コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


All seasons 【温泉へ行こう☆】



■オープニング■


 秋の夢幻館はちょっぴり美しい。
 沖坂 奏都の植えた木々が真っ赤に色づくからだ。
 その木々を見ながら、今日も桐生 暁はここを訪れていた。
 秋色に染まる夢幻館。
 そこを訪れる暁の心も秋色に染まっていた。
 味覚の秋に、ちょっぴりセンチな秋・・・。
 暁の心の中では秋といえばこの2つだった。
 つまり、一般的に言うスポーツの秋、読書の秋はすっとばすのだ。
 秋以外でも、運動が出来る場所ならば何時でもスポーツの秋だし・・・読書は・・・。
 読書=勉強=勉学。
 そんなものはどこか遠いお星様の1つにでも加えてあげてほしい。
 とにかく、暁の身の回りではないどこか遠くに・・・。
 暁はふっとその、嫌な言葉ランキングのトップ10にはバッチリ入っている言葉を、遠くに放り投げた。
 もう、バイバイ、永遠に、な気分である。
 「あれ?暁さん?」
 夢幻館の扉の前まで来た時、直ぐ真横から馴染み深い声が暁の名を呼んだ。
 「どうしたんですか?今日は特に何もない日ですが・・・。」
 「うん、ちょっとしたお誘いにね☆みんないる??」
 「えぇ、冬弥さんでしたら自室に。もなさんも・・・おそらく自室でしょう。」
 「わかった、ありがと〜☆」
 「冬弥さんの自室まで、迷わないで行ってくださいね〜。」
 「分かってるって!」
 奏都はふわりと、穏やかな笑みを浮かべると、夢幻館への扉を押し開けた。


□温泉に行きましょう□


 「秋は今年一度きりだよっ!?」
 暁のそんな言葉を聞きながら、梶原 冬弥は大いに頷いていた。
 無論、暁の主張する内容に対してではない。
 純粋に言葉そのものに頷いたのだ。
 秋は今年一度きり。
 そのとおりである。
 一年のうちにそう何度も秋が来てしまってはかなわない。
 春秋夏秋秋秋冬秋
 などと、季節の節目ごとに来られてもたまらない。
 大体、夏から冬にかけての秋の3回は何事かと言う話である。
 どうせなら1つにまとめてほしい。
 「ねぇ、だからこそ、そんな秋を有意義に過ごすためには・・・。」
 ごそごそと、暁がポケットを探る。
 取り出した物を、両手で高々と持ち上げる。
 ジャッジャ〜ンと言うBGMがぴったりだ。
 「温泉に行こ・・・」
 「断る。一人で行け。」
 「だから、温泉に・・・」
 「嫌だっ。」
 「秋・・」
 「イヤっ。」
 むぅ〜っと、暁はむくれた。
 先ほどからこの調子なのだ。
 「なぁぁんでよぉ〜!一緒に行こうよ〜!!」
 「そうだぞ冬弥、暁がせっかく招待券持って来てくれたんだから、黙ってついて行けばいーじゃねぇか。」
 そう言うと、神崎 魅琴はジタバタしている暁の頭に腕を乗っけた。
 「そうだよぉ〜!ねぇねぇ、いこ〜よぉ〜!!あたしも行きたい〜っ!」
 暁の隣、暁以上にジタバタするのは片桐 もなだ。
 ツインテールが今日も一段と凶器のように振り回されている。
 ・・・もしもこの先っぽに包丁なんかが刺さっていた日には・・・。
 「大体からしてよぉ、なんで冬弥はそんなかたくなに拒否するんだ?なんか予定でもあんのか?」
 「・・・っ、考えてもみろ!この面子だぞ!?」
 冬弥はバっと立ち上がると、順々に指差し確認をした。
 まずは暁、次にもな、そして魅琴・・・。
 冬弥的に言えば、最悪の面子だった。
 何かあった時に対処をしなければならないのは彼であって、むしろその何かは確実に起こる事であって・・・。
 はぁぁぁ〜。
 「い〜じゃん!暁ちゃんもいるんだよ!?魅琴ちゃんもいるんだよ!?」
 「だから、それが・・・」
 「それに、あたしもいるんだよ・・・?」
 ニコ☆っと、もなは可愛らしく微笑んだ。
 声が低く、これは夜中に見たらかなり怖いだろうという顔であろうとも、微笑んでいるものは微笑んでいるのだ。
 「・・・行かせて頂きます・・・。」
 冬弥は小さくペコリと頭を下げた。
 脳内変換は“逝かせて頂きます”だったが・・・。
 「わぁい!暁ちゃん!冬弥ちゃんも一緒に行くって!」
 「んじゃぁ、早速支度して行こうっ!」
 暁はそう言うと、にこっと微笑んだ。
 「・・・え・・・・??」
 これには冬弥のみならず、もなにも魅琴にも、想定外の事だった。


■薄いお料理、濃い愛情■


 そこは美しい日本庭園だった。
 赤く色づいた木々、大きな池には錦鯉が優雅に泳いでいる。
 カツンカツンと言うししおどしの音が小気味良い。
 畳に座り、出されたお茶を飲みながら、もなと魅琴、そして暁は和んでいた。
 「いいね〜、日本の風景。」
 「やっぱ日本は落ち着くよな〜!」
 「だよね☆俺、日本大好きだよ!」
 「あたしもっ!こうさ、お茶に畳みに日本庭園!そしてししおどし!最高だよね!」
 「またお茶が美味しいよねっ!」
 「さすが暁!良いトコ知ってんなぁ〜!」
 「ね、冬弥ちゃん、来てよかったでしょ!?」
 もながクルリと日本庭園から部屋の中へと視線を戻した。
 畳が敷かれた部屋の隅・・・冬弥は壁と仲良くしていた・・・。
 「・・なんで俺、こんなとこにいるんだろ・・・。」
 ブツブツと何かを呟きながら体育座りをしている冬弥は、地縛霊と言われても納得してしまうくらいに暗かった。
 「ほらほら、明るく!明るくっ!なぁにやってんのよぉ〜!」
 もながツカツカと歩み寄り、力任せにこちらに向かせる。
 「なんでっつわれてもな〜、っつーか、お前、結局此処まで歩いてきたじゃねぇか。」
 「当たり前だろっ!?お前の場合は動かなくても力任せでやるだろ!?大体、バスに乗せんのだってお前が無理やり・・・」
 冬弥の声が小さくなる。
 「あ、あ、冬弥ちゃん、泣かないで〜!!」
 暁が慌てて冬弥の隣に座り、その背中をさする。
 「姫抱っこ・・・姫抱っこ・・・。」
 まるで呪文のように、冬弥は何度もその言葉を繰り返すと頭をかかえた。
 なかなかバスに乗ろうとしない冬弥を、姫抱っこで無理やり乗せたのは魅琴だった。
 随分荒っぽかったのだが・・・まぁ、結果オーライと言う事だろう。
 こうして(少し何かを失ってしまったようだが・・)冬弥も一緒に来れた事だし。
 「ほら、冬弥ちゃん、もーすぐでお料理来るから!ね?ここのお料理は美味しいよ〜!だから、ね??」
 そう言った時、丁度良いタイミングで料理のお膳を持った仲居さんが姿を現した。
 質素な着物を着て、茶色く染めた髪の毛を上に上げた・・・なんとも色っぽい仲居さんである。
 年の頃は30くらいだろうか?
 胸のプレートには『堀内』と書かれている。
 「お待たせいたしました。お料理をお運びいたします。」
 「待ってました!」
 魅琴はそう言うと、そそくさとテーブルについた。
 もなもテーブルにつき・・・暁はずるずると、半ば引きずるようにして冬弥を席につかせた。
 濃い色のお重で運ばれてくる料理達は、どれも美しく整えられていて・・・見た目だけでも美味しそうだった。
 お刺身、鮎の塩焼き、てんぷら、お吸い物、煮物・・・。
 純和風の食事に、思わず頬が緩む。
 「それでは、また後ほど・・・。」
 堀内と言う仲居さんは、そう言って上品に微笑むと、ぴしゃりとふすまを閉めて部屋から出て行ってしまった。
 「それじゃぁ、食うか!」
 「あたし、超おなかすいたぁ〜!」
 「それじゃぁ、いただきま〜す。」
 暁はそう言って、パンと1つだけ手を合わせると、目の前のお箸を取った。
 まず手前にある煮物から手をつける。
 「美味しーv」
 「本当!ちょっと薄味だけど、美味しいねっ!」
 「俺、結構薄味も好き〜☆」
 「・・っかぁ、味がねぇっ!醤油醤油!」
 魅琴がそう言い、煮物にダバダバと醤油をかける。
 ・・・上品な味が台無しだ。
 「ね、冬弥ちゃん!美味しい・・・」
 笑顔で語りかけようとした暁は思わずフリーズした。
 虚ろな瞳で箸を口に運ぶ冬弥・・・。
 「と・・・とーやっちゃん・・・??」
 「んあぁ・・・美味しい・・・な・・・。」
 こりゃぁ、そうとう末期だ。
 どうしたものか・・・。
 暁はそう思うと、少々考えをめぐらせた。
 こうなってしまったのは魅琴が冬弥を姫抱っこしてしまったからであって、そもそもの原因は暁が此処に来たいと言ったからであって・・・。
 少しは責任を感じてしまうのは仕方のない事ではないか。
 暁はチラリと冬弥を横目で盗み見た。
 先ほどから煮物ばかりをつついている。
 ・・・煮物が好きなのだろうか?
 そんな視線に気付いた冬弥がこちらをじっと見つめる。
 「・・・そっか、冬弥ちゃんコレ食べたいんだ?」
 「あぁ?」
 そう言って、暁はレンコンを箸でつまんだ。
 「食べさせてあげるねvほら、あーんして?」
 にっこり、まるで新妻か何かのように微笑む暁。
 ・・・ズザザザザーーーー!!!
 冬弥が思わず後ずさりをする。
 その格好は、そう・・あまり口に出して言いたくはないほど格好悪いもので、折角美形なのにと頭に手を当てたくなってしまう。
 「ほらほら、あーんしてってば〜☆も〜、冬弥ちゃんったらテレちゃってw」
 「照れてんじゃネェっ!」
 「も〜、素直じゃないんだからぁ〜。」
 暁が詰め寄る。
 冬弥が後ずさりをする。
  ニジリ・・・
  ・・・ヒキ
  ニジリ・・・
  ・・・ヒキ
  ニジリ・・・
  ヒ・・・
 冬弥の背が壁に当たる。
 「ほら、冬弥ちゃん、あーん。」
 「うわっ・・ちょっ・・・ヤメっ・・・。」
 開いた口に暁はレンコンを放り込んだ。
 ・・ポイ、ゴックン。
 レンコンは胃まで直通だった。
 咀嚼と言う第一関門は何者かによって破壊されていた・・・。
 「・・・げほ、ごほっごほっ・・・・げほっ・・・!!」


□露天風呂は混浴ですかっ!?□


 元気をつけてあげようとして言った事、やった事が裏目に出てしまう場合がしばしばある。
 受験生に“頑張って”の一言が重荷になってしまう場合もあるように・・・。
 良かれとこちらは思っていても、結局は相手の感じ方次第なのだから。
 しかし、やはり先ほどの“アレ”は少々いただけなかったようだ。
 冬弥は先ほどにも増してボンヤリとどこか遠くを見つめている。
 ・・・そりゃそうだ。
 危うく呼吸困難で死にかけたのだから。
 「ほらほら、冬弥ちゃん〜!猫さんだよ〜!」
 「冬弥ちゃん、こっちにはうさぎちゃんもいるよ〜!」
 暁ともなが必死に話しかけるが、冬弥の視線は何処か遠くを見つめたまま固まっている。
 たまにこちらを向いても“あぁ”か“うん”しか言わない。
 「ほら、冬弥ちゃん、猫さん可愛いでしょ〜?」
 暁が猫のぬいぐるみを冬弥の目の前に持っていく。
 「あぁ。」
 「冬弥ちゃん、猫好き〜?」
 「うん。」
 「・・・冬弥ちゃん・・・?」
 「あぁ。」
 「ねぇってば!」
 「うん。」
 「冬弥ちゃん・・・!?」
 「あぁ。」
 「俺の事好き?」
 「うん。」
 ・・・・・・・・・・・・・。
 「・・・どぅえぇぇぇぇぇっ!!!?!????!?!?!?」
 冬弥はそう叫ぶと、すっくと立ち上がった。
 「やぱり、冬弥ちゃん・・・俺の事・・・。」
 「うわっ!!ちが・・・ちちちちち・・・ってか、頬を染めるなぁっ!」
 「わかってた☆いつも強がってたけど、本当は・・・」
 「だから、違うって言って・・・すりよって来んなぁっ!!」
 「んじゃ、冬弥ちゃん♪仲良くお風呂でも入りに行きましょーかぁっ☆」
 「だから・・・」
 「あたしも行く〜!」
 「んじゃ、皆で行くか。」
 魅琴ともなもその意見に賛同して、立ち上がる。
 「だから、人の話を・・・ちょっ・・・!!」
 そんな冬弥の意見もむなしく、ズルズルと風呂場に引き摺られていく。
 「そー言えば、ここって露天風呂なんだよね〜!」
 「あぁ。しかも男女混浴って書いてあるぞ。」
 魅琴はそう言うと、廊下に貼られている紙を指し示した。
 本当だ・・・混浴と書いてある・・・。
 「スゲーって・・・男女混浴!?きゃー、俺、ハズカシー!」
 暁はそう言って顔を覆うと、冬弥の方を見た。
 「俺か!?俺なのか!?そうじゃないだろ!?」
 「魅琴さんも、あんま・・・み・な・い・で・・・」
 「てめぇはれっきとした男だっ!!」
 冬弥はそう言うと、暁の胸倉を掴んで前後にシェイクした。
 「・・・でもさぁ、冬弥ちゃん。確かめたわけじゃないでしょう?」
 「・・・・・・・は?」
 「だからさ、確かめたわけじゃないでしょ?」
 「お前、男だろ!?」
 「さぁねぇ〜。それはどーでしょ〜☆」
 タラタラと、冷や汗が流れる。
 「いや・・・だって・・・ほら・・・。」
 「えへ☆」
 暁がそう言ってにっこりと微笑んだ時・・・廊下の端から一人の仲居さんが走ってきて魅琴にぶつかった。
 「おっと・・・」
 「あ、すみません・・・。」
 「あれ?堀内さ・・・」
 堀内はペコリと一礼すると、そのまま廊下の向こうへと走っていってしまった。
 「なんだろう?随分慌ててたみたいだけど・・・。」
 「ま、いーじゃん!ほら、お風呂お風呂〜!」
 もながそう言いながら、ブンブンと持っていた手ぬぐいを振り回した。


 「ぷっは〜!やっぱ風呂上りはフルーツ牛乳でしょ!」
 「ね〜!おいしー☆☆」
 もなと暁が美味しそうにフルーツ牛乳を飲んでいる隣では、のぼせた冬弥とそれを看護する魅琴の姿があった。
 「う〜・・・目が回る・・・。」
 「あんなぁ、あれだけ長時間風呂につかってれば誰だってそーなるっつーの。」
 魅琴はそう言いながらも、冬弥の目の前に買ってきたスポーツドリンクを差し出す。
 冬弥は暁の言葉を真に受けて、暁の方を一瞬たりとも見なかったのだ。
 それを面白がって、暁は流しのところでグズグズしていた。
 風呂につかりながら、壁の方を向いてずーっとつかっていた冬弥は・・・結果のぼせてしまったのだ。
 「大体なぁ、お前前回コイツの上半身見たじゃねぇか。」
 カラオケの時に。
 と、そっと付け加える。
 「馬鹿・・・上半身だけで・・・決まるかよ・・・世の中には・・・。」
 そう言ってチラリともなの方を見て、解ってくれよと言う視線を魅琴に向ける。
 「まぁ、解らなくも・・・」
 「魅琴ちゃん、冬弥ちゃん。なんの話してんの〜!?」
 「・・・スミマセン・・・。」
 「それにしても・・・浴衣似合うよ、もなちゃんv」
 「本当!?暁ちゃんも似合ってるよ〜!」
 キャッキャとはしゃぎながら、もなが暁の腰に抱きつく。
 「・・・ガキは浴衣が似合うもんなぁ。」
 「なんか言った?魅琴ちゃん?」
 「イエ・・・ナニモ・・・。」
 「んじゃぁ、みんなでなんかしようか〜?」
 「ねね、向こうに娯楽室があったはずだよ!」
 「マジで!?じゃあ、卓球しよー!冬弥ちゃん!勝負!」
 「・・・てめぇ。俺を少しは労われ・・・。」
 「え〜!あたしも暁ちゃんと勝負したいっ!」
 「んじゃぁ、もなちゃんも勝負する?」
 「じゃ、俺もやろーかな。」
 「それじゃぁ、魅琴ちゃんとは冬弥ちゃんを賭けて勝負ね!」
 「よっしゃぁぁ!」
 「なんでそこでやる気になってんだよ魅琴っ!」
 「絶対負けないからね!」
 「おう、俺から冬弥を奪って見やがれ!」
 「暁ちゃん、ファイト!」
 「おいおいおい・・・本人の意思無視して勝手に話を進めるなぁっ!!」


■据え膳食わぬは何とかやら■


 「疲れた・・・もう、動けねぇ・・・。」
 「まぁたしても冬弥ちゃんとは引き分けだったしねぇ〜。」
 布団の上にぐったりと伸びている冬弥の脇に、暁はチョコリと座った。
 もなと魅琴は未だに娯楽室で卓球を続けている。
 「まじ・・あの2人、ヤバイ・・。」
 「球が見えないもんね、あの2人の卓球。」
 音すらも、ほとんど続けて聞こえる。
 隣のカップルがやっていた卓球がなんと可愛い事か・・・。
 カコン・・・カコン・・・
 その隣では
 カッカッカッカッカッカ・・・!!!
 「マジ・・・なにもんだよアイツラ・・・。」
 「目がマジだったもんね。」
 暁や冬弥を相手にしていた時は、相当手を抜いていたと考えられる。
 しかし、あんな凄まじい球を放たれた日には微動だにできずに試合は終わっていただろうけれども・・・。
 「あ〜・・しっかし疲れた。」
 「も〜寝るの?冬弥ちゃん?」
 「あぁ。別に五月蝿くしてていーぞ。テレビ見てても良いから。」
 「ん〜、解った。」
 暁はコクリと頷くと、隣の布団に入り込み、ペラリと布団をめくった。
 「カモーン冬弥ちゃん。カムカム。」
 「・・・あ?」
 何の事だかさっぱりわかりませんと言うように、冬弥が眉をしかめる。
 「俺はいつでもオッケーだよん。」
 「あぁっ!?」
 「ほら、て・れ・て・な・い・・・・」
 「照れてるわけじゃ・・・」
 「あ〜つっかれたぁ〜!も〜、本当魅琴ちゃん、信じらんな〜い!女の子相手に・・・」
 ガラリとふすまを開けたもなが、その光景を見て止る。
 「・・・あ、邪魔しちゃった・・・?」
 「邪魔しちゃったじゃ・・・」
 「ね〜もなちゃん、据え膳食わぬは〜って言うのに、冬弥ちゃんったら〜!もなちゃんもそー思うっしょ?」
 「え〜。冬弥ちゃん、それは男として・・・」
 「テメェに男を説かれたくねぇっ!!」
 「ま、あたししばらく外ぶらぶらしてるから〜。」
 「おい・・・ちょっ・・・」
 「ありがと〜もなちゃん☆」
 「ありがと〜じゃ・・・まて・・・もな・・・おい・・・」
 ガラガラと、ふすまは音を立てて閉められた。
 ガクリと冬弥が肩を落とす。
 「おい・・・お前・・・。もなにどー思われてるんだよ俺ら・・・。」
 「どーって、今見たまんまじゃない?」
 ケロリと言う暁に向かって、冬弥はきっと顔を向けた。
 横たえていた体を起こす。
 「大体からして、お前がそーやってくだらね〜冗談を・・・」
 「冗談じゃないって。ほら、と・う・や・・・」
 「・・・・・冗談じゃないんだな・・・?」
 プチンと、冬弥の中で何かが切れる音が聞こえた。
 「え・・・?」
 ユラリと顔を上げた冬弥の目は・・・完全に据わっている!!!
 ガバリと立ち上がり、暁の肩を掴む。
 そしてそのまま布団に押し倒し・・・。
 「え・・・!?ちょっ・・・ちょっとちょっと冬弥ちゃん!!!」
 「冗談じゃないんだろ?」
 冬弥の目は完全に据わっている・・・!!!
 暁君、絶体絶命の大☆ピーンチ!
 「おーい、もな帰って・・・」
 ガラリとふすまが開いて、魅琴が顔を覗かせた。
 視線はゆっくりとこちらに向けられて・・・止る・・・。
 「・・・お前ら・・・なにしてんだ・・・。」
 その瞬間、冬弥の中の何かが音を立てて崩れた・・・。

 
□そして旅は終わりを告げる・・・??□


 「暁ちゃん!ほら、このお土産も可愛いよ!」
 「あ、本当だ〜ってか、もなちゃん・・このお饅頭美味しいよ〜!ほら、あーんして。」
 「あーん・・・ん、本当だ!美味しい〜!」
 「これ買っちゃおうよ!」
 「うんうん、買う買う!」
 キャッキャと騒ぐ2人から少し離れた場所で、冬弥と魅琴は座っていた。
 明らかに冬弥の様子がおかしい。
 「ま、あれだわ。お前もそーゆーけが・・・」
 「違う!」
 「冗談だよ。なんかがプチンと切れちまったんだろ〜?ほら、暁って結構綺麗・・」
 「だから、違う!」
 「はいはい、解りましたよ。」
 はーヤレヤレ、これだから冬弥は・・・などと呟く。
 「ねーねー魅琴ちゃん!ほら、これあげる〜!」
 満面の笑みで暁ともなが帰ってくる。
 その手にはごっそりとお土産が抱え込まれている。
 「ん?さんきゅ。なんだこれは・・・」
 「携帯ストラップ〜!」
 「あぁ、さんきゅ。」
 「ちなみに魅琴ちゃんはもなちゃんとお揃いで〜、じゃ〜ん、冬弥ちゃんにはこれ!俺とペアですっ!」
 差し出されたソレを、恐る恐る手に取ると・・・冬弥は溜息をついた。
 「まぁまぁ、あの夜の出来事は俺達の甘いメモリアルとして・・・」
 「消せ!今すぐこの場で消せ!」
 「え〜だぁってぇ、やっと俺の心が通じた瞬間・・・」
 「だから、違うっての!ちょっと何かが・・・。」
 「プッツンしちゃったんでしょ〜?あたし思うんだけど、それ多分、りせ・・・」
 「違うっ!違うったら、ちっが〜〜〜〜〜!!!!」

  キャーーーーッ!!!

 冬弥の叫びに混じって、遠くから女の人の悲鳴が聞こえてくる。
 「・・・なんだ?」
 「あっちから聞こえてきたよ!」
 もなが廊下の端を指差し走って行く。
 ドタドタと走って、突き当りの部屋をがらりと開ける。
 「・・・な・・・。」
 魅琴が思わずその光景に驚き言葉を失う。
 「・・これって・・・。」
 もなも驚きのあまり固まっている。
 「・・・誰が大暴れしたんだろーねぇ。」
 ・・・そうじゃないだろうっ!
 めちゃめちゃになった部屋の中で、女将さんらしき女性が青い顔で座っている。
 「どうしたんだ?これはなんだ?」
 冬弥が足元に散らばる物を踏まないように注意しながら女将の方に近寄り、その腕を掴んで立たせた。
 「怪我は・・・してないな。」
 「違うんです。ここに来たら・・・部屋がこうなっていて・・・お金が・・・ないんです・・・。」
 「金だって・・?」
 「はい・・確かにこの引き出しに入れておいた・・・300万が・・・。」
 「「300万!?」」
 魅琴と暁の声が重なる。
 「え〜。そんなん別にいーじゃん。お菓子買ったと思えば。」
 もながそう言いながら、ため息をつく。
 溜息をつきたいのはこっちだ!
 300万でどんだけお菓子を買う気なのだこの子は・・・!
 300円と勘違いしているのではないか?!
 「もな・・・夢幻館感覚でものを見るな。」
 「あ、そーだったね。はぁ〜い。」
 夢幻館感覚・・・。
 恐るべし夢幻館・・・。
 暁は思わずそう呟いてしまっていた。
 無論、脳内で・・。
 「じゃぁ、誰か取った人に心当たりは・・・」
 「堀内さんじゃないかしら・・・!」
 いつの間にか、扉の向こうに仲居さんが立っていた。
 ネームプレートには『武藤』の文字・・。
 「私、見てたんです。この廊下の端で・・夜、堀内さんがそこから慌てて出てくるところ。」
 確か・・廊下の途中で魅琴にぶつかって・・・。
 何かおかしい・・。
 なんだ?何が引っかかってるんだ・・・?
 暁は思わず廊下を見つめた。
 昨夜、その廊下をもなちゃんと魅琴ちゃんと冬弥ちゃんと4人で通って・・・その途中で堀内さんとぶつかて・・・。
 「それじゃぁ、堀内さんをここに呼んで・・・」
 「ちょっと待ってよ女将さん。」
 暁はそう言うと、すっと前に出た。
 「堀内さんじゃないよ。」
 「私は昨日、この部屋から堀内さんが走って出てくるのを見たのよ!」
 「その廊下の端で?」
 「そう!真っ直ぐに走って出てきて・・・」
 「あんたはあっちの廊下で見てたんじゃない。この部屋から見てたんだ。」
 「なにを根拠に・・・」
 「だぁって〜、あの夜、あたし達堀内さんに会ったんだもん。」
 「俺と廊下でぶつかってな。」
 「あんたにはそれが見えなかったんだ。ただ、堀内さんがこの部屋を開けたのだけは解っていた・・・違うか?」
 「何を言って・・・」
 「この部屋がめちゃくちゃにされているのを見た堀内さんは驚いて・・・そうだなぁ、多分その300万円が入ってた引き出しが開いてたんじゃないかな?」
 「んで、自分がやったと思われるのを恐れた堀内さんは走って逃げてしまった・・・って事か?」
 「多分ね。」
 暁はそう言うと、女将を見つめた。
 「ま、部屋を調べてみれば解るんじゃない〜?」
 その言葉に、武藤は肩を落として罪を認めた。
 どうしても・・お金が必要だったのだと言う。
 女将は優しく武藤の肩を叩くと、入用なら、言ってくれれば貸しますと穏やかに言った・・・。
 「これで、全てがま〜るくおさまったね!」
 「まぁな。」
 暁達は、そう言って旅館を後にした。
 「それにしても・・・湯煙旅情殺人事件とかなくって良かったよね〜!楽しい雰囲気がぶち壊しになっちゃうもんね〜!」
 もなの言葉に、思わず頷く。
 「ま、今回は冬弥ちゃんの新たな一面も見れた事だし・・・」
 「忘れろっつってんだろっ!?」
 「これは俺の思い出の1ページ目に・・・」


 「や・・・ヤメロォォォォォォォ〜〜〜〜!!!!」



     〈END〉


 □■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
 □■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員


  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/神崎 魅琴/男性/19歳/夢幻館の雇われボディーガード

 □■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 ■         ライター通信          ■
 □■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

  この度は『All seasons』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
  そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)

  さて、如何でしたでしょうか?
  冬弥逆襲編で、ございます。
  暁様の危機が訪れております・・・!!結局最後はやられキャラになっておりますが・・・。
  事件は、軽めのものを選んでみました。全体的に和やかコメディーでしたから、そのまま和やかな雰囲気を引き継いだものになっております。


  それでは、またどこかでお逢いいたしましたらよろしくお願いいたします。