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<東京怪談・PCゲームノベル>


Dead Or Alive !?

 何があっても諦めるわけにはいかない
 死ぬわけにはいかない
 だって私はまだ、真実を見つけていないのだから


【真実を見つけるまでは〜崎咲・里美〜】


 今まで色々な事件に関わってきたが、死神に遭遇したのは初めてだった。
 本人達曰く、生命の調律師。
 鎌形深紅と紺乃綺音という二人組の少年が里美に声をかけてきたのは午前9時のことだ。
「・・・ナンパ?」
「朝っぱらからナンパなんてするかよ」
「じゃあ、何なの、あなた達」
「率直に言う。あんた、今日死ぬぜ」
「・・・・・・は?」
 死ぬ?
 初対面の人間に何を急に言い出すのだ。
 話によると彼らは「ナイトメア」という人間界の生命の管理をしている場所から来たらしい。そこには一日ごとに死ぬ人物の名前を記した「死亡リスト」というものがあり、そのリストに手違いで里美の名前が記載されてしまったというのだ。
「うーん?お話としては面白いけど、もう少しインパクトが欲しいわね」
「本当なんだって。なあ、深紅」
「死ぬなんて縁起でもないこと、冗談で言わないよ」
 二人の表情は真剣だった。
 里美はクスクスと笑うのをやめ、二人を交互に見る。
 嘘を吐いているようには見えない。だからといって信じる気にはなれない。
「・・・そんなに言うなら先見してみようか?」
「先見?」
「うん。ちょっと待ってね・・・・・・」
 里美は意識を集中させた。今日一日の自分を先見する。
 すると―――
 ――え・・・?
 真っ先に見えたのは血だ。赤い赤い血。
 そして倒れている、自分。
 ――何、これ
 まさか・・・本当に・・・?
「・・・里美さん?」
「え・・・っ」
 深紅に顔を覗き込まれて、はっと我に返る。
「顔色悪いみたいだけど・・・」
「あ・・・うん。大丈夫・・・」
 軽く頭を振るとぼーっとしていた意識がはっきりしてきた。
「・・・ねえ、私の死因って出血多量死?」
「正解。すげーな。本当に先見できるんだ」
「・・・そんな・・・・・・嘘でしょ・・・?」
 それでは同じではないか。
 父と母と同じ。
 私は二人と同じ死に方をする・・・・・・?
「あのさあ・・・死にそうな顔しないでもらえるか?何の為に俺達が来たと思ってんだよ」
 顔を上げると綺音がにっと笑っていた。
「護ってやるよ。俺達が絶対に死なせたりなんかしねーから、安心しな」
「そうそう。大船に乗ったつもりでどーんと構えててよ」
「お前が言っても説得力ねえ」
「えー」
 深刻な話をしているというのに少しも緊張感の感じられない二人にきょとんとする里美。
 落ちこみかけていた自分が馬鹿らしくなってきた。
 ――そうよ。ショックなんて受けている場合じゃないわ
 自分は両親を殺した犯人を突き止める為に記者になったのだ。必死で生きてきたのだ。
「護られるだけのつもりはないわ。でも死ぬつもりはもっとない。私には死ねない理由があるんだから」
「お。強気じゃん」
「その調子なら絶対大丈夫だよ」
 そう。
 真実に辿り着けるまでは死ねないのだ。


「ってことは、先見で見えたのは血だらけで倒れてる自分の姿だけで、過程は全然見えなかったわけだな?」
「そう。綺音さん達にもわからないの?私がどうしてそんなことになるのか」
「わかんねーのかよ、深紅」
 綺音に尋ねられて、深紅は申し訳なさそうに首を横に振った。里美の印象では綺音の方が立場が上なのかと思っていたのだが、実際は深紅の方が正式な「生命の調律師」で綺音はその助手らしい。
「死亡リストにはだいたいの死亡時刻と死因しか記載されてないんだ」
「ああ・・・そーいやそうだったっけな。ったく、使えねえ・・・」
「あ。私、時間なら正確にわかるわよ」
 先見した時間は確か午後2時50分だった。
 そう告げると綺音が時計を見て呟く。
「あと約4時間は安全ってことだな」

 午後12時。先見した時刻まで約3時間。
 3人はファーストフード店で食事をとっていた。
 死ぬ時間がはっきりとわかっているのだから、その時間さえ気をつけていればまったく問題ない。
 綺音はそう言うが、里美はいまいち不安が拭いきれなかった。何度も血の赤がフラッシュバックする。
 ――駄目だなあ・・・弱気になってる
 こんなに自分が弱いとは思っていなかった。
 ――大丈夫。私は大丈夫。しっかりするのよ、里美・・・!
「ねえ、里美さん」
「え・・・何?深紅さん」
「大丈夫?」
「大丈夫って・・・何が?」
「手・・・さっきから震えまくってるぞ」
 綺音の指摘で初めて気付いた。カップの中のコーヒーが激しく波をたてている。
「あ・・・あれ・・・?何でだろ・・・私・・・」
「あのさ・・・里美さん。死ぬのって誰だって恐いと思うんだ。もしかしたら自分が死ぬかもしれないなんて思ったら、気が狂いそうになってもおかしくないと思う。だから・・・無理しなくてもいいと思うよ・・・?」
「深紅さん・・・・・・」
「ね?」
 深紅の笑顔はとても優しくて。
 里美の心をふっと軽くしてくれた。不思議な少年だ。
「うん・・・そうだね。ありがと」


 午後2時。あと約1時間。
 歩道橋を上ろうとしていた所で、それは起こった。
 突然、長身の男が里美の腕を引き、そのまま強引に連れ去ってしまったのだ。一瞬の出来事で、深紅も綺音も咄嗟に反応できなかった。
「しまった・・・!やられた・・・!!」
「綺音くん、今の男・・・・・・」
「わかってる」
 ナイフを持っていた。
「あいつか・・・っ里美の死の原因になるのは・・・っ」
 時間的に間違い無い。
 出血多量だというから、事故か何かを想定していた。
 まさか、誰かに殺されるなんて。
 男の姿はもうどこにも見えない。
 綺音は舌打ちする。
「探すぞ・・・!早くしないと本気で危ねえ・・・っ」


 一体何がどうなっているのか。
 状況を把握できないまま、人気のない公園まで連れてこられていた。
「な・・・何なの、あんた・・・っ!」
 やっと出た声は震えていて、上手く相手に伝わったかはよくわからない。男が里美の腕をしっかりと掴んだまま、こちらを振り返る。
 見覚えがある顔だった。でも、どこで・・・・・・?
「お前、俺のことを忘れたとは言わせないぞ・・・?」
「あ・・・」
 里美は息を呑む。以前里美が追っていた連続殺人事件の犯人だった。今は刑務所に入っているはずなのに・・・
 脱獄したというのか。
「お前が妙な記事を書くから、俺は捕まったんだ」
「そ・・・そんなの勝手な言い分だわ。私が書かなくてもいずれあなたは捕まってた」
「黙れっ」
 昔、先輩の新聞記者が言っていた言葉を思い出す。
 記者というのは色んな人間から恨まれやすい立場にあるから、細心の注意を払わなければならないよ、と。
 ――でも、先輩。真実を突き止めるのが私達の仕事じゃないですか
 注意だなんて言われても。
 ただ、自分が正しいと思ったことを真っ直ぐにやっているだけ。
 どんなことになっても後悔なんてするものか。
「・・・・・・私を・・・殺すの・・・・・・?」
 男の手にはナイフが握られていた。
 公園の時計は午後2時45分。あと・・・5分。
 逃げなくては。
 死んでしまう。
「っ」
 里美は男の手を強引に振り払い、背中を向ける。走ろうとした所で再び腕を掴まれた。今度は解こうとしても解けない。
「ちょ・・・やだ・・・っ離して・・・っ!!」
 ナイフの刃がギラリと光った。
「や・・・嫌よ・・・・・・」
 午後2時48分。あと・・・2分?
 ――私、本当に死ぬの・・・?
 嫌。嫌だ。
 恐い。恐い。恐い・・・・・・っ!!
 ――嫌よ・・・まだ死ぬわけにはいかないのに・・・っ
 目を固く閉じた。
 時計が見えない。今は・・・・・何時?


「里美さん・・・?さーとーみーさーんっ」
「え・・・・・・」
 すぐ近くでした声に里美ははっと目を開いた。
 目の前に深紅がいる。
「・・・何で・・・・・・」
「ギリギリセーフだったね」
「なーに格好つけてんだよ、深紅。こいつやったのお・れ!」
 綺音の方に視線をやると彼の足下で先ほどの男が伸びていた。
「里美さん、もう大丈夫だよ」
「・・・・・大丈夫・・・?」
「うん。死ななくてすむってこと」
「・・・」
 急に体中の力が抜けてしまったような感覚に襲われ、里美はその場に座りこんでしまう。
「里美さん!?」
「こ・・・こわ・・・恐かっ・・・」
 顎ががくがくと震えて上手く言葉を紡げない。涙が次々と溢れて止まらなかった。
 深紅がしゃがみこみ、里美の肩を優しく抱き寄せてくれる。
「うん。良く頑張ったね」
 里美は深紅の胸に顔を押し付け、しばらくの間泣き続けた。


「ごめん・・・何か私、取り乱しちゃって・・・・・・」
 あの後、男は綺音が呼んだ警察に連れていかれた。
 深紅は微笑み、「いいよ」と首を振る。
「それにしても記者ってのも大変なんだね。いつもああやって恨まれたりしてるの?」
「まさか」
 こんなことそう頻繁にあるわけがない。
「そりゃあ、少しは嫌な顔で見られることはあったけどね。今回のは・・・さすがに驚いたわ」
「危険と隣り合わせなんだよ。記者っていうのはさ」
 先輩と似たようなことを言ったのは綺音だ。
「そうなのかもね・・・。でも私はこの仕事やめないわよ」
「また死にそうになってもか?今度は俺達、助けに行かないかもしれないぜ?」
「死にそうになっても。真実を見つけるまでは、諦めるわけにはいかないのよ」
「あんた、絶対早死にする」
「かもね」
 里美は苦笑する。綺音はやれやれと呆れたように肩を竦めてみせたが、深紅は里美に歩み寄ってきた。
「僕は応援してるよ。そこまで真っ直ぐに何かを探してるのって、本当に凄いことだと思うから。頑張って、里美さん」
「言われなくても、そのつもりよ」
「でも無理はしないでね?僕、里美さんの死を見届けにくるのだけは嫌だから」
「それも、わかってる」
 何度も何度も念を押す深紅がおかしくて、里美は声をたてて笑った。


 何があっても諦めるわけにはいかない
 死ぬわけにはいかない
 そう、真実を見つけるまでは


「それまでは、死なない程度に頑張るわ」


fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【2836/崎咲・里美(さきざき・さとみ)/女性/19/敏腕新聞記者】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターのひろちです。
今回もありがとうございました!
またまた納品が遅くなってしまい申し訳ありません・・・っ

新聞記者というのもなかなか大変なお仕事ですよね。
色々な苦労があっても、里美さんなら自分の目的の為にひたすら頑張っちゃうんだろうなーと思いながら、今回は書かせて頂きました。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

また機会がありましたらその時はよろしくお願いしますね。
では、ありがとうございました!