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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

田中裕介編


「大丈夫、隆美さんの事は俺が絶対に助けますから」
 そう銀髪の少女に黒い長髪の青年が声をかける。
「うん…、お願い…します…」
 少女は涙がかった声でそう青年に願うのだった。

●いわく付きの古本
 古書店文月堂の中で二人の姉妹が店番をしていた。
 一人は黒髪の佐伯隆美(さえき・たかみ)、もう一人は銀髪の佐伯紗霧(さえき・さぎり)である。
 そして二人の元に一人のお客がやってくる。
 一冊の古びた本を手にやってきたそのお客はその古びた本を買って欲しいと話しかける。
「え?この本をですか?」
 本を手に取った隆美はその売りに来た男性に話しかける。
「ええ、できれば高値で買っていただきたいのですが…」
「少し調べてからでいいですか?」
「はい、それじゃ私は少し外で待っていますので、判ったら呼んでください」
「ええ、判りました」
 そう言ってその男性は外へと出て行った。
「なんだかすごく古そうな本だね」
 紗霧が本のくたびれた背表紙を見てそう感想を漏らす。
「そうね、でも古いからってだけで高くするって訳にはいかないから、中身を確かめてみないとね」
 紗霧に話すとゆっくりと隆美はその本の表紙を開く。
 そして数ページめくった所で隆美の動きが止まる。
 ふいに動かなくなった隆美を見て、紗霧が声をかける
「お姉ちゃん?お姉ちゃんどうしたの?」
 紗霧のその声に最初は気がつかない様子の隆美であったが不意に我に返ったように紗霧に声をかける。
「外のお客さんを呼んで来てもらえる?言い値で買うって…伝えてもらえるかしら?」」
 そう紗霧に伝え外で待っていた男の言い値でその本を買い取る事となった。
 男が帰ってしばらくして、隆美は不意に紗霧に何も言わずに文月堂を出て行った。
 紗霧が隆美がいなくなった事に気がついてしばらくして、その電話は鳴ったのであった。

●本の正体
 文月堂に電話をかけてきたのは田中祐介(たなか・ゆうすけ)と云う青年であった。
 そしてその祐介の電話から聞こえてくる言葉はいつにも増して、急を要するような切羽詰った声であった。
『もしもし、あ、紗霧さんですか?とある本を俺は今探しているんですが、その界隈の古本屋に持ち込まれたらしいって話しをつい先ほど聞きまして、ひょっとしたら、と思って…』
 祐介がそう話し始めた電話の内容を聞くと紗霧の表情がどんどん青ざめて行った。
「あの…祐介さん。その本かどうかは判らないですが、似た本ならつい先ほど持ち込んだ人が…」
『え?本当ですか?判りました今から急いで文月堂に俺も行きます。詳しい話はそこで聞かせて下さい!』
 受話器の奥から祐介があわてた様に電話を切った音が聞こえ、紗霧は一人そこにたたずむしか出来なかった。

………
…………
……………

 祐介と電話のやり取りの後しばらく後あわてて走ってきた祐介が文月堂に姿を現した。
「祐介さん大丈夫ですか?」
 差し出された水を一気に飲み干して何とか息を整えた祐介は紗霧に勢いのついた声で話しかける。
「紗霧さん詳しい話を聞かせて下さい!出来れば持ち込んだ人間の背格好やその持ち込まれた本がどうなったのかとかも一緒に」
 そして紗霧はに持ってきた男の背格好そして持ち込まれた本の外見と隆美が本の中身を確かめる為にその本を読んだ事、そしてその本を読んだ後どこか隆美が変だった事を祐介に話した。
「ああ、どうやら間違いないようですね。しかし間に合わなかったとは…」
「間に合わなかった?どういう事ですか?」
 祐介のその言葉に不安そうに紗霧は聞き返す。
「あの本は…そういわゆる呪いの本のようなものなんです」
「え?」
 祐介のその言葉に驚いた声を上げる紗霧を見て祐介は言葉を続ける。
「あの本は、時限爆弾のような呪いのかかった本だったんです。なんでもない時はただの本なのですが、丁度666回目に本を開き読んだ者の体を乗っ取り操ってしまうという呪いが…。紗霧さんのその話を聞いているとどうやら隆美さんはその呪いの犠牲になってしまったようですね。危険だから回収しなければ、と思いここまで追ってきたのですが、間に合わなかったとは…」
 祐介は悔しそうに奥歯をかむ。
「なんとなく…悪い予感はしていたんだ」
 そう呟く祐介を紗霧は不安そうに見つめていた。

●行方
 しばらく携帯でどこかに連絡をつけていた祐介だったが、どこか納得したような表情で電話をきる。
「知り合いが隆美さんらしい人物を見たと言ってました。俺はそこまで行ってみようと思ってますけど、紗霧さんはどうします?」
「私も…、私も一緒に行きますお姉ちゃんを…お姉ちゃんを助けないと!」
「そういうと思いましたよ。一緒に行きましょう」
 祐介はそう言って紗霧の手をとり文月堂を出て行くのだった。

………
…………
……………

 日もくれた夜の街を祐介と紗霧の二人は走っていた。
 そして小さな雑居ビルの前で祐介は足を止める。
「ここのビル…ですか?」
 紗霧が周囲をビクビクしながら見回して祐介の手をそっととる。
「ええ、ここのビルに入っていったと云う話を聞いたんです」
 紗霧の手をとり祐介はビルの屋上を見る。
 そこには一人の女性の姿が月明かりに照らされているように見えた。
「どうやら隆美さんは屋上にいるみたいですね…。いきましょうか?」
「え、ええ…」
 紗霧の手を元気づける様にぽんと軽く叩くと祐介はビルの入り口に入り階段を上っていった、そしてその後を紗霧が後に続いて入っていった。

●決着
 屋上に上った祐介と紗霧を待っていたのはいつもとは違う妖艶な笑みを浮かべた隆美の姿であった。
 表情一つでここまで変わって見えるのか、と思うような空気の違いがそこにはあった。
 隆美は二人の事を一瞥すると、どこか楽しそうな声を上げる。
「あらあら、あなた達は私の事を楽しませに来てくれたのかしら?この月が私の事を祝福しているように」
 そう言って隆美は月を見上げる。
「良いえ、違いますよ、残念ながらね。そういう表情をしているあなたも素敵ですが、いつもの隆美さんの方が俺は良いと思いますので」
 そう言ってより祐介の表情が険しくなる。
「本当ならこれは使いたくはなかったんですけどね…」
 祐介は身構えると呪われし大鎌『Baptme du sang』を発動させ、その手に握る。
「祐介さん…」
 紗霧はその強力な禍々しい力に思わず目を見張る。
「本当ならこれを見られたくはなかったのですけどね。でも今は緊急事態です仕方ないです。俺がこの鎌で隆美さんからあの魂を切り離します、紗霧さんはその好きに隆美さんからあの本を奪い取って再び取り付かないようにしてください」
「わ、わかったわ。やってみます」
 紗霧は祐介のその言葉に小さく頷く。
 祐介の持つその鎌の力を感じ取ったのか、隆美がキッと祐介を睨み付ける。
「そんな物を出してどうするつもり?そんな物で切りかかれば私諸共この体の主も切り裂かれるわよ?」
「さて、それはどうですかね?」
 そう言って祐介はじりじりと隆美に近づいていった。
 ただ闇雲に切りかかれば、隆美の言う通りの事態になるだろう。
 だが隙を見つけて体ではなくその取り付いている魂だけを切るつもりだったのだ。
 そしてそんな祐介の後ろを逸る気持ちをおさえ切れなかった紗霧が駆ける。
 紗霧の動きに気をとられた隆美に一瞬の隙ができる。
 その隙を祐介は見逃さなかった。
「そこです!」
 祐介は気合を込めて大鎌を振る。
 大鎌に切り裂かれた隆美の口から嗚咽のような叫び声のような悲鳴が響き渡る。
「い……嫌だ!ようやくようやく外に出られたのに…こんな所で消える…なんて…!!」
「今です、紗霧さん!」
 祐介のその言葉に反応した紗霧が走り隆美の体に体当たりを掛け、その手から本を奪い取る。
 紗霧はそのままの勢いで転がったが隆美はそのままよろめきビルの手すりに向かって行った。
 隆美はそのままよろめいてゆっくりとビルから落ちて行った。
「隆美さん!」
 その隆美の姿を見て、慌てて祐介も走り隆美の事を追いかける。
 落下しながら祐介は隆美の事を捕まえ気を失った隆美を抱きしめる。
 そしてビルの突起を使いその反動で窓ガラスを割りビルの中へ飛び込んで行った。

●エピローグ
 そしてその事件があった数日後。
 祐介は白い天井を横たわりながら眺めていた。
「祐介さん入ります」
 そう言って扉を開けて入ってきたのは隆美と紗霧の二人であった。
 あの事件のあと、隆美をかばって倒れた祐介は全身打撲と右手の複雑骨折で入院していた。
 祐介の身を挺した行為により隆美はほとんど怪我もなく数箇所擦り傷が出来た程度であった。
「ごめんなさい、私の所為で…」
 申し訳なさそうにする隆美を見て、祐介は微笑みかける。
「いいえ、気にしないで下さい。あの本を回収するのが間に合わなかった俺の所為でもあるんですから」
 祐介はそう言って笑ってみせる。
 その姿を見て隆美と紗霧にもようやく笑みが戻るのであった。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■田中・裕介
整理番号:1098 性別:男 年齢:18
職業:孤児院のお手伝い兼何でも屋

≪NPC≫
■佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

■佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうもこんにちは、ライターの藤杜錬です。
 この度はゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加ありがとうございます。
 今回は全体的にシリアス風味になりましたが、いかがだったでしょうか?
 どういう風に決着をつけようか迷いましたが、このような形にして見ました。
 楽しんでいただけたら幸いです。
 それではありがとうございました。

2005.11.02.
Written by Ren Fujimori