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<五行霊獣競覇大占儀運動会・運動会ノベル>


かわいいもの障害物競走に参加しませんか?

ACT.0■PROLOGUE――遅まきながらの参戦――

「ほほ〜う。五行霊獣競覇大占儀運動会開催中とな。蓮は大々的な施術に挑戦しておるらしいのう」
 金木犀も散ってしまった神無月下旬。今年もまた、出雲での神々の会議をすっぽかすつもりらしい弁天は、弁財天宮1階カウンターでノートパソコンを覗き込んでいた。
 ゴーストネットOFFのサイトトップには、蓮のバストアップ写真つきスペシャルバナーが派手に飾られている。クリックすると、この運動会の趣旨や参加要項、そして途中経過が表示されるのだった。
「なかなか面白げじゃのお。大親友としては力の限り協賛せねばなるまいて」
「蓮さんが聞いたらものすごく嫌がりそうな台詞ですが、そう仰るだろうと思いまして、ただいま西園競技場を障害物競走仕様に調整中です。あ、すいません鯉太郎さん、その長机はトラックのそばに、公爵さまがお持ちの巨大パンはスタート地点にセッティングしていただけますか?」
 すでにあきらめを通り越して開き直った蛇之助が、『応援担当』と書かれた黄色の鉢巻をして、てきぱきと采配を振るっている。鯉太郎とデューク、キマイラ騎士団の面々は、競技に使うグッズや什器を抱えて走り回っていた。
「いつになく手回しが良いではないか。障害物競走というのは、蛇之助の発案かえ?」
「はい。今回は、エル・ヴァイセの皆さまに加えて、ゲートナンバー『ろの13番』ルゥ・シャルム公国亡命者居住区域の方々にご協力いただいてます。こちらは『障害物』総指揮をご担当いただく、アンリ・オーギュスタン元帥閣下でいらっしゃいます」
 蛇之助は、自分の肩の上を指し示し、そう言った。弁天は世にも不思議な顔になる。
「……元帥閣下……?」
 弁天が困惑したのも道理で、蛇之助の肩には、ふわふわした薄茶の毛並みの可愛らしい子うさぎが、耳をぴんと立て、大きな瞳をきらめかせて乗っかっているのである。
 子うさぎはまるで敬礼をするかのように、弁天に向かって小さな前足をぴっと上げた。
「ぷぎゅー!(訳:これは弁天どの。お初にお目にかかる)」
「うむう……。思わずさらって逃げたくなるくらい犯罪的な愛くるしさじゃのう。ルゥ・シャルム出身者はみなそうなのかえ?」
「ぷぎゅっぷぎゅっー。ぶぎゅぎゅ(訳:さよう。幼形成熟の幻獣で構成された国での。国民は皆、年齢性別種族関係なしに幼い姿のままなのだ。私もこう見えても、祖国には妻が4人、寵姫が7人いるれっきとした壮年の)」
 いい調子で自分語りを始めだしたアンリを、デュークが絶妙に遮る。
「エル・ヴァイセとルゥ・シャルム間には、幾度か争乱がございましたね。かつて元帥閣下と戦場であいまみえたこの身が、平和的な運動会でご一緒できようとは」
「ぷぎゅっ! ぎゅっ、ぎゅ(訳:おお宰相どの。いやいや、亡命先にまで過去の遺憾を持ち込んでも詮無いこと。この地に適応する為にも、お互い助け合おうぞ)」
「はて? ルゥ・シャルム出身者がかわいい系小動物てんこ盛りらしいのはわかったが、それがどう障害物競走と結びつくのじゃ?」
「このかわいらしさで、参加者の皆さんの前に立ちふさがっていただくのです」
 元々うさぎ好きな蛇之助は、愛らしい子うさぎ(実体はともかく)を肩に乗せて、まんざらでもなさそうににこにこしている。
「強力なモンスター相手なら存分に応戦できるかたでも、かわいい幻獣に大挙して囲まれたら、手も足も出ませんでしょうから――すみません元帥さま、ちょっと頭を撫でさせていただいても?」
「ぷぎゅっ(訳:ま、ちょっとくらいなら)」
「……スタッフからして、すでに骨抜きじゃのう。大丈夫かえ?」

ACT.1■スタートの前に

「弁天さま、ハナコさん、みやこさん。まだですか〜? そろそろ会場に移動してくださいよ」
「急な告知でしたのに、11名もの参加者さまに恵まれてありがたいことです。組み分けと応援担当表を持ってきましたので、目を通していただけますか」
 すっかりイベント要員が板についたフモ夫ことファイゼと、ポチことポールは、5色グラデーションの法被と鉢巻を身につけている。
 デューク、鯉太郎、蛇之助は、すでに西園競技場に待機しているというのに、女性応援団陣の用意がなかなか整わないので、しびれを切らして呼びに来たのだが――
「うむ。まいろうぞ」
「えへへー。似合う?」
「このスカート、短すぎませんか? ちょっと恥ずかしい……」
(うわ)
(すごっ)
 ことあるごとに都合のいいスタッフとしてかりだされ、いいかげん、この奇妙な異界の傾向と対策に馴染んだはずのファイゼとポールですら、思わず顔を見合わてしまう。
 青龍組担当の弁天、黄龍組担当のハナコ、玄武組担当のみやこは、3人とも気合の入ったチアガール姿になっていた。ツインテールにそれぞれの組のリボンを結び、同色のプリーツスカートを合わせている。
(どうコメントしていいかわからんぞ。何もここまでしなくてもなぁ……)
(捨て身の『妨害』のつもりでしょうかね)
 固まった司会進行兼副審たちに、弁天がむっとする。
「シャイなレディたちが、背伸びして発奮しておるというのに、何じゃその困惑顔は。騎士たるもの、褒め称えぬか馬鹿者!」
「は、いえ、すみません。あまりの美しさに言葉を失いまして」
「男性参加者の皆さまも、思わず目が釘付けになること請け合いです。もー、妨害工作はばっちり……と言いたいところですが、裏ルールに変更が生じたんですよね、フモ夫団長?」
「そうだったな。それも合わせてご報告せねば。弁天さま、まずは表のご確認を」

*********選手一覧(バストアップ写真添付:敬称略)*********

 青龍組2名……鹿沼デルフェス/物部真言(応援担当:弁天)
 朱雀組1名……藤井葛(応援担当:ディテクター)
 黄龍組2名……三春風太/マリオン・バーガンディ(応援担当:蛇之助&ハナコ)
 白虎組4名……シュライン・エマ/嘉神しえる/クレメンタイン・ノース/ディオシス・レストナード(応援担当:デューク&鯉太郎)
 玄武組2名……石神月弥/ゲイルノート・グラハイン(応援担当:みやこ)

***************************************

「おおっ! 初顔の殿方がたくさんおって目移りするのう。これ、フモ夫、真言とディオシスとゲイルノートのバストアップ写真をもう1枚ずつ、わらわの秘蔵鑑賞ファイル用に提出させるように。風太は癒し系ゆえ、できれば背景つきのピンナップがよいな。この、葛という娘御はたしか某イヌの……せっかくじゃから、ツーショット写真など焼き増ししてもらおうか。そういえばマリオンも公園には初めてじゃったの、さて、どんな写真を」
「そういうプライベートコレクションは、競技終了後に個別に交渉してください。それより弁天さま、応援担当による『妨害』が可能なことについて、先ほど選手の皆さまにご説明しましたところ」
「どうした? さっそく依頼が殺到したか?」
「その反対です。『そういう卑怯なことは嫌いだからしたくない』と仰る葛さんをはじめ、デルフェスさんより『弁天さまから声援を送っていただけるだけで嬉しいですから、妨害は依頼しませんわ』とのお言葉を、『綺麗なお姉さんは好きなのです。弁天さま、妨害はしないでほしいのです』とマリオンさんからのメッセージをいただきました。他のかたも同様で、結局11名全員、どなたからも妨害希望は出なかったのです」
「取りあえずマリオンには、わらわもおぬしのような美少年はストライクゾーンじゃと伝えい。しかしまあ、皆、真面目じゃのー」
 弁天は感心しつつも、小首を傾げて思案する。やがて、ぽんと手を打った。
「あいわかった。それでは妨害OKの裏ルールは返上しよう。その代わり」
「……その代わり?」
 ファイゼの耳に、弁天はひそひそと何かを囁く。キマイラ騎士団団長のおもてが、さらなる困惑の色に包まれた。

 + +   + +

 澄み切った秋空の下、選手たちはすでに、井の頭公園西園競技場に集合していた。
 スタート地点に用意された巨大なパンが、司会補助(雑用)の『カベ』こと騎士カスパール・ベルンシュタインによって手渡されていく。
 トラック横の長机上には、順位を記入するためのホワイトボードが設置され、そのそばに、ファイゼとポールはワイヤレスマイクを手に陣取っている。
「皆さま。本日はお忙しい中『かわいいもの障害物競走』にご参加くださいましてまことにありがとうございます。すでに競技内容はご存じと思いますが、再度ご説明いたします」
「今、お配りいたしましたパンを抱え、トラックを3周していただきます。1周目は子うさぎ系幻獣が、2周目は子ぎつね系幻獣が、3周目は小鳥系幻獣が『障害物』として、それぞれ誘惑したり、別の場所へ行ってお茶をしようと甘えてきたり、パンを食べようとしたりします」
「その愛くるしさに負けず、なんとか突破してください。より早く、そしてお手持ちのパンの損傷がより少ないかたから、順位の判定をさせていただきます――ここまでは、よろしいですね?」
「さて、加えて副審より連絡事項がございます。スポーツマンシップにあふれる選手の皆さまのご意向により、応援担当による『妨害』は行わないこととなりました。その代わりと申してはなんですが……『勝手にお節介』と称して……応援活動がやや過剰気味になるかも知れません……ご了承ください……ませ」
「……むしろ、妨害よりも迷惑な気がしますけどね……」
 途中から、司会進行たちの声のトーンががくっと落ちる。ファイゼとポールは、溜息をついて、にわかチアガールたちを見るのだった。

「青龍組、ファイトじゃー!」
 位置についたデルフェスと真言に、青いボンボンを振りながら弁天は声援を送る。
「運動は得意ではないのですが、わたくしにとって弁天さまは勝利の女神。同じ組なのも運命としか言いようがありませんもの、頑張りますわ!」
「うむ! 今日のデルフェスは気合いが入っておるのう」
 いつもは優雅な姫君を思わせるデルフェスであるが、競技に臨んでのいでたちは一変していた。鉢巻だけは青ながら、身につけているのは熱血教師御用達の赤いジャージの上下、片手には何故か竹刀を持っている。パンを受け取る前に、大胆に脱ぎ捨てたジャージの下からは赤いブルマが現れた。
「わたくしの勝利は弁天さまへの愛と友情の証ですの! 幻獣の可愛さは効きませんわ」
 1周目の障害物としてスタンバイしている子うさぎたちに、デルフェスはまるで野球漫画の予告ホームランのようにびしっと竹刀を向ける。
「ぷぎゅぎゅーっ」
「ぷぎっ。ぎゅゆ〜」
「ぷぎゅーん。ぎゅぎゅ」
 子うさぎたちはひとかたまりになり、いかにも保護欲をそそる仕草で涙目で見つめたり、片耳を垂らしたりしている。
「わりとエグくないか、この競技。なんていうか――心理的に」
 鋭い瞳を心もち細め、真言は呟く。
「それにしても、異様にでかいパンだな。……美味いのか?」
 その隣でパンを抱きしめながら、風太は目を輝かせている。
「うわぁいパンだパンだ! 嬉しいな、パン食い競争だぁ!」
「……いや。それは違う」
 ぼそりと訂正する真言に、風太は子うさぎ顔負けのあどけない瞳を曇らせた。
「ええっ、パン食っちゃダメ競争なの? おなかすいたよぉ〜」
「競技が終わったら、味見してもいいと思うが」
「ボクね〜、クリームパン大好きなの! ボクのパン、クリーム入ってるかなぁ? お兄さん、どう思う?」
「どうって……俺は、クリームは……特に生クリームは苦手だから、入ってたら困るな」
「そうなんだ! じゃあ、お兄さんのパンが生クリーム入りだったら分けてね! ボクのパンにクリーム入ってなかったらお兄さんにあげるから」
「パンが大きすぎて持ちにくいのです。できるだけ小さいパンがいいなぁ……。蛇之助さん、ハナコさん、何とかならないのですか?」
 風太と同じ黄龍組のマリオンは、いつもより動きやすそうな運動会仕様の服装だった。腕いっぱいに巨大パンを抱えてよろめいている。
「申し訳ありません、マリオンさん。こればかりはどうすることも」
 蛇之助がすまなそうに言う。ハナコは黄色のボンボンをぱたぱたさせながら、風太とマリオンの前で器用に一回転してみせた。
「フレーフレー! 黄龍組! ここだけの話だけど、風太ちゃんとマリオンちゃんの持ってるパンはみんなのより特別に美味しいんだよ! ハナコ、こっそり細工したんだ」
「……ハナコさん……。それこそお節介というものでは……。障害物の皆さまに集中攻撃されるじゃないですか」
 がっくりする蛇之助の背中を、しえるがよしよしと叩く。
「運動会って高校以来かしら。よくわからないイベントになってるけど、蛇之助の発案なんですって?」
「はい、どうせ免れない運動会なら、せめてかわいい幻獣にご協力いただこうと思いまして」
「弁天サマが絡むと錯綜するのはいつもの事だし、気にしないけどねー」
「すみません。しえるさんとは別チームになってしまいましたね」
「ちょっと残念だけど、しかたないわ。弁天サマとは大いに戦いましょう!」
 きっ、としえるは弁天を見据える。にらみ返した弁天との間に、激しい火花が散った。
「わらわたちは応援担当じゃと言うておろうが! ……ふっ、我らが青龍組は、優勝候補筆頭の白虎組にだけは負けぬぞえ」
「よう、シュライン。さっき中間発表みたら、成績優秀者に名前挙がってるじゃん。この調子で個人優勝狙えよ!」
 強豪、白虎組の応援担当に割り振られた鯉太郎は、上機嫌で声を掛ける。しかし、シュラインの足取りは何やらおぼつかなかった。
「鯉太郎くん……。ええ、そうね。そうしたい、けど……」
「お顔の色がすぐれませんが、大丈夫ですか、シュラインさん?」
「ごめんなさい、公爵さん。スタート位置まで肩を貸してくれる?」
「体調がお悪いのでしたら、しばらくお休みになられては」
「……ちがうのよ……」
 シュラインは、ほう、と息を吐き、1周目の子うさぎたちと、2周目地点に陣取っている子ぎつねたち、3周目での出番待ちをしている小鳥たちの集団に、順繰りに視線を移す。
「……ふかふか」
「……はい?」
「もこもこ」
「……?」
「そして、つぶらな瞳。なんてかわいい。……う」
 くらり、と目眩をもよおして、パンを取り落とし腰砕けになっているシュラインを、鯉太郎とデュークが素早く両脇から支える。
「おおーい。しっかりしろー! よく見ろよ、テキはおまえの大好きな大型もふもふじゃねぇぞ!」
「シュラインどの。どうかこのパンはしっかりと抱えて離さないように。……そう、草間興信所の最終食料だと念じてください!」
 応援担当から活を入れられ、ようやくシュラインははっと我に帰った。
「そう、ね。大型じゃないのが救いね。そしてこれは大切な食料。……ふぅ」
 額の汗を拭うシュラインのそばで、スタッフ補助初参加の美形騎士カスパール(実体は謎めいた雪の幻獣クアーゼトロニコム。ぬりカベの雪バージョンをご想像ください)は、パンを配布する手をはたと止めた。クレメンタインとディオシスを見て、顔色を変えている。
 3歳くらいの幼い女の子状態のクレメンタインは、長身のディオシスにひょいと肩車されていたのである。それは、小さな女の子をひとりで走らせるのはしのびないという、ディオシスの配慮であったのだが。
「クレメンタイン姫……。あなたさまはフリーではなかったのですか。そのかたとは一体、どういうご関係なのですか……」
 雪系幻獣に興味を持っていたクレメンタインは、去りし夏、カスパールを訪ねて『への27番』に遊びにきたことがあった。それ以来、カスパールは一方的に舞い上っていたのだ。
 すっかり誤解して傷心状態のカスパールを、しかしクレメンタインもディオシスも全然、まるっきり、気にしていない。
「こんにちはー、かべのひと。くー、がんばる」
 ディオシスの髪にしがみついて、クレメンタインは無邪気に手を振る。
「しっかり掴まってろよ。パンは俺がふたり分抱えて走るからな。あいつらに邪魔はさせない」
 その足を片手で支え、ディオシスは幻獣たちに一瞥をくれた。可愛らしい様子をみてもまったく動じずに、弁天に視線を移す。
「そうだった、弁天さん。あんたに某魔剣からの伝言を預かっている」
「おお。あのかたは、今日はいらっしゃらぬのかえ? 待っておったのじゃが」
「参加しても弁天さんと一緒のチームになれないから、今回は出ないそうだ」
「……そうであったか」
「……愛されてんな、あんた」
「しかし、おぬしも男前よのう。いい男はいい男を呼ぶのじゃな」
 ディオシスを見つめてにこにこと頷く弁天に、しえるが小声で突っ込みを入れた。
「気が多すぎるから幸せを逃すんじゃないの〜?」
「何じゃとぉ〜!」
「なんか小動物がいっぱいだなー。あいつがいれば喜ぶんだろうけど」
 まわりの騒がしさもなんのその。たったひとりの朱雀組、葛は、留守番に残してきた居候の笑顔をちらっと想い、黒髪に映える赤い鉢巻を締めなおした。
「おまえは、喜ばないのか?」
 黒いコートに両手を突っ込んだまま、ディテクターが葛のそばに立つ。運動会になど何の興味もなかったはずなのに、何の因果か、大いなる意思により、朱雀組応援担当に任ぜられてしまったのだ。受けた以上は淡々と仕事をこなそうと腹をくくり、ちゃんと赤の鉢巻を締めているのだが、似合わないことおびただしい。
「別にいまさら。ちっちゃい子は、見慣れてるし」
「なるほど。それなら、俺が言うことは何もない。おまえは運動神経の良さが取り柄だ。幻獣なんざ気にしないで、いつもどおりに走ればいい」
「わかってる」
(うわー。スポ根テニスもののコーチと選手みたいだ)
 葛とディテクターのやりとりに、玄武組の月弥は、かつてアニメ化されて一世を風靡したとある少女漫画を連想した。あまりサブカルチャーには詳しくなかったのだが、以前テレビで特集した際に、長老のギザ十と菜切り包丁の姐さんが詳しく解説してくれたのである。
 外見年齢12歳のその横顔に、幻獣たちに指示を出すため、ずっと走り回っていたアンリ元帥が足を止めた。はっとして見入ってから、子うさぎたちに叫ぶ。
「ぷぎゅっー。ぎゅー!(訳:むむっ。きらめく宝石のようなまなざし。歴戦の将軍さながらの目力だ。皆、心してかかれ!)」
「…………(腹が減った。美味そうだな、どのパンも)」
 同じく玄武組のゲイルノートは、障害物競争よりは目の前のパンに心を奪われていた。自分に配られたパンからはほのかにチョコレートの香りがするし、周りの皆がもっているパンからも、クリームやらフルーツジャムやらカレーやら入っている匂いがする。
 特になにも加えていないパンもいくつかあるようだが、そのシンプルな小麦の香りもまた好ましい。
「あっ、ゲイルノートさん。自分で食べちゃだめですよー?」
 身のうちから発した誘惑に思わず負けそうになったゲイルノートを、みやこが慌てて止める。
「フモ夫さーん、ポチさーん。早くスタートの合図をしてくださいっ!」
 競技開始が長引びけば長引くほど不利と判断したみやこは、さっそく『勝手にお節介』を発動した。

ACT.2■1周目の誘惑・2周目の罠・3周目の攻防

「玄武組応援担当みやこさんから要請がありました。そろそろ競技をスタートいたしますが、その前に、この『幻獣語通訳機』を配布したいと思います。このとおり超小型サイズですので、鉢巻に取り付け可能です。ルゥ・シャルムの方々の発音は独特で、慣れないと聞き取りにくいですから」
 ファイゼが片手に乗せた、人数分の小さな装置に対して、アンリが頷く。
「ぷぎゅうー。ぷぎゅっぷ(訳:そうであった。しかしその機械は、まだ試作段階ではなかったかの?)」
「仰るとおりですが、さいわい今日の選手の中には語学のエキスパートがいらっしゃいますので。……お手数ですが、シュラインさん、しえるさん。しばし勝負を離れて、通訳機の微調整にご協力ください」

 ――そして。
 各自、調整の終わった通訳機を鉢巻にセットしたところで、競技開始のホイッスルが鳴った。
「私たちのアナウンスは、本部の主審、草間武彦さんにダイレクトに繋がっております。判定と集計の関係上、組ごとに切り替えさせていただく場合がありますが、ご了承くださいませ――レディ、GO!」

 + +   + +

 ACT.2-a□青き龍を見よ【鹿沼デルフェス/物部真言】

「各組、いっせいにスタートいたしました。おお、速い、速いです、青龍組。トップで駆け抜けていくのは真言さん。群がる子うさぎたちを蹴飛ばさないように配慮なさるあたりが心憎いですね」
「デルフェスさんもマイペースながら、誘惑をものともしない確かな足取り。ブルマ姿が眩しいです」
「ああっ。2週目にさしかかったあたりで、真言さんが立ち止まりました。どうしたのでしょうか?」

「……狐か。兎もそうだったが、俺には馴染みのない生き物だな」
「きゅーんこん。こーん(訳:こんにちはぁ。一緒にお茶をしようよ)」
「きゅーこ。こんーっ(訳:ここじゃ落ち着かないから、ぼくたちのおうちに行こう。お茶菓子もたくさんあるんだよ)」
「野生の狐の獰猛な様子は、昔、テレビで見たことがある。おまえたちも本来はああなんだろう? たくましく生きろよ」
「きゅ。きゅくっ(訳:う。見抜かれているぞ)」
「きゅきゅ(訳:鋭い御仁だな)」
「競技が終わったら、茶菓子くらいは頂戴しよう。じゃあな」
 
「真言さんはかわいいものには耐性があるようです。子ぎつねたちに声を掛けただけで、颯爽と走り去りました。同じくデルフェスさんも幻獣はクールに無視」
「わたくしは、せめて競技中だけでも、弁天さまが見守ってくださいましたら十分なのですわ!」
「……だそうです。泣かせますねぇ」
「青龍組には高得点が予想されます。応援担当のお節介の必要もなさそうですね」
「3周目に入る前に、他の組を見てみましょう。朱雀組はどうでしょうか?」

 ACT.2-b□不死鳥はハードボイルド【藤井葛】 

「パンを食べられないように、しっかりと抱えた葛さん。幻獣の群れのど真ん中を一直線で突っ切ります。さすがの運動神経です」
「しかし1周目から、子うさぎが誘惑がてらパンをねだっています。集団の中でもひときわ可愛い、ネザーランドオレンジ風外見の……あれはたしか、百戦錬磨のジルベール大佐ですね」
「大佐に誘惑されると私だってくらっときますよ。あ、もうパンを少し囓りかけてます。葛さん、大丈夫でしょうか? 手助けしなくていいですか、ディテクターどの?」
「……平気だろう。彼らは見た目は小さな生き物に過ぎないし、葛は子どもの扱いに長けている。見てみろ」

「勝手に食べちゃだめだ。行儀の悪いことをするのは『めっ』だぞ!」
「ぷぎゅう……(訳:だって……)」
「ちゃんと謝りなさい。ごめんなさいは?」
「ぷぎ……(訳:ごめんなさい……)」

「おお。見事なあしらい方です。2周目では、待ちかまえていた子ぎつねたちがお茶に誘ってますが、果たして」
「やや、ジーンズのポケットからお菓子を取り出しました。群れの真ん中に投げ込んで、統制が乱れたあたりでダッシュ!」
「なかなかの作戦ですね。さて、それでは黄龍組を……ありゃ」

 ACT.2-c□ふわふわなきいろ【三春風太/マリオン・バーガンディ】

「ぷぎゅっ。ぷぎゅーっ(訳:あーそーぼー。どこか行こうー)」
「うん、あそぼ〜。ボクと一緒におさんぽしよ!」
「ぷぎゅぎゅー。ぎゅ(訳:おなかすいたー。何か食べたいなぁー)」
「うささんもおなかすいたの? ボクもそうだよ。じゃあ、ゴールしたらおやつタイムにしようね」

「おやおや。風太さんは、逆に誘惑してらっしゃいますよ」
「意表を突いた作戦ですね。悪くないです……が……しかし……本当にぞろぞろと散歩状態のようで」
「子うさぎを引き連れたまま2周目です。さっそく、子ぎつねからティータイムの誘いです」

「きゅーんこん。きゅーん。きゅっ(訳:こんにちはぁ。一緒にお茶をしよう。ぼくについてきて!)
「えええダメだよ〜! 知らないひとについていっちゃダメって言われてるもん」
「きゅっ。きゅきゅ?(訳:ぼく、ひとじゃないから構わないでしょ?)」
「そっか。じゃ、いいのかな?」

「大変! 風太ちゃんがあっさりついていってるよぉ! どうしよう蛇之助ちゃん」
「ええっと。取りあえず追いかけましょう。トラックの外に出ないよう、誘導するしかないです」
「風太さんの行方は応援担当にまかせるとして、マリオンさんはどんな感じでしょうか?」
「こつこつてくてく歩いてらっしゃいます」
「走って疲れるのがお嫌なのですね。けっこう長距離ですし、マリオンさんらしいご判断です」

「ぷぎゅー。ぎゅ!(訳:あーそーびーまーしょっ!)」
「かわいいのです。1匹頭に乗せてみたいのです」
「ぷぎゅぎゅー。ぷぎっ(訳:のせてー。あそぼー)」
「でもそれは、ゴールしてからのお楽しみなのです」

「マリオンさん、誘惑に心をゆらしつつも耐えてます」
「さあ、2周目のお茶の誘いですが……」
「あらら。淡々と通過しました。子ぎつねたちは、マリオンさんの求める銘柄をすぐには返答できなかったようで」
「お茶にはこだわりをお持ちのかたですからね。……お、反対に、あとでマリオンさんが入れてくださると仰ってますよ。いいですねえ、ご相伴したいです」
「なんというか、黄龍組はほのぼのしてますねぇ」

 ACT.2-d□虎穴に入らずんば……だがしかし【シュライン・エマ/嘉神しえる/クレメンタイン・ノース/ディオシス・レストナード】

「それでは、白虎組の様子を見てみましょう」
「幻獣のかわいさに目眩を起こしていたシュラインさんですが、どうやら立ち直った模様です。統制の取れた動きと、計算された愛らしさの表現に、彼らが相当の手練れであることを見抜き――ああっ、子うさぎたちに『整列!』『敬礼!』の号令をかけました!」
「ほとんどが軍隊出身者ですから、これには弱いです。きちっと並んで敬礼し、シュラインさんを見送っています」
「2周目のお茶の誘いは、丁重に辞退して通り過ぎ……おや?」

「ちょっとアドバイスしましょうか」
「きゅーん?(訳:何ですか?)」
「目を潤ませるのもいいんだけど、ちょっと耳を伏せてみたらどう?」
「きゅーう、こん?(訳:こんな感じですか?)」
「そうそう、かわいいわよ。あと、角度はもっと右斜め45度くらいで」
「きゅ……きゅ?(訳:こう……かな?)」
「……う。つい見とれてしまったわ。じゃあね。私、急ぐから」

「アドバイス作戦で気を逸らしたようですが、シュラインさーん。あなたが愛する大型のふもふもはここにいまーす。そんなちみっこい連中に惑わされないでくださーい!」
「ちょっとフモ夫団長! 副審の立場を忘れた声援はつつしんでくだ……ああ、しえるさんが片っ端から子うさぎを蛇之助さんに放り投げていますよ!」

「蛇之助ー!  Present with love♪ うさぎ、好きでしょ? 受け取ってー!」
「ぷぎゅーっ(訳:あーれー)」
「ぷぎゅぎゅ〜!(訳:うわわ〜!)」
「え? ええ? おっと、ご無事ですか、ジルベール大佐にエティエンヌ軍曹。いやぁ、近くで見るといっそう可愛いですね〜」
「ぎゅぎゅっ(訳:ふ、まあね)」
「ぷぎっ(訳:努力してるからね)」
「ふふん。障害も排除できて蛇之助も幸せで、良きかな良きかな♪ さぁて、次は子ぎつねちゃんたちだけど」
「きゅーん。こーん(訳:お茶をしようよ。楽しいよ)」
「お茶ねぇ。今は『マリアージュフレール』の『オペラ』か『フォートナム&メイソン』の『クイーンアン』な気分なんだけど、ある?」
「きゅん、きゅきゅきゅこ〜〜〜?(訳:な、なんですかそれ?)」
「わかんなければいいの。また今度ね」

「蛇之助さん、他チームの選手の手助けをしちゃいけませんよ。って……うぃずらぶ? あああっ、おふたりがつき合ってるというウワサは本当だったんですね。ショックだぁ。……いえ、まだ結婚したわけじゃなし、私はあきらめませんよっ!」
「こらポチ。おまえこそ私情むき出しのアナウンスはやめろ」
「げほんごほん。子ぎつねの頭を撫でて、しえるさんはさくっと3周目に向かいました。そして、長身筋肉質のディオシスさんと、小さなクレメンタインさんの凸凹コンビの方は、と」
「……ずっと肩車したままで、仲良さそうですね……。先輩がた、やっぱり私は失恋したんでしょうか。うわ〜ん!」
「うるさいぞカベ! ハートブレイクなのはおまえだけじゃないんだ。仕事しろ仕事」
「えー。只今、お聞き苦しい点がありましたことをお詫び申しあげます。さて、ディオシスさんの肩に乗って、クレメンタインさんは先刻からじぃぃぃーっと幻獣たちを見つめています」

「ぶぎゅ?(訳:何だろ?)」
「きゅーこ?(訳:何か、言いたいことがあるのかな?」
「ぴきーちゅん? ちゅん(訳:何だか空気が冷えてきた気がしない? 気のせいかしら?)」
「……うさぎのてぶくろと、ぼーし」
「ぷ?(訳:ん?)」
「きつねのえりまきと、こーと」
「きゅ?(訳:え?)」
「うもうのくっしょん」
「ちゅん?(訳:なっ?)」
「これだけいたら、ざいりょーこまらないね……」

「さあ、ここで鯉太郎さんより『勝手にお節介』が発動いたしました。クレメンタインさんのためのBGM『残酷な天使のテーゼ』をどうぞ」
「「「ぷぎゅ〜〜ぎゅう「「「きゅ〜〜ここ〜ん「「「ぴきちゅん〜〜(通訳機に雑音:訳不能)」
「おおっと。クレメンタインさんがにぱっと笑った瞬間、幻獣たちがずざざざっと道を空けます」
「ディオシスさんは、ふたり分のパンを一手に引き受け、爆走態勢です。や、勇敢な子ぎつねが、お茶に誘っていますが……」

「コールドブレスと操焔をくらいたいのか! いいからどけ。邪魔する奴は、終わった後もれなく晩飯のおかずにしてやる」
「きゅ〜〜んっ!!!(やはり動揺のあまり訳不能)」

「絶妙のコラボレーションです。とはいえ、クレメンタインさんはちょっぴりお茶に心惹かれたようで。猛スピードで走るディオシスさんに、子ぎつねを追いかけさせています」
「でぃお〜。あっちいくー」
「ん? あっちだと逆走だぞ?」
「いくー」

「少々迷走気味ですが、ディオシスさんの運動能力でしたら問題ないですね。そろそろ玄武組の様子を見てみましょう」

 ACT.2-e□魔性のブラックパワー【石神月弥/ゲイルノート・グラハイン】

「おおっとお。アンリ元帥も注目した、月弥さんの目力が炸裂しています!」
「子うさぎたちは輪になって月弥さんを取り囲み、それぞれ魅力全開で誘惑中です」
「しかし月弥さんは、ゲーム世界のダンジョンでうさ耳になった経験をお持ちのかた。子うさぎの『魅了』には屈しません」

「ぷ……ぎゅ……(訳:く……。なんという手強い御仁だ……)」
「ぷぐ……ぎ……(訳:アンリ元帥が一目置くだけのことはある……。こちらの方が魅了されそうだ……)」
「………(じーっと見つめている)」

「子うさぎの輪は、じりじりと広がっています。月弥さん優勢ですが、このままでは動くに動けませんね」
「ちゃんとパンを抱え込んで、防御姿勢を取ってらっしゃるあたり、さすがですが」
「あ、とうとう一角が乱れました。幻獣が根負けしたようです」
「月弥さん、一気に駆け抜けます。2周目の子ぎつねも、お茶に誘われる前に通過する作戦です」
「どうやら、スルーできたようですね。ふさふさしたきつねの尻尾を踏まないように走ってらっしゃいます。お優しいですねー」

「きゃー! ゲイルさーん、パン食べちゃだめですったらー!」
「とうとうみやこさんがトラックに突入しました。はらぺこモードのゲイルノートさんが不穏な動きを見せています」
「ううむ。このかたのようなくいしんぼう万歳属性は、障害物よりも己が最大の敵ですね」
「応援担当に叱られて、パンを自分で食すことはあきらめたようですが……。お腹が空きすぎていて、幻獣たちすら食料に見えてるみたいです」
「ありゃりゃ。うさぎ狩りときつね狩りが始まってしまいましたよ」

「食われる前に食う!」
「「「ぷぎゅ〜〜ぎゅぎゅ〜〜〜「「「きゅん〜〜ここ〜んきゅこ(またしても通訳機に雑音:訳不能)」
「本来の目的から外れたことをすんじゃないっ! レースに戻れ!」

「これは驚きです。朱雀組の葛さんがどこからかハリセンを取り出して、ゲイルノートさんに突っ込みを入れました」
「敵チームに助言するとは天晴れな心意気です。しかも、葛さんのスピードは衰えていません」

 + +   + +

「さあ、いよいよラストスパートです」
「3周目のトラックを追いつ追われつ、各組はゴールに向かって進みます」

「俺にとって馴染みのある鳥は、鳩とカラスと、鳴声しか知らない野鳥くらいだ。お前たちは空を飛べる分、餌を得る機会も多いだろう。今回は縁が無かったと思って、食料は別のところで見つけてくれ……!」
「パンは差し上げられませんの。失礼して、石化させていただきますわ」
「このパンよりもっと美味しいパンがあるだろ? 後でサラダ入りとかハム入りとか、豪勢なパンをあげるから。……うん、約束だぞ」

「青龍組は、小鳥たちのおねだり攻撃を説得と石化で防ぎました。朱雀組は、料理の腕をアピールしつつ、諭します」
「この感触では、青龍、朱雀が優勢ですね」

「とりさん、パン好きなんだね〜? ボクもパン大好き! 仲間仲間〜! え? 食べたいの? ちょっとだけだよ?」
「ぴきーちゅーん!(訳:いただきまーす!)」
「ぴっ。ちゅちゅーん(訳:うーん。おいしーい!)」
「うわぁダメだよ欲張りしちゃ! みんなでわけっこして食べなきゃ〜。終わってから、審判さんもスタッフさんもみーんなで一緒に食べるんだよ?」
「ぴきー。ぴー(訳:もっともっとー。そっちもー)」
「このパンはゴールしたら私が食べるのです。駄目なのですー」

「黄龍組は、風太さんのパンが悲惨なことになってます」
「一丸となってひた走る白虎組。パンの残存率は……。やや、ディオシスさんの持つふたつのパンのうち、ひとつに小鳥たちが群がっています!」

「こらっ。食べるな。許さねぇぞ!」
「たべちゃだめー」
「小鳥さんの哀しげな声を聞くのが辛いわ。ちょっと防御音出させてもらうわね。あーぁー!!」
「要するに、小鳥たちはパンを食べられればいいわけよねぇ。は〜い、たっくさんどうぞ♪ ……ごめんねー、月弥くん、ゲイルノートさん」

「おっ。しえるさんは、他チームのパンをちぎり取って小鳥たちに配る作戦に出ました」
「必死に追い込みをかけていた、玄武組のパンが標的になってます!」

「うわぁぁ〜! しえるさん、ひどーい!」
「ふっ。勝負の世界は非情なのよ。それに私、負けるの嫌いだし」
「くっ! こんなことになるなら、能力を使ってパンをカビさせておけば良かったのか……。いや、それはだめだ、食べ物にそんな勿体ないことを……!」

「次々に各組がゴールしていきます。あれれ? 小鳥たちが気絶してぽたぽたと落ちてしまったのはどうしてでしょう?」
「シュラインさーん! 高音出し過ぎです〜! ていうか私も目眩が」
「フモ夫団長! まだ倒れないでください! これから判定と集計があるんですから」

ACT.3■集計報告

【組名/参加者名/かわいいもの耐性/基本的運動能力(勝負に賭ける気合いも含む)/作戦成功度/パン残存度/トータルポイント】

 青龍組/鹿沼デルフェス/5/3/5/5/18ポイント
 青龍組/物部真言/5/5/5/4/19ポイント
 
 朱雀組/藤井葛/5/5/4/4/18ポイント
 
 黄龍組/三春風太/0/4/判定不能/1/判定不能
 黄龍組/マリオン・バーガンディ/4/3/3/3/13ポイント

 白虎組/シュライン・エマ/1/4/3/4/12ポイント
 白虎組/嘉神しえる/4/5/4/4/17ポイント
 白虎組/ディオシス・レストナード/5/5/5/2/17ポイント
 白虎組/クレメンタイン・ノース/5/2/5/5/17ポイント

 玄武組/ 石神月弥/4/4/4/3/15ポイント
 玄武組/ゲイルノート・グラハイン/5/5/3/3/16ポイント

ACT.4■EPILOGUE―― 打ち上げも大乱戦――

「ほーっほっほっほ! ようやった、真言、デルフェス。我らが青龍組の大勝利じゃ。さささ、た〜んと食べるが良いぞ」
 障害物競走がお開きになった後、西園競技場から弁財天宮地下2階に場所を移し、なし崩しの打ち上げが始まった。
 選手11名を始め、応援担当、司会兼副審、協力者の幻獣たちも加わっての大宴会である。
 デルフェスは弁天のとなりで、月弥が差し入れてくれた四段がさねのお重を取り分けていた。
 真言は、宴会は後回しにして、シュラインとともに、気絶した小鳥たちの介抱にいそしんでいる。
 息を吹き返した小鳥は、つぎつぎに葛の肩に止まる。葛お手製サンドイッチをついばんだり、シュラインが持参したお菓子をつついたりし始めた。
「おまえたちを食べようとして、悪かったな」
 ゲイルノートは、まだびくびくしている子うさぎたちを手招きし、残ったパンを分け合っている。
「自分で味見はしてないんだが、俺も手製の洋菓子を持ってきた。弁天さんたちには腐れ猫が世話掛けてるようだからな。その礼だ」
 大きな風呂敷包みを、ディオシスは広げた。素朴ながら形の整った出来映えに、風太が歓声を上げる。
「たべていいの? わーい!」
「どれも美味しそうなのです。お茶、入れますね」
 マリオンが子ぎつねからティーセットを借り、人数分の紅茶の用意をしてくれた。
「そうだ、私も差し入れ持ってきたのよ、はい、巻きずし」
「……それは当然、おぬしではなくて、兄上が作ったのであろうな?」
 弁天が胡乱な目をして避けようとする前に、首を横に振ったしえるは、素早く一切れをその口に放り込んだ。
「なんじゃ、この激辛巻きずしは〜! 喉が焼けるようじゃ。わらわに火を噴けと言うのかぁ〜!」
「自分で出した水でも飲んで中和すればぁ?」
「くー、みかん、ある。かべのひとにもってきた」
 クレメンタインは、カスパールにみかんを差し出した。おそらく、最初は普通の状態だったのであろうが、今はかちーんと凍りつき、冷凍みかんと化している。
「あ、ありがとうございます。それでは私にも、まだ望みはあるのですね。このみかんは、家宝として一生大事にします」
「ぷぎゅー。ぎゅゆ(訳:いや、それは早めに食べた方が良かろうて)」
「きゅーこんー。こーんこん(訳:しかし東京には美しい女性が多いですね。なかなかハードでしたが、お手伝いして良かったです)」
「ぴきーちゅーん。ちゅんー(訳:素敵な男のひともいっぱいね。今度は、戦わないですむ場でお逢いしたいわ)」

 一同から少し離れ、ファイゼとポールは、1枚の紙切れを前に、ひそひそと最終打ち合わせをしていた。
「なんだ、この莫大な金額は!」
「仕方ないですよ。ルゥ・シャルム公国は軍隊の貸し出しが主産業なんですから。たとえ亡命先でのお遊びイベントであろうと、協力費は高くつきますって」
「しかし、そのことを、蛇之助さんや弁天さまはご存じなのか?」
「知ってたら、協力依頼するわけないでしょう」
「じゃあ、誰がそれを伝えるんだ。私は嫌だぞ」
「私だって」
 エル・ヴァイセの騎士たちは、本日何度目になるやらわからない、深い深い溜息をつくしかなかった。
 アンリ元帥から渡された紙切れ――『かわいいもの障害物競争協力費請求書』を見つめながら。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/白組/7位】
【1312/藤井・葛(ふじい・かずら)/女/22/学生/赤組/2位】
【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/女/463/アンティークショップ・レンの店員/青組/2位】
【2164/三春・風太(みはる・ふうた)17/ 男/高校生/黄組/勝負を超越】
【2269/石神・月弥(いしがみ・つきや)/無性/100/つくも神/黒組/5位】
【2617/嘉神・しえる(かがみ・しえる)/女/22/外国語教室講師/白組/3位】
【3178/ゲイルノート・グラハイン(げいるのーと・ぐらはいん)/男/28/掃除屋/黒組/4位】
【3737/ディオシス・レストナード(でぃおしす・れすとなーど)/男/348/雑貨『Dragonfly』店主/白組/3位】
【4164/マリオン・バーガンディ(まりおん・ばーがんでぃ)/男/275/元キュレーター・研究者・研究所所長/黄組/6位】
【4441/物部・真言(ものべ・まこと)/24/男/24/フリーアルバイター/青組/1位】
【5526/クレメンタイン・ノース(くれめんたいん・のーす)/3/女/スノーホワイト/白組/3位】

 ※注:2位が同点2名のため、3位3名は順位のみで点数加算はなしとなっております。

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■          獲得点数           ■
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青組:50点 / 赤組:20点 / 黄組:0点 / 白組:0点 / 黒組:0点

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、神無月です。
珍妙な障害物競走へのご参加、まことにありがとうございます。WRにも予測のつかぬ波瀾万丈の展開となりましたが、果たして集計にはどう影響するのでしょうか。どの色の幻獣、じゃなくて霊獣が出現するのか、とても気になります。
みなさまからたくさん差し入れをいただきましたのと、競技終了後にパンの味見をご希望のかたが想像以上に多数(笑)いらっしゃったので、日を置かずに打ち上げになだれ込んでみました。なので、これは打ち上げノベルも兼ねております。
なお、競技中に使用しました『幻獣語通訳機』は、記念にお持ち帰りくださいませ。

□■青組さま
真言さま、初めまして〜! この度は1位、おめでとうございます。プレイングをもとに不確定要素(?)を加味して数値化した結果、このような形になりました。デルフェスさま、赤のジャージ+竹刀、さらにブルマ姿でのご参戦、お疲れさまでした。青龍組は、かわいいもの耐性の強さと、的確なご判断が有利に働いたように思います。

□■赤組さま
朱雀組をおひとりでしょって立ち、好成績をおさめた葛さま。応援担当との息もぴったりで、孤高の闘いを見せてくださいました。依頼では初めましてだったことに、今更ながらびっくりです。

□■白組さま
人材豊富な白虎の皆さまは、競技を超越してデンジャラスな大活躍。初めましてのディオシスさまと二度目ましてのクレメンタイン嬢の名コンビに、カベが嫉妬してますが、どうぞお気になさらず。シュラインさまがそっと教えてくださった世界一のハンサムさんネタは、いつか何かの形で使いたいです。しえるさまの差し入れは、競技前に食べると危険(笑)と判断し、打ち上げで食させていただきました〜。

□■黄組さま
風太さまは、なぜか初めての気がしませんが、まるっと初めまして! 子ぎつねについていくそのお姿に心癒されましてございます。公園には初めましてのマリオンさんは、誘惑に屈せず着実に歩まれました。ハナコがお節介をしましたが、ゴール後に食べる分のパンが残っていて良かったです。ほっ。

□■黒組さま
月弥さまの魔性のまなざしは、アンリ元帥も認めることと相成りました。おひとりで幻獣集団の魅了返しをなさる目力に、ルゥ・シャルムからスカウトが来るやも。ゲイルノートさま、初めまして〜! ゲイルさまは、依頼そのものに初めてでいらっしゃるご様子、最初がはっちゃけ運動会で申し訳ないと思いつつ、腹ぺこモード全開にさせていただきました(おい)。残ったパンはたくさん食べてくださいませ。