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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


[ タケヒコ狩り(後編) ]


 此処数日、武彦は何かがおかしいと思っていた。勿論自分の頭痛のこともそうであるし、このタケヒコ狩り騒ぎもそうだ。ただ、眩しいほどの朝日が差し込む月刊アトラス編集部の一室、そのソファーで寝転がっていると、不意にそれを思い出す。
「そう言えば……零は、何処行ったんだ?」
 依然痛む頭で考え出せば出すほど答えは出ず。もう考えることを投げ出してしまおうと思ったとき、唐突にドアを開き駆け込んできた三下忠雄に、眠る思考が停止した。
「く、くくっく…草間さん!」
 頭に響くその声が煩いなと思いながら、忠雄が手に持った封筒を開け、どうやらその中身を読み上げ始めたので大人しく聞く事にした。どうやら内容は武彦宛の手紙だ。
「『草間武彦殿。妹さんは預かりました。返して欲しければ何をするべきか、分かるわね?期日は三日。それ以上掛かったら妹も貴方も、コソコソ嗅ぎ回っている人間の命も、この先のタケヒコ達の命すらなくしてあげる。』って! これはど、どうど…うすれば!? しかも数日前に投函されていたらしくて期限が明日なんですよ!! あ、と、少し覗いてきた事務所が凄い有様だったんですけどぉ……」
 コレ自体は興信所のポストにひっそりと突っ込まれていたらしい。手紙に気づかなければ有無を言わさず皆を狩って行くつもりだったのだのか……そして手紙の最後にはどういう意図か、携帯電話の番号が書かれていた。恐らく、彼女のものだろう。
「――……よこせ」
 武彦は忠雄の手の中からその手紙を奪い取ると、痛む頭を左右に振りながらも身を起こす。
「ここまで言われて俺一人、寝てるわけにもいかないからな……ったく、会議室借りるぞ」
「は、はひっ! い、今一応許可とってきますっ」


    □□□


 会議室に集まったのは、以前と同じく藤郷弓月、シュライン エマ、人造六面王 羅火、神納水晶の四人。
 時刻は正午を少し回った頃。期日は丁度明日の正午になる。
「悪い。ただ、俺も出来る限りフォローするつもりだ。いつも任せっぱなしだしな」
 そんな四人に武彦は短く言う。
 今回関われば危険が及ぶ事は事前に伝えていた。故に、それを承知で四人は此処に来たと言うことだ。もっとも、この中には危険など感じていない者が若干二名居るが。
「やっとあちらさんから動きがあったワケだし、いいじゃん?」
 頬杖をつき、しれっと水晶は言う。
「ちょっと犯人のお姉さん追い詰められてるっぽいけど……ここまで来たんだから、最後までお付き合いしますよっ」
「もう、今更そんな言葉はいいわよ。それよりも武彦さんの体調は大丈夫なの?」
「あぁ。ピークは達したしいつまでも動けないんじゃ、依頼だけ押し付けてる役立たず探偵だからな」
 弓月とシュラインの言葉に苦笑いを浮かべた武彦は、四人を見てそう言った。
「ならわしから草間に頼み事があるんじゃがいいかの?」
 そんな武彦に、すかさず羅火が言う。
「死人を連れて来い、ということみたいじゃからな。その鏡とやらの死んだ場所を探してはくれぬか? 死人を連れて来るアテ、があるでの」
「へぇ、要求聞くアテあるんだ?」
 羅火の言葉に、隣に座る水晶は「なぁんだ」とポツリ漏らす。彼にしたら、犯人の要求を叶える事は不可能であり、それを聞くつもりなど無かった。
 しかし武彦が答える前。シュラインが羅火に言う。
「それなら私でもいいかしら? 武彦さんには西の探偵さんについて調べてもらいたいのよ。彼にしか出来ないことだし、もしかしたらそっちからも情報が入る可能性は十分あるのだけど」
「分かるならどっちでも構わん。無理は承知じゃが出来るだけ早めに頼むの」
「分かった。でも西の探偵ってなんだ?」
 なにやら話は纏まってきているようだが、突然シュラインに降られた『西の探偵』の単語に武彦は首を傾げた。
「犯人のお姉さんに殺されちゃった…西の探偵さんですよね?」
「おそらく、女に目当ての男は死んでおる、と伝えたのじゃろうな。鏡とやらは女の、昔の男なのじゃろ」
「そう、それが認められず暴走した可能性があるから。西探偵事務所でこの件や芸能関係、鏡氏の療養場所等の資料調査をお願いしたいの。本当は彼女、彼と話したいだけなんじゃないかって」
「あ、芸能関係なら私やりますよ? 彼が芸能界に入ってから最後までを調べようかな、って思ってたので」
 シュラインの提案に挙手したのは隣に座る弓月だ。その言葉にシュラインは芸能関係は弓月に任せることにし、武彦には事務所のことと、療養場所等の調査を任せることにした。
「でもそれならさ……ホント、何言ってもつーよーしないじゃん。一度死んでるって言われても又他の奴に探し出せ、なんてさ」
「案外、死人でも全く構わんかもしれぬ。女が鏡と会えるならば、と考えればじゃがの。そうすれば、草間の所に辿り着いた理由にもなるじゃろう?」
 羅火とシュラインの考えは、どうやらある程度一致しているらしい。
「おいおい、やっぱり俺んとこはそういう方面に有名になってんのか……」
 さり気ない羅火の一言に、武彦は思わず頭を抱えた。世間的には武彦に頼めば幽霊の一人や二人は会えるとでも思っているのだろう。
「それに俺、零が大人しくしてると思えないんだケドさ、やっぱあの死霊で動けなくされてんのかな?」
「それは私も同感ね。相手の能力が上回りすぎてる、或いは何か他に理由があって、とか」
「なんかもう、零さんも犯人のお姉さんも心配だなぁ……」
「零はまぁいいとして、犯人まで心配するんだ?」
 少し俯き加減で言った弓月に、水晶は物珍しそうに向かい合わせの彼女へと言葉だけを飛ばした。目、と言うか顔は合わせていない。
「心配ですよ。それに私、出来るなら――ううん、出来なくてもどうにかして犯人のお姉さんとお話してみたい。話したら、何か変わるかもしれないし」
「まぁ、好きにすればイイんじゃない? 俺も多分俺のしたいようにやるしね」
「でもホント……無事で居て欲しいわ、零ちゃん」
 心痛を抱えそっと押し黙った二人に対し、この四人の中で戦闘要員と言えるべき羅火と水晶はどんどん話の先を行く。
「後、女を待って時間を稼ぐか、呼び出しおびき寄せるかは状況次第じゃの」
「呼び出すなら広い所がイイな。暴れても大丈夫そうなさ。後は、零も連れて来て貰った方が手間も省けるんじゃない?」
「――時間は無いけれど、これについてはギリギリまで保留にしておきましょう」
 ただ、二人の言葉にシュラインもそっと口を挟んだ。
「私はちょっとコネを使って鏡氏の出身履歴だとか、犯人との接点、後は遺骨の場所を当たることにするわ。とはいえ、鏡氏本人を連れてくるなら最後は不要になるかもしれないけれど」
「これで大体話はまとまったか? 後は各自連絡を取ることにして、一旦――」
 まとめかかる武彦は、自分宛の手紙を適当に折りたたむと席を立つが、羅火がそれを静止する。
「いや、ちといいかの? あの女、見たところ能力の制御は出来ぬようじゃ」
「あ、ソレ確かに言えてる」
 実際犯人と戦った羅火と水晶はそれをよく知っている。
「強く強く憎んだ時に……死霊どもがその意に従い鏡を屠ったのじゃろうて」
「あら、それってもしかして直接手を下さないにしろ、彼女が鏡氏を殺したって事かしら?」
「わしが考える可能性の話じゃよ。まぁとにかく、問題は出くわしたら何が起きるか分からぬ事での」
 言いながら羅火はいつの間にかその手に持っていた、パッと見は炎のようなオレンジ色を持つファイアーオパールにも似た石を武彦も含めた五人に配った。
「うわぁ、綺麗ですね。何ですか、これ?」
「これって、もしかして羅火の?」
 弓月は手渡された石を部屋の灯りに翳し、水晶は石を片手に持ち何度か真上に投げ羅火を見る。
「まぁ、主にこの場では神納限定じゃろうが能力の増幅と、ぬしらには護符として役立つじゃろう」
 最後にシュラインと弓月、そして武彦を見た。羅火が皆に配ったのは、彼が溜めておいた、彼自身の体表に出来た力の結晶である。
「助かるわ。犯人に遭遇しないに越したことは無いけれど、何が起こるか予測は不能だから」
「分かった、俺もありがたく貰っておく。もう他には無いな?」
 そう、今度こそと武彦は椅子から立ち上がった。
 時刻は丁度午後一時。誘き寄せるのならば時刻は早まるだろうが、タイムリミットまでは残り二十三時間…‥


    □□□


「あー、暇だぁ」
 会議室を出た後、アトラス編集部のソファーにごろりと寝そべっていた水晶だが、弓月が三下忠雄と何処かの一室に入っていくのを無言で見送ると、ぼんやりと何か考えた後立ち上がる。
「どーせ暇なんだから、こんな時こそ襲って来て欲しいんだケド……」
 ポケットに手を突っ込みながら白王社を出ると、見慣れた道を歩いていく。着いた先は草間興信所だ。
 下から事務所を見上げると、先日の軽い戦いで割れたガラス窓の場所にブルーシートやダンボールが貼られていた。忠雄がそうしたか、警察が来ていたのか。考えるのは中を見てからでいいだろうと、水晶はビル横の階段を一段抜かしで軽快に上っていった。
「犯人はよく現場に戻ってくるなんて言うケド、流石にこんな場所にもう用はないかな?」
 呟きながら入り口横のポストを覗き込み、何も無い事を確認すると、ドアノブに手をかける。ドアは、呆気なく開き。先日と変わらない様子が伺えた。
「――――期待を裏切らないって言うか。てっきり明日までどっかにコソコソ隠れてると思ったケド違うんだ。ちょっと嬉しーかも」
「こんにちは、みなあきくん。あなたこそ逃げず?」
 窓際。いつもならば武彦が使っている机。その上に足を組み佇んでいた女は、水晶の名を口にすると、机の上から降りる。
 見間違えるはずもない。この事件の犯人であり、前回水晶が逃してしまったというか、武彦を探し勝手に逃げた女だ。
「逃げる? 何言ってんだか。それにまだってーのはお互い様だと思うケド。もうこんなめんどーなコト止めたら?」
「何か言いたげなのね。偽者の探偵さんは」
 そう、女は薄笑みを浮かべた。それはあの時の事を覚えていると言うか、少し根に持っているようにも見える。
 だから水晶も、フッと口の端を上げ。少し肩を少し上げて見せた。
「ちょーどいー機会だから俺言っちゃうケドさ、あんたが探してる鏡威彦はもーとっくに死んでるよ。だからあんたの要求は聞けないネ」
「…………そんなの、知ってるわ」
 しかし、女から返ってきたのは冷静な言葉と無いに等しい表情だった。
「じゃあ、なんで――」
「それでも、探したいの。あの人を…じゃないと……私は――ぁっ!!」
 最早語尾が掠れるほどの絶叫。そして、初めて彼女と出会ったときと同じよう。ただ、今はガラス窓の代わりに補強してあったダンボールが外へと吹っ飛んだ。
「っ、ったく!!」
 女の周囲から死霊が突如湧き上がるのと、水晶が左掌から刀を抜いたのはほぼ同時。瘴気と神気がぶつかり合う。
「俺にはソレ、通じないことくらい……っと、分かんないかな?」
 ファイルが綺麗に整理されていた棚の戸、そのガラスも一斉に割れ破片が飛ぶ。その幾つかが水晶の頬を掠めた。多分、どっかの誰かが意図して狙ったのだろう。舌打ちを交えながらも、掠り傷程度の傷口は神気を僅かに集中させればすぐ塞がっていく。もっとも、今に限ってはそれが普段より格段早く感じた。
 水晶の目の前に現れた死霊の数は前回よりも多い。ただ、死霊は死霊というのが彼の考えであり、ただためらいもなく斬っていくだけだ。
 彼女の使役する物たちは相変わらず透き通ってふわふわしていて、刀を振り下ろせばそれこそ簡単に消滅してしまう。ただ、一体何処からこれほどの数が沸いてくるのかと思うほどに次から次へと雑魚が溢れ出て来る。
 彼女が片手を天井へと掲げ、新たな死霊が出てくるたびに水晶はその倍の数を斬り払い、再び机に腰掛けていた女に問う。
「あとっさ、ちょっと気になってんだケド零は?」
「こんな時に他人の心配?」
 とは言え余裕の水晶に女も冗談めかし笑みを浮かべた。
「いや、だってアイツなら今この瞬間に逃げ出しててもおかしくないカナーってさ」
「逃げるなんて事は無いわ」
 短く早い女の返事。その意味は、考えてみれば少し意外だと思った。
「逃がさない、の間違えじゃなくて?」
「あの子はあの子の意思で逃げないわ」
 ただどう言う訳か、やがて増殖を止める死霊に水晶はつまらなさそうに。
「へぇ。まぁなんだって別にいーやっ」
 言いながら、今この場に居る全てを斬り飛ばす。既に何十もの死霊を相手に水晶は息一つ乱さず、寧ろその動きはまるで舞のように軽やかだ。
「……意外と強いのね?」
 雑魚が相手ではあるが、考えてもみれば羅火から貰っていた石のお陰なのだろう。
 水晶はやがてゆっくりと構えを解き、刀を担ぐよう持つと、微笑を浮かべた。
「んなコトどーでもいーでしょ。所でもうネタ切れなワケ?」
「残りを考えると……あなたに全部消されちゃうのは勿体無いのよね」
 『残りを考える』その言葉に水晶は首を傾げる。とは言え、女が死霊を出すことに躊躇い始めているのは事実らしい。
「だから」
 言いながら女は一人で水晶目掛け走ってきた。その走りは特別速い訳でもなく、彼女自身何かを持っているわけでもない。ただ何をするのかと一先ず構えると、女は水晶の目の前で死霊を一体、まるで手招きするよう呼び出す。それは通用しないと斬り捨てた矢先、体に違和感を覚え、続いて視界に入ったのは女の笑み。
「こういう使い方をするの」
 今出した死霊は、女にとって目隠しの捨て駒に過ぎず、水晶が消滅させると同時、走ってきた女が無我夢中に体当たりを食らわせてきた。なんでもないように思えたそれも、少し熱い自分の胸を見れば状況を理解できる。
「――ぃってぇ……ニンゲンが、けっこーやってくれるじゃん…。でもさ、それで勝ったつもりなワケ?」
 女は水晶から一歩下がる。果物ナイフが今水晶に刺さったままだが、彼はそれを躊躇いもなく引き抜くと女に向け放り投げ、刺された胸は神気を以て応急的に止血する。ナイフの落ちた音が脳に少し響く。大したダメージになどならないが、最初の内ダラダラと流れ出た血が服を汚したのが少しばかり気になった。
「あーあ、それじゃコレお返し」
 そしてまだ自分の間合いに居た女に水晶はあっさりと一突き入れ、すぐさまそれを引き抜いた。真っ赤な血が飛び散る。
「っ……ぁあ、あっっ!?」
 恐らく本気で斬りかかって来る等、女は思ってもいなかったのだろう。ただ、死霊を斬るしかないとばかり。そして女はまさに普通の人間。水晶以上に血を流し、脇腹を押さえながらフラフラと後退していく。顔色は青白く変化していき、遂には背にした窓から飛び降りた。最早下を見る気も起きないが、恐らく窓から下へ降りた分には無事だろう。刺された傷は回復するかもしれないし、しないかもしれない。
「まぁ、どーせ明日には完全に片がつくだろーし。無理に追うのもめんどーなだけってゆーか……」
 刀を左手に戻すとボロボロになっている客用ソファーに腰掛け、神気を胸へと集中させ傷を完全に塞ぐ。服には血と線のような切れ口が残るが、一つ大きく息を吐くと立ち上がり興信所を出た。
「でもやっぱ……あの斬った時の感じはなんかに憑かれてんのかな?」
 女を刺した時の事を考えながらその辺りをフラフラと探索中、忠雄から連絡が入り水晶は白王社に戻る事となった。
 電話の内容は、弓月とシュラインが女に襲われたと言う内容。


    □□□


 帰ってくれば水晶が一番乗りで、その後羅火がやってきた。暫く茶を飲みながら時間を潰しているとやがてシュラインが、続いて弓月が「遅れました、ごめんなさい!」と部屋に入るなり深々と頭を下げる。
「私も少し襲撃受けたから……事情はもう、大体皆分かってるわ。何より、お互い無事でよかったわね。それもこれも、コレのお陰なのだけど」
 言いながらシュラインは、ポケットから石を取り出した。それは羅火が皆に配っていた物だ。
 弓月も思わずポケットからそれを取り出し、改めてジッと石を見つめた。そして唐突に石を見ていた顔を上げ、真っ直ぐと羅火を見る。
「な、んじゃ?」
「どうもありがとうございます!」
 そのあまりにも純粋すぎる行動に、思わず羅火は視線を逸らした。
「む。その程度なんぞ礼には及ばん…しかし神納は随分派手にやりおったの。あやつ血塗れじゃった」
「ってゆーか、あそこまで血ぃダラダラ流してまでさ、よくみんなをしゅーげきしに行ったよネ……」
 呆れた根性とでも言うべきか。皆で襲撃された時間をまとめた結果、水晶、弓月、羅火、シュラインの順で女は襲撃に訪れたらしい。シュラインが軽症で済んでいたのは、石のお陰も有るが、女も相当ダメージを受けていたのだろう。
「それにしても、そろそろ武彦さんから連絡が入ればいいのだけど――」
 シュラインがそう言うのと同時、携帯電話の着信音が鳴り響く。
「む、わしのじゃ」
 電話に出ると、羅火は二三言葉を交わしすぐさま切り、皆を見た。
「鏡を連れて間も無くこっちに来るらしい。じゃが、そのまますぐに長野の大きな湖がある場所に飛べと……なんでも鏡の実家がどうと」
「長野、彼の実家のある場所ね。大きな湖なら諏訪湖、かしら?」
「今からって…どー行くワケ?」
 既に特急は止まっているどころか電車が止まる時間だ。
「それなら桂を使うといいわ」
 見れば、いつの間にかそこには麗香と桂が立っていた。
「ずっと犯人の方を追いかけていたのですが…回復に集中しているようで動かなくなったので、皆さんをお連れ出来ると思います」
 そして桂は微笑む。

 事の運びから、彼女は長野の地に呼び出すことに決まった。ただし、その連絡は恐らく武彦の役目であり、尚且つ朝一で長野まで来るようにと、シュラインはメールを飛ばす。
 それが済むと会議室を出た。なるべくなら、その空間に穴が残っても差し支えの無い場所に移動する方が良い。
「というわけで、さんしたくんのロッカールームよ」
 最終的に麗香が選び出したそこに、桂は躊躇いながらもポッカリと穴を開けた。その穴を抜ければもう長野らしい。
 水晶は一番に飛び込み、抜けたその先には満面の星空が広がっていた。


    □□□


 出た先は、湖の湖畔近く。この辺りは高台ということもあり、更に水辺もあり風が少し冷たい。
 此処に来てようやく合流したのは羅火の双子の弟である二階堂・裏社(にかいどう・うらやしろ)。羅火と共に穴から現れた。もっとも、彼は黒い狼の姿をしていて、羅火以外にはどうもぴんと来ないようだが。彼が鏡を連れてきたとなれば、持っている力は確かなのだろう。
 裏社は丸呑みにしてきた鏡をようやくペッと吐き出すと、そこにぺったり座り込んだ。
「ええっと、初めまして」
 裏社の口から出てきた鏡威彦――の霊は、丁寧に頭を下げると四人と一匹を見渡す。
「色々事情を話さなければとは思うのですが、一旦実家に戻って幾つか物を取ってきますので、少しだけ待ってください。申し訳ないですが二階堂さん、僕を連れてってくれますか? 流石にこの姿じゃ物を持てないので」
 そんな鏡の申し出に、裏社は頷き立ち上がると、鏡を呑み込みあっという間に走り去っていってしまった。
 あっさりと本人が捕まっていたのはいいが、まだ先へとは進めないようだ。
 そんな中、シュラインの携帯電話がメールを受信し、その内容に一同は今自分達が潜り抜けてきた穴を振り返る。
「――悪い、遅れた」
 結局武彦はその手にボロボロになったファイルを抱え、桂に連れられこの場に現れた。
「零を連れて此処に来いってのは言っておいた。相手は普通の方法で来るしか無いだろうから、今から高速飛ばしたってまだ数時間はかかる筈だ。所で四人揃ってんのにどうして何もして無いんだ?」
「どーしてって、やること無いんだよネ。鏡はどっか行っちゃったしもう一人とゆーか、一匹も一緒に行っちゃったし」
「折角だし、今の内に武彦さんが持ってきてくれた情報、教えてもらえるかしら?」
「大きな収穫、ありました?」
 シュラインと弓月の言葉に、武彦は手にしていたファイルを広げる。
 武彦の話によると、既に西の事務所は壊滅状態のまま放置されていた。かろうじて残っていたファイルから、何とか今回と関連のありそうな物を幾つか手に帰ってきたが、ファイルを読み進めていく限り大方の読みは合っているらしい。
「鏡威彦については全てが調べ上げられていて、その全てが犯人である依頼人に伝えられたと見ていい。多分、伝えた瞬間吹っ飛ばされでもしたんだろうな……その後の記録が無い」
「やはり。で、ファイルごと持って来たと言う事は、何か分かったんじゃろうな?」
「依頼人は橘縁、二十九歳。鏡威彦との関係は…幼馴染、ってのが本人の話らしい。依頼事項は勿論鏡の居場所調査」
「幼馴染?」
 その言葉には全員が全員首を傾げる。そんな関係は誰の頭に微塵もなかった。
「しかもコレが一度目の依頼ってわけでは無いらしい。少し依頼を遡ると、女と同居していることも調べられているな。そして、最終的に伝えられたと思われる報告書がこれだな」
 そう、一枚の紙を武彦はファイルから抜き取った。
 東京に来てからどの住まいを持ち、人間関係や何年何月何日の何時何分に何処で死亡したか。その死亡理由までもが、そこには明確に書き示されている。が、それを見て一同は目を見張った。彼が死亡したのはつい二ヶ月前。まだ日が経っていなかったのだ。
 それぞれが武彦の持つ資料に夢中になっている最中、不意に弓月は振り返り呟いた。
「…………おね、さん?」
「アレ、到着早いじゃん?」
 やがて水晶、羅火、シュライン、武彦、桂が振り返ったそこには女、縁の姿がある。
「早い? どういう嫌味かしら…ようやく、此処に辿り着くまで酷く時間がかかったのに。おまけに約束の時間六時間オーバーだわ」
 そう、怒りを露に縁は今この場に居る六人を見た。そんな彼女の言動に、桂は小さく皆に言う。
「多分空間だけじゃなくて、時間も少し先に進んでしまったのかもしれません。彼女と世間にとっての『今』は、ボク等にとっての『翌日』の夜六時になってる筈です」
「と言う事は、体力も全快してる可能性があるの。…鏡は一体何時帰ってくるんじゃ?」
 要するに自分達にとってついさっきのことが、縁にとってはもう昨日の事と言うことだ。
「零ちゃんは、一緒じゃ無いの?」
「此処に、居るわよ」
 そう、縁が左に一歩ずれると、後ろに零の姿があった。特に怪我も見当たらず、いつもと変わらぬ姿で彼女はそこに居る。
「零!」
「兄さん……あの、心配かけてごめんなさい」
「あのよーすだと、零が自分の意思で逃げなかったってのは、強ち嘘じゃないんだろーね……」
 ポツリ言えば、隣の羅火は水晶を見る。
「何か、あるんじゃろうな。まぁ、わしもぬしも……今からは、死霊を相手にしてればいいじゃろ」
「まーね」
「えっえっ!? 二人ともお姉さんと戦うんですか?」
 一歩前に出てすっかり戦闘態勢の二人に、弓月は思わず問う。とは言え、内心二人を止められないこと等分かりきっていた。
「相手もすっかりその気のようだから…私達は一歩下がってましょう」
 シュラインの言葉に、弓月と桂は数歩下がる。だが、武彦はただ縁の方を見つめ動こうとしなかった。そんな武彦の気配に気づき、羅火は声をかける。
「草間……わしは助ける、には向かぬでの」
「あぁ、そうだろうな」
 羅火の隣で水晶も頷いていた。そんな男三人のやり取りを、シュラインと弓月に桂は、ただ無言で見ている。
「妹は兄のぬしが救え。周りの屑は、適当に焼き払うでの」
「――助かる」
 そう言い武彦は苦笑した。そして一歩前へと踏み出す。
「零ちゃん、助けてきて。それに気をつけて、ね」
「分かってる、大丈夫だ」
 シュラインの声に武彦は振り返らず、ただ返事だけを返した。同時に縁も零をそこに置いたまま、一歩前へと歩み寄り、その手を掲げる。
 しかし、その動きを無謀にも止める少女の声。
「あのっ、お姉さん!」
「…あらゆつきちゃん、無事だったのね」
 女は死霊を半分招きだしたところでその動きを止め、弓月と隣に居たシュラインを不思議そうに見る。
「しゅらいんちゃんも平気な顔してるし、今回何かがおかしいのよね……」
「あの、人を好きになることは素敵なことだけど、自分が傷ついたからって相手を傷つけていいはずないですよ!」
「傷ついた? 私は傷ついてなんかいないわよ。ただ……ただ、なんだったかしら? まぁ、この場に結局威彦は居ないし。予告どおりにするだけよ」
 そして狂気に満ちた笑みを浮かべる同時、両掌をフッと上へ向ける。
「今回のは見える、のね。私達はもう少し、離れてましょう?」
「えっ、あ…はい」
 幾ら羅火の石があるとは言え、何の抵抗も無い自分達には危険だと、シュラインは弓月の手を引き四人と死霊から遠ざかった。
「俺、さっきもサクサク斬って来て正直飽きてるんだケド羅火は?」
「わしか? わしは話しただけで戦りあってはおらんの」
「なら俺実体化してるほーがイイな。もうふわふわしてんの飽きたからさ?」
 言いながら、何時の間にやら出していた日本刀を構え、水晶は灰色の眼で羅火を見る。
「しょうがないのう。まぁ、こっちもこっちで一掃するつもりじゃが……草間はわしらが奴の気を惹いている隙に、の?」
「分かってる、流石に此処まで来てヘマはしない。というか、出来ないな」
「それにしても、ワンサカワンサカ豪勢な死霊だことで……水辺だからかな?」
 女が背にしている湖を指差し、水晶はポツリ言った。
「一応暴れるにはもってこいの場所じゃないかの。他人も巻き込まんし、物が無い分わしらも楽じゃろ」
「ま、ニンゲンの事なんてどーでもいいケド、それは言えてる。じゃ、お先。ヘマしないよーにね」
 言うや否や、水晶は地を蹴り低い体勢で縁の方へと向かっていく。その速度と夜風とで、上着がバサバサ煩い音を立てるが気にしない。無論、縁も水晶が向かってきた事を素早く察知し片手を水晶へ、もう片手を羅火の方向へと向ける。
 望みどおりというべきか、水晶の元には実体化した死霊が集団でやってきた。それを薙ぎ倒していかない限り縁には辿り着けないだろう。
「よっ、と」
 土のような顔をし、白目を向いているそれらの素早い動きを更に上回る速度でかわしながら、水晶は刀でサクサクと斬って行くが、斬った先から平然と再生していく姿を目の当たりにする。それに良く見れば、それらにも大人子供のような。そして男女のような微妙な差が見える気もする。
「見た目的にも、力的にもちょっとはマシ、かな…デモどーせ数だけなんだからちょっとだケド」
 ぼやき、一旦死霊達との間を取ると、左手から刀に神気を込めた。ぽうっと、刀に僅か輝きが纏わりつく。その神気の込められた刀で、水晶はヒュンッと宙を切った。それだけで、ただそれだけで。水晶の正面に居た死霊たちは、距離に関わらず消滅する。
「さっさと全滅させて、ラスボスぶっ倒すからさ。ザコは一気に来いよー?」
 その言葉に死霊達が微かに笑い声を漏らした、そんな気がした。
「侮っちゃいけないわよ? みなあきくん」
 ついでに遠くで縁も笑っている。
「何がおかしいワケ? …死に損ないが」
 よく見れば、縁の姿は昨日と変わらず、そこには未だ血の跡が残っていた。あれからも相当出血したようだ。
「私、今日はとても調子が良いの。まだまだお友達を呼べるわ」
 そう言い、両手を空へと掲げた縁に、水晶はやれやれと溜息を吐く。そしてどうせならば今この瞬間、この目障りなのを黙らせようとも考えた。周り――思うに羅火と裏社以外は煩そうだが、勢い余ったと言うことで流してしまおうと刀を構え、一気に縁へと斬りかかりに行く。距離にして数十メートル。行く手を邪魔する死霊は全て刀によって斬り払い、女の喉に切っ先を突きつけた――筈だった。
「っ……」
「言ったでしょ? 侮っちゃいけない、今日はとても調子が良いの。一人一人が弱くても、いっぱい集まれば話は別でしょう?」
 しかし、水晶の刀は縁に届くことなく、彼女の台詞が終わる頃、ギイィンと嫌な音が辺りに響き渡る。水晶の刀と、縁の目の前に現れた死霊が持つ剣が交わり、互いの刃を弾いた音だ。どうやら、今までこの辺りに居た死霊達を一体に纏めたらしい。水晶の付近に、死霊の姿は見当たらず、目に入るのは羅火と帰ってきたらしい裏社が相手にしている透明の死霊だけだ。
 一度間合いを取り、刀を構えなおす。目の前に居る死霊の集合体は体長二メートル程。鎧兜を纏い、自らに匹敵するほどの長さを持つ大きな両手剣を構えていた。水晶とは身長差は勿論のこと、幅や厚みといった体格差がかなりある。
「ジョーダン…どんだけ集まってもザコはザコ!」
 所詮大きな体にでかい武器、動きは鈍いだろうし、懐に入ってしまえば簡単だと予測を立て水晶は飛び込んでいく。それに反応した死霊も剣を構え飛び込んでくる水晶に正面から向かってくる。その速度は勿論水晶のものには及ばないが、予想していたものよりは早い。
「シ…ネ」
「へぇ、意外に早いじゃん? しかも喋れるんだ」
 ただ、片言の言葉と同時に振り下ろされた剣の動きはやはり遅く、それをかわすと水晶は一気に斬りかかろうとした。しかし、確かに剣はかわしたのだが。
「うっわ!?」
 痛みを感じたわけでもない。ただ何かに邪魔され吹っ飛ばされた。
「当たんないクセに、やたらデタラメな風圧だことで。ぁ、濡れたし」
 おまけに水辺まで飛ばされ、服が水を吸い込み始める。だが羅火と裏社との距離も近くなり、それに触発されたかもしれない。
「――そろそろ終わらせるよ?」
 切っ先を真正面へと向けた刀に左手でもう一度、神気を注いでいく。次は死霊が水晶に向かってきた。
 頭上から振り下ろされる剣に、神気を注ぐことをギリギリで止め、そのまま刀で対抗する。大きさも太さも全く違う。しかし、そこに込められている神気もあるのだろが、質は水晶の持つ日本刀の方が遙かに上だった。剣を刀で受け止めた瞬間、甲高い音と同時に刃が飛ぶ。勿論それは、大剣の物。同時に、集合し剣を構成していた死霊達が分散、あるものは消滅していく。
「これで終わり」
 最早丸腰同然の相手に、水晶は水を蹴り斬りにかかる。しかし――
「私達の、というか鏡さんの話を聞いてください!」
 然程遠くは無い場所で、弓月の声が聞こえた。横目で見れば、どうやら縁に何かを訴えかけ始めたらしい。
「た、けひ…こ?」
 動揺を帯びた声に、死霊が一気に消え失せる。勿論、巨大な死霊も消え失せてしまった。
「あーあ……あと少しだったのに何、コレは?」
 一先ずこれではどうしようもないと刀を左手に戻すと、羅火に水晶、裏社達はこの事態を不思議に思い合流した。それと同時、シュラインと弓月は縁と向かい合う。勿論、彼女等の傍には鏡姿もある。
「お姉さん! これ、鏡さんからお姉さんにって」
「こちらはあなた宛の手紙よ」
 二人の差し出すそれらを見て、女はゆっくりと二人との距離を縮めた。
「威彦、から? 私に?」
 まずはシュラインから白い封筒を受け取り、その中身を読んだ。それは三枚にも及ぶ便箋に、少し歪んだ文字で書かれていた鏡からの手紙。手紙の正確な内容は誰も知らない。ただ、裏社だけは僅かに鏡から二人の事を聞かされていた。
 三枚目を読み終えた縁は、ゆっくりと手紙を封筒へと戻し、弓月から正方形の箱を受け取り。その中身に、涙を流す。
「……五年で帰ってくるって、約束した。果たせなかったのは事実だよ。残ったのは、こんな僕の姿とキミへの手紙とリングだけ。でも、キミも約束を果たすこともなく、この手紙もリングも受け取ることなく――僕より先に、死んだ」
 最も近くで二人のやり取りを見ていた弓月は思わず驚きを表情に出した。シュラインは、冷静に事の成り行きを見守っている。
「死…、私が? それは威彦でしょ? 私探偵に調べさせたの。やっと仕事が取れて、五年で帰ってくる約束で東京に行ったあなたの行方を。婚約までして、なのに近頃は連絡一つなくて心変わりしたのかと――」
「縁。キミは三年前に死んだ。ただ、キミはそれを自覚していない。他人に憑いてまで、キミであり続けている……」
「違う、そんなの違うわっ!?」
 縁は必死でかぶりを振る。彼女の周りから、僅かに死霊が顔を出した。しかし鏡はやんわりと言葉を続けた。
「キミはこの数年、鏡を…ガラスを見た? キミは、縁ではないよ」
 言われ、縁は視線を僅かに逸らし、首を横に振ってみせる。その様子に、一歩前に出た羅火が徐に炎を吐いた。勿論、彼女に向かい。
 反射的に縁は一歩後ろへ後退するが、勿論それで避けられるでもない。しかし実際、シュラインも弓月も体験したが、その炎は生命体には無効のものだ。
「熱っ…」
 それが彼女の体から抜け出すと、辺りはシンと静まり返った。それは、今まで縁であった女性が倒れ、その中からもう一人の女性――正真正銘、橘縁が出てきた瞬間。
「何かに憑かれてたーじゃなくて、自分が憑いてたのか…」
 一度彼女とやりあった時、違和感を覚えていた水晶の謎もようやく解けた。
「僕は本当に病だったのか、混乱したキミに殺されてしまったのか…本当は分からない。けれど、キミがこうして……彼女に憑いていたという事は何か意味が有ったのかもしれないね」
 そう言い鏡は苦笑した。
「彼女って、鏡さんはこのお姉さん…知ってるんですか?」
「僕の、前のマネージャーだよ。行方不明になった。見つけて…彼女の中の君に気づいていればこんなことにはならなかったのかもしれない」
「彼女は……大丈夫なのかしら? これで本当に、本来の彼女に戻ったとは言え少しおかしい気もするのよね」
 シュラインの視線の先、縁の霊はぼんやりと夜空を眺めている。今までの彼女が嘘のように。
「僕たちは大丈夫なのでもう、お帰りください……縁を助けてくれてどうも、有難うございました。でもあの、そちらの方々に少し話があります。他の方は――どうか先に」
 鏡はシュラインの問いに的確な答えは返さず、ただ裏社と羅火と水晶を指し、他の者には帰路へつくことを願う。その言い方には疑問が残るが、三人を残し皆はその場を離れ、やがて桂の開けた穴でこの場から消え去った。
「単刀直入に言いますが、僕らを燃やして無くして下さい」
「……ぬしはそれを望むんじゃな?」
 羅火の問いに鏡は強く頷いた。そして、もし彼女が咄嗟に抵抗するようなことがあれば、水晶に押さえつけていて欲しいと。そして、あとは裏社の好きにして欲しいとも。
「でもさ? いちおー聞くケド、女はともかく自分は成仏しよーとか思わないワケ?」
「縁と離れるなら、共に消えた方がマシですから。ただ、彼女…マネージャーだけは無事連れ帰ってもらえますか?」
「なら、希望通りにするまでだと。ね、兄貴?」

 ふぅんと、然程興味もなさそうに水晶は呟き。裏社は隣の兄を見た。羅火は、それ以上何も言うことはなく。ただ、一歩前へと…‥


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 ――それから数日後
 武彦の頭痛もすっかり治り、今回事件に関わった五人も強制的に、或いは義務、ボランティアと言った形で草間興信所の片づけを行っていた。ガラスのなくなった窓、その補強ダンボールさえなくなり、雨風に晒されていた事務所を綺麗にしたり、割れたガラス類の回収、ファイルの整理。
 とは言え、面倒だとほとんど動かないのが一名。こういうものは向かんと言うのが一名。片付けてはいるが、微妙に動きが人の邪魔をしているのが一名と。アトラス編集部から応援が来たにも関わらず、全てが終わったのは夕方近くのことだ。
 唐突の来客は、六人が休憩していた時現れた。それは縁――ではなく、彼女に憑かれていた鏡の元マネージャー。
 結局彼女は後から戻った三人に連れてこられ病院送りにされて以来、接触は図っていない。だが彼女は一人ずつ顔を見ながら名前を当てると、ニッコリ笑い巨大な菓子の詰め合わせ缶を六人の前に差し出した。
 実は自分の意思でなかったとは言え、今まで起こっていたこと全てを覚えているらしい。普通ならば発狂しそうな状況だが、彼女は笑って「助けてくれてぇ、ありがとぉございましたぁ」と一礼しあっという間に消え去った。
 ドアの閉まる音と同時、言いようの無い空気に五人は武彦を見る。
「あ? いや、元々無関係な人が一人、あぁして助かってるしめでたし…………なのか?」
 必死で纏めようとしている武彦の言葉は最後、結局疑問に変わり、最早纏まる事は無い。
「皆さん、お茶が入りましたよ。あ、お菓子ですか? 丁度いいですね」
 しかしそこに、タイミングよくお茶を持った零がキッチンから出てくると、武彦は早速缶を開け中身を配り始めた。
「折角貰ったんだ、食わなきゃ損だろ?」

 ただその中にコロリと転がるリングを見つけた時、一同が固まった事は言うまでも無い…‥


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 [5649/ 藤郷・弓月  /女性/17歳/高校生]
 [0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員]
 [5130/ 二階堂・裏社 /男性/428歳/観光竜]
 [1538/人造六面王・羅火/男性/428歳/何でも屋兼用心棒]
 [3620/ 神納・水晶  /男性/24歳/フリーター]

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■         ライター通信          ■
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 この度は大変お待たせしました、亀ライターの李月です。最初に、今回誤字脱字こちらの勘違い思い違いなどありましたらどうぞご指摘ください。今回も情報の散らばり具合が凄いのと、結局引き出せた情報はそのまま結末で事実と合流状態。鏡の死亡時期は誤魔化されていたと言うのが正しく(タケヒコ狩り最中に原因は何であれ死んだと言うのは事務所的に隠蔽すべきと)結末は3つほどありましたが、その中の中間的な物に辿り着きました。縁に鏡にマネージャーの関係や目的等は宙ぶらりん状態ですが…多分三人にとってはそれぞれ望んだ終わり方ではあります。
 最後までお付き合い有難うございました。

【神納 水晶さま】
 後編へのご参加も有難うございました。メンバー的には殺しちゃっても構わないのが5人中3人というのもあり、かなり交渉よりも戦いでの解決となりました。頭の中で映像的にはあっても、なかなか表現に出し切れないという相変わらずの力不足さですが、どこか少しでも楽しんでいただけてれば嬉しいです。そして前編では然程闘うことはなかったですが、やっぱり闘ってる方がらしいな…と思いますね。

 それでは又のご縁がありましたら…‥
 李月蒼