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<五行霊獣競覇大占儀運動会・運動会ノベル>


けもけも収拾戦

 くす玉割りを終えた競技場内は雑然騒然としていた。
 何せ、巨大なくす玉から大量の毛玉のようなけもけもした生き物が出てきたのだ。その大きさ、直径10センチから20センチ程度。ふわふわとしてかわいらしいし、見るからに軽そうだ。
「けもけも? もけもけ? ……ともかくかわいらしいわよねぇ」
 勝者の余裕というべきか、くす玉割りで見事優勝を飾った白虎組のシュライン・エマは湯のみを手になごんでいた。
「頬ずりしたらさぞかし気持ちよいんだろうなぁ。手触りも素敵そう」
 うっとりと頬に手さえあてて呟いているが、そのけもけももさすがにこれだけいるとただ微笑ましいというだけではすまなくなってくる。ある意味、阿鼻叫喚とさえ言ってもよいかもしれない。
 ところせましと走り回る五色の大量のけもけもに加え、やはり大勢のいよかんさんが競技場内をうごめいている。さらにはくす玉割りに使われた大小さまざまのボールに、皿、湯のみ、その他もろもろまで。
 これではとても次の競技に入れそうにない。
『……え? このまま次の競技?』
 本部の方も混乱しているらしい。会場内に響き渡ったカスミの言葉は、明らかに内輪向けのものだった。
『えーっと、次の競技は、予定を変更して、今出てきたけもけもを捕まえる、だそうですー。』
 が、開き直ったらしい。取り繕う風もなく、アナウンスを始める。
「なんだかすごい展開になっちゃったわねぇ」
 同じく白虎組の神崎(かんざき)こずえは、5色入り乱れて動き回るけもけもやいよかんさんを眺めながら、けれどやはり湯のみを片手に肩をすくめた。
『ルールは、えーっと、何ですか? とにかくけもけもをたくさん捕まえてください。自分のチームと同じ色のけもけもは1匹につき5点、その他は1匹1点で……いいんですよね? 点数の一番高い人が優勝です。皆様のご協力をお願いしますー』
「けもけもをバラまいた責任上、捕まえますかね」
 黄龍組のシヴァことイスターシヴァ・アルディスはおっとりとつぶやき、周囲を見回した。
 朱雀組では、櫻紫桜(さくらしおう)がせっかくだからと参加を決め、客席からけもけもを確保するゴミ袋を投げ入れてもらっていた。
「む? また勝負きゃ。今度は勝つきゃ」
 ひたすら団子をほおばっていた玄武組の雷来(らいき)も、思い出したように顔をあげる。
『飛び入りも歓迎します。では始めてくださーい』
 どこか投げやりな声に続き、号砲が鳴り響いた。
 競技場内の4人はさっそくけもけもを捕まえにかかり、客席からは青龍組から天慶律(てんぎょうりつ)、白虎組からシオン・レ・ハイが競技に加わるべく降りてくる。

 素早く動き始めたのは紫桜だった。客席から投げ入れてもらったゴミ袋を手に、古武道で鍛えた無駄のない動きで手当たり次第にけもけもを捕まえて回る。そのすきのない動きに、周囲のいよかんさんたちも邪魔をするまいと慌てて逃げ回った。

 一方、白虎組のこずえは、大量のだんごを盛っていた大皿にけもけもを集め始めた。抜群の運動神経をもつこずえは、紫桜に負けない機敏な動作でけもけもを集める。何よりも競技場を使える状態に戻すことを優先し、こずえは色を問わずけもけもを捕まえた。
 数人のいよかんさんたちが、どこからか持ってきた扇を手に、フレー、フレーと声援を送る。
「ねえ、ちょっと手伝ってくれない?」
 ダメモト、とばかりにこずえは声をかけてみた。
「いいよー。任せてー」
 いよかんさんたちは誇らしげに胸を張ると、針金のような拳で胸を叩いてみせた。
「お願いねー」
 とは言ったものの、何せ小さい子たちだ。あまり無理はさせられないと、こずえは軽く苦笑を浮かべた。

 いわば正攻法でけもけもを捕まえ始めた2人に対し、策を練ったのがシュラインだった。
 くす玉割りの時の様子からして、ノリのよい子たちかもしれない、と見たシュラインは、得意の声帯模写で、ピーっと笛の音を真似た。何分、雑然とした競技場のこと、思った程にその音は通らなかったが、そばにいたけもけもたちといよかんさんたちが、ぴくりと聞き耳を――耳などは見えていないのだが――立てる。
 このまま「集合、整列、駆け足前へ……」と乗せてしまおうと、シュラインは先ほど割れたくす玉の半分を傾けて構えた。そして、さらにたくさんのけもけもの気を引こうと、リズミカルに笛の音真似を続ける。

 シヴァもまた、けもけもを前におっとりと思案を巡らせた。
「……やっぱり餌でつるかなぁ」
 チームのみんなでお茶会をするために、大量のクッキーを用意していたシヴァだったが、これだけの数のけもけもを前にすると、さすがに足りるかどうか心配にもなってくる。けれど、迷っていても仕方がない。得点効率を考え、黄色のけもけもに声をかけようとして、シヴァは再び考えを巡らせた。
 これだけ入り交じっていれば、選り好みするよりも、片っ端から捕まえた方が結果的には得点に結びつくかもしれない。
「捕まってくれたら、おやつに持ってきたクッキーあげるよ?」
 シヴァは声を張り上げた。その声に、近くのけもけもやいよかんさんがぴくりと反応する。これは期待できるかもしれない。さっそく捕獲用に結界で出入り口つきの檻を作り出し、シヴァはさらに呼びかけた。

 そこへ一足遅れて律が加わる。都合の良いことに、くす玉割りでさんざん転がった青のけもけもはまだ目を回しているらしく、動きが鈍い。
「早いとこ回収すっかな」
 律は青のけもけもが主に群れているところを狙い、防御壁を応用して大きく壁で囲った。これを一気に狭めてしまえば捕獲完了だ。
「大漁大漁、ってな」
 にまりと笑みを浮かべながらも、律は気を緩めることなく壁から漏れたけもけもを手づかみで捕まえにかかった。

 一方、同じく一歩遅れて競技場に降りてきたシオンは、数枚のゴミ袋を手に、いよかんさん、けもけも、ゴミ、その他と清掃のアルバイトで培った恐るべきスピードと的確さで、てきぱきと分別していく。
「ええと、これは燃えるゴミ、これは資源ゴミで、こっちはプラ、と……」
 その作業を、いよかんさんたちと、のんきなけもけもたちが興味深そうに覗き込む。
「お手伝い、お願いできますか? 燃えるゴミはこの袋、缶や瓶はこっちです。プラスチックはこちらに入れて下さいね」
 言いながらシオンはどこから取り出したのか、いよかんさんたちに白鉢巻きを巻き付けた。鉢巻きをもらったいよかんさんたちは嬉しそうに飛び跳ね、誇らしげに胸を張る。
「そして、けもけもさんはこちらに」
 シオンはそっと両手で包み込むように、自分を見上げていたけもけもをすくいあげた。
「やっぱりふわふわで可愛いですね」
 シオンは目尻をとろんと下げた。なぜかここにだけ、きらきらと輝く花びらでも舞いそうな雰囲気が漂う。
 
 個人戦という競技の性格もあってか、誰もが他人の邪魔をせず、けもけもの回収に専念するという静かな展開が続いた。とはいってもそこはかとなく騒がしかったり、かと思えば和みムードが漂っていたりと、まるで競技というよりは学校の休み時間のような様相が続く。

 紫桜はペースを崩さずに、こつこつとけもけもを捕まえ続けた。捕まえたけもけもは、逃げない程度に口を開けたゴミ袋に入れていく。
 その動きに無駄はなかったが、何せ相手は超軽量級。紫桜の動きでふわりふわりと浮いてしまうこともあり、コツをつかむのにやや時間がかかった。さらには、けもけもの中にいよかんさんが混じっていたり、捕まえたけもけもが袋の中で騒いで溢れそうになったりと思わぬ手間をとられたが、紫桜は、いよかんさんは丁寧に地面に下ろし、けもけもをその都度なだめて根気よく収集を続けた。
「あのう」
 ちょうど白のけもけもを捕まえた時、突然目の前に影が落ちたかと思うと、はるか上方から声が降ってきた。
「そのけもけもさん、こちらのけもけもさんと取り替えていただけませんか?」
 そこには、赤のけもけもを持ったシオンが立っていたのだ。
「いいですよ」
 どちらにとっても損になる取引ではない。紫桜がにこやかに応じると、シオンは破顔して丁寧に礼を述べ、去っていく。その後を、白鉢巻きをしたいよかんさんが追っていく。
 そして紫桜は、再び黙々とけもけもを捕まえ続けた。

「あー、ふわふわだな……。これ、家で飼えないかなぁ。無理だろうなぁ」
 防御壁でたくさんのけもけもを確保し、さらに手近なけもけもを捕まえた律は、その手触りを愉しみながら小さく呟いた。
 と、そこへ。
『あー、青龍、天慶。捕まえるのはけもけもだけだ。他のものは選別してくれ』
 審判草間の声が響き渡る。
「んだとぉ!?」
 律は思わず声をあげた。確かに、壁の中では、けもけもに混じっていよかんさんたちが「出してー、出してー」と暴れている。
「ちっ……」
 律は舌打ちをして防御壁を解いた。途端、中から青と黒を中心とした大量のけもけもといよかんさんが溢れ出てくる。そして、山となったけもけもが崩れたその中からは、雷小僧、雷来が現れた。
「く、苦しかったきゃ……」
 どうやらけもけもの中に生き埋めになっていたらしく、ぱたりと倒れたまま、くるくると目を回している。
「あーあ、もったいねぇなぁ」
 が、それに気づく様子のない律は、再び今度はけもけもだけを狙って、小さめの壁を作り出し、中に閉じ込める。
「っと、またやり直しか」
 それでもまだ青のけもけもは他に比べると動きが鈍い。気を取り直して律は、再びけもけもを捕まえにかかった。

 捕まえたけもけもを皿に盛っていたこずえだったが、ほどなくして皿は満杯になった。けもけもたちは、いくつか皿から転がり落ちたものの、動きの激しさに本能的に身をすくめていたらしく、思ったよりは残っている。
「捕まえたよー」
 両手でけもけもを抱えたいよかんさんが、得意げに胸を張り、次のけもけもを捕まえに走る。
「ありがとう」
 それを笑顔で受け取って、こずえは周囲を見回した。そろそろもっと大きな入れ物が欲しいところだ。
「すみませーん。ビニールシートもらえませんか?」
 こずえが目を付けたのは、くす玉の割れた片方だった。おわんのような形をしたそれにけもけもを入れ、逃げ出さないように、客席から投げ入れてもらったビニールシートをかぶせた。
 そこへ。
「こっち来てくれたらおやつのクッキーあげるよー」
 シヴァの声が響く。それを聞いて、中のけもけもはざわっとしたようだったが、玉の縁を登りきれず、つるりと滑っては落ちていた。
 思わず苦笑を浮かべたこずえが振り返ると、さっき手伝ってくれていたいよかんさんが、もの言いたげな顔でこずえを見上げいていた。
「ああ、いいよ。行っておいで。手伝ってくれてありがとう」
 こずえが言ってやると、いよかんさんはぱっと顔を輝かせ、シヴァの方へと走っていった。

「はい、右ー、右ー、前ー、前ー」
 シュラインはリズムよく口ずさみながらけもけもたちを誘導していた。心地よさげにリズムに乗り、けもけもたちが歩いている様は、あたかも幼稚園児のお遊戯のようだ。
「はい、お疲れさま」
 くす玉の半分を傾げて構え、シュランはそこにたどり着いたけもけもたちを、優しく携帯ブラシでブラッシングしてやった。けもけもは気持ち良さそうにうっとりとしている。それを見た他のけもけもが、我も我もといわんばかりにシュラインの膝に乗ってくる。
 シュラインはねぎらいの言葉をかけ、子守唄を歌いながらけもけもの世話を続けた。端から見れば、ますます幼稚園か保育園のように見えたことだろう。
 激しく動いたためか、次第次第に眠たそうなけもけもが増え、動きが鈍くなっていく。
 と、そこへ。
「こっち来てくれたらおやつのクッキーあげるよー」
 やはりシヴァの声が響く。それを聞いて、順番待ちしていた後方のけもけもたちがいっせいにざわめき、そちらへといそいそと駆けていく。
「先を越されちゃったわね」
 シュラインは苦笑いをして呟いた。
 くす玉割りの時の様子からして、どうも食いしん坊らしいとは思っていたし、競技終了後に差し入れを持っていくつもりでもいたのだが、どうやらそれでは遅かったらしい。ただ、最初の方のけもけもは心地よさそうにシュラインのそばに残っているのが救いだろうか。

「はい、えーっといよかんさんはこっちね。うん、ちゃんとあげるから」
 わらわらと群れ集うけもけもといよかんさんをなだめつつ、シヴァは結界で作った檻の中にけもけもを誘導していった。騒がしかったとはいえ、先ほどの草間の注意もちゃんと耳に届いている。檻の中に入れるのはけもけもだけ。時に焦って入ろうとするいよかんさんを引き止める。
 なんだかちょっぴり牧羊犬のような気分を味わいながらも、やはり用意してきたクッキーが足りるかどうか、最初の心配が膨らんでくるシヴァだった。

「えーっと」
 相変わらず手際よくゴミを広い、けもけももそこそこ集めていたシオンは、何かを探すような目で辺りを見回した。その目が、けもけもに埋もれながらようやく起き上がった雷来をとらえる。
「あの、雷来さん」
 シオンは丁寧な物腰で雷来に声をかけた。
「ん? 何きゃ?」
 雷小僧は小生意気な目つきでシオンをじろじろと見た。が、その口元はわずかに緩んでいる。立派な体躯のシオンが丁重な態度をとっていることに気を良くしているのだ。
「私に静電気を起こしてもらえませんか?」
「お安いご用きゃ」
 シオンの頼みに満足そうに頷くと、雷来はシオンに静電気を――本人にとっては最大限の雷撃なのだが――お見舞いした。
「わっ」
 シオンの目の前に一瞬火花が走り、髪や服の繊維が逆立つ、軽いしびれのような感覚が全身に走る。と、近くにいたけもけもが音もなく吸い寄せられ、シオンの服にくっついた。狙い通りだ。
「ありがとうございます」
 シオンは雷来の手を握った。途端に、バチン、と派手な音がして2人の間に電撃が走る。
「お安い……ご用だ……きゃ」
 胸を張ってそう言った雷来の目には、それでもじんわりと涙が浮かんでいた。

 6人がひたすら捕まえつづけたおかげで、競技場内もだいぶ片付いてきたようだった。さすがに選手たちにも次第に疲れの色が見え始める。
 律はいよかんさんたちを巻き込まないために、小さい防御壁をいくつも作らなければならなかったし、入れ物にゴミ袋を選んだ紫桜は、ぱんぱんに膨らんだそれを持て余していた。生き物であるらしいことを思えば、ぎゅうぎゅうに詰め込む気にもなれなかったし、口を結んでしまう気にもなれなかった。結局、口を少し開けた形にキープしながら、それでも器用に手近なものを捕まえ、小脇に抱える。
 素早い動きを見せていたこずえにも、ややかげりが見え始める。ただ、けもけもたちはなんだかんだいってももともといた玉の居心地は悪くないらしく、捕まえた分のキープはうまくいっているようだった。
 それはシュラインの方も同じだった。シュラインが玉を優しく揺らしてやると、中のけもけもたちは気持ち良さそうにふわふわと転がる。
 そして、シヴァは押し合うけもけもやいよかんさんの整理に精を出していた。
 そんな中を、静電気で髪を逆立てたシオンが行き来する。てきぱきと収集を続けてきたシオンの動きも鈍ってきてはいたが、それが逆に幸いした。周囲のけもけもが次々に吸い付いていくのだ。かつ、重さのあるいよかんさんは静電気に吸い寄せられない。
 こうしてシオンは、みるみるうちに、シヴァの元で押し合っているけもけもまでもくっつけ、5色雪男のようになっていった。その身体にくっついたけもけもの毛までがぴんととげのように逆立ち、見た目だけはかなり痛そうだ。
「どうきゃ? おいらの雷はすごいきゃ」
 既に雷来の頭からは、競技の趣旨は消えているらしい。腰に手を当てて満足げに頷いている。
「ええ、すばらしいです」
 シオンの返事は、さらに雷来を調子に乗せた。
「おいらは雷様だから、こーんなこともできるきゃ」
 すっかり有頂天の雷来は、こともあろうに今度はシオンに向かって超局地的集中豪雨を降らせた。
「ちょ、ちょっとそれは……」
 シオンが断る間もなく、雷来の最大限の雨量が、すべてシオンと、その身体にくっついているけもけもへと降り注ぐ。
 と、みるみるうちにけもけもはその水を吸い込み、どんどん重みを増した。
「雷来さん、ちょっと……」
「どうきゃ? どうきゃ?」
 シオンの声は、すっかり舞い上がってしまった雷来の耳には届かなかったらしい。雷来は次々と雨を降らせ続ける。
「重たい……です」
「……疲れたきゃ」
 シオンがついに重みに耐えきれなくなって地面に崩れ落ちたのと、力を使い果たした雷来がへたりこんだのがほぼ同時だった。けもけもたちも、自分たちの重さに耐えかねてその場に転がっている。
 そして、それで場内から動いているけもけもがいなくなった。
『それでは選手の皆さんは、捕まえたけもけもを本部に持ってきてくださいー』
 カスミの声が場内に響く。
「さ、じゃ本部に行きましょうか」
 シュラインはけもけもたちに声をかけた。すっかりシュラインになついたけもけもたちは、気持ちよくシュラインの後について歩く。その様子はあたかもかるがもの親子のようだ。
「お茶会は本部でしようね」
 シヴァもどうにかけもけもたちを言いくるめ、本部へと誘導していく。
 こずえはけもけもの入ったくす玉の半分をずりずりと押し、紫桜はゴミ袋をひょいと持ち上げて本部へと移動する。
「やっぱりゴミ袋じゃ小さかったかな」
 他の選手たちを見て、紫桜は小さく呟いた。つかまえたけもけもは赤が中心だった。あとは自軍ボーナスに期待する他はない。
「さて、どうしようか」
 首をひねったのは律だった。律も紫桜と同じく、自軍の青色けもけもが多くを占めている。うまくいけば上位に食い込めるだろう。けれど、そのけもけもたちは防御壁の中。これを本部に連れて行かなければならない。
「回数を分けるか」
 幸い、一度に持ってこなければいけないと言われたわけではない。律は防御壁の中のけもけもを、何回にも分けて本部へ届けることにした。
 そして、シオンは、そのまま動かなかった。
『あー、気の毒だが白虎、シオン。本部に持ってこられなきゃ、記録なしになるな』
 響き渡った草間の声に、場内から同情の視線がシオンへと注がれる。捕まえたけもけもの数だけなら、間違いなく優勝を争えたはずなのだ。
 地面に転がったままの濡れたけもけもは、結局どこからともなく現れた黒尽くめの男たちが片付けていった。ついでに、倒れているシオンも収容していく。場内からはすっかりけもけもの姿は消え、シオンの奮闘のおかげでゴミも片付けられていた。
「シオンさん大変ね……。でも、これで次の競技に使えるようになったね。よかった」
 こずえが心配と安堵の声を漏らした。
 急に広くなったように見える競技場に、カスミのアナウンスが響き渡る。
『それではこれから、各選手の得点を計算しますー。今しばらくお待ち下さい』 
「ねえ、クッキー」
「クッキー、クッキー」
 待ちきれないとばかりに、いよかんさんたちがシヴァの服の裾を引っ張る。
「おいらもクッキー食べたいきゃ」
 ちゃっかり雷来も便乗してねだった。
「うーん。じゃあお茶会にしようか?」
 シヴァは困り顔を作る。
「そろそろお昼時だしね。……まだ時間かかりそうだし」
 シュラインもそれに頷いた。本部の方からは「きゃー、動かないでー」という悲鳴が時折聞こえてくる。
「おいおい大丈夫かよ。ちゃんと間違いなく数えてくれるんだろうな」
「信用するしかないんじゃない?」
 もっともな不安を口にした律に、こずえは肩をすくめる。
「そうですね」
 紫桜も苦笑を浮かべた。
「全ては神の思し召し……、ところでお茶会一緒にいかがです?」
 いよかんさんに群がられながら、シヴァはにこりと他の選手たちに誘いをかけた。
『きゃー、動かないでってば……。あ、えーと、これから昼食休憩に入りますー。ただいまの競技結果は休憩後に発表しますー』
 慌ただしいカスミのアナウンスが入った。
「きまりね。お弁当、とってくるわ」
 シュラインが苦笑をこぼす。他の面々にも異論はなさそうだった。
「でも、いよかんさんも入れてこれだけの大人数だと……」
「結局、グラウンド使うことになりそうだな」
 紫桜の言葉を引き取り、律が皮肉げな笑みを漏らす。
「せっかく片付けたのにね。……でも、客席からも人が降りてきてるし」
 こずえが半ば諦めたように笑う。
「おいら、腹減ったきゃー」
 雷来が今度は、シュラインの足下にすりよって甘え声を出す。
「じゃ、始めましょか。けもけもたちの分は本部に差し入れしておけばいいわよね」
 シュラインが軽く首をかしげた。
「ああ、だから動かないでってば。あー、いくつまで数えたかわかんなくなっちゃったー」 
 本部から漏れ聞こえる悲鳴をよそに、場内は一気に和やかな昼食モードに突入した。
 結局、競技結果が発表されたのは、皆が昼食を食べ終え、さらにデザートと食後の紅茶を楽しんだ後だった。

『ただいまの競技結果はー、1位、イスターシヴァ・アルディス選手、2位、天慶律選手、3位、神崎こずえ選手、4位、櫻紫桜選手、5位、シュライン・エマ選手、記録外、シオン・レ・ハイ選手ですー。皆さん、ご協力ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。……はあ、疲れたわ』

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1380/天慶律/男/18/天慶家当主護衛役/アルバイター/青龍/2位】
【5154/イスターシヴァ・アルディス/男/20/教会のお手伝いさん/黄龍/1位】
【3356/シオン・レ・ハイ/男/42/びんぼーにん+高校生?+α/白虎/6位】
【5453/櫻紫桜/男/15/高校生/朱雀/4位】
【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/白虎/5位】
【3206/神崎こずえ/女/16/退魔師/白虎/3位】

【NPC/いよかんさん(夏野いつみ絵師との共有化NPC)】
【NPC/雷来/玄武】

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■          獲得点数           ■
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青組:20 / 赤組:0 / 黄組:30 / 白組:10 / 黒組:0

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。もしくは初めまして。ライターの沙月亜衣と申します。
この度は、けもけもとりへのご参加、まことにありがとうございました。納品がぎりぎりになってしまって申し訳ありません。

今回は、多様で紳士的(淑女的?)なプレイングのおかげで、書き手もほんわか楽しみながら書かせていただきました。プレイングで書いていただいた各数値は、皆様の行動の成果判定に使わせていただきました。

結果的には、やはり白組さんは3人で白けもけもを分け合ってしまったのが響いたのと、あとは容器の大きさ、性能(?)が少し勝敗に影響した様子です。
不本意な結果の方もおられるかと思いますが、そこはゲームとご笑納いただけますと幸いです。

とまれ、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。
この度は、まことにありがとうございました。