攻撃パターンであれば、里美の「先見の力」であっさりと止められるはずだったのだが、今日は少し様子が違った。
中盤辺りまでいつものような形で攻め込んできた後、突然大剛がドリブルを開始したのである。
それも、フィールドのど真ん中を、一直線に。
当然、白虎組のディフェンスも黙ってみているわけではないが、技量が違いすぎるのか、あるものはかわされ、またあるものはファールにならない程度のラフプレーで押しのけられていく。
このままならば、自分のところに来る。
そう感じて、里美は内心に焦りを覚えた。
正直なところ、彼を止められる自信はない。
自信はないが、はたしてディフェンスの中心的存在となっている彼女があっさりと大剛を通してしまった場合、それが味方の士気の低下に繋がらないだろうか?
ともあれ、こうなった以上は、やるしかない。
意を決して、里美は大剛を止めに向かう。
直前の選手をかわしたときに、彼の足下に一瞬小さな隙ができる。
里美は、その隙を狙って足を伸ばし――。
しまった、と思ったときには、もう遅かった。
二度の衝撃。
最初は脚に、次は胸元に。
ファールではない。
一度目は、大剛が蹴ったのはあくまでボールだ。
里美がボールを蹴り出そうとするその瞬間に意図的に合わせてきたことは疑いの余地はないが、何にせよ、彼が蹴ったのはボールだ。
二度目に関しても、「意図的に体当たりしてきた」といえるほど無理矢理ぶつかってきたわけではない。
あくまで、偶然の接触。そう言い逃れできるくらいの強さだったが、それだけでも、小柄な里美を吹っ飛ばすのには十分すぎた。
尻餅をついたままの里美のもとに、中盤の選手たちが駆け寄ってくる。
「里美さん!」
「大丈夫ですか!?」
大丈夫ではないが、今はそんなことを言っている場合ではない。
痛む脚に治癒の術を使いながら、里美はどうにか立ち上がる。
「私は大丈夫! それよりボールは……!?」
青龍組の得点を知らせるホイッスルが聞こえてきたのは、ちょうどその時だった。
その後、試合は一進一退の攻防が続いた。
誠司のマークによって正風はほぼ完全に抑え込めていたが、逆に正風のせいで誠司も攻撃に絡めず、結果的に白虎組が決定的な形を作れることは少なくなった。
また、大剛に関しては、直接止めに行くのは難しいと判断した里美が「パスコースやシュートコースを塞ぎ、ドリブルでスタミナを消耗させるように」という指示を出していた。
そのため、大剛がボールを持つ時間はかなり長くなり、彼に二点目のゴールこそ許したものの、前半だけで、彼は相当疲労していた。
そして、その効果は後半に現れた。
前半スタミナを消耗しすぎた大剛は明らかに運動量が落ち、青龍組はキーマンの二人を封じられて攻撃の形が作れなくなってくる。
その結果、自然と白虎組がボールをキープする時間が増え、十兵衛のシュートで、白虎組は再び同点に追いついた。
ところが、今度は誠司が正風に押され始めた。
誠司は疲れ知らずとは言われているが、文字通りの意味で「疲れない」わけではない。
ただ、スタミナが常人より遙かにあるため、同じことをしても他人よりは疲れる度合いがはるかに軽度ですむ、というだけのことである。
とはいえ、いかに軽度といえど、疲れがあれば、当然それはパフォーマンスに響いてくる。
そのほんの僅かなパフォーマンスの低下が、今回は重大な結果を招いた。
一瞬、正風の姿が視界から消える。
彼の得意とする素早い左右へのフェイント。
今までは見えていたはずのそれに、今回に限って追いつけなかった。
「もらったっ!」
誠司が体勢を立て直すより早く、正風がハーフライン付近からシュートを放つ。
いかに見事な統率力を誇る白虎組のディフェンスといえども、この一撃を止められるだけの力を持つ選手はいない。
金色の龍は無情にもフィールドの中央を一直線に駆け抜け、青龍組に再び一点のリードをもたらしたのだった。
2-3で青龍組一点リードのまま、試合は後半残り一時間というところまできた。
ここで、試合の流れを変える出来事が起こる。
なんと、完全にスタミナを使い果たした大剛が、ベンチへ下がったのである。
これで、怖いのは正風一人しかいない。
ならば……なんとかして彼にボールが回らないようにできれば、誠司を攻撃に参加させることができるのではないだろうか?
そう考えて、里美は自ら中盤に上がり、守っては正風へのパスを通さないことを最優先に、そして攻めては正風とボールの距離を常に保つように指示を出し始めた。
それによって、たちまち白虎組のボール支配率が上がり、逆に青龍組はほとんど防戦一方となる。
ここから同点に追いつければ、試合の流れを完全にものにできるだろう。
里美はそう確信し――そして、ついにそのチャンスは来た。
業を煮やした正風が、誠司を振り切って自らボールに向かったのである。
「チャンス! パス回してっ!!」
里美の指示で、ボールがすぐに誠司のもとへと送られる。
誠司はそのボールをワントラップしてから十兵衛に送り、見事な同点ゴールを演出した。
こうなれば、あとはこちらのものである。
すでに全く攻撃の形が作れなくなった青龍組は、せめて延長に持ち込もうと思ったのか、ここまでの三得点全てを決めている十兵衛を徹底的にマークし始めた。
けれども、白虎組も十兵衛でなければ得点できないというわけでもない。
最後はマークが緩くなった誠司のミドルシュートが綺麗にゴールの右隅に決まり、白虎組は見事な逆転勝利で青龍組を下したのだった。
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〜 中間発表・第3日目終了時 〜
試合数 勝 負 勝ち点 得点 失点 得失点差
青龍 3 2 1 6 75 4 +71
朱雀 2 0 2 0 0 58 −58
黄龍 3 0 3 0 0 102 −102
白虎 2 2 0 6 32 3 +29
玄武 2 2 0 6 60 0 +60
得点王ランキング
雪ノ下 正風 29
道南 大剛 22
蟹江 正登 20
真柴 尚道 16
篠森 十兵衛 15
アシスト王ランキング
真柴 尚道 17
道南 大剛 12
陸 誠司 10
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〜 美学とは!(白虎組・第4日目) 〜
白虎組の次の相手は、ここまで二連敗中の朱雀組であった。
普通に考えれば、白虎組が苦戦するような相手ではない。
ところが、今日は多少様子が違っていた。
「さあ! 今日という今日こそ、美しく勝利を掴むときです!」
キャプテンの深水玲人(ふかみ・れいと)が、自信に満ちた笑みを浮かべる。
その意味を計りかねて、白虎組の選手たちはお互いに顔を見合わせては首をかしげ、また苦笑した。
相手の真意がわかったのは、それからすぐのことであった。
白虎組の選手のパスが通った瞬間、レフェリーが突然笛を吹く。
一同が審判の視線の先を見ると、そこにはサイドに上がったでっかいオフサイドフラッグがあった。
普通のサッカーの場合、「敵陣内で」「相手の後方から二人目の選手と同じかそれ以上に相手ゴールラインに近い場所」にいる場合、「オフサイドポジション」にいることになる。
だが、大局サッカーの場合、十人いるゴールキーパーをまとめて一人として扱うのである。
よって、ゴールキーパー以外のディフェンスが全員上がってしまえば、後ろには十人もの選手がいるにもかかわらず、オフサイドトラップが成立するのである。
これでは、ヘタにパスなど出せたものではない。
その上、白虎組の主な得点源である十兵衛や誠司には常時十人近くの選手がマークについていて、なかなかパスを通すことができない。
主力選手には回せず、その他大勢で攻めるとオフサイドトラップに引っかかる。
なかなか得点できずにいる白虎組を見て、玲人は満足そうに笑った。
「これこそまさに『ビューティフル・フットボール』! あとは点を取るだけです!」
が。
白虎組のディフェンスに里美がいる以上、朱雀組のパスなどそう簡単に通るわけがない。
こうして試合は膠着状態に陥りかけたが、やがて、誠司のマークをしていた選手がへばり始め、誠司がフリーになる時間が増えてきた。
そこを狙って、ディフェンスから、また中盤から、次々と誠司にいいパスが通る。
オフサイドトラップと主力へのマンマークに終始している分、通常のディフェンスは普段以上に手薄になっており、誠司は前半終了までに一人で六本ものシュートを決めた。
そして後半。
「一度破られた戦術に固執するのは美しいとは言えません」
きっぱりとそう言い放ち、玲人はあっさりと前半の「オフサイドトラップ+主力徹底マーク」戦法をあきらめた。
とはいえ、それをあきらめたところで別の策などあるはずもない。
結局後半はいつも通りのワンサイドゲームとなり、終わってみれば27-0の大勝であった。
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〜 中間発表・第4日目終了時 〜
試合数 勝(延長)負 勝ち点 得点 失点 得失点差
青龍 4 2 2 6 76 6 +70
朱雀 3 0 3 0 0 85 −85
黄龍 3 0 3 0 0 102 −102
白虎 3 3 0 9 59 3 +56
玄武 3 3(1) 0 8 62 1 +61
得点王ランキング
雪ノ下 正風 30
篠森 十兵衛 27
道南 大剛 22
蟹江 正登 21
真柴 尚道 17
アシスト王ランキング
真柴 尚道 17
陸 誠司 14
道南 大剛 12
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〜 優勝の行方(白虎組・第5日目) 〜
長かったこの「大局サッカー」も、ついに最終日を迎えた。
白虎組は、ここまで三試合を消化して三戦全勝、勝ち点九。堂々の首位である。
そして、今日の対戦相手である玄武組は、同じく三戦全勝、ただし延長戦が一試合あるため勝ち点は八で現在第二位。
この試合に勝ったものが、この競技を制する。
まさに最終日にふさわしい「事実上の決勝戦」が、まもなく始まろうとしていた。
玄武組のキーとなるプレイヤーは四人。
前線には決定力のあるフォワード、蟹江正登(かにえ・まさと)。
中盤は比較的層が薄いが、後半から出場することが多い葛生摩耶(くずう・まや)は、戦況判断のうまい強敵である。
後方には、守備の要であり、攻撃参加もできる真柴尚道(ましば・なおみち)。
そして、最後方には、ここまでわずか一失点という鉄壁の守備を誇るゴールキーパーの田中裕介(たなか・ゆうすけ)。
特に、裕介と尚道を中心とした守りの堅さには特筆すべきものがあり、十兵衛や誠司の力でも点を取るのは決して容易ではない。
逆に、攻撃面では正風のような選手がいない分、青龍組ほどの怖さはない。
里美を中心に守りを固めていけば、簡単に点を取られることはないだろう。
この試合は、恐らく一点を争う勝負になる。
これまでにない緊張を感じながら、白虎組の選手たちは控え室を後にした。
試合前半は、どちらかというと白虎組が押し気味に進めた。
中盤の誠司は尚道の激しいマークを受けてあまり活躍できなかったが、それ以外のメンバーが奮戦し、再三いい形を作った。
また、守りの面では、誠司がしっかりと尚道を抑えると、中盤にこれといった選手のいない玄武組はやはりロングパスに頼った攻めになり、里美率いるディフェンス陣がこれを尽くカットすると、最前線までボールが届くことはほとんどなかった。
とはいえ、いくらいい形を作っても、そのほとんど全てを裕介に阻まれて白虎組もゴールを決めることはできず、前半はお互い得点のないまま終了した。
後半になっても、試合は白虎組のペースで続いた。
玄武組は中盤に摩耶が入ったが、相変わらずロングパス主体の攻撃は変わらず。
時折ミッドフィルダー数人が業を煮やしてドリブル突破を企むもあらかた失敗し、相変わらずチャンスすら作れない状況が続いている。
一方、白虎組は早いパス回しでたびたびチャンスを作ったが、やはり裕介の守るゴールを突破できずにいた。
それでも、度重なる波状攻撃で裕介も少しずつながら確実に疲労してきており、このまま攻め続ければ点が取れる可能性は十二分にあった。
それになにより、引き分けならば、勝ち点の差が物を言う。
同点のまま試合が進むということは、それだけ白虎組の優勝へ近づくということでもあった。
後半戦もいよいよロスタイムを残すのみとなったところで、ついに裕介が動いた。
ボールを受けるや、ドリブルでボールをペナルティーエリア外に持ち出し、目にもとまらぬ速さで白虎組の陣内に切り込んでくる。
けれども、この攻撃はすでに読んでいた。
誠司が尚道から離れて裕介に向かうと、裕介は単独突破をあきらめて尚道にパスを出す。
それを見て、誠司は全速力で尚道の方へと向かった。
ミッドフィルダー陣が頑張っているうちに、どうにかこうにか尚道に追いつく。
尚道は前にパスを出そうとしたが、パスコースがないのを見て軽く舌打ちし、一旦右後方の摩耶に戻した。
中盤の選手が固まっているのを見て、摩耶が一気に長いパスで右サイドを抜く。
ボールはどうにかウイングの選手に通ったものの、そこはすでに里美率いるディフェンス陣の勢力圏だった。
ディフェンス陣が徐々に包囲の輪を狭め、ウイングはそれを嫌って中央へとセンタリングを上げる。
しかし、里美はすでにそのパスを読んで、あらかじめディフェンスの選手を待機させていた。
ディフェンスの選手が飛び上がり、頭でボールをクリアする――はずだった。
突如巻き起こった一陣の黒い風が、ボールの向きを変えた。
裕介である。
誠司に阻まれてパスを出したあとも、彼はひそかに前線に向かっていたのだ。
裕介によって上げられたボールが、ゴールの逆サイドへ向かう。
そのボールを、落下点に入った正登が頭で合わせ――。
かくして、試合は終わった。
最終スコアは、0-1。
白虎組は、優勝まであと一歩というところまで来ながら。
その一歩が、あまりにも遠かった。
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〜 結果発表 〜
順位 試合数 勝(延長)負 勝ち点 得点 失点 得失点差
1 玄武 4 4(1) 0 11 63 1 +62
2 白虎 4 3 1 9 59 4 +55
3 青龍 4 2 2 6 76 6 +70
4 朱雀 4 1 3 3 8 90 −82
5 黄龍 4 0 4 0 5 110 −105
得点王ランキング
雪ノ下 正風 30
篠森 十兵衛 27
道南 大剛 22
蟹江 正登 22
真柴 尚道 17
陸 誠司 16
(中略)
田中 裕介 4
アシスト王ランキング
真柴 尚道 17
陸 誠司 14
道南 大剛 12
(中略)
田中 裕介 1
蟹江 正登 1
MVP
田中 裕介
(総失点を1点に抑えたこと及び攻撃面での貢献を評価)
ベストイレブン
GK 田中 裕介 (玄武)
DF 崎咲 里美 (白虎)
DF 真柴 尚道 (玄武)
DF ・・・・・・(玄武)
MF 陸 誠司 (白虎)
MF 道南 大剛 (青龍)
MF ・・・・・・(青龍)
MF ・・・・・・(玄武)
FW 雪ノ下 正風(青龍)
FW 篠森 十兵衛(白虎)
FW 蟹江 正登 (玄武)
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〜 おまけ 〜
こうして、五日間に渡る「大局サッカー」は終了した。
無事に結果発表をかねた表彰式も終わり、選手たちは元の陸上競技場に戻るべく、ここへ来たときに使ったバスターミナルへと向かった。
と、その時。
『選手の皆様、お疲れ様でした』
最初にここに来たときに聞いたのと同じ、案内人の声が響く。
おそらく、帰りのバスの案内だろう。
参加した人間のほぼ全員がそう思ったが――残念ながら、その予想は見事に裏切られた。
『続きまして、ビッグアリーナに移動しての大局バスケットボールが行われます。
参加希望の方は、バスターミナルの東側に集合して下さい』
この「大局バスケットボール」とやらが、人数が集まらずに中止になったことは言うまでもない。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組 / 順位】
「運動量はピカイチ! 中盤の覇者」
5096 / 陸・誠司 / 男性 / 18 / 学生兼道士 / 白 / 2位
「終わりよければ全てよし!? 終盤の策士」
1979 / 葛生・摩耶 / 女性 / 20 / 泡姫 / 黒 / 1位
「攻めも守りも任せとけ! 攻守の要」
2158 / 真柴・尚道 / 男性 / 21 / フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神) / 黒 / 1位
「的確な指示でピンチをしのげ! ディフェンスラインの統率者」
2836 / 崎咲・里美 / 女性 / 19 / 敏腕新聞記者 / 白 / 2位
「疾風怒濤で突き進め! 孤高のエースストライカー」
0391 / 雪ノ下・正風 / 男性 / 22 / オカルト作家 / 青 / 3位
「守り抜く、だがそれだけじゃない! 攻撃参加も得意な高速の守護神」
1098 / 田中・裕介 / 男性 / 18 / 孤児院のお手伝い兼何でも屋 / 黒 / 1位
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■ 獲得点数 ■
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青組:10 / 赤組:0 / 黄組:0 / 白組:20 / 黒組:30
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度はご参加下さいましてありがとうございました。
と、いうわけで、だいたい参加して下さった人数に比例した結果となりました。
個人的には監督をやろうとする人が一人もいなかったのが驚きだったのですが……。
・このノベルの構成について
今回のノベルは、十二のパートで構成されています。
試合部分については各組で違ったものとなっておりますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。
・個別通信(陸誠司様)
今回はご参加ありがとうございました。
誠司さんには主に相手の主力選手と対決していただきましたが、いかがでしたでしょうか?
もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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