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<五行霊獣競覇大占儀運動会・運動会ノベル>


オーパーツ借り物競走

「次の競技、『オーパーツ借り物競走』にご参加の方は、本部テントまでお越しくださーい」
 響カスミのアナウンスが競技場に流れる。
 どやどやと、集まってくる参加者たちを見回して、蓮は薄笑いを浮かべた。
「さて――、このメンツなら、面白くなりそうだねェ。さ、みな、このクジを引きな」
 そういって彼女は、穴の開いた箱を差し出すのだった。
「ルールを説明するよ。といっても簡単なことだ。これは借り物競走。今、引いてもらったクジに書かれている品物を借りてきてもらう。ただし、クジには同じ品物が書かれていることもあるから、その場合、同じクジを引いたもの同士の争奪戦ということになるかねェ……。品物はどれも貴重なものだから、取扱いには充分注意することだね。なお、あくまでも競走なので、たとえ品物を借り出せたとしても、ゴールするのが遅れれば得点にはならないよ」
 順番にクジを引いた参加者たちは、しかし、途中からはもう蓮の話など耳に入っていなかった。そこに書かれていた品物の珍奇さ、途方もなさに、唖然となっていたからだ――。

 かくして、スタートの銃声が響き渡る。

■1番のクジ

【水晶ドクロ】
水晶でできた人間の頭蓋骨の模型であるが、おもに、考古学的な出土品でありながら、該当する文明の技術では作成不可能な「オーパーツ」の性格を有するもののことを言う。類似するものは、現在、世界に十数個、存在が確認されているが、真贋が不確かなものも多い。特に有名なものは、1927年、中米ベリーズの遺跡より出土したとされる通称「ベリーズの水晶ドクロ」(または発見者の名からヘッジスのドクロ)である。このドクロは、全体が1コの水晶から出来ており、加工の痕が見られない。ひびなども皆無である。いつ、誰が、何のためにこのようなものを製作したのかは一切謎で、一説には、同じ物を手作業でつくるには300年以上を要するとも言われている。

一般には、知られていないが、『水晶ドクロ』の世界最大のものである、直径1メートルのものが、宮内庁地下300メートル『調伏二係』の所有するところとなっている。南米の遺跡から出土したというこの品物がいかなる経緯で日本の宮内庁の所有となっているのかは、不明である。

  *

「あの……、水晶――ドクロって……それは、どういう……?」
 おずおずと、弓槻蒲公英は、蓮に訊ねた。
「そいつぁな。地上に全部で13コあって、すべてが集結したとき、宇宙の謎が解かれるだの、人類が救済されるだの、いや、滅びるだの言われているオーパーツ中のオーパーツさ」
 蓮が何かいうより先に、応えたのは、桐藤隼だった。
「せっかくの非番に運動会たぁ骨の折れることだが、どうせヒマなので参加してやる。噂の『二係』にも行ってみたかったしな! ――じゃ!」
 と、白虎組の白い鉢巻をしめ、駆け出してゆく隼。
「アンタも言ったほうがいいんじゃないのかい。これは競走だよ」
 と、蓮が言うのを理解したのかしないのか、
「でも、どういうものか…………わかりませんから……」
 と、蒲公英。
「しようがないねェ。ごらん。これが、有名な『ベリーズの水晶ドクロ』さ」
 根負けしたように、蓮がどこからか分厚い資料を取り出してくる。
 そこに添えられた写真の中から、奇怪なしゃれこうべが、うつろな眼窩で蒲公英を見つめ返していた。

「おや、汐耶さんも運動会にご参加ですか。今日はお休みだったのですね。いつもお忙しそうだったのに」
「あ、いや、その、なんていうか」
 セレスティ・カーニンガムの問いに、珍しく綾和泉汐耶の歯切れが悪い。
「一応、出張扱いということで」
「出張?」
「あの……詳しく聞かないで下さい」
 言いながら、眼鏡を、つい、と直し。
「クジは? 1番……私と同じ、水晶ドクロですね」
「では『二係』ですね。ご一緒にどうですか?」
 セレスティがチーフのように胸ポケットに挿し、汐耶がネクタイのように首から垂らしている、それぞれの鉢巻の色は黒と赤。違う組だというのに、競技場まで乗り付けてきた自身のリムジンを示してみせるセレスティは、さすがの度量というべきか。
 汐耶は肩をすくめた。
「ええ、助かります。さっさと終わらせないと。こんなことにかまけていても仕事がたまる一方ですから」

 その頃、宮内庁地下300メートル――。
「そういえば、今日、運動会なんですってね」
「運動会? どこの町内の話?」
「ほら、蓮さんが」
「あー。あれね」
 八島真が、のんきに、職員とそんな会話をしていた。
 黒服の面々は、今日もかわらず仕事で、地上でおこなわれている、奇妙きてれつな運動会にはあまり関心がないようだった。……だが、関心があろうとなかろうと、かれらは否応なしに巻き込まれる運命にあるのだ。
「係長」
 弓成大輔が、内線電話を保留にしてから、八島に顔を向けた。
「警視庁捜査一課の桐藤さんと仰る方が、係長に面会をと」
「はぁ?」
「係長〜。なにかマズイことなんじゃないんですか〜?」
 係長補佐の榊原が、うろんな眼差しを(もっとも黒眼鏡に遮られてはいたが)向けてくる。
「し、失敬な。警察なんて、そんな」
「お会いになりますか。どうします?」
「…………と、とりあえず、第3応接にお通しして。……んん、なんかあったかなあ。こないだの『反魂香』の件は漏れてないはずだし…………こっそり聞いてみよ」
 弓成が引き続き電話に対応しているのを横目に、八島も受話器を取り上げた。
「あの、『二係』の八島だけど、警視庁に繋いで」

■危険物

「なんでしょう?」
 『二係』に到着したセレスティと汐耶を出迎えたのは、弓成だった。
「あの、八島さんは」
「係長は接客中です。ご用件は自分が承りますが」
「そうですか。実は……」
 事情を説明するふたり。弓成は、黙って話を聞いていたが。
「少々、危険な品物なので、あまりおすすめしませんね」
 と、言った。
「まあ、申請を出していただければ考慮しますが……」
「お願いします。お忙しいところすみませんが、『二係』のみなさんに同行いただいて、あくまで、その管理下で場所を移動するということであれば、いかがですか?」
 と、セレスティ。
「係長が許可すればそれでも構いませんが」
 運動会とはまた呑気な、と、あからさまに小馬鹿にしたような表情を隠そうともせず、弓成はそう言いながら、紙の束を持ち出してきた。
「こちらが倉庫立入許可願、そしてこっちが所蔵物貸出申請書、これが危険物取扱確認書、それと、呪物取扱適性証明書、職員出張派遣依頼申請書、……」
 なにやら、記入するだけでも骨の折れそうな書類が次から次へと並べられていく。
「あの……、これでは、許可が下りるまでにだいぶ時間がかかるのでは」
 セレスティが雲行きを心配して訊ねたが、弓成は平然と、
「でしょうね。……ですが規則でありますから」
 とだけ言うのだった。さすが役所だ。
「こういう言い方は何なんですけど」
 汐耶が切り込む。
「そこをなんとかなりません? ……八島さんには、いろいろと協力させていただいてますし」
「どういう意味ですか」
「だから……、危険な書物類の封印のお仕事を、何度かお手伝いしたんですよ。別に恩着せるわけじゃないですけど、すこし、借りるだけだから」
「封印の? 本当に? 綾和泉汐耶さんですよね。……こちらの記録にはそのような……」
 弓成が手元のファイルを繰りながら、ちょっと険しい表情になった。
「……記載もれですね。係長に確認してきます」

 その八島は、隼と、『二係』の暗い廊下を歩いていた。
「ったく、黒服にいきなり止められたから驚いたぜ」
「すいませんねぇ。さっきお渡しした私の名刺をね、提示して下さったら、次回からはいつでもお入りいただけますから。……というか、私のほうこそ、警察の方の訪問と聞いて何事かと焦りましたよ。思わず警視庁に問い合わせて、桐藤さんの経歴から何から一切合切調べ上げてしまいました」
「オイ、さらりと聞き捨てならないことを――」
「あ、ここです、ここ」
 鉄の扉の前で立ち止まり、黒服のポケットから鍵束を取り出す。
 そして開かれた重々しい扉の奥に……
 それが鎮座していた。
「おお!」
 隼が思わず声をあげる。
 ガラスケースの中に収められているのは、まぎれもなく水晶ドクロである。それも巨大だ。
「せっかくだ。記念にスケッチをする」
 彼はスケッチブックを取り出すと、そのへんにあったパイプ椅子を引きずってきて、ドクロの正面に陣取った。
「そういえば桐藤さんは美大出身なんですってね」
「ついでにこれが本物かどうか鑑定してやろう」
「失敬な。本物ですよ。だから保管してあるんです」
「何がどう危険なんだよ?」
「さあ、それが……所蔵されたのが随分昔で記録を探すのも面倒で」
 そのときだ。倉庫の入口から黒服の職員が顔を覗かせて、八島に声を掛ける。
「係長ー。こんなところにいたんですか。弓成さんが探してましたよ」
「弓成くん? う、また面倒事の予感。……じゃあ桐藤さん、終わったら、あそこの内線で呼んで下さいね。私はちょっと外しますから」
「おう、わかった」
 八島の黒服の後ろ姿が、倉庫から消える。
 残された隼は一心不乱に、スケッチに集中しているようだ。
 だが、しだいに……ドクロをじっと見つめる彼のまなざしが、とろんとした目つきになって、しだいにスケッチする手の動作が緩慢になっていくのだった……。

 蒲公英は、てくてくと歩いていた。
 蒲公英の今いる場所から、『二係』はそれなりに距離があるはずだったが――、秋晴れの道を歩くのはそれなりにすがすがしいものだった。
 と、そんな彼女に声を掛けてきた男がいる。
「おーい、蒲公英ちゃんだろ。クジ何番だった? ああ、『二係』かぁ」
 藍原和馬である。和馬と蒲公英は、同じ朱雀組のようだった。
「何をしてる」
「ああ、悪ィ、あんたのほうが早そうだから、先行っててくれよ」
 和馬は、連れの、黒ずくめの長髪の男に声をかけた。男は、ふん、と鼻を鳴らすと、一瞬でエメラルドグリーンの羽もあざやかな、奇妙な鳥に姿を変え、すい、と、宙を滑って飛び去ってゆくのだった。それを見送って和馬は、
「『二係』までだいぶあるぜ。同じ組のよしみだ。こっちの品物は手に入ったから、おニイさんが手伝ってやろうか」
「でも……」
「遠慮すんな。なっ」
 そして、蒲公英をひょい、と担ぎ上げると、足取りも軽く、和馬は走りはじめるのだった。

「係長」
 弓成大輔が、鉄仮面のような顔の下に、冷たい怒気をはらんで、八島に詰め寄る。
「綾和泉汐耶さんに非公式にお仕事をお願いされたそうですね」
「あー、ええと、そういうこともあったかな」
「民間の協力者への依頼の場合は、しかるべき届出が必要です。だいたい申請も通さずに、報酬の支払はどうなさっていたんです」
「いや、でも、稟議書回してたら時間ないときとかあるでしょ。綾和泉さんは、禁書の扱いはプロフェッショナルだし」
「そういう問題ではありません。だいたい、係長はいつも――」
「八島さん」
 書類の山のあいだから、セレスティが微笑みかけてくる。
「『水晶ドクロ』の貸出しをお願いしにきたのですけど、貸して下さいますね」
「セレスティさん、抜け駆けはだめですよ。私だってそのお願いに来て、こうして申請書を書いてるんですから」
 と汐耶。ひそかに、申請書類の速記レースが行われているらしかった。
「あ、おふたりもですか……。いや、それがですね、あれは今……」
 八島が困惑に眉尻を下げたとき、低い爆音が、地下300メートルを揺すった。
 ぱらぱらと、天井から埃が落ちる。
「…………え」
「倉庫のほうからですね。あの、念のためにおうかがいしますが、係長――」
「話は後! 『水晶ドクロ』に何かあったみたいです!」

■ドクロをめぐる冒険

「あの……」
「あン?」
「もう……いいです……歩き……ます、から……」
 和馬の肩の上で、蒲公英が申し訳なさそうに言った。
「気にしない、気にしない」
「あの……でも……」
 恐縮だというだけでなく、肩にかつがれているのも、蒲公英には少々恥ずかしいようで、頬が染まっている。
「もうすぐ着くからな。八島サンに電話でもしたほうがいいんじゃね?」
「あ、はい……」
 もとより蒲公英もそのつもりだった。だが、それより早く――
 かッ、と、白光の直線が空を裂き、近くのビルを直撃した。轟音と、土煙とともに崩れてゆく建造物。騒然とした空気が、あたりを包んだ。
「何だ……!?」
「和馬さん!」
 キィッ、と、ブレーキの音を響かせて、和馬たちの前で停車したのは、汐耶の駆る電気自転車だ。
「ここは危険です!」
「おいおい、こりゃあ一体何の騒ぎ……」
「『水晶ドクロ』なんです」
 あちこちで、爆音が上がった。
 悲鳴と怒号。逃げ惑う人々の群れを割って、あらわれたのは、隼だった。彼は両腕で、相当な重さがあるはずの、巨大な水晶ドクロを頭上に持ち上げている。その、ドクロの両目から、怪光線が迸り、街に破壊をもたらしているのである。
「『水晶ドクロ』はじっと見つめていると、催眠状態になるといわれているんですけど……巨大なドクロだけに催眠効果も抜群みたいで」
 汐耶が事の次第を説明した。
「桐藤のニイさん、イカレちまったわけか。あのビームは?」
「よくわからないですけど、太陽光線がドクロの内部で屈折して、レーザー光線状に収束したものじゃないか、って」
「なにそのトンデモ現象」
 そんなふたりの傍に、すう、っと、滑るように、セレスティのリムジンが停車した。
「和馬さん、ナイスタイミング! ちょっと大変なことになっているので手伝って下さい!」
 窓から顔を出した八島が叫んだ。
「おや。和馬さんはたしか『ピリ・レイスの地図』のクジを引かれたのではありませんでしたか?」
 セレスティの問いに和馬は、
「…………どっちかっていうと、貧乏クジ?」
 と、げんなりした表情で答えた。
 バラバラ……と上空からはヘリの音が降ってくる。
「あーあ。だめだって言ったのに、弓成くん、自衛隊呼んじゃったみたいです。これ以上、騒ぎが大きくなる前に、和馬さん、レッツ・ファイト!」
「勝手に話進めるなー! くそ。……蒲公英ちゃん、ここでみんなと一緒にいな」
 蒲公英を下ろすと、ドクロを背負った隼に突進してゆく和馬。
 周辺で、上空のヘリから発射されたと見られるミサイルが爆発し、熱風が彼のスーツを焦がした。
「あンの野郎、わざとやってねーか! おーい、桐藤さんよー、目ェ覚まさねェと自衛隊に爆撃されますよー、っと」
「……ワレワレハ、ユウコウテキナ……」
「!? 何かと繋がってる!?」
 隼の目は何にも映っていない。さて、どうしたものか、と和馬が身構えたとき。
「ぎゃいん!?」
 ブン、と空間に穴が開き、そこから、1台のオープンカーが飛び出してきたのだ!
 猛スピードで、出現した車は隼と和馬を吹き飛ばし、そのまま、道路を失踪していった。
「……あの車……」
 セレスティが、見覚えのあるオープンカーを見送って、やれやれとかぶりを振る。
「今だわ!」
 衝撃で、隼の手を離れた巨大水晶ドクロがごろんごろん、と路上を転がる。汐耶は、それに駆け寄ると、持参していた本を広げ、それでドクロを受け止めるようにし――。一瞬の閃光の後、ドクロは姿を消していた。汐耶がその能力で、本の中に封印したのだ。これなら見るものを催眠にかけることも、怪光線で周囲を破壊することもあるまい。
「アイテムゲット! お借りしますね、八島さん?」
「あとでいいので、書類だけ書いておいてくださいね。……弓成くんがうるさいから」
「はいはい。……蒲公英ちゃん、乗って」
 電動自転車に跨がりながら、蒲公英に声を掛けた。
「え、でも……」
「いいから、早く」
 彼女を後ろに載せて、汐耶は自転車を漕ぎ始めた。
「おやおや。結局、勝者はあのふたりですか? まあ、珍しいものを見られたのでよしとしますか。……他のオーパーツも集まっている頃かもしれませんね。競技場へいってみましょうか、八島さん?」
「そうですね。この惨状を放置したらまたあとで怒られる気もしますが、放置しなくても怒られるのは同じですからね。行きましょう」
 セレスティのリムジンも走り出す。
 そして。
「ん〜……お、俺はいったい何を……ってか、か、身体中が……痛……」
「……ってか、何ですか、このオチ……」
 後には、重傷の隼と和馬だけが残されたのだった。

  *

 猛烈なスピードで、オープンカーが飛び込んで来たので、グラウンドにいた人々は右往左往する。
「戻ってきたみたいだねェ。意外と早いじゃないか」
 のんきに、煙を吐き出す、蓮。
 急ブレーキの音とともに、グラウンドの土を削りながら、ゴールテープをその鼻先で切ったのは、マリオン・バーガンディの運転する車だった。
「『ヴォイニッチ手稿のレプリカ』、お持ちしたのです」
 豪快な出現の仕方に似合わぬ少年の微笑が、運転席にはあった。
 マリオンは、神聖都学園大学の河南教授より借り出した、羊皮紙の束を、蓮に差し出す。暗号めいた不可思議な文字と、謎めいた挿絵からなる、意味不明の奇書『ヴォイニッチ手稿』の複製品であった。
「確かに。……アンタが一番乗りだよ」
 満足げな、蓮である。
 すこし遅れて、競技場のトラックに姿を見せたのは、時永貴由だった。彼女は、『ピリ・レイスの地図の失われた右半分』をもとめて、異界のホテル『ホテル・ラビリンス』へと赴いたはずだった。
「はい。借りてきました!」
 その手の中の、羊皮紙を広げてみれば。
 一見して、相当古い時代のものとわかる世界地図であった。描かれているのはインドとインド洋、中央アジアらしき部分。左半分が、ヨーロッパとアフリカ、そして、これがオーパーツとされる所以である、詳細な南北アメリカの海岸線と南極大陸が描かれているというから、これがその片割れなのであろう。
「二番手だね。でも、よく見つけたねェ。……これを買い取れないかどうか、アタシは、あのホテルと交渉してみるつもりなのさ」
 くすくす、と、蓮は笑った。
 そして最後に。
 自転車を押して綾和泉汐耶と、弓槻蒲公英が連れ立ってあらわれた。
 ゴールライン直前で、自転車を止めて、汐耶は、
「はい、これ持って、お先にどうぞ」
 と、蒲公英に本を手渡した。
「えっ。そんな……」
「私はいいから、蒲公英ちゃん、行って」
「…………はい」
 照れたような笑顔で頷いて、汐耶に促された蒲公英が、ゴールを踏み越える。開いた本から、ふわりと光が漏れて……、そこには、巨大な『水晶ドクロ』が出現していた。宮内庁地下300メートル、『調伏二係』より貸出された、世紀のオーパーツである。
「あまりじっと見ないでくださいね。精神が引き込まれて、ちょっと大変なことに」
 汐耶が蓮たちに言った。
 実際、ここまで来る過程で、ちょっとどころではない騒ぎが起こって、今でも都内は騒がしい。だが、蓮は意に介した風もなく、ただ頷くと、
「これは見事だねェ。結構だよ。お嬢ちゃんが三番手だ」
 そう言って、蒲公英の髪をなでるのだった。
 それから――
 よろり、と、惜しいところで入賞を逃した門叶曜が、ゴールした。最初はむっつりとふてくされていたが、ゴールに並んだオーパーツの数々(水晶ドクロについては悪影響を抑えるため、汐耶が周囲に結界を張ることになった)を鑑賞しているうちに、いくぶん気も晴れたようだ。このオーパーツ類を、彼が本業のマンガにどう活かすかは、また、後の話である。
 続いて、セレスティ・カーニンガムが、『二係』の八島をともなって、リムジンで到着。こちらも、マリオンとともに、興味深くオーパーツの鑑賞を行い、終始、笑顔であった。
 あとの参加者はついに姿を見せなかったので、棄権ないしリタイアと判定された。
 こうして、秋の東京を、時ならぬ喧騒に巻き込んだ、五行霊獣競覇大占儀運動会のひとつ、『オーパーツ借り物競走』は幕を閉じたのである。

(了)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組 / 順位】

【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/白虎組/棄権】
【1449/綾和泉・汐耶/女/23/都立図書館司書/玄武組/4位】
【1533/藍原・和馬/男/920/フリーター(何でも屋)/朱雀組/リタイア】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い/朱雀組/6位】
【1992/弓槻・蒲公英/女/7/小学生/朱雀組/3位】
【2694/時永・貴由/女/18/高校生/黄龍組/2位】
【3356/シオン・レ・ハイ/男/42/びんぼーにん+高校生?+α/白虎組/棄権】
【3427/ウラ・フレンツヒェン/女/14/魔術師見習にして助手/白虎組/棄権】
【4164/マリオン・バーガンディ/男/275/元キュレーター・研究者・研究所所長/黄龍組/1位】
【4487/瀬崎・耀司/男/38/考古学者/白虎組/棄権】
【4532/門叶・曜/男/27/半妖・漫画家・108艦隊裏部隊非常勤/朱雀組/5位】
【4836/桐藤・隼/男/31/刑事/白虎組/リタイア】

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■          獲得点数           ■
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青組:0点/赤組:10点/黄組:50点/白組:0点/黒組:0点

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。五行(略)運動会ノベル『オーパーツ借り物競走』をお届けします。
当初は、それぞれの目標場所に散っていただいて、それぞれを個別に書こうとしていたのですが、予定より、リンク色が強くなり、意外と錯綜したものになりました。
狙ったアイテムによって、そして、一部PCさまは相互乗り入れ的に、ノベルの構成が変わっていますので、他の方のぶんもお読みいただくと、今回の騒動(笑)の全貌がよくわかるかと思います。

>水晶ドクロ狙いのみなさま
ほとんどが捏造品だと言われている水晶ドクロです。けれど、その、イマジネーションをかきたてずにはおかない奇怪さと神秘さは、まさにキング・オヴ・オーパーツ。今回は景気よく巨大なしろものを登場させ、『二係』を巻き込んでの、思わぬ騒動となりました(笑)。
ですが、みなさん、大変、正攻法(?)で、非常に紳士的・淑女的に、借り出しに臨んで下さったので、ちょっとびっくりしました(笑)。忍び込む人とかいて、『二係』第一種警戒体制になるかとも予想していたのですが……。
みなさんのプレイングを総合した結果、このような形に。そして、八島サンはあとでまた膨大な始末書を書かされたみたいです。

それでは、このへんで、運動会の最終的なゆくえを気にかけつつ、筆を置きたいと思います。
今回は、ご参加ありがとうございました。