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<五行霊獣競覇大占儀運動会・運動会ノベル>


ジャージ戦隊VSブル魔人☆紅茶障害物競争

●始まり
「これって何よ」
 七継梨音(ななつぐ・りね)は言った。
 30センチほどの大きな白いカップに入った紅茶を眺めつつあたりを見回せば、賑やかな音が辺りに響いている。
 『五行霊獣競覇大占儀運動会』
 そんな見出しに惹かれて迷い込んだのが運の尽き。
 さっきまで来ていたブレザーの制服が、何故か今は体操服とブルマーになっていた。
「何なのよ〜」
「はい、見ての通り。運動会なんですよ」
 困惑顔の美少女に向かって草間零は言った。
 視線を向ければ梨音と同じ格好をしている、零。草間興信所の人間も参加者なのかと梨音は溜息をついた。
「と言うことは、この街全部……たぶん、ゴーストネットもなんだろうなあ」
「そうですよ〜」
「やっぱり。じゃぁ、強制ってことかな?」
「いいえ、そんなことないですよ。でも、参加するなら簡単なものからやってみるのも良いかとは思いますけど」
「ふーん、何があるのかな」
「これなんかどうです?」
 そう言ってその大きなカップを指差した。
 ついでにと出してきたのは一部のパンフレットだった。後ろの方に「月刊アトラス編集部」と書いてある。どうやら編集部の人間が面白おかしく楽しむために作ったコピー本らしい。注意書きに【非公認本ですのでご注意ください】と書いてあるあたりでそれがわかった。
 梨音はペラペラと捲っていく。
「へぇ〜、これって紅茶障害物競争って言うんだあ。これならできそうかも。初級レベルって書いてあるし」
 何がどうして初級なのかという突っ込みは思い当たらなかったらしい。梨音は何の疑問をもたずに参加することにした。
 そして……

「なんなのよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 梨音は叫んだ。
 目の前には遊園地とステージ。
 つまり、この先のゴールへとカップを運べということらしい。
 何かが起こりそうな気配に、参加したちは立ち尽くしていた。

●どこですか、ここは
 青砥凛は辺りを眺めていた。
「あれ……? これ……ジャージ?」
 少し長めの黒髪を揺らし、小首を傾げた。
 ほっそりとした肢体に纏っているのはジャージだ。美少年が好きなお姉さま方が見たら、理想の少年と眺めつづけるであろう。
 凛は自分の手を見た。巨大カップがあった。
「ちょっと重い」
 ついでにその視線を下に持っていく。チャックの付いた白い上着にTシャツ、ズボンも白。上着の袖とズボンの側面にブルーのラインが一本入っていて、中々に格好良い。
 ついさっきまでゴーストネット・オフにいたはずなのだが、見かけたチラシを手に取り、「『五行霊獣競覇大占儀運動会』……へぇ、面白そう」と呟いていたところだった。
 ゴーストネットへと足を運んでいた凛はチラシから顔を見上げ、場所を確認を終了した瞬間、ここにきていた。
 今でも風景があっという間に変わったことに呆然としている。当然だろう。ここは遊園地の中なのだから。
「服……返して欲しいんだけど……な」
 通り過ぎるパレードも気にかけないまま呟く。
 さっきまできていたのは、お気に入りのBPNのシャツとPUTOMAYOのコートだ。値段が値段だけに、返してもらえるのだろうかと少し不安になった。
「あの……服は〜」
『だ、誰か助けてください〜〜〜〜、とりあえずでいいので』
「は?」
 とりあえずって何よと、いきなり聞こえてきた声に凛は顔を上げた。
 拡声器を使って叫んでいたのは、零。
「あ……草間さんのところの……零ちゃん」
『凛さーん、凛さーん! 助けてください!』
 ちーっとも必死の形相ではない零は、どことなく『元気な声』で叫んでいる。
「あ、はい」
 凛は素直に答えた。
「これって競技……なんですよね?」
 この状況からすると、競技に違いないと思い、凛は言った。
 チラシを持ったらいきなりお着替え、場所移動なんてこの街らしい。まったくもって疑う余地などない。
『はい、そーです〜〜〜〜〜』
「やっぱり……」
『二人組じゃなきゃ失格です〜』
「え?」
 失格だと助けられないなと、凛は辺りを見回した。遠くの方ではジャージ戦隊とブル魔人たちが戦っている。
「あ、あの〜……ジャージ戦隊さん」
「何だね、君! 正義の味方がこんなところで道くさ食っちゃイカンな!」
 いきなり登場して叱る、赤ジャージ。
「うーん……じゃぁ、相手をください」
 遠方の赤ジャージに向かって言った。
「何を言うかね! 自分で捜したまえ」
 などと勝手なことを言うなり、赤ジャージは走っていく。
 見た目にはそう見えないが、凛は確実に困惑していた。それはあたりまえだ。勝手につれてきて、いきなり叱って去られた日にゃ〜、凛の立つ瀬も無い。
 しかし、そんなことで怒る凛ではなかった。
 仕方なく、手に持った紅茶を零さないように歩き始める。しかし、これが曲者で、一人で持つとさすがに重かった。30センチのカップに入っている紅茶は、凛の目には3〜4キロ分の紅茶が入っているように見えた。
 歩くたびにどんどん苦痛になってくる。
「だ、だれか……たすけて」
 か細い声で言うと重い溜息を付いた。
「よいしょ! よいしょ!」
「梨音、もっと右を下げて!」
 そんな声が聞こえて振り返ると、田中祐介と七継梨音がカップを持って走ってきていた。
 祐介は草間興信所で見かけたこともあるような気がしたが、あんまり出入りしない場所でもあるので、凛の記憶も曖昧だ。彼の服装は黒字のスポーツウエアに髪を黒い鉢巻でとめている。黒組なのだろう。
「だ、だってぇ〜」
 梨音の方は泣きべそだ。
 なんとなく長時間走っているようにも見える。彼女はよれよれだった。
 しかし、祐介の方は元気で、時折梨音にカップを持たせて妨害者を闘気術で高速移動しつつ、敵をぶっ飛ばしていた。
 すばやく素手であしらいカップを守り、騒然となるイベント会場を駆け抜ける。
「すごい……」
 凛は呟いた。
 梨音を背負いカップの中身を揺らさない静かですばやい動きですり抜けた。ジェットコースターの天辺まではお姫様抱っこでジャンプ。
「おぉ……」
 ぴょ〜んとジェットコースターの上を飛んでいく祐介に、凛は手をパチパチと叩く。
 そんな凛の後からクスッと笑う声が聞こえる。
「?」
 振り返ると、苦笑めいた笑みを浮かべた黒髪の青年が立っていた。
 襟足が長めのウルフカットをした青年は美しいというのに充分な容姿をしている。金の瞳に整い過ぎた鼻梁。薄い唇はどこか艶かしい。身長は凛の背より2、30センチは越えているだろう。
 細い手足は長く、黒いチャイナカラーのシャツにズボンを履き、鉢巻は腕に巻いていた。
「だれ?」
「卦内」
 彼は言った。
「けない……名前? もしかして」
 凛は小首を傾げる。
 青年は微笑んだまま頷いた。
「重くないか?」
「あ……重い」
「だろう? 俺は相手がいない。良ければ持つぞ、半分だけなら」
「ありがとう……」
 協力相手の申し込みなのだと気が付いた凛は少し笑った。
 いつもぼーっとしているため表情が出にくいが、凛は嬉しかったのだ。重い荷物から開放されることがではなく、誰かいるというのが嬉しかった。

●聖なる戦士
「敵はブル魔人さんですか…よろしくお願いします」
 ブルーノ・Mはぺこっと敵に頭を下げた。
 試合う前には礼儀が一番。そして、ブルーノは振り返って青ジャージ隊員に言う。
「ジャージ戦隊さん、一緒に悪と戦いましょう!」
 ブルーノは相手の格好や名前が変だと、ちーっとも気付いていない。
「わーっ! 馬鹿ッ! 頭下げろ」
 上で見ていた叶遥は叫んだ。
「はい?」

 ご〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!

「あ……」
 ブルーノは言った。
 その瞬間、ブルーノの頭に誰かの落としたカップがぶつかる。
 バチカンの対霊鬼兵用兵器であるブルーノに損傷は無かったが、見ているほうが痛そうにしていた。
「だいじょうぶか!」
「皆さん、ご心配おかけしてすみません。僕はだいじょうぶです」
「何やってんだ、相手は青組だぞ!」
「あ、はい。そうでしたね」
 ブルーノは遥が青組なのに気が付いて言った。ブルーノは黒組だ。
「それじゃ……ブル魔人! そして……えーっと、お名前は?」
「お、俺?」
 遥は自分を指差して言う。ブルーノはそんな春かを見てにっこりと微笑んだ。
 ブルーノはどう見ても中学生ぐらいにしか見えない。遥は親近感を持って自分も微笑み、ブルーノに言う。
「俺は遥、は・る・か〜〜〜〜〜」
「はいっ! は・る・か〜〜〜〜〜……さんですねっ」
「違ぇ〜っつーの! は・る・か」
「わかりました。は・る・か……さんですね」
「違ぇー! 思いっきり違ぇーつの」
 しかし、ブルーノは聞いていなかった。
「ブル魔人、は・る・かさん! お前の悪事もここまでだ!」
「は?」
「おとなしく姫を帰せばよし。さもなくば……天誅!」
「俺は何もやってねーっつの!」
「ブルーノさん、助けて〜〜〜〜〜」
 まるで煽るように零は叫んだ。
 煽るつもりはまったく無いのだが、碧磨蓮が早く叫べと後で言っていたので、しかたなく叫んだのだった。
「そうだッ! 姫を救え!」
 黄ジャージが叫ぶ。
 遥は何がなんだかわからなくなった。
「え、ええ??」
「天誅!」
 聖霊砲や飛行能力は封じている、ブルーノは精霊具現化によるスポンジ剣で遥に襲い掛かる。遥はいきなり始まったチャンバラに面食らった。
「くっそー!」
 遥はそこらへんに転がっていた金属バットで迎え撃つ。
「えいや、えいや、えいやっ!」
 遥はめっちゃくちゃに振り回す。
 相対するブルーノも殺陣は素人。相手が怪我しないよう手加減して戦うつもりだったのだが、健闘する遥の様子にすっかり楽しくなってしまい、つい本気の格闘戦モードになりかける。
 戦う二人の横を一陣の風のように祐介たちが走り抜けていく。
 ジェットコースターのレールの上を覚束ない足取りで必死に付いていく梨音に苦笑し、祐介は梨音を姫抱っこしていた。
 後を追うブル魔人の配下は執拗に攻撃してきた。
 またその後をマイペースで走る、凛&卦内。
 戦いなんぞはどうでも良いらしい卦内は式符のトラップを仕掛けていく。凛はブル魔人やら参加者が通りかかるたびに、その符を爆発――もとい発動させていった。
「うわぁああああっ!」
「ぎゃぁ!」
「たそがれ〜〜〜〜〜〜」
「落ちる〜〜〜〜〜」
 様々に聞こえる叫びに凛は小首を傾げた。
「何故に……たそがれ?」
「さぁ?」
 卦内は応えた。
「さっさと終わらせて酒でも飲みたいな」
「僕は高校生だから……飲めない」
「そうか。じゃあ、話し相手で」
「それって……ナンパ……」
「暇なのさ、色々と」
 卦内は笑った。
 相手を見つける前に戦闘に入ってしまった遥はバットを捨てて逃げた。このままでは紅茶が零れてしまう。
「くっそ〜〜〜〜! あんなに強いなんて反則だぜ!」
「逃げるとは卑怯なり! あ〜、時代劇っぽいですね〜〜♪」
 ちょっと楽しくなってしまったブルーノは張るかが遊んでくれているのだと思っているらしく、追いつかないぐらいの速度で走りながら言った。
 どっちかといえば、追いかけていると言うよりもマラソンしながら話し掛けているように見える。
「待て〜っ! でーっと……何処まで走るんですか?」
「ど、どこまでってよ……ぎゃぁあああッ!」
 不意に遥の足元で何かが爆発し、遥はレールの上から真っ逆さまに落ちていく。
「あ、は・る・かさん?」
 さすがのブルーノもこれは大変レールのとカップを置けば、その上から飛び降り、背中に内蔵した折り畳みの金属翼と聖霊タービンで空を飛んだ。
「は・る・かさーん!」
「俺は遥だ〜〜〜〜〜〜〜ぁ!」
 落ちながらも懸命に訂正する遥だった。
 頭上では祐介と凛が戦っている。百戦練磨の祐介に凛が敵うはずもなく、卦内に助けてもらっていた。
「行くぞ! 仲間を助けるんだ!」
「「「「おうッ!」」」」
 ジャージ戦隊はそこに置かれた祐介たちのカップをすっかり忘れて蹴散らし、ブルーノの方へと走っていった。
「あーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
 無残にも蹴散らされるカップ。
 祐介は途方に暮れて見つめた。その刹那、凛の強烈な蹴りが祐介の腹に炸裂する。
「げふぅッ!」
「あ……ごめん。当たっちゃった……」
 カップを蹴るつもりで上げた足が祐介に当たり、凛は半ば呆然と見つめる。
「痛い……よね?」
「あ、当たり前……だ」
 腹を押さえて言う祐介。
 凛は祐介を立ち上がらせようと手を差し伸べたが、「勝負が先」と卦内に手を掴まれた。
「でも……」
 それでも手を差し伸べた凛は卦内の手を外して祐介を立たせる。その瞬間を狙って、祐介は凛のカップをひっくり返した。
「あ……」
「ごめんな、勝負なんだ」
 祐介はニッコリと笑って言う。
 仕方ないと凛は肩を竦めたが、後ろから聞こえてきた歓声に振り返る。祐介たちも振り返った。
 地上すれすれで遥を助けたブルーノの姿に、ジャージ隊員が感動したのだろう。あちこちから聞こえる声は遊園地スタッフの声だ。
 零はお城のモニュメントの上で「た〜すけて〜」と相変わらず手を振っている。地上で何が起こっているかわからないらしい。
 ブルーノは遥を助けた後、律儀にも零をその翼でもって助けた。

●競技の終わりに
 競技終了後は順位はともかくお互いの健闘を称え合い、祐介は自分の店の名刺を渡して「暇なときがあったら来て見て下さい」と誘っていた。
 祐介の店はたくさんのワンピースとエプロンがあるこだわりの店。きっと気に入る一枚がありますとも言っていた。
 梨音は姉の経営する喫茶店に戻る事にし、祐介をお茶に誘う。ブルーノは遥を介抱したあと、草間興信所に零とともに帰っていった。お茶の時間を一緒に過ごすためだ。
 無論、遥も一緒だ。
 興信所にはたくさんのお茶とお菓子がある。遥の好きそうなものはたくさんあるだろう。
 卦内は行きつけのBARに行くと、その方向へと歩き出す。
「お前は?」
 卦内は凛に言った。
 少し考えた後、凛は音楽があるならと応える。バンドのメンバーとしては気になるのだろう。
 卦内は暫し考えたが、凛のすきそうな音楽を演奏してくれるクラブへと行き先を変更することにした。
「何で……誘うの?」
「面白そうだから」
 卦内はそう言って、口角を上げる。
「面白い?」
「たまには良いだろ。そんな事もな……」
 本当なんだか嘘なんだか、嘯くように卦内は言う。
 計り難い様子に凛は肩を竦めた。
 バンドの初演にはまだ早い時間の空は、やっと紅に染まり始めたぐらいだ。
 その仄かに暗くなる空の下、二人は何処ともなく去っていった。

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組 / 順位】
1098/田中・裕介/ 男 /18歳 /高校生兼何でも屋/黒組/1位
3636/青砥・凛/女/18歳/学生と、万屋手伝い&トランスのメンバー/白組/2位
3948/ブルーノ・M/男/2歳/聖霊騎士/黒組/1位
5180/叶・遥/17歳/高校生/青組/3位

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■          獲得点数           ■
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青組: / 赤組: / 黄組: / 白組: / 黒組:
 10点 /  0点  / 0点  /  20点  /30点

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、朧月幻尉です。
 初めての方、こんにちははじめまして。
 今回は初めての方の視線側に寄って書いてみました。
 お気に召したら幸いです。
 感想、ご意見、苦情等などはファンメールの方で受け付けております。
 何かございましたら、ご連絡ください。
 それでは、またお会いできることを願って。

 朧月幻尉 拝