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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ハロウィン 仮装パーティー

【オープニング】
 ある日のこと。
 碇麗香は、メールで流れて来た社内報を読み下し、目を輝かせた。
 今月末、白王社主催のハロウィンパーティーが開かれるというのだ。参加できるのは、白王社の社員とその家族、及びその友人・知人――ようするに、白王社の社員か彼らに声をかけられた者なら、誰でも参加してよしということだった。
 参加の際の条件は、かならず仮装をすること。
 もちろん、会費などは必要ない。
 しかも当日は、あるゲームが行われ、その優勝者には豪華な賞品まで出るというのだ。
 麗香が、俄然、興味を惹かれたのは、当然だろう。
 ちなみに、そのメールの最後には、ゲームは宝探しのようなものなので、一人よりも友人や家族など、数人でチームを組んで探す方が有利だろうと書かれていた。
(宝探しね。面白そうじゃない。……賞品が何かはわからないけど、なんだか燃えるわ!)
 麗香は、胸の中で拳を握りしめながら呟くと、とりあえず、友人・知人を誘ってみようと、さっそくメールの文章を作成し始めるのだった。

【パーティー会場にて】
 十月三十一日の夜。
 都内にある白王グランドホテルの五階大広間は、大勢の客でひしめき合っていた。
 白王社主催のハロウィン・パーティーの、ここが会場なのだ。
 大広間は、カボチャのランタンや魔女のレリーフ、星の飾りなどで賑やかに飾りつけられ、部屋の隅には料理を盛ったワゴンが並ぶ。また、すでに人々の間を飲み物のグラスを載せた盆を手にした給仕たちが、歩き回り始めていた。
 シュライン・エマは、碇麗香の誘いを受けて、その大広間にいた。
 本日の彼女の扮装は、白いインバネス風のコートに白いタキシード、シルクハットに片眼鏡(モノクル)、白い手袋にステッキといったものだ。いつもは束ねている長い黒髪も、今日は後ろに垂らしてあった。長身のすらりとした姿に、その恰好はよく似合う。
「シュライン!」
 声をかけられ、ふり返った彼女の前に、麗香が立っていた。こちらは、十八世紀の宮廷貴婦人だろうか。大きくスカートのふくらんだドレスに、ポンパドゥールに結い上げた頭。手にはダチョウの羽の扇を握っている。
「麗香さん。……すごいわね。宮廷貴婦人?」
「マリー・アントワネットよ」
 目を丸くして尋ねる彼女に、麗香は胸をそらして答えた。そして尋ねる。
「あなたは何? アルセーヌ・ルパン?」
「西洋風紳士よ」
 苦笑して答えるシュラインに、麗香は一緒に来るよう言った。他にも彼女が誘った者たちがいるらしい。
 ややあって、大広間の中程にいる一団と出くわした。どれも、シュラインの見知った顔だ。刑事の青島萩(しゅう)と、リンスター財閥総帥で占い師のセレスティ・カーニンガム、退魔師兼高校生の梧(あおぎり)北斗、それに三下の四人だった。
 萩は、シュラインより三つ年上の二十九歳だ。短い黒髪と黒い目の、長身の男だった。彼の扮装は、金田一耕助だろうか。かすりの着物に袴とチューリップハット、それに下駄を履いている。顔も髪型も普段のままなのに、妙にはまっているのが可笑しい。
 セレスティと北斗は、どちらも吸血鬼だった。二人とも、赤い裏地のついた黒いマントと黒いスーツという姿だが、赴きはそれぞれ違っている。
 セレスティは、外見的には二十代半ばと見える。が、本性は人魚で、すでに七百年以上生きていた。もともと白皙の美貌の持ち主で、そこにビジュアル系のメイクを施し、長い銀髪はいつもどおりに背に流している。まるで少女マンガから抜け出して来たような、はかなく幻想的な雰囲気があった。人魚であるため足の弱い彼は、車椅子だ。
 対して北斗は、黒い短い髪をきっちりと後ろに撫でつけて、ジェルで固めてしまっている。しかも顔は真っ白に塗って、上半分にコウモリの羽根のような形の仮面めいた黒いメイクを施していた。口には牙までつけており、某ロックバンド風の吸血鬼だ。もっとも、小柄なせいで、怖いというより、妙に愛らしい感じがする。
 一方、三下は長い金髪のカツラとエプロンドレスで、「不思議の国のアリス」の扮装をしていた。しかしながら、普段の彼からは想像できないほど、可愛い。無骨な黒ブチメガネまでが、かえって愛らしさをそそる。
(そういえば……彼は、以前に女装コンテストで優勝したことが、あったんだわね)
 シュラインは、その姿にふと思い出して、胸に呟いた。
 その彼女の隣で、麗香があたりを見回している。
「どうかしたの?」
「シオンも来るって言ってたのに、姿が見えないのよ」
 尋ねるシュラインに、麗香が言う。
「シオンさんなら、更衣室までは一緒でしたよ、たしか」
 セレスティがそれへ言った。
 彼女たちは、ここへ来る時からこの扮装だったわけではなく、ホテルに着いてから、用意された更衣室でそれぞれ着替えたのだ。
 ちなみに、麗香が言っているのは、びんぼーにんで、普段はあちこちの公園を住みかにしているシオン・レ・ハイのことだろう。
「だんだん人も増えて来たようだし……私たちが見つけられないだけじゃないの?」
 シュラインも、あたりを見回して言った。実際、仮装をしていると、知っている人間相手でも、なかなか見分けがつかない。三下たちにせよ、こうして麗香に引き合わせてもらわなければ、気づかなかったに違いない。客の中には、北斗のように素顔がわからないメイクをしている人間もいたし、狼男やフランケンシュタインのマスクをかぶっているような者もいるのだ。
 その時、大広間の奥のステージに、ふいにスポットライトがあたり、海賊の扮装をした男がマイクを片手に中央に出て来た。
「レディース&ジェントルマン! 本日はようこそ、白王社主催のハロウィン・パーティーへ!」
 定番の挨拶を口にした後、男はこのパーティーが、社員とそれを支える家族や友人への慰労のために開かれたものである旨を告げる。そして、今日の目玉であるゲームについての説明を始めた。
 客が探すのは、会場内に紛れているある人物だという。その人物を特定するための、五つのヒントが、男の口から上げられた。
 一つは、その人物は男性で、年齢は四十だがかなり若く見えること。二つ目は、小柄であること。三つ目は、軽いウェーブのかかった短い栗色の髪をしていること。四つ目は、左手に銀の腕輪をはめていること。五つ目は、仮装らしい仮装はしていないが、背中に白い翼をつけていることだ。
 客は人物が特定できたら、その相手にキーワードを告げる。イエスの答えがもらえた者が、勝者だ。
 キーワードのためのヒントは二つ。一つは会場内に隠されている。二つ目は、ゲーム開始から一時間後に会場内を回り始める子供たちから、菓子と引替えにもらうことができるという。ちなみに、この時交換する菓子は、会場内に置かれているものでOKだった。もちろん、持参した菓子などがあれば、それでもかまわない。
 勝者に与えられる賞品は、アメリカ西海岸十日間の旅へペアで招待、プラス巨大なカボチャとカボチャ料理のレシピブックをプレゼントというものだった。
(それで、チーム戦の方が有利って言うわけね。ヒントやそれらしい人物を探すには、人海戦術が一番ですものね)
 客たちのざわめきの中、シュラインは納得して胸に呟いた。
 ゲームの開始は三十分後だ。シュラインは、それらしい人物はいないかと、あたりを見回しながら、どのあたりを探せばいいのだろうと、考え始めていた。

【最初のヒント】
 ゲームが始まって、すでに三十分近くが過ぎていた。
 シュラインは、麗香と二人で会場内をヒントが書かれたカードを探して、さっきからずっと歩き回っている。
 ゲーム開始までにシオンは現れず、彼女たち六人は、二人づつ組んでカードを探すことにしたのだ。萩は北斗と、セレスティは三下と組んだ。ちょうど目についた、巨大なカボチャの置物の傍で、一時間後にもう一度落ち合うことになっている。手に入れたヒントのカードを見せ合い、キーワードを導き出す手掛かりにしようというのだ。
(探索場所も、漠然としてるわねぇ。……ハロウィンそれぞれの文字を、頭文字にするものの傍とかを、まずは調べてみようかな)
 三下たち四人と別れて、最初彼女は、そんなふうに考えていた。といっても、なかなかそれぞれの頭文字を持つものに、行き当たらない。
 彼女が思いついたのは、たとえば「ハ」でハイネの詩集だとか、「ロ」で蝋燭だとか、そんなふうだった。が、蝋燭はともかく、こんな所にハイネの詩集が置いてあるかどうかは、謎だ。
 もちろん、あたりの飾りつけに使われているカボチャのランタンや、魔女のレリーフ、趣向を凝らした料理の数々や、それを取るための皿などの食器にも気をつけ、それらの下や中なども一応、調べてみた。が、なかなか見つからない。
 中には、うまくカードを見つけられた者もいるらしく、時おり、他の客の間から歓声が上がるのも聞こえていた。しかし。
「ねぇ、麗香さん。このヒントのカードって、本当に客の数だけあるの?」
 さすがにくたびれて、部屋の隅に並べられた椅子に腰を下ろして、ソーダをすすりながら、シュラインは隣の麗香に尋ねる。
「さあね。私たち社員も、何も知らされていないのよ。……でも、人数分はないかも。一応、社員は何人ぐらい社外の人間を連れて来るかって、報告はさせられてるけど。参加人数の把握は、けっこう大雑把だって気がするわ」
 麗香はビールを飲みながら言って、肩をすくめた。
 やがて二人は、空になったグラスを置いて、立ち上がる。もう少し、探してみようということになった。
 そして。とうとう彼女たちは、テーブルの上に置かれた小さなカボチャのランタンの下から、ヒントの書かれたカードを見つけた。
「やったわね」
「ええ!」
 思わず二人は顔を見合わせ、うなずき合う。が、名刺大のカードに目をやって、シュラインは眉をひそめた。
「何、これ?」
「これは、白王社のマーク――社章よ」
 麗香が同じようにカードを見やって言う。
「これが、ヒント?」
「そうね。……その人物は、白王社に関係のある人ってことかも」
 尋ねるシュラインに、麗香が考え込んでから言った。
「でも、ここにいる人のほとんどが、そうでしょ? ヒントにしては、ちょっと漠然としすぎてない?」
「それもそうね」
 シュラインの意見に、麗香も眉をしかめてうなずく。
 カードを探す間にはもちろん、それらしい人物も探してはいた。会場には、白い翼をつけた扮装の客もそこそこいるが、なかなか条件にあてはまりそうな人物は見つけられない。
「さすがに、賞品が豪華なだけは、あるわね」
 シュラインは呟いて、麗香に言った。
「第二のヒントに期待しましょ」
「そうね」
 麗香もうなずく。
 その時会場に、ゲーム開始から一時間が過ぎたことを知らせる、アナウンスがあった。
「一旦、あのカボチャの置物の所へ行きましょうか」
「ええ」
 麗香に言われて、シュラインもうなずく。二人は、再び人波を縫って、歩き始めた。

【第二のヒント】
 置物の所へ行く途中で、シュラインと麗香は、会場を回っている子供たちに遭遇した。魔女や悪魔、幽霊などの姿に扮装した彼らは、二人を取り囲むように集まって来ると、ハロウィンの約束どおり、「Trick or treat(お菓子をくれないと、悪戯するぞ)!」と叫びつつ、二人の方へ手を差し出す。
 シュラインは、こういうこともあろうかと――なにしろ、ハロウィン・パーティーなのだから――手作りのお菓子を小袋に分けて、持って来ていた。なので、それをあるだけ子供たちに、分けてやる。
 子供たちはそれに満足したのか、一人がポケットから名刺大のカードを取り出して、シュラインに渡してくれた。そのまま、子供たちは二人に手をふり、「ありがとう」の言葉と共に駆け去って行く。
 それを見送り、二人は新たなカードに目を落とした。そこには、「頂点に立つ人」と書かれている。
「『頂点に立つ人』?」
「リーダーとか、社長とか……?」
 シュラインが呟いた言葉に、麗香はふいに目を見張った。
「それだわ。……社長よ。これはきっと、私たちの探す人物は、白王社の社長だってことよ」
「ああ……そうね。そうだわ」
 シュラインも、思わず興奮してうなずく。たしかに、白王社のマークと、「頂点に立つ人」という言葉から導き出されるものは、白王社の社長だろう。が、そうなると後は簡単だ。社長ならば、名前は当然のこと、顔も麗香が知っているはずだ。
 ところが。麗香は社長の顔を見たことがないと言う。
「写真とか、そういうのもないのよ。……名前はもちろん、わかるわよ。白王要って言って、一年前に前社長だった父親の死で、白王社の社長になったの。でも、ちょっと変わった人で、社員の前に顔を見せないし、写真とかも撮らせないらしいのよ」
「……それで、このゲームなわけね」
 麗香の説明に、シュラインは溜息をついた。が、こうなったらゲームのルールどおり、それらしい人間を捕まえて、かたっぱしから「白王要さんですか?」と尋ねて回るしかない。
「とにかく、それらしい人を探しましょ。そして、見つけたら突撃よ」
 シュラインは言う。いつの間にか、集合場所に行くことは、どうでもよくなっていた。
「そうね。それしかないわ」
 麗香もうなずく。二人はそのまま、周囲の男性客に慎重に目を配りながら、歩き出した。

【ゲーム終了】
 会場には、背中に白い翼をつけた仮装をした男性も、それなりにいた。
 ハロウィンということで、やはり一番多いのは魔女や悪魔、吸血鬼などのホラー・オカルト系のものだ。が、天使風の仮装の男女も、そこそこいる。
 ただ、提示された条件に見合うような――となると、けっこう難しい。
 天使の仮装をしている人間のほとんどは、長いずるずるとした衣装を身にまとっており、カツラなのか自前なのかはわからないが、髪も長くしていた。腕輪はしている者もしていない者もいる。
「いざ探してみると、いないものね」
「……ええ」
 シュラインの言葉に、麗香がうなずいた。と。
「シュライン、あれ!」
 彼女が叫んで、思い切りシュラインの肩をつかむ。思わず顔をしかめながら、シュラインも麗香の指さす方を見やった。
「あ……!」
 途端に、彼女も声を上げる。そこには、まさに条件どおりの男性が、佇んでいた。少し疲れた様子で、飲み物のグラスを手にしている。年齢は、三十半ばかもう少し若いぐらいだろう。白王要は、実年齢より若く見えるというから、二人の目にはそのあたりも、ぴったりだと思えた。
 二人は顔を見合わせ、うなずき合うと、そちらへ突進した。
「すみません。あなたは、白王要さんじゃ、ありませんか?」
 シュラインが、期待を込めて尋ねる。男はふり返り、にっこりと笑った。
 その瞬間、シュラインは自分の勝利を確信した。男が、ゆっくりと口を開く。
 その時。
 会場の一画から、ふいに大きなどよめきが上がった。それと共に、拍手が湧く。
(え?)
 シュラインは、思わず目を見張り、そちらをふり返った。と、その一画にスポットライトが当たり、進行役の男の声が、マイクに乗って響く。
「どうやら、ゲームの優勝者が出たようです。社長、優勝者の方と共に、こちらのステージにいらしていただけますか?」
 スポットライトで照らされた一画で、それに応えるように手をふる人物がいた。
 その一画が、自分たちが目指していた、巨大カボチャの置物があったあたりだと気づいて、シュラインは思わず目をしばたたく。
 やがて、ステージの上に現れたのは、白いタキシードに身を包んだ青年と、四十前後のがっしりした長身の男だった。青年の方は、たしかにヒントに上げられていたとおり、背には白い翼をつけ、軽いウェーブのある短い栗色の髪をしていた。タキシードの袖口からわずかに、銀色の腕輪が覗いているのも見える。
 それにしても。
「サギだわ……」
 隣で麗香が呟くのを聞いて、シュラインも思いきりうなずいた。
 ステージ上にいる青年の、どこが四十に見えるというのだろうか。つやつやした肌や髪の光沢などは、下手をしたら自分たちよりずっと若く見えるではないか。
 もっとも、それと同じぐらい彼女たちを驚かせたのは、優勝者として白王要の隣に立つ男だ。
 長い黒髪を後ろで一つに束ね、顎にも髭をたくわえた、青い目の男――黒い長袖のシャツに黒いズボンという、なんの変哲もない恰好のその人物は、シオン・レ・ハイだったのだ。
 シオンは、なんとなくきょとんとした顔つきで、ステージに立っていた。しかもなぜか、腕には巨大なカボチャを抱えている。
「あれって……」
 シュラインは、ふとそれに見覚えがあることに気づいた。自分たちが、落ち合う場所の目印に決めていた、置物ではないか。
(でも、どうしてそれをシオンが持っているの?)
 シュラインは、思わず首をかしげる。
 その間にも、ステージ上では進行役の海賊の扮装をした男が、改めて白王要を紹介した後、シオンにインタビューを行っていた。進行役の男は彼の名前を尋ね、どうして要を見分けることができたのかだとか、旅行は誰と行きますか、といったたわいのない質問をした後、訊いた。
「ところで、シオンさんは、どんな仮装をしておられるんでしょうか?」
「え? ああ……。その、カボチャです」
 言って、シオンはやおら、手にしていた巨大なカボチャを頭からかぶった。それは実は、着ぐるみだったのだ。途端、彼の体は太股のあたりから上が、すっぽりとカボチャの中に入ってしまう。カボチャは、目と口が描かれていて、側面から両手を出した彼は、カボチャのお化け――いわゆるジャック・オ・ランタンへと早変わりした。
「な、なるほど……。なかなか、気合の入った仮装ですね」
 進行役の男は、わずかに引きつった顔でうなずく。と、横から要が進行役のマイクを奪い取った。
「いやあ、なかなか面白い仮装じゃないか。こっちにも賞を設けるべきだったかな。……ところで君、それで外が見られるの?」
「ええ。見られます。目のところに、穴が空けてありますから」
 幾分くぐもった声で答えが返り、シオンは見えることをアピールするつもりだろうか。ゆらゆらと体を揺らしながら、ステージの上で踊り始めた。一見するとフラダンスのようだが、巨大なカボチャがくねくね、ゆらゆらと踊るさまは、なんとも怪しく可笑しい。
 最初は、呆然とそれを見やっていた客たちの間から、忍び笑いが漏れ、それがまるであたりに伝染するかのように、次々に広がって、大きな笑いに変わって行った。
 シュラインと麗香も、腹をかかえて笑っていた。
「く、苦しい……」
 シュラインは、笑いながらうめく。そもそも、どうしてここでいきなり踊るのか。よくわからないが、そろそろやめてくれないと、横腹が筋肉痛になりそうだ。
 だが、ステージの上の奇妙な踊りは、当分終わりそうになかった。

【エンディング】
 数日後。
 シュラインの元へは、麗香からメールに添付されて、ハロウィン・パーティーの時の写真が送られて来ていた。
 それらを眺めながら、シュラインはあの夜のことを思い出す。
 ゲームが終わった後、せわしなく会場を動き回ったのと笑い倒したせいで、空腹を覚えていた彼女は、しっかり飲み食いさせてもらった。
 白王要は、たしかにちょっと変わった人物らしい。これまで、社員の前に姿を見せなかったのは、普段は海外で生活しているせいだという。が、写真すら晒したことがなかったのは、年齢と外見のギャップに、写真では社長だと信用してもらえないと思っていたからだ、というのだ。
 とはいえ、気さくな人でもあるらしく、ステージを降りた後はなぜかシオンと一緒にいて、そのおかげでシュラインも話す機会に恵まれた。写真は、そうした時に撮ってもらったものだ。
 シュライン自身と麗香、シオン、ゲーム終了後に合流した萩、セレスティ、北斗、三下、それに要の八人全員の集合写真から、巨大カボチャの着ぐるみを着たシオン、北斗に頼まれて、二人で並んで撮ってもらったもの、などなど。どれも、会場の雰囲気がそのまま伝わって来るような、楽しいものばかりだった。
 アリス姿の三下と撮ったものもある。
 彼は、一緒に行動していたセレスティと途中ではぐれ、その姿を探して会場内をさんざん歩き回ったあげく、疲れてあの集合場所へ行き、置物だと思っていたものが、シオンの仮装だと知ったらしかった。
 ちなみにシオンは、置物のふりをして他の客を驚かすつもりで、あそこにいたのだが、そのまま眠ってしまっていたのだという。つまり、シュラインたちが組分けの相談をしていた時、彼はすぐ近くで眠りこけていたというわけだ。
 それを聞いた時、シュラインはなんとも彼らしいと、苦笑してしまったものだった。
 ところで、優勝の賞品のことだが。
 アメリカ西海岸への旅行はともかく、巨大なカボチャは、シオンの行為で七人で分けることになった。実物のカボチャは、写真で見せてもらっただけだったが、翌日送られて来た一切れは、普通のカボチャ一個分に相当するほど大きいものだった。とりあえず、半分は煮物にして、草間興信所に差し入れし、草間と零の三人で美味しく食べた。が、まだ半分残っている。あれをどう料理するか、現在思案中だ。
(そんなに高いものじゃないし、レシピブックを買おうかな)
 ふと、シュラインは思う。
 巨大カボチャと一緒について来た、カボチャ料理のレシピブックの方は、さすがに一冊しかないので、シオンが持って帰ったのだ。もちろん、本の出版元は白王社だった。
 ともあれ、ゲームで優勝はできなかったが、なかなか楽しい時間を過ごせたと、彼女は思う。
(楽しくて、充実したパーティーだったわよね)
 モニターに映し出されている、西洋風紳士に扮した自分の姿を見やりながら、彼女は胸に一つ、小さな笑いを落とすのだった――。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 /シュライン・エマ /女性 /26歳 /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1570 /青島萩(あおしま・しゅう) /男性 /29歳 /刑事(主に怪奇・霊・不思議事件担当)】
【3356 /シオン・レ・ハイ /男性 /42歳 /びんぼーにん+高校生?+α】
【1883 /セレスティ・カーニンガム /男性 /725歳 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【5698 /梧北斗(あおぎり・ほくと) /男性 /17歳 /退魔師兼高校生】

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■         ライター通信          ■
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依頼に参加いただき、ありがとうございます。
ライターの織人文です。
ゲームの勝者については、シオン・レ・ハイ様ということになりましたが、
他意はございませんので、ご了承いただければ、幸いです。
また、組み合わせについても、任意で分けさせていただきました。

●シュライン・エマ様
いつも参加いただき、ありがとうございます。
今回は、いかがだったでしょうか。
ゲーム内容については、オープニングでもう少し、
明確にしておくべきだったかなと、反省しております。

それでは、少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。