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<五行霊獣競覇大占儀運動会・運動会ノベル>


地獄の大局サッカー

〜 現実はときに想像を超える 〜

 ちょっと変わったサッカーをやる。
 その一言に誘われてやってきた数百人の参加者たちのほとんどが、自らの決定を後悔していた。

『大局サッカーで使用されるグラウンドの広さは1000ヤード×500ヤード。
 これは通常のサッカーグラウンドの四十倍から百倍に相当します』

 見渡す限りの、だだっ広いグラウンド。
 その遙か彼方に、通常の十倍近い幅のあるゴールのようなものが、微かに見えている。
(これのどこが「ちょっと変わったサッカー」だよ)
 全員が心の中でそうツッコんだが、とてもそれを口に出して言える空気ではなかった。

『出場できる選手は各チーム百十人。うちゴールキーパーが十名となります。
 最大ベンチ入りメンバーは百五十人、最大交代可能人数は二十五人までです』

 グラウンドは「四十倍から百倍」もあるというのに、出場できる選手数は通常のサッカーの十倍に過ぎない。
 ということは、当然一人一人がカバーしなければならない範囲は広くなる。
(これは、大変なことになってきた)
 どんどん話が大きくなることに焦りを覚えつつあった一同に、次の言葉がとどめを刺した。

『当然時間の方も九十分では短すぎますので、九時間とさせていただきます。
 つまり、前後半四時間半ずつ。ハーフタイムは一時間とします。
 時間内に試合が決着しない場合、前後半それぞれ最大一時間半ずつ、ゴールデンゴール方式の延長戦を行います』

 延長戦までフル出場となると、最大十二時間にもわたってピッチに立ち続けなければならないらしい。
 一体、どれだけのスタミナがあれば、そんなマネができるというのだろう。
 想像を遙かに超えた事態に、もはや怒る気力もツッコむ気力も失せ、参加者たちはただただ呆然と立ちつくすより他なかった。

 そんな一同の様子にも構わず、案内役の男は淡々と自分の仕事を進めていく。

『また、選手にはそれぞれ発信機つきのヘッドセットが支給されます。
 出場している全選手にはそれを身につけていただき、両チームの監督には、メインスタンド脇の監督室からヘッドセットを通じてリアルタイムで指示を出していただきます。
 監督室のモニターには上空カメラからの映像が映し出される仕組みになっていますので、そちらも合わせてご利用下さい』

 どうやら、監督になれば、少なくともこのグラウンドを嫌というほど走り回らされることだけはなくなりそうだ。
 とはいえ、監督ばかり二人も三人もいても仕方がないし、なにより監督は試合の結果に対して選手よりはるかに大きな責任を負うことになる。

(はたして、監督をやるべきか、やらざるべきか?)

『その他のルールは通常のサッカーとおおむね変わりありません。
 各試合ごとに、九時間以内での勝利チームには勝ち点3、延長戦での勝利チームには勝ち点2、引き分けの場合両チームに勝ち点1を与え、全十試合が終了した時点での勝ち点、及び得失点差によって順位を決定いたします。
 また、全試合を通じての得点王、最多アシスト、及びMVPとなった選手には素晴らしい賞品が用意されています』

 全十試合ということは、総当たりで各チーム四試合をこなすことになるらしい。
 このおそろしい競技に四回も出場させられるのかと思うと気が遠くなってもくるが、これだけの苦難の果てにある「素晴らしい賞品」というのも気になるといえば気になる。

『それでは各チーム作戦会議を開始して下さい。第一試合の開始は一時間後です』

(さて、どうしたものか?)

 そんなことを考えながら、参加者達はそれぞれのチームの控え室へと歩き出した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 強敵出現(玄武組・第1日目) 〜

「私が監督をやるわ! 異論はないわね!?」
 一同が控え室に戻るやいなや、鍵屋智子はきっぱりとそう宣言した。

 もちろん、彼女が監督をやりたがるであろうことは誰にとっても十二分に想定の範囲内であったし、好きこのんで責任の重い監督をやりたがるような奇特な人物も他にはいなかったので、誰からも異論など出ようはずもない。

 一同が黙っていると、それを「黙認」と見なした智子は、早速監督として最初の指示を出した。
「この対戦表を見る限り、うちのチームは今日は休みのようね。
 これを活かさない手はないわ。さっそく他チームの偵察に行くわよ」

 そう。
 五チームで対戦する都合上、毎日どうしても一チームが余る。
 そのため、毎日一チーム試合のないチームが出るのだが、玄武組はその「試合のない日」が今日だったのである。
 最初に休日が来るのは、途中でのスタミナ回復を図れない関係上不利にも思えるが、先に相手チームの偵察ができれば、その不利をある程度は挽回できるだろう。

 というわけで、玄武組は二手に分かれての偵察を観光することとなったのである。





 葛生摩耶(くずう・まや)と田中裕介(たなか・ゆうすけ)の所属するA班が偵察することになったのは、青龍組と朱雀組の試合であった。

 開始早々、朱雀組は細かいパスを回そうとするも、あっという間に青龍組のフォワードにカットされる。
「今の選手、なかなかいい動きしてますね」
 裕介の言葉に、摩耶は軽く苦笑した。
「んー……でも、ちょっと飛ばしすぎなんじゃない?」
 二人が見つめる中で、ボールを奪った選手は華麗なドリブルで次々と相手選手を抜いていく。
「あんなことしてたら、前半どころか一時間ももたないんじゃないかなー」
 彼女の言う通り、この長丁場の試合で、最初から全力で走り、あまつさえ個人技に頼った攻撃などしていたら、スタミナがどれだけあっても足りない。足りなくなるはずだ。
 けれども、どうもそうではないらしい。
「そうでもなさそうですよ。よく見てみて下さい」
 裕介の言葉に、摩耶はもう一度フィールドの方を見て、不思議そうに呟いた。
「あら? よく見ると、なんだか光ってる?」
「気、ですね」
 切り込んでいく男が纏っているのは、金色の気。
 その気が、男がシュートを放ったとたんに、今度はボールに乗り移る。
 金色の龍と化したボールは、いともやすやすとゴールネットに突き刺さった。
「今の、止められる?」
 摩耶の問いに、裕介は正直にこう答えた。
「正直、難しそうですね」

 ボールが戻され、再び朱雀組のキックオフで試合が再開される。
 先ほどの選手を警戒してか、朱雀組は今度は大きく横に展開したものの、今度はパスミスであっさりとボールを奪われてしまう。
 それに対して、青龍組の方は一人に選手を中心として着実にパスをつなぎ、あっという間に二点目を奪う。
「攻撃の中心になっていたあの選手、彼も要注意ですね」
「そうねー」
 その後は、もう、一方的だった。

 完全にパス中心の攻め方が破綻をきたした朱雀組と、思い通りの攻撃を続ける青龍組。
 前半だけで13-0というワンサイドゲームになったのをみて、二人はついに席を立った。
「これ以上見る必要はなさそうね。
 だいたいの実力はわかったし、秘密兵器とかいてもこんなんじゃどうせ使わないでしょ」
「そうですね。俺もそう思います」





 摩耶たちが戻ったときには、すでにもう一試合を偵察に行ったはずのB班も戻ってきていた。

「どうだった?」
 摩耶が尋ねてみると、真柴尚道(ましば・なおみち)は呆れたように首を横に振る。
「まず黄龍組だが、あれはどうしようもねぇな。
 監督の指示もまずいみたいだし、選手はグダグダだし、マスコットはへばってるし。
 強いて言うなら、キーパーに一人多少マシなのがいたくらいだ」

 どうやら、朱雀組と同程度、あるいはそれ以下とみていいらしい。
 それならば、特に脅威にはならないだろう。

 しかし、話が白虎組に及ぶと、尚道の表情が急に真剣なものになった。
「逆に、白虎組はなかなか手強い感じだな。
 ディフェンスライン、中盤、前線と、全ての場所に鍵となる選手が揃ってる。
 特に、ディフェンスはパスをほとんど通してなかったみたいだ」

 そこへ、別行動を取っていた監督の智子が戻ってくる。
「私は両方の試合を映像で見てたけど、確かに青龍組と白虎組は脅威になり得るわね。
 それでも、私の見た限りでは、チーム力ではうちが一番優れていると思うわ」
 彼女ははっきりとそう言いきると、最後に一言こう言った。
「この種目、勝つわよ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 中間発表・第1日目終了時 〜

   試合数 勝 負 勝ち点  得点  失点 得失点差
青龍   1 1 0   3  32   0  +32
朱雀   1 0 1   0   0  32  −32
黄龍   1 0 1   0   0  28  −28
白虎   1 1 0   3  28   0  +28
玄武   0 0 0   0   0   0   ±0

得点王ランキング

雪ノ下 正風 12
篠森 十兵衛 12
道南 大剛   9

アシスト王ランキング

陸  誠司   9
道南 大剛   4

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 勝者のみが美しい(玄武組・第2日目) 〜

 玄武組の最初の対戦相手は、先日青龍組に一方的な展開で敗れた朱雀組であった。

「今度こそ、『ビューティフル・フットボール』の神髄を見せますよ!
 そして、SHIZUKU監督に美しい勝利を捧げましょう!」
 キャプテンの深水玲人(ふかみ・れいと)を中心として、相変わらずわけのわからない気勢を上げる朱雀組。
 その気合いがうまい方向に出たのか、序盤は朱雀組がたびたびいい形を作った。

 もちろん、摩耶が当人の希望もあってベンチスタートとなり、尚道が様子見もかねて力を温存していたせいもあったが、うまい具合に攻撃できていることが朱雀組の選手たちにさらなる自信を与え、その勢いのままに彼らはたびたび玄武組のゴールを脅かした。

 それでも、彼らのシュートがネットを揺らすことは、ついになかった。

 ゴールに近づこうとするものには、高速移動による飛び出しで。
 そして、遠くから無理矢理狙ってくるものには、これまた高速移動によるキャッチングで。

 玄武組のゴールを守る裕介が、そのことごとくを防ぎ止めたのである。

 そうこうしているうちに朱雀組のフォワードは早々にスタミナ切れを起こし、今度は玄武組の時間帯となった。
 最初のうちは朱雀組のディフェンスも頑張っていたものの、こちらも次第にスタミナが切れ、玄武組は前半の終盤一時間半の間に立て続けに七得点を決めた。

 後半は摩耶も加わり、尚道もやや本気を出したためにワンサイドゲームとなり、試合が終わったときには、なんと26-0という大差がついていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 中間発表・第2日目終了時 〜

   試合数 勝 負 勝ち点  得点  失点 得失点差
青龍   2 2 0   6  72   0  +72
朱雀   2 0 2   0   0  58  −58
黄龍   2 0 2   0   0  68  −68
白虎   1 1 0   3  28   0  +28
玄武   1 1 0   3  26   0  +26

得点王ランキング

雪ノ下 正風 28
道南 大剛  20
篠森 十兵衛 12
蟹江 正登   8
真柴 尚道   7

アシスト王ランキング

道南 大剛  12
真柴 尚道  10
陸  誠司   9

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 手ぶらは強いか?(玄武組・第3日目) 〜

「何だ?」
 対戦相手の様子を見て、尚道は首をかしげた。

 今日対戦するのは、ここまで二連敗、しかもいずれも大差で敗れている黄龍組である。
 二試合続けて一方的にやられていれば、さすがにやる気が失せてきていても不思議はない。

 ところが、黄龍組の面々は、なぜか今日に限ってものすごくやる気だったのである。
 選手たちは瞳をギラギラと輝かせ、てらやぎの着ぐるみはいつも以上に激しく旗を振り回している。
 その様子に、玄武組の選手たちの間に動揺が走った。

 それを静めたのは、監督の智子の一言だった。
『落ち着いて。相手は単にヤケを起こしているだけよ』
 なるほど、言われてみればそんな気がしないこともない。
『いつも通りの試合をすれば、苦戦するような相手じゃないわ』
 
 その一言で、選手たちがいつもの落ち着きを取り戻す。

 だが、今回に関しては、「いつも通りの試合」をしたことが裏目に出た。

 序盤、玄武組が様子をうかがっている間に、黄龍組が何度か攻めの形を作る。
 すると、彼らはそれを実力と勘違いして、本当に自信を取り戻してしまったのである。
 勢いに乗って攻めてくる黄龍組の面々に対して、玄武組は予想していた以上の苦戦を強いられる展開となった。

 とはいえ、黄龍組は黄龍組である。
 ゴール前までは攻め込まれるものの、尚道が、裕介が、しっかりと攻撃を食い止め、相手に得点を許さない。
 そうこうしているうちに、「やっぱダメかも」という空気が敵陣に漂い始め、黄龍組は次第にいつも通りの黄龍組へと戻っていった。

 こうなってしまえば、あとはもうこっちのものである。
 得失点差のことも考えて、前回より少し早めに反攻に転じたおかげで、前半終了の時点で11-0。

 さらに後半は完全に意気消沈した相手を圧倒し、前の試合を上回る34-0のスコアで無事に連勝を収めたのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 中間発表・第3日目終了時 〜

   試合数 勝 負 勝ち点  得点  失点 得失点差
青龍   3 2 1   6  75   4  +71
朱雀   2 0 2   0   0  58  −58
黄龍   3 0 3   0   0 102 −102
白虎   2 2 0   6  32   3  +29
玄武   2 2 0   6  60   0  +60

得点王ランキング

雪ノ下 正風 29
道南 大剛  22
蟹江 正登  20
真柴 尚道  16
篠森 十兵衛 15

アシスト王ランキング

真柴 尚道  17
道南 大剛  12
陸  誠司  10

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 最強の盾と最強の矛(玄武組・第4日目) 〜

 最初の二戦で、格下の朱雀組と黄龍組を難なく下した玄武組。

 しかし、大会はここからが本番である。
 無二の得点力を誇る青龍組と、バランスの取れた実力の白虎組。
 この二チームに勝たずして、玄武組の優勝はなかった。

 三戦目の今日、対戦するのは青龍組。
 キーとなるのは、現在得点王ランキングの1位と2位に君臨する雪ノ下正風(ゆきのした・まさかぜ)と、道南大剛(どうなん・だいごう)の二人である。

 とはいえ、他のチームと違い、玄武組には裕介がいる。
 いかに大剛が技術的に高い水準にあり、決定力もあると言っても、その程度で裕介が点を取られることはないだろう。
 そうなると残る問題は正風だが、これは尚道が徹底的にマークすることでどうにかするしかない。
 もちろん尚道のオーバーラップは期待できなくなるが、ディフェンス面だけを見れば、青龍組はそれほど手強いチームではない。
 得点をとる方は、正登率いるフォワード陣に任せておけばいいだろう。

『すでに白虎組は青龍組に勝っている。
 今日の試合はトーナメントの準決勝だと考えて。負けたら、ここでジ・エンドよ』





 試合は、大方の予想通り――いや、大方の予想を遙かに超えて、激しい試合となった。

 正風がボールを持つと尚道が素早くカットし、逆に尚道が上がろうとすると、正風がボールを弾く。
 玄武組のパスは青龍組のミッドフィルダーとディフェンス陣が全力で食い止め、青龍組のいい形での攻撃は全て裕介らゴールキーパー陣が防ぎ止める。

 お互い、この膠着状態を打破することができぬまま、あっという間に時間だけが過ぎた。





 青龍組のフォワードのロングシュートを高速移動で受け止めて、裕介はちらりと時計に目をやった。
 もはや、残り時間はロスタイムしかない。

 尚道は、正風にマークされてうまく機能していない。
 正登には、なかなかパスが通せない。

 そうなれば、この状況を打開するためにすべきことは、一つしかなかった。

 ボールを蹴るようなふりをして、裕介が高速ドリブルに入る。
 そのまま目にもとまらぬ速さでフィールドを駆け抜け、青龍組のゴールネットを揺らす――はずだった。

 突然、足下にいくつものボール大の気弾が飛んでくる。
「!?」
 とっさに迎撃した裕介だったが、彼が気づいたときには、気弾と一緒に本物のボールまで消えていた。
(まさか!?)
 振り向く裕介の目に、大きく足を振りかぶった正風の姿が映る。
(しまった!!)
 裕介はとっさにタックルを敢行したが、それよりも一瞬早く、金色の龍が玄武組のゴールめがけて突き進み――残されたゴールキーパー陣に、これを防ぎ止めるだけの力はなかった。





 後半になっても状況は変わらず、前半終了間際の一点が玄武組に重くのしかかってきていた。
 中盤に摩耶が入り、多少攻撃の選択肢は増えたものの、守備においても大剛は見事な統率力を発揮し、こちらのパスを尽くカットしてきている。
 尚道と正風の力は相変わらず拮抗しており、尚道を攻撃の起点として使うことはできない。

 どうにかしなければ。
 どうにかしなければ。

 そんな焦りが選手たちの心を支配する。
 その焦りが細かいミスを呼び、試合の流れをつかむことすらできないまま、時間だけが刻々と過ぎていった。





 そして、いよいよ後半も残すところあと僅かとなった。

 スコアは未だ0-1。
 このままでいけば、玄武組は、負ける。

 その責任を誰より感じていたのが、裕介であった。

 あのオーバーラップさえなければ。
 あそこで正風にボールを奪われたりしなければ。

 もしこのまま負けても、誰も裕介を責めたりはしないだろう。
 裕介がいたからこそ、一点に抑えられている。
 そのことは、チームの誰もが認めていた。

 けれども、それは自分が自分を許す理由にはならない。

 この一点は、何としても取り返す。

 強い決意を胸に、裕介は再びドリブルでの突撃を敢行した。

 まさかもう一度同じ手を使ってくるとは思わなかったのか、少し遅れて正風がこちらに向かってくる。
 それを確認すると、裕介は素早く横にパスを出した。

 それを見て正風が慌てて反転したが、もう間に合わない。
 パスは見事に右サイドの摩耶に通り、そこからさらに数人を経て、やや前方に上がったまま待機していた尚道のもとへと届いた。





 うまく正風をかわした尚道の前に立ちふさがったのは、敵のもう一人のキープレイヤーである大剛だった。

 普通に考えれば、身体能力で大きく劣る大剛に、尚道を止められるはずがない。
 それなのに、大剛の目には、なにやら挑発的な光が宿っていた。

 策がある。

 尚道は直感的にそのことを悟ったが、だからといって躊躇しているヒマなどない。

 なんとしてでも、正風が追いついてくる前に決めてしまわねば。

 意を決して、尚道は前進を開始した。
 大剛の両脇にいた二人の選手が、プレッシャーをかけてくる。

 尚道がその二人を見事に抜き去った――その時だった。

 ちょうど二人をかわし終えたところを狙って、大剛が強烈なショルダーチャージをぶちかましてきたのである。

 ファールギリギリどころか、退場すら覚悟の上でのプレイだろう。
 だが、仮にファールを取れたとしても、その間に正風が戻ってきてしまえば、得点は困難になる。

 今の体勢からかわしに行っても、とても間に合わない。
 だとすれば――残る対処方法は、一つだった。

 その場で体勢を立て直し、体当たりしてくる大剛を、真っ正面から受け止め、弾き返す。

 その奇策、もしくは力押しが功を奏し、大剛はその場に尻餅をつく。
 さらに、それを見た敵ディフェンス陣の動きが、明らかに鈍った。

 その中を、尚道はさらにドリブルで進み、正風に追いつかれるギリギリ手前で、ゴール右隅に渾身のシュートを放った。
 ボールがキーパーの手をかすめ、そのままネットに吸い込まれる。

 試合終了寸前の同点ゴールに、玄武組の選手たちから一斉に歓声が上がった。





 こうして、試合は今大会初の延長戦にもつれ込んだ、のだが。

 後半中ごろから積極的に選手を交代させていた青龍組と、摩耶の作戦で後半終了直前までいくつもの交代枠を温存していた玄武組では、あきらかに選手の動きに差があった。
 加えて、一度は勝利を確信していながら追いつかれた青龍組と、九割九分負けていたはずのところから盛り返した玄武組では、勢いにも大きな差がある。

 延長戦は終始玄武組が押し気味に進め、最後は正登のループシュートで決着がついた。

 かくして、玄武組は大逆転勝利で連勝を三にのばしたのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 中間発表・第4日目終了時 〜

   試合数 勝(延長)負 勝ち点  得点  失点 得失点差
青龍   4 2    2   6  76   6  +70
朱雀   3 0    3   0   0  85  −85
黄龍   3 0    3   0   0 102 −102
白虎   3 3    0   9  59   3  +56
玄武   3 3(1) 0   8  62   1  +61

得点王ランキング

雪ノ下 正風 30
篠森 十兵衛 27
道南 大剛  22
蟹江 正登  21
真柴 尚道  17

アシスト王ランキング

真柴 尚道  17
陸  誠司  14
道南 大剛  12

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 優勝の行方(玄武組・第5日目) 〜

 長かったこの「大局サッカー」も、ついに最終日を迎えた。

 玄武組は、ここまで三試合を消化して三戦全勝、うち延長戦での勝利が一試合あるため勝ち点八で、現在第二位。
 そして、今日の対戦相手である白虎組は、ここまでの三試合を全て九時間以内に勝利して勝ち点九と現時点で首位に立っている。

 この試合に勝ったものが、この競技を制する。
 まさに最終日にふさわしい「事実上の決勝戦」が、まもなく始まろうとしていた。

 白虎組は、青龍組ほどの攻撃力はないものの、バランスのとれたチームである。
 フォワードには得点力の高い篠森十兵衛(しのもり・じゅうべえ)、中盤には運動量の豊富な陸誠司(くが・せいじ)、そしてディフェンスには状況判断に優れる崎咲里美(さきざき・さとみ)と、キーとなるプレイヤーも各ポジションにおり、なかなか一筋縄ではいきそうにない。

 それでも、裕介の守備力であれば、よほどのことがない限り点を取られることはないだろう。
 中盤の誠司を起点として波状攻撃を仕掛けられればさすがに厳しいかもしれないが、それは尚道が誠司につけば問題ないはずだ。

 それよりも、玄武組としては「いかにして得点すべきか」を考えるべきだろう。
 特に、里美率いるディフェンス陣は鉄壁で、突破するのはなかなか難しい。
 ゴールキーパーはさほど強力ではないため、正登はゴール前に待機させておきたいが、その正登にパスが通せるかどうかとなると、これはもうやってみるまでわからない、と言うより他なかった。

 いずれにせよ、この試合は一点を争う勝負になる。
 これまでにない緊張を感じながら、玄武組の選手たちは控え室を後にした。





 予想された通り、前半はお互いの守備力の高さが目立つ展開となった。

 尚道は敵のキーマンの一人である誠司をしっかりと抑えて攻撃の起点を潰したが、攻撃に参加しようとすると今度はその誠司に阻まれる展開が続き、お互い中盤に攻撃の起点を作れない。
 そうなると、玄武組はどうしてもロングパスでどうにか前線にボールを送ろうという攻め方になってしまう。
 けれども、それでは完全に相手の思うつぼである。
 里美率いるディフェンス陣によってパスは次々とカットされ、ボールが最前線まで通ることはほとんどなかった。

 一方、白虎組の攻撃陣は再三いい形を作り、玄武組のゴール前に迫った。
 しかし、裕介率いるゴールキーパー陣がその全てを防ぎ止め、白虎組にも得点を許さない。

 こうして、試合前半はお互いに無得点のまま終了した。





 後半になっても、状況はあまり変わらなかった。

 右サイドに摩耶が入り、また、スタミナ温存のために控えていたドリブル突破を一部解禁したものの、相変わらずパスは全てディフェンスラインでカットされ、ドリブルも途中で阻まれて、チャンスらしいチャンスを作ることすらできない。

 その一方で、白虎組は相変わらず早いパス回しから形を作り、たびたび玄武組のゴール一歩手前まで迫ってきている。
 裕介らの奮闘でどうにか失点だけは免れていたが、さすがにこうもたびたび攻め込まれていては、さすがの裕介にも少しずつではあるが疲労の色が見え始めていた。

 このままであれば、先に点を取られるか、それとも引き分けのまま終わるか。
 いずれにしても、玄武組が頂点に立つことはできない。

 なんとかしなければ。
 だが、どうやって?

 その問の答えは、見つからぬまま。
 試合は、いよいよ後半のロスタイムに突入した。





 白虎組の今日何十本目、いや、百何十本めかのシュートが、裕介の手の中に収まる。

 行くべきか。行かざるべきか。
 そのボールを見て、裕介は少しだけ悩んだ。

 前の試合のこともあって、この試合の前半では、オーバーラップを仕掛けていない。
 リスクを考えるならば、この場面でも自重した方がいい。それはわかっている。

 とはいえ、このまま守っていて、守り抜けるという保証もなければ、味方が得点できそうな雰囲気もない。

 やるか、やられるか。
 それしか選択肢がないのであれば――やはり、やるより他ないだろう。

 一か八か、裕介はこの大会最後となるであろうドリブルを始めた。

 しかし、その裕介の前に、いち早くこの動きを察知していた誠司が立ちはだかる。
 裕介はすぐに単独突破を諦め、今度は尚道に直接パスを出す。

 そこから今度は尚道がドリブルで攻め上がろうとしたが、予想外にしつこい白虎組のミッドフィルダーにつかまっているうちに、反転してきた誠司に追いつかれてしまった。

 どうにかして前方にパスを出そうにも、あの鉄壁のディフェンス陣を抜けそうなコースはない。
 尚道は仕方なくボールを後方の摩耶に戻し、手薄になっていた右サイドを摩耶がロングパスで一気に抜く。

 ボールは無事に前で待機していたウィングの選手に渡ったが、すぐに、それすらも白虎組の仕掛けた罠であったことが判明した。

 どこにもパスを出せぬまま、コーナー付近に追いつめられていく。
 ことここに至って、彼は一か八かゴール前へと大きなセンタリングを上げた。

 だが、そのボールは無情にも彼の意図したほどには飛ばず、待ちかまえていた白虎組のディフェンダーのところへと落ちていく。

 ダメか。
 玄武組の選手たちの顔に、落胆の表情が浮かんだ、まさにその時。

 目立たぬように前線まで上がっていた裕介が、高速移動でディフェンスの選手の前に割り込み、頭で合わせてボールの向きを変えた。

 ボールはもう一度天高く舞い上がり、ゴール前で待つ正登のところへと向かう。

 そのボールを、正登は全力でヘディングし――。





 長いホイッスルが、特大のスタジアムに響く。

 スコアボードの「玄武組」の表示の下に輝く「1」の文字が、今は何よりも眩しかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 結果発表 〜

順位    試合数 勝(延長)負 勝ち点  得点  失点 得失点差
1  玄武   4 4(1) 0  11  63   1  +62
2  白虎   4 3    1   9  59   4  +55
3  青龍   4 2    2   6  76   6  +70
4  朱雀   4 1    3   3   8  90  −82
5  黄龍   4 0    4   0   5 110 −105

得点王ランキング

雪ノ下 正風 30
篠森 十兵衛 27
道南 大剛  22
蟹江 正登  22
真柴 尚道  17
陸  誠司  16
  (中略)
田中 裕介   4

アシスト王ランキング

真柴 尚道  17
陸  誠司  14
道南 大剛  12
  (中略)
田中 裕介   1
蟹江 正登   1

MVP
田中 裕介
(総失点を1点に抑えたこと及び攻撃面での貢献を評価)

ベストイレブン

GK 田中 裕介 (玄武)
DF 崎咲 里美 (白虎)
DF 真柴 尚道 (玄武)
DF ・・・・・・(玄武)
MF 陸  誠司 (白虎)
MF 道南 大剛 (青龍)
MF ・・・・・・(青龍)
MF ・・・・・・(玄武)
FW 雪ノ下 正風(青龍)
FW 篠森 十兵衛(白虎)
FW 蟹江 正登 (玄武)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 おまけ 〜

 こうして、五日間に渡る「大局サッカー」は終了した。
 無事に結果発表をかねた表彰式も終わり、選手たちは元の陸上競技場に戻るべく、ここへ来たときに使ったバスターミナルへと向かった。

 と、その時。
『選手の皆様、お疲れ様でした』
 最初にここに来たときに聞いたのと同じ、案内人の声が響く。

 おそらく、帰りのバスの案内だろう。
 参加した人間のほぼ全員がそう思ったが――残念ながら、その予想は見事に裏切られた。

『続きまして、ビッグアリーナに移動しての大局バスケットボールが行われます。
 参加希望の方は、バスターミナルの東側に集合して下さい』





 この「大局バスケットボール」とやらが、人数が集まらずに中止になったことは言うまでもない。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組 / 順位】

「運動量はピカイチ! 中盤の覇者」
 5096 / 陸・誠司 / 男性 / 18 / 学生兼道士 / 白 / 2位

「終わりよければ全てよし!? 終盤の策士」
 1979 / 葛生・摩耶 / 女性 / 20 / 泡姫 / 黒 / 1位

「攻めも守りも任せとけ! 攻守の要」
 2158 / 真柴・尚道 / 男性 / 21 / フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神) / 黒 / 1位

「的確な指示でピンチをしのげ! ディフェンスラインの統率者」
 2836 / 崎咲・里美 / 女性 / 19 / 敏腕新聞記者 / 白 / 2位

「疾風怒濤で突き進め! 孤高のエースストライカー」
 0391 / 雪ノ下・正風 / 男性 / 22 / オカルト作家 / 青 / 3位

「守り抜く、だがそれだけじゃない! 攻撃参加も得意な高速の守護神」
 1098 / 田中・裕介 / 男性 / 18 / 孤児院のお手伝い兼何でも屋 / 黒 / 1位

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■          獲得点数           ■
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青組:10 / 赤組:0 / 黄組:0 / 白組:20 / 黒組:30

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度はご参加下さいましてありがとうございました。

 と、いうわけで、だいたい参加して下さった人数に比例した結果となりました。
 個人的には監督をやろうとする人が一人もいなかったのが驚きだったのですが……。

・このノベルの構成について
 今回のノベルは、十二のパートで構成されています。
 試合部分については各組で違ったものとなっておりますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(真柴尚道様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 チャンスでオーバーラップもするということでしたので、そのつもりで計算していたところ、ディフェンスでありながらいつの間にかアシスト王になってしまいましたが、これでよろしかったでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。