コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


■夢は夢追い夢忘る■

 ふと、碇麗香は走らせていたペンを止めた。
「この資料、どこにやったかしら。───三下くん!」
 麗香の呼びつけに、三下はすぐに返事を返す。
 尋ねた資料を預かっていたという彼は、彼女に渡して自分の仕事の続きを始める。
「編集長、休憩どうですか? お茶、淹れましたよ」
「ありがとう、いただくわ」
 編集部の者に言われ、区切りのいいところで記事を書くのをやめ、のびをしながら立ち上がる。
「美味しいわね、このお茶。お茶菓子もいいものだし、これ、どうしたの?」
「いえね、この前、事件を解決した依頼人さんが、恩返しだって持ってきてくださいまして」
 そんなやり取りをしながら、ふと、麗香は動作を止める。
「……? どうかしましたか、編集長?」
「ううん、なんでも。ただ、」
 ただ───こんなやり取りを、以前もしたような気がして。
 そんな彼女の言葉に、部下たちは笑う。
「編集長、それきっと既視夢(デジャ・ヴ)ですよ。疲れたときに、以前あったようなことを体験しているような気になるんです」
「そうね、そうかも」
 麗香はそうして、また仕事に戻る。



 ふふ───……

 くらやみで、琴の音を紡いでいた青年の形のいい唇から、含み笑いがこぼれる。

 この、愚かな獲物たちは、いつ気づくのだろうね───私のかけた、罠に。
 いいや、気づくことはないのだろうね───きっと。
 そう、───きっと。
 今までの獲物たちと同じように、
 ───私の人形になって、世間からは忘れられるのだね。

 ふふふ───…………



 ふと、碇麗香は走らせていたペンを止めた。
「この資料、どこにやったかしら。───三下くん!」
 麗香の呼びつけに、三下はすぐに返事を返す。
 尋ねた資料を預かっていたという彼は、彼女に渡して自分の仕事の続きを始める。
「編集長、休憩どうですか? お茶、淹れましたよ」
「ありがとう、いただくわ」
 編集部の者に言われ、区切りのいいところで記事を書くのをやめ、のびをしながら立ち上がる。
「美味しいわね、このお茶。お茶菓子もいいものだし、これ、どうしたの?」
「いえね、この前、事件を解決した依頼人さんが、恩返しだって持ってきてくださいまして」
 そんなやり取りをしながら、ふと、麗香は動作を止める。
「……? どうかしましたか、編集長?」
「ううん、なんでも。ただ、」
 ただ───こんなやり取りを、以前もしたような気がして。
 そんな彼女の言葉に、部下たちは笑う。
「編集長、それきっと既視夢(デジャ・ヴ)ですよ。疲れたときに、以前あったようなことを体験しているような気になるんです」
「そうね、そうかも」
 麗香はそうして、また仕事に戻る。
 ───もど、る───。



■誘(いざな)い■

 ことり。

 わざと音を立てて、客用の湯呑みをテーブルに置いた。
 充分に聞こえている距離にいる編集部の人間は、ちらりともこちらを向かない。先ほどから訪れている───セレスティ・カーニンガムの存在にすら、誰も気づいていないようだった。
 彼がアトラス編集部に訪れたのはまったくの偶然だったのだが───このようなことが、起こっていようとは。
「ちはーっ、今日はガッコ早く終わったからちょっと寄ってみたぜ」
 ステッキをつき、編集部内の接客用ソファに勝手に腰を下ろした思案顔のセレスティの背後から、軽快な足音と声が聞こえてきた。
「ん……あれ? みんなどうしたんだ?」
「こんにちは」
 気配を知らず殺していたのだろうか、セレスティが前を向いたまま声をかけると、梧・北斗(あおぎり・ほくと)は、わっと悲鳴を上げた。
「うわ、全然気づかなかった。ちわ。つか、みんな変だと思わね?」
「思います。だから、湯呑みを置いてみたんです」
「へ?」
 セレスティの言うことがよく呑み込めず、北斗はきょとんとする。
 そんな二人の後ろから更に、妙な顔つきをしながら入ってきた───明らかに街中にいても目立つだろう、という風体の男だった。
「アレ俺なんでココにきてんだろう」
 早く帰ろうって思ってたはずなのにな、とつぶやく。
 そして二人の姿に気がつき、ゼファー・タウィルと名乗った。黒のウィンドブレーカーの、いかにもトレーニングをしていました、という格好である。
「ゼファーって何か運動でもしてんの?」
 初対面にも気軽に呼び捨てる北斗である。ゼファーのほうもそれほど気にしたふうでもなく、うなずく。
「ああ、一応」
 K−1選手、とだけ言った。それだけでも、北斗にとっては充分興奮の対象に入るようで、K−1について熱く語り始めるところを、セレスティが、すっと振り向いた静かな動作で我に返った。
「あっお客様ですか、すみません。接客担当のぼくが席を外してしまっていて。今すぐお茶をお淹れ致しますね」
 急いで入ってきた、こちらもかなりの疲労が見られる、だが笑顔で彼らを出迎えた───麗香の部下のひとりである。
 疲労。
 そう、確かに───三人の誰の目にも、明らかだった。
 この編集部の全員が、疲労しきっている。
 麗香をはじめ、三下まで目の下にくまをつくり、パソコンを打つ手や、ペンを走らせる手が震えている。それでも───仕事を、やめない。
「入ってくる途中で聞こえたんだけど、何故ゆのみ?」
 セレスティが置いた湯呑みをもち、お茶を淹れるために部下が下がったのをみはからい、ゼファーがたずねる。
「こちらに訪れる時にはいつも誰かが反応してくれます。それがなく、接客用の湯呑みだけがこちらに置かれていました。それも、まったく埃をかぶっていなく、底のほうにはお茶が少し残っていましたし、それならばそう遠くない過去に誰かが訪れ、接客を受けたのだろう、それならば湯呑みを鳴らせばそれなりの反応はかえってくるだろう───そう考えたのですが、原因はもっと深いところにあるようですね」
 セレスティがそう説明したとき、「お待たせしました」と、接客係がお茶を淹れて茶菓子と共に、ひとりソファに座っていたセレスティの目の前に置いた。
「できればこちらのお二人にも、」
「田村様でございましたよね? すみません、そういえば今日というお約束でしたよね。ええと、アトラス編集部の状態を取材したいというカメラマンの。好きなように撮って頂いて構いませんので。他に何かお聞きしたいことはございますか?」
 セレスティが、北斗とゼファーのぶんのお茶をという言葉がまったく聞こえなかったというふうに、彼は笑顔でそんなことを言う。
 ちらり、と北斗とゼファー、セレスティは即座に視線を交わしあい、わざと黙りこくった。
 すると彼はさも「田村様」と話しているように、頷いたり質問を受けたかのように時折身振り手振りで説明をする。
 そして、
「あ、今から撮影でございますか。お世話になります。それでは、ごゆっくりなさっていってください」
 と言うと、自分の席へとせかせかと戻ってゆく。
「セレスティ」
 北斗が息を呑んだ。同じように彼の視線を追ったゼファーも、目を瞠る。
 セレスティの前に置かれたはずの、淹れ立てのお茶。
 それが、「接客」を受ける前の量まで、いつの間にか───減っていた。



「ああ、月刊アトラス! OKOK、知ってるよ」
 そうか、ここが「そう」だったのか、とゼファーは、編集部から出る最中に、今更ながらそんなことを言った。
 どうやら彼は、彼の中に流れる血の赴くままにやってきただけであり、場所がどこであるかは把握していなかったようだ。
 とにかく一度外に出て、「どこからがおかしいのか」入りなおしてみようというセレスティの案に北斗もゼファーも賛成のうえ、こうして外に向かっている。
「雑誌編集部って来んの初めてだけど……皆忙しそうだな。俺図体デカいから邪魔なんないように見学していたいところだけど……にしても皆、働きすぎじゃねェ?」
「皆疲れた顔してたよな。顔色悪いし、なーんかヤバい気がする」
「話しかけても、誰もまともな反応を返してきませんでしたね」
 はじめ入ってきたときには特には気づかなかった───が。
「こっから、だよな」
 北斗が、改めて出てみた夕焼け色にいろづく建物の外観を見上げる。
 ゼファーは何か特におかしいところはないかと辺りを見渡している。トレーニングをしていたのは、ここの近くだ。
 セレスティは心持ちステッキに体重をかけるように身体をかたむけ、しばし瞳をとじて何か感じ取れはしないかと考えているようだった。
「こうしてみると、一見変化はないよな」
 でも、と北斗は考え込むように顎に手を当てる。
「何日前かはわからないけど田村様って人が来たのは確かだとして。
 それ以来、俺達以外に誰も入ろうとしてないみたいだ」
「もうそろそろ退社時刻だから、といっても編集社にはそんな常識は通用しないか」
 ゼファーの言うとおり、こと出版に携わる会社には、ほぼ「退社時間」という規定時刻は存在しないと考えていいだろう。
「では、」
 入ってみましょうか。
 瞳を開いたセレスティが言い、二人が頷くのを見届けてから、ゆっくりとステッキを前へと進めた。



 ふふ───

 青年は、空中を穿ったように三人の姿を映し出す鏡を見つめ、含み笑いをこぼす。

 私の獲物は、「高級品」しか選ばないからね───この三人も、さぞかし、

 ───オイシイ コトダロウ ネ───



「……何か、聞こえませんか」
 セレスティがステッキと足の両方をとめたのは、建物に入ってものの一分もたたないときだった。
「聞こえる。これ───琴? いや、ハープかな」
 北斗も同じく、その音の出所を探すかのようにあちこちに視線を走らせている。
「……先に進むほど、音がよく聞こえる」
 試しに、と二人より先を行っていたゼファーが、なんだろう、と眉をひそめる。
 ゆっくり、ゆっくりと。
 三人は歩みを進め、再び元の碇麗香たちの元へと戻ってきた。
 湯呑みは、そのままだ。
 セレスティはそのまま進み、普段から可愛がっている三下、そして麗香の様子を見た。
 三下の書いている記事は、以前、そう遠くない過去にセレスティが訪れたその時に書いていたものとまったく同じもの。それどころか、原稿が真っ黒になるほど同じ文章を同じ紙になぞるようにして書いている。
 麗香の服装もまた、ファッションに気を遣う彼女にしては、同じものだった。きちんとくくられていたはずの彼女の髪は乱れ、他の部下達同様、目の下にはくまができている。
「こうまでして疲れてるのに、倒れないでいるのも不思議だよな」
 実は本人達は夢を見せられているのかも、と北斗はつぶやく。その推測は案外と近いのかもしれない、とゼファーは思った。
「OK、あんたら、ちょっとくらい今までと違うことしてみなよ! 気分転換になると思うぞ! ちょっと休むとかさ。トレーニングもやり続けるだけじゃかえってためになんないのとおんなじだ」
 半ば以上、無駄とは分かっていても、ゼファーは手近にいたひとりに声をかけてみた。耳元、かなりの声量として鼓膜を叩いたはずなのに、何の反応も示さない。
(疲れたならすぐに気分転換をするなり方法を考えるかなり前向きな性格である、と理解はしているつもりなんですがね)
 セレスティは、麗香を見つめながら思う。
 傍目に見てもこんなに疲れた麗香は初めてだ。
 こんなふうに仕事に打ち込んでいるのは、やはり不自然であるとしか言いようがない。
「なあ」
 北斗が、やや不安そうに二人に声をかけた。
「これって、俺達も何かヤバい感じがするんだけど……気のせいかな」
「やばい?」
 北斗の言うことを鸚鵡返しにしてから、ゼファーは気がついた。
 何故、「田村様」以外の来客が自分たちしかいないのか。
 何故、二度目に入りなおしてから、こうもはっきりとハープの音色が聞こえてきたのか。
「麗香さん達は囮、兼『獲物』。私達は───『選ばれた美味しいデザート』といったところなのでしょうか、ね」
 同じところに考えが行き着いたらしいセレスティが、この事態を引き起こしている「何者か」に向けて皮肉を言ったとき。
 突然のように、編集部内が真っ暗になった。



■夢をたべる■

 ぽろん───……

 編集部の中を、ハープの音がやさしく駆け巡る。
 頭の中が、何故かぼんやりとする。
 そう、まるで───まるで、おいしいホットミルクかチョコレートを適度に飲み、贅沢なほどに最高に感触のよい布団にくるまれ、赤ん坊のときのように無意識に心をてばなし、心地よくねむりにつくときのような。
 あんな、かんじだ。

<そう……私は、たべるんですよ>
 あなたたちの たのしい ゆめを
<そのためには、哀しみを取り出さなくてはいけませんからね……このハープ、よく効くでしょう>
 麻薬のように。
 ハープの音色のうえをすべるように、美しい声が頭の中になんの抵抗もなくながれこんでくる。
<くりかえし、くりかえし……くりかえすことは、最高級の疲労を引き出してくれます。精神的にも、肉体的にも。疲労は───最高のスパイスです>
 くりかえし。
 いつから。

 なぜ じぶんだけが のうりょくをもったの だろ う

 別に、誰が北斗の能力をうらやんだわけでもない。
 そのために家族関係がこじれたわけでもない。
『ああ、この子、きっと立派な退魔師になるだろうね』
 そう言ったのは、誰だっただろう。
 あのときに感じた、あの胸の中を通り過ぎていった虚無感は、なんだったのだろう。
 疎外感?
(そう、だったかもしれない)
 誰も悪くなんてない。
 不自由なんてしていない。
 能力があったって、別にいい。
 能力制限だって、単に苦手ってだけだ。
(でも、
 それが、自分に対しての「ごまかし」だとしたら?)

 かぞくが なかが よかったから だから ごまかしてこれた の だとした ら?

 その言葉が浮かび上がってきたのと、「それ」はほぼ同時だった。
「ざけんな」
 気づけば、声に出していた。
 それは、
 「いつわりの過去」を頭の中に完全に埋め込まれる寸前の。
 意識の奥底に永遠に閉じ込められようとしていた北斗自身の、強い、意志だった。
 ぴぃん、と身体全体から気が集中していくのがわかる。
 それは次第に弓矢のかたちをとり、彼の手元にすっぽりと、あつらえたようにおさまった。

 合図にしたように、今度はくらやみが、
 目を突き刺すようなまぶしさに、転じた。




■忘れていいものは■

 目が、焼かれるようだった。
 北斗とゼファーでさえ目の芯まで突き刺さる感覚を覚えたのだから、強い光に弱いセレスティの瞳は更に負担をうったえてくる。
 めまいを感じ、倒れそうになっても、けれどセレスティはつかんだ青年のハープを離さなかった。
<最高級だけあって、粘りますね───でもそのほうが、食べ甲斐があるというもの>
 青年が、薄ら笑う。
「最高級」
 青年の言葉を口にしてみて、セレスティは笑い出したくなる衝動をなんとかおさえこんだ。
「まるで、蚊ですね」
 辛らつな言葉に、青年の眉間にわずかなしわが寄る。
「ああ、ソレぴったりだ。蚊は余計なものを流し込んで、かわりに血を飲むからな」
 ゼファーが、明らかに人間とは違う美青年を睨みすえたまま、相槌を打つ。
「蚊よりタチが悪ィよ。大方、ニセの過去を『見せて』哀しみを埋め込んでおいて、かわりに浮かんでくる楽しい夢ってのを喰うんだろ?」
 北斗の手の中におさまっている彼自身の気で丹念に練られた矢は、間違いなく青年の喉元を狙っている。
「何故あなたが狙ったのが『この場所』だったのか───それは偶然のようですね」
 ハープから、情報を読んでいたのだ。
 ただ目を閉じ、痛みをこらえていたわけではなかったセレスティに、ゼファーは感慨を覚え、北斗は拍手を送りたい気分だった。
「ええと」
 北斗が、同じ格好のままだったため汗ばんできたてのひらを困ったように見下ろし、ゼファーとセレスティを交互に見る。
「このヒト───『撃っちゃって』いい?」
「いいと思いますよ」
<撃てるものでしたら、ですけどね>
 セレスティと青年の声が、重なった。
 とたん、まぶしさと同じほどの高熱が身体をじりじりとしめつけはじめる。
 このままでは、体内から干上がってしまうだろう、と誰もが本能で感じるほどの高熱。
 額を、こめかみを、次から次へと滝のように汗がすべりおちては服ににじんでゆく。
(あれ)
 意識がそれこそ本当に朦朧としてきたとき、ゼファーは辺りを見渡した。
 セレスティと北斗も、きょとんとしたように互いを見ている。
 自分たち三人をのこして、
 周囲の時が、とまっていた。



「心配ない、時が止まったのはオレの能力のせいだから」
 すぐにゼファーがそう言ったので、北斗は矢を射ることができたのだ。
 何故すべてではなく、セレスティと北斗の時までは止まらなかったのか───青年の力となんらかの共鳴がおこったためかもしれない。
 ともあれ、北斗の矢で喉元を射られた青年は動き出した時と共に断末魔の叫びを上げ、それでもしぶとく攻撃を繰り出そうとした。
 つと、セレスティのステッキがもちあがる。意図をさとったのは、形勢逆転となった、窮地に追い込まれた青年だけ。
<やめてく>
「聞こえません」
 にっこりと微笑んで、セレスティは。
 読み取っていた、青年の致命的な弱点である、ハープの二番目の弦を、ステッキでぷつりと切ったのだった。



 事情を一気に話しては混乱を招くし、今は疲労を取るのが先決だろう、ということでセレスティのちからで編集部全員を眠らせ、三人も接客用ソファで休息をとることにした。
 もう、ハープの音も聞こえてこないし、違和も感じない。
「そういえばさ」
 思い出したように、肩をまわしていた北斗がつぶやいた。
「『田村様』って今、どうなってんのかな。カメラマンて言ってたけど、おかしいとか思わなかったんかな?」
「田村という方は、あの蚊の好物には入らなかったようですよ」
 眉間を疲れたように押し揉んでいたセレスティが、つと瞳を開けて言ったので、北斗とゼファーにもその意味が分かった。
 田村というカメラマンは、運悪く取材に来てしまい、「蚊の青年」の好物に入らなかったため、そのまま殺されてしまったのだ。
「死体───発見されればいいけどな」
 心の底から、ゼファーはそう思った。
 そうだよな、と少ししんみりした北斗の言葉の少しあとに、セレスティはようやく眉間から指を離した。
「蚊のハープから事情を読み取ったところによりますと。
 あの蚊は私達人間がつくりあげた『悪夢』という名前の───そうですね、一種の妖怪のようなもののようです。夢よりも現実、というこの社会が『夢など忘れてしまえ』という意思の塊になり、あのようなものが生まれたようです」
「そっか」
 やるせない気持ちで、北斗はため息をついた。
「忘れていい夢なんか、あるはずないのに」
 どこか遠い目をして言ったゼファーの言葉が、わけもなく哀しく思えた。
 かなえようが、かなうまいが。
 一度持った夢は、忘れてしまって楽なはずがない。
 夢は、生きている限り、自分の心の中で栄養源として常に、共に成長していくに違いないのだから。
「きれいな、夜空ですね」
 電気をおとした窓から見える、東京にしては珍しい星空を、三人は見上げる。
 自分が持っていた夢は、なんだろう。
 今一番かなえたい夢は、なんだろう。
 投げ出したいほどにのぞんだ夢は、なんだっただろう。
 ───生まれ落ちてから、いちばんはじめに焦がれた夢は、なんだっただろう。
 そんな想いをそれぞれに抱えつつ、
 三人は、やがて眠りから目覚める麗香たちのために、どのように説明しようか、と話し合い始めるのだった。



《完》
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
5698/梧・北斗 (あおぎり・ほくと)/男性/17歳/退魔師兼高校生
2137/ゼファー・タウィル (ぜふぁー・たうぃる)/男性/33歳/格闘家
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、ちょっといつもより分かりやすくと心がけて書いてみました。そのためか、文字数がいつもより少なめになっておりますが、もしかしたら分かりやすすぎてつまらなかったかもしれません;もしそうだったら本当に申し訳ないです;
また、今回は「■夢をたべる■」が本当に多少ではありますが、個別となっております。全員分見なくては物語が分からない、というわけではありませんが、お暇なときにでも是非、他の方の個別部分もご覧いただければ、と思いますv この個別部分では「いつわりの過去」ではあっても、心象を害してしまった方もいるかもしれません。そちらも、もしそうでしたら心からお詫びいたします。

■セレスティ・カーニンガム様:いつもご参加、有り難うございますv 今回書きたかったことのひとつである、「繰り返す異様なシーン」を書き込めなかったのが残念ですが、その点を突いてきてくださったので少しでも書くことができ、とても感謝しております。結果は最初から「罠」としてよばれた感じだったのですが、セレスティさんの苦手な「強い光と高熱」が今後のセレスティさんに影響しないかどうかがとても心配です。
■梧・北斗様:いつもご参加、有り難うございますv 今回北斗さんを書いていて一番爽快だったのは、やはり矢を使うシーンでした。もっと細かく言えば、矢が出来上がる工程(数行ですが)ですね、書いていて「ああ、わたしってこんなシーンを書くのも好きだったんだ」と再認識致しました。矢の練り方、使い方など違ったことがありましたら、是非また教えてくださいね。今後の参考に致します。
■ゼファー・タウィル様:初のご参加、有り難うございますv 設定を読ませて頂いているときに、先天性白皮症、と出てきたので瞳の色とあわせて咄嗟に「アルビノ体質みたいなものなのかな」と思ったのですが、医者の友人に聞いてみたところ、全然違うそうで、もう少しで間違ったものを書くところでした;やはり普段から色々な知識を蓄えておかねば、と思った次第です。時を止める、という能力が、どこでどんなふうに使うか山場までずっと考えていたのですが、ここは素直に山場で使わせていただこう、ということでこんな感じになりました。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回はその全てを入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。忘れてしまった夢、けれど確かに心の中では残っているだろう、と思いながら、このノベルを書いていました。夢は本当に栄養源なんだよなあ、なんてしみじみ思いつつ。お三方の「今ある夢」や「かつて持っていた夢」も知りたいな、と思いました。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/11/07 Makito Touko