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ウェディングバトル
「え、合わない?」
報告を受けて蓮はすっとんきょうな声をあげた。さっき確認をした時は男女比が、女性一人分足りない状況だったはずなのに、改めて花婿・花嫁参加者を数えたら花婿の方が少なかった、というのだ。
「弱ったねぇ、どういうこと?男女比と花婿・花嫁が合わないなんて」
つまりは男なのに花嫁候補参加者がいるということだ。予定外である。(当然だが)
「せっかく瑠璃に人数合わせしてもらったけど…仕方ないね」
「よぉ、晶」
花婿参加エリアにいた晶は、その人物を見て目を丸くした。
「あれ、玉鈴と…緋翠?なんでお前ら…」
「人数合わせだよ、人数合わせ」
花婿が少ないから、ということで急遽引っ張り出されたのだ、という。のんびり見物しようと思っていたからか、緋翠なんか特に不満そうだ。
「そうか…。でもお前らには負けねーぞ。瑠璃ちゃんは渡さねー!」
「瑠璃なら出ないよ」
「……は?」
間の抜けた声が出る。
「だから、数え直したら花嫁の方が多かったんだって。そしたら瑠璃が出る必要ないだろ。裏方に戻ってるよ」
「………」
一気にテンションが落下する晶。くるりと背を向けてどこかへ行こうとする彼を、2人はもちろん放さなかった。
彼の姿は目を引いた。元々高い身長と、派手ではないが整った容姿が目立つ彼だけれど、今の目立ち度は普段の比ではない。
どうしてこっちにいるの?ってゆーか、あのカッコ…何?
ヒソヒソと声がする。それもそのはず。彼…シオン・レ・ハイは今、女性陣の只中にいる。白いヴェールを被って、自前の真っ白いドレスを着て。花嫁候補の中に。
『まさか本当に役立つことがあるとは…』
ありあわせの布で、なんとなく趣味で作っていたこのドレスが、実益も兼ねることになるなんて。花嫁という言葉の響きもステキだし。
『やっぱり憧れますねぇ』
おもわず、ウキウキと顔が緩んでしまうのだった。
〜人生の門出〜
「えー、それでは競技内容について説明しまーす」
カスミの明るい声が響いた。
「まずは、このグラウンド中心部にある『お見合いエリア』で紙を拾い、お相手の条件を確認してください。その条件に合うパートナーを見つけることが基本ですが、どちらかが条件に合っていればオッケーです。パートナーを見つけたら、花婿さんが持ってるリボンを2人で着けて、次はこのグラウンドの先にあるコースへ進んでくださいね」
彼女の指が指した先には、スタートと大きく描かれたゲートが立っている。障害物競走自体は、そのゲートの先で始まるらしい。誰の技か、その先が見えない入り口は不安と共に言い知れない期待を抱かせた。
「ゴールは、最初に決めたパートナーと、2人でして初めてゴールしたと判定します。途中ではぐれたり、パートナーが変わってたらアウトですからね〜」
なるほど、さすがは「ウェディング」と名付けるだけのことはある。「離婚」と「浮気・不倫」は許さない、といったところだろう。
「それではっスタートォっ!」
いくつか仕事をこなしているうちに楽しくなってきたのか、カスミは随分と元気良くスタートの合図を発した。
〜パートナー選びは慎重に〜
瑠璃が出ないのならどうでもいい・・・。そう思っていた晶だったけれど、よくよく考えてみればこの競技に一緒に出たからってパートナーになって一緒にゴールを目指せるとは限らないわけだし、なにより勝負事に参加して戦いを投げるなんてことは男の沽券に関わる。というか、緋翠や玉鈴には負けたくない。
「よし」
もう一度条件を確認して、晶は気合いを入れて周囲を見回した。紙に書かれていた条件は、「背が高い、年上の人」。真っ先に目についたのは、皆より頭一つ分くらい大きいヴェール姿。
あの人しかいいない!晶は駆け寄り、その肩を叩いた。
「あの、俺のパートナーやってくれませんか!」
「はい?」
太い声。あれ?と思う間もなく振り向いたその顔はどうひいき目に見た所で男性のそれ・・・シオンだった。
「!?」
花嫁候補に男がいるなんて聞いてない。他をあたります、と言い残して去ろうとした晶の肩を、シオンの大きな手が優しく捕まえた。
「あれ、どうしてどこか行こうとするんですか?私がパートナーやりますよ、一緒にゴール目指しましょう?」
「い、いやっちょっとばかし、やっぱり条件に合わないかな〜?なんて・・・」
オロオロする彼の紙を見て、シオンはふむとうなった。
「私、ぴったりですよね?背も年も、あなたより上だ。というか、あなたより背が高い花嫁候補なんて、私しかいないと思いますよ」
それはそうだ。晶だってそう思ったからこそ彼(・・・とは思いもよらなかったけれど)に声をかけたわけで。
「ちなみに私の条件はお昼のお弁当を食べさせてくれる人、です。あなたが承諾してくれれば私たち、いいパートナーになれますよ?」
ニッコリと微笑まれる。
晶は、考えた。スタートゲートの先は、半端じゃない障害が待っているという話だ。そこにごく普通の女の子と乗り込めば、言葉は悪いがきっと足手まといになってしまうだろう。だが、彼ならば。見た所足も長いし不思議な雰囲気も、少しある。いろいろと特殊能力も持っていそうだし、そんじょそこらの障害なら難なくクリアしてくれそうだ。ある意味これは、有利なのかもしれない。という、そうでも思わないとやってられない。
「・・・・わかった。あとで瑠璃ちゃん特製弁当を分けてやる。一緒に一位目指してくれ」
「はい。楽しみにしてますね」
〜お前にウチの娘はやれん〜
律と暖菜、緋翠と色、玉鈴と夜月、晶とシオンの4組のカップル(?)がスタートゲートを抜けたのは、ほとんど同じ時だった。
ゲートを抜けた途端、どこから現れたのか縄が伸びてきて、まるでカウボーイの投げ縄のように花嫁に巻きついてその体を高く高く持ち上げていった。
「きゃあっ!!」
「ほえ〜っ!?」
「うわ〜っ な、なんだコレ!!」
「わわわわ・・・っ た、助けてください 晶さんっ!」
「ちょ・・・ おい!掴むなって・・・うわあっ!?」
花嫁たち、そしてシオンにしがみつかれた晶は10メートルはあるであろう高さまで持ち上げられ、そこに伸びるポールにぶらさげられた。その状態は・・・そう、パン喰い競走のあんぱんのようだ。
「はーい、では説明しまっす!」
カスミのアナウンスが響く。
「見てもらったらわかると思うけど、パン喰い競走みたいなものです。どんな方法でもいいから、花嫁さんを助けてあげて進んでね〜」
「おいおいっ 俺らはあんぱん扱いかよ!!」
「そーゆうこと。じゃ、ファイト〜」
色の文句にもカスミは明るく応え、さっさとスピーカーを切ってしまった。花婿たちはやれやれと思いつつ上を見る。10メートルはありそうなこの高さ、当然ジャンプして届く距離ではない。
「おい 叶っ!はやくなんとかしやがれ〜っ」
両足をジタバタさせて色がわめく。
「わかってるよ。花嫁役の奴は大人しく黙ってろってんだ」
緋翠はフン、と鼻を鳴らしシャツのポケットから一枚の札を取り出した。目を閉じて軽く呪文を唱えると、それを手裏剣のように空へと高く投げた。札はキレイに孤を描き、色の動きを封じている縄へと飛んでいく。ただの、紙で作られた札のはずなのにその切れ味はおろしたての刀のようで。小気味のいい音を立てて、色の縄を切り裂くと緋翠の手の中へと帰っていく。
支えを失った代わりに自由を取り戻した色は、10メートルもの落下もものともせず、さながら体操選手のようにひねりをいれて華麗に着地した。緋翠はそれに大して反応も見せず「行くぞ」とそっけなく言った。
「ちょっとぐらい心配してみせろよ」
「心配しなきゃならない相手ならな」
鮮やかに救出して次へと進んでいく彼らを、おもわず感心して見送ってしまったけれど、それどころではない。早い所クリアして後を追わなくては。
「よし、じゃあ、暖菜ちゃーん、今からそっち行くからな〜!」
「は〜い!待ってるよ〜」
律の呼びかけに、暖菜の明るい声が返ってくる。律はうなずくと、近くのポールにしがみつき、軽々とそれを昇り始めた。驚いたのは玉鈴だ。自分も相当いろんなことをこなしてきたけれど、こんなツルツルで太いポールなんか昇れない。どうしようか。
「玉鈴くん、早くなんとかしてよっ」
「わ、わかってるよっ」
悩んでいる間にも律はスルスルと昇っていく。てっぺんまで昇りつめると、彼女たちを縛る縄がかかっているポールを渡り暖菜の所まで近付いた。
「いらっしゃ〜い」
「はいはい。それじゃ、縄切り落とすぞ。あ、心配しなくてもちゃんと下で抱き止めてあげるから」
「ん!」
律はニッコリ笑うと、そのポールから飛び降りた。その時にポケットから出したナイフで、暖菜と・・・夜月の縄を切りながら。
「えっ?」
いきなり自由になって夜月は戸惑う。下にいた玉鈴も、自分のパートナーまで一緒に降ってきたので驚いた。
「よ・・・っと」
華麗に着地し、これまた華麗に暖菜を抱き止める律。その隣で玉鈴も、なんとか無事に夜月を受け止めた。
「あ、あの・・・ありがとう・・・」
助けてもらったのはありがたいけれど・・・今はライバルなのに。玉鈴と夜月が何か言いたそうに彼を見つめる。律はそんな二人に、ニッコリと笑ってみせた。
「女の子は、助けてあげるモンだろ。心配しなくても、もう助けてやんないから」
「ねー」
「・・・ああ、わかってる!」
「助けてくれたこと、後悔させてあげるわよ!」
そうやって、さわやかに次のステップへと進む二組を、シオンと晶は高い所から眺めていた。
「皆 行っちゃいましたねぇ」
「『行っちゃいましたねぇ』じゃねーだろっ!あんたはバカか!一緒になってうえに上がってどーすんだ!」
そう言われても、とシオンが方を疎める。とりあえず、彼にしがみつかれているだけの晶は自由が利く。なんとか縄からポールへとよじ昇って、上から縄を外すことにした。
「くっそ、あの金髪ヤロー こっちの縄も切っていってくれりゃいいのに・・・」
「いやぁ、清々しいフェミニストさんですねぇ。はっはっはっ」
「笑ってる場合か!あんたが男だから悪いんだろっ」
「そういわれましても・・・私みたいな女性ってのも気味悪くないですか?」
「・・・・・・・・・・」
言い合っていても仕方ない。彼のキャラにいちいちイライラしていたらいつまでたっても縄はほどけないだろう。晶は黙って作業を続けた。・・・が、一向に縄はほどけない。
「あの――」
「なんだよ」
「この縄、燃やしちゃっていいですかね?」
「は!?」
晶の返事を待たず、シオンは不自由な体勢のまま 小さな、本当に小さな炎を生んだ。けれどどんなに小さくても火は縄に引火した途端に大きく成長し、一気にその縄を焼いた。
「うわっ!?」
普通の火ではないらしくそれは縄だけを燃やしシオンに自由を与える。彼は晶を抱えるとそのまま、優雅に着地した。
「さ、行きましょう」
「・・・・・・・・・・」
これじゃどっちが花嫁で花婿だかわからない。
〜障害は多いほど燃える〜
「さー、次の障害はこちらっ」
カスミのアナウンスが響く。
目の前には、小麦粉がしきつめられた広いフィールド。これは、もしかして・・・。
「このフィールドを奥まで進んでもらうんだけど、粉は歩くと舞い上がって司会を悪くするから気をつけてね。ちゃんと、パートナーとはぐれないようにね」
「なんだ・・・それくらいか」
玉鈴がホッと胸を撫で下ろす。どうやらこの4組の中では自分たちが・・・特に、自分がいろいろと劣っているようだから不安だったのだ。
「それじゃ、行こう」
「うん」
夜月もちょっと安心したのか、互いにうなずきあって皆より先に足を踏み出した。一歩進むごとに粉が舞い上がり空気が白くなる。あっという間に周囲は真っ白になって隣も見えにくくなった。他の皆も進み始めたようだけれどどこにいるかわからない。そんな時。一瞬、背後に強い殺気を感じた。
「っ!?」
「きゃあっ!?」
何かが風を切って振り下ろされる。とっさに夜月をかばいつつそれを避けた玉鈴の足元には、巨大な斧が。うっすらと、大きい影が見える。ランランと輝く赤い瞳だけが白い世界の中に浮かんでいた。
「あ、言い忘れ〜。そこには強いモンスターが隠れてて襲ってくるからね。気をつけてね〜」
「そーゆうことは先に言えよっ!!」
至る所から怒声が。どうやら皆、モンスターの洗礼を受けたようだ。
「けっこう えげつないことしてくれるじゃない・・・」
夜月が眉をひそめる。
戦いに夢中になってしまえばこの粉の真っ白い世界の中では確実にパートナーとはぐれてしまう。けれど戦わなければ確実にやられる。蓮たちは運動会ごときで死人を出すつもりか。
「どうする?・・・戦える?」
玉鈴の問いに、意外にも彼女は明るく肯定を返してきた。
「平気。ここはあたしに任せて」
「え?」
夜月はおもむろに右手を高く掲げた。その彼女の手の平の辺りが明るく輝いたかと思うと、振り下ろされた腕の軌跡を水が辿り空気を洗い流した。一瞬だけだったけれど視界が開けた。
「水分さえあれば粉の幕なんて簡単に破れるわ。あたしが道を開くから、あんたがモンスターの相手して。いい?」
「わかった。でもすごいな、そんな技持ってるなんて」
「まぁ、ね」
さて、他のチームはというと。
「草摩」
モンスターを一体倒しつつ、緋翠が声をかけた。
「あ?」
「お前、なんか見える力持ってたよな?」
「・・・・・ああ?」
「その力使えば、俺がどこにいるか、とかわかるよな?」
「まぁ・・・多分。応用きかせれば」
「じゃ、別行動な」
「は!?」
パートナーが一緒にいることに意味があるこの競技で、なんてことを言い出すのだ、この男は。色の眉間に深い深いしわが刻まれた。
「お前の力を降るに使えば出口で合流するくらいできるだろ。いちいちくっついてたらこんな妙なフィールド抜けらんねーからな。じゃ、そーゆうことで!」
「あ、おい 叶っ!?――――あーあ・・・行っちまいやがった・・・」
あっという間に白い霧に包まれて見えなくなってしまった。色は仕方なくため息をついてコンタクトを外す。銀色の瞳は、的確に粉の中から這い出てきたモンスターも、出口の方角もとらえていた。
「ってく、とんでもねー花婿だぜ」
律は暖菜にごめんね、と言いながら彼女の左手と自分の右手をバンダナでギュッと縛った。
「なに?」
暖菜が首を傾げつつ問う。律はニッコリと笑ってみせた。
「離れちゃったら困るだろ?もちろんちゃんと俺が守るけど、なんかの拍子にはぐれちゃうかもしれないし。動きにくいかもしれないけど我慢してね」
「にゃるほど。あ、でも心配いんないよ。私も戦えるから!」
「うっそ、マジ?」
「まじまじ!そんじゃ、ここはいっちょ見ててね〜」
暖菜は得意気に笑うと刀を抜いた。なにやら護符のようなものを柄に装填して。
「いっくよ〜!」
元気に、目の前にボンヤリ見えるモンスターに向かっていった。
そして、残る一組は。もうもうとたちこめる粉の幕に立ち尽くしていた。
「いや〜・・・すごいですねぇ。どれだけ小麦粉使ってるんですかね?たくさんケーキが作れそうですね」
「食い意地張ったこと言ってんじゃねぇよ。考えててもしょーがねぇ、とにかくただ真っ直ぐに突っ切るぞ。いいな!」
晶がそう言い捨てて走り出そうとしたら。
「え、ちょっと待ってくださいよ」
「ぶわっ!!」
いきなり服の裾をつかまれて、そのまま晶は小麦粉の海へとダイブしてしまった。ものすごい勢いに粉煙があがる。それをまともに吸い込んでしまいむせ返るシオンの胸倉を、粉まみれの晶が掴んで睨みつけてきた。
「おまえな〜っ!俺に何か恨みでもあんのか!?どーしてくれんだこのカッコ!!」
「見事に真っ白ですね〜。ホラホラ、私とおそろい♪」
「〜〜〜〜〜〜〜〜」
「一人で行っちゃダメですよ、走っていくのもいいですが私もちゃんと連れていってくださいね、ホラ。」
にっこりと笑って差し出される大きな手。晶は頭をかきつつ、仕方なくその手を取った。
調子が狂う。こののんびりした優しい風貌の男の頭には競走、という意識はないようで。誰かと「戦う」ことに慣れた身には不思議な感覚だった。
〜結局は愛の力がすべて〜
一番にフィールドを抜けて出て来たのは律・暖菜コンビだった。自分たちの前方に誰もいないことにおもわず二人して笑みを浮かべる。今、約500メートルほど向こうに「ゴール」と書かれたゲートが見える。その途中には、特に何かが仕掛けられている様子もない。ということは、つまり。
「ここをすぎれば、ゴールだ」
「私たち、もしかしていちばん!?やっほー!!」
「ああ!行こう!」
「待てぇぇぇぇっぃ!」
走り出そうとした二人の背後から、晶の声。振り返れば、シオンと手をつないだままの晶が、ものすごい形相で走って来る姿が。体中粉だらけになって、パートナーと一緒に走ってくるというよりは引きずっているその様はある意味、何よりも怖くて。
「うひゃあっ おばけ!」
「い、いこう 暖菜ちゃん!」
逃げるように走り出す二人。けれど、追手がそう甘くなかった。
「させるかぁっ!くらええっ!!」
「へ?」
「にゃ!?」
「おい!?」
つないでいた手を思いきり前へと引いて。走りながら、シオンの大きな体を抱え上げた晶はその体を、律たちへと向かって。
「うおりゃああっ」
・・・・・・・・・・・・投げた。
「うわあああっ」
どこにそんな力があるのか、シオンの体は見事に投げ飛ばされ、律と暖菜を直撃した。見事な足止め・・・と、言えなくもない。
「いったぁい〜」
「ひ、ひどいですよ 晶さん・・・」
倒れている三人の元へ駆け寄り、晶はパートナー兼飛び道具を回収すると先を急いだ。
「じゃあな〜金髪!」
「あっ!このやろー・・・おまえだって金髪じゃねーか!待てぇっ!!」
叫んだところで待ってくれるはずもなく。晶とシオンの姿が遠ざかっていく。
「くそっ・・・こうなったらこっちも妨害するぞ、倍返しだ!」
「あいあいさっ」
暖菜は微笑み、再び刀を構えた。装填された符の力が刀を通して現実のものになっていく。やがて刃全体が赤く発光し始めた。
「いっくよ〜 ちょっと熱いかもだけどガマンしてねっ!!」
振り下ろされる刀。放たれた赤い光・・・炎の球はグングン晶の背中へと迫っていって・・・。
「へ・・・?」
触れるか触れないかの距離で、大爆発が起こった。爆風が起き、激しい砂煙が襲う。
「おいおい・・・ちょっと強すぎたねぇ?」
「ありゃ〜ちょっと加減失敗しちゃった?」
「なに〜っ!!」
一方やっとのことでフィールドを抜けてきた玉鈴・夜月コンビ、緋翠・色コンビは突然起きた爆風に面食らってしまった。
「な、なんだぁ?また煙幕かよ!」
「いくらなんでも同じ手はないだろ」
「じゃあ、何?この煙・・・爆発じゃないの!?」
ゆっくりと治まってくる砂煙。その向こうには・・・4人の選手が入り乱れて競走ではなくバトルをしている姿が。
「おまえら俺たちを殺す気かっ!!」
「そっちが先に妨害してきたんだろーが!!」
「すっご〜い 生きてたの!強いんだね〜 そんけーしちゃうよっ」
「あ、あの、あの、私はどっちも被害者なんですけど・・・」
とりあえず、向こうにゴールゲートは見えているのに、そちらを目指す予定はなさそうだ。ということは、ここで2組は脱落したものと考えて。残る敵は。
「・・・・そいうか、妨害ってのもアリみたいだな?叶」
「確かにルールで妨害不可とは言ってなかったな、草摩」
二人の間に不穏な空気が流れ始めた。その不気味な雰囲気に、玉鈴は夜月をかばいつつ後退る。その後ろで、夜月はこっそりと水を呼んでいた。
「お、おいおい二人とも・・・これは競走だぞ?バトルじゃないんだぞ?」
とりあえず説得を試みるけれど効果はなし。
「どうせなんでもアリな運動会だぜ?堅いコト言うなって」
「一位は色男のためにあるんだ。悪いけど勝ちに行かせてもらうぜ!」
緋翠と色が一気に飛びかかってきた。
「玉鈴くん、伏せて!」
「!」
夜月の声にとっさに反応する玉鈴。そのスキに大量の水が色たちを襲った。
「うわっ」
突然顔面に水をぶちまけられて、二人の動きが鈍っている間に、夜月は玉鈴の腕を引いて一目散に走り出した。
「すごいなぁ、夜月さん。カッコイイや」
「男のくせに何言ってんのよ。女に助けられて情けない、とかくらいに思いなさいよね」
「そうだね」
玉鈴はそれでも、へへッと嬉しそうに笑うだけだ。そんな彼の態度に、夜月はちょっと肩を疎めて・・・でもそれ以上は何も言わなかった。
格闘を続けている律たちの横を何食わぬ顔で通り過ぎる二人だったが、世の中はやはりそう甘いものではなかった。その二人を視界の端で晶が捉えていたのだ。
「げ、あいつらゴールに向かってるぞ・・・させるかっ!」
むんずと、再びシオンの襟首を捕まえる。驚いたのはシオンだ。
「え、ち、ちょっと待ってください!また私を投げるつもりですか?」
「あたりまえだろ、あいつらを先に進めないためだ」
「じょ、冗談じゃありません!あれすっごい痛いんですよ?怖いんですよ!?」
温厚な彼だけれど、今回ばかりは必死で拒否を表明する。よほど痛かったのだろう、当然だが。
「それじゃあ どうやって足止めするんだよ!」
「他にいくらでも方法はあるでしょう!?」
「ちっ・・・仕方ねーな・・・」
頑として拒むシオンに、晶が渋々といった様子で折れる。いつまでも騒いでいるうつにゴールされてしまっては元も子もない。
目標の方へ向き直った晶は目を閉じ、右手に拳を作って腰を低く構えた。ハァ・・・と気を拳へと溜め、そして。
「破ぁぁぁっ!!」
気合一番、溜められた気を放つ。その塊は真っ直ぐに玉鈴たちめがけて飛んでいき、彼らにダメージを与えた。
「よっしゃ!」
そんな技が使えるのなら最初から使ってくれればいいのに・・・とシオンは思ったけれど、突っ込みが怖くて言えなかった。
もうもうとあがる砂煙の中、けれど渦中の二人はヨロヨロとしつつも立ち上がり尚もゴールを目指そうとしていた。そのまま倒れているか、怒ってこちらに殴り込んでくるかと思っていた晶としては想定外のことで。慌てて彼らに駆け寄って必殺キックをお見舞いした。
「うりゃあっ!」
「うわっ」
キックはかわされたけれど、足止めは成功だ。その勢いのまま玉鈴に掴みかかった。
「このやろ〜ゴールなんかさせねーからなっ」
「お前なんでそんなにマジなわけ?あんなにやる気なくしてたくせにっ」
「うるせー、やる以上はベストを尽くすんだよ!大体お前、女の子に助けられてばっかりで恥ずかしいと思わねーのかよっ」
「なんだと、くやしかったら女の子と仲良くしてみやがれってんだ」
どんどんと低俗な口ゲンカに発展していく晶と玉鈴。さすがの玉鈴も、晶のあまりの妨害に少しキレてしまったようだ。
「・・・あ〜あ、もう・・・いつまでやるつもりかな・・・」
こんなことをしている間に、残り2組が追い上げてくるかもしれない。夜月は再び水を呼んだ。今度は多めに。
「いいかげんに、しなさいっ!!」
叫び声と共に放たれた巨大な水の塊。さっきと同様に玉鈴はとっさに避けて、晶だけがそれをまともにくらい。
「!!」
そのまま、水の塊と共に吹っ飛ばされた。
「し、晶さんっ!!」
慌ててシオンが、駆け寄るけれど、彼は完全に失神していた。
「今のうちよ、玉鈴くん!」
「ありがとう!!」
残りの数メートルは、手をつないで。二人は無事ゴールゲートを一番に抜けた。
晶とシオンが玉鈴と夜月の妨害に向かったために相手を失った律・暖菜コンビは水浸しで走ってくる色と緋翠の前に立ちはだかった。
「な、なんのつもりだよ お前ら!」
色がかみつかんばかりの勢いで叫ぶと律はニッコリと笑った。
「いや〜、どうせなら敵を全部やっつけちゃってからゴールした方がいいかな?って思ってさ。ね?」
「ね〜」
最後に投げかけられた台詞に暖菜も元気に応え、刀を構えてくる。
「おいおいおいっ たかが競技に刃物なんてシャレになんねーぞっ」
「何を今更。安心しろよ、ケガする程のことはしないからさ」
「てかげんするよ〜できるだけ!」
明るい話し方だけれど、色たちからしてみれば目の前の二人はなんとも怖い存在に見える。こちらが二人とも男だからか、律の目には容赦はないし暖菜はさっき間違って大爆発を起こしているのだ、怖れるのも無理はない。けれど。
「やるしかないな、草摩」
「・・・・・わかった」
緋翠が本気モードに入ったのを見て色も覚悟を決める。とりあえず彼らを足止めしない限り、先へは進ませてもらえないだろう。
「いくぞっ!」
律の幻炎が、暖菜の刀が、緋翠の札が、色の拳が飛び交う。最初は手加減していたけれど、相手も相当の腕の持ち主なわけで。自然と本気モードに移行していって。
「やっ」
「くっ・・・」
「たぁっ!!」
「・・・・あっ!?」
一瞬、緋翠の体がよろけたのを暖菜は見逃さなかった。
「スキありぃっ!!」
刀を振り上げ、渾身の気を放つ。体勢を整えていた緋翠はそれにとっさに反応できなくて。
「・・・・!!」
「危ねぇっ!!」
色の体が動いたのは、本当に「反射」だった。飛び出して、全身で緋翠に体当たりして・・・。二人してもんどりうって倒れることで、紙一重で彼女の攻撃を交わした。
「ありゃ、外れた」
「げっ、暖菜ちゃん!もう一組ゴールしちゃったよ・・・急いで行こう!!」
「う、うん!」
倒れている色と緋翠を置いて、失神している晶を必死に起こそうとしているシオンの横をすり抜けて、二人は問題なくゲートを抜けていった。
緋翠は倒れた時に打ってしまった後頭部を押さえながら、自分の上に乗っている色を見上げた。
「いてて・・・。悪い、助けてもらって・・・」
「ああ・・・・・・・!痛・・・っ」
彼の上からどこうとして、色の顔が歪む。どうやらさっき倒れ込んだ時に足首をひねってしまったようだった。
「おい・・・大丈夫か?」
「これくらい、平気・・・・・・痛て〜っ」
立とうとして、体重がかかったことで足首に激痛が走る。浮かしかけていた腰をまた落として、色はハァッとため息を吐いた。
「くそ・・・こんなトコで・・・・」
「・・・・・・・」
律たちもゲートをくぐってしまい、今前方には晶とシオンのコンビしかいない。どうやら晶は失神しているようだし、今なら難なくゴールできそうだ。けれど、この足では立つこともままならない。リタイアしかないのか、ここまできて。そう、色が諦めかけていると。
「草摩、前と後ろ どっちがいい?」
「は?」
いきなり問われて、意味もわからず「前・・・?」と答えると、突然背中と膝に手を回されて、そのまま抱き上げられた。そう、女の子なら誰もが一度は憧れる・・・お姫様抱っこという奴だ。
「うわあああっ!?な、なにすんだ あんたっ!!」
心の準備もなしに抱き上げられてパニック状態になる色に、緋翠は平然と答える。
「足ケガしたんだからこうするしかないだろ」
「でも他の運び方があるだろーっ」
「前か 後ろかって聞いてやったじゃないか」
「こーゆうコトだってわかってたら後ろって答えたわっ!!」
「ゴチャゴチャうるさいぞ。花嫁役なんだしちょうどいいだろ」
ギャーギャー騒ぎながらゴールを目指す二人。それを横目で見て、シオンはますます困ってしまった。
「ああ、ゴールしちゃいますよ・・・。晶さん、目覚ましてくださいって!晶さ〜ん!!」
〜フォローも大事〜
結局、晶が目を覚ましたのは、シオンが彼を背負ってゴールしてから10分程経ってからだった。
「・・・あれ?」
「あ、やっと気付いたんですね」
目の前に、シオンの安堵の表情がある。ゆっくりと、何があったのかを思い出してみて・・・。あまりに情けない所で自分の記憶が途切れていることに晶は青くなった。
「あれ・・・俺、もしかしてあのままずっと気絶してたのか?」
「はい。何度起こしても駄目だったので・・・。抱えてゴールしちゃいました。もう、痛いトコとかありませんか!?」
「・・・・・・ああ」
さんざんわがままな作戦に付き合わされ、投げられた上に晶を背負ってゴール、しかも得点も入らない4位になってしまって。なんだか急に、今更ながら申し訳ない気持ちが彼を襲った。
「・・・悪い。俺、あんたにいろいろヒドイことして・・・。得点も入んねーしよ」
「嫌だなぁ、そんなこと私は気にしてませんよ?楽しめたんだからそれでいいんです」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・わかりました。じゃあ、こうしましょう」
目を丸くして見つめてくる晶に、シオンはヘラッと微笑んでみせた。
「お弁当。たくさん食べさせてくださいね」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【4250 / 玖珂・夜月 / 女性 / 16歳 / 高校生兼劇団員 / 青龍 / 1位 】
【1380 / 天慶・律 / 男性 / 18歳 / 天慶家当主護衛役 / 青龍 / 2位 】
【3356 / シオン・レ・ハイ / 男性 / 42歳 / びんぼーにん+高校生?+α / 白虎 / 4位 】
【2675 / 草摩・色 / 男性 / 15歳 / 中学生 / 黄龍 / 3位 】
【5112 / 陸・暖菜 / 女性 / 16歳 / 学生兼女冠 / 朱雀 / 2位 】
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■ 獲得点数 ■
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青組:40点 /赤組: 10点/黄組: 10点/白組:0点/ 黒組:0点
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、初めまして、叶遥です。
この度は発注いただき、ありがとうございました!!
最下位になってしまいました・・・すみません!
書いていてとても楽しいキャラだったので、ちょっと壊しすぎたかもしれません・・・。
オイシイ!と思っていただけると嬉しいのですが。
楽しんでいただければ幸いです。
本当に、ありがとうございました!
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