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地獄の大局サッカー
〜 現実はときに想像を超える 〜
ちょっと変わったサッカーをやる。
その一言に誘われてやってきた数百人の参加者たちのほとんどが、自らの決定を後悔していた。
『大局サッカーで使用されるグラウンドの広さは1000ヤード×500ヤード。
これは通常のサッカーグラウンドの四十倍から百倍に相当します』
見渡す限りの、だだっ広いグラウンド。
その遙か彼方に、通常の十倍近い幅のあるゴールのようなものが、微かに見えている。
(これのどこが「ちょっと変わったサッカー」だよ)
全員が心の中でそうツッコんだが、とてもそれを口に出して言える空気ではなかった。
『出場できる選手は各チーム百十人。うちゴールキーパーが十名となります。
最大ベンチ入りメンバーは百五十人、最大交代可能人数は二十五人までです』
グラウンドは「四十倍から百倍」もあるというのに、出場できる選手数は通常のサッカーの十倍に過ぎない。
ということは、当然一人一人がカバーしなければならない範囲は広くなる。
(これは、大変なことになってきた)
どんどん話が大きくなることに焦りを覚えつつあった一同に、次の言葉がとどめを刺した。
『当然時間の方も九十分では短すぎますので、九時間とさせていただきます。
つまり、前後半四時間半ずつ。ハーフタイムは一時間とします。
時間内に試合が決着しない場合、前後半それぞれ最大一時間半ずつ、ゴールデンゴール方式の延長戦を行います』
延長戦までフル出場となると、最大十二時間にもわたってピッチに立ち続けなければならないらしい。
一体、どれだけのスタミナがあれば、そんなマネができるというのだろう。
想像を遙かに超えた事態に、もはや怒る気力もツッコむ気力も失せ、参加者たちはただただ呆然と立ちつくすより他なかった。
そんな一同の様子にも構わず、案内役の男は淡々と自分の仕事を進めていく。
『また、選手にはそれぞれ発信機つきのヘッドセットが支給されます。
出場している全選手にはそれを身につけていただき、両チームの監督には、メインスタンド脇の監督室からヘッドセットを通じてリアルタイムで指示を出していただきます。
監督室のモニターには上空カメラからの映像が映し出される仕組みになっていますので、そちらも合わせてご利用下さい』
どうやら、監督になれば、少なくともこのグラウンドを嫌というほど走り回らされることだけはなくなりそうだ。
とはいえ、監督ばかり二人も三人もいても仕方がないし、なにより監督は試合の結果に対して選手よりはるかに大きな責任を負うことになる。
(はたして、監督をやるべきか、やらざるべきか?)
『その他のルールは通常のサッカーとおおむね変わりありません。
各試合ごとに、九時間以内での勝利チームには勝ち点3、延長戦での勝利チームには勝ち点2、引き分けの場合両チームに勝ち点1を与え、全十試合が終了した時点での勝ち点、及び得失点差によって順位を決定いたします。
また、全試合を通じての得点王、最多アシスト、及びMVPとなった選手には素晴らしい賞品が用意されています』
全十試合ということは、総当たりで各チーム四試合をこなすことになるらしい。
このおそろしい競技に四回も出場させられるのかと思うと気が遠くなってもくるが、これだけの苦難の果てにある「素晴らしい賞品」というのも気になるといえば気になる。
『それでは各チーム作戦会議を開始して下さい。第一試合の開始は一時間後です』
(さて、どうしたものか?)
そんなことを考えながら、参加者達はそれぞれのチームの控え室へと歩き出した。
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〜 無敵のツートップ(青龍組・第1日目) 〜
雪ノ下正風(ゆきのした・まさかぜ)の所属する青龍組は、初戦で朱雀組と対戦することになった。
朱雀組の監督はSHIZUKU、そしてキャプテンは深水玲人(ふかみ・れいと)。
対する青龍組の監督は草間零、キャプテンは道南大剛(どうなん・だいごう)である。
「作戦通り、『ビューティフル・フットボール』でいきますよ!」
玲人の言葉に、周囲の選手が気勢を上げる。
敵の実力はわからないが、どうやら士気が高いことだけは確からしい。
ともあれ、そんなこんなで試合が始まった。
キックオフと同時に、朱雀組はあっちへこっちへと細かいパス回しを始める。
どうやら、パスを繋いで相手を攪乱するのが「ビューティフル・フットボール」らしい。
が、それは正風にとっては望むところだった。
「戴いてみせるっ!」
全速力でパスコースに駆け込み、ボールをカットする。
両腕の篭手の力により、大地から取り入れた気で体力回復が図れる正風は、最初から全力で走り続けていてもスタミナ切れを起こす心配がないのだ。
正風はそのまま五百メートル近い距離を一気にドリブルで切り込むと、ペナルティーエリアの手前で大きく振りかぶり、気をボールに込めて強烈なシュートを放った。
気がボールを包み込み、金色の龍と化して相手ゴールへと突き進む。
龍はそのまま朱雀組のゴールキーパーたちの間をすり抜け、見事ゴールへと突き刺さった。
それでも、朱雀組の士気が落ちることはなかった。
「ふ……先制されたからどうだと言うのです? 逆転劇こそまさに美しい!」
キックオフするなり、今度は正風を避けてボールを大きく横へ出す。
が、正風がいなければパスが通るというものでもない。
今度は青龍組の別の選手がボールをカットすると、キャプテンの大剛が中心となって攻め込み、あっさりと二点目を奪う。
「たかだか一点や二点! この程度ハンデと思えばどうということは!」
相変わらず玲人はそう言い続けていたが、「相手に取られないようにパスを繋いでいけるだけの技量のある選手が少ない」という現実は、あっさりと「ビューティフル・フットボール」の理想を崩壊させていた。
理想とともにチームも崩れ、結局前半終了時のスコアは13-0。
後半になるとそれにスタミナ切れが加わり、孤軍奮闘する玲人を尻目に正風と大剛が次々とボールをゴールに放り込む展開となった。
「走りなさい! 動きなさい! 私に続きなさい!!」
答えるものすらなき玲人の叫びが、グラウンドの風に吹かれて消えていく。
結局、32-0という圧倒的な大差で、青龍組は無事に開幕勝利を飾ったのであった。
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〜 中間発表・第1日目終了時 〜
試合数 勝 負 勝ち点 得点 失点 得失点差
青龍 1 1 0 3 32 0 +32
朱雀 1 0 1 0 0 32 −32
黄龍 1 0 1 0 0 28 −28
白虎 1 1 0 3 28 0 +28
玄武 0 0 0 0 0 0 ±0
得点王ランキング
雪ノ下 正風 12
篠森 十兵衛 12
道南 大剛 9
アシスト王ランキング
陸 誠司 9
道南 大剛 4
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〜 怒濤のゴールラッシュ(青龍組・第2日目) 〜 !
青龍組の二日目の相手は、昨日白虎組に大敗を喫している黄龍組である。
当然のごとく、黄龍組の士気はどこまでも下がっており、その上朱雀組にあったような戦術のようなものも全く見られない。
こんなチームに正風と大剛を要する青龍組が苦戦するはずもなく、試合は序盤から一方的な展開となった。
前半終了時点で、スコアはなんと15-0。
この展開は後半になっても続き、慌てた桂がなぜか空間に穴を開けてフィールドに出てきてしまい、回収に来たてらやぎの着ぐるみともども退場処分になるというオチまでついた。
最終的なスコアは、何と驚きの40-0。
正風個人もこの試合だけで十六ゴールを挙げ、早くも得点王の座が見えてきたのであった。
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〜 中間発表・第2日目終了時 〜
試合数 勝 負 勝ち点 得点 失点 得失点差
青龍 2 2 0 6 72 0 +72
朱雀 2 0 2 0 0 58 −58
黄龍 2 0 2 0 0 68 −68
白虎 1 1 0 3 28 0 +28
玄武 1 1 0 3 26 0 +26
得点王ランキング
雪ノ下 正風 28
道南 大剛 20
篠森 十兵衛 12
蟹江 正登 8
真柴 尚道 7
アシスト王ランキング
道南 大剛 12
真柴 尚道 10
陸 誠司 9
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〜 初の強敵(青龍組・第3日目) 〜
ここまでの二試合を、ともに圧倒的な勝利で終えた青龍組。
けれども、今日からの後半戦二試合は、そう簡単にはいきそうになかった。
今回対戦するのは、現在暫定二位の白虎組。
フォワードに篠森十兵衛(しのもり・じゅうべえ)、中盤に陸誠司(くが・せいじ)、そしてディフェンスに崎咲里美(さきざき・さとみ)を擁する、バランスの取れた強豪である。
当然、試合前のミーティングも熱の入ったものとなり、敵の主力選手に対する対策が次々と決められた。
まず、現在の自チームの戦力を考え、十兵衛は無視する。
もともと青龍組は攻撃力のチームなのだから、多少取られても、それ以上に取ればいい。
続いて、中盤の誠司の運動量は脅威であるから、攻撃時はなるべくボールを彼の近くに回さない。
最後に、里美の統率するディフェンス陣はかなりの堅固さを誇るが、正風の実力なら突破できるだろう。
また、大剛もなにやら「秘策がある」らしいので、敵ディフェンスラインの突破はこの二人を中心として行う。
結局、落ち着いて考えてみると「誠司に気をつける」以外はほとんどいつもと変わらない結論になってしまったが……まあ、攻撃型のチームである以上、それもやむを得まい。
ともあれ、そんなこんなで試合が始まった。
キックオフは青龍組。
大剛から正風がパスを受け、素早く敵陣に切り込む。
ところが、すぐに誠司が立ちふさがった。
「通してもらうっ!」
「させませんよ!」
小細工の通用する相手ではないと考え、気を放出しながらのドリブルで一気に突破を図る正風。
しかし誠司も一歩も譲らず、ボールはこぼれ球となった。
と、まるでそうなることを予期していたかのように、白虎組のディフェンスがそのボールを拾い、前線へと送る。
そこからうまい具合にパスが繋がり、最後は十兵衛が狙いすましたボレーシュートを決めて、あっさりと先制点は白虎組に入った。
二度目のキックオフは、前とは逆に正風から大剛にボールを渡す形となった。
今度はあえて正風にボールを回さず、大剛を起点として逆サイドから攻め上がる。
それでもいっこうに誠司が来る気配がないのを見て、大剛は誠司が正風をマークしていることを確信した。
となれば、残る難敵は里美率いるディフェンス陣のみ。
だが、大剛にはこれを破る秘策があった。
パスを出せば奪われる。
となれば、ドリブルで突破するより他に手はない。
そして、突破すべきところは……司令塔となっている、里美本人のところである。
近寄ってくるディフェンスの選手たちをかわし、あるいはファールを取られない程度のラフプレーで撃退しながら、一直線にフィールド中央を突き進む。
真っ正面から突っ込めば、里美も止めに来ないわけにはいかないだろう。
その狙い通り、いかにも「覚悟を決めて」といった様子で、里美がこちらに向かってくる。
作戦通りだ。
「どきやがれっ!」
ボールの方に足を出してきたところで、足に最大限の衝撃が行くようにボールを思い切り蹴る。
さらに、ギリギリ「勢い余って」を装える程度の強さで、さりげなくチャージをぶちかます。
小柄な里美の身体が吹っ飛ぶのを横目で見ながら、大剛は動揺するディフェンスの選手たちをすり抜け、同点となるシュートを叩き込んだ。
『大剛さん!』
見るに見かねて、監督の零が大剛を叱責する。
けれども、大剛はいっこうに悪びれた様子もなく、こう言いはなったのだった。
「俺もあいつも一人の選手だ。そして俺は勝つためにやるべきことをやる、それだけだ!」
その後、試合は一進一退の攻防が続いた。
相変わらず正風は誠司にピッタリとくっつかれており、ほとんどボールをキープできていないが、逆に誠司にボールをキープさせることもない。
一方、大剛がボールを持つと、敵ディフェンス陣は彼を遠巻きに包囲するようにしてパスやシュートのコースをふさぐようになった。
ドリブル突破は無理に止めに行かず、個人技を多用させて大剛のスタミナの消耗を誘う作戦なのだろうが、大剛はそれを見抜いた上でその挑発に乗り、前半終了直前には見事二点目のゴールを決めた。
ところが、後半に入って、その決断が裏目に出る。
前半戦での個人技の多様が祟り、大剛の運動量が目に見えて落ち始めた。
こうなると大剛頼みでここまで来たフォワード陣に白虎組のディフェンスを崩せるはずもなく、攻め込んでもあっさりとボールを奪われることが増えてくる。
そうこうしているうちに、白虎組のパスが最前線の十兵衛に渡り、あっという間に同点にされてしまった。
しかしその一方で、正風は徐々に誠司を圧倒しつつあった。
いかに誠司に尋常でないスタミナがあろうとも、疲労をゼロに抑えることはできない。
それに対して、正風は大地からの気の供給を受けているため、誠司にマークされてボールが回ってこなかった間中、疲労を回復し続けていたのである。
一瞬の隙をついて、正風が誠司を抜き去る。
誠司が体勢を立て直して追いついてくる前に、正風はロングレンジから必殺のシュートを放った。
金色の龍が、ハーフライン付近からフィールドを二つに裂くように駆け抜けていく。
いかに見事な統率力を誇る白虎組のディフェンスといえども、この一撃を止められるだけの力を持つ選手はおらず、龍はあたかも無人の荒野を行くようにディフェンスラインの間を突き抜け、青龍組に再び一点のリードをもたらした。
そして、試合終了一時間前。
3-2と青龍組が一点リードしているところで、ついにスタミナを使い果たした大剛がピッチを去った。
これをきっかけに、再び試合が動き出す。
なんと、里美が中盤まで上がり、今度は攻撃面での指示を出し始めたのである。
たちまち白虎組のパスが繋がり始め、見る見るうちに自陣奥深くまで攻め込まれる。
ここで同点のゴールを奪われれば、この試合に勝つのはきわめて難しくなる。
そう考えて、正風は誠司を振り切ってボールに向かったが、白虎組はこれを読んでいたかのように誠司にパスを出した。
逆をつかれて愕然とする正風の目の前で、ボールは無情にも誠司から十兵衛へと渡り、ゴールネットへと吸い込まれていった。
こうなると、もはや青龍組に勝ち目はなかった。
せめて決勝点だけでも阻もうと、正風は自ら十兵衛のマークに向かったが、そのせいでマークが甘くなった誠司のシュートがネットを揺らし、試合の勝敗は決したのだった。
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〜 中間発表・第3日目終了時 〜
試合数 勝 負 勝ち点 得点 失点 得失点差
青龍 3 2 1 6 75 4 +71
朱雀 2 0 2 0 0 58 −58
黄龍 3 0 3 0 0 102 −102
白虎 2 2 0 6 32 3 +29
玄武 2 2 0 6 60 0 +60
得点王ランキング
雪ノ下 正風 29
道南 大剛 22
蟹江 正登 20
真柴 尚道 16
篠森 十兵衛 15
アシスト王ランキング
真柴 尚道 17
道南 大剛 12
陸 誠司 10
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〜 最強の盾と最強の矛(青龍組・第4日目) 〜
白虎組との試合を、惜しくも落としてしまった青龍組。
すでに3勝している白虎組に追いつくためには、この玄武組との試合は何としても落とすことのできない一戦である。
とはいえ、玄武組も白虎組と並ぶ強敵、簡単に勝てる相手ではない。
前線で攻撃の要となる蟹江正登(かにえ・まさと)に、後方からチームを支える真柴尚道(ましば・なおみち)。
さらに、後半になると出てくる葛生摩耶(くずう・まや)も、ときどきではあるが攻撃の起点としていいプレーを見せている。
そして、何より脅威なのが、鉄壁の守備を誇るゴールキーパーの田中裕介(たなか・ゆうすけ)である。
裕介の守備力を考えると、なるべくなら正風にシュートを撃ってもらうしかない。
だが、向こうも当然そのことはわかっているだろうから、おそらく尚道が正風のマークについてくることだろう。
尚道のマークをかわして、裕介の守るゴールを狙わなければならないとなると、いかに正風といえども、得点できる可能性は決して高くない。
そうなると、今度はいかにして失点を防ぐかが大事になってくる。
幸い玄武組の攻撃陣で要警戒なのは正登くらいのものだが、青龍組のディフェンス陣ではその正登を封じ込めることさえおぼつかない。
しばしの沈黙の後、大剛が静かに口を開いた。
「俺が……俺たちが、中盤で全て止める。正登までは絶対つながせねぇ」
ミッドフィルダーでありながら、前線で点を取ることにこだわってきた男の、静かなる決意。
「その代わり、絶対決めてこいよ」
「わかった。任せとけ」
正風は一言そう答えて、一度小さく頷いた。
試合は、大方の予想通り――いや、大方の予想を遙かに超えて、激しい試合となった。
正風がボールを持つと尚道が素早くカットし、逆に尚道が上がろうとすると、正風がボールを弾く。
玄武組のパスは青龍組のミッドフィルダーとディフェンス陣が全力で食い止め、青龍組のいい形での攻撃は全て裕介らゴールキーパー陣が防ぎ止める。
お互い、この膠着状態を打破することができぬまま、あっという間に時間だけが過ぎた。
そして、前半終了直前。
マークについている尚道に気づかれぬようにしながら、正風はあることを待っていた。
朱雀組及び黄龍組との二試合で、裕介はゴールキーパーでありながら4ゴールをあげていた。
その全てが、終了直前の高速ドリブルによるオーバーラップからのシュートによるものである。
その裕介のオーバーラップを、正風は待ちかまえていたのである。
青龍組の攻撃力を考えて自重する可能性もあったが、こうして試合が膠着状態に入っている以上、一か八か狙ってきても不思議ではない。
狙ってこないなら、それでもいい。
だが、狙ってくるのなら――その時が、唯一無二の好機となる。
その好機を、正風は待ち望み――そして、それは唐突に訪れた。
この展開にしびれを切らした裕介が、自らドリブルで切り込んできたのだ。
正風は素早く彼の進路をふさぐように移動すると、彼が近づいてくるのを待って、足下にサッカーボール大の気弾をいくつか放った。
裕介がそれを迎撃している隙に、本物のボールを奪い取る。
あとは、裕介や尚道が戻る前に、撃ち抜くのみ。
「もらったっ!」
渾身の力を込めて、必殺の「黄龍シュート」を放つ。
尚道も裕介もいない玄武組のディフェンス陣に、これを止めるだけの力はない。
正風の見つめる中で、金色の龍はまっすぐに玄武組のゴールに向かって進んでいき――やがて、それが目的地に到達したことを知らせるホイッスルの音が辺りに響いた。
この正風の機転によって先制した青龍組は、後半も押し気味に試合を進めた。
後半から加わった摩耶には、大剛が常に目を光らせてボールを持たせないように。
尚道には常に正風がついて、攻撃の形を作られぬように。
青龍組も追加得点こそ奪えなかったものの、相変わらず再三いい形は作っている。
かくして、試合は青龍組優勢のまま、着々と進んでいった。
玄武組の側に動きがあったのは、後半ももう残りわずかとなった時であった。
なんと、先ほどと同じように、裕介がドリブルで上がってきたのである。
もちろん、今は先ほど以上に点の欲しい状況なのだろうから、裕介が切り込んできたこと自体は特に驚くに値しない。
問題は、彼がはたして今回も突破を狙ってくるのかどうか、である。
先ほど一度正風に止められていることを考えれば、正風を引き寄せておいてパスを出す、ということも、十分に考えられる。
けれども、ここで裕介をそのまま通せば、彼に同点ゴールを決められる可能性はかなり高い。
(参ったな)
仕方なく、正風は裕介を止めに向かった。
誘いの手である可能性は高いが、止めに行く以上は全力で止めに行かなければ止められる相手ではない。
例えパスであろうと、出される前に止める。
それくらいの気持ちで、正風は裕介に突撃した。
正風のマークが外れるのを見て、尚道が前へと走る。
ボールが、裕介から摩耶に渡り、摩耶から尚道へと送られてくる。
現在位置を考えれば、正風が戻ってきてくれることは期待できない。
ならば。
(俺が止める)
意を決して、大剛は真っ正面から尚道に立ち向かった。
純粋な技量に関してはともかく、身体能力では大剛は尚道に遠く及ばない。
普通に止めに行ったところで、少し時間が稼げればいい方、といったところだろう。
しかし、大剛にはもう一つだけ別の選択肢があった。
ファール覚悟のショルダーチャージである。
これなら、確実にある程度の時間は稼げる。
間違って退場になったとしても、百十人のうちの一人が減ったくらいで大勢に影響はないし、この試合が最終戦である以上、出場停止を恐れる必要もない。
「行くぞ、お前ら」
近くにいたチームメイト二人に合図を送り、作戦を実行に移す。
狙うのは、尚道が二人をかわし終えた直後の一瞬。
そこを狙って――吹っ飛ばす!
ファールは、なかった。
尻餅をついたまま振り向くと、尚道が何事もなかったかのようにドリブルを続けている。
大剛のチャージを、何と尚道は真っ正面から受け止め、弾き返したのだ。
「やれやれ……あいつ、化け物かよ」
小さくため息をつく大剛の見ている前で、尚道のミドルシュートがゴール右隅に突き刺さった。
かくして、試合は1-1の振り出しに戻り、とうとう今大会初の延長戦へともつれ込んだ。
とはいえ、スタミナが切れた選手を積極的に交代させていた青龍組と、後半終了間際まで交代枠をいくつも残していた玄武組とでは、玄武組に明らかに分がある。
玄武組は摩耶を起点とした攻撃で立て続けに青龍組のゴールに迫り、最後は正登のループシュートがこの試合に終止符を打った。
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〜 中間発表・第4日目終了時 〜
試合数 勝(延長)負 勝ち点 得点 失点 得失点差
青龍 4 2 2 6 76 6 +70
朱雀 3 0 3 0 0 85 −85
黄龍 3 0 3 0 0 102 −102
白虎 3 3 0 9 59 3 +56
玄武 3 3(1) 0 8 62 1 +61
得点王ランキング
雪ノ下 正風 30
篠森 十兵衛 27
道南 大剛 22
蟹江 正登 21
真柴 尚道 17
アシスト王ランキング
真柴 尚道 17
陸 誠司 14
道南 大剛 12
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〜 得点王は誰の手に(青龍組・第5日目) 〜
最終日が休養日となる青龍組は、すでに四日目までに全試合を終了していた。
二勝二敗、勝ち点六で、順位もすでに三位が確定している。
それでも、正風にとっては、まだ全てが終わったわけではなかった。
現在の所、正風は四試合で三十得点を挙げ、得点王争いのトップに立っている。
けれども、今日の試合の結果次第では、その得点王の座を奪われる可能性があるのだ。
特に厄介なのが、白虎組の十兵衛である。
ここまでの彼との得点差はわずかに三点。
一試合しかないとはいえ、十分に追いつき、追い越せる点差である。
正風が落ち着かずにうろうろしていると、大剛が声をかけてきた。
「やっぱ、気になんのか?」
「気にならないって言ったら嘘になるな。
やっぱりここまでやったんだし、とれる賞なら、ほしい」
その答えに、大剛が苦笑しながらこう続ける。
「心配しなくても、お前で決まりだって。
白虎組も玄武組も守りのチームだし、大量点なんか入らねぇよ。
特に、玄武組からは俺たちだって一点しか取れなかったんだから、白虎組に取れるわけねぇさ」
確かに、普通に考えれば、十兵衛が裕介から三点もとることはないだろう。
だが、サッカーというのは――いや、サッカーに限らず、スポーツというのは――何が起こるかわからないものである。
「とは思うけどな。やっぱり、決まるまでは安心できない」
すると、大剛が今度はこんな事を言い出した。
「なら、飯でも賭けるか? 俺はお前がとれない方に賭けるけどな」
「なんだよそれ」
「おごってやる、ってことだよ。
優勝はできなかったけど、タイトルくらいはとれそうだからな。
正式に決まったら、派手に祝おうじゃねえか」
そう言って楽しそうに笑う大剛を見て、正風もつられるように笑った。
そして。
白虎組対玄武組は0-1で玄武組の勝利に終わり、正風は無事に得点王のタイトルを手にしたのだった。
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〜 結果発表 〜
順位 試合数 勝(延長)負 勝ち点 得点 失点 得失点差
1 玄武 4 4(1) 0 11 63 1 +62
2 白虎 4 3 1 9 59 4 +55
3 青龍 4 2 2 6 76 6 +70
4 朱雀 4 1 3 3 8 90 −82
5 黄龍 4 0 4 0 5 110 −105
得点王ランキング
雪ノ下 正風 30
篠森 十兵衛 27
道南 大剛 22
蟹江 正登 22
真柴 尚道 17
陸 誠司 16
(中略)
田中 裕介 4
アシスト王ランキング
真柴 尚道 17
陸 誠司 14
道南 大剛 12
(中略)
田中 裕介 1
蟹江 正登 1
MVP
田中 裕介
(総失点を1点に抑えたこと及び攻撃面での貢献を評価)
ベストイレブン
GK 田中 裕介 (玄武)
DF 崎咲 里美 (白虎)
DF 真柴 尚道 (玄武)
DF ・・・・・・(玄武)
MF 陸 誠司 (白虎)
MF 道南 大剛 (青龍)
MF ・・・・・・(青龍)
MF ・・・・・・(玄武)
FW 雪ノ下 正風(青龍)
FW 篠森 十兵衛(白虎)
FW 蟹江 正登 (玄武)
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〜 おまけ 〜
こうして、五日間に渡る「大局サッカー」は終了した。
無事に結果発表をかねた表彰式も終わり、選手たちは元の陸上競技場に戻るべく、ここへ来たときに使ったバスターミナルへと向かった。
と、その時。
『選手の皆様、お疲れ様でした』
最初にここに来たときに聞いたのと同じ、案内人の声が響く。
おそらく、帰りのバスの案内だろう。
参加した人間のほぼ全員がそう思ったが――残念ながら、その予想は見事に裏切られた。
『続きまして、ビッグアリーナに移動しての大局バスケットボールが行われます。
参加希望の方は、バスターミナルの東側に集合して下さい』
この「大局バスケットボール」とやらが、人数が集まらずに中止になったことは言うまでもない。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組 / 順位】
「運動量はピカイチ! 中盤の覇者」
5096 / 陸・誠司 / 男性 / 18 / 学生兼道士 / 白 / 2位
「終わりよければ全てよし!? 終盤の策士」
1979 / 葛生・摩耶 / 女性 / 20 / 泡姫 / 黒 / 1位
「攻めも守りも任せとけ! 攻守の要」
2158 / 真柴・尚道 / 男性 / 21 / フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神) / 黒 / 1位
「的確な指示でピンチをしのげ! ディフェンスラインの統率者」
2836 / 崎咲・里美 / 女性 / 19 / 敏腕新聞記者 / 白 / 2位
「疾風怒濤で突き進め! 孤高のエースストライカー」
0391 / 雪ノ下・正風 / 男性 / 22 / オカルト作家 / 青 / 3位
「守り抜く、だがそれだけじゃない! 攻撃参加も得意な高速の守護神」
1098 / 田中・裕介 / 男性 / 18 / 孤児院のお手伝い兼何でも屋 / 黒 / 1位
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■ 獲得点数 ■
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青組:10 / 赤組:0 / 黄組:0 / 白組:20 / 黒組:30
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度はご参加下さいましてありがとうございました。
と、いうわけで、だいたい参加して下さった人数に比例した結果となりました。
個人的には監督をやろうとする人が一人もいなかったのが驚きだったのですが……。
・このノベルの構成について
今回のノベルは、十二のパートで構成されています。
試合部分については各組で違ったものとなっておりますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。
・個別通信(雪ノ下正風様)
今回はご参加ありがとうございました。
正風さんは唯一フォワードでの参加ということで、ばしばし点を取りまくっていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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