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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■秋刀魚は学芸会の味■

 秋晴れの、いい日和である。
 草間武彦とその仲間達は、武彦の生涯の宿敵である生野英治郎(しょうの・えいじろう)に誘われて、彼の船である豪華な屋根つきのそれに乗り、秋刀魚つりを楽しんでいた。
 武彦が彼の誘いに乗ったのは、零の一言で決定した。
『兄さん、暫く秋刀魚料理が食べられるよう、たくさんつってきてくださいね!』
 そんな罪のない笑顔の零を思い出す、武彦である。
 やがて、沖まで出たのが幸いだったのか、けっこうな量の、おいしそうな秋刀魚がつれ、一同で味をみようということになった。
 お茶も出て、つけあわせも出て。
 皆で舌鼓を打ち。
 英治郎が誘ったときは、どうなることかと思ったが───
「てぇへんだてぇへんだ!」
 ふと、そんな奇妙な声がしたのはその時である。
「親分! 遊び人の紋(もん)さんが人斬りしたってよ!」
「なんだと? 遊び人のモンなら私も知っているぞ。だがヤツはそんなことをする男だったか?」
 見ると、船の中にいつの間にか設置されたひとつの大きな舞台に、江戸時代風の着物を着た男と、どう見てもロミオとジュリエット時代の格好をした男が、劇をしているらしい。
 それも、恐ろしいほどに真剣である。二人の顔をよくよく見れば、英治郎の付き添いと言っていた、彼の家の目付け役だったはずだが───。
「これは余興か?」
 英治郎に尋ねるが、彼はふふっと笑った。いやな予感が、背筋を走りぬける。
「料理に何かいれたのか!?」
「いえ。そんなお決まりのことはしませんよ」
「……じゃあ何が原因だ」
 激昂寸前の武彦を目の前に、にっこりと、英治郎は一点を指差す。その先には、大根おろしがあった。
「この大根おろし。実は『大根役者』といって、私の新発明のものなんです♪これを食べた人達は皆、何がなんでも自分の好きな劇をしたくてたまらなくなり、劇を始めてしまうというものなんです。因みに劇をしているときの記憶はある人はありますが、演じているときにはなりきっているので恥も何も考えません♪」
 しまった。
 もう皆、秋刀魚やつけあわせに大根おろし、否、『大根役者』をつけて食べてしまっている!
「英治郎、やっぱり貴様は───!」
 そして。
 そんな武彦も、仲間達と共に───それぞれの、劇をやり始めた。



■船上学芸会───序章■

「ねえ、悠宇。大根役者って、あんまり演技のうまくない役者さんのことだよね?」
 初瀬・日和(はつせ・ひより)が、ぽややんとした表情で、秋刀魚を食べつつ隣の羽角・悠宇(はすみ・ゆう)に尋ねる。
「いや、この場合は───こんな時も天然なやつだな、日和は」
 思わず苦笑してしまう、悠宇である。だが───いつ、自分達も舞台へあがってしまうか分からない。
 内心は今のうちに、にこにこ顔の英治郎に何かしていってやりたい衝動に駆られている。
「信じられない」
 ぽつりと秋刀魚に染み渡った大根おろし───『大根役者』を見つめる、由良・皐月(ゆら・さつき)。
「見た目全然普通の大根おろしだったわよ!? 新鮮な!」
「そこが生野さんの『発明モノ』の『スバラシイ点』……なんだよな」
 多分、と悠宇はぽそりとつぶやく。
「食べた後に言うなよな……」
 美味しい秋刀魚が食べれる! とばかりに嬉々としてばくばく食べてしまった梧・北斗(あおぎり・ほくと)。ものすごく後悔してはいるものの、隣で「もう慣れた」と言わんばかりにもきゅもきゅと大根おろし、もとい『大根役者』がたっぷりしみこんだ秋刀魚を食べ続けているシュライン・エマへの認識が、ちょっと自分の中で変わった気がしていた。
「味は良いわよね、この大根役者って。でも名前はどうかと思うわ、うん」
「改名が必要でしょうかねえ」
 英治郎も笑顔ながらも、真面目にメモしている。
 その更に隣では、秋の味覚、秋刀魚、と言うことで参加していたはずの海原・みなも(うなばら・─)が、眉根にしわを寄せている。
「大丈夫? みなもさん。でもホント美味しいよね、この秋刀魚!」
 声をかけたのは、確かまだ船が出ていない頃、武彦から話を聞き、「え!? 何!? タダ飯!? 秋刀魚!? 行く行くッ!」と目をきらきらさせつつついてきた、初対面の英治郎にも興味深げに話しこんでいた───相澤・蓮(あいざわ・れん)と名乗っていた青年だ。
 貧乏サラリーマンだからさぁ、と秋刀魚をつりながらあははと笑っていたような───記憶があるが、妙に英治郎と意気投合していたような。
 じっと蓮を見返したみなもは、はぁっと涙目でため息をついた。
「まぁ、こういうこともあるかなぁ、と。……いつ、皆さんのように劇に走るか分かりませんし、せめて、秋刀魚のお刺身をいただいてから、と思いまして」
 心底切実そうに、お刺身に手をのばすみなもだったが、「皆さん?」と蓮が改めて舞台を見ると───みなもと反対側の隣で秋刀魚を食べていた、皐月がそこにいた。衣装もメイクもしっかり変わっている。
 ついでに言えば、仲良くペアで来ていた悠宇と日和の姿も既になかった。
「みんな舞台が好きなんだなー、こんなに秋刀魚、美味しいのに」
「オマエ……生野さんの話、聞いてた?」
 思わず突っ込みを入れてしまう、北斗である。「え? うん、大根役者がどうのって」とこたえる蓮が、何故かとても純真に見えてしまう。
 何か言おうと口を開きかけた北斗は、そこで、自分とは真逆の意思でとうとう立ち上がってしまったみなもの姿にギョッとした。
「ああっお、おさし、み……」
 それが、みなもの最後の言葉。
 彼女が舞台に立ったとき、『大根役者』の効果で魔法少女の姿に変わってしまっていた。
 否、みなもだけではない。
「あ……───」
 カタン、と蓮の手から箸が落ちる。
 そして次の瞬間、彼はピーターパンに変化していた。
「あはははははっ☆」
「お───おい蓮っ……、……!?」
 北斗が立ち上がったとき、彼もまた自分の格好が変わりつつあることに気づいた。
「んー……気分、良くなってきたわ」
 もそりとシュラインが立ち上がり。
 皐月と日和と悠宇が待ち構えているであろう舞台裏へと、残りの全員が姿を消したのであった。



■闇鍋劇■

◆第一幕◆

「う………」
 シュラインは、ようやっと暗闇の底から意識を浮かび上がらせた。
 無理矢理に眠らされたためか、頭が痛い。
「零……どこに行ったんだ」
 海賊シュラインは、売られていた娘、零と見初めあい、攫い出したのはいいのだが仲間の裏切りを受けて今まで眠らされていたのだ。
 だが、愛しの零はどこに───?
「ふふ、目を覚ましたようだね」
 声と共に、ぱっと舞台の一部にスポットライトが当たる。小屋の中、その棚の上に気障っぽく座っているのは、怪盗・北斗だった。
「あ、あんたはまさか、今世間を騒がせている」
「そう、あの有名な」
「そこそこイケているのにどこか抜けているという、あの怪盗北斗か!」
「そう、そこそこイケているのに───って、そんな噂が流れてんのかっ!」
「だってね、大体怪盗の定番である仮面、つけてないよ。付け忘れたの?」

 しばしの、沈黙が流れる。

「ふ。秋刀魚を頂いていくつもりが間違って娘を攫ってしまったのも運の尽き。素顔を見られたからにはお前もただじゃおかねーからな」
「いや、見られたといっても、仮面をつけていなかったのはそっちのほう……」
 というか、秋刀魚と娘を間違えるのも相当のものだと思うが。
「海賊シュライン! ここがお前の墓場だ!」
「くっ……!」
 ばさっと黒いマントを翻す、北斗。かたや、眠り薬がまだ効いていて、シュラインは身体の自由がうまくいかない。立ち上がるのもやっとだ。
 そんな時。
「あはははははっ☆」
 底抜けに明るい声が、北斗の更に上のほうから落ちてきた。
「俺はピーターパン! 子供たちを悪い海賊から守るんだッ!」
 ひゅう、と空を飛ぶ蓮。
 そして───北斗とシュラインの目の前で、舞台の袖まで大きくダイブし───海に落ちた。
「と、飛べないピーターパン……」
「ちょっと哀しいぞ、見てて」
 シュラインと北斗が言う中、こんなことは慣れっことでもいう風に海からバシャッと上がってくる、ピーターパンの服が妙に似合っている蓮。
「さあそこの子、もうコワくないよ。俺が護ってあげるからねっ☆」
「いや、私は子供ではないんだけど───ピーターパンは一体幾つなんだ?」
 シュラインの素朴な疑問に、
「29歳☆」
 と、きらりと白い歯を見せてこたえる、ピーターパン・蓮。
「ああ、それなら私のほうが子供に見えても仕方ない……のか」
「いや俺のがおもっきし子供だと思うっつか、海賊から護るって、シュラインは海賊なんだぞ?」
「え? でも。あれ? そういえば、俺が護るべき子がこっちにきたと思ったから、飛んできたんだけど」
「どんな子?」
「ええっと、確かでっかい蛙とかモグラに追いかけられてた、お姫様みたいな女の子」
 今のシュラインは、思いっきり海賊姿、しかも男。
「どこをどう間違えたらそうなるんだ、この貧乏ガキ男が!」
 がしゃーんと窓を破って乱入してきたのは、話を聞いていたらしい、付馬屋の姉御姿に成り果てた皐月だった。ひえ、と蓮がずぶぬれ姿でしり込みする。
「零って子を指名したはいいけど、途中で逃げ出して吉原の看板に泥塗った挙句、揚代も払わず、行きずりのお姫様に肩入れするってのはどんな了見なんだい!」
 その言葉に反応したのは、シュラインである。
 零。
 今、零といったか?
「つ、付馬屋。その零という子は今、吉原というところにいるのか?」
「ああ、不審そうな男に連れられて、吉原のとある遊郭の一つに売られてきたんだけど、これがまたべっぴんなのに『自分には心に決めた人がいる』って、まだ一人も客をまともにとってないんだよ。でも指名したからにはそれなりの楊代は払ってもらわないとねえ」
「だっ、だからそれはちょっと声かけただけで、話してみたかっただけでっつか俺、本命の子、いるし……」
「あーやだやだ、これだからオトナって」
 ドスの効いた皐月にたじろぐ蓮を見て、北斗がため息をつく。どうやら、自分と同じレベルくらいの間抜け男がいたと知り、内心ホッとしている。
「あ。オトナでも、心は子供。俺、子供の味方のピーターパンだから♪」
「子供の味方が遊郭なんぞで客取るんじゃない! というか不審な男って思いっきり北斗のことなんじゃないのか……」
 突っ込んでおいて、こうしちゃいられない、とシュラインはようやく力が戻ってきた身体を動かし、走り出す。
「いや、俺はどこか休めるとこはないかなーって思って連れてったら行きがかり上……あっ、シュラインどこへ行く!」
 北斗が床に飛び降りてくるが、構わない。
「零のいる遊郭に! っと、付馬屋さん、謝礼は出すからその子のところへ案内してくれ!」
「あんたも踏み倒したりしないだろうねえ」
「しません!」
 海賊のプライドが赦さなかったのか、その発言にちょっとむっとして言ってから、早く早く、と急かしてシュラインと皐月は退場。ついでに皐月に引きずられ、蓮も退場した。
「ふう、仕方ない。確かにあんな純情そうな子、『そーいうとこ』って知らなかったから預けたつもりになってたけど、やけに金渡してくるなと思ったら俺が売ったことになってたなんて、まともで通ってる俺の名が廃る。俺も行くか」
 どこがまともなんだ、とどこからか野次が飛んできたが、今の北斗には聞こえない。北斗もまた、退場した。




◆第二幕◆

 はぁ、はぁ、───

 長い裾をたくしあげ、必死に走って逃げてきたのは、美しいドレスを来たお姫様。
 追いかけてくるのは、蛙とモグラの着ぐるみを着た、英治郎の家の部下の者と───武彦である。
「も、もう走れません───誰か、助けてください!」
 なんて言いつつも、「結婚してください」というモグラを蹴飛ばしている。
 そんな蛙とモグラに、ぴしゃっと水がかかり、縄のようになってたちまち縛ってしまった。こつん、とブーツがお姫様の視界に入る。
「大丈夫ですか? お姫様。あ、あたしは魔法少女のみなもと申します」
 魔法のステッキ持ち、魔法少女というわりには思ったよりも地味な魔法の衣装を着たみなもが立っていた。右手が濡れているのは、海に手を浸し、能力で水を操ったからなのだろう。
「あ、ありがとうございます。私はおやゆび姫の日和と申します」
 日和のほうも、頭を下げる。
 ん、とみなもがステッキについた、透視鏡にもなっているクリスタルの飾りを見て、日和の背中を押して木陰へ隠れる。
「ど、どうしたんですか?」
「しっ。誰かきます」
 みなもの言うとおり。
 草を踏みしめながら、困ったような顔の少年が歩いてきた。
「可哀想だからと逃がしたっていっても……よくよく考えたら、お城育ちのお姫様をたった一人で森の中に放り出すってどうなんだ。どうせなら姫を連れて一緒に逃げちゃえばよかったんだよな……ま、そのお姫様、俺の好みじゃなかったけどさ」
 そして、ふと歩みを止めて、水で縛られている武彦ガエルとモグラを見る。
「……お前ら、何やってんの? 誰かに悪戯されてるのか?」
「いや、俺もなにやら非常に理不尽な気持ちがして仕方がないんだが、理由が自分でも分からんのだ」
 眉間にしわを寄せ、こたえる武彦ガエル。
「悪戯をしたわけではありません。その人(?)たちは、お姫様に結婚を無理強いしていたのでこらしめていたのです」
 誤解をとくためと、どうやら少年が悪者ではなさそうだと判断したみなもが出てくる。その後ろからそろそろと、日和も顔を出した。少年を見たとたん、言い知れぬときめきを心臓に覚えたのは言うまでもない。
「はあ!? お姫様って……まさか、ウチのところの白雪姫じゃないだろうな」
「白雪姫って……あなたはどちら様ですか?」
 魔法少女の問いに、「俺は白雪姫の狩人、悠宇」とこたえる少年。
「あ、あの……みなもさんに助けてもらったのは、私です。おやゆび姫の、日和といいます」
 そわそわと、頬を赤らめつつ自己紹介をする、日和。そんな彼女に、こちらもときめかぬわけがない悠宇であった。
「えっと、こんなとこじゃなんだし、どっかで休んでお茶でも飲まない?」
 早速行動に出る、純情なわりに掴むところは掴んでいる悠宇。
 そんなやり取りを見ていたみなも、
「狩人さん。あなたは白雪姫さんを探していたのではないのですか?」
 と、突っ込む。
「うっ……た、確かにそうなんだけど、なんとなくあのお姫様なら大丈夫な気がするんだよな」
「と、いうと?」
 そしてまた、ステッキの透視鏡を見る、みなも。そこには、やはり英治郎の部下たちが演じている小人達に連れられ、無表情でもどこか幸せそうな(?)白雪姫に扮した、英治郎の妹───ユッケ・英実(─・ひでみ)の姿がある。
 こちらに近づいてきたかと思うと、悠宇のそばをすうっと通り過ぎ、武彦ガエルのところへ行く。
「武彦さん……。あなたの……本当の役を……思い出してください……」
「ほ、本当の役!? なんのことだ」
 英実が、ふうっと掌においた粉を武彦の顔に吹きかけたかと思うと───武彦は途端にカエルの着ぐるみを脱ぎ捨て、着物姿に鞘を抜いた刀身を持った姿になった。
「ああ、忘れてた。俺は辻斬りのモンさんの仲間、タケさんだった」
「お役目、しっかり……」
 呆然とするほかの面々の中、白雪姫・英実は小人達と退場してゆく。
「ふっ……久々に暴れてやるか」
 きらりと剣が一筋、光りを描く。ぎゃーっというわざとらしいほどの断末魔の声と共に、モグラは倒れた。
 きゃっと日和が青褪め、悠宇が彼女をかばう。
「暴れるならもっと人がいるところじゃないとなあ!」
 そうしてサングラスをかけたまま、タケさんは退場。
「たっ……大変です、辻斬りの現場を見てしまった以上、このままにはしておけません! あたしは追いかけます!」
「えっ……ま、まさか今のタケさんとかいう人、もっと人を殺したりするんですか?」
 こわごわと、だが心配そうに尋ねる日和に、「恐らくは」とうなずく、みなも。
「いきましょう、王子様。私達も、出来るだけのことをしましょう!」
「おう、って、俺狩人なんだけど……」
 そこで、ぽっと二人の間にハートが飛び交う。
「実際は狩人さんでも……私にとっては、王子様、ですから……」
「そ、そっか……じゃ、じゃあ、いこう、か」
 辻斬りの直後だというのに、この二人は何をしておるのか。
 だがにっこりと、魔法少女もステッキを振る。たちまち二人の姿が結婚衣裳に変わった。
「それでは、一件落着したら結婚式ですね」
「えっ……そ、それは」
「あの、せめてまだ、恋人で……」
「秋刀魚死守のためにも、結婚式を挙げていただかないといけないんです。さ、行きましょう!」
 みなもに連れられ、悠宇と日和も退場する。
 ひとつの謎が、そこに残された。

 何故……結婚式を挙げることが、秋刀魚死守につながるのだろう……?




◆第三幕◆

 場面変わり、吉原、遊郭にて。
「どうして! 充分な金は積むと言っているし、これこの通りしっかり金も持っている! なのに何故零を渡さないという!?」
 皐月に案内されたシュラインが、成り行き上北斗と蓮を連れるようにして、遊郭の女将に食い下がっていた。
「とにかくうちは、身請けは受け付けていないんだよ。分かったらさっさとお行き」
 英治郎の部下の中でも、したたかな女将に見えそうな中年女性である。
 ぴしゃりと戸を閉められ、爪を噛んでいるシュラインのそばで、「おかしいな」と皐月が小首を傾げた。
「俺もおかしいと思う」
 同じく、北斗。
「俺もおかしいと思うんだ」
 同じく、蓮。だが、その口にはどこで買ったのか、焼きイカがくわえられていた。
「焼きイカって普通味付けしてあるものだろ? なのにこれ、せっかく少ない金はたいて買ったのに味なんにもねえの。おかしいよな?」
 ふるふると、震える3人。
「「「おかしいのは、お前の頭だっ!!!」」」
 怒鳴りつけておいて、しゅんとする蓮を尻目に、皐月が気持ちを改める。
「昨日までは、あの女将じゃなかったはずなんだよね。私と顔見知りの女将だったんだけど、いつどんな理由で変わったんだか、話がこっちに通ってないよ」
「うん、俺も昨日ここに零って子と来た時は、あんな女将じゃなかったなー」
 北斗も相槌を打つ。
 そこへ、ばたばたと走ってくる、妙な三人組。
 ステッキを持った魔法少女に、一組の結婚衣裳を着たカップル。
「すみません、今こっちに、黒眼鏡をかけた着物の、抜き身の刀を持った男が来ませんでしたか?」
 魔法少女の言葉に、シュラインと皐月、北斗と蓮はそろって、ふるふると横に首を振る。
「おかしいな、抜け道でも通ったのかな」
「そうね、ここまで一本道だったし……」
 そこで、各々自己紹介をし、せっかくだからと「タケさん捕獲」協力を頼んだところ、互いの情報も得て。
「あのさ、さっきから気になってたんだけど」
 悠宇が、ぴたりと蓮がくわえている「もの」を指差す。
「それ、紙じゃないか?」
 えっと気づいた蓮が取り出してみると───確かに、それは折り畳まれたひときれの紙。
「どうりで噛み切れないと思った」
 あははーと笑う蓮が、何故か憎めない。
 開いてみると───どうやら、地図のようで、ひとところにばってんがついている。そして端っこのほうに、
『零というこの人相の娘、宝を開けられる声を持つ一族の末裔。探し出して捕獲せよ』
 と、書かれていた。
「あ、だからその焼きイカ、味がついてなかったんだ。あんた、いわば当たりクジ引いたんだね」
 皐月が納得する。
「宝かあ。怪盗の血が騒ぐぜ♪」
 喜ぶ北斗。
「零が、そんな一族の末裔だったなんて……」
 色々な意味で、驚きを隠せない、シュライン。
「ともかく、その女の子を助けないと、なんですよね?」
 宝よりも零が心配な様子の、日和。
「無茶はしないでくれよ、お姫様」
 そしてそんな日和が心配な、悠宇。
「えっと……この焼きイカが間違って、仲間のところにいくところが売り物として出されちゃってて、俺が買ったってわけ……か。じゃ、ラッキーv というか、女の子助けてあげなくちゃあ」
 本命の女の子にも呆れられちゃうしね。
 と、残りの焼きイカをきれいに食べ終えて、蓮がぺろりと唇を舐める。
「裏で焼きイカ屋と遊郭が繋がってて、前の女将はどっかに流されたか殺されたかしたんだろうね。馴染みの友達ともいえる人間にそんなことされちゃあ、この皐月。黙っちゃいないよ」
 皐月のまなじりが、あがる。
「この分じゃ、ここら辺で消えたってことはあのタケさんてのも関わりあるのかもな」
 悠宇が、遊郭を見上げる。
 どうやら全員、目的は一致したようである。
 ちゃぷ、とみなもが再度、右手を海水にひたす。
 そして、ステッキをくるくるっとまわし、
「それでは、皆さんに水の防護をつけます! ウォーター☆クローゼス!」
 ポーズをとり、ステッキが光ったかと思うと全員の身体の周りを纏うように、水による防護がついていた。よく目を凝らさないと見えないが、そのほうが好都合とも言える。
 そしてその後の情報を集めた上で分かったことは。
 今夜の1時に。
 遊郭の中で「関係人物」、つまり黒幕と零だけが集まり、ちょうど零の一族がうめた場所に当たるという遊郭を掘り起こす予定で。
 どうやら武彦、いやタケさんもその用心棒としてその場にいる、ということだった。



◆終章◆

 時間までは全員、皐月のところで過ごし、腹ごしらえをしたりした。
 既に全員が全員、最初の「目的」が変わり、一緒になっている。
 それぞれに護身用の武器や、戦える者はその準備をした。

 そして、刻は来る。

 真正面から堂々と、シュラインと皐月。
 天井裏からは、忍び込んだ北斗と蓮。
 裏庭に回って、みなもと悠宇、日和。
「なんだなんだ、新郎新婦が遊郭になんの用でい!」
 早速見つかった、派手な衣装をそのまま着ていた悠宇と日和に、裏庭の番をしていた男が近寄ってくる。
 悠宇が、人懐っこそうな顔をして近寄る。
「あっ、すみません。ここ、挙式場じゃ───」
「ねえよ。挙式場はあっちだ」
「です、よね!」
 声と共に、充分に近づいた男に膝蹴りを食らわす。一撃で、男はのびた。
「悠宇、こっち!」
「分かってる、お姫様!」
 騒ぎ出した裏庭を駆け抜ける二人は、遊郭の中へ。茂みに隠れていてしんがりをいくみなもは、群がってきた犬達を「ごめんね。ミラクル☆ウォーター!」と小さくつぶやいて、持ってきていた皮袋の中の水に手を浸し、ステッキを翻して、苦しくない程度に水で縛り上げる。
「峰打ちだ! 大騒ぎするな男らしくもない!」
「零の居所は!?」
 真正面の扉を蹴破った皐月は、群がってくる男達を刀でバシバシと叩いていく。シュラインはその男のひとりをつかまえ、零の居場所を吐かせた。
「皐月さん、こっち!」
「わかった!」
 走っていく間に、悠宇と日和、みなもと合流する。
 場所は、一番奥の間。
「どう? 見える? 蓮」
「うーん、真っ暗の中に蝋燭だけだもんなあ……でもなんとか。ええと、零っていう子らしき女の子は、なんか唄、唄い始めた」
「唄は聞こえてるけど───なんか泣き声まじりで可哀想だな」
「ここ、狭いし早く助けにいっちゃおう、北斗クン☆」
「えっ、でも皆がまだ───って、ちょっと蓮!」
 遊び半分なんだか分からないが、蓮が、狭い天井裏をばりっとつきぬけ、唄で今にもゆっくりと開いた扉のある、ひんやりとした土がむき出しの部屋にすたっとカッコよく───着地失敗した。
「ったく……仕方ねーな。怪盗北斗、参上!」
 続いて、北斗もバサッとマントを翻し、───同じく着地失敗し、蓮の上に転がる。
「……なんだい、こいつらは。あっ……!」
 女将が、昼間にたずねてきたシュラインの仲間だと思い出したときには、残りの面子もその場に辿り着いていた。
「おーっと、乱入は禁止だ。このタケさんが成敗───」
 ゆうらりと現れた用心棒のタケさんだが、
「邪魔だよ」
 能書きをしている間に、ドラマと違って待ってはくれない皐月に問答無用の蹴りを喰らい、隙を見せたところで、みなもの「ミラクル☆ウォーター」で犬達のように縛り上げられた。
「シュラインさん!」
「零!」
 しっかりと、抱き合うシュラインと零。
 その時には仲間達(?)のおかげで、女将たちは縛られたり峰打ちされたり拳や足で気絶させられたり───して、全員戦闘不能に陥っていた。
「ところで、宝ってなんだったんだろ?」
 と、開いた扉の中を目を輝かせて覗いた怪盗北斗は。
 そこに、大量の秋刀魚を見つけたのだった。
「さ……秋刀魚! あの幻の魚と言われている秋刀魚だ!」
「と。では、一件落着ってことで、皆さん、このお二人の結婚の引き出物に、秋刀魚をお一人最低10匹ずつお出しください」
 そういうことだったのか。
 案外ちゃっかりしているみなもに、悠宇と日和は顔を見合わせ、微笑みあう。
「全部で50匹だとしても、その10倍、いや20倍はあるから、山分けしたとしても燻製にでもしないと───」
 考えている皐月は、さっさと引き出物をしてしまい、これはしばらく儲けられそうだ、とにやりとする。
「山分け? そりゃあ怪盗として名が泣くし、俺が全部頂いていくぜ! ふははははは! さらばっ!」
 なにぃ!? と目をむく全員を尻目に、どこから取り出したのか、大きな網で秋刀魚を包んだ北斗がジャンプ───しようとして、重すぎて重力に負け、べちゃっと落ちた。
「あーあ、欲なんか出すから」
 皐月がいう傍らで、蓮は思わぬ宝を手にし、
「俺、貧乏脱出!? サイコー!」
 と、目を紫色に変化させて喜んでいる。
 更にその傍らではシュラインが、
「タケさんて言ったっけ、用心棒、こっちにつかない? なんか使えそうだし」
「なんかって、なんだ」
「なんか……お兄さんみたいな感じがして、安心します、わたしも……」
 零まで、そんなことを言う。
 かくして、タケさんこと武彦は海賊シュラインとその恋人、零と共に船に乗って攫われ連れ行かれ。
 北斗は山分けされた分で、楽しむことにし。
 蓮は早速味見を、と幻の魚、秋刀魚を焼き。
 みなもは魔法少女らしく、「これであたしも、しばらくは普通の生活です。ウォーターマジック☆みなも、次までバイバイです♪」と決めポーズも可愛らしく決め。
 皐月は「罰」としてニセ女将たちを海にドボンと落とし。
 悠宇はしっかり引き出物の秋刀魚を持ってはいたが、片方の手はしっかりとお姫様の手を握り。
 日和のほうも頬を赤らめながら、その手を握り返し、悠宇を見上げるのだった。



■終幕───学芸会の後味は?■

「うわーっ、めっちゃ記憶残ってるし……なんかところどころハズかったけど、楽しかったし、ま、いっか♪」
 効果が切れた後、開口一番は北斗だった。全員、格好は元通りになっている。
「ううっ、俺も残ってる……俺って……俺って……ピーターパン症候群なのかな……」
 ぐすぐすと涙を流しているのは、蓮だ。
「穴があったら入りたい」
 と、ぽつりと一言、こちらも涙が出そうなくらい恥ずかしい思いをしている、みなも。
「私は覚えていませんけれど……生野さんがらみの件でまともな事態になるためしなんかほとんどありませんから……まあ、半分以上何があったかって、あきらめてますけどね……」
 とは、日和。
 同じく記憶がなかった悠宇は、目敏く、英治郎の「してやったりなにこにこ顔」を発見し、愚痴を言っている。
「大体なあ、生野さんは劇に参加したわけ? まさか一人で見てたなんてことはないよな?」
「いや、その人はきっちり参加して『いなかった』わよ」
 とは、皐月である。
 目が、据わっていた。
「……おのれ生野英治郎……ふ、ふふ」
 劇中の役のようにドスの効きまくった声色で、彼女はぺきぱきと指を鳴らす。
「ていうかね三十路男。草間さんはもう常連だろうし好きに玩具にすればいいけど、私にこれは無いんじゃない? ねえ? こっちに火の粉飛ばすなら平和的な私もちょっと襟首締め上げてやりたくなるわぁ。生野さん。私なんだか生野さんを海に落としたいんだけど……ふ、ふふ、ふふふふふ」
「いやだなあ、由良さん。こんなことは日常茶飯事なんですから♪ 私と武彦が揃っちゃえば、もうそれはに・ち・じょ・うv」
 英治郎のその言葉に、ぷちっと皐月のキレた音が聞こえた───気が、した。
「まともな品種改良しなさいよ! この暇人マッド薬剤師が!」
 鉄拳が、きれいに───英治郎が素早く取り出した秋刀魚に決まる。
「暇人マッド薬剤師───すげぇ、ピッタリなアダナだ」
 妙に感心してしまう、悠宇。
 ひとり、この中で一番爽快な顔をしているシュラインが、にじり寄るように瞳をきらめかせている。
「ね、生野さん。いつもどおりビデオとか、撮ってたんでしょう? 舞台ビデオ、ちょっと分けてもらえないかな? あとで零ちゃんと見たいの」
「あ、もちろん♪ いいですよv」
「だっ……駄目だあぁぁぁっ!!」
 武彦の叫びは、今日もむなしく終わりそうで。
 だが、せめてもの収穫は、いつもの受難と違い、ビデオのほかに大量の新鮮秋刀魚もついてきた、ということだろう。
 彼らの次の受難も、すぐに───また、待ち構えているのかもしれない。



《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
5698/梧・北斗 (あおぎり・ほくと)/男性/17歳/退魔師兼高校生
2295/相澤・蓮 (あいざわ・れん)/男性/29歳/しがないサラリーマン
1252/海原・みなも (うなばら・みなも)/女性/13歳/中学生
5696/由良・皐月 (ゆら・さつき)/女性/24歳/家事手伝
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、生野氏による草間武彦受難シリーズ、第17弾です。
今回は、いわば「ストレス解消ノベルで闇鍋的なちゃんぽん劇にしちゃおう」と考え、半ば毀れたサンプルではあったものの、7名様もの参加者さまに恵まれまして、こうして無事に皆様のプレイングにほぼ沿うようなものが出来上がり、個人的にはとても満足していますv 因みに零はこっそりと生野氏が乗せていた、というオチでした。また、今回の書き方はシリアスものと違い、テンポのよいものとなっております。
劇中では秋刀魚は「幻の魚」と扱わせて頂きましたが、如何でしたでしょうか。
また、今回は個別の部分はなく、文章はすべて統一されています。御了承くださいませ。

■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv 口調が、役柄的に男風にさせて頂きましたが、激しく「これは違う、的外れ」でしたら本当にすみません;お相手の娘さんは、こっそり生野氏が乗せていた零になりましたが、如何でしたでしょうか。
■梧・北斗様:いつもご参加、有り難うございますv 怪盗、ということで少し抜けた部分もある、というプレイングも活かさせていただきましたが、如何でしたでしょうか。最後、秋刀魚でオチ───は、ちょっと抜けさせすぎたかな、と心配なところではありますが;なんとなく蓮さんといいコンビになりそうな感じを受けました。
■相澤・蓮様:初のご参加、有り難うございますv 口調が一番「あってるかな」と気になったところですが、イメージと違っていましたらすみません;子供の味方なのにちっとも活躍できなかった役ではありますが、きっと秋刀魚が手土産になったので多少は暮らしもしばらくは楽になれるのでは……と希望的観測です;(笑)
■海原・みなも様:いつもご参加、有り難うございますv 魔法少女の口調がどんなものなのかあまりイメージできなかったため、せっかくの演劇部ということでしたが、決め台詞と能力を使うときにしか「それ」らしい口調にできませんでした;すみません;ですが、秋刀魚は死守、ということでしたので、こんな感じに仕上がりましたが如何でしたでしょうか。
■由良・皐月様:続けてのご参加、有り難うございますv 今回、一番わたしの中で、皐月さんというPC様が書きやすかったです。でもイメージと違っていたら本当にすみません;オチの手下、というのが付馬屋の手下なのか、相手の手下なのか分からなかったのですが、多分相手側なのだろうな、とああいう風になりましたが、如何でしたでしょうか。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv 白雪姫の狩人のはずが、いつの間にかおやゆび姫さんと結婚することに。これも純情でもやるときはやる、というわたしの悠宇さんのイメージからきているのだと思います。今回はしっかり舞台ビデオが流されてしまったと思いますが……逆にそれでもお金が稼げたのでは、と思うのはわたしだけでしょうか(笑)。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv 二人そろって一目惚れという形になってしまいましたが、違和感等ありましたら遠慮なく仰ってくださいね。今後の参考に致します。カエル役は草間氏でしたので今後悠宇さんに何か言われるのでは……と心配でもありますが、なにぶん劇中のことですので(爆)。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」(もっと望むならば今回は笑いも)を草間武彦氏に提供して頂きまして、皆様にも彼にもとても感謝しております(笑)。
次回受難シリーズは、クローンものみたいなものを考えています。もしかしたら、今イベント中の「運動会」のほうで出すかもしれません。が、近々サンプルUP予定ですので、楽しみにしていてくださいねv

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/10/24 Makito Touko